原作を放って置くとバッドエンドになるんですが、どうしたら良いですか?   作:月の光

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更新が遅くなり申し訳ありません(挨拶)

前回の念能力紹介は没ネタを書いたので、お休みとします。異論は認めない。
今回は念能力紹介を書きましたので、読んで見て下さい。

今回の話ですが、私が持てる最大の恋愛描写にしたつもりです。
というかこれが限界。まだまだぬるいと思われるかもしれませんが
よろしくお願いします。←何を?

さて、本文が始まりますが、用意は良いですか?
読者の皆さん。ブラックコーヒーの貯蔵は十分か?


44_愛里「ふふ、緊張してる?」零冶「そりゃ、初めてだし」

 零冶が葵達に尾行されてから数日が立ち、葵の母 美咲に頼まれた読者モデルの撮影日となった。

 

「さて、そろそろ出かけましょうか? 零冶さん」

 

「はぁ……愛里。まだ家の中だから良いが、今からでもなれておけ。人前でボロが出かねないぞ」

 

「うっ! しかし、零冶さんを「愛里」」

 

 零冶は愛里が言い終わる前に言葉で制した。

 

「……分かりました。じゃあ行くわよ。零冶」

 

「うん、母さん」

 

 零冶は少年のようにニッコリとほほ笑んだ。

 

『うわっ! マスターが気持ち悪!』

 

『気持ち悪いなんてひどいなぁ、ミストさん』

 

『うぇ……こんなの私のマスターじゃありません』

 

『ふふふ、ミストさんは正直だなぁ』

 

『……愛里。私はしばらくスリープモードに入ります。後はよろしくお願いします』

 

『畏まりました』

 

 現在、零冶のデバイスであるブラックミストは念のため、愛里が持っている。ミストは愛里に断りを入れ、スリープモードに移行した。

 

「……ねぇ、母さん」

 

「どうしたの? 零冶」

 

「そんなに気持ち悪かったかなぁ?」

 

「……ノーコメントでお願いします」

 

 そんな会話をしながら零冶達は家を出た。葵の母 美咲が勤めている子供向けファッション雑誌ルナテイクは海鳴市から駅で二つ離れた場所に事務所を構える会社である。

 

 零冶達は駅から電車に乗り、ルナテイクに向かった。そして、事務所のあるビルの前に着いた。

 

「結構大きなビルなのね」

 

「うん、そうみたいだね」

 

「ふふ、緊張してる?」

 

「そりゃ、初めてだし。緊張するなって言うほうが無理だよ」

 

 そんな親子の会話をしているフリをしながら、ビルに入っていく零冶と愛里。傍から見れば何の変哲もない仲の良い母と子に見えるだろう。そうして二人は受付に向かった。

 

「すみません。ルナテイクの桜羽 美咲さんに面会したいのですが」

 

「はい、少々お待ち下さい」

 

 愛里が話しかけると受付嬢はどこかに電話をした。そして二言三言話しをすると

 

「今こちらへ迎えが来ますので、少々お待ち下さい」

 

「分かりました」

 

 そう受付嬢に言われた零冶達はその場で迎えを待った。

 

「……」

 

 その場で待っていると受付嬢が愛里をじっと見つめていた。

 

「あの……何か?」

 

 愛里が受付嬢に聞いた。

 

「あっ! いえ、失礼しました」

 

 すると慌てたように謝罪する受付嬢

 

『どうやらあの時、ナンパされていた女性のようだな』

 

『ええ、まさかこんなところで再会するとは思いませんでした』

 

『まあ、変装していたんだ。大丈夫だろう』

 

『そうですね』

 

『本当に俺が助けなくて良かったよ。俺が助けていたらここで再会することになっていた』

 

虫の知らせ(シックスセンス)様様ですね』

 

『そうだな。何度も封印しようと思ったが、やはり便利な能力だ』

 

 愛里と念話でそんな会話をしていると一人の女性がエレベーターから降りてきた。

 

「どうもお待たせしました。はじめまして、桜羽 美咲です」

 

「はじめまして、月無 愛里です」

 

「本日は私のわがままを聞いていただきありがとうございます」

 

「いえ、私としても零冶には色々な経験をさせてあげたいので、こちらこそ感謝します」

 

 美咲は感謝をし、愛里は社交辞令で返した。

 

「そう言って頂けると助かります。久しぶり。零冶君」

 

「はい、お久しぶりです。美咲さん」

 

 零冶と美咲も軽く挨拶を交わした。

 

「葵はもう着てるから早速撮影場へ向かいましょう。こちらです」

 

 美咲に案内され、エレベーターに乗った。零冶達はそのまま撮影場へ移動した。そしてビルの一室に入るとそこには様々な機材が立ち並ぶ場所へ案内された。

 

「あっ、零冶君! 久しぶり」

 

「うん、久しぶり。桜羽さん」

 

 そこで葵に出合った零冶は挨拶を交わす。

 

「あの、はじめまして、桜羽 葵です」

 

「ええ、はじめまして、零冶の母の愛里です。いつも零冶がお世話になってます」

 

「いえ、お世話だなんてそんな」

 

 愛里と葵も挨拶を交わした。

 

――うわぁ、綺麗な人……美人というより可愛い系かな? 高校生って言われても通じそう……

  でも零冶君とはあまり似てないのね。零冶君はお父さん似なのかな?

