原作を放って置くとバッドエンドになるんですが、どうしたら良いですか?   作:月の光

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空白期
19_ミスト『いや~それほどでも』零冶『褒めてね~よ』


零冶 サイド

 

 

 ジュエルシード事件が完結してから数日が経ち、俺は買い物がてら散歩していた。

 

「ん? あの子……」

 

『どうしたんですか? マスター』

 

『いや、公園の隅に小さな女の子が居るんだけど、どっかで見たような気がしてな』

 

『マスター、いくら今小学生だとしても犯罪になるようなことは止めて下さいね』

 

『お前は俺のこと本当になんだと思ってるんだ? 流石に傷つくぞ』

 

『体は子供、頭脳は大人、その名は『言わせねーよ!?』ちぇ』

 

 まあなんだかんだでこんなやり取りが楽しいんだけどさ。それはさて置きあの子だな……ってあれはまずいな、野良犬に絡まれてる……仕方ない。

 

「あ、あっち行ってよ~、私はお、おいしくないよ」

 

「ウゥゥゥゥ!」

 

「こら、いじめちゃダメだろ」

 

 俺は野良犬の頭を撫でて、落ち着かせる。

 

「クゥ~~ン」

 

「ほら、良い子だからあっち行きな」

 

 野良犬は追い払った。大人しく言うことを聞いてくれて良かった。さて

 

「君、怪我は無いか?」

 

「……うぇぇぇぇぇん、怖かったよ~」

 

 いきなり泣き出した。まあ幼いから仕方ないな。

 

「よしよし、もう大丈夫だから、泣きやみな。こんなところで何やってるんだ」

 

「ぐす……お姉ちゃんとお出かけしてたら、はぐれちゃって迷子なの」

 

「そうか……なら、僕と一緒にお姉ちゃんを探そうっか」

 

「いいの……」

 

「もちろん、僕は零冶。お名前は?」

 

「私は――」

 

零冶 サイドアウト

 

 

葵 サイド

 

 私は今慌てている。妹の蒼乃とお出掛けしていたところ少し目を離した隙に蒼乃が居なくなってしまったからだ。私はなりふり構わず、肉体強化とサーチャーの魔法を使い、街を駆けずり回って蒼乃を探している。

 

『サファイア! 蒼乃はまだ見つからないの!』

 

『申し訳ありません。まだサーチャーにも引っ掛かりません』

 

 一体どこに居るの蒼乃……まさか、誘拐されたんじゃ! ううん、それは飛躍しすぎよ。冷静になりなさい私。こんな時こそ冷静にならなくては……蒼乃はまだ、小さいからあまり遠くへはいけない筈、見失ったところは確か公園の傍だから、公園に……いやそこは一度探したわ。

 

『マスター、もう一度。公園周辺を探してみては?』

 

『……そうね』

 

 私は急いで公園に向かった。

 

「公園に着いたけど……」

 

 私は周囲を見回すが……蒼乃は居なかった。

 

「くっ! どこに居るの蒼乃」

 

 こんな時頼りになる人が居れば良いのに……そういえば、蒼乃を見失ったときは公園を見て考え事してしまったのよね。数日前にここでなのはとフェイトのお別れがあった。私は原作の名シーンを生で見れたことに少し感動していた。

 

 でも一番印象に残っていたのはライさんがなのはにプレゼントを渡したときのなのはの顔だった。なのははライさんのことが好きなんだろう。恋をすると人はあんなにも輝いて見えるのかと思った。私は異性を好きになったことがない。それこそ前世を含めても一度も無い。

 

 だから私は誰かを好きになる気持ちが分からない。今の異性の知り合いと言えば春兎と神宮寺くらいね。春兎は友達だけど異性として見たことはないわね。良い人だとは思うけどそれだけだと思う。神宮寺は最初の印象が最悪だったからありえないわね。最近はましになったと思うけど……

 

 ジュエルシード事件が解決してから久しぶりの学校で神宮寺の変わりようをみたアリサとすずかの顔は今思い出しても少し笑えるわ。絵に描いたようにポカーーンとしてたわね。人ってあんなに変われるものなのね……私は変われるのかな……

 

