稲妻の王子   作:heavygear

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タイトル通り王子様が3人出ます。
それでは、お楽しみください。


第三話 三馬鹿王子

 

 

 ここはダエーワ国の港湾都市ミンマヤ。

 

 南方にあるシャンカーラ国と西方諸国を船で結ぶ貿易拠点として有名です。ダエーワ国で作られた米や麦等の食料輸出基地でもあり、各地の特産物が集まるダエーワ国の商業基地とも言えるでしょう。

 港には数多くの船舶が停留し、積荷の積み下ろしをする船乗りや人夫達の賑やかな声が聞こえてきます。荷物の多くは港に隣接する倉庫街を中心に動き、そこでは商人達の交渉する声が響き渡っている事でしょう。倉庫街周辺では、宿屋や食事処といった店が軒を並べ、労働者や訪れた人達の胃袋相手に鎬を削っているようです。

 

 このように、港湾都市ミンマヤは活気に包まれていました。

 

 え?

 洪水が多発するのに港湾都市は大丈夫なのかって?

 大丈夫。つい先日までは、バケツをひっくり返したような長雨続きでしたが、今現在は小雨が少々となり雨季の終わりが近付いている状況です。

 雨季が終わろうとしているので、街が活気付いているのですよ。

 

 活気付いているのは、倉庫街を含む港周辺だけではありません。ミンマヤ全体が活気付いていたのです。ほら、耳を澄ませてごらんなさい。

 聞こえませんか?

 

ワアアアアアアアアアァァ……。

 

パチパチパチパチパチ……。

 

 人々の歓声と拍手が。

 

 『踊るナーナランジャ』が、港湾都市ミンマヤで公演されているのです。長雨で家に閉じこもり気味だった人々にとって、観劇という娯楽は出掛けるのに都合が良い理由でしょうし、新しい舞踏歌劇の存在は好奇心を刺激するのにもってこいですよね。

 それに『踊るナーナランジャ』公演は、普通の演劇と少し違う興行をしていました。

 普通の興行とどこが違うのか?

 

 グッズ販売です。

 

 普通の演劇は見料を取るだけか、飲み物や軽食の屋台を追加で出すぐらいなのですが、こちらは『踊るナーナランジャ』関連グッズを売るという手法を採用していました。

 はい、誰の仕業かみなさんお解かりですね。

 インドラ王子です。

 

 二色版画で作られたポスター、思わず真似したくなるシーンの踊りや歌を書いた冊子、人気のある俳優さん達の肖像を版画した団扇を劇場出入り口付近で販売したのでした。

 勿論、飲み物や軽食の屋台も出店しています。どうしても出る食べかす等のゴミを集めるゴミ箱完備と、マナー向上まで目指すプロデュースぶりです。こういった土地は、普通ポイ捨てが基本ですからね。

 

 てな訳で、連日満員の大盛況ぶりの『踊るナーナランジャ』公演劇場はウハウハ状態でした。

 

 もはや五体倒置が癖になってしまった劇団長37歳は、こう語ったそうです。

 

「インドラ王子があの時、私に良い考えがあると仰られた時は、戦慄が走りました。そして、『ナーナランジャ』の台本を幼い王子が新たに書き起こしたのです。本番当日まで私は不安に駆られましたが、結果は大成功に終わり、神々に感謝の祈りを捧げました。そう、舞踏歌劇の成功とそれをもたらして下さった王子との出会いとをです。……あ、そうそう。喧嘩中だった嫁との仲も良い方向に仲直りできて―――」

 

 惚気が始まりそうなので割愛しますね。

 幸せになって下さい、劇団長さん。

 

 

 

 さて、10歳の誕生日が近付いているインドラ王子は如何御過ごしでしょうか?