 

 葵が愛里を見て物思いにふけっていると

 

「それじゃ、挨拶も済んだところで簡単な説明をしますね」

 

 美咲は今回の撮影に関する説明や注意事項を簡単に説明した。

 

「じゃあ、早速だけど、零冶君は彼女に付いて行っておめかししてきてね」

 

「分かりました。美咲さん」

 

――お母さん、零冶君に名前で呼んでもらってる!

 

「は~い、はじめまして。今日の僕の担当の七海(ななうみ) 菜々子(ななこ)よ。ななさんって呼んでね」

 

「よろしくお願いします。ななさん」

 

「ふふふ、素直な子は好きよ。じゃ行きましょう」

 

「はい。それじゃ、また後でね。桜羽さん」

 

「う、うん、また後でね(はぁ、私も零冶君に名前で呼んでほしいなぁ)」

 

 葵にそう言い残し、零冶は七海に着いて行った。 

 

「それじゃ、葵も行きましょうか」

 

「うん、分かったよ。お母さん」

 

「それでは愛里さん。しばらくそちらの休憩所でお待ち下さい」

 

「はい、分かりました」

 

 零冶と葵は別々の控え室に向かった。愛里は休憩所の椅子に腰掛けた。

 

――ふぅ、少し疲れましたね

 

『お疲れ様です。愛里』

 

『ミスト様、起きたんですか?』

 

『ええ、ちょっと前に』

 

『後は待っているだけですから、零冶さんに比べれば楽ですけどね』

 

『そうですね。マスターがどう立ち回るのかが見物です』

 

『本当に自由ですね。ミスト様』

 

『ふっふっふ、私を縛ることは何人たりとも出来ないのだ』

 

『『……』』

 

『やっぱりマスター(ツッコミ役)が居ないとダメですね』

 

『同感です』

 

 ミストと愛里がそんなやり取りをしてる頃、零冶(ツッコミ役)はと言うと

 

 

 

 

――あいつら俺のことツッコミ役とか思ってそうだな……

 

 異様な感の鋭さを発揮していた。

 

「それじゃまずは髪の毛から切っていこうか」

 

――まあ、そうなるわな。良かった、髪の毛を伸ばしてきて

 

 零冶は普段、変身魔法を使い前髪を伸ばしていたが、この日のために神の遊戯(キャラクターメイキング)の能力を使い、髪を伸ばして来ていた。

 

「やっぱり切らないとダメですか?」

 

「う~ん、流石にその髪型じゃ流石にね。どうして?」

 

「僕、学校じゃあまり目立ちたくないので、こんな前髪にしてるんです。なので、

 あまり切りたくないんですが……」

 

「なら、終わった後でエクステを上げるわ」

 

「エクステって何ですか?」

 

「簡単に言うと付け毛よ。こういうの」

 

 そう言って七海はエクステを零冶に見せた。

 

「分かりました。じゃあ、お願いします」

 

「は~い、それじゃ切っていくわね」

 

 七海の手によって零冶は髪をセットしていく。それからしばらくして

 

「はい、出来上がり。うん、男前じゃない。勿体無いわよ?」

 

「ありがとうございます」

 

 零冶の目が隠れるほどだった前髪は七海の手によって丁度良い長さになった。

 

「それじゃ、後はこれを着てね。衣装室はそこよ」

 

「分かりました」

 

 零冶は衣装を受け取ると衣装室に入った。そして受け取った衣装を見ると

 

――は? 春物の撮影だったよな? 何でこれなの?

