原作を放って置くとバッドエンドになるんですが、どうしたら良いですか?   作:月の光

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更新お待たせしました。

これの話でミゼットとの出会いは終わりです。
書く人が書けばもっと広げられるんでしょうが、
私には……無理だ!

では、どうぞ


39_ミスト『回想シーン終わり!』零冶『だからメタイよ!』

 管理局からの依頼を受けたライは依頼主である、伝説の三提督の一人ミゼット・クローベルとその秘書エリス・リートルード。そして、傭兵マグナ・ベルーゼと共に第123管理外世界グローランディアへやって来た。

 

「ここがグローランディアか」

 

『へぇ~水晶があちこちにあって美しい星ですね』

 

『そうだな。だが、ここら辺に散らばっている水晶は魔力の抜け殻みたいだな』

 

『でも水晶としては利用価値はありますね。装飾品とかに』

 

『良いなそれ、一つ拝借して置くか』

 

『でもこれもロストロギアになるでしょうか?』

 

『確認しておくか』

 

 ライはミストと念話で会話をし、ミゼットの方へ向き直った。

 

「ミゼット」

 

「何かしら?」

 

「ライさん。クローベル統幕議長、もしくはミゼット様と」

 

「構いませんよ、エリス。それで何ですか? ライ」

 

「ここに散らばっている魔水晶の抜け殻もロストロギアとして扱われるのか?」

 

「いいえ、ロストロギアとして認定されるのは魔力を内包している魔水晶のみです」

 

「ならこれは貰ってっていいな」

 

 ライは地面に転がっている魔水晶の抜け殻の中で一際大きいものを拾い上げる。

 

「ええ、構わないわよ」

 

 ライは魔水晶の抜け殻を懐にしまうふりをして王の財宝(ゲートオブバビロン)の中にしまった。

 

「ミゼット様、こちらに馬車を用意してあります。会議場へ向かいましょう」

 

「ええ」

 

「あ? おいおい、何で馬車なんだよ。車があるじゃねぇか」

 

 エリスは馬車をレンタルし、それで移動をしようしていたが、マグナがそれに反発した。

 

「確かに車もありますが、この星の車の動力源は魔水晶です。魔水晶を使用禁止にするために

 来ている私たちが魔水晶を使用した乗り物に乗るわけには行きません」

 

「固ってぇなぁ、別に良いじゃねぇか」

 

 エリスが馬車を使用する理由をマグナに話したが、それに更に反発するマグナ

 

「不満があるならお帰り下さい」

 

「ちっ、しかたねぇなぁ」

 

 不満があったマグナだったが、馬車移動をしぶしぶ受け入れ、一行は馬車へ乗り込み、会議場へ移動を開始した。しばらく、移動していると会議場へたどり着いた。

 

「お待ちしておりました。ミゼット・クローベル様」

 

 案内人が会議場の入り口でミゼット達を出迎えた。

 

「お待たせしました」

 

「では会議室へご案内致します」

 

「よろしくお願いします」

 

 ライ達は案内人に連れられ、会議場に入った。

 

「おっと、新入り。お前はクローベルのばあさんに着いて行け、俺は周りの安全を確認してくる」

 

「了解」

 

 マグナはライに言い残すと直ぐさま繁華街の方へ行った。

 

「まったくあの人はいつも……」

 

「まさかとは思うが、飲みに行ったのか?」

 

「まあ、マグナのすることです。気にするだけ無駄でしょう。行きますよ」

 

「気になっていたんだが、ミゼットとマグナさんはどういう関係なんだ?」

 

「何故、マグナさんを【さん】付けでミゼット様を呼び捨てなんですか……」

 

 エリスが呆れたようにライに言った。

 

「本人がそう呼べと言ったからだ。ミゼットも気に入らなければ、そう命令しろ」

 

「別に私は構いませんよ。エリスも気にしないで結構よ。そうね~マグナとは傭兵と雇い主の

 関係よ。良く贔屓にはしているけどね。管理局員の人手不足の時に良く雇っているわ」

 

「なるほどな」

 

 ライはミゼットの回答に納得しように頷いた。

 

『つまりあれだよな。お得意様ってやつだな。出来れば常識のある人とのパイプが

 欲しかったんだが、これはあまり期待出来そうにないな』

 

『そうですね。またの機会にしましょう』

 

 その後、ミゼットは三カ国の代表者達と会議を行った。

 

 

 

 

「――以上がこちらから提案する内容でございます」

 

 ミゼットが三カ国の代表者に説明をした。

 

「……ふむ、以前の提案より随分しっかりとしたプランだと思うが、どうだろか?」

 

「そうだな。魔水晶に変わるエネルギーがあれば、国民が生活に困らない。我々が心配していた

 問題を解決してもらえるようだ」

 

「前の管理局員は一方的にロストロギア認定するから使用を禁じるの一辺倒だったからのぅ」

 

 ローシュタイン王、バンザッグ王、ラルザリア王はミゼットの説明に対して感想を述べた。

 

「それについては謝罪致します。こちらの派遣した人材が悪かったようです」

 

 ミゼットが三カ国の代表者に謝罪をする。

 

「はっはっは! どこの国、世界にも使えぬ人間はいるようだな」

 

 それを聞いたバンザッグ王は一笑いした。

 

『なるほど。前任が高圧的に説得して話がこじれたのか。それで伝説の三提督自ら、

 出張った訳か』

 

『納得ですね』

 

『しかし、部下の尻拭いを行うか……やはりミゼットは常識ある人間だな』

 

『そうですね。それだけに惜しいです』

 

 ライはミゼットの左後方の位置に立ち、会議の様子を見ている。エリスは右後方の位置に立っている。

 

『しかし、このプランでは無理だろうな』

 

『まあ、そうでしょうね』

 

「しかしなぁ……」

 

 ローシュタイン王が深刻な顔をし、言葉を漏らす。

 

「何かご不満が御座いますか?」

 

 ローシュタイン王が言葉を発した言葉に対し、ミゼットが確認する。

 

「魔水晶を使用禁止にすると我々の使用している魔装具も使用が出来なくなるであろう?

