原作を放って置くとバッドエンドになるんですが、どうしたら良いですか?   作:月の光

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最初に言っておきます。
この話はギャグ回です。
ですので、あるキャラが少しキャラ崩壊していると
思われるかもしれません。
ですが、この回だけですので、あしからず


45_ミスト『我に策ありです』零冶『却下で』ミスト『ちょっ!』

 零冶と葵がルナテイクの読者モデルの仕事をした翌日、葵はなのは達と学校の屋上でお弁当を食べるため、屋上に移動し、シートを広げた。

 

 最初の頃はなのは・アリサ・すずか・葵の四人だったが、峯岸が加わり、五人になり、少ししたら神宮寺が加わり、六人になった。それから更にアリシア・フェイトが加わり、八人になったが、しばらくして峯岸と神宮寺がそのグループから抜け、六人に戻った。

 

 それもそのはず、元々峯岸が加わったのは唯一神宮寺を追い払える存在だったため、アリサが峯岸を誘い、昼食をするようになった。しかし、ジュエルシード事件で神宮寺が改心したため、追い払う必要が無くなり、神宮寺も一緒に昼食をするようになった。

 

 だが、女子ばかりの所で食事することに抵抗を感じるようになった峯岸は神宮寺と一緒にそのグループから抜け、他の男子と昼食を食べるようになった。オリ主だと思っていた峯岸のオリ主らしからぬ行動させてるのはある意味零冶の自業自得と言えるだろう。

 

 そして、闇の書救済作戦が終わり、なのは達にはやてが加わり、七人で昼食をするようになり、男子の間で聖祥の七大女神と呼ばれるようになっていた。

 

「春兎君たちも一緒に食べれば良いのにね」

 

 なのはは広げたシートの上に座り、お弁当を広げながら言った。

 

「まあ、春兎の言い分も分かるけどね。男女比がこれじゃ」

 

 アリサもお弁当を広げながら、なのはに返した。

 

「7対2だもんね。私も逆の立場だったらちょっと居心地悪いかな」

 

 すずかがアリサの言うことに同意する。

 

「33対4……」

 

「なんでや! 阪神関係ないやろ!」

 

 アリシアが言ったことに反応するはやて

 

「え? はやて。別に姉さん、阪神のこと言ってなかったよ?」

 

 フェイトははやてが何故アリシアにツッコミを入れたか分からなかったため、はやてに聞いた。

 

「違うわフェイト。そういうネタなのよ」

 

 葵はそんなフェイトの天然ボケにツッコミを入れた。

 

「寝た? ダメだよ姉さんこんなところで寝たら風邪引くよ?」

 

「アリシア、貴方の妹何とかしなさい」

 

「フェイトは可愛いよね~」

 

「ダメだこいつら早く何とかしないと……」

 

 テスタロッサ姉妹のボケ倒しに呆れ気味の言う葵。

 

「さてと、葵。分かってるでしょうね」

 

 皆が食事を始めた途端にアリサが葵に言った。

 

「ええ、こうなるだろうと思っていたわ」

 

「それなら話は早いわ。早速昨日の撮影の話しをしてもらおうじゃないの」

 

「私も気になってたの。教えて葵ちゃん」

 

「せやね。キリキリ吐いてもらおうやないの」

 

 アリサに便乗するすずかとはやて

 

「分かったわよ。まず昨日の撮影のコンセプトが『子供が背伸びして大人な格好してみました』

 だったのよ」

 

「へぇ~流石美咲さんね。面白そうなコンセプトじゃない」

 

 語り出した葵に言葉を返すアリサ。

 

「最初はそれを知らされてなかったけどね。それで表紙の撮影するため、私は髪を整えて

 ウェディングドレスに着替えたわ」

 

「わぁ~素敵なの!」

 

「アオイならきっと似合うね」

 

「ありがとうフェイト」

 

 そんな話をしながら葵は話していた……が

 

「少し待っていると、前髪を切って髪型を整えて、燕尾服を着た零冶君が来たわ」

 

「ほうほう、きっと似合ってたんやろな」

 

「それがね……」

 

 はやてがそう言ったが言葉を詰まらせる葵

 

「ん? どうしたの? アオイ?」

 

「どうしたんや? まさか似合ってなかったんか?」

 

「それは無いと思うわよ? 私とすずかが見た月無なら似合わないなんてことは無いと思うわ」

 

「そうだね。でも実際に見たわけじゃないからなんとも……」

 

 葵の様子に疑問を持つ面々。すると葵が言葉を発する

 

「すっ」

 

≪す?≫

 

「っごくカッコよかったの! 目はパッチリとしてまるで女の子のようで透き通ってて、

 鼻と口と耳のバランスが絶妙でね! それにマッチした髪型がもう言うことなくって!

 ななさんグッチョブ! って思っちゃったわ! それに燕尾服もすっごく似合っててぇ!

 もう世界一、ううん宇宙一似合うと思ってぇ! 思わず見惚れちゃった!」

 

 マシンガンも生温い勢いで話し出した葵

 

「おお! 行き成り語り出したで!」

 

「凄いわね。まったく止まらないわ」

 

「これ全部聞くの? 私達」

 

「やばくない?」

 

 その様子に引き気味のなのは達

 

「見惚れて固まってる私に零冶君が私の顔を覗きこんで来てね! その顔が間近に来たから

 私もビックリしちゃってぇ。でもカッコよかっったぁ~……カッコよかったよ! 零冶君。

 皆にも見せてあげたかったくらい! あっでも一ヵ月後に発売するから是非読んでね!

 子供向けファッション雑誌ルナテイクをよろしく!」

 

「全然止まらへんで? ブレーキ壊れとるんとちゃう?」

 

「でも宣伝を忘れない辺り流石葵ね」

 

「そしたら撮影は恋人を演じて撮ることになって零冶君が私の名前を呼んでくれたの!

