原作を放って置くとバッドエンドになるんですが、どうしたら良いですか?   作:月の光

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03_ミスト『人間諦めが肝心です』零冶『諦めたらそこで試合終了だ!』

零冶 サイド

 

~買い物後~

 

「ずいぶんと買い込んでしまったな」

 

 荷物を王の財宝(ゲートオブバビロン)にしまい、サッサと帰ろうとしていると。

 

 

ピキィーーーーーーーン

 

 

と、虫の知らせ(シックスセンス)が発動した。

 

――ッ! ……なんだ、この嫌な予感は

 

 虫の知らせ(シックスセンス)はあくまで自分に取って都合の悪い未来になるときに自動発動するだけなので、具体的に何が起こるかは分からない。俺は周りを見回すと公園が目に付いた。

 

――ここから嫌な予感がしているな

 

 俺はそっと公園を覗き込む。

 

――至って普通の公園だが、ここにいったい何が…………!

 

 俺は気付いた……いや気付いてしまった。公園のブランコに腰掛けている少女に……

 

――あれはもしかして高町なのはか?

 

 おかしい……原作に関わる気はないのになぜ虫の知らせ(シックスセンス)が発動した? 関わる方が俺に取って都合が悪い未来のはず……

 

――仕方ない、確かめるか……

 

 俺はそう思い、公園の茂みに身を隠し、能力を発動させる。

 

――神の不在証明(パーフェクトプラン)発動

 

 これで誰も俺を認識できない。たとえ俺に触れられてもな。

 

 本来の神の不在証明(パーフェクトプラン)は呼吸を止めている間のみ発揮される能力だが、それはめんどくさいので声を発しない限り、解除されないように強化(改造)している。

 

 俺はブランコの少女に近づき、右手で肩にそっと触れてさらに能力を発動させる。

 

――未来漫画(フューチャリングコミック)発動

 

 すると俺の左手に一冊の漫画が出現する。俺はさっきの茂みに戻り、漫画の表紙を見る。

 

《高町なのは物語》

 

――やっぱり高町なのはだったか……悪いが読ませて貰おう

 

 俺は漫画を開き、これから起きることを読む。

 

 

《高町なのは物語》 サイド

 

 

 私は高町なのは。4歳なの。

 

 今、お父さんがお仕事で事故に遭ってしまい、入院中なの。

 

 お母さんとお姉ちゃんは始めたばかりのお店につきっきりで、お兄ちゃんはずっと道場に篭って怖い顔で剣を振ってるの。だから、なのはは皆の迷惑にならないように一人で良い子にしてないといけないの。

 

 今日もいつも通り公園で夕飯になるまで待っていたら。

 

「やあ、一人で何しているんだ。悩んでいるなら我に相談するがいい!」

 

 いきなり現れた男の子に声を掛けられて笑顔で頭を撫でられたの……金髪で目の色が右と左で違い、顔が整っているのに何だか気持ち悪いの。

 

 それに良くわからないけど、なんだかムカッてしたの……なのはのこと知りもしないくせに相談しろなんて言わないで欲しい。

 

「何でもないの……」

 

「何だ? 照れてるのか? なのはは可愛いな~」

 

 なんだか勘違いしているの……それにどうして私の名前を知っているの? まだ、教えてないのに……何だかこの子怖いの……。

 

「本当になんでもないの、ほっといて欲しいの」

 

「そう言うなって、我がその悩みを解決してやろう」

 

 いい加減うっとうしいので頭に乗せている手を退けようしたら。

 

「やめなさい! その子が嫌がっているでしょう!」

 

 知らない女の子が助けに来たの。

 

「何だ、お前は。これは嫌がっているのではなく、照れているだけだ」

 

「いきなり頭を撫でられて照れる訳ないでしょ! 女の子の頭なのよ!」

 

 その子の言う通りなの……そう言われた男の子はしばらく考えているみたいに手を口元に当てている。でも、ろくな事ではない気がするの。すると、急に男の子は笑顔になり、

 

「な~んだ、嫉妬しているのか? 可愛い奴め。だったらお前の頭も撫でてやろう。

 我の愛は誰にでも平等だ」

 

 そう言って私の頭から手を退けて女の子のほうに手を向ける。やっぱりろくでもなかったの……でも私の頭から手を離してくれたのは良かったの。

 

「違うわよ! ばっかじゃないの!」

 