 

 零冶は疑問に思いながらも衣装に着替え、七海と共に撮影現場に移動した。

 

 

 

 

 その頃、葵は零冶と同じように髪型を整え、用意されていた衣装に着替え、撮影現場に居た。

 

「ねえ、お母さん」

 

「何? 葵」

 

「今日って春物の新作の撮影だったよね?」

 

 葵は自分の現状に疑問に思い、母親に聞いた。

 

「ええ、そうよ」

 

「じゃあ、何でウェディングドレスなの?」

 

「それは零冶君が来てから説明するわ」

 

「お待たせしました~」

 

 七海と共に戻ってきた零冶を見た葵は時間が止まったように固まった。そこには普段前髪で目を隠し、不恰好な眼鏡をしている零冶は無く、前髪は適度な長さに切られ、黒くさらさらな髪ととても整った容姿の美少年が黒の燕尾服を着て居た。

 

「どうかな、桜羽さん。おかしなところ無い?」

 

「……」

 

 零冶は何気なく葵に聞いたが、まったく反応が無かった。

 

「桜羽さん?」

 

「……え?」

 

「おかしなところ無いかな?」

 

「……うん」

 

「そう? ありがとう。桜羽さんもよく似合ってるよ」

 

「……うん」

 

 反応が薄い葵に疑問を持った葵の顔を覗き込むように顔を近付けた。

 

「桜羽さん? 大丈夫?」

 

「……え? キャア!」

 

 意識が戻ってきた葵は目の前に零冶の顔があることに気付き、声を上げた。

 

「わっ! ご、ごめん驚かせるつもりは……」

 

「え!? ううん! 気にしないでビックリしただけだから!」

 

「そ、そう? 大丈夫。ぼーとしてた見たいだけど」

 

「大丈夫だよ! うん! 零冶君とっても似合ってるよ!」

 

「ありがとう。桜羽さんも良く似合ってるよ」

 

 零冶は優しく微笑んだ。

 

――ああ、何てまぶしい笑顔……ちょっと髪型が変わっただけでこんなに変わるものなの?

  燕尾服もとても似合っている……私、生きてて良かった……そうか、私はこの瞬間のために

  生まれてきたのね。

 

「あれは天然でやっているのかしら?」

 

「零冶はいつもああなんです」

 

「これは葵も苦労するわ」

 

 愛里と美咲は零冶と葵の様子を見て言った。

 

「あの、美咲さん。今日って春物新作の撮影じゃなかったんですか?

 これ明らかに違いますよね?」

 

 零冶は疑問に思っていたことを美咲に聞いた。

 

「そうだよ、お母さん。これじゃまるで、け、結婚式みたいじゃない」

 

 葵は顔を赤くしながら、母親に聞いた。

 

「それなんだけどね。今日のコンセプトは子供が背伸びして大人な格好してみましたなのよ。

 だから、その格好で表紙部分の撮影をします」

 

「なるほど、納得はしました。ですがそれならこの格好以外もあったと思いますが?」

 

「まあ、良いじゃない。結婚式なんて大人の代表と言っても良い訳だし」

 

「でも、結婚前にウェディングドレスを着ると婚期を逃すと言いますし、桜羽さんも

 初めてなんですから、避けるべきでは?」

 

「私は大丈夫だよ! 寧ろ綺麗なドレスが着れて嬉しいよ!(零冶君と結婚式なんて

 嬉しすぎるよ!)」

 

「葵もこう言っていることだし、ねっ?」

 

「桜羽さんが良いなら、良いんですが……」

 

「それじゃ零冶君の許可も出たことだし、早速撮影に行きましょうか。あっその前に零冶君」

 

「何ですか?」

 

「葵のことは名前で呼んでね?」

 

「え!? お、お母さん!」

 

「何でですか?」

 

「恋人同士を演じて欲しいのよ。いくら写真でもよそよそしいとそういう雰囲気って

 出ちゃうのよ。だから今日だけは恋人として振る舞ってくれるかしら?」

 

「こ、恋人ってそんなの(ドンと来いよ!)」

 

 葵は顔を赤くしながら、まんざらでもない顔をする。

 

「……そういうことなら」

 

 零冶は少しの間目を瞑ると目を開き、葵を見つめた。

 

「それじゃ、行こうか葵」

 

「は、はい! あ、あなた!」

 

 葵が言ったことにポカンとなる零冶。

 

――ってしまったぁ! 何よあなたって! 気が早すぎるでしょ!

 

 葵は自分がしてしまった失敗に気付き、更に顔を赤くした。

 

「あっ! 今のはその!」

 

「ふふふ、それは気が早いよ、葵」

 

「そ、そうだよね。ごめんね」

 

()()ね」

 

 そう言うと軽くウインクをする零冶。

 

 

ズッキューーーン

 

 

 葵はハートを打ち抜かれたかのような感覚に見舞われた。

 

――ああ、ここが理想郷(アヴァロン)だったのね。

 

 葵は呆けたように零冶を見つめた。

 

「桜羽さん? 大丈夫?」

 

「答えは得たよ。大丈夫だよ零冶君。私もこれから頑張っていくから」

 

――それはあかんやろ、葵。消えてまうやん。

 

 零冶は心の中で葵にツッコミを入れた。

 

『やっぱりツッコミ役がいると栄えますね』

 