 そうなると各国の武力が著しく低下してしまう」

 

 ローシュタイン王が言った。

 

「うむ、我等の魔装具は暴徒鎮圧や犯罪者を捕らえるのに使用しているのが主じゃ」

 

 ラルザリア王がローシュタイン王に続いた。

 

「魔装具は暴徒に対しての抑止力でもある。それが使えなくなっては各国家の治安が乱れ、

 犯罪が拡大してしまう恐れがある。それについてはどうお考えか?」

 

 バンザッグ王がミゼットに確認をする。 

 

「それは……」

 

 確認をされたミゼットが言葉を詰まらせる。

 

『まあ、当然の質問だな。管理局から局員を派遣しようにも人員不足で十分な人数の派遣も

 できない。今回の任務で管理局員が一人もいないくらいに人手不足なんだからな』

 

『そ~ですね』

 

『このままじゃ、結構な滞在期間になりそうだな』

 

『そ~ですね』

『しかもミゼットもそれについては考えてなかったみたいだな』

 

『そ~ですね』

 

『明日来てくれるかな?』

 

『お断りします』

 

『うおおおい! お前この流れで断ると意味分からんぞ!』

 

 その場は結局結論の出ないまま、会議はお開きとなった。ライ達は会議場を後にし、ホテルへ移動した。ミゼット達はホテルの一室で休憩を取っている。エリスが紅茶をいれ、ミゼットは一息ついていた。

 

「ふぅ、困ったわね。各国の武力低下を補う良いアイディアが出ません。これは時間が

 掛かりそうだわ」

 

「そうですね。一番良いのは管理局から人材を派遣することなんですが」

 

「ええ、とても一つの世界の治安維持する人数を出せないわ」

 

 ミゼットとエリスが紅茶を飲みながら、会話する。ライは扉の近くに控え、二人の様子を見ている。すると部屋のインターホンがなり、ライが応対する。

 

「はい」

 

『俺だ。マグナだ。開けろ』

 

 ライはミゼット達の方を見るとミゼット達は軽く頷いた。それを見届けたライは部屋のドアを開けると

 

「お~っす、会議は終わったか~? がっはっは~」

 

 足元がおぼつかないマグナが部屋に入ってきた。

 

『明らかに酔ってるな』

 

『ベロンベロンですね』

 

「マグナさん、あなた今までどこへほっつき歩いていたんですか……」

 

「ちょ~っと町の酒場で、っとエリスゥ~これ領収書~、ツケといたから変わりに払って

 おいてくれ~」

 

「あなたと言う人は……」

 

 エリスが領収書を持ってプルプル震えている。

 

「じゃ、俺は部屋で寝るぞ~、新入りぃしっかり護衛しろよ~」

 

「……了解」

 

 そう言い残したマグナは部屋を後に自分の部屋に入っていった。

 

「まったくあの人はどうしようもないわね」

 

「はぁ~、実力は確かなんですが、如何せん不真面目で……」

 

『これは上手くやれば、ミゼットのお得意様ポジションを奪えるんじゃないか?』

 

『ああ! 私のマスターがNTR趣味に目覚めてしまうなんて! あのクソ傭兵とはじっくり話を

 する必要がありそうですね』

 

『だれがNTR趣味か!』

 

 エリスは呆れながら領収書を見て、その内容に驚愕し、目を見開く。

 

「な! 何ですかこの金額は! どれだけ飲み食いしたんですか! あの人は!」

 

 エリスは領収書の金額を見て声を荒げる。

 

「はぁ~、ミゼット様。これから酒場に行って料金を支払ってきます」

 

「ええ、分かったわ。ごめんなさいね、エリス。気を付けるのよ?」

 

「分かりました」

 

 エリスは自分の携帯用デバイスと鞄を持ち、出掛ける支度をする。

 

「エリス・リートルード、領収書を見せてもらっても良いか?」

 

「は? ええ、構いませんよ」

 

 ライは領収書をエリスから受け取り、目を通す。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、何でもない。ありがとう」

 

 ライは領収書をエリスに返した。ライの取った行動に疑問を持ち首を傾げるエリス。

 

「俺も着いて行こう。夜に一人では危ないだろう」

 

「いえ、結構です。それに貴方はミゼット様の護衛です。しっかり仕事をなさい」

 

「……了解」

 

 エリスにそう言われたライは引き下がった。エリスは準備を終え、扉の方へ向かって歩き出す。

 

「エリス・リートルード」

 

「……まだ何か?」

 

 ライを横切ろうとしたところでまたライに呼び止められたエリスは不機嫌そうにライに答えた。

 

「いや、大した事じゃない。肩にゴミが付いているだけだ」

 

 そう言ったライはエリスに近づき、肩のゴミを取った。

 

「何度も呼び止めてすまなかった。気を付けて行ってくれ」

 

「……どうも」

 

 エリスは軽くお辞儀をすると、部屋から出て行った。

 

『ミスト』

 

『既に』

 

『流石だな。その手の早さは』

 

『マスターほどではありませんよ。手の早い男、ライ』

 

『それだと別の意味に聞こえるんだけど?』

 

『私は一つの意味でしか言っていませんよ』

 

『うん、だからどっち?』

 

『ご想像にお任せします』

 

『よし、仕事が早い男だと思おう』

 

『あ~あ、そっちで取っちゃいましたか』

 

『やっぱりたらしの意味じゃねぇか! っと遊んでる場合じゃない』

 

『ひどい! 私とは遊びだったのね! マスターはやっぱり手の早い男です!』

 

『そろそろ先に進んでもいいですか?』

 

『あっはい、どうぞどうぞ』

 

「ミゼット」

 

「何かしら?」

 

「もしかしたら少しの間この場を離れることになるかもしれない。そのことを了承願いたい」

 

「え? それはどういうことですか?」

 

「今、エリス・リートルードにサーチャーを付けてある」

 

 ライの言葉を聞き、目を見開くミゼット。

 

「……どういうことですか?」

 

「もちろん悪用するつもりはない。夜の女性の一人歩きは危ないからな。念のため見張っている

 だけだ。それに過激派が直接あなたを狙わず、回りの人間を狙う可能性を否定できない。

 何かあった時はすぐさま、エリス・リートルードの所へに向かう。だから少しの間この場を

 離れることになる。取り越し苦労ならそれに越した事はないが」

 

「なるほど、あなたの言う通りですね。分かりました。許可します」

 

「助かるよ。その場合あなたにはここで大人しくしていてもらいたい。それから誰が来ても扉を

 開けないように」

 

「ええ、分かっていますよ」

 

「例え俺やエリス・リートルード、マグナさんであってもだ」

 

「え? それは何故です?」

 

「念のためだ。今の技術を使えば声を似せることは可能だ。俺はここに直接転移するから扉は

 通らない。だから扉は開けるな。もし誰かが来ても居留守を使ってもらいたい」

 

「……分かりました。ここは貴方に従います」

 

「物分かりの良い雇い主で助かる」

 

 ライは一通り言いたいことを終えると俯き扉の横の壁にもたれ掛かる。ミゼットはティーカップを持ち紅茶を一飲みする。

 

「そう言えば、ライ」

 

「何だ?」

 

 俯いていたライはミゼットの方をまっすぐ見つめる。

 

「ミッドの私の自室で言い掛けていたことって何だったのかしら?」

 

「それについて語るつもりは」

 

「今はマグナはいません。もし言うつもりが無いなら雇い主として依頼しますよ?」

 

「……分かった」

 

 ライは観念したように言葉を吐き、語り出す。

 

