精霊の御子 カレは美人で魔法使い   作:へびひこ

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第九話 吸血鬼の少女

 吸血鬼。

 

 吸血鬼の詳しい情報は実のところ少ない。

 人を襲い血を吸う化け物という認識が一般的だろうか。

 しかしなかには理知的で人と共存する吸血鬼という存在もいるという。

 

 総じて個体としての能力が人間より高く、身体能力、魔法的才能などあらゆる面で人間に勝る。

 

 弱点もあるがそれは諸説あって真偽が定かではない。

 有名なのは太陽光と銀の武器、心臓を破壊すれば滅ぼせるというものだろうか。

 

 その中でも真祖と呼ばれる吸血鬼は特別であり、その力はさらに優れている。

 

 真祖と普通の吸血鬼の違いはなにか?

 

 それは人間がなにかの条件を満たして転化するのが真祖。

 

 他の吸血鬼によって一族に招かれたものを普通の吸血鬼とするのが一般的な考え方だが、それが正しいという証拠はない。

 

 なぜなら吸血鬼から情報を得ること自体がまず困難であり、真祖ともなれば存在を確認することさえ不可能に近いからだ。

 

 吸血鬼と出会い、平和的に話し合える可能性など限りなく低く。

 なかでも真祖に出会えるなど伝説の生物に遭遇する可能性を論じるようなものだ。まったく現実的ではない。

 

 そして目の前にいるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはその真祖の吸血鬼である。

 司としては冗談だと言って欲しい。

 

 なぜ自分がそんな伝説級の存在と関わらなければならないのだろう?

 

 

 

「わたしのことはもう聞いたか?」

「一応先生から聞きました」

 

 これで知らないなどといったらどうしてくれようかという目で睨みつけられて司は内心近右衛門を罵っていた。

 

 ……先生。そういう大事なことはもっと早く教えてください。

 

 司の内心など気にもせずにエヴァンジェリンは話を進める。

 

「呪いのことも聞いたな?」

「ええ、サウザンドマスターという人がかけたと」

 

 そしてそれの解呪の約束をすっぽかした。

 とは続けない。なんとなくそれをいうと怒られそうな気がしたからだ。

 

 夕映とのどかの修行開始から一日が経ち、二人はもう外へ出ている。

 別荘の中にはエヴァンジェリンと司の二人だけだ。

 場所を移して室内で二人は向き合って座っている。

 

「その解呪を依頼されたはずだが?」

「確かに依頼はされました」

 

 それは間違いない。

 そしてこうも言われた。

 

「これは麻帆良の長としての正式な依頼じゃ。この依頼を司くんは断れなかったということにしてほしい」

 

 つまりこの件に関して司は近右衛門の依頼で動いただけで責任を持たないでいいという意味だ。責任は強制させた自分にあると。

 

 司は少しばかり考えざるを得ない。

 つまり近右衛門はこの件で司が非難される可能性を考慮しているということだ。そしてそうなった場合『自分が命じた』とその責任を引き受ける気なのだろう。

 

 この人物の呪いを解くことはそういう問題を引き起こす可能性があるということなのだ。

 

「解呪は可能か?」

「その前に確認したいことがあります」

 

 自分の問いが無視されて不快そうな顔をするエヴァンジェリンに司は尋ねる。

 

「あなたはなぜ呪いをかけられたのですか?」

 

 なにしろ簡単な事情しか知らされていない。

 これではなにも判断が出来ない。

 むしろそうであるように近右衛門は詳しい情報を与えなかったのだろう。

 

 司が知らされているのは、エヴァンジェリンが真祖の吸血鬼であること。

 

 かつて賞金首にもなった『闇の福音』という高名な魔法使いであること。ただし現在は賞金首指定は凍結されていること。

 

 サウザンドマスターという人物によって麻帆良に期限付きで封じられたこと。

 

 三年という期限を過ぎても彼が解呪に来ず。そして誰も解呪が出来なかったため十四年も麻帆良に閉じ込められていたことぐらいだ。

 

 なにも知らずただ近右衛門の指示によって封印を解いた。

 それならその行為を軽率だと指摘されてもそう指示したのは麻帆良の学園長である近右衛門であり、その近右衛門自身が詳しい情報を与えなかったとすれば司を責める者は少ないだろう。