『確かに』

 

 ミストと愛里は零冶に聞こえないように念話で会話をした。

 

「私はカメラマンの常市(とこいち) 真実(まみ)よ。二人ともよろしくね」

 

「「はい、よろしくお願いします」」

 

「うん、元気があってよろしい。それじゃ、まずは二人並んでみようか」

 

 真実にそう言われた二人は撮影場に移動し、二人並んで撮影に移った。そして何枚かカメラに収めると

 

「中々良いよ~。それじゃ、次は腕を組んでみようか」

 

「う、腕を!」

 

「そだよ~」

 

 真実に言われたことに過剰に反応する葵。

 

「はい、葵」

 

 零冶は何事も無かったように左手を腰の辺りまで上げ、肘を横に出し、葵が腕を組めるように準備した。

 

――う、腕を組むってそれじゃまるで恋人じゃない! い、いや今は恋人同士を演じてるんだから

  問題ないわ。これは演技……演技なのよ。

 

 葵は戸惑いながら右腕を零冶の左腕に絡ませた。

 

――さ、触っちゃった! 触っちゃったぁ~。零冶君暖かいなぁ、良い匂いだなぁ、えへへ~

 

 葵は顔を赤くさせ、零冶と腕組みをした。

 

「はい、それじゃ。撮るよ~」

 

 そのまま真実は何枚かカメラに収めた。

 

「はい、オッケー。それじゃ、次は……向かい合ってキスシーン行こっか」

 

「キ、キスゥゥ! 無理です! 恥ずかしいです!(いいの!? キスして!)」

 

 真実に言われたことに顔を真っ赤にさせて反応する葵

 

「葵の言う通りです。それは流石に……それに葵だって初めてかもしれないんですよ?」

 

 零冶も葵に続き、真実に反論する

 

「ああ、大丈夫。フリだから」

 

「あっフリですか。なら良かった。ねっ葵?」

 

「えっ!? う、うん……(れ、零冶君なら全然問題無かったのになぁ)」

 

 そして零冶と葵は向き合い零冶は葵の首に左手を回し、自分に引き寄せた。

 

「え!? あっ!? あの!?」

 

「ほら、葵」

 

――零冶君! 顔! 顔近いよ! ああ! か、カッコいい! ダ、ダメ! は、恥ずかしいよ!

 

 葵は零冶から離れようと後ずさる。それを追うように零冶はゆっくりと距離を詰める。そして、葵は後ろのセットの壁まで下がり、零冶は葵に覆いかぶさるように壁に手を付いた。所謂壁ドンである。

 

「あわわわわわ!」

 

「葵……目を瞑って」

 

 零冶は葵の耳元で囁く様に葵に語りかける。葵は顔を真っ赤にし、潤んだ瞳で零冶を見つめる。零冶は右手で葵の顎に優しく触れ、葵の顎に少し上げる。

 

――ああ、零冶君……好き。貴方が大好き……このまま私の唇を奪い去って……

 

 葵は目を瞑り、零冶からのキスを待つ。しばらくそのまま、二人は硬直していた。

 

「…………あの真実さん、撮らないんですか?」

 

 零冶は何時まで経ってもシャッターがならないことに疑問持ち、真実に指摘した。

 

「……え? ああ! ごめんすっかり忘れてたよ(いや~あの子凄いわ。見てるこっちが

 ドキドキしちゃったよ)」

 

――ってそうだった! これは撮影だったんだ。何、本気になってるのよ私はバカバカバカ!

  へ、変な子だって思われてないかな?

 

――それにしても葵のやつ、普段は冷静なのに随分焦っているな。ふふ、可愛いものだ。

 

 そして真実は写真を撮った。

 

――やっぱり私の目に狂いは無かったわ。あの子は天才よ。残念だわ今回だけなんて……

  ここは何とか引き止めたいわね。

 

 美咲は撮影の様子を見て残念そうな顔をし、何とか零冶を引き込めないか模索する。

 

『あ~あ、マスター。完全に仕事モードですね』

 

『そうですね。どんな仕事でも完璧にこなさないと気がすまないですから、零冶さんは』

 

『でも葵ちゃんの好感度が心配です』

 

『好きな相手になら下がる事は無いと思いますが?』

 

『いや天元突破しないか』

 

『ああ、そっちですか』

 

「オッケーそれじゃ次は……」

 

 真実は何枚かキスシーン風の写真を撮り、次のシチュエーションを零冶と葵に指示し、写真に収めていった。その甘甘な光景にスタッフはコーヒーメーカーでブラックコーヒーを入れ、がぶ飲みしていた。そして

 

「はい、オッケー。それじゃ一旦休憩にしよっか」

 

「分かりました。休憩しようか、桜羽さん」

 