 その時私テンパっちゃってあなたなんて言っちゃって恥ずかしかったよぉ。でもそしたら

 零冶君がそれは()()早いよマイハニーって言ってくれてね!(※言ってない)

 その時私は答えを得たわ。ここが理想郷(アヴァロン)だと」

 

 

~5分後~

 

 

「二人で並んで写真を撮った後ね。腕を組むことになったの。最初は恥ずかしかったんだけど

 零冶君がリードしてくれてね。腕を組んだの。暖かかったぁ……それに良い匂いがしてね。

 零冶君の匂いの香水を売り出したら絶対にヒットするわ! 私が全部買い占めるけどね!」

 

 

~更に5分後~

 

 

「キスシーンの撮影をすることになってね。まあフリだったんだけど……私としては本当に

 してもよかったんだけどね。キャッ! でも私も恥ずかしくて思わず後ろに下がっちゃって。

 でも零冶君が私に迫ってきたの。そしたら壁まで追い詰められちゃってぇ~

 零冶君の顔が直ぐそこに合って……今思えば自分から行けば良かったわ……まあ無理だけど」

 

 

~更に10分後~

 

 

「それからいろんなシチュエーションの撮影をしてね。零冶君が片膝付いて私の手を取って

 手の甲にキスしたの! 本当に一生洗わない! って思ったんだけど流石に洗わないのは

 不衛生だものね。蒼乃に示しが付かないわ。あっ、零冶君の唇が汚いって意味じゃないよ?

 他にもお姫様だっこしてもらったり、私が『重くない?』って聞いたら『全然重くないよ。

 寧ろ軽すぎるくらいだよ』って言ってくれたの! ああ……幸せだったなぁ。

 あの時間が永遠に続けば良いのにって思ったわ」

 

 

~更に10分後~

 

「それからそれから~」

 

「ま、待って葵……」

 

 葵が続きを話そうとしたところでアリサが止めた

 

「え? どうしたのアリサ?」

 

「も、もうお昼休みも終わっちゃうから……それは続きはまた今度にしましょう?」

 

「あら? もうそんな時間? 全然話したり足りないんだけどなぁ」

 

 アリサの提案に残念そうな顔をする葵

 

「ち、ちなみに後どれくらい残ってるんや?」

 

「う~ん、今ので大体一割くらいかな?」

 

「あと九割も残ってるの!?」

 

 はやてが葵に聞いたがその事実に驚愕するすずか

 

「もうお腹いっぱいなの……お弁当も何だか甘くて食べられないし」

 

「今なら翠屋のブラックコーヒーが飲める気がするよ……」

 

「私も姉さんに同感」

 

「人ってここまで変わるもんなんか? この子誰やって思ったのは私だけや無い……

 きっと読者の皆もそう思ったに違いない」

 

「誰よ読者って」

 

「知らん。でもそう言わんとと思っただけや」

 

「それより早くお弁当食べましょう。次、体育だし、食べないときついわよ?」

 

 葵はなのは達に言った。そこに居る全員が『誰のせいだ!』と思ったが、胸にしまった。その後、少ない時間で出来る限りお弁当を食べたなのは達。そして、屋上から教室に戻ることになった。

 

「やっぱりあまり食べれなかったね」

 

「うぅ、お腹すいた~」

 

 すずかが言うとお腹を両手で押さえてアリシアが言った。

 

「仕方ないわよ。次が体育で着替えがあるんだから」

 

 アリサがアリシアをなだめるように言った。

 

「そもそも誰や。葵ちゃんに話しせいゆうたの」

 

 はやてが葵に話をするように言ったことを責めるように言った。

 

「それについては悪かったと思ってるわ。ごめんなさい」

 

「アリサちゃんが素直に謝った……やと? なんやデレたんか? ツンはどこに行ったんや?

 ツンが有ってこそのツンデレやろ!」

 

 

ゴチン!

 

 

「殴るわよ?」

 

「殴ってから言わんといて~」

 

「自業自得よ」

 

 はやては殴られた頭をさすりながら言った。

 

「大丈夫? はやてちゃん」

 

「ああ、なのはちゃんは優しいなぁ」

 

「皆、早くしないと授業遅れるよ」

 

「っとそうだった。皆、急ぐわよ!」

 

 すずかの指摘を受け、全員が小走りになり、教室に戻った。そして、そのまま体操着を持ち、更衣室に移動した。

 

「ふぅ、何とか間に合いそうね」

 

 アリサは残り時間と着替えや移動にかかる時間からそう言った。

 

「そうね。少しギリギリだから急ぎましょう」

 

 葵もアリサに同意したが、時間も時間なため、全員に注意した。その時

 

「ねぇねぇ、知ってる? 今日の体育二組と一緒らしいよぉ」

 

――え? 今日の体育が二組と共同? 二組といったら零冶君じゃない! やったー!

  っといえ、落ち着きなさい私。まずは真偽を確かめないと……

 

「ねぇ、その話し本当?」

 

「あっ、桜羽さん。うん、本当らしいよ。二組の担任の先生が急用が出来ちゃったらしくて、

 本当は六時間目だったところを五時間目にずらして一組と共同にしたんだって~

 さっき二組の人もここで着替えてたから間違いないよ」

 

「そ、そうなんだ~(やったー! 零冶君と一緒に体育だぁ!)」

 

「葵のやつ絶対浮かれてるわね」

 

「それより早く着替えないと」

 

「皆、遅いわよ! 早く着替えなさい!」

 

 葵は既に体操着に着替えてなのは達に指摘した

 

≪早っ!≫

 

 それからなのは達も急いで体操着に着替え、校庭へ移動した。そこには一組のクラスメイトだけではなく、二組のクラスメイトも居た。二組のクラスメイトの男子はなのは達が来た瞬間、歓声が上がる。

 

「おおお! これが聖祥の七大女神!」

 

「ああ、生きててよかった……」

 

「ふ、ふつくしい……」

 

「つーか、一組の連中はこれを毎回見ているだと?」

 

「……ゆるせねぇ」

 

「今日は何としても一組に」

 

≪勝つ!≫

 

 二組の男子がいきり立った。一人を除いて……零冶は男子の集団から少し離れた位置で靴紐を結んでいた。

 

「あれ?(ねぇ、葵。月無って髪を切ったんじゃないの?)」

 

 零冶を見たアリサは疑問に思ったことを

 

「(ああ、それはね。撮影が終わった後でエクステをもらったのよ)」

 

「(ああ、なるほどね)」

 

 葵の答えに納得するアリサ。すると二組の女子が会話をしていた。

 

「あれが峯岸君と神宮寺君かぁ」

 

「確かにカッコいいわね」

 

「私は峯岸君かな」

 

「そう? 私は神宮寺君ね」

 

「でもやっぱり一番は」

 

≪月無君だよね~≫

 

 

ピクッ!