 港湾都市ミンマヤに居ました。

 一応弁護しますが、王城から追い出された訳ではありませんよ。『踊るナーナランジャ』ミンマヤ公演を応援するために来られたのです。まあ、ミンマヤ行きを決定したのは、インドラ王子が大嫌いな王妃ティヴィーですけどね。

 視点をインドラ王子へと向けてみましょう。

 

「フリィーーーーダアァーーームッ!!」

 

「ぱおぉ~~んっ!!」

 

 白い子象アイラに跨り、堅苦しい王城を離れての自由を絶賛満喫中です。

 港で色んな船を観賞したり、倉庫街の市場を見学したり、倉庫街周辺の出店で買い食いしたり、アイラの背中でクルクル踊ったりしていました。後ろに傘を持って控える護衛や侍従達は、インドラ王子のハイテンションぶりに少し引いています。

 

「なんか、変わった叫び声を上げてるけど、アレなんて言ってるんだ?(ボソボソッ)」

 

「さあ?(ボソッ)」

 

「おかしいのは何時ものことだし(ボソッ)」

 

 護衛や侍従達も通常運行のようですね。

 アイラはというと、倉庫街の市場で仕入れた南国果実をインドラに食べさせてもらい、御機嫌です。

 インドラがバナナの皮を剝いて、前に突き出せば、アイラの長いお鼻がヒョイっとキャッチ。それからバナナをお口へ運んでハムハムいただく。スイカにドラゴンフルーツ、マンゴーと次々に食べさせてもらい、ウメーウメーとヘヴン状態。勿論、インドラ王子もそれらを最低一口づつはお召し上がりになっております。

 

 さてさて、アイラの背中でまったり御観光中のインドラ王子。とある高級旅館の前を通り過ぎようとしていた所、初めて見る珍しい生き物の姿に目を奪われました。それは金色の体毛に覆われた生き物でした。

 しかし、インドラしかその生き物の姿に注目していません。当然、御機嫌なアイラは真っ直ぐ歩くのみ。進行方向に吊り看板が見えますけど、インドラ王子は気づいていません。

 

ガンッ!

 

「ぐはっ!」

 

 はい、吊り看板に激突してインドラはアイラの背中で倒れました。後ろに控える護衛や侍従達がプッと吹き出した事は内緒にしておきましょう。

 微妙に気まずい状況のインドラ王子といきなり倒れた王子にちょっとビックリなアイラ。『ど、どうしたの?』と、インドラを心配するアイラは本当に良い子ですね。

 

「大丈夫ですか、インドラ王子? ……プッ」

 

「大丈夫。問題ない。……それよりも」

 

 心配して声をかける侍従に、少し赤面しながら無事を伝えます。

 そして、先程から気になっている生き物を指差しました。

 

 金色の羽毛も持つ、その生き物。

 

 それは、巨大な『ニワトリ』であった。

 

「「「…………」」」

 

 護衛や侍従達、それにアイラも呆然としたのは仕方ないだろう。

 しかも、その大鶏の背後には、白い衣に包まれた5人の護衛を含む侍従達が控えているである。その上、キンピカモコモコの大鶏は、金髪の子供の頭をヨシヨシと撫でていたのだ。ガン見――いや、目を奪われてしまうのは仕方ないだろう。

 

「なんだ、あれ?」

 

「ぱおん?」

 

 インドラとアイラは仲良く首を傾げました。インドラの侍従達も首を傾げます。

 頭を撫でられている少年の事も気になり、インドラ王子ご一行は大鶏の側へと足を向けました。

 

「鬱だ……死にたい(ボソッ)」

 

「ッ!? コケーーッ!!?」

 

 凄い言葉が少年の口から零れておりました。宥めていた大鶏もビックリです。どよ~~んと暗い表情の少年を励まそうと必死で、アタフタしてしまい、ストレスでしょうか、辺りに金色の抜け羽毛が飛び散りました。

 

「あ、あの~ぅ? 一体、どうされましたか?」

 

「えっ? あ、あぁ……お恥ずかしい事ながら、実は……」

 

 状況を把握すべく、インドラの侍女18歳が、白い衣の5人組に声をかけました。一人の男がそれに答えようとしています。

 インドラはというと、抜け落ちた金色の羽根の大きさに興味深々で、5人組より上等な上下白いクルタパジャマ姿の少年を放置です。

 

「雨季が終るまで船がでない……ふ、船が………雨でジメジメする……あ、なめくじ………うひひひ……新しい書物が手に入らない……読禁か、絶望した………みんなウザイし………鬱だ………よし、死のう(ボソッ)」

 

「……って、ぅおぉいっ!」

 

 ネガティヴな少年を放置する事にとうとう耐えられなかったインドラ王子は、なんでやねんと結構強めにツッコミました。

 

ゴスッ!!