 そう言って男の子と口喧嘩を始める女の子……あっちでやって欲しいの……しばらく我慢してたけど、私は我慢できなくなって

 

「いい加減にして! なのはのことはほっといて!」

 

 私は公園の出口にむかって走り出し、

 

「あぅ!」

 

 公園から出たところで何かに躓いて転んでしまう。

 

 お膝を擦りむいてしまったみたいで痛かったの。でも、膝の痛みよりも自分ばかりこんな目に合うことが悲しくて。

 

「うぅ、うえ~~~~ん! お母さ~ん! お父さ~ん! お兄ちゃ~ん! お姉ちゃ~ん!」

 

 私は泣き出してしまった、そうすれば誰かが迎えに来てくれるんじゃないかと思った。

 

 私が泣き叫んでいると、

 

「危ない!」

 

「え?」

 

 そう聞こえて目を開けたら、目の前に車が迫ってきてたの……私はそのとき分かってしまった。もう助からないと……

 

 

ドォーーン!!!!

 

 

 すごい衝撃で私は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

 

グシャ!

 

 

 冷たい地面に寝そべっていると赤い液体が見えてきて、周りが騒がしくなってきたの。

 

 お母さんに急に飛び出しちゃいけないって言われてたのに破ったから……。

 

 なのはが悪い子になったから、きっと罰が当たったんだ……。

 

 私が目を動かしているとさっきの女の子が見えてきた。青い顔をして私を見ている。

 

 私はせっかくの可愛いお顔が台無しだな、なんてのん気なことを思っていたの。

 

 お母さんとお父さんに抱きしめて貰いたかったな……。

 

 お兄ちゃんとお姉ちゃんに頭を撫でて欲しかったな……。

 

 そうか私はもっと皆に甘えたかったんだ…………でも気付くのが遅かったの。

 

「ごめ……んなさい……お母……さん…………なのは……良い子にし……てるから……

 一人…………にしないで……寒いよ…………寂しぃ………………ょ」

 

 そうして私の意識はなくなった……。

 

 

~完~

 

 

《高町なのは物語》 サイドアウト

 

 

 

零冶 サイド

 

 

…( ゚д゚)ポカーン …( ⊃д⊂)ゴシゴシ …(*゚д゚)エッ?

 

 そんな表現が適切だろう、まさか原作主人公が原作開始前に死亡するなんてだれが予想できる?

 

『確かにこれはまずいな』

 

『ええ、そうですね。さすがにこれは予想外でした』

 

 どうやら、ミストも驚いているらしい。出てきた男の子と女の子は転生者だろう。

 

 男は分かりやすいくらいの踏み台転生者だが、女のほうは分からないな……おそらく4人目だと思うが、というかオリ主の2人目はどうした! なぜ、現れない! いや、冷静になれ俺、来ないものを責めていても仕方ない。

 

 まあ、見るまでもないが、今後の展開を知っておこう。

 

――その後の展開(エピローグ)発動

 

 俺は未来漫画(フューチャリングコミック)のもうひとつの能力を発動させた。

 

 その後の展開(エピローグ)

  物語が終わった後の展開をざっくり知ることが出来る能力

 

 

零冶 サイドアウト

 

 

《高町なのは物語》 サイド

 

 

 その後、高町なのはの葬儀が行われ、母 高町桃子は悲しみに崩れた。

 

 同様に姉 高町美由希も母を支えているものの立っているのがやっと言うところだった。

 

 兄 高町恭也は目に涙を浮かべ、握り締めた手からは血が滲んでいる。

 

 そしてその翌日、父 高町士郎の容態が急変し、高町なのはの後を追うように息を引き取った。

 

 僅か1週間もの間で最愛の夫と娘を失った高町桃子は心を壊し、入院生活。

 

 高町美由希は母の入院費を稼ぐため、夜のバイトに勤しんだ。

 

 高町恭也は妹の死の原因を作った男の子・女の子・運転手に復讐を果たし、父の死の原因を作った相手と相打ちとなり、この世を去った。

 

 高町恭也の訃報を知った高町美由希は高町桃子にその事実を隠していたが、そのことが桃子の耳に入ってしまい、桃子は病院の屋上から飛び降り、自殺。

 

 唯一の生きる支えをなくした美由希も家族の後を追い、この世を去った……。

 

 

《高町なのは物語》 サイドアウト

 

 

 

零冶 サイド

 

 

 もうやめて! 俺のライフはもうゼロよ!

