アルドノア・パニック!?   作:灰音穂乃香

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FAZE08 『決闘』

2016年3月19日 13時24分 アメリカ チャールストン トゥアハー・デ・ダナン。

 

和哉達がニューオリンズで戦闘を終えてから、一週間。

 

現在トゥアハー・デ・ダナンには待機命令が出ており、和哉達は束の間の休暇を満喫していた。

 

そんな折りである。

トライデント基地が陥落したとの知らせが届いたのは…。

 

「しかし…補給のタイミングを狙われるとはな…」

 

「あれだけ、大きくドンパチした後だからな…補給は想定出来た。

それに、入念にデータの洗い出しとタルシスの持つ未来予知能力が加われば十分に可能だ……と言うのが界塚准尉の見解だ」

 

渋面を作る宗介に引き延ばされた監視衛星の映像を見ながら優真が言う。

 

「それで?出撃命令は出たのか?」

 

「いや、まだのようだ」

 

和哉の問いに宗介は肩をすくめる。

 

「全く…上の連中は何を考えてるんだろうねー」

 

「さてな…火星との戦力差を推し量ることのできない無能連中なのか、何か作戦があるか…」

 

「作戦ねぇ…」

 

和哉の知る限りを現状の地球軍の戦力で戦況を変えるとなると核などの大量破壊兵器を用いる以外は無い。

 

「ところで最近、杉原の姿を見ないんだが?」

 

「ああ…今は自室に閉じこもって何か作業をやってるようだけど…」

 

宗介の疑問に答える和哉。

ノヴォスタリスクでの戦闘後、彼女は自室に籠もって作業を行っている。

この限りなく不利な戦況を打破するとなれば大量破壊兵器以外の手段があるならばラムダドライバ搭載機を量産するしかない。

しかし、そのために必要な材料や人員を用意できるとは思えないのだ。

 

『どうするつもりだろう…千紗のやつ』

 

彼女ならばあり合わせの材料でラムダドライバ搭載機を制作してしまいそうな気もしなくも無いがやはり、一抹の不安は拭えない和哉であった。

 

2016年3月19日 16時35分 ヴァース帝国・月面基地

 

 

月基地へと二体のカタクラフトが入港する。

マリルシャンの駆るハーシェルとバルークルスの駆るオクタンティスである。

アセイラムに面会を求めた二人にレムリナが応じたのである。

 

「アセイラム姫におかれましては、このような突然の謁見をお許しいただき。

恐悦至極に存じます」

 

ハーシェルのコックピットから出たマリルシャンが膝を付き、そう挨拶する。

 

「マリルシャン伯爵、バルークルス伯爵には軌道上の守りを固めていただき、大変感謝しています。

本来ならば地球に降りて領地を広げたいところでございましょう」

「地球の占領は私と志を同じくするものに任せております故、ご心配には及びません」

 

「そう、それはよかった」

 

「それよりも、アセイラム姫に折り入ってお話がございます」

 

マリルシャンの言葉に、隣ねバルークルスが何かに気づいたように見開く。

 

「先代のザーツバルム伯爵亡き後、月面基地とアセイラム姫殿下をお守りする近衛兵の任についてでございます」

 

「その件については心配には及びません。

私が滞りなく引き継いでおります」

 

その言葉にスレインが返答するもマリルシャンは続ける。

 

「アセイラム姫。

殿下のお側にお仕えする名誉、私に授けてもらえないかとお願いに参りました」

 

マリルシャンの言葉に驚いたような表情を浮かべるアセイラム。

 

「しかし、マリルシャン伯爵…」

 

「口を挟まないでいただきましょうか、地球人」

 

反論しようとしたスレインの言葉を待たずして、マリルシャンが声を上げる。

 

「ここは、ヴァース帝国の御旗を掲げる砦。

姫殿下救出の功労者たる、先代ザーツバルム伯爵が任を賜るならば遺憾ながら容認しましょう。

しかし、養子とはいえ地球生まれの貴公がその任を引き継げるとでも?

 

誇り高き王族の住まわれる場所に卑しき者が足を踏み入れるだけでも許されぬ諸行。

揚陸城を持たぬものが伯爵を名乗るのも筋違い、貴公にここを守る資格など端からありません」

 

「なら、どうするのです?」

 

「私のハーシェルと貴公のタルシス、どちらが姫を守るのに相応しいか明らかにしましょう。

私は今、この場でトロイヤード伯爵に決闘を申し込む!」

 

マリルシャンはそう宣言するとスレインに指を突きつけた。

 

2016年3月20日 11時37分 ヴァース帝国・月面基地

 

「ゼブリン伯爵、ラフィア伯爵、オルガ伯爵。

この度はご多忙の中、お集まりいただきありがとうございます」

 

『傷み入ります、トロイヤード伯爵』

 

中空に投射された通信画面にスレインが頭を下げる。

 

画面に映る騎士たちを代表して答える女性騎手。

 

『ザーツバルム卿は残念だった』

 

『ええ…』

 

『父親には生前、大変世話になった。

できることがあれば協力は惜しまん』

 

「お気遣いは感謝します。

しかし、今は個人の感傷に浸っている場合ではありません」

 

『これは殊勝な…』

 

 

『今こそ、我らが軌道騎士が一丸となって進行を押し進めるべき』

「はい、全ての船が同じ方向へ進まねばなりません」

 

『なるほど…』

 

『で、君がその舵取りをすると?』

 

「僭越ながら…」

 

『時に、マリルシャン伯爵と決闘をなさるそうだが…。

 

一丸となる時に争いはどうかと思うのだが…これについてはどうお考えか?