 

 司は麻帆良に来たばかりであり、日本育ちの日本の魔術師のため西洋魔法使いの世界について疎い。

 事情を知らない子供になんの情報も与えずに呪いを解呪させた近右衛門こそが責められる。そういう流れになると近右衛門は読んでいるのだろう。

 

 けれど司はそれが気に入らない。

 いつまでも子供扱いをする。と反発も感じているし、師にすべての責任をかぶせて平気な顔を出来るほど図太い神経もしていない。

 

「わたしが呪いをかけられた理由か? 知ってどうする?」

「納得がいかないようなら協力できません」

 

 エヴァンジェリンは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「じじいはやれと言ったのだろう?」

「僕が先生の言いなりになる理由はありませんから」

 

 司はそこも気に入らない。

 麻帆良に来たからには麻帆良の長に従うのが当然だと近右衛門でさえ思い込んでいるようなのがまた気に入らない。

 

 藤宮はあくまでも麻帆良とは対等な外部勢力だ。

 

 司は確かに麻帆良学園中等部に入学した。けれど麻帆良の魔法使いの組織に属することを了承してはいない。

 その命令を聞くいわれはないのだ。

 

 

 

 

 エヴァンジェリンはその瞳に苛立ちと興味を浮かべて司を見ていた。

 それから小さく笑った。

 

 これは駒にはならない男だと。

 

 初めて見たときは近右衛門は良い手駒を手に入れたと思ったが、こうして実物と話してみると自分の思い違いに気がつく。

 

 自覚があるのかないのか知らないがこの男は誇り高い。

 誰かの操り人形の立場に満足する気性ではなく、操る糸を引きちぎる力も持っている。

 温和な性格がそれを覆い隠しているが、その本性はしれたものではない。少なくともただのお人好しの少年などではない。

 

「おまえはおもしろいな」

「急になんです?」

 

 不思議そうな顔をする少年にエヴァンジェリンは今度は上機嫌に笑った。

 かまわない。むしろエヴァンジェリン好みの男だ。

 

 似ていないと思っていたナギと司の共通点を見つけてエヴァンジェリンは楽しくなってきた。

 

 これもまたナギとはタイプは違うが我が道を行く男だ。

 他人の言いなりにはならずに自分の誇りと価値観に従って進んで行く芯のある男だろう。

 

「いいだろう。おまえをわたしの話を聞く価値のある男だと認めよう」

 

 そう大仰な物言いでエヴァンジェリンは話し始める。

 

 真祖の吸血鬼、その六百年の生き様を。

 

 十歳の誕生日に知らぬ間に吸血鬼にされ、それを行った男を殺した。

 

 人間の世界では魔女として追われ、それはどこに行っても変わらなかった。

 安穏の生活などどこにもなく、ただ吸血鬼であるというだけで魔法使いたちに命を狙われ続けた。

 

 自身を守るために戦いの技術を身につけ、魔法の腕を磨いた。

 襲いかかるすべての敵を殺し続け、いつの間にか賞金をかけられ『闇の福音』などの異名で呼ばれていた。

 

 そしてナギ・スプリングフィールドと出会った。

 それが高名な英雄である『千の呪文の男(サウザンドマスター)』であったが、そんな名声よりもその人柄に惹かれ彼につきまとった。

 

「あの男を手に入れたい。そう思ったのだ」

 

 懐かしくその当時を思い出しエヴァンジェリンはそう胸の内を語った。

 

 欲しかったのだ。あの太陽のような男が。

 

 力強く、眩しいばかりのエネルギーに溢れていた男。この世界のあらゆる不幸も災厄も理不尽も笑って薙ぎ払ってしまいそうな程に破天荒な男。

 

 あの男を得られれば、こんな自分でさえ別のなにかになれるのではないかと思わせたナギ・スプリングフィールドが。

 

 そしてナギによって呪いをかけられ麻帆良に預けられた。

 三年経ったら呪いを解きにくると約束してナギは去って行った。

 

『光に生きてみろ』

 