 

 これは酷い、酷すぎる! しかも転生者の2人が死んだぞ……もしこのまま、原作主人公がいないで進んだら、

 

 ①ジュエルシードがこの街に落ちたが、手伝う人が居らず、ジュエルシードの思念体に

  やられてユーノ死亡

 

 ②邪魔するものが居ないので、ジュエルシードを楽々回収、その後自分の事実を教えられ

  自暴自棄になるフェイト

 

 ③全てのジュエルシードで次元震を発生させ、アルハザードを目指すプレシア

 

 ④次元震に巻き込まれて、消滅する地球、俺死亡

 

 

 うん、都合が悪いどころじゃないね。

 

 え? 2人目の転生者が居ないって? 今居ない時点で当てにはできないよ。自分で何とかしたら、原作に嫌でも関わることになるので、本末転倒だ。

 

 つまり、ここで高町なのはに死なれたらまずい、非常にまずい。

 

 さて、どうするか

 

「いい加減にして! なのはのことは放っといて!」

 

 ってやばい! もうここまで話は進んでいるか!

 

『マスター!?』

 

『分かってる!』

 

 俺は神の不在証明(パーフェクトプラン)を解除し、茂みから飛び出した。

 

「あぅ……うぅ、うえ~~~ん! お母さ~ん! お父さ~ん! お兄ちゃ~ん!お姉ちゃ~ん!

 「危ない!」えっ……」

 

「くっ!」

 

 俺は高町なのはを抱えて車を回避した。

 

「はぁ~間に合った……大丈夫か?」

 

 高町なのははポカーンとして俺の顔を見上げた後、

 

「ふえ~~~~~ん! 怖かったよ~~!」

 

 泣き出した。ちょ! これだと俺が泣かしたみたいじゃんか!

 

『こんなに小さい子なら仕方ありませんよ、余程怖かったのでしょう』

 

 まあ、無事でよか「おい! てめー! 何我のなのはを泣かしてやがる!」った?

 

 ようやく復活した踏み台がいきなりいちゃもんを付けて来た……なんだこいつ。今の見てなかったのか? それとも見た上でそう言っているのか?だとしたら本当に救えないな。

 

「何言ってる。俺はこの子を助けただけだろ」

 

「うるせーモブが! オリ主の我に楯突いてんじゃねー!」

 

 うわぁ、マジでそのセリフを聞くことになるとは思わなかったわ……これも嫌だから原作に関わりたくないんだよな~。さっきから女の子の方も呆けてるし、面倒だから今日のことは忘れて貰おう。

 

「君たち」

 

 そういうと2人は俺を見てくる。

 

 俺は絶対遵守(ギアス)を発動し、

 

「《今日のここでの出来事は忘れて、お家に帰りなさい》」

 

 俺の目から赤い鳥のようなモチーフの光が羽ばたき2人の目に入る。

 

「《はい、分かりました》」

 

「《ちっ! 仕方ねーな》」

 

 そう言って2人は公園から出て行った。

 

 ひとまずあっちは大丈夫だろう。後は

 

「ひっく、ひっく」

 

 こっち(高町なのは)なんだけど……

 

「ひとまず、ベンチに座ろうか?」

 

 俺の言葉にこくんと頷き、付いてくる高ま……めんどくさいからなのはでいいや。なのはをベンチに座らせ、落ち着くのを待つ……すると。

 

「あの……助けてくれてありがとうなの」

 

「どういたしまして……落着いたか?」

 

 こくんと頷くなのは。

 

「あの……私、高町なのはなの」

 

 ここで自己紹介かよ!

 

「あ、あぁ、なのはちゃんね」

 

「あの……お名前教えて欲しいの……」

 

 ですよね~仕方ない。

 

「ああ、すまないね。俺はライだ」

 

 俺は傭兵活動をするとき用に考えていた偽名を教える。

 

「ライさん? 変わった名前なの。あとなのはでいいの」

 

 名前のことはほっとけ! こんなところで名乗ることになるとは思わなかったんだ! そして、いきなり呼び捨てを要求するな!