 前世の私は病弱だった。なんでもウイルスに対しての抵抗力が極端に低くて、少しでもウイルスを体に入れてしまうと直ぐに風邪を引いてしまう。だからいつもマスクをしてないといけないし、学校も休んでばかりで勉強は通信教材ばかりだった。

 

 それでも私は幸せだと思っていた献身的に看病をしてくれる母と父が居たからだ。だからそれだけで満足だった……あの日までは……

 

 

~葵の前世~

 

 私が中学校を卒業する年齢になった時のことだ。

 

「お母さん、ごめんね。いつも迷惑ばかりかけちゃって……」

 

「良いのよ。お母さんなんだから」

 

 私は風邪をこじらせてしまい、病院へ入院してしまった。

 

「うん、ありがとう。直ぐ良くなって退院するから」

 

「気にしないで良いのよ」

 

 母はそう言ってくれたが、家はお世辞にも裕福とは言えない。寧ろその逆、入院費を払う余裕なんて無いはず、早く良くなって退院しないと。

 

 

コンコン

 

 

「失礼します。桜羽さん、少し良いですか」

 

 病室のドアがノックされ、先生が入ってきた。どうやら母に用があるらしい。

 

「はい、なんでしょう先生」

 

「はい、実は娘さんのことなんですが……」

 

 私? どうしたんだろう……

 

「娘が何か……」

 

「……残念ですが、今掛かっている風邪を治すのが難しい状態です」

 

 え? な、なんで……

 

「元々ウイルスに対して抵抗が低かったので風邪にかかった時は強めの薬で治してきましたが、

 薬に対して抗体が出来てしまい、風邪が治り難くなっています」

 

 そ、そんな……

 

「……娘は治るんですか?」

 

「今まで薬の種類を変え誤魔化して来ましたが、今のままでは難しいかと……」

 

「そう……ですか……」

 

 母も落ち込んでいるようだ。今まで迷惑をかけてきたのに……私は申し訳ない気持ちになった。今まで迷惑をかけてばっかりなのにこんなことになってしまって、私はどうしたら良いのか分からなかった。

 

 先生からの通告からしばらく経ち、私はまだ入院中だ。だけど私達家族に朗報が入ってきた。私の病気を治す治療法が見つかったのだ。ウイルスに対しての抵抗力を高める薬が出来たらしい。治療費は莫大なお金が必要になるらしいが、嬉しいことに政府がお金を負担してくれるそうだ。

 

 私は喜んだ。これで母と父に迷惑を掛けなくて済む。ただ、この薬は服用後かなりの激痛が襲うらしい。母と父は私のことを心配したのか、その話を断ろうとした。でも私はこれ以上迷惑を掛けたくなかったので、受けたいと言った。母も父もしぶしぶ了承してくれた。

 

 私が治療の話を受けた日の夕方、病室のベットで寝ていたところ、病室の外から声が聞こえて来て目が覚めてしまった。

 

「この声……お母さんとお父さん?」

 

 私は扉を少しそっと開けた。

 

「ちょっと! どうするのよ! このままあの子の病気が治っちゃったら!

 保険金が入らないじゃない!」

 

「静かにしろ! あの子に聞こえたら如何するんだ!」

 

「今は寝てるわよ! 話を逸らさないで!」

 

「俺だってこうなるとは思わなかったんだよ! あの子がもう長く無いからって高い保険に

 入ったんだぞ! まさか治療法が見つかるなんて……」

 

 え? どういうこと? あの子って私のこと?

 

「今まで我慢して面倒見てきたのも保険金が入るのを期待してたからなのに最悪だわ!」

 

「俺だって困ってるんだよ! 入院費のためにいくら借金したと思ってるんだ!