 

「まそっぷっ!!」

 

「「「「「おうじいぃぃーーーーっ!!」」」」」

 

 インドラ王子のツッコミに、白い衣の5人組が絶叫しました。

 おやおや、ドツカレて面白い悲鳴を吐いた少年は、どこかの国の王子様のようですね。

 

「はっ!!」

 

 後頭部を思いっきり叩かれ、少年はハッと顔を上げます。金髪碧眼で白い肌の少年は、小雨でよれよれになった自身の佇まいを正すと、不安そうに周囲をキョロキョロと見回し、やがてインドラ王子に視線を留めました。

 

「君は誰だい? ボクの名は、ヴィシュヌといいます。クルマー国第二王子ですっ」

 

「…………」

 

「人に挨拶をする時は、まず自分から名乗るものですよ。どうしました? ボクが古い歴史を持つ北の国クルマーの第二王子と気付いて言葉が出ないのでしょうか? フッ……驚きのあまり声も出ないようですね」

 

 突然正気に返ったかと思うと、ボクって超クールと言わんばかりにキザったらしく挨拶を始めた少年。先程までのどんより姿から変わり過ぎだ。インドラは思った。コイツはパネェ変人だ、と。

 

「えぇ~? ……んっ。俺――いや、私はダエーワ国第三王子インドラ」

 

「なん……だって? 驚きました。君もボクと同じ王子でしたか」

 

「ア~、ウン。ソウダネ」

 

「? ダエーワ国の方達とは、これからも仲良くしたいのです。今日を記念として、どうかよろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

 奇妙な出会いであったが、インドラ王子とヴィシュヌ王子が結ぶ友誼への第一歩であった。

 

「んぎぎぎぎぎ、貴様らよくも王子にぃっ!!」

 

「王子っ! ここは我らに任せてっ!!」

 

「コッコッコッ、コケーーッ!!」

 

「パッオーーーンッ!!!」

 

 インドラ王子とヴィシュヌ王子の背後では、それぞれの護衛や侍従達が職務を守って取っ組み合いの争いをしていた事を記しておこう。ついでに、大鶏とアイラも互いに威嚇しあってますね。

 つーか、止めろよお前ら。

 

 

 

 クルマー国第二王子ヴィシュヌ。

 ガルダと呼ばれる金色の大鶏の主人であり、感情の浮き沈みが激しい変わった少年であった。

 

 

 

 ヴィシュヌ王子と出会った翌日。

 昨日と変わらず、インドラ王子は白い子象アイラに跨り、自由を絶賛満喫中であります。後ろに控える侍従達は少々ボロボロの状態ですね。服装じゃありませんよ。お顔とかに引っ掻き傷や青タンが残る方のボロボロです。

 

 昨日はあの後、ヴィシュヌ王子と友誼の宴を開きました。

 自国の王子が他国の王子を殴るという国際問題に発展しそうな騒動を、インドラ王子は宴会で煽て捲ってなあなあで片付けたようです。以外に黒いですね王子。

 その所為でしょうか。朝から遊びに行こうとヴィシュヌ王子を誘ったのですが、『頼まれ事がある』との理由で断られてしまいました。

 しかし、用件が終わり次第遊びに行く約束を取り付けています。それがスケジュール上叶わぬ場合は、手紙のやりとりをしようとヴィシュヌ王子から声が掛けられておりました。他国の王子と知り合えて良かったですね。

 

 さてさて、フリーになったインドラ王子、今日はどこを見てまわるのでしょうか。

 

「今日は思いっきり晴れてるから、海に行こうっ!」

 

「ぱおーん」

 

 海岸へと向うようですね。

 パラソル、カーペット、お弁当の入ったバスケットを持って海水浴に出発です。

 ええ、勿論それらの荷物は侍従と護衛が運びますよ。

 

「ううぅぅぅみだああああぁぁっ!!!」

 

「っ!? ぱ、ぱおーん」

 

 焼ける太陽、熱い砂浜、打ち寄せる波にスーパーハイテンションに突入したインドラ王子は、ひゃっほいとばかりに海に飛び込みました。

 

「今日は脳がトロケるまで遊ぶぜぇーーーーっ! とぅっ!」

 

ザッパーンではなく、ドッポーーーンッ!!!