 そう言っていたが、自分は結局光に生きることが出来たのだろうか。十四年たってもはなはだ疑問だった。

 

 女子中等部で三年間過ごす。

 そしてクラスメイトたちは卒業し、エヴァンジェリンはまた一年生に戻される。

 

 ただ虚しいだけの毎日だった。

 

 なにも意味などなく、ただ時間が無為に過ぎ去るだけの日々。

 危険こそないに等しいが、同時に心躍らせるものもない生活。

 

「それが光というものならわたしはいらないと思ったよ」

 

 しみじみとエヴァンジェリンは言葉をつむぐ。

 

 不思議と素直に自分の心情を語れる。本当に不思議だ。

 司は穏やかな瞳でただ自分の話を聞いている。

 

 同情も嫌悪をなく、ただあるがままを受け入れるようなそんな瞳がエヴァンジェリンを映していた。

 

「エヴァンジェリンさんは、呪いが解かれたらなにをしたいですか?」

「そうだな。ナギを探したいが、情報がない。あの馬鹿がそう簡単にくたばるとは思えないからひょっとしたらどこかに身を隠しているのかもしれない。探したいが……」

 

 彼が死んだという噂が流れてからもうかなり経つ。彼の足跡を追いかけるには時間が経ちすぎたと悔しく思う。

 もしあの時に自分が自由の身だったら即座にナギの足取りを調べて追いかけただろう。

 

「他には?」

 

 柔らかい笑顔で司が尋ねる。こんな笑顔を向けられるのはいったいいつぶりかと考えて苦笑する。

 まるで聖母のような慈愛を感じさせる。そう言ったら彼はひどく嫌がるのだろうなと意地悪く思った。

 

「そうだな……旅に出るのもいいかもしれん。行くあてもなくふらりとな」

 

 ふと口に出たが、考えてみればそれも魅力的に思えた。

 今の時代十四年の月日は長い。世界も自分の知る姿からずいぶん変わっただろう。

 

 ただ気ままに旅をして、そしてナギの噂でも聞けたら言うことはない。

 ナギの消息はわからずとも代わり映えのない日々を過ごしてきた今の自分から見ればただ世界をさすらうことがとてつもなく魅力的に思えた。

 

 あらゆる束縛を受けずにただおのれの意志のままに世界を歩く。

 思えばそんな簡単なことも今の自分は出来ないのだ。

 

 

 

 

 そんなエヴァンジェリンを見つめて司は決心した。

 これが正しいのだとすとんと胸に落ちていく。

 

 彼女は救われたがっているのだ。

 

 自覚しているのかはわからないが、終わりのない牢獄の闇から救われることを切望している。

 

 ならばその手を取ろう。

 その手をつかんで彼女が望む世界への一歩の手助けをしよう。

 

 ナギという人物がなにを思って彼女を麻帆良に閉じ込めたのかはわからない。

 おそらく平穏とはほど遠かった彼女の生き様を知り、つかの間の平和な暮らしを与えたかったのではないかと思う。

 

 そして彼女は平和な時間を過ごし、再び自由を望んでいる。

 傷つかないようにと籠に入れられた鳥は、再び大空を飛びたいと願っている。

 

 ならばそれを叶えよう。

 

 元賞金首? 大勢の魔法使いを殺した?

 そんなものは自分には関係がない。

 

 今目の前にいるのはただ外の世界に惹かれ、そこを自分の足で歩くことを夢見る女の子がいるだけだ。

 泣くことも出来ず絶望している女の子がいたら手を差しのべるのが男というものではないのか?

 

 

 

 

「エヴァンジェリンさん」

 

 司が綺麗な笑顔を浮かべた。思わずエヴァンジェリンでさえどきりとした。

 

「あなたはもう光を知っている。あなたはそれに手を伸ばしたいと願っている」

 

 なにを言いだすのかと笑い飛ばしてやりたい。けれどまるで本物の聖女でも現れたような笑顔になにも言えなかった。

 

「あなたの歩む道が幸福でありますように、その伸ばした手のひらが温かい光を得られるように」

 

 引き込まれるような温かい笑顔に自然に目が、意識が、心が吸い寄せられていく。

 そして一瞬感じた違和感にはっとした。

 