 

 

 葵は二組の女子の会話に反応する。

 

「アオイ、どうしたの? 大丈夫?」

 

「え、ええ。大丈夫よ」

 

 フェイトに聞かれた葵は引きつった笑顔で答えた。

 

「へぇ~月無って結構人気あるのね」

 

 アリサは意外そうに言った。

 

「そうみたいだね。月無君カッコいいし、優しいし、人気もあるのも納得だけど」

 

 すずかがアリサに同意した。

 

「という事は二組の子達は月無君の素顔見たことあるのかな?」

 

 するとなのはが疑問に思ったことを言った。

 

「ええ、以前そんな話をしているのを聞いたことあるわ」

 

「そっか~、まあ同じクラスなら見る機会はあるのかな?」

 

 なのはの疑問に葵が答えて、アリシアが続いた。

 

――今日は一組と合同の体育か……まあ、こういうことがあるのは珍しいことでもないだろ。

  出来るだけ、なのは達には関わらないようにしよう。

 

 零冶は今日の合同体育でなのは達に関わらないように心に誓った。

 

「よ~し、全員集合! クラス毎に並べ。もう知っている人もいるだろうが、二組の担任の先生

 が急用で不在のため、今日は一組と二組で合同の体育となった。この機に親睦を深めて

 貰いたい。今日はドッジボールをやる。一組と二組でそれぞれ2チーム作り、一組と二組の

 チームで試合をし、その後試合してないほうのチームと試合をする」

 

 その後、一組の担任から試合のルールの説明があった。

  1、試合時間は15分

  2、勝敗は内野の選手全員がアウトになるか、タイムアップ時に内野の数が

    多いほうを勝ちとする

  3、外野の選手が相手チームの内野に当てても内野には戻らない

  4、同じエリア内でのボールの受け渡しは不可。ただし、同チーム内の別のエリアを

    介した場合は可

     ※つまり同チームの内野内でボールの受け渡しは不可だが、外野にパスをし、

      内野にボールを戻す際に違う人にパスすることは可。

  5、ボールを持ったチームは30秒以内に相手コートに投げなければならない。

    投げなかった場合は相手ボールとなる。

    ただし、相手チームにボールがヒットし、自陣のエリアにボールが戻ってきた場合は

    その時点から30秒とする

  6、首から上にボールが当たった場合はセーフ。ただし、試合続行不可の場合は

    離脱する。制限時間内に戻れた場合は内野からスタートする。

 

 先生の説明後、準備運動をし、チーム分けをする事になった。チーム分けは同じ組内で紅白のクジを引き、同じ色同士でチームを組む。更に最初は同じ色同士で試合をする。

 

 零冶の引いた色は白だったため、二組の白チーム。なのは達の七人グループは偶然にも全員赤だったため、一組の赤チームとなった。

 

 因みに峯岸と神宮寺は白だったため、一組の白チームとなり、最初零冶と試合をする事となった。

 

――勝敗に関係なくどの道なのは達と試合をすることになるか……だったら、いつも通り外野で

  大人しくしているか……

 

 こうして第一試合が始まった。零冶は予定通りに最初外野に周り、試合では大人しくしていた。しかし、上手くフォローで立ち回り、二組を勝利に導いた。

 

 その際に二組で一番運動神経の良い磯山と峯岸が死闘繰り広げた。

 

「やるな」

 

「お前もな」

 

「俺は磯山だ」

 

「俺は峯岸だ。次は負けないぜ」

 

「俺も負けるつもりは無いぜ」

 

 二人は握手を交わし、熱い友情で結ばれた。

 

――こういうところはオリ主っぽいんだけどな~峯岸は

 

「俺は?」

 

 神宮寺は二人を見て言葉を漏らした。

 

「お前は直ぐにアウトになっただろ」

 

 その神宮寺に峯岸が答えた。

 

「つーか俺。誰に当てられたんだ?」

 

「それは……誰だ?」

 

 神宮寺は自分が誰に当てられたのか峯岸に聞いた。

 

「う~ん、分からん。磯山は?」

 

「いや俺にも分からないな」

 

 峯岸は磯山に聞いたが、磯山にも分からなかった。ちなみに当てたのは零冶で外野からこっそり当てていた。なのは達のチームはすずか・フェイトの活躍で余裕で勝利を収めた。すずかから投げられたボールによって二組の男子は死屍累々だったが、その顔はどこか満足気だった。

 

――あれはマズイな。俺なら取ることは出来るが、取れたら取れたで俺の異常性が明らかになる。

  目立ちたくない以上、いつも通り開始前に外野に出て、やり過ごすか

 

 零冶達のチームとなのは達のチームで試合する事になり、零冶はいつものように外野に出ようとしたが、

 

「ん? おい、月無」

 

 零冶は一組の担任に呼び止められた。

 

「はい?(なんだ?)」

 

「お前さっき外野だったろ? 交流戦だ、最低一回は内野をやってくれ」

 

――……そういうことは最初に言ってくれ。どうするか……早々にアウトになれば良いが、

  すずかのボールには当たりたくないな。

 

『ふっふっふ。我に策あり』

 

『どうした? ミスト。授業中に念話とは珍しいな』

 

『我に策ありです』

 

『却下で』

 

『ちょっ!』

 

『嘘だよ。何だ? ミスト』

 

『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃ『切るぞ?』ああ、嘘です! 冗談です!』

 

『いい加減にしろ。あまり時間が無いんだぞ?』

 

『失礼しました。マスターもたまには真面目に授業を受けたらどうでしょう?』

 

『その心は?』

 

『以前の葵ちゃん達の尾行でマスターが運動神経が良いことが知られています。

 下手に回避しようとすれば、変に疑われるだけです』

 

『なるほどな……確かにお前の言う通りだ。あの木を余裕で登った俺があっさりとアウトに

 なるってことは俺が手を抜いたってことがばれるな……虫の知らせ(シックスセンス)も発動していないし。

 よし、お前の策を採用しよう』

 

『ありがとうございます』

 

 零冶は真面目に授業を受けることにした。すると二組の白チームの磯山が零冶に言った。

 

「あれ? そう言えば、月無が内野やるのって初めて見るな。だったらお前ジャンプボール

 やってみろよ」

 

――なんでやねん。

 

 零冶は心の中でツッコミをいれた。

 

「……分かったよ」

 

 零冶はコートの真ん中に行き、相手コート側に立った。そしてその相手は

 

「よろしくね? 月無君」

 

 フェイトだった。

 

「うん、お手柔らかに」

 

 零冶もフェイトに言葉を返した。

 

――この間の木登りを見る限り油断できない。本気で行くよ!