 

「あみばっ!!?」

 

 浅い部分に飛び込めば、当然の如く底にぶつかります。ついでに雨季による増水で流された物とかにも当たる可能性もありますね。

 しかし、インドラ王子は一味違う。違いの解る少年なのです。

 

 お腹を思いっきり水面に打って悶絶するだけです!!

 

 砂に足を埋まらせながら駆けつけるアイラに、インドラ王子が救助されたのは、飛び込みから約5秒後の事でした。

 

 

 

「はっはっはっ。アイラ、こっちだよ、こっちぃ」

 

「ぱお~んっ」

 

 浅瀬でパチャパチャ水をかけあったりして遊ぶインドラとアイラ。

 キラキラと光る水面に、少年の裸体が眩しい程に輝きます。

 これはいけない。

 ショタ向けサービスシーンが発生しました。

 

「はぁはぁ……うっ!?」

 

 とある侍女独身25歳の鼻から、真っ赤な愛が吹き零れてしまった。前回同様、彼女は護衛の方に拘束され、どこかに連れ去られて行きます。まったく罪作りなお子様ですね、インドラ王子は。

 

 

 

 さて、お日様が真上に達しようとした頃、侍女が声をかけます。

 

「王子ーっ。昼食のご準備が整いましたぁーっ!」

 

「「はーいっ!」」

 

 インドラ王子が侍女達の待機している場所まで駆けると、侍女達がきょとんとした目をしているではありませんか。

 何か変だぞと、インドラ王子が小首を傾げていると、王子の横を砂塗れの真っ黒な手がにゅっと伸びて、用意されたご飯を掴みました。

 

「っ!?」

 

 振り向くと、インドラ王子の側に真っ黒な肌をした少年がいるではありませんか。虎の毛皮で作った腰巻をした黒髪黒目黒い肌の少年が、全身砂塗れで立っていたのです。どこから現れたのでしょうか?

 砂塗れの少年は、驚いた表情のインドラ王子ご一行様に構わず、黙々と食べ始めています。山羊の乳から作ったバターをふんだんに効かせたナン(インド風パン)をウマウマといった表情でゴクンと飲み込みました。

 

「おいおいっ! これ、ウメェなっ! なんだ、これ?」

 

「……ナンだ」

 

「あ? だから、なんだ、これ? って聞いてるだろ?」

 

「だから、ナンだ」

 

「なんだ、これ? って聞いてるだろ?」

 

「ナンと呼ばれる食べ物だ」

 

「なんだってーーっ!」

 

 コイツ馬鹿だ。

 きっと、インドラ王子は思った事でしょう。筆者もそう思いました。

 砂塗れの少年はナンが面白いでしょうか、ケタケタ笑いながら食事を続けます。かなり良い度胸していますね。

 呼んでもいない客にメシを食わせる義理はねぇとばかりに、インドラ王子は彼を追い出そうと試みました。

 

「それはそうと、君、どこの子?」

 

「あん? 俺様の名を知りたいか? ふふん、どうしてもというな――」

 

「別にどうでもいいや。それより、あっち行ってくれない?」

 

「待て! ここは、俺様の名を聞いて驚くところだろうがっ!」

 

 面倒臭い奴だなと、インドラ王子は思いました。

 インドラ王子の後ろでは、『このガキ絞めていいッスか?』と護衛がアイコンタクトを送っています。

 しかし、自分と同じ年ぐらいの少年を大人にボコらせては、精神的に気分が悪くなるだけでなく、低い評判がさらに下がる可能性があるので、『ええから任せとき』とアイコンタクトで答えるインドラでした。

 

「名前は兎も角、なんで人様の食事に参加してるんだよ?」

 

「あぁん? 王子って呼んだじゃねぇか?」

 

「はっ?」

 

「んっ?」

 

「「………」」

 

 しばし見詰め合う二人。

 互いに首を傾げ、二人の動きが揃い、ちょっと馬鹿っぽく見えますね。

 視線がズレた所為でしょう。黒い少年の黒い瞳が、インドラ王子に仕える侍女達を捉えます。

 

「あれ? お前ら誰?」

 

「「「「「「お前の方こそ誰だよっ!!!」」」」」」

 

 インドラ王子様ご一行の心が1つになった瞬間でした。

 

 

 

 

「わはははっ!! 悪ぃ悪ぃ。俺様は、あっちの方にあるシャンカーラ国の第一王子シヴァ」

 