 

「あぁ、分かったよ。なのは」

 

 そういうとこくんと頷くなのは。

 

「まあ、何があったかは知らないけどな、あまり一人で抱え過ぎないほうが良いぞ」

 

「うん、実はね……」

 

 いや! 俺に話せってことではなくて! ……とは言えなかったorz

 

『諦めましょう、マスター。人間諦めが肝心です』

 

『諦めたらそこで試合終了だ!』

 

 はぁ~仕方ないか……これは俺の取った行動の結果だ。ちゃんと責任を取ろう。

 

 なのはの話が終わり。

 

「だから、なのはが我侭言うと皆に迷惑が掛かってしまうの」

 

「なるほどな、良い子でいるために寂しいのを我慢していると」

 

「うん」

 

「ふむ……じゃあたとえばの話だ、なのはのお母さんが洗物が多くて、大変そうに

 しているとする」

 

「うん」

 

「そこでなのはが手伝うと言ったが、断られた。どう思う?」

 

「それは……悲しいの……お手伝いしたいのに……」

 

「じゃあ逆にお母さんが、じゃあ少し手伝ってくれる? となのはに言ってきた。どう思う?

 迷惑だと思うか?」

 

「ううん、喜んでお手伝いするの」

 

「ふむ……だとしたら今のなのははお母さんに取って悪い子になってしまうな」

 

「え! ど、どうして!?」

 

「お母さんに、じゃあ手伝ってって言われたら喜ぶんだろ? お母さんが手伝ってって言ったのは

 お母さんの我侭だ。なのに君は喜んだ」

 

「う、うん」

 

「逆にお母さんが一人で頑張っていると、なのはは悲しくなった」

 

「うん」

 

「つまりなのははお母さんに我侭を言って欲しかった。そのほうが嬉しいから。

 でも、それはお母さんから見たなのはも同じじゃないかな?

 お母さんはなのはに我侭を言って欲しいと思っていると思うよ」

 

「で、でもそんなことして嫌われたら……」

 

「もちろん、我侭ばかり言ったら、相手は迷惑だと思うだろうね。

 でも、まったく言わないのも、相手に寂しい思いをさせてしまうんだよ」

 

「ど、どうしよう……なのは悪い子になっちゃった……これじゃお父さんが

 目を覚まさないの……」

 

 また、泣きそうになるなのは。

 

「だとしたら、やることはひとつだ……」

 

「…………」

 

「これから甘えればいい。まだ間に合うさ」

 

「でも……」

 

 まだ、勇気が出ないらしい。

 

「いい言葉を教えてあげる」

 

「えっ?」

 

「勇気は夢を叶える魔法だ」

 

「勇気は夢を叶える魔法……」

 

「そう、なのはの夢を叶えるために勇気を出して我侭を言ってごらん?

 そうすれば、きっと夢は叶う」

 

 そう言って俺はベンチから立ち上がりなのはの前に立ち

 

「わっぷ!」

 

 なのはが上を向く前に自分の帽子をなのはに被せる。

 

「もし、勇気が出そうにないときはその帽子を見て、今の言葉を思いだしてね」

 

 突然強い風が吹き、なのはが下を向いた隙に俺は姿を消した。

 

 

零冶 サイドアウト

 

 

 

高町なのは サイド

 

 

「もし、勇気が出そうにないときはその帽子を見て、今の言葉を思いだしてね」

 

 そう言われて顔を上げようとしたら、突然強い風が吹いてきて。

 

「わっ!」

 

 私は帽子が飛ばされないように帽子を押さえて下を向く。風がやんで顔を上げたら、そこにライさんの姿はなかった。

 

「あれ? ライさん?」

 

 周りを見回したが、誰もいなかった。

 

「勇気は夢を叶える魔法」

 

 私はそう呟いて急いでお家に帰った。

 

 お家の前に来るとお母さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんが待っていてくれた。

 

「なのは! 遅かったじゃない! 心配したのよ」

 

「ご、ごめんなさい、お母さん。少しお話してたから」

 

 お母さんに心配掛けてしまったの……

 

「無事でよかった。今日はどうしたんだ? なのはらしくない」

 

「まあまあ、恭ちゃん。無事帰ってきたんだからいいじゃない。なのはだってこんな日も

 あるよ。ね~なのは」

 

「しかしだな、父さんが居ない今、俺が家族を守らないと……」

 

「まあ、それは後にしてお家に入りましょう。夕飯の準備は出来てるわ。

 あら? なのは、その帽子はどうしたの?」

 

 帽子のことを聞いて来るお母さん。私は帽子を見て、ライさんに言われた言葉を思い出す。

 

――勇気は夢を叶える魔法……

 

 私はライさんから貰った帽子を胸に抱き、お母さん達へ向き直る。

 

「お母さん! お兄ちゃん! お姉ちゃん! なのは皆にお話があるの!」

 

「お話? 分かったわ、ちゃんと聞いてあげる。ここじゃ何だからひとまずお家に入りましょう」

 

 大丈夫なの、私はライさんの言うことを信じるの!