 

――お手柔らかにって言ったのに……

 

 そうして、試合の火蓋は切って落とされた。正確にはボールは真上に投げられた。そしてボールが最頂点に到着し、落ち始めた時、ボールを確保するため、フェイトは飛び上がった。だが、その時、零冶は飛び上がらず、地面に居た。

 

――え? 何で? まさか後に飛び上がってもボールを確保できるって言うの?

  いや、どちらにしても私のやることは一つだ!

 

 フェイトは雑念を取り除き、ボールの確保に専念した。そして、フェイトがボールを自陣に叩き入れようとした時、零冶は少し後ろに飛び上がった。今更飛び上がったところでフェイトに勝てるはずが無い。誰が見てもそう思った。しかし

 

 

バシッ! バシッ!

 

≪な!?≫

 

 ボールは二組チームの磯山に渡った。

 

「ナイス! うりゃ!」

 

「しまった!」

 

 磯山は驚愕して戻るのが遅れたフェイトにボールを投げ、フェイトにヒットした。

 

「テスタロッサ妹、アウト。ボールは一組」

 

「くっ! 皆ごめん」

 

 一体何が起きたのか。それはフェイトが自陣に叩いたボールを零冶が更に叩きなおし、二組にボールを叩き入れたのだ。零冶は飛び上がったフェイトの視線、腕振りの角度、筋肉の動きを見て、ボールが通るであろうルートを予想し、ボールを確保した。

 

 更にボール確保後、急いで自陣に戻らなければならないフェイトを驚愕させることで、判断を鈍らせ、味方に討たせた。全て零冶の作戦通りだった。

 

「大丈夫よ。フェイト。試合はまだ始まったばかりなんだから」

 

「そうだよ。気にしないで」

 

「せやせや、ボールは私達なんや。挽回のチャンスはまだあるで」

 

 落ち込んだフェイトにアリサとすずかが声を掛ける。ボールの確保したのははやてだった。ルール上同じエリア内でのボールの受け渡しはできない。

 

「とりあえず、外野にパスしてすずかちゃんにボールを回すで?」

 

「オッケーよ。はやて」

 

 はやての作戦に同意するアリサ。

 

「よ~し」

 

 ドッジボールでは同じチームの内野と外野でパスを回す際の基本的な戦術がある。それはボールを山なりに投げてはいけないと言うものだ。何故なら、相手チームはボールを持った相手から出来るだけ離れて、自分に投げられても確保できるだけの距離を保つ必要がある。

 

 山なりに投げるとそれだけパスの受け渡しに時間がかかり、相手に体制を整える時間を与えてしまう。よってボールは出来る限り、直線的に投げるのが鉄則だ。

 

――ってあれ、月無君はどこいったんや?

 

 はやては先程、フェイトを出し抜き、フェイトがアウトになるきっかけを作った零冶を警戒していた。そのため、相手の内野を見たときに零冶を探した。

 

――う~ん。まあええか

 

 はやては結局零冶を見つけることが出来なかったため、当初の予定通り、左側の自陣の外野に山なりにならないようパスを出した。しかしそれは

 

 

バシッ!

 

 

 突然現れた零冶によって阻まれた。

 

「な! なんやて!」

 

 ドッジボールの鉄則に従い、直線的にボールを投げた。しかしそれが仇となった。更に外野にパスを出すため、中央線のギリギリまで来てたため、

 

 

パスッ!

 

 

 零冶の投げたボールにヒットした。更にボールは二組の内野に戻ってき、零冶が確保した。

 

「八神、アウト、ボールは二組」

 

「一体何が起きたの?」

 

 アリサが言葉を漏らしたが、その場に居た誰もが何が起きたか分からなかった。零冶がやったことは単純だ。ミスディレクションによる視線の誘導と自身の影を薄くさせることによってコート上から姿を消していたのだ。

 

――どういう事? 突然現れた? いえ、そんなのあり無いわ。でもさっきまで月無を

  見失っていた。どうして? こんな狭いコートの上で見失うなんてありえるの?

 

 アリサは何が起きたのか考えていた。

 

「アリサ、考え込まないで。今は試合に集中しましょう」

 

 そんな思考の海に沈みかけていたアリサに葵が声をかける

 

「……そうね。考えても分からなそうだし」

 

 アリサは葵にの言われた通り考えるのを止め、試合に集中することにした。

 

「まずはボールを奪い返さないと」

 

「ボールは零冶君よ。皆、気を抜かないで」

 

≪了解!≫

 

 葵が皆に指示をし、全員が零冶の持つボールに集中した。

 

「俺たち空気じゃね?」

 

「いつものことだろ」

 

 そんな中、一組の男子が言った。

 

――ちっ、アリサが思考にはまれば、余裕でアウトに出来たのに、葵め余計な事を……なら

 

 零冶は心の中で舌打ちをする。全員が零冶が何をしても反応できるように集中していた。しかし

 

 

ヒュッ!