「俺が言いたかったのは魔水晶を使用禁止にした後の各国の武力低下についてはどうするつもり

 なのかってことだ」

 

「やっぱりそれだったのね」

 

「当然だ。武力は争いの原因にもなるが治安維持に一番重要な要素だ。グローランディアには

 リンカーコアを持った人間はほぼゼロだ。恐らく百人にも満たないだろう。その中で

 国に仕えているものは更に少ない。それ故に魔装具による治安維持ができなくなることは

 この星の住人達にとって死活問題だ」

 

「……」

 

 ライの言葉を真剣に聞き、考えるミゼット。

 

「国の武力が無くなれば、治安が悪化し、犯罪者がはびこる世界になる。それを回避するために

 魔水晶に手を出す輩もでるだろう。結局、最初に戻り、ロストロギア認定など意味を成さない」

 

「……では貴方なら如何しますか?」

 

「そうだな……」

 

 ミゼットに聞かれたライは考えたように少し俯いた後、顔を上げミゼットを見る。

 

「魔水晶及び水晶鉱山を準ロストロギアまで管理レベルを落とし、各国家のみ使用を許可する。

 そうすれば、国家の武力は低下せず、治安は保たれる。しかも市場に魔水晶が流通しない分

 国家と暴徒との間に武力差が生まれる。それが抑止力になり、より治安が安定する」

 

「しかしそれでは魔水晶の外界への持ち出しは解決しないのでは?」

 

「管理局が主に管理するものを水晶鉱山に限定する。誰かが無断で発掘しないようにな。

 もちろん国家が発掘した魔水晶が規定の量に収まっているかをチェックする。そうすれば

 管理局が局員を派遣するのは水晶鉱山のみになる。人員不足の管理局に取っても派遣する

 人数が少なくなって良い筈だ」

 

「なるほど、発掘とその量を管理局がチェックすれば外界への流出は防げそうですね」

 

「もちろん各国の保有している魔水晶も定期的に点検することで発掘した量を超えていないか

 もしくは足りていないかをチェックする。量が増えていれば無断で発掘したことが分かるし、

 逆に少なければ他のところに横流ししたかが分かる」

 

「なるほど、なるほど……では」

 

「待て」

 

 ライの考えを聞き、感心したミゼットは更に質問をしようとした。しかし、ライは右手を前に突き出し、ミゼットを止める。

 

「どうやら、最悪の事態になったようだ」

 

「え!? エ、エリスは無事なの!?」

 

「悪いが話しはここまでだ。直ぐに向かう」

 

「ええ、お願いね。ライ」

 

「ああ、分かっている」

 

 ライはそう返事を返すと

 

 

フッ

 

 

 姿を消した。

 

「え!? 消えた!?」

 

 ミゼットは立ち上がり、ライが立っていたところに移動し、さっきまでライが居たところに手をかざす。

 

「本当に居ない……今のは転移魔法? でも魔力を使った様子は……いったい彼は何者なの?」

 

 ライが突然消えたことに疑問が消えなかったミゼットだったが、

 

「エリスの事は頼みましたよ。ライ」

 

 今後の命運を得体の知れない仮面の傭兵に託した。

 

 

 

エリス サイド

 

「まったく困るよ。後で払いに来るからツケとけなんて言って出て行っちまうだから。

 あんたあの男の知り合いならちゃんと言っといてよ」

 

「はい、申し訳ありませんでした」

 

 私はマグナ・ベルーゼの尻拭いをするため、酒場でお金を支払いをしている。

 

「まあ、直ぐに払いに来てくれたか今回は見逃すけど、次やったら許さないよ? あの男にも

 言っときな」

 

「分かりました」

 

 やっと解放されました。まったく彼には本当に困ります。実力があるのは認めますが、もっと協調性と真剣さと責任感と誠実さと……足りてないものだらけですね。はぁ~

 

「そう言えば、ライさんはちゃんと仕事しているでしょうか」

 

 思えば彼は不思議な人だった。変な仮面をしているからだけではない。実力を測るための昇格試験を受けさせた時は信じられない記録を叩き出し、あのマグナさんとほぼ互角に戦える戦闘技術。それにかなり頭も切れるようです。

 

 ミゼット様が提示した資料からその穴や足りていないところをすぐさま指摘するなんて……傭兵のくせに生意気です。

 

「まあ、仕事をまじめにやっているようですからまだマシですが」

 

 酒場を後にした私は夜の街道を歩いている。私はふと空を見上げる。

 

「綺麗な月……それに月明かりが辺りに散らばった魔水晶に反射してとても幻想的」

 

 昼間の風景も好きでしたが、夜の方が好きかもしれません。

 

「さて、遅くならない内にホテルに戻りま、むぐっ!」

 

 口が塞がれた! いったい誰!

 

「大人しくしろ! おい! 連れてくぞ!」

 

「へっへ、了解了解」

 

 私は口を塞がれたまま足を持ち上げられ、路地裏に連れて行かれた。

 

「んん! んぐ!」

 

「静かにしろ! じゃねぇと」

 

 私の目の前にナイフをチラつかせる誘拐犯。私は恐怖で黙った。きっと私の顔は青ざめているだろう。

 

「そうだ。言う通りにしろ」

 

「へぇ結構なベッピンじゃねぇか。こりゃ後が楽しみだぜ」

 

 そのまま私は口を布で塞がれ、そのまま連れて行かれそうになった。どうしよう……怖い。もしかしたらこのまま。

 

「まずは服を脱がすぞ、管理局だの訳の分らん組織だ。何を持っているか分らん」

 

「へっへっへ。この女結構良いもん持ってるぜ。じっくり拝ませてもらおうかね」

 

 管理局を知っている? まさか過激派の連中! 男が服に手を書け、私の服を脱がそうとする。いや! 誰か助けて!

 

「ぐぇ!」

 

「ぎゃ!」

 

 突然、男たちが奇妙な声を上げ、吹き飛ばされた。支えが無くなった私はそのまま倒れそうになったが、

 

「おっと」

 

 誰かに抱きかかえられた。

 

「大丈夫か? エリス・リートルード」

 

 顔を上げるとそこには

 

「ふぁいふぁん?(ライさん?)」

 

 仮面を付けた男が居た。私が布のせいで上手く喋れなかった。

 

「て、てめぇ! 誰だ!」

 

「なに、しがない傭兵だよ」

 

 誘拐犯にそう言うとライさんは私の口の布を外してくれた。

 

「エリス。しっかり捕まっていろ」

 

「……」

 

「エリス?」

 

「え? あっはい!」

 

 彼にそう言われた私は彼の首に腕を回ししがみ付く。すると彼は私を抱きかかえ、その場で跳躍し、路地裏の壁を足場に左右の壁を蹴って上へと向かっていく。

 

「あっ! てめぇ! 待ちやがれ!」

 

「落ち着け! 俺たちも一度撤退して隊長に報告だ」

 

「ちっ!」

 

 男達はそのまま路地裏から姿を消した。

 

「ふぅ、追っては来ないようだな」

 

 そう言った彼の顔を私はじっと見つめる。その顔には仮面が着けられ素顔は見えなかったが、月明かりに照らされ、不思議な雰囲気を纏っていた。

 

「あの」

 

「ん? どうした?」

 

「助けてくれてありがとう」

 

「いや、礼ならミゼットに言うんだんな。護衛任務を離れる許可を出したのは彼女だ」

 

 そうでした何故、ミゼット様の護衛についている彼がここにいるんでしょう?