 保険金が入らないなら無駄金だよ」

 

 無駄……私の命は無駄ってこと? お母さんとお父さんに取って私は無駄なの? そうだこれはユメだ。ワタシハマダネムッテルンダ。ハヤクメヲサマサナイト。

 

 私はそっと扉を閉めて、ベットに潜り込んで眠った。

 

 そして、翌日目が覚めると

 

「おはよう、葵。今日はお寝坊さんね」

 

「うん、おはよう。お母さん」

 

 いつもの母が居た。良かった昨日のは夢だったんだ。そうだよ、お母さんとお父さんがあんなこと言うわけ無いよ。私の病気が治ればまた家族で幸せに過ごせる。

 

 数日後、私に薬が投与された。それからというもの生きた心地がしなかった。体が燃えるように熱くなったと思えば真冬のような寒さに凍えるというのを繰り返した。でも、病気が治れば昔みたいに幸せな家族に戻れると信じて頑張った。

 

 そして、峠を越え私は病気を克服した。まだ入院が必要だが、一週間後には退院できると先生が言ってくれた。これでまた家族で暮らせると私は心の底から喜んだ。

 

 一週間後、私は退院することになった。父は仕事が急に忙しくなったらしくお見舞いには来てくれなかったが、母は毎日来てくれた。私は待ちに待ったお家に帰れると喜んだ。

 

「先生、本当にありがとうございました」

 

「元気になって良かった。葵ちゃんも良く頑張ったね。元気に過ごすんだよ」

 

「はい!」

 

 私は先生にお礼を言っていたが、母が何も言わないのに違和感を持ち母を見た。母の顔は口は笑ってるのに目が笑っていなかった。その顔はまるで「余計なことしやがって」と言っている様だった……ううん、私の気のせいだよ。ソウニキマッテル。

 

「葵、行きましょうか」

 

「う、うん」

 

 私は先生や看護士さんにお別れを告げ、母の運転する車に乗った。しばらく、車を走らせているが、母はずっと無言だった。その沈黙に耐えられず、私は母に話しかけた。

 

「お、お家に帰るのも久しぶりだなぁ」

 

「そうね」

 

「勉強も出来なかったから、いっぱい勉強しなくちゃ」

 

「そうね」

 

「お父さんは今もお仕事忙しいの?」

 

「ええ」

 

「今日はちゃんとお家に帰ってくるんだよね」

 

「どうかしら」

 

 何だろう……お母さんの返しが素っ気無い気がする。私何か気に障ることしちゃったかな……

 

「い、今まで迷惑掛けちゃった分お母さんを楽にさせてあげるからね」

 

「…………ふふふ、期待してるわ」

 

 良かった、笑ってくれた。でもいつものお母さんなら「気にしないで、お母さんなんだから」って言ってくれるかと思ったんだけどな……どうしたんだろう?

 

 

 そして、お家に着いた

 

 

「うわぁ! 何だか久しぶり!」

 

 決して大きくは無いけど懐かしい我が家に感動しているとお母さんが無言で玄関を開けた。

 

「お母さん、ただいま!」

 

「……ええ、おかえり。葵」

 

「うん!」

 

「さあ、葵。貴方の部屋に行くわよ」

 

「え? どうして?」

 

「ふふふ、来れば分かるわ」

 

 お母さんは私の腕を掴んで、引っ張りながら私の部屋の前まで連れてきた

 

「お、お母さん。ちょっと痛いよ」

 

「ごめんなさいね。さあ、扉を開けなさい」

 

「う、うん」

 

 私は母の言われるままに扉を開けた。すると部屋には知らない男の人が居た。

 

「……え?」

 

「さあ、入りなさい」

 

「え? で、でも、知らない人が」

 

「いいから入りなさい」

 

 私は押し込まれるように部屋に入った。そして、外から鍵を掛けられた。

 

「お母さん! なんで鍵掛けるの!」

 

「察しの悪い子ね。いいからその人の相手をなさい」

 

「どういうことなの! この人は誰なの!」

 

「その人はお客さんよ」

 

 お客さん? どういう意味? お客さんならなんで居間に案内しないで私の部屋なの?

 

「そ、そういうことなんだな。君はこれから僕の物なんだな」

 

「ひっ! お母さん! ここ開けて! 何でも言うこと聞くから!」

 

「……あんたもさっき言ったじゃない」

 

「え?」

 

「私を楽させてくれるんでしょう? ならその人が払ったお金の分は満足させなさい」

 

 え? お金? もしかして私お母さんに売られたの?

 

「うそ……だよね……お母さん……お父さん! お父さん助けて!」

 

「あの人はこの家を出て行ったわ」

 

「え?」

 

「あんたの病気が治ったから借金だらけなのよ。入院費が払えなくてね」

 

 その言葉を聞き、あの日のことを思い出す。夢じゃなかった?