 

 

≪え?≫

 

 ボールはいつの間にか外野にパスが出された。

 

「え? わっと!」

 

 突然パスが出された外野も慌てて捕球するが、零冶が取り易い絶妙なパスを出したため、何とかがボールを確保する。そしてボールが投げれ、ボールはすずかに向かう。

 

「危ない! すずかちゃん!」

 

 なのはがすずかを庇い、ボールがヒットする。

 

「高町、アウト。ボールは一組」

 

――ちっ、ここですずかをアウトにしたかったところだが、まあいい。

 

「なのは、ナイスプレーよ」

 

「なのはちゃん。ごめんね」

 

「ううん、大丈夫なの。私が残ってても大して役に立たないし、私の命すずかちゃんが使って?」

 

「なのはちゃん……」

 

 零冶がやったことそれはノーモーションからの高速パス。ボールを投げる際、通常であれば予備動作が発生し、それにより人は『これから来る』と認識できる。しかし、零冶はその予備動作をなくし、突然パスをすることで葵達の不意を付いた。

 

「今のはノーモーションパス……しかもこの場の全員が騙されるレベルみたいね」

 

「強敵だわ……」

 

 葵達は改めに再認識した。この相手は自分達のドッジボール史上最強の相手だと。いつもはすずかに頼りきりだった自分達だったが、この相手は自分達が一致団結しないと勝てないと悟った。

 

 なのはにヒットしたボールを確保したのはアリシアだった。

 

「月無君に気をつけてパスを出さないとね」

 

「そうね。今はどこにいるか見えているけど警戒するに越した事はないわ」

 

「なら、私に考えがあるよ」

 

 アリシアがアリサに耳打ちし、作戦を提案する。

 

「なるほど、それで行きましょう」

 

「オッケー!」

 

 アリシアは中央線の傍まで行き、反対側にいるフェイトに視線を合わせる。すると二人は頷きあい、アリシアが外野にパスを出した。

 

「そりゃ!」

 

 しかし、ボールは山なりに投げられた。しかもそのボールは外野の頭を超えるほどの高さだった。二組の内野陣は明らかなパスミスと判断し、余裕を持って体制を整えていたが

 

 

パシッ!

 

 

≪な!≫

 

 フェイトが空中高くに飛び上がり、ボールを空中で確保した。アリシアの作戦……それは山なりで投げる事で先程のように零冶にパスカットされることが無くし、更に空中で確保することで相手の体制を整える時間を奪うことだった。また、上空から投げられるボールは捕球が難しくなるため、更にヒットする確率が上がる。

 

「行っけ~、フェイト~」

 

「これで!」

 

 フェイトはボールを確保し、強敵である零冶を討つため、二組の内野を見た。しかし

 

――な! また消えた! 一体どこに!

 

 零冶は再び、ミスディレクションと自らの影を薄くすることで二組の内野から姿を消した。

 

――くっ! 仕方ない。他の相手を狙おう。

 

 フェイトは目標を変更し、他の体制が整え終わっていない選手に狙いを定め、ボールを投げた。二組の内野の選手はボールの捕球に失敗し、ボールがこぼれ、更にそのボールは一組の内野に弾かれた。

 

「ラッキー♪」

 

 アリシアはボールを確保するため、中央線の傍でボールを待った。しかし

 

 

パシッ!

 

 

「え?」

 

 そのボールは零冶によって確保された。更に言うとフェイトがヒットさせたボールが地面に付く前に確保したため、二組の選手はセーフとなる。そして、零冶はボールをアリシアに投げた。

 

 

ポコッ

 

 

「アタ!」

 

 ボールはアリシアにヒットした。中央線ギリギリでヒットしたため、ボールは二組の内野に戻ってきた。戻ってきたボールを確保したのは磯山だった。

 

「テスタロッサ姉、アウト。ボールは二組」

 

「ふふ、惜しかったね。テスタロッサさん」

 

「ぶぅ~、悔しいな~」

 

 アリシアは悔しがりながら外野に移動した。

 

「ナイス。月無」

 

「それほどでも」

 

 零冶は同じチームの選手に声を掛けられたため、言葉を返した。依然として一組のピンチは続く。その後、磯山が投げたボールは一組内野の男子に当たり、一組の内野が更に一人減った。しかし、ここでついに一組の最終兵器、月村すずかにボールが渡る。

 

「すずか! 行きなさい!」

 

「うん! アリサちゃん! え~い!」

 

 

ゴオオオ!

 

 

 可愛らしい掛け声と裏腹に投げられたボールはものすごい音を立てて、

 

 

バッチーーーン!!

 

 

「へぶっ!!」

 

「磯山ぁぁぁ!!!」

 

 磯山にヒットした。磯山は信じられないくらい吹き飛んだ。しかし、ボールは地面に付く前に零冶が確保したため、セーフである。だが、

 

「おい! 大丈夫か! 磯山!」

 

「……」

 

 返事がない……屍のようだ。正確には屍のように気絶しているだけなのだが、ボールは零冶が地面に着く前に確保したため、セーフだが、事実上戦闘不能。よって戦線離脱となる。もちろん、ルール上復活した場合は内野からのスタートであるが、戻る事はまず無理だろう。

 

――流石はすずかだな、あれは大人でも取れるかどうか分からんぞ。

 

「流石ね、すずか」

 

「ううん、あれじゃダメだよ。もっと威力がないと月無君は倒せない」

 

「え? え、ええ。そうね」

 

 すずかの言葉に引き気味に答えるアリサ。

 

――すずかは俺を殺すつもりか?

 

「次はもっと威力を上げなくっちゃ」

 

 すずかの言葉を聞き、顔が青ざめる二組の内野陣。

 

≪先生、ちょっと体調が悪いので、外野で休ませて下さい≫

 

「ダメ」

 

 二組の男性陣は審判の先生にそう進言したが、あえなく却下され、これから来る未来に絶望した。二組の内野にいる女子は涙目になっている。

 

「先生」

 

「どうした? 月無」

 

「あの球が女の子に当たったら大変です。内野の女の子は外野に移動したほうが良いと思うの

 ですが?」

 

「うむ、月無の言う通りだな。許可しよう」

 

「ありがとうございます。ほら皆、外野に移動して」

 

≪あ、ありがとう。月無君≫

 

 二組の内野にいた女子は月無にお礼を言い、外野に移動する。そのほとんどが顔をほんのり赤く染めていた。

 

≪先生。今だけ女の子なので、外野に移動していいですか?≫

 

「却下だ」

 

 そしてゲームが再開した。零冶がボールを確保したため、二組の内野ボールからになる。一組の内野は残りすずか・アリサ・葵・男子A・男子Bの五人。二組の内野は零冶を含めて残り7人となった。

 

 零冶はボールを内野に投げ、一組の男子Aにヒットさせた。そして、再びすずかにボールが渡る。

 

「え~い」

 

 

ゴオオオ!!!!