 

「そうです! あなた! ミゼット様の護衛は!」

 

「心配なのは分かるが落ち着け。今すぐに戻る」

 

 彼がそう言うと私はいつの間にか部屋の中に居ました。何を言っているのか分からないでしょうが、私にも分かりません。これはいったい何なんでしょうか。夢?

 

「エリス! 良かった無事だったのね!」

 

 私が放心しているとミゼット様が私の傍に駆け寄って来て下さいました。

 

「はい、でも何が何だかさっぱり分かりません。私はさっきまで外に居た筈なんですが……」

 

「そうね。その辺はライに説明してもらいましょう」

 

 ライ? ああそう言えば私はライに抱きかかえられたままでしたね。あれ? 私の今の状態ってお姫様だっこですか?

 

「ッ~~~」

 

 そう理解した途端、顔が熱くなってしまいました。

 

「あの……ライさん。そろそろ降ろして下さい」

 

「ああ、すまない」

 

 彼にそう言うとゆっくり降ろしてもらえました。

 

「……どうも」

 

 降ろしてもらった私は直ぐに彼に背を向け、離れる。

 

――あら? エリスったらもしかして

 

「ごほん、それでライさん。さっきのは何ですか? 私達はさっきまで外にいたはずです。

 それにミゼット様の護衛のあなたが何故私に着いて来たんですか? 事と次第によっては」

 

「落ち着け、エリス・リートルード。順に説明してやる」

 

 それから彼の説明を聞いた。

 

「つまり、過激派によって私に危害が及ばないようサーチャーを付けて監視していたと」

 

「そうだ。もちろんそのことはミゼットに伝えている。そうだな? ミゼット」

 

「ええ、彼の言う通りよ」

 

「そうですか……申し訳ありません。ミゼット様。とんだご迷惑を」

 

「気にしないで、エリス。あなたが無事で良かったわ」

 

「ミゼット様……」

 

 私は本当に良いお方に仕えられた。

 

「それでライ。さっきの突然消えたあれは何なのかしら?」

 

 そうでした。突然部屋に移動したあれも聞かなくては

 

「出来れば話したくないんだが……誰にも口外しないなら話してもいい」

 

「約束します。誰にも話しません」

 

 ミゼット様がライさんに答えた。すると彼が私を見た。

 

「私も誰にも口外しません」

 

 もちろん私もミゼット様と同じです。するとライさんが口を開いた。

 

 

エリス サイドアウト

 

 

 エリスを助け、ミゼットの泊まる部屋に飛雷神の術(ひらいしんのじゅつ)で戻ったライはミゼットとエリスから質問攻めを受けている。

 

「……分かった。あれは俺のレアスキルだ」

 

「あなたはレアスキル保持者だったのですか?」

 

「まあな」

 

 ミゼットはライに問いかける。

 

「いったいどんな能力なんですか」

 

 今度はエリスがライに問い掛ける。 

 

「……エリス・リートルード、お前の右肩に変な文字が付いているだろう」

 

「「え?」」

 

 ミゼットはエリスの右肩をエリスは自分の右肩を見た。

 

「あら、本当ね」

 

「何時の間に?」

 

「それはエリス・リートルードが部屋から出て行く時に肩のゴミを取るフリをして付けたんだ」

 

「ああ、あの時に」

 

「そして、俺のレアスキルはその文字が書かれた場所に瞬時に転移出来るレアスキルだ」

 

「何ですって!」

 

 ライの語ったレアスキルの内容に驚愕するエリス。

 

「それに距離は関係ない。例えばここからミッドチルダのミゼットの執務室だろうと瞬時に

 転移可能だ」

 

「あら? それは便利ね」

 

「そうでも無いさ。予めマーキングした場所にしか転移できないからな。それにそのマーキング

 も永続ではない。使用すればするほど内包しているエネルギーを消費し、それが無くなれば

 消えてしまう。これ以上は詮索しないでもらえると助かる」

 

「分かったわ」

 

「俺は護衛のためここで寝る。エリス・リートルードもこの部屋で寝てくれ」

 

「え? でもベットは二つしかないわよ」

 

「気にするな」

 

「し、します! いったい貴方は何を言っているんですか!」

 

 エリスは顔を真っ赤にしてライに文句を言った。しかし、ライはエリスに言われた事を無視し、扉の傍の壁を背にし、座り込んだ。

 

「俺はここで寝る。ベットは二人で使ってくれ」

 

「……ああ、そういう事ですか」

 

 冷静になったエリスは納得した。

 

「しかし、あなたはそれで疲れが取れるのですか?」

 

「完全に横になると緊急事態に気付き辛くなる。それにちゃんとこれで休憩が取れるように

 訓練しているから問題ない」

 

「そう言う事なら、ゆっくり休ませて貰うわ」

 

「し、しかし、男と同じ部屋でなんて……その」

 

 エリスはチラチラライを見ながら、言った。

 

「気になるなら俺は部屋の外で構わない」

 

 ライが妥協案と出すが

 

「……いくらなんでもそれはあなたに悪いです。分かりました。そこで良いです」

 

「悪いな。助かる」

 

 そう言い残したライは俯き、眠りに付いた。

 

「……もしかして、もう寝たんでしょうか」

 

「早いわね。エリス、シャワー浴びてきたら? まだだったわよね?」

 

「え? で、でも」

 

 エリスはチラチラとライを見た。

 

「ふぅ、すまない。そこまで気が回らなかった。少し出ていよう」

 

 ライは顔を上げ、立ち上がる。

 

「す、すみません」

 

 エリスは申し訳なさそうにライに謝る。

 

「気にするな。上がったらこの通信機で連絡をくれ。二人分用意してある。このボタンを押せば、

 直ぐに俺に繋がる」

 

 ライは懐から二つの通信機を取り出し、テーブルに置いた。

 

「分かりました」

 

 ライは部屋を出た。その後、軽くシャワーを浴びたエリスはライに連絡を取った。直ぐに部屋に戻ったライは扉の横の壁を背に座り、眠りに付いた。

 

 

 

~翌日~

 

 

 ミゼットは再び三カ国の代表者達と会議をするため、馬車に乗り、移動していた。

 

「会議場を変えてるのか」

 