 自分自身が信じられない。この自分が、真祖の吸血鬼『闇の福音』がたかが子供の表情と声に気を取られてまったく気がつかなかったのだ。

 

 自分の周囲にすさまじいばかりの魔力が集まっていた。まるでそれが当たり前であるかのようにほとんど違和感もなく。

 

 ナギが自分に呪いをかけたときとは何も彼もが違う。

 あの時はその魔力の凄まじさに圧倒される思いだった。しかし今感じているのはまるで天から救いの手が差しのべられたような安堵感だ。

 

「……なんだ、これは」

 

 呆然と呟く。

 

 理解出来ない。

 ここまで強力な魔力を感じながらまったく危機感を抱かない。今まで経験したことのない感覚だった。

 

 司の言葉は続く。

 

「全身に光を浴びてあなたが笑えるように。すべての精霊はあなたの自由と幸福を望み、ここに祝福します」

 

 司の言葉と共に全身に魔力がみなぎる。

 司の魔力と融和し、司の魔力によって引き出されたエヴァンジェリンの魔力。

 二人の魔力は呪いの精霊をことごとく打ち払った。

 

 エヴァンジェリンは呆気にとられた。

 誰にも解けずにその身に馴染んですらいた呪いが呆気なく崩壊した。

 

 もはや司の導きがなくてもエヴァンジェリンは自身の魔力を望むままに引き出せる。

 頭が上手く働かない。

 ただ自分自身の両手を見下ろし、身体に流れる魔力を感じ、有って当たり前であった呪縛が無くなっている事実に驚愕した。

 

「……呪いが解けたのか?」

 

 自分の声とは思えない。力のない声だった。

 

「はい、解きました」

 

 それを笑うでもなく、不思議に感じた様子もなく。まるでなんでもない事のように司は肯定した。

 

 エヴァンジェリンが独力での解呪を研究しつつも挫折し、近右衛門でさえさじを投げたあのナギの呪いをこの少年は椅子に座り笑顔のままに解いて見せた。

 

 エヴァンジェリンでさえ少年がなにをしたのかわからなかった。

 

「これが……精霊術か」

 

 確かにこれは警戒に値する。極東の弱小勢力だなどと笑えない。

 まるで神の奇跡でも見たかのような気分だった。

 呆然と、ただ自分の感じたあの体験を反芻して呟く。

 

「はい、これが本物の精霊術(・・・・・・)です」

 

 少し悪戯っぽく少年が笑った。

 

 なにをしたのかはわからない。

 しかしこの少年が誰にも解けなかった呪いを苦もなく解いたのは確かだ。

 

 これでわたしは自由だ。

 

 そう胸中で呟いてもあまりの事に歓喜さえ湧いてこない。それどころか不意に空虚な想いが溢れる。

 

 エヴァンジェリンの胸の内に麻帆良での十四年の生活が思い返されていた。

 

 最初の三年間は良かった。

 

 三年後のナギとの再会を楽しみに、慣れない日本の学生生活に四苦八苦した。

 しかしナギは現れずに親しくなった日本の少女たちは卒業と共に自分を忘れてしまった。魔法によって記憶を封印されたのだ。

 

 呪いは解けず再び学校に通わなければならないと聞いたとき、エヴァンジェリンは深い絶望を感じた。

 それは三年後に再び、知り合ったすべての少女たちに忘れられてしまうということなのだ。

 

 確かに必要なことかもしれない。エヴァンジェリンがずっと中学生を続けるためにはそうしなければ問題が起こりかねない。

 

 けれどその当時のクラスメイトの顔を、自分を呼ぶ声を思い出す。

 世話好きなお節介がいた。西洋人に憧れて自分を可愛がってくれたうっとうしいが気のいいやつもいた。気むずかしいが不思議と気の合う友人もいた。

 

 彼女たちはすべてエヴァンジェリンを忘れた。

 

 進学し、エヴァンジェリンとすれ違ってもその容姿を珍しがるだけで、かつて見せてくれた親しみなどなくなっていた。

 

 それからはもうエヴァンジェリンは級友と親しく接することはなくなった。

 