 

 

 さっき以上の破壊力のボールが投げられた。

 

「ぶへぇ!」

 

 ヒットした二組の男子は外野まで吹き飛んだ。その際にボール毎吹き飛んだため、一組の外野ボールとなった。一組の外野から二組の内野にボールが投げられ、ヒットする二組の内野選手。どうやらすずかのボールに当たるくらいならここでアウトになるつもりらしく。取る気がないようだ。

 

――まずいな。二組の内野は全員戦意喪失している。

 

 ボールは零冶が確保し、すぐさま外野にパスが投げられ、二組外野から投げられたボールが一組の男子Bにヒットする。これで三対五で二組が優勢。しかし、ボールは再びすずかが確保し、二組の内野陣は顔が青ざめる。そして先程の再現と言わんばかりにまた新たに二組の内野選手二人がアウトとなり。三対三の同点。ボールは再び零冶の手に渡った。

 

「ふっふっふ。どうやら私達の勝ちのようね。月無」

 

「そうかな?」

 

「単純計算よ。私達は絶対にすずかを守る。そうすれば二対三。でもその後そっちはまた二人

 減って二対一。アンタにボールが渡ってもまたすずかを守ればそれでジ・エンドよ」

 

「なるほどね」

 

「それにアンタの姿が見えなくなった原理は分からないけど。葵には見えていたらしいし。

 もう通用しないわ」

 

――ほう、やるな葵。俺のミスディレクションと気配遮断を看破するとは……鷲の目(イーグルアイ)

  鷹の目(ホークアイ)でも持っていたのか?

 

 確かに葵は目が良い方だ。だが零冶を見失わなかったのは特別な目を持っているからではない。つい最近、葵はある能力が発現していた。その名も恋する乙女の瞳(スナイパー・アイ)。意中の相手限定に絶対に見失わない特殊能力。葵は零冶の一挙手一投足を観察し、把握することが可能になったのだ。

 

「そっか、ならもう隠れる必要はないね」

 

 零冶がそう言うと投球モーションに入った。

 

――来る! 私の役目はボールを取る事じゃない。出来る限りボールを避けること。

  無理そうなら確実にすずかにボールを託すこと。それが私の仕事よ。

 

 普段はプライドの高いアリサだが、今だけは自分が影に徹することに抵抗はなかった。全ては勝利するため、そのためなら自分は捨て駒になることも厭わない。それが目の前の強敵に勝つために必要なことだと理解していたからだ。

 

 アリサの考えは概ね正しい。ただ一つ誤算があるとすれば……

 

「ふっ」

 

 零冶はアリサに向かってボールを投げた。しかしそのボールは

 

≪え?≫

 

 恐ろしく遅かった。更に取るのに絶好な高さでもあり、今までの戦いが嘘のようにあっさりとしていた。

 

――投球ミス? これなら私でも取れる! ここで取れば三対三のままこっちボールになり、

  圧倒的に有利になる!

 

 アリサは意を決して零冶の投げたボールを捕球するために構えた。そして、ボールがアリサの両手に収まった瞬間

 

 

ギュルルル!

 

 

「な!」

 

 アリサが捕球しようよしたボールは凄まじい縦回転がかかっていた。

 

「しまっ!」

 

 その回転に対応できず、アリサはボールを取りこぼし、ボールは地面に落下する。そして、地面に落ちたボールは回転が止まることなく、その強烈なバック回転により、二組の内野へ弾けるように飛んだ。ボールはそのまま零冶の手の中に戻っていく。

 

 

パシッ!

 

 

「おかえり」

 

 辺りはシンと静まり返った。投げたボールが投げた本人に帰って来るなど誰に予想できようか。

 

「先生。コールを」

 

「……はっ! バ、バニングス、アウト。ボールは二組」

 

 あまりの出来事にその場にいた全員が言葉を失っていた。

 

「くっ! あそこで取れるなんて思わなければ!」

 

 アリサは自分の行動に後悔した。あそこで捕球せず、避けていれば二組の外野でも捕球できなかったはず、そうなれば零冶に戻るボールを途中でカットできたかも知れなかった。そう考えると自分の取った行動の浅はかさが悔しかった。

 

「バニングスさんのミスは何か分かるかい?」

 

 零冶は悔しがりながら、外野に移動しているアリサが自分とすれ違う時に話しかけた。

 

「……そんなこと分かってるわ。自分の役割を忘れてボールを取ろうと欲を出したところよ」

 

 アリサは話しかけられた零冶を見ずに俯いたまま答えた。

 

「それもだけど一番のミスはそれじゃない」

 

「え?」

 

 零冶から告げられた意外な言葉にアリサは顔を上げ、横にいる零冶を見た。

 

「一番のミスは勝ったと確信したことだ。人は勝ったと思った瞬間が一番油断する。

 君は月村さんの為に自分の役割に徹しようとしていた。しかし、そこに自分でも取れそうな

 絶好球が来た。そこで揺らいでしまったんだ。取ればより有利になると……しかしそれは

 最初の役割と大きく異なる。その矛盾が君の判断を鈍らせた」

 

「そうか、勝って兜の緒を締めよってことね」

 

 アリサは零冶の言われた事に納得した。

 

「それにね」

 

「え?」

 

「最後の一人を討ち取るまで勝敗は決まらないんだよ? ドッジボールは」

 

「……そうね。まだ人が残っているのに勝ったと思った時点で私は負けていたのね」

 

「ふふ、やっぱりバニングスさんは頭が良いね」

 

「ふん! アンタに言われても嫌味にしか聞こえないわよ!」

 

 アリサは頬を少し赤くし、零冶にそっぽを向いて外野に移動した。

 

――さて、残るは葵とすずかか……だが、既に葵を討ち取る下準備はできている。

 

 普段の零冶ならアリサに話しかけることはない。では何故、今回アリサと話をしたのか? それは

 

――ア、アリサと何話してたのかな? アリサも顔を赤くしてたし……まさか! アリサを

  落としたの! でも零冶君ならありえそう……うぅ、気になる……ダメよ私。

  今は試合中なのよ。零冶君の動きに集中しないと!