 

「それでお話って何かしら?」

 

お母さんがそう聞くとお兄ちゃんもお姉ちゃんも私を見てくる。

 

「う、うん、あのねなのは……いつも一人ぼっちなの……今お父さんが入院中でお店が

 忙しいからなのは、皆の迷惑かけちゃいけないって……我侭言っちゃいけないって……

 友達と遊んでるって嘘ついて公園でずっと一人で我慢してたの……

 でも、一人は寂しいの……だからもっとなのはにかまって欲しいの……」

 

 私が本当の気持ちを伝えたら、お母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも目を見開いて私を見ていたの。やっぱりダメなのかな……そう思って泣きそうになっているとお母さんが、

 

「ごめんね、なのは。寂しい思いさせて。お母さん自分のことしか考えてなかった……

 お母さん失格ね」

 

 私をやさしく抱きしめてくれた。

 

「お母さん……ふえ~~~~~ん! なのは寂しかったよ~~」

 

 私は嬉しくなって、泣いてしまった。

 

「くっ! 俺は家族を守ると言っておいて、なのはの気持ちに気付いてやれなかった!」

 

「恭ちゃんそれは私たちも同じだよ。本当にごめんね。なのは」

 

 しばらく泣いてから、落着いてくると

 

「さっ! 夕飯にしましょ! 今日はなのはの好きなハンバーグよ」

 

「そういえば、なのは、その帽子はどうしたの?」

 

「あっ、これはなのはが車に轢かれそうになった時に」

 

「「「車に轢かれそうになった!!!!??」」」

 

「な、なのは大丈夫!? 怪我はない!?」

 

 お母さんが聞いてくる。そういえば言ってなかったの。

 

 私がその時の状況を説明した。

 

「そう……その帽子はライ君に貰ったのね」

 

「うん、お母さんごめんなさい、なのはがお母さんに言われたことをちゃんと守らず

 急に飛び出したから」

 

「いいのよ、なのは。元はといえばなのはに寂しい思いをさせてしまった私たちが悪いんだから」

 

「俺は本当に取り返しの付かないことをしてしまうところだった……その彼には感謝しないとな」

 

「勇気は夢を叶える魔法。いや~良い言葉だね。なのは~そのライ君にほれちゃった?」

 

「にゃ! う、うん……」

 

「あら!」

 

「な! そうなのかなのは! くっ、いくらなのはの命の恩人でも俺の目の黒いうちは

 なのはは渡さんぞ!」

 

「恭ちゃん、これはなのはの問題なんだからさ、でライ君ってどんな子だったの?」

 

「えっとね、お顔は帽子を被ってて良く見えなかったの……背はお兄ちゃんより

 少し高くて細かったの」

 

「え? てことは18歳くらい? うわ~14歳差か~さすがに無理かな」

 

「やっぱりそうなのかな……」

 

「いや! だ、大丈夫じゃないかな! 14歳差なんて良くあるって! ね! 恭ちゃん」

 

「そこで俺に振るな!」

 

「お兄ちゃん……」

 

 私は涙目でお兄ちゃんを見る。

 

「うっ! ま、まあそれくらいの年の差なら芸能人でよくあるんだし、大丈夫じゃないか?」

 

「おや~なのはとの交際は認めないんじゃなかったの?」

 

「美由希! 貴様!」

 

「きゃ~恭ちゃんが怒った~なのは助けて」

 

 そう言って私を前に出すお姉ちゃん。

 

「くっ! ……美由希、明日の朝の稽古は覚悟しておけ」

 

「ちょっ! 冗談だってば! 恭ちゃん!」

 

「にゃはは」

 

 いつも見ていた光景のはずなのに今日はとても楽しいの。勇気を出して本当に良かったの。きっとお父さんもすぐに良くなる。そう思えて、私は心のそこから笑っていた。

 

 

高町なのは サイドアウト

 

 

 

零冶 サイド

 

『どうやら、大丈夫そうだな』

 

『ええ、そうですね』

 