 インドラ王子一行の食事の席に居座ったまま、黒い少年は自己紹介をしました。色とりどりな香辛料の効いたオカズをパクつきながらと、実に図々しいですね。それと、南と言えばいいのに、何故か『あっちの方』と海の向こうを表現しています。

 

「ダエーワ国第三王子インドラ」

 

「おぉっ! 知ってるぞっ! 踊るなんちゃらを考えたヤツだ」

 

 カレーがべったり付いた指で、ビシィッとインドラを指差すシヴァ。

 

「なんちゃらって……はぁ。ん?」

 

「どうした?」

 

「気になったんだけど、シヴァ王子はどこから湧いて出たの?」

 

「そこ」

 

 インドラの素朴な疑問は当然ですね。シヴァは後ろを指差します。

 

「穴?」

 

 休憩用に敷いたカーペットの近くに子供一人が通り抜けられそうな穴が開いていました。

 

「いやぁ、まいったまいった。仙術の修行で潜ってたんだけど、退屈で堪んねぇんだよ。んで、途中でグッスリ寝ちゃってよぉ。王子って声かけられるまで、砂の中でずっと眠りっぱなしだったぜ。わはははっ!」

 

「………」

 

 インドラはシヴァの第一印象を訂正した。

 

 コイツは『本物の馬鹿』だ、と。大丈夫、あなたも五十歩百歩だと筆者は思います。

 

「いやあ、食った食った。よきにはからえだぜっ」

 

「……お粗末様でした」

 

 膨れたお腹をポンポン叩いてご満悦のシヴァに、若干呆れ気味のインドラである。

 

「インドラ王子、そろそろ帰りましょう」

 

 怪しげな自称(仮)第一王子シヴァからインドラ王子を遠ざけようと、侍女が引き上げを提案します。

 

「そうだね、大使館に帰ろうか」

 

 インドラもこれに乗ります。

 

「ちょうどいいっ! ついでに俺様を『夕凪の宿』まで案内しろ」

 

「は?」

 

「だ~か~ら~っ、俺様を『夕凪の宿』まで案内しろって言ってんだよ!」

 

 シヴァの言葉を聞いて、『ヤレヤレだぜ、ボーイ』なポーズをした後、都市を覆う城壁の一角を指差すインドラ。

 

「街の出入り口は、あそこだから一人で勝手に帰れ」

 

 出入り用の門がある方角をしっかり教えようとしました。

 

「さみしいこと言うなよぉ。友達だろ、インドラ?」

 

「何時なったんだよ?」

 

「俺様をつれて帰れっ!」

 

「やだ」

 

「つれて帰れっ! ………でないと」

 

 プンプンと勝手に怒るシヴァ。

 

「でないと、なに?」

 

「つれて帰ってくんないなら、『泣くぞ』っ!!! いいか、泣いちゃうんだぞっ!! ほ、ほんとだぞっ!」

 

 もう、ヤダこの子。

 インドラ王子様ご一行はウンザリしてますね。

 

 なんだかなぁな雰囲気に包まれる中、何かが風を切るような不思議な音が近付いてくるではありませんか。

 

キュルキュルルル………。

 

 あれはなんだ?

 鳥か?

 飛行機か?

 

 いや、『氷の輪』だっ!

 

 って、何それ?

 

 なんだろうと、皆がそれを見上げていると、『氷の輪』はシヴァの上空で停止しました。

 そして、新たな人物の登場です。

 

「「「王子ぃぃっ!! シヴァ王子ぃぃっ!!」」

 

 空飛ぶ『氷の輪』の後を追うように、青い衣を着た黒い肌の複数の男達が、インドラ達の方へと駆けて来ました。何故か運動会でお馴染みの騎馬戦状態で。

 騎手の位置に、これまた何故かヴィシュヌ王子が座しています。さらに彼ら騎馬の後方には、白い衣のヴィシュヌ王子の護衛が続いていました。

 

「「なんだ、アレ?」」

 

「シヴァ王子のお迎えでは?」

 

 侍女の一人が答えます。

 

 

 

「フッ……驚いて声も出ないだろう。これぞ、我が仙術の1つ。索敵飛燕雹輪の術っ!」

 

 ビシィッと格好良くキメるヴィシュヌ王子。

 『氷の輪』を真剣に見つめるシヴァは、それに納得したかのように頷き、唸った。

 