 

 葵の意識を更に自分に集中させるためだ。葵は今まで以上に零冶のことを観察した。しかし

 

「葵ちゃん!」

 

「え?」

 

 

ポコッ!

 

 

 葵は二組の外野から投げられたボールにヒットした。

 

「桜羽、アウト。ボールは一組」

 

「ど、どうして? 零冶君から目を離していなかったのに」

 

 ミスディレクション……これは本来、相手の視線を誘導し、自分を視界から外す事で自分のことを意識させない技術だ。しかし、零冶は自分に視線誘導し、あえて自分に視線を集めることで葵の視野を極端に狭くさせた。その名もミスディレクション・オーバーフロー。葵の視線を自分に釘付けにすることで、葵の気付かない内に外野にパスを出し、外野から葵を討ち取らせた。

 

 アリサを先に討ち取り、アリサと会話することで葵の視線を自分に注目させる。全てが零冶の思惑通りに進んだ。これで一組の内野はすずかを残すのみとなった。

 

「くっ! ごめん、すずか……後は頼んだわ」

 

「うん、任せて。皆の仇は取るよ」

 

 葵はすずかに声を掛け、外野に移動した。すずかはボールを持ち、中央線ギリギリまで移動する。そして、二組の内野陣を見る。二組の内野陣は残り三人。そこには零冶の姿もあった。ここで零冶を討ち取れば一組の勝ちは揺るがないだろう。しかし、相手は自分達を出し抜き、ここまで追い詰めた強敵。ここは確実に相手の数を減らすため、他の選手を狙う事にした。

 

「え~い!」

 

 すずかから放たれたボールは二組の男子を外野まで吹き飛ばし、更にボールは一組の外野まで転がったため、再び一組ボールになる。そして、一組の外野から投げられたボールに二組の内野選手がワザと当たり、ボールは零冶に渡る。これで、一対一の同点である。

 

「ここで私が取れば私達の勝ちだよ」

 

「取れればね」

 

 零冶とすずかは互いに言葉を交わした。周りの人はどちらが勝つのか固唾を呑んで見守った。そしてついに零冶が動いた。

 

「ふっ」

 

 零冶が投げたボールはアリサの時と同様に大したスピードは無く、すずかに放たれた。

 

――また回転ボール? でも私には見えている! 右回転のスライダーボール!

 

 すずかは自身の驚異的な動体視力によってボールの回転向きを見抜いた。そして、その回転に合わせて難なくボールを捕球した。

 

「ナイス! すずか!」

 

 無事ボールを捕球したすずかに賞賛を投げるアリサ。

 

「くっ!」

 

 零冶はボールを捕球されたことに苦い顔をし、すぐさますずかから距離を取った。

 

「逃がさないよ! え~い!」

 

 すずかは逃げる零冶に向かって助走を付け、ボールを投げた。そのボールは今まで投げたボールの中で一番の威力を発揮し、零冶に迫った。しかし、そこですずかは

 

「ふふ」

 

 不敵に笑う零冶を見た。零冶は右手を突き出し、すずかの投げたボールにそっと触れた。そして自身も後ろに下がりつつ、ボールに触れたまま、右手をボールの軌道に合わせて引いていき、ボールの軌道を徐々に上向きに変えていく。そして二組内野コートの真ん中少し過ぎた辺りでボールは真上に打ち上げられた。

 

 零冶がやったこと、それは合気道の技を応用し、力に逆らわず、その力の向きを誘導し、力のベクトルを変化させた。それをすずかが投げた剛速球で行ったことはまさに達人と言えるレベルだろう。

 

 真上に打ち上げられたボールは空高くに舞い上がり、徐々に勢いを失い、最頂点に達した。そしてボールはそのまま真下に落下する。

 

 

パシッ

 

 

 零冶は落ちてきたボールを悠然と受け止める。

 

「す、すごい……」

 

「これで振り出しだね」

 

 すずかは自分の最大のボールが完全にいなされたことに驚愕していた。そしてそれを平然とやってのけた零冶に心から賞賛を送る。

 

「あいつ、一体何者なの? あんなの人間技じゃないわ」

 

「すっごいね~。フェイト」

 

「うん、一体どうやったんだろう?」

 

「私には何がなんだか」

 

「安心してええで、なのはちゃん。私にもさっぱり分からん」

 

「はぁぁ……零冶君カッコいい……」

 

 零冶のやったことにそれぞれ感想を述べたなのは達。しかし、この勝負は決着が付かないとこの場に居た誰もが思った。ただ一人を除いて……

 

「さあ、行くよ。月村さん」

 

「うん!」

 

 零冶はボールを投げた。それは相変わらず大したスピードは無かった。

 

――今度は左回転のシュートボール。本当に技が多彩だね。月無君!

 

 すずかは零冶の投げたボールの回転を見切り、それに合わせた捕球体勢を取った。そしてボールを両手で掴んだ瞬間、

 

 

ギュルルル!

 

 

 ボールは右回転のスライダーボールになった。

 

――え! どうして!

 

 左回転だと思い、捕球体勢を取っていたところに右回転になったことですずかはボールを取りこぼし、ボールは地面に落下した。

 

「月村、アウト。二組の勝ち!」

 

 こうして軍配は二組に上がった。最後の呆気ない決着に全員が呆然とする中、すずかも何故ボールの回転が変わったのか分からず、立ち尽くしていた。

 

「月無君。一体何をしたの?」

 

「月村さんは目が良いみたいだったからね。ちょっと小細工をさせてもらったよ」

 

 零冶は地面に転がったボールを拾った。

 

「見てて」

 

 零冶はボールを一指し指の上で器用に右に回転させた。そして回転するボールの向きに逆らわず、叩くことで回転速度を徐々に上げていく。すると

 

「え! 左回転になった!」

 

「うん、ストロボ効果って言ってね。高速に回転したりすると人間の処理出来る視覚映像の

 許容範囲を超えて、逆方向に動いて見えるようになるんだ。ヘリコプターのプロペラでも

 同じようなことが起きるでしょ?」

 