「そのようね。テロ対策ために昨日とは別の場所で行うそうよ」

 

「なるほどな」

 

 隣の街に移動するため、街道を走っていた。馬車の中にはミゼットとエリスが乗り込み、ライとマグナは馬車の外で徒歩で警護していた。

 

「隣街まで結構な距離がありますから警護よろしく頼みますよ。ライ、マグナ」

 

「了解」

 

「俺に任しときな」

 

 しばらく、馬車を走らせていたところ一行は左右を岩壁に挟まれた渓谷に入って行った。

 

「待て。止まれ」

 

「どうしたの? マグナ」

 

「妙な気配がする」

 

「まさか……」

 

「どうやら追いでなすったようだぜ」

 

 左右の岩の壁の上から20人ほどの武装した男たちが現れた。

 

「おい、てめぇら何のようだ」

 

「我々は魔水晶使用禁止の反対派だ。お前達管理局の思い通りにはさせない」

 

 リーダー格の男がそう言うと魔装具を馬車に向けるテロリスト達。それに合わせてマグナとライは前に出る。

 

「クローベルのばあさん達はそこでじっとしてろ。やるぞ新入りぃ!」

 

「了解」

 

 マグナはデバイスを展開し、肩にガンズランスを担ぐ。ライも腰に差してあるロングソードを鞘ごと腰から抜いて左手に持ち、右手を柄の部分に軽く手を当て、いつでも引き抜けるように構えた。

 

「ん? 何故襲ってこない?」

 

 ライがテロリスト達の行動に疑問を持つと

 

「何か裏が有んだろ。例えば」

 

 静かに語り出したマグナは

 

「こんな風にな!」

 

 ガンズランスをライに向け

 

「ガンブレイズバスター!」

 

 砲撃魔法を放った。

 

「がっ!」

 

 ライは砲撃魔法に飲まれ、吹き飛んだ。

 

「「ライ!《ライさん!》」」

 

 ミゼットとエリスは馬車の窓から外の様子を伺っていたところでライが吹き飛ぶ光景を目の当たりにした。ライは地面で何度も転がり、そのまま倒れ、地面に伏せた。

 

「マグナ・ベルーゼ! いったいどういうつもりです!」

 

 エリスはマグナに問い詰めた。

 

「そりゃ簡単だろ。俺もな反対派の人間なんだよ。それにその隊長でもある」

 

「な、何ですって……」

 

 マグナの答えに驚愕するミゼット。

 

「困るんだよなぁ。魔水晶を使用禁止にされちゃぁ。俺も使ってからよ」

 

 そう言いながら親指を立て、自らのデバイスを指差すマグナ。

 

「そ、それじゃ、貴方が以前言っていた魔力消費軽減のレアスキルを持っているって

 言っていたのは……」

 

 エリスはマグナに確認を取る。

 

「もちろん嘘だ。デバイスに魔水晶を仕込んで、その魔力を使ってんのさ。だから使用禁止に

 されちゃぁ、俺の傭兵としての仕事に差し支えんのさ」

 

「ではこの依頼を受けたのは……」

 

「当然てめぇらを消すためだ。そしてグローランディアと管理局を敵対させ、戦争を起こす。

 この星の魔水晶を使えば、管理局なんて目じゃねぇ」

 

「そんな……」

 

 マグナから告げられた真実に言葉を失うエリス。

 

「悪りぃがてめぇらはここで死ね。後は俺が上手くやってやっからよぉ」

 

 マグナが右手を上げるとテロリスト達は魔装具を構え、ミゼット達に照準を合わせる。

 

「死ねぇ!」

 

 右手を振り下ろすと一斉に砲撃魔法を放たれた。そして馬車に直撃し、あたりには煙が立ち込める。

 

「がははははははは! これで後は会議場を管理局の人間だと偽って襲撃すりゃ、管理局と

 全面戦争だ! がははははははははは!」

 

 辺りはマグナの笑い声が響いてた。しかし

 

「がははははは! は?」

 

 煙が晴れると馬車やミゼット達は健在だった。

 

「な、何だそのバリアは!」

 

「フィールドバリア。俺のは張った結界防御魔法だ」

 

「な! てめぇは!」

 

「残念だったな。マグナ・ベルーゼ」

 

 マグナが見たのはバリアの上に立つライの姿だった。

 

「てめぇ! 何で生きてやがる! 俺の砲撃の直撃を食らったはずだ!」

 

「確かに食らったがな。こうなると分かっていた以上警戒していないはずが無いだろう?

 予め自分に身体強化とバリアジャケットの強化をしていた」

 

「てめぇ何言ってやがる! 俺が裏切るのが分かっていたとでも言うつもりか!」

 

 ライの言葉に激怒するマグナ。

 

「そう言ったつもりだが? 理解できなかったかな? マグナ・ベルーゼ」

 

「そんな訳ねぇだろうが! 一つも俺は裏切る素振りは見せなかったはずだ!」

 

「確かにな。だが、こうなる判断材料は沢山転がっていた。まず、お前と模擬戦をしたこと。

 お前の魔力量はAAA+だ。あの模擬戦でお前は推定威力Aランクの砲撃魔法を16発放った。

 消費魔力で言えばAA以上だ。にも関わらず、お前の魔力量はほとんど減っていなかった。

 例え、魔力消費軽減のレアスキルを持っていたとしても減らなすぎた」

 

 ライは一呼吸を置いて言葉を続ける。

 

「最初はカートリッジシステムのようなものを搭載しているのかを思ったが、その後に受けた

 今回の依頼内容を聞いてピンときた。魔水晶を使っているのではないかとな」

 

「だ、だがそれだけじゃ。分からないはずだ!」

 

 マグナはライの言葉に反論する。

 

「もちろんそれだけじゃない。お前は傭兵として雇われているのにも関わらず、護衛任務を

 おろそかにしていた。明らかに護衛任務以外に目的があったとしか思えない」

 

「(マグナさんはいつもあんな感じでしたよね?)」

 

「(そうね。でも今は黙っておきましょう)」

 

 ミゼットとエリスは念話で会話し、空気を読み黙ってライの言葉に耳を傾ける。

 

「極めつけが昨夜、エリス・リートルードに渡された領収書だ」

 

「なんだと? どういう意味だ?」

 

 ライの言っていることが分からないマグナはライに問いかける。

 

「あの領収書にかかれてた品の量と金額は明らかに20人前以上あった。とても一人で飲み食いで

 出来る量じゃない。つまりお前はそこの仲間たちと酒場で会合していた。そうだろう?