トロイヤード伯爵』

 

既に、先日マリルシャンからの決闘を受けたことは既に軌道騎士達に知れ渡っているのだ。

 

「地球人風情が…」

 

 

だが、その事を突かれるのは予め予想済みである。

故にスレインは淀みなく答える。

 

「地球人風情が我らヴァースに叶うはずが無い。

その思い込みが綻びを生み、やがて大きな穴となっていつか決壊する。

それが今の軌道騎士です」

 

『!!』

 

『口がすぎるのでは無いか!トロイヤード卿!!』

 

「ご承知のように私はヴァースの生まれではありません。

ですが、輪の外にいるからこそ見えるものもあります。

此度の決闘も軌道騎士の思い上がりによるもの、それを戒めるのも私の責任かと……」

 

『……なるほど、一理ある』

『オルガ卿!』

 

『確かに認めがたい、だが事実だ。

少なくとも、今回の件はその一部だ。

貴公に委ねよう、トロイヤード卿。

 

トライデント基地襲撃は見事であった』

 

そう言葉を残すとオルガ卿からの通信が切れる。

 

「ゼブリン伯爵、ラフィア伯爵。

数々の無礼な発言、御傾聴頂き、感謝致します」

 

スレインはそう言うと画面に移る二人の騎士に頭を下げたー。

 

2016年3月25日 12時55分 月面基地・ゲート前

 

『卑しきものの高慢なる振る舞い、目に余ります。

ヴァース軌道騎士の名誉にかけて成敗致しましょう』

 

『私利私欲の為、みだりに官職を奪う行為、秩序ばかりか治安も乱します。

姫の警護を司る者として制裁します』

 

「これより、マリルシャン伯爵とトロイヤード伯爵の決闘を行う。

初め!!!」

 

迎えた決闘当日、月面基地・ゲート前でマリルシャンとスレインが宣誓を行い、バルンクルスの合図と共に赤と白、二体のカタクラフトは発進した。

 

―同日 13時00分 ハーシェル コックピット

 

「噂通り、逃げ足の早いこと…。

しかし…このハーシェルの攻撃から逃げきれますかな…」

 

基地を発進後、スピードを上げて月の表層へと躍り出ると、同時に近接武装であるブレードを展開。

斬りかかってくるタルシスをビームライフルで牽制する。

それを回避すると同時に背中を向けて飛行するタルシスへマリルシャンはそう言い放つとハーシェルの固有武装を展開する。

装甲が開くと共に、放たれたのは遠隔無線誘導兵器である。

スラスターに火が灯ると同時にタルシスへと向かったそれらが一斉にビームを放った―。

 

―同日 13時10分 タルシス コックピット

 

「くっ!」

 

タルシスの特殊装備である未来予測を用いてもハーシェルの誘導兵器のオールレンジ攻撃に対処するのは難しく、放たれるビーム機体を掠めていく。

 

『誘導兵器は搭乗者が対象を認識してなければ追尾できない…』

 

そう心の中で呟くとスレインは手元のコンソールを操作、機銃で前方の地面を撃ち、発生した砂埃に身を隠しながらその場所へと機体を向けたー。

 

 

― 同日 13時20分 ハーシェル コックピット

 

「なるほど…多少は知恵の回るようですが…」

 

土煙に紛れて誘導兵器をやり過ごすタルシスを上空から観察するマリルシャン。

 

だが、タルシスが向かう先には途中で道が途切れ、変わりに深い渓谷が広がっている。

マリルシャンは誘導兵器と共もタルシスの後を追いかける。

 

渓谷を飛行するタルシスの行動範囲を誘導兵器で狭めながらビームライフルを放つ。

時折、タルシスが機銃で応戦するも動き回る誘導兵器に当たる気配すら無い。

 

『ああ、なんと脆弱なんでしょう…』

 

既に決闘に勝利した気分でいるのかその顔には笑みを浮かべていた―。

 

― 同日 13時40分 タルシス コックピット

 

モニターに表示される警告に焦りを覚えながら機体を走らせる。

『見つけた!』

 

渓谷を抜けて、小惑星の陰を飛行しながらスレインはそれを発見する。

小惑星に作られた縦穴である。

躊躇無く縦穴へと入るタルシス。

 

『逃げ場はありませんよ』

 

マリルシャンのあざ笑うような声が通信機越しに聞こえる。

 

「逃げ道が無いのはアナタです」

 

そんなマリルシャンに対してスレインは静かに言うと踵を返し、誘導兵器に向けて再度機銃を放ち迎撃する。

 

「ハーシェル最大の武器は全周囲からの同時攻撃。

しかしここでは攻撃は一方向からに限定される」

 

『くっ!』

 

誘導兵器が破壊され、マリルシャンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてその場から離脱する。

 

「月面基地建築時に使用した資材搬入路。

ここを探していた」

 

『貴様ごときに…この私が!』

 

唸るようなマリルシャンのな声と共にハーシェルが手にしたビームライフルを連射する。

 

無論、そのような攻撃はタルシスの前では無意味に等しい。

 

右腕部のシールドから鋏を展開すると瞬く間にハーシェルとの距離を詰める。

 

『舐めるな!地球人ー!!!!』

 

マリルシャンの言葉にスレインは僅かに眉を顰め、次の瞬間にはハーシェル

首を斬り飛ばしていた。

 




灰音です、予告通りスレインVSマリルシャンの戦闘を描かせてもらいました。
アニメの方は完結しましたがこちらの物語はあと少し続きますの

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