 

「だから、あんたの体で返しなさい。あんた容姿は良いから直ぐに返せるわよ」

 

 病気が治れば幸せになれると思ったのに……家族でまた幸せに暮らせると思ったのに……

 

「あんたは今まで私達の幸せを散々食いつぶしてきたのよ。あんたにはもう幸せになる資格なんて

 ないのよ」

 

「やだ……やだ! やだ! やだよ! 許して! お母さん!」

 

 お母さんに許しを請うたが、言葉は返ってこなかった。

 

「うぅぅ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「じ、時間が無いんだからこれに着替えて欲しいだな。このカメラで取るんだな。

 これ以上時間を無駄にするなら君のお母さんに言い付けるんだな」

 

「……」

 

 私はそれから男の言われるままに衣装に着替えた。幸い衣装室があったので、下着姿を見られることは無かったが、カメラで取られるときはきわどいポーズを取らされた。だが、それ以上のことはなかった。どうやら母が許可しなかったらしい。

 

 私は母が私に気を使ってくれたのだと思ったが、そうではなかった。単に貰ったお金によってやることが替わるらしい。今回はたまたま助かっただけだった。私の初めてはこんな形でなくなってしまうのかと思い、悲しんだ。

 

 でもそれ以上に母に見捨てられたことが一番ショックだった。母に取って私はお金を稼ぐ道具でしかなかった。私が幸せだと感じていたあのころの記憶が音を立てて崩れていった気がした。結局その日は一人しかお客は来なかったので、助かったがいつかは……

 

 その日の夜、私は結局眠ることが出来ず、部屋の真ん中で一人佇んでいた。扉は鍵が掛かっているので、逃げることは出来ない。部屋の中にはお手洗いやシャワールームが用意されており、部屋から出なくても困らないようになっている。

 

 食事は扉の下が開き、おぼんごと出し入れできるようになっていた。まるで囚人のようだと思った。私はもう一生この部屋を出れないかもしれない。

 

「……誰か……誰か助けてよ……」

 

 私は体育座りで声を押し殺して泣いた。何でこうなっちゃったの? 私が悪いの? 誰か教えてよ……

 

 

チャリン

 

 

 部屋の中で何かが落ちる音が聞こえたので、音がした方へ目をやった。

 

「針金?」

 

 何で針金が? ああ、そう言えば、あの男の人が持って来てた衣装の型が崩れないようにって針金で固定させてたのがあったような……私はおもむろに針金を手に取った。

 

「これで鍵開かないかな?」

 

 私はダメ元で鍵穴に針金を入れて、弄くって見た。しばらくやっていたが、まったく開く気配がなかった。

 

「そんなドラマみたいなこと起きる訳ないよね……」

 

 私が諦めようと思った矢先

 

 

ガチャ

 

 

「え?」

 

 扉の鍵が開いた音がした。

 

「嘘……でしょ」

 

 私は恐る恐るドアノブを回し、扉をそっと開けた。

 

「あ、開いてる……」

 

 私はしのび足で部屋から出て、玄関に向かった。

 

「ごめんね。お母さん……」

 

 私は家を飛び出した。しばらく夜の街を当てもなく歩いていた。

 

「これからどうしよう……」

 

 私が途方に暮れていると

 

「ねぇ、その子の君、一人?」

 

 男の人に声を掛けれた。

 

「えっと私ですか?」

 

「そうそう、もし良かったらこれから良いとこ行かない?」

 

 男の人はやらしい目で私を見てくる。

 

「け、結構です」

 

「まあ、そう言わずにただとは言わないからさ。一万でどう?」

 

 何で男の人はこんな人ばかりなんだろう。女性を何だと思っているだろうか。

 

「お断りします」

 

 私が無視して行こうしたら、腕を掴まれた

 

「分かった。なら三万でどうだ」

 

「いい加減にして下さい! 私はそんなことしません!」

 

 私が手を振り払おうとしたら、間違って手が男の顔に当たってしまった。

 

「イッテ! このアマ! こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって!」

 

 男が私の腕を強引に引っ張り、連れて行こうとした。

 

「は、放して!」

 

 私は手を振りほどいて駆け出した。

 

「てめっ! あっ! あぶない!」

 

「え?」

 

 私は必死に逃げようとして車道に飛び出してしまっていた。そして

 

 

ドーーーーン!!!