 そして、エリス・リートルードを攫い、人質にするために料金を払いに行かせた」

 

「くっ! 合ってやがる……何なんだ! てめぇは!」

 

「俺はライ。ただの傭兵だ。それ以上でもそれ以下でもない。そしてお前は傭兵としてやっては

 ならないことをした。雇い主を裏切るなど傭兵にあるまじき行為だ。傭兵の儀に反したお前は

 もはや傭兵ではない。ただの犯罪者だ」

 

「うるせぇ! おいお前らコイツを殺せ!」

 

≪了解!≫

 

 マグナはテロリスト達に指示を出し、テロリスト達は魔装具をライに向けた。ライは腰のホルダーから持ち手に特殊な文字が書かれたクナイを数本取り出し、左右のテロリスト達に投げつけた。

 

「「「「「「《ぎゃ!》《ぐげぇ!》」」」」」」

 

 クナイが当たり、倒れる数人のテロリスト達。

 

「構うな! 撃」

 

 マグナが撃てと言おうとした瞬間、

 

 

フッ

 

 

 ライが姿を消した

 

「な! 消えた!」

 

「がっ!」

 

 ライが姿を消した瞬間、テロリストの一人が声を上げた。その声の方を見る残りのテロリスト達。そこには先程ライが投げたクナイが刺さったテロリストが居た。

 

「ぐえぇ!」

 

 再び別の場所からテロリストの声が上がる。一斉にそっちを見ると再び、クナイが刺さったテロリストだけがいた。ライは投げ付けた複数のクナイのマーキングに飛び交うことを繰り返し、テロリスト達を一人一人片付けていく。

 

「ぎゃ!」

 

「げぇ!」

 

「がふっ!」

 

 次々と仲間がやられて行く光景に恐怖するテロリスト達。中には戦いを放棄し、逃げ出す者まで出てきた。

 

「ぶぇ!」

 

 しかし、ライに回り込まれてしまった。決して逃げられない。

 

「な、な、な、な! 何だ……何が起こっているんだぁぁぁ」

 

 訳の分からない状況に混乱するマグナ。そして、全てのテロリスト達が倒れた。

 

 瞬殺、まさにその言葉が相応しいだろう。ライはテロリスト達を一瞬で気絶させた。そして再びバリアの上にあわられるライ。

 

「て、てめぇ……いったい何しやがった……」

 

「お前に答える義理は無い」

 

 マグナに聞かれたライは素っ気無く答えた。

 

「だが、これでやられる俺じゃねぇぇぇぇ! ガンズ! 魔力チャージ!」

 

[了解]

 

 マグナはデバイスに魔力を収束すると

 

「くたばれ!」

 

 ガンズランスをミゼット達の方へ向けて

 

「ガンランレイズブレイカー・フルパワー!」

 

 巨大な砲撃が放たれた。

 

「は?」

 

 空に向かって

 

「な、何が」

 

 放たれた砲撃魔法は空に飛散していき、次第に消えていった。何が起こったかさっぱり分からないマグナは放心していた。そして周りの状況を見て理解した。

 

「何で俺は空中にいるんだ。さっきまで」

 

「地面に居たのにな」

 

「な!」

 

 不意に後ろから声を掛けられ、驚愕するマグナ。後ろを振り向くと

 

「てめぇは、ライ!」

 

「やっと名前で呼んだな。マグナ・ベルーゼ」

 

「てめぇ! 俺に何しやがった!」

 

「何度も言わせるな。お前に答える義理は無い」

 

 ライは右手にロングソードを持ったまま、人差し指と中指を立て、マグナの背中に付き立てる。更に魔力を収束を開始する。すると恐るべき速さでライの指先に魔力が収束されていく。そして

 

「アルティメイトブレイカー」

 

 巨大な砲撃魔法が放たれた。

 

「ぎゃああああ!」

 

 マグナを飲み込み空に放たれた砲撃魔法はマグナの放った砲撃魔法の威力を上回り、一筋の光となって空へ上っていた。そして軌道上にあった雲を消し飛ばした。

 

「ちょっとやり過ぎたか?」

 

『Don't worry』

 

『何でレイジングハートの真似してんの?』

 

『マスターがなのはちゃんの真似したからです』

 

『そんなつもりはない』

 

 ライはゆっくり地面の降り立った。ライはロングソードを鞘に収め、ロングソードの柄を上に向けて左手を前に突き出した。すると上空に投げ出されたマグナが地面に落下し、その柄でマグナを受け止めた。

 

「がっは!」

 

「(うわぁ容赦ないですね)」

 

「(そうね)」

 

 その様子を見ていたエリスとミゼットは小声で会話をする。更にライはマグナを地面に投げ付けた。

 

「ぐへっ!」

 

――≪鬼だ≫

 

 ライはミゼット達を覆うバリアを解いた。

 

「さて、こいつらは如何したらいい?」

 

「そうね。ここのテロリスト達は諸国の王達に任せましょう。マグナについてはこちらで処理

 します。縛って置いて、管理局の法で裁きましょう」

 

「了解した」

 

 王の財宝(ゲートオブバビロン)から縄と取り出した。ライはマグナ達を取り出した縄で縛り、デバイスや魔装具を取り上げた。

 

「その縄はどこから出したんですか?」

 

「秘密だ」

 

 マグナのデバイスや魔装具は王の財宝(ゲートオブバビロン)の中にしまった。

 

「マグナのデバイスや魔装具はどこへ?」

 

「秘密だ」

 

「秘密って……ちょっとくらい教えてくれても」

 

 エリスは少しすねたように言った。

 

「……はぁ、俺には物を出し入れ出来るレアスキルがある。それだけだ」

 

 ライがため息を吐きながら、エリスの質問に答えた。

 

「まさか! 複数のレアスキル保持者!」

 

「あらまあ、珍しいわね~」

 

「言っておくが他言無用だぞ。漏らした場合俺は今後一切管理局からの依頼は受けない」

 

「分かりました」

 

 その後、会議場へと移動したミゼット達はテロリストを預け、会議を行った。

 

 

 そして、ミゼットが昨晩ライと話をした内容を三カ国の代表者達に話しをし、魔水晶及び水晶鉱山の準ロストロギア認定の了解を貰った。

 

 ミゼット達はグローランディアを後にし、ミッドチルダに戻り、ミゼットの執務室へと戻った。

 

「貴方への依頼は終わりです」

 

「ああ、短い間だったが世話になったな。ミゼット、エリス・リートルード」

 

「ええ、貴方のおかげで上手く話が纏まったわ。こんなに早く終わるとは思っていなかった

 けれど」

 

 ミゼットはニコニコしながら、答えた。

 

「ではライさん、こちらが貴方に提示する。報酬です」

 

 エリスは空中で指を操作し、ライに内容を開示する

 

「どれどれ……は?」

 

 ライはその数字を見て固まった。

 

「エリス・リートルード。桁を間違えているぞ」

 

「やはり足りませんか? ではこちらで」

 

『何言ってんのこの人? この金額、日本円で言ったら一千万くらいだぞ』

 

『金銭感覚がおかしいですね。マスターはステータスがおかしいですが』

 