 俺は神の不在証明(パーフェクトプラン)で姿を消しながら、一部始終を見ていた。

 

『しかし、これは犯罪なのでは?』

 

 まあ、そうだな……少なくとも住居不法侵入だ。

 

『ミスト、ばれなきゃ犯罪じゃないんだよ』

 

『まったく、仕方のないマスターですね』

 

 ミストのやつ、最近俺に対して辛辣じゃないか? まあいいけど。

 

『さて、ミスト。もうひとつの懸念事項を片付けに行くぞ』

 

『了解しました。案内します』

 

 高町家を後にして、俺は今、病院の前にいる。

 

 理由は《高町なのは物語》の今後の展開(エピローグ)で高町士郎が死んだので、どうなるのかを確認するためだ。

 

『もし、原作通りなら、回復するんだがな……もしかしたら転生者の存在で

 変わってしまっているのかもしれない』

 

『或いは、なのはちゃんの死に関連があるかもしれませんしね』

 

『そうだな、まあ何も無いにこしたことは無いが……っとここか』

 

 病室の表紙に高町士郎と書いてある。

 

 俺はそっと扉を開け、中に入る。そして、ベットに横たわる男を見て、愕然とする。

 

『これは……ひどいな』

 

『そうですね。生きているのが不思議なくらいです』

 

『ミスト、解析を頼む』

 

『了解。…………マスター、申し上げにくいですのですが、このままでは助かりません』

 

『やはりそうか……』

 

 容態を見たときになんとなく分かっていたが……

 

『はい、おそらくもって3日ほどかと……』

 

 つまり、未来漫画(フューチャリングコミック)通りだってことだ……なら。

 

『ミスト、2日後に目を覚ますくらいまで、回復させるぞ』

 

『了解。ふふふ、やはりマスターはやさしいですね』

 

『違うさ、これは俺のエゴだ。自分の言ったことを現実にするためのな』

 

 勇気は夢を叶える魔法だなんて言っておいて、やっぱり叶いませんでしたでは悪いからな。

 

『そういうことにしておきましょう』

 

『いいから、サッサとやるぞ! ……ライトヒール』

 

 俺は高町士郎に手をかざし、回復魔法を掛ける。高町士郎の体が光り、怪我を治していく。

 

 そしてある程度のところでやめる。

 

『こんなものかな?』

 

『はい、十分かと』

 

『なら、帰るぞ』

 

 俺はそう念話を飛ばし、飛雷神の術(ひらいしんのじゅつ)で自宅に飛んだ。

 

 

零冶 サイドアウト

 

 

 

高町士郎 サイド

 

 

「うっ、うん、ここは……病院? ……私はいったい……うっ!」

 

 私は体を起こすが、体に激痛が走る。

 

「士郎さ~ん、点滴の……」

 

 

ガシャーーン

 

 

「せ、先生ーーーー士郎さんが!」

 

 急に周りが慌しくなってきた。

 

「し、信じられん……あの状態から回復するなんて……君! ご家族に連絡を!」

 

「は、はい!」

 

 その後私は先生の診断を受けた。

 

 

高町士郎 サイドアウト

 

 

 

高町桃子 サイド

 

 

 私は今、娘のなのはとリビングでくつろいでいる。あれから、なのはは私にべったりとくっ付いて来る。

 

 その時に見せるなのはの笑顔は今日の疲れを吹き飛ばしてくれるほど愛おしかった。今まで寂しい思いをさせてしまっていたと思うと少しやるせない気持ちになってしまう。私はとんでもない間違いを犯すところだった。

 

 なのはの命の恩人で、なのはが本当の気持ちを伝えてくれるきっかけを作ってくれたライ君には本当に感謝している。もしお店に来ることがあったら、うんとサービスしてあげなくっちゃね。

 

「なのは、今日は遅いから、もう寝ましょうか?」

 

「うん! あの、今日は一緒のお布団で寝ていい?」

 

「もちろんよ、おいで」

 

「うん! えへへ~お母さ~ん」

 

「な~に」

 

「えへへ~なんでもない!」

 

「ふふふ♪」

 

 

トゥルルル、トゥルルル

 

 

「あら? 電話だわ、こんな時間に何かしら? なのは、ちょっと待っててね」

 

「うん!」

 

 私は布団から出て受話器を取りに行った

 

「はい、もしもし」

 

「あっ! 高町さんのお宅ですか! こちら海鳴大学病院です!」

 

「は、はい! そうですが、どうされました?」

 

 まさか、士郎さんの身に何か!