 

 

 私はトラックに轢かれしまった。体が引き裂かれるような痛みが全身に広がった後、地面に叩きつけられた。

 

「お、俺は悪くないぞ。こいつが勝手に飛び出しんだ!」

 

 男は私を置いてどこかに行ってしまった。私は薄れゆく意識の中で思った。私はやっぱり幸せになっちゃいけないのかな? 私はただお母さんとお父さんと普通に暮らしたかっただけなのに……

 

 

 そこで私の意識は途切れた。

 

 

 でも、私は目を覚ました。真っ白な空間で……そこで神様に会った。何でも間違って死なせてしまったから転生させてくれるとのことだった。転生先は魔法少女リリカルなのはに良く似た世界、そして三つまで願いを叶えてくれると言った。

 

 私は迷わず健康的な体と幸せな家族をお願いした。もう一つは正直なんでも良かった。でもリリカルなのはは好きなアニメだったからどうせならなのはやフェイト達と友達になって普通の学生生活を送りたかった。だから、魔法の才能をお願いした。

 

 

 そして、私はリリカルなのはの世界に転生した。

 

 

~葵の前世~ END

 

 

 私は転生して幸せだった。仲の良い両親、目に入れても痛くないほど大切な妹。でも、幸せだと思うたびに前世の母の言葉が脳裏に過ぎる。

 

「あんたに幸せになる資格なんてない……か」

 

『マスター?』

 

『なんでもないわ、サファイア。早く蒼乃を探しましょう』

 

『イエス、マスター』

 

 私は公園から出て周辺を走り回る。

 

「こんなに見つからないなんて……どこに居るの? 蒼乃……」

 

「あっ! お姉ちゃん!?」

 

 この声は蒼乃!? 私は直ぐに振り返った。横断歩道を挟んだ先に大事な妹の姿があった。

 

「蒼乃……良かった」

 

「お姉ちゃ~~ん」

 

 蒼乃が私に向かって走り出した。いけない! 赤信号よ!?

 

「蒼乃! 止まりなさい!」

 

「え?」

 

 だが、遅かった。既に蒼乃は車道に飛び出していた。

 

「ッ!? サファイ」

 

 私は魔法で蒼乃を助けようとしたが、間に合わず、無常にも蒼乃が居た場所にトラックが通過してしまった。

 

「あっ…………」

 

 私は力なく地面にへたり込み。蒼乃がいたところを呆然と眺めてた。

 

「う……そ、嘘よ……蒼乃……嫌……」

 

 そして、頭の中で前世の母の言葉がフラッシュバックする。

 

【幸せになる資格なんて無いのよ】【幸せになる資格なんて無いのよ】【幸せになる資格なんて無いのよ】【幸せになる資格なんて無いのよ】【幸せになる資格なんて無いのよ】【幸せになる資格なんて無いのよ】【幸せになる資格なんて無いのよ】【幸せになる資格なんて無いのよ】

 

「ああああああぁぁぁ!」

 

『マスター! お気を確かに!』

 

 私のせいで蒼乃が……私の命より大事な蒼乃が……嫌だ嫌だ! 嫌だ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやーーーーーーーーーーーーー!?

 

「こら、蒼乃。急に飛び出しちゃダメだろ」

 

「ごめんなさい……零冶お兄ちゃん」

 

「え?」

 

 声のした方を見ると蒼乃と知らない男の子が居た。

 

「あお……の」

 

 信号が青になり、左右の安全を確認した私は飛び出し、蒼乃を抱きしめた。

 

「蒼乃!? 良かった! 本当に無事で良かった!?」

 

「お姉ちゃん。痛いよ~」

 

「お姉ちゃんに会えて良かったな、蒼乃」

 

「うん! ありがとう! 零冶お兄ちゃん!」

 

「蒼乃、この人は?」

 

「蒼乃がね! 迷子になって公園でワンワンに食べられそうになったところを助けてくれたの!」

 

「食べられそうになった?」

 

「正確には野良犬に襲われそうになったところを助けたんだ」

 

「そう……妹を助けてくれてありがとう」

 

「たまたま通りかかっただけだから、気にしないで。それじゃ僕はこれで」

 

「ええ! 零冶お兄ちゃん、もう行っちゃうの?」

 

「ちゃんとお姉ちゃんに会えたんだからもう良いだろう」

 

「やだやだ、零冶お兄ちゃんとお家帰るの!」

 

「でもな」

 

 男の子が私をちらりと見た。もしかして私に気を使っているの?