『まだ、そのネタひっぱんのかよ』

 

「エリス・リートルード。この十分の一で良い」

 

「「は?」」

 

「俺は金の為に傭兵をやっている訳じゃない」

 

『まあ、どの道日本円に換金できませんしね』

 

『ああ、俺の身元がばれるからな。ミッドで買い物する時ぐらいしか使い道がない』

 

「しかし、貴方の働きを評価するとこの数字が妥当で」

 

「なら残りは孤児院にでも寄付してくれ。俺にはこの十分の一で良い」

 

「なら貴方は何故傭兵を?」

 

 ミゼットがライに確認をした。

 

『どうしよう。どうやって答えようか?』

 

『正直に話したらどうですか? リア充になるためだって』

 

『分かった』

 

『え? マスター? 冗談ですよ?』

 

「(自分の)平和のためだ」

 

「「……」」

 

 ミゼットとエリスはポカーンとした。

 

『うわぁ、如何するんですか? この空気』

 

『何故だ? 正直に答えたのに』

 

『本音が隠れてるからですよ。まあ言ったところで同じでしょうが』

 

『ナチュラルに俺の心を読むな』

 

「それなら管理局に入りませんか? 貴方なら大歓迎ですよ?」

 

「悪いが管理局には入らない」

 

「何故です?」

 

 ミゼットがライに聞いた。

 

「組織に入ると規律やしがらみで守りたくても守れないものが必ず出てくる(俺の平穏とか)

 その守れないものを守るには傭兵のような自由な立場でないといけないからだ」

 

「なるほど」

 

「だが俺はまだ無名なんでな、今は名を売るところから始めなければならない。

 出来るならこれからも贔屓にしてもらえると助かるんだが?」

 

「それはこちらからも頼みたいと思っていたところよ。これからもよろしくね。ライ」

 

 ミゼットは右手を前に差し出した。

 

「ああ、よろしく頼む。ミゼット」

 

 ライはその手を取り、硬い握手をする。

 

「そうだ。お近づきの印にこれをプレゼントしよう」

 

 ライは懐に手を入れると一つの箱を取り出し、ミゼットに渡した。

 

「あら? 何かしら」 

 

 ミゼットは箱を受け取り、蓋を開けると

 

「まあ、綺麗なイヤリングね。もしかしてあの時の魔水晶?」

 

「ああ、装飾品に丁度良いと思ってな。作っておいたんだ」

 

「何時の間に……あれから3日も立っていないはずですが?」

 

 エリスはライに尋ねた。

 

「俺は三十分も寝れば十分休息が取れれるからな。初日の夜に作っておいたのさ」

 

『まあ正確には魔法美容師(マジカルエステ)を使ったんだけどな。隠で隠して』

 

『二人の女性が眠る傍で別の女性をはべらすなんて……マスターは変態さんですね』

 

『お前はどこの無表情少女だ。あれは念能力だから性別はないだろう』

 

『私は無機物ですが、心は乙女です』

 

『乙女(笑)の間違いだろ』

 

『マスターはバグ(真)ですね』

 

『……やめよっか』

 

『……そうですね』

 

『その……悪かったよ、ミスト。言い過ぎた』

 

『いえ、私も言い過ぎました。すみません、マスター』

 

「ありがとう。でもアクセサリという年じゃないのよね。そうだわ、エリスに差し上げても?」

 

「ふぇえ! わ、私ですか!」

 

 ミゼットに突然話をふられたエリスが声を上げる。

 

「ん? そうだな。エリス・リートルードは綺麗な容姿をしているからな。この魔水晶の

 イヤリングが似合いそうだ」

 

「な、な、な! あなたは何を言っているの!」

 

「そうか……気に入らないなら仕方ないな。ミゼット。悪いが」

 

 ライはミゼットから箱を返してもらうために手を前に出す。

 

「残念だわ~」

 

 ミゼットは何故かニヤニヤしながら、エリスに箱の中のイヤリングをエリスに見せびらかすようにゆっくりとライに手渡した。

 

「べ、別にそう言う訳じゃないわ。その……ありがたく頂くわ」

 

「そうか? なら貰ってくれ。エリス・リートルード」

 

 ライはエリスの手を取り、箱の中が見えるようにをエリスの手の平に置いた。エリスは少し顔を赤くし、イヤリングを受け取った。

 

「……スです」

 

「ん?」

 

「エリスと……そう呼んで下さい。ライ」

 

 エリスは更に顔を赤くして、ライに言った。

 

『あれ? 何で顔赤いの?』

 

『マスターに惚れたんじゃないでしょ~か?』

 

『何でそんな適当なの?』

 

『マスターの見境無し』

 

『本当に如何したんだ? ミスト』

 

『……何でもありません』

 

「分かった、エリス。これからよろしくな」

 

 ライは右手を差し出す。

 

「ええ、よろしく。ライ」

 

 エリスはその手を取り、握手した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『回想シーン終わり!』

 

『だからメタイよ!』

 

「あの時から貴方との付き合いが始まったんでしたね」

 

「ああ、随分昔のような気がするな」

 

 ミゼットとライは昔を懐かしむように物思いにふけっていた。

 

「あれから何度も貴方には助けてもらいましたね」

 

「俺はただ仕事をこなしただけだ。助けた訳じゃない」

 

「もう、そんなこと言って……本当に感謝しているのよ? それに貴方が孤児院にお金を

 寄付しているおかげで子供達もすくすく育っているわ」

 

「余った金を有効活用しているだけだ。俺が持っていても仕方ないからな」

 

 ライはティーカップを持ち上げ、少しさめた紅茶に口をつけた。

 

「まったく無欲なんだから」

 

「それは違うな。無欲な人間などいない。欲は人間が人間であるために重要な要素だ。

 寧ろ俺は欲が深すぎるだろう。だから誰にも理解されない」

 

「そうね。(世界の)平和のためだものね」

 

「ああ、(俺の)平和のためだ」

 

「ふふ、確かに世界一の強欲かもしれないわ」

 

「ああ、そして一番尊いものだ」

 

 二人は軽く笑いあった。

 

「さて、俺はそろそろお暇するよ」

 

 ライはそう言うとソファーから立ち上がった。

 

「あら? もう少しゆっくりしていけばいいのに……そろそろエリスも戻ってくるわよ?」

 

「悪いな。少し用事を思い出した」

 

 ライは手振りで耳たぶを軽く弾いた。

 

「それは大事な用事ね。ふふふ」

 

 ライの真意を理解したミゼットは満面の笑みでライを見つめた。

 

「じゃあな、ミゼット。はやての事は頼んだぞ」

 

「はい、任されました♪」

 

 ライはミゼットにそう言い残し、飛雷神の術(ひらいしんのじゅつ)で姿を消した。

 

 

エリス サイド

 