「むう。まさかここで『さくてきひえんひょうりん』の術が見れるとは」

 

「知ってるのか、シヴァ?」

 

「知らん。初めて見たので驚いたぜ」

 

「……さいですか」

 

 シヴァの言葉に、トホホな気分にさせられたインドラ王子である。

 『氷の輪』を手元に引き寄せたヴィシュヌは、解説したくて堪らないとばかりに凄くイイ笑顔で口を開いた。

 

「いいですか。この術の凄いところは、なんといっても――こら、そこっ! おしゃべりするんじゃありませんっ! ……おや? インドラ王子じゃありませんか」

 

「今頃そこに気付くの、ヴィシュヌ王子?」

 

 

 

 三行で話をまとめると下記のようになります。

 

 シヴァ王子が修行すると言って、一人で宿を出る。

 困った侍従が、優れた仙術の若き使い手ヴィシュヌ王子に捜索依頼。

 シヴァ王子発見。

 

 

 

 索敵飛燕雹輪の術は、『氷の輪』が人や物などの探したい物の方向へ飛んで向う術らしいです。人探しの場合は、その人物の匂いが染み付いた物を触媒にすると確実性が増す仕様のようですね。

 

 今回は、シヴァ王子の使用したフンドシを触媒にしたそうです。よく見ると、『氷の輪』の中に長い布切れがありました。

 

 索敵に時間がかかったのは、犬の鼻で探すような仙術のため、前日の雨や砂に潜ったシヴァという条件が重なり、遅れたとの事です。シヴァ王子が見つかってよかったですね。

 

「――と、こう言った次第ですよ」

 

「ソーダッタノカー」

 

「なるほど……よくわからん」

 

 ヴィシュヌ王子の説明に、インドラは棒読みで返し、シヴァは未だよく理解していないようでした。

 しかし、インドラ王子は不思議に思いました。要人が行方不明になったのに、シャンカーラ国の大使館員達は何をしていたのだろうか?

 インドラは素朴な疑問を、シヴァ王子の侍従に尋ねました。

 

「あれ? ん~~っ、どうして大使館の人達に頼まなかったんですか? シャンカーラ国はうちと同盟を結んでいたから、大使館はミンマヤにありましたよね?」

 

「それが……建物はあるのですが、今年の長雨の被害が酷く、補修工事やらに人手が取られてしまって。恥ずかしい事に、宿舎を街の宿を使う始末でして」

 

「そうでしたか。つまらない質問をしてすいません」

 

「いえいえ。幸い、探しものの仙術を使えるヴィシュヌ王子に出会えたので、シヴァ王子が無事保護できましたから」

 

 これにて一件落着のようですね。

 

ポツンポツン……。

 

 おや、雨粒が。

 

「なーなー、降りそうだから早く帰ろうぜ」

 

「そうですね」

 

 シヴァとヴィシュヌは空を眺めて呟きます。

 

 

 

ドジャアアアアアァァァーーーーーッ!!!

 

「げっ! スコールかよっ」

 

「うぁぁぁぁ…………ズ、ズブ濡れ……うひひ……せっかく新調した服が……うぁ……死にたい(ボソッ)」

 

「おいっ! ヴィシュヌって言ったな、早く宿に帰ろ……うぜ? どうしたんだ、コイツ?」

 

「ぅぁぁ………ぃ……あ~めだ~……うひ」

 

 突然の夕立に、テンションがダダ下がりになるヴィシュヌ。

 ヴィシュヌの変わりように、困った顔をするシヴァであった。

 

 なお、この後みんなで仲良く街に帰りましたとさ。

 

 

 

 シャンカーラ国第一王子シヴァ。

 元気いっぱいの馬鹿。

 

 

 

 この出会い以降、彼らはよく集まり、周囲の人達から三馬鹿王子として愛される事になる。

 

 三馬鹿って響きイイよねっ!




どうでしたか?
今回ようやく、ファンタジーっぽい仙術が登場しました。
これからも異世界っぽい物語を表現してゆきたいと思います。

どうでもいい追記

キャライメージですが

インドラは赤い衣を着た赤毛のマイ○ル・ジャク○ンです(ス○ースクリ○ナル時)を想像すると解りやすいかも。

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