 

「あの、貴方さえ良ければ途中まで一緒して貰えないかな?」

 

――いや、そっちじゃなく妹さんを説得して欲しかったんだけど……

 

「はぁ~、分かった途中までだぞ」

 

「わ~い! 零冶お兄ちゃんお手手つなご」

 

「はいはい」

 

 蒼乃と手をつなぐ……えっと誰だっけ? あっそういえば自己紹介してなかったわ

 

「あの、私は」

 

「桜羽葵さんでしょ?」

 

「え? そうだけど……何で知ってるの?」

 

「一応僕も同じ学校で同じ学年だからね。君は有名だよ? 聖祥の4大女神の一人だからね。

 僕は月無零冶、3年2組だ。よろしくね」

 

「え、ええ。よろしく、月無君」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「お姉ちゃんもお手手つなご?」

 

「ええ、わかったわ」

 

 私は蒼乃と手を繋いだ。蒼乃を真ん中に左が月無君、右が私の並びで横一列になって歩きながら、雑談をしながら家に向かう。

 

「月無君は買い物は良いの?」

 

「買い物帰りだったからね。買い物は終わっているから大丈夫だよ」

 

「そうなんだ、何を買ったの?」

 

「新作のゲームと漫画だよ」

 

「ゲームやるんだ。なんてゲーム?」

 

「大激突アタックブラボーズEXって言う格闘ゲームだよ」

 

「ああ、前作が結構話題になったゲームだよね。面白いの? 私やったこと無いから」

 

「僕は好きだよ。単純なキー入力だけど、結構奥が深いところがあるんだ」

 

「一人でやるの?」

 

「僕は友達が居ないからね」

 

「そうなんだ……」

 

 そういえば、春兎と神宮寺以外でまともに話した男の子って始めてかも。不思議……こんなに自然に話せるなんて

 

「ねぇ、月無君」

 

「何?」

 

「変なこと聞いても良い?」

 

「変なことならダメ」

 

「……そこは良いよって言うところじゃない?」

 

「変なことじゃなければ良いよ」

 

「何それ、ふふふ。じゃあ気になった事なんだけど良い?」

 

「それなら良いよ」

 

「これは良いんだ……えっとね。幸せになるのに資格っていると思う?」

 

 私は気になったことを聞いた。いきなりこんなこと聞くなんて変だよね。私どうしちゃったんだろう?

 

「何それ? う~ん」

 

 私は期待している。「資格なんて要らない」とか「誰もが幸せになって良い」とかそんな言葉を……

 

「要るんじゃないかな?」

 

「ッ!? そっか……」

 

 私はその言葉を聞き、俯いてしまった。

 

「うん、幸せになって良いのは幸せを求め続ける人の特権だ」

 

「え?」

 

 私は顔を上げ、月無君の方を見る。

 

「皆が皆幸せになれる訳じゃない。だけど皆が不幸に抗い、未来を求めるんだ。

 そうやって幸せを求めた人が幸せになる資格があるんだと思う」

 

「……もし、それでも幸せになれなかったら?」

 

「そうだな……その時は」

 

「…………」

 

「神様がご褒美をくれるじゃないかな。天国に連れてってくれるとか」

 

「何よそれ……ふふふ♪」

 

 幸せを求め続ける人の特権か……少し気持ちが楽になった気がする。折角、神様がくれたご褒美だもん、目いっぱい楽しまないとね。今度こそ絶対幸せになってやるんだから。

 

「僕、おかしなこと言ったかな?」

 

「ううん、ありがとう」

 

「どういたしまして?」

 

「ねぇ、月無君」

 

「何? 桜羽さん」

 

「名前で呼んで良い?」

 

「お好きにどうぞ」

 

「じゃあ、名前で呼んでくれない?」

 

「気が向いたらね」

 

「な~んだ、つまんないの。ふふふ♪」

 