 私は切らしたお茶請けを補充するため、ミッドの中心街に買い物に来ていた。

 

「ふぅ、こんな物かしらね」

 

 両手に買い物袋をぶら下げ、私は店を後にする。そして本局に戻るため、しばらく街中を歩いていると宝石ショップのショーウインドウが目が入り、私は足を止める。

 

「あ、これ私がライからもらったイヤリングに似てる……」

 

 ふとショーウインドウを覗いているとそこに映った自分の顔を見る。そこにはいつも身に着けていたものが無い。

 

「はぁ……」

 

 私はおもむろにため息をつく。

 

「どこ行っちゃったんだろ……」

 

 そう私はいつもあの時ライからプレゼントされたイヤリングを着けていた。でも、三日くらい前に自宅に帰って外そうとした時に片方の耳にイヤリングが着いていないことに気が付いた。それから家の中や仕事場を隈なく探したが、結局見つからなかった。

 

「はぁ、これじゃライに顔向けできないわ。二つの意味で」

 

 でもライもライよ。私がいつもあのイヤリングを着けてるって知っているはずなのに今日はそのことにまったく触れないだもの。ちょっとくらい気にしてくれたっていいじゃない! そう思ったらまたイライラして来たわ……

 

「おっ! そこの姉ちゃん、一人か? 良かったら一緒に、ひぃ!」

 

「何ですか?」

 

「いや! 何でもね、いえ、何でもないです! はいぃ!」

 

 そう言ったチャラい男は足早にどこかに行っちゃいました。何なんでしょう? 何にあんなに脅えていたんでしょうか? 私の後ろに何かあります?

 

「お母さ~ん。あのお姉ちゃん怖い顔してるよぉ。何でぇ?」

 

「こら! 見ちゃいけません!」

 

 まあ、良いです。それより休憩時間もそろそろ終わりますし、早く戻りましょう。

 

 私はまた街中を歩き始める。そしてしばらくして本局に着き、ミゼット様の執務室に着いた。私は扉の横の操作盤を操作し、扉を開ける。

 

「ただいま戻りました」

 

「お帰り、エリス」

 

 私は部屋に入るとミゼット様がご自分の机に座り、仕事をなさっていました。

 

「すみません、少し遅くなりました」

 

「いいのよ。買い物ご苦労様」

 

「はい……」

 

 ミゼット様に労って頂き、私は部屋の真ん中に居るだろうライを見たが、

 

「あれ? ライは……」

 

「ああ、ライならもう帰ったわよ」

 

「……そうですか」

 

 私は落ち込んだ。そして後悔した私が意地を張って結局まともに会話も出来なかったことに……またいつ会えるかも分からないのに……いいのよ、人のちょっとした変化に気付かないような唐変木こっちから願い下げだわ!

 

 ……いえ、嘘です。たぶん一生忘れらないでしょう。あの月明かりに照らされた彼の顔は……もっとも素顔は分かりませんけど。

 

 私は買って来たお茶請けを給湯室に片付け、自分の机に向かった。すると

 

「あら?」

 

 私の机の上に四つ折にされた紙とその上に何かを包んだような布が置いてあった。

 

「ミゼット様。これは?」

 

「ふふふ、何かしら」

 

 ? よく分からないけどおそらくミゼット様が置いたものでしょう。私は布を持ち上げ、広げていく。そこには

 

「え?」

 

 私が無くしたはずのイヤリングの片割れがあった。

 

「どうして……」

 

 私はミゼット様を見るが空中ディスプレイを見て仕事をしており、分からなかった。でもそのお顔は微笑ましいものを見ているかのように笑っていた。私はイヤリングと布を机に置き、次は四つ折になっている紙を手に取り、広げた。

 

 

『留め金が緩んでたから直しておいた。もう無くすなよ Byライ』

 

 

 そう書かれていた。気付いてたんだ……嬉しい。心が満たされていくように胸が熱くなっていく。私は紙をおもむろに抱きしめた。その紙からはさっきの休憩に出したセイントオリーヴァの香りがした気がした。

 

 私は手紙を手に持ち変え、目を落とす。すると紙の右下に書かれている文字を見る。

 

 

『P.S. 紅茶ご馳走様。美味かったぞ。またな』

 

 

 だめだ。私はもう彼を忘れることは出来ないだろう。叶わぬ恋かもしれない……でもいつかこの想いを伝えたい。例えどんな結果になろうとも。

 

「ふふふ、良かったわね。エリス」

 

「はい……」

 

「それじゃ、お仕事しましょう」

 

「はい……」

 

「……エリス、肩にゴミついてるわよ」

 

「はい……」

 

「はぁ、これはこれで仕事にならなそうね……」

 

 

エリス サイドアウト




この話だけでも18000文字ほどになりました。
前のも合わせるよ30000文字越えですね。
とても一話で投稿できる長さじゃなかったです。
自分の思っている以上に長くなりました。

後はジュエルシード編でライが受けていた依頼も何れ投稿しようかと思っています。
もっとも話を考えるところからになるので、ずっ~~と先になると
思いますけどね。


さて、零冶の念能力紹介のコーナーです。

では、次の念能力はこれだ!

 27、完全修復(パーフェクトリカバリー)
  系統:特質系
  説明:触れている対象を過去の状態まで戻すことができる能力。
     ただし、使用者がその過去の状態を知らないと使用できない。
     知っているというのは記憶にあるかと言う事。
     なので、例え相手の過去の状態を知らなくても絶対読心(ギアス)で相手の過去の
     記憶を覗くことでその時の状態に戻すことが可能
     一度過去の状態に戻した場合、戻した過去より未来の状態にすることはできない。

  制約
   1、対象の過去の状態の記憶が無ければならない
   2、戻した過去より未来の状態にすることはできない
   3、一度使用した対象には24時間の時間を置かなければ再度使用できない

  誓約
   なし


 制約の2が分かり辛いと思うので補足します。つまり一日前のリカバリーポイントAと二日前のリカバリーポイントBがあるとします。AはBより未来状態となります。一度、Aポイントに戻し、制約3の24時間の経過後、Bポイントに戻すことはできます。

 ですが、最初にBポイントに戻し、制約3の24時間の経過にAポイントに戻そうとしても戻せないと言う事です。

 理由は過去の状態戻したら、それまでに経過時間がリセットされるからです。なのでBポイントに戻した時点でAポイントの状態は無かったことになるため、戻せないとなります。

 また、プレシアさんに使用した時に体のみ過去の状態に戻し、記憶をそのままに出来たのは、記憶のバックアップを取っておき、体を過去の状態に戻し、バックアップした記憶を転写としたからです。

 パソコンのリカバリー機能を思い浮かべて頂ければ分かり易いかと思います。ゲームで言えば、セーブポイントですね。過去のセーブポイントに戻ることは出来るけど、その先にあったことは再現できない的な感じです。

って感じです。では

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