「はい、零冶君……」

 

 葵は熱を帯びた瞳で零冶を見つめていた。そして二人は休憩所に移動した。

 

「お疲れ。零冶」

 

「うん、母さん」

 

 愛里に労を労われた零冶はそのまま休憩所の椅子に腰掛けた。すると葵はそのまま零冶の隣の席に腰掛けた。そしてそのまま零冶に擦り寄った。

 

「桜羽さん? どうしたの? 寒い?」

 

「ううん、こうしたいの……ダメ?」

 

 葵は潤んだ瞳の上目使いで零冶に甘えてきた。

 

『葵の上目使いの攻撃』

 

「大丈夫だよ。ふふ、桜羽さんは甘えん坊だなぁ」

 

『零冶はひらりと身を避わした』

 

「ありがとう。それと名前で呼んで欲しいな……」

 

 葵は甘えた声で零冶に擦り寄った。

 

『葵の名前で呼んでの攻撃』

 

「うん、撮影の時にね」

 

『流石零冶さん、あれだけの攻撃を避わすとは』

 

『それを見ていた美咲さんは吐血したと言うのに』

 

『大抵の男子であれば即死でしたね』

 

『そうですね。私もデバイスでなければ即死だった。流石マスター、他の男子に出来ないことを

 平然とやってのける。そんなことよりサッサと落ちろ。そしてもげろ』

 

『全ての男子の代弁ですね。分かります』

 

 ミストと愛里が念話で話をしていると

 

「美咲編集長~ちょっと良いですか?」

 

「あっは~い。今行くわ」

 

 美咲は真実に呼ばれ、真実のところに向かった。

 

「ふふふ、零冶く~ん」

 

――少しまずったか? 葵がここまでデレデレになるとは思わなかった。仕方ないな。

 

「桜羽さん、僕ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 

「うん、分かったよ」

 

 零冶は席から立ち上がると、愛里を見た。

 

『葵を正気に戻しておいてくれ』

 

『ふふ、分かりました』

 

 愛里に指示をすると、零冶は撮影場から出るために扉へ移動を開始した。

 

『愛里に押し付けるとは流石マスター。そこにしびれる。あこがれる』

 

『あれ? ミストさん、起きてたの? ふふ、よく眠れた?』

 

 零冶は歩きながらミストからの念話に答える。

 

『……もしかして怒ってます?』

 

『どうして? 怒ってないよ。どうしたの? 心配なの? ふふ、可愛いところあるね。

 ミストさん。このお茶目さん♡』

 

『お願いです。いつも通りに接して下さい』

 

『……まったく、俺をいつもからかって遊ぶなよ。あまり度が過ぎると俺にも考えがあるぞ』

 

『な、何をするつもりですか? はっ! やめて下さい! 私に乱暴する気でしょう?

 エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!?』

 

『簡易転送装置をつけてトイレに流す』

 

『My master. A restroom goes out of here and is in about 30 meters of the

 right front. In careful.』

 ※訳:マイマスター。トイレはここから出て右前方約30メートルにございます。お気をつけて

 

『零冶さんのO☆DO☆SI! 効果は抜群だ!』

 

『冗談だよ。家族にそんなことする訳ないだろ?』

 

『恐ろしいこと言わないで下さい、マスター。寒気がしました』

 

『せいぜい一晩中弄くり回すだけだ』

 

『エロ同人みたいに?』

 

『エロ同人みたいに』

 

『それはご褒美では?』

 

『『え?』』

 

『あっ、いえ何でもありません。零冶さん』

 

 愛里は少し顔を赤くし、俯いた。

 

『とりあえず、葵のことは任せたぞ。愛里』

 

『分かりました』

 

 零冶は改めて愛里に指示を出すと念話を切った。

 

 

 

 

 

――さて、零冶さんからのミッションを達成するとしますか……

 

 零冶に指示をされた愛里は少しトリップしている葵を正気に戻すため、葵を見た。

 

「はぁ~、零冶……君」

 

 葵は零冶が出て行った扉を潤んだ瞳でじっと見つめていた。

 

――しかし、どうしましょうか……さっきから零冶君しか言ってないんですが……

 

『ここはやはり零冶のことをよろしく頼むと言えば良いんじゃないでしょうか?』

 

『親公認になり、恋心が加速すると思いますが?』

 

『ブレーキなんて要らないんですよ。アクセルとハンドルが有れば良いのだ』

 

『止まる気ゼロですか? 信号機のこと、時々でいいから……思い出して下さい』

 

『信号機? 知らない子ですね』

 

『人じゃないですからね。それにそれでは零冶さんの意に反します』

 

『愛里は真面目ですね。元になったAIが私とは思えません。いえ、だからこそ……なのかも

 知れませんね』

 