 

「士郎さんが目を覚ましました!」

 

「えっ! ほ、本当ですか!」

 

「はい! よろしければ今から面会できますが」

 

「す、直ぐ向かいます!」

 

「お待ちしております!」

 

 私は受話器を置き、膝から崩れる。

 

「母さん! どうしたんだ!」

 

 恭也と美由希も心配で来たみたい。

 

「士郎さんが……」

 

「父さんに何かあったのか!?」

 

「士郎さんが目を覚ましたの」

 

「本当! お母さん」

 

「ええ、今から面会できるそうだから、病院へ行ってくるわ」

 

「「「俺も《私も》行く《の》!」」」

 

「なのは! まだ起きていたのか!」

 

「ご、ごめんなさい……でも話し声が聞こえてきたから」

 

「なのは、今日はもう遅い。良い子におる「分かったわ、一緒に行きましょう」母さん!?」

 

「だめだよ、恭ちゃん。またなのはを一人にする気?」

 

「俺は、なのはのことを心配して……いや、すまないなのは」

 

「恭也、私はなのはと準備するから、タクシーを呼んでおいてくれるかしら」

 

「分かった」

 

「さ、なのは手伝って?」

 

「うん!」

 

 私たちは準備をして病院へ向かう。そして

 

「あなた!」

 

「「「《お》父さん!」」」

 

「桃子、なのは、恭也、美由希……皆心配掛けたな……」

 

「本当に信じられません。正直なところ助かる見込みは低かったのですが……

 奇跡としか言いようがありません」

 

「きっとライさんの言う通りにしたからなのはの夢が叶ったの! お父さんの怪我が治ったら

 家族皆で仲良く暮らすの!」

 

「そうね、本当に魔法みたい……」

 

「桃子、ライさんとは?」

 

「ええ、実は……」

 

 私は今日の出来事を士郎さんに話す。

 

「そうか……なのはを助けてくれた彼には感謝しないとな。それに私が眠っていたときに、

 暖かい何かを感じた…………もしかしたらそのライ君が何かしたのかも知れないな」

 

「ええ、もしかしたら本当に魔法使いなのかもしれないわね」

 

「父さんも母さんも魔法なんてこの世にあるわけないだろ」

 

「まあでも、そう思いたい気持ちは良くわかるよ。たった一日でいろんな問題が

 解決しちゃうだもん」

 

「それで先生、夫の容態はどうなんですか?」

 

「ええ、怪我は大分治っていますが、まだ安静にしていないといけません。

 ですが、近いうちに退院できるでしょう」

 

「そうですか、よろしくお願いします。さあ皆、今日は帰りましょう」

 

 そうして私たちは病院を後にした。

 

 

高町桃子 サイドアウト

 

 

 

零冶 サイド

 

 

[マスター、どうやら高町士郎が目を覚ましたようです]

 

「そうか……予想より大分早いな。遅ければ2日、早くても1日くらいだと思ったんだが……」

 

[それほど、高町士郎の生命力が強かったということでしょう]

 

「さすがは御神流の剣士といったところか……」

 

[それで、マスター。今後の方針はいかがいたしますか?]

 

「そうだな、今回の件でこの世界は原作通りに進むとは限らないことが分かった。

 原作に関わりたくないと言ってもいられないだろう」

 

[そうですね。今回マスターが介入しなければ、高町家は崩壊していましたし]

 

「ああ、だが原作に関わりたくないというのは変わらない。そこで、原作不干渉ではなく、

 原作通りに進むかを見守っていくことにし、必要があれば介入することにする」

 

[よろしいのですか? マスターの原作に関わりたくない気持ちは相当なものでしたが?]

 

「原作に介入するのは傭兵 ライとしてだ。あくまで月無 零冶は不干渉で行く。

 そのためにも、傭兵 ライとしてある程度の知名度を上げておかないとな」

 

[了解しました。それと頼まれていた管理局の依頼はピックアップしてありますので、

ご確認下さい]

 

「ありがとうミスト、これから忙しくなるが、よろしく頼む」

 

[こちらこそ、よろしくお願い致します。マイマスター]

 

 俺はミストのピックアップした依頼を確認して、今後の方針を固めてく。

 

 

零冶 サイドアウト

 


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