 どうせ忘れられてしまうのだから。

 親しくなっても辛いだけだから。

 

 それから数年が経ち、ナギが死んだと聞いた。

 近右衛門やその当時麻帆良にいた魔法先生たちもさすがにエヴァンジェリンを哀れみ呪いの解呪に奔走したが、結局解けなかった。

 

 やがてエヴァンジェリンは孤立した。

 

 エヴァンジェリンが必死に麻帆良の生活に馴染もうとしていたことを知っている古株の魔法使いたちは次々と麻帆良を去り、代わりに来たのはエヴァンジェリンの悪名だけを知り偏見の目でしか彼女を見ない者たちばかりになった。

 

 クラスに馴染もうとしないエヴァンジェリンは表でも問題児であり、裏では『闇の福音』として恐れられ疎まれた。

 

 そこに光などなかった。

 光はエヴァンジェリンにつかの間の夢を見せ、すべてを奪い去っただけだった。

 

 もし。

 もし約束の三年でナギが呪いを解いてくれたら、自分は素直に光と共に生きる生き方も悪くないと思えたのだろうか?

 

 もしそのときに司のように自分を解放できる魔法使いがいたならば?

 

 首を振って感傷を振り払う。だがその動作さえ重苦しく。億劫だった。

 

「わたしは自由になったんだ……」

 

 今はただ喜ぼう。解放されたことを。自由を取り戻したことを。

 過去を想っても仕方がないのだから。

 

 ふわりと心地よい香りが自分を包み込んだ気がした。

 気がつくと自分の正面に司がいて、自分を抱きしめていた。

 

「なにをする……放せ」

 

 拒絶する声も自分でも情けなく思うほどに弱々しく震えていた。

 

「だいじょうぶ、あなたはもうだいじょうぶです」

 

 心に染み渡るような優しい声と温かい人の体温に思わず涙がこみ上げてきた。

 優しい手つきでまるで髪をすくように頭を撫でられる。

 

 なにがだいじょうぶだ。

 ガキに心配されるほど落ちぶれていない。

 

 そう怒鳴り返したかったが、声が出せない。

 目から涙が溢れ出し、いま口を開くとみっともなく大声で泣きだしてしまいそうだった。

 

 司の胸に抱かれて黙って涙を流す。

 

 なぜ。

 

 なぜおまえのような奴がもっと早くわたしの前に現れなかったのだろうな?

 囚われの姫を気取る気はないが、助けに来るのが遅すぎだと文句を言いたい気分だった。

 

「十一年も待たせたのだ……遅すぎだ、馬鹿め」

「はい、遅くなりました」

 

 理不尽なエヴァンジェリンの文句も司は優しく受け入れる。

 

 ああ、ナギ。

 おまえはなぜあの時来てくれなかった。

 そして今なぜわたしの前にいないのだ。

 

 おまえがそんなざまだから、わたしはこんなガキの前で泣く羽目になったのだ。

 そんな腑抜けた男だとわたしのようないい女をガキにとられるぞ?

 

 ああ、温かいな。

 わたしをこうやって抱きしめてくれた人はいつ以来だろう?

 

 ナギは声をかけてくれたが抱きしめてはくれなかった。

 この子供はなぜ化け物である自分にここまで優しくなれるのだろう?

 

 別に愛してくれているわけではない。この身に惚れているわけでもない。

 

 心も身体もとろかすような優しさと暖かさに包まれながらエヴァンジェリンは笑みを浮かべた。

 いつもの斜に構えた笑顔ではなく、ただこの少年の暖かさに幸福を感じる少女のような素直な笑顔だった。

 

 しばらくこの子を見守ってみよう。

 どうせ暇を持てあましていたのだ。かまうまい。

 




 こんなのエヴァじゃない。
 エヴァはこんな簡単にデレない。
 書いている僕でもそう思いましたから、そう思う人は多いかもしれません。

 原作でも結局最後までネギに恋愛感情を持たなかった感じのエヴァですからね。
 結局ネギはエヴァにとってはナギの息子でしかなかったのだろうなと思います。

 ちなみに僕はエヴァも大好きです。
 そして女の子が弱ったときに優しくして落とすのは定番だと考えています。

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