『ミスト様?』

 

『いえ、何でもありませんよ。では頑張って下さい。愛里』

 

 ミストは愛里との念話を切った。そして、愛里は葵に話しかけた。

 

「ねぇ、葵ちゃん」

 

「……え? あっ、はい! 何ですか! お義母さん」

 

――いけませんね。重症です。

 

「ふふ、私は葵ちゃんのお母さんじゃないわよ?」

 

 愛里は葵に指摘した。

 

「あっ! す、すみません。零冶君のお母さん」

 

「愛里でいいわよ」

 

「はい、分かりました。愛里さん」

 

「それでちょっとお話しても良いかしら?」

 

「はい、良いですよ」

 

「葵ちゃんは零冶のこと好きなの?」

 

「えっと、その……好きです」

 

 葵は顔を少し赤くして答えた。

 

「そっか……あの子も隅に置けないわね。学校のこととか全然話してくれないんだから……」

 

 愛里はもの寂しそうに俯いた。

 

「あの、零冶君って家ではどんな感じなんですか?」

 

「そうね。あの子は頑張り屋さんね。小さい時に夫を亡くしてから、ずっと女で一つで育てて

 きた。だからなのかな、ちっとも我が侭言ってくれないの」

 

「……」

 

 葵は愛里の話すことを真剣に聞いている。

 

「普段私の前でゲームして遊んでいるように見せてるけど。僕はちゃんと遊んでいるから

 大丈夫って言ってるようにしか見えないの。だって影では勉強したり、体を鍛えたりしてるの

 知ってるから……きっと私に心配掛けたくないのね。母親失格だわ」

 

「そんな事……無いと思います」

 

「葵ちゃん?」

 

「私この間友達と翠屋でお茶するために一緒に帰ってたんですけど……その時たまたま零冶君の

 後ろを歩いてたんです。その時横断歩道で困ってるお年寄りとか公園で困ってる女の子とか

 迷わず助けてました。愛里さんが沢山愛情を注いだからあんなに優しい子に育ったんだと

 思います。だから母親失格なんて絶対に無いです」

 

「……ありがとう、葵ちゃん。零冶の恋人になれとは言わないわ。友達としてでも良いから、

 零冶のよろしくね」

 

「はい、愛里さん」

 

 愛里は優しく微笑み葵にお願いをした。

 

「ふふ、情けないわね。大人の私が励まされちゃった」

 

「いえ、私の方こそ生意気言ってすみません」

 

「良いのよ。それに零冶に友達が居るって分かって良かったわ。ねぇ学校での零冶のこと

 教えてくれない?」

 

「はい、あっでも、私零冶君とはクラスが違うからあまりお話できることが……」

 

「それでも良いわ。学校以外でも良いから」

 

「それなら」

 

 それから愛里と葵は零冶について話しをした。

 

 

 

 

 

 愛里に葵のことを任せた零冶はトイレから戻ってくる途中だった。

 

――さて、そろそろ大丈夫だろう。愛里なら上手くやっているはずだ。

 

 零冶が戻る途中に話し声が聞こえてきた。

 

「う~ん、困ったわね」

 

「ええ、零冶君は完璧なんですが……」

 

――この声……美咲さんと真実さんか? 何の話しをしているんだ?

 

 零冶は立ち止まり、耳の聴力をオーラで強化し、美咲と真実の会話を盗み聞きする。

 

「別に悪くはないんですよね~、それに葵ちゃんも一人で撮っているときは問題無いんですが、

 零冶君とツーショットになると表情が緩むのを我慢して笑顔を作ってるので、少し表情が

 固いんですよね」

 

「そうね。ちょっと予想外だったわ。葵がここまでデレデレになるとは思わなかったから、

 その点零冶君は凄いわね。とても初心者だとは思えないわ」

 

「美咲編集長が目を付けただけはありますね」

 

「私だってこれは予想以上よ。本当に惜しい人材だわ」

 

「何とかして引き止めましょう。あっ、葵ちゃんを差し出すとか」

 

「何勝手に人の娘を出しにしているのよ。それに葵ならともかく零冶君には無理でしょう。

 あの子、あの撮影中でも平然としてたのよ?」

 

「確かにそうですね。私も何度ブラックコーヒー飲んだか分かりませんよ。独り身は辛いです」

 

「貴方だって真面目にすれば直ぐに良い相手が見つかるわよ」

 

「あざっす。でも今は仕事一筋なんで」

 

「ふぅ、勿体無い。それよりこっちよ。どうしたら良いかしら……」

 

「最悪、別々のショットを合成するしかないですね」

 

「それは最終手段よ。他の方法を考えましょう」

 