「そうか、だからあの時左回転に見えたんだ……」

 

「そういう事」

 

 すずかは零冶の説明に納得した。零冶はボールの回転を止め、右手にボールを持った。

 

「ねぇ、月無君」

 

「何? テスタロッサさん」

 

「あっ、私のことはフェイトでいいよ? 姉さんもいるし」

 

「行き成り名前を呼ぶのは恥ずかしいからテスタロッサさんで」

 

「そっか、あっそれで聞きたいことなんだけど。さっきすずかの投げたボールが急に上に

 打ち上がったのは何で?」

 

「あれはね。ボールの水平方向の力の向きをボールに触れた時に徐々にボールの軌道を水平方向

 から垂直方向に変えたんだ」

 

「そ、そんな事出来るの?」

 

「僕、護身術で合気道を習ってたから。力の誘導に自信があるんだ」

 

「合気道?」

 

「うん、あっ。そろそろ授業も終わりみたいだから、僕行くね」

 

「あっ、うん。バイバイ」

 

「うん、バイバイ」

 

 零冶はフェイトに軽く手を振り、二組のグループに戻っていった。そこで二組のクラスメイトに質問攻めにあったのは別の話。

 

「皆、ごめんね。負けちゃった」

 

 すずかはなのは達に謝った。

 

「気にしないですずか。私も大して役に立たなかっただから」

 

 謝ったすずかに対してフェイトがフェローした。

 

「せやせや、ありゃ勝てんわ。人間技やないで全部」

 

「確かに……一体何者なのかしら、月無って」

 

 アリサ達は疑問を持ったまま、その日の体育は幕を閉じた。すずか達は再び、零冶と相見えた時のため、自分達もより強くなることを決心したのだった。

 

「はぁ、零冶君カッコ良かったぁ……」

 

「葵、いい加減帰ってきなさい」




え~、本文に葵が能力に発現したとありますが、冗談です。
実際にそんなレアスキルや念能力が発現した訳ではありません。

また、零冶の念能力紹介は今紹介できるものは無いため、しばらくお休みです。
順番的には記憶弾(メモリーボム)ですが、この紹介コーナーをやるときに
言ったとおり、ハンター×ハンターの原作念能力は除外します。

なので、しばらくは没ネタコーナーや小ネタコーナー的なものをやろうと思っています。
もちろん余裕がある場合に限りますが……


没ネタ①
 場面:ドッジボールの試合で初めてすずかにボールが渡った時のシーン


 零冶は同じチームの選手に声を掛けられたため、言葉を返した。依然として一組のピンチは続く。その後、磯山が投げたボールは一組内野の男子に当たり、一組の内野が更に一人減った。しかし、ここでついに一組の最終兵器、月村すずかにボールが渡る。

「すずか! 行きなさい!」

「うん! アリサちゃん! え~い!」

 可愛らしい掛け声と裏腹に投げられた凄まじいスピードのボールは二組の磯山に向かって行った。

ゴオオ!!

――強! 速! 避! 無理!! 受け止める! 無事で!? 出来る!? 否! 死……
  白の賢人(ホワイトゴレイヌ)!!

――そんなものは無い

「へぶっ!!」

「磯山ぁぁぁ!!!」



はい、没ですね。分かります。



没ネタ②
 場面:零冶がアリサと葵をアウトにし、すずかにボールが渡った時
     ※一組の内野はすずかのみ、二組の内野は零冶を含めて三人の時
    また、ドッジボールのルールに外野選手は一人だけバックの宣言で
    内野に戻れるルールがあるとする。

 葵からボールを託されたすずかはボールを持ち、中央線のギリギリまで移動した。

「行くよ! 月無君! え~い」

 放たれたボールは凄まじいスピードで零冶に迫る。

――完璧! 取れっこないわ!

 零冶は真正面からボールを受けるため、構えた。

「あれは! バレーのレシーブ! なの!」

 なのはは零冶の構えを見て言葉を漏らす。


ドゴッ! クン!


 すずかのボールを受けた零冶は衝撃とほぼ同時に腕と体を引き、ボールの勢いを殺した。

――体ごと腕を引いて、威力を殺したやと!

 はやては零冶のしたことに驚愕する

――上手い……刹那の狂いも許されないタイミング!! 完璧に捕らえて受け流した。
  零冶君。カッコいいよ零冶君

 葵は零冶の技術に驚嘆し、そして惚気た。

「す、すごい……」ゾクゾク

 すすがは零冶のしたことに震えた。しかしそれは恐れではない。武者震いだった。

「逃げると捕るだけじゃ無いってことさ。参考にはならないと思うけどね」

 ボールは零冶の真上。

「そうはさせない!」

「フェイト、行っくよ~!」

 アリシアは両手の指を絡ませて足場を作った。そこにフェイトが足を掛け、飛び上がると同時にアリシアがフェイトを下から押し上げた。

「な!」

 フェイトとアリシアの行動に驚愕する零冶。そして、空高く舞い上がったフェイトは空中でボールを確保し

「すずか!」

 ボールをすずかにパスした。

「月無、アウト。ボールは一組!」

「ん~ダメダメ、ボールはしっかり捕まなきゃね?」

 アリシアはドヤ顔で零冶に言い放った。零冶は苦笑いをし

「……バック」

 バックを宣言(コール)した。死闘はまだまだ続く



はい、没ですね。分かります。



没ネタ③
 後書きの没ネタ

 葵の能力紹介のコーナーです。

 1、恋する乙女の瞳(スナイパー・アイ)
   別名:スナイパー・愛
  系統:強化系
  説明:意中の相手を絶対に見失わない能力。
     障害物などで視界が遮られない限り、その相手が視界から消えることが無くなる。
     例え相手が視線の誘導を仕掛けても、絶対に誘導されない。
     更に、相手のしぐさや癖を見抜くことで次に起こす行動を先読みすることも出来る。
     意中の相手であれば性別は問わない。
     また、乙女の瞳とあるが、男性でも習得は可能。

  制約:
   1、意中の相手で無ければならない。※性別は問わない
   2、相手を一度視界に収めなければならない。
   3、相手への思いが天元突破していなければならない。

  誓約
   なし



はい、没ですね。分かりかねます。

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