 私にはまだ恋する気持ちは分からないけど、こういう気持ちは初めて……初めてもっと彼のことを知りたいと思った。これが恋なのかは分からないけど、この気持ちを大事にして行こうと思う。

 

「ここが私の家なの」

 

「そっか、じゃあ僕はここで」

 

「バイバーイ! 零冶お兄ちゃん!」

 

「バイバイ、蒼乃」

 

「またね、零冶君」

 

「じゃあまた、桜羽さん」

 

 私達は零冶君が見えなくなるまで見送った。

 

 

葵 サイドアウト

 

 

零冶 サイド

 

 いや~あせった~、まさかあの子が桜羽の妹だったとは道理で見たことあると思ったよ。しかも横断歩道で飛び出すしよ。心臓が飛び出るかと思ったわ。つい瞬歩使っちゃったじゃんか。

 

『ていうか、ミスト。お前気付いてただろ』

 

『ええ、コピーパペットに預けて貰ってた時に覗きスキルで見てたので』

 

『なら教えろよ』

 

『その方が面白いと思いまして』

 

『お前ほんと自由な』

 

『いや~それほどでも』

 

『褒めてね~よ』

 

 しかし、困ったことに桜羽と知り合いになってしまった。流れ的にどうしようもなかったとは言えこれは失態だ。これから今まで以上に距離を置かなくてはな。

 

『いっその事、葵ちゃんをこっちに引き込んだらどうですか?』

 

『却下。それが一番あり得ない選択だ』

 

『何故です?』

 

『あの子にはあの子の幸せがあるからだ。俺の事情に巻き込む訳には行かない』

 

『どういう意味ですか?』

 

『何で幸せになるのに資格が要るか? なんて聞いたと思う』

 

『ただ気になったからではないと?』

 

『こんな事気になったくらいで聞くはずが無い。あの子とって大事なことだったんだ。 

 おそらく前世が絡んでいるんだろう』

 

『なるほど』

 

『あの子は幸せになりたいと思っている。それを邪魔するつもりはない』

 

『まったくマスターはツンデレなんですから、素直に幸せになって欲しいって言ったらどうです』

 

『べ、別に幸せになって欲しいって思ってる訳じゃないんだからね!?』

 

『止めて下さい。キモイです』

 

『うおおおおい! 乗ってやったのにこの仕打ち…………嫌いじゃないわ!』

 

 さて、ふざけるのもここまでだ。そろそろ闇の書が起動する。ここから気を引き締めないとな。

 

 

零冶 サイドアウト




葵が主人公のハーレム要員になりました~(パチパチパチ


では、零冶の念能力紹介のコーナーです。

次の念能力はこれだ!


6、王の財宝(ゲートオブバビロン)
   系統:具現化系
   説明:念空間を具現化し、そこから物の出し入れを出来る能力
      念空間の大きさは収納している物体の質量の応じて、変化するように
      なっており、ほぼ無限に収容可能
      物体の大きさは1tトラック大くらいは余裕で収容可能
      ただし、出し入れのみのため、原作のような武器の射出は出来ない
      というか必要が無い
      生物は収納できない

   制約
    1、生物は収納出来ない
    2、自分の腕力で持ち上げることが出来ない物体は出し入れできない
    3、収納する際は周で物体を覆わなければならない
    4、ゲートを開くことが出来るのは自分のオーラ範囲のみ

   誓約
    なし


 誰もが一度は欲しいと思うであろう四次元ポケットです。
4次元マンション(ハイド アンド シーク)があるから要らないじゃね?
って思う方もいるかと思いますが、あれはいちいちゲートを開くのが面倒くさいのと
人目に付いたら面倒なので、この能力を作りました。
単純に買い物に便利だしね。いつでもどこでも何度でも取り出せる能力って便利だよね。

制約の補足です
 1、は生きていなければ可能です。主に食材をしまいます。
 2、は出し入れをする際のみです。一度しまえば腕力は関係ありません。
 4、は自分のオーラで満たされた空間という意味です。纏や練でオーラが出ている範囲ということです。
 円でも可能ですので、AUOのモノマネが出来ます。でも射出はできません(笑)

AUOに謝らないとダメかな? 

って感じです。では

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