――なるほどな。確かに結婚雑誌ならともかく、子供向けファッション雑誌の表紙としては

  あのショットではダメだな。まあ、そもそもコンセプトが間違ってると思わなくもないが。

  仕方ない……

 

「あの、美咲さん」

 

「あら、零冶君。どうしたの?」

 

「ちょっとお手洗いに行ってたので、それより今話してたことですが」

 

「あらら、聞こえちゃったのね。大丈夫よ。私達もプロなんだから、何とかするわ」

 

「いえ、僕に一つ考えが――」

 

 零冶は美咲と真実に秘策を話した。

 

 

 

 

 

 零冶は美咲や真実と話しをして休憩場に戻った。

 

「ただいま」

 

「あっ、お帰りなさい。零冶君」

 

 零冶が声を掛けると葵からいつも通りな雰囲気の返事が返ってきた。零冶は愛里を見た。するとそれに気付いた愛里は小さく頷く。

 

 そして、零冶はそのまま葵の隣の席に腰かける。だが、さっきと違い零冶の傍に擦り寄ってくることは無かった。

 

――どうやら上手くやったらしいな。流石は愛里だ。頼りになる。

 

 零冶が席に戻ると美咲や真実が戻って来た。

 

「は~い、それじゃ撮影を再開しま~す。二人共よろしくね」

 

「「はい」」

 

 零冶と葵は再び撮影場に戻った。そして、二人並んでカメラの前に立った。

 

「それじゃまず試しに一枚撮るね。二人とも寄り添って」

 

 真実に言われた二人は寄り添った。やはり葵は表情が少し固かった。

 

「じゃあ、一枚」

 

 

カシャ

 

 

 真実はシャッターを押し、カメラに収めた。

 

「は~い、ちょっと確認……あれ?」

 

 真実は撮った写真を確認したが、様子がおかしい。

 

「あら、ちゃんと撮れてないね。ちょっと確認するから声掛けるまでそこで待ってて」

 

 真実はカメラを調整を始めた。

 

「待ちになっちゃったね」

 

 葵は零冶に話しかけた。

 

「そうだね。お話でもしてよっか」

 

「うん」

 

 零冶は葵に提案し、それに葵は乗っかった。

 

「今日桜羽さんはどうやって来たの?」

 

「私はお母さんの車で来たよ。零冶君は?」

 

「僕達は電車で。今日はてっきり蒼乃も来るのかと思ってたよ」

 

「そうなの。蒼乃も行きたい行きたいってずっと言ってて。よっぽど零冶君に会いたかったのね」

 

「そっか……そういえばクリスマスパーティ、折角誘ってくれたのに行けなくてごめんね」

 

「ううん、気にしないで。私も当日急に誘ってもダメだと思ったんだけど、蒼乃がどうして

 もって聞かなくて」

 

「そうだね。もっと前に誘ってくれたら予定も空けられたかも知れないんだけど……」

 

「ごめんなさい。こっちも急に決まったから……」

 

「別に謝ることじゃないよ。でもそっか、今日は蒼乃に会えると思ってたんだけどな」

 

「……零冶君は蒼乃のことが好きなの?」

 

「うん、好きだよ。本当の妹みたいだと思ってる」

 

「そ、そっか。そういう好きだよね」

 

「もちろん。でも、蒼乃にはまた会えるよっておまじないしたから会いたかったんだけどなぁ」

 

「ああ、あの時にね……っ!?」

 

「どうしたの?」

 

「え!? う、ううん。何でもない(あの時の間接キスを思い出しちゃったわ)」

 

「そう?」

 

「うん、あの時の蒼乃、零冶君と一緒に買い物できてとっても喜んでた。ありがとう」

 

「どう致しまして……そうだ、今日の帰り桜羽さんの家寄って言って良い?」

 

「え?」

 

「蒼乃にちょっと会って行きたいんだけど」

 

「えっと私は良いんだけど……」

 

 葵は母の美咲に目を配らせた。すると美咲も小さく頷く。

 

「お母さんも良いって」

 

「ありがとう。蒼乃、喜んでくれるかな?」

 

「絶対に喜ぶよ。そう言えばこの間蒼乃がね」

 

 こんな感じでしばらく零冶と葵が蒼乃に付いて語っていると

 

「はい、オッケーで~す」

 

「え?」

 

 真実が二人に声を掛けた。

 

「いや~、良い絵が撮れたよ。それじゃ、表紙の撮影はこれでおしまいね」

 

「え? え?」

 

 葵は訳が分からず、動揺していた。

 

「お疲れ様。桜羽さん」

 

「零冶君……どうなってるの?」

 

「それに付いては私から説明するわ」

 

 すると美咲が葵に声を掛けた。

 

「お母さん……」

 

 そして葵は美咲から説明を受けた。恋人同士として撮影することで葵の表情が固くなってしまっていたこと。零冶が提案し、恋人同士ではなく友達同士として接しているところを撮影すること。

 

「そうだったんだ……」

 

「うん、僕から見ても桜羽さん。ちょっと無理してるように見えたんだ。だからもっと自然に

 振る舞えるようにしたほうが良いと思って」

 

「いや~騙してごめんね。でも写真の方はばっちりだから期待してて良いよ」

 

「それじゃ、次は春物の撮影よ。零冶君、着替えてきて」

 

「はい」

 

「葵、行きましょう」

 

「うん」

 

 二人は再び衣装室へ移動した。葵は衣装室に入ると

 

「はぁ~」

 

「どうしたの? 葵」

 

「うん、皆に迷惑掛けちゃったなと思って……」

 

「いいのよ。皆気にしてないわ。それに撮影を頼んだのは私だもの、私の責任よ」

 

「うん……」

 

 葵は美咲に励まされたが、その表情は暗かった。その様子を見た美咲は

 

「……零冶君がね。私達にアドバイスしてくれた時に言ってたわ」

 

「え?」

 

「桜羽さんは蒼乃の話をしている時が一番自然でとても魅力的な笑顔をしているって」

 

「零冶君……」

 

 葵は胸が熱くなるのを感じた。

 

「葵……頑張るのよ」

 

「うん、お母さん」

 

「私も零冶君にお義母さんって呼ばれたくなっちゃった♪」

 

「お、お母さん!?」

 

「ふふふ」

 

「もう……」

 

 その後零冶と葵は春物の服を着て、撮影を行った。そして撮影が終わり、零冶と愛里は帰りに桜羽家にお邪魔し、蒼乃と会った。零冶は葵と蒼乃と話しをし、愛里と美咲はお茶をした。

 

 そして桜羽家を後にする時、蒼乃がおまじないをせがんで来たため、零冶はおでこにキスをし、それを葵は羨ましそうに見つめ、その光景を微笑ましそうに見つめる愛里と美咲が居た。




今回没ネタはありませんが小ネタなどを書きたいと思います。
また、その後に念能力紹介をしますので、ご心配なく。

今回の本文に登場した常市(とこいち) 真実(まみ)ですが、結構凝った名前です。
 (とこ) → 常に → いつも
 (いち) → 一 → 一つ
 真実(まみ) → 真実(しんじつ)
となります。
並び替えると「真実はいつも一つ」となり、名探偵コナンの決めゼリフになります。
これに気付いた人はきっと名探偵になれるでしょう(無責任)

そして、写真家な訳ですが、写真は「真実を写す」を書きます。
コナンでもそんなくだりがあったと思います。
こんな感じで名前を考えました。うん、無駄ですね。知ってた。

あと、基本的にオリキャラの容姿などは読者の皆さんで勝手にイメージしてもらって
良いのですが、私は零冶をコードギアスのルルーシュでイメージしてます。
今だと子供なので子供ルルですね。

あと、葵はラブライブの園田 海未 を子供にした感じをイメージしてます。
なお、これは作者のイメージです。そう言う設定では無いのであしからず……



零冶の念能力紹介のコーナーです。

では、次の念能力はこれだ!

 31、仮想現在(バーチャルリアリティー)
  系統:具現化系
  説明:過去のあの時こうしていたら今頃どうなっていたか? と言うことを
     シュミュレートできる端末を具現化する能力。
     精度は脅威の100%の確率となっている。
     この能力で見る過去は使用者が知りうる過去であれば
     どんなものでもシュミュレート可能である。
     たとえ他人の過去の記憶でも使用者本人が知ってさえ
     いれば問題なくシュミュレートできる。

  制約
   1、他人の過去をシュミュレートした場合、その結果を対象者に話してはならない

  誓約
   1、他人の過去をシュミュレートした結果をその対象者に話しした場合、
     使用者はその過去の記憶を忘れる

 零冶は過去の改変で最も恐れたバタフライ効果を抑えるための能力です。過去のシュミュレートが100%再現できるのはものすごいことですが、この能力で過去を変えることはできません。あくまでシュミュレートです。

 そして零冶はもう過去に行って過去を変えようとは思っていません。つまり何が言いたいかと言うと……もうお前の出番ねぇからってことです。

仮想現在「ちょっと待ってよ! 俺すごい能力でしょ? 便利な能力だよね?」
零冶「ああ、お前はすごいよ。今までありがとう」
仮想現在「嫌だあああ! まだ……まだ出番が欲しい!」
時空旅行券「いらっしゃ~い……こっちにおいでよ……」
仮想現在「やめろおおお! 離せ! HA☆NA☆SE」

って感じです。では

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