2016年2月20日 6時45分 大西洋上 トゥアハー・デ・ダナン 食堂。
「何故、ガウルンがこの世界にいるんだ…」
苦虫を噛み潰したような表情で宗介が言う。
釈然としない表情の宗介と反対に優真は何となくではあるが、ガウルンが何故この世界にいるのか予想はついていた。
恐らく、優真や宗介達と同じようにこの世界に飛ばされてきたのだ―。
「私たちと同じように何らかの理由でこの世界に来たんだと思う」
と、千紗が優真と同じ意見を述べる。
「とりあえず、解らないことをあれこれ言うのは一旦やめにして、目の前の作戦について考えませんか？」
テスタロッサの言葉に優真達は頷く。
現在、トゥアハー・デ・ダナンには地球軍からの司令でニューオリンズを占領した火星騎士セルナキスのカタクラフト、ソリスを撃破するために作戦に出ていた。
このソリスは頭部に搭載した高出力レーザー砲による超長距離射撃能力を有するカタクラフトである。
サテライト・ベルトにまで、届くその最大射程に開戦から16ヵ月がが過ぎても攻略出来ずにいた。
「不可視型ECSを展開した状態でソリスに接近、破壊すれば良いのでは?」
軽く手を挙げてそう言ったのは優真であった。
2016年2月21日 10時05分 ニューオリンズ。
ソリス-コックピット内。
己の機体に向けて飛来するミサイルをレーザーによって迎撃しつつ、セルナキスはレーダーを確認する。
「これは…どう言うことだ」
だが、レーダーを含むあらゆるセンサーに反応が無いために目を見開く。
すかさず、ミサイルの第二波が飛来するが、これも迎撃。
「ミスリルか！！」
後方へと下がり、爆風を避けながらその可能性に思い至る。
地球でセルナキスの耳にも異世界から来たと言われるその部隊の噂は耳に入っていた。
意志を具現化する兵器も厄介ではあるが、光学迷彩を展開した状態で近づかれれば打つ手は無い。
ソリスの放つレーザーは射程こそ長いが、攻撃範囲は狭い。
そのため、広範囲に照射して周囲を焼き払うと言う方法も取れない。
『…既に敵のカタクラフトは上陸していると考えるべき…』
そう考えたところでセルナキスの意識は途絶えた。
背後から突然に現れた小型カタクラフトがソリスのコックピットにブレードを突き刺したからだ。
2016年2月21日 18時16分 トロイヤード城。
「諸侯の動きは如何ですか？」
車椅子に乗った少女がスレインに問う。
少女の名はレムリナ、前皇帝・ギルゼリア平民の娘との間に生まれた娘である。
ノヴォスタリスクでの戦闘の折、アセイラムがザーツバルムから受けた銃弾は脳を大きく傷つけた。
それによって彼女は今なお意識不明の状態なのだ。
そこで白羽の矢が立ったのがレムリナである。
ザーツバルムがレムリナをアセイラムの替え玉とすることを思いついたのだ。
「表立って反発を示しているものはいないと聞いています………。
ハークライトの見立てですが」
レムリナの問いにスレインが答えると隣に立つハークライトが首肯する。
「スレインはどう思いですか?」
「伯爵の喪が明けぬうちに異を唱えるのは流石に不謹慎…。
そう思って当面、黙っているだけにすぎません」
レムリナはスレインの言葉に頷くと続ける。
「ザーツバルム卿の死はヴァースに対して、多大なる損失であることは紛う事なき事実。
私は、父である二代目皇帝、ギルゼリアが月で犯した過ちで産まれた娘。
父の犯したもう一つの過ち、ヘヴゥンズ・フォールによって父は死に月すらも割れた。
ザーツバルム興は身寄りを失った私を見つけて忠誠を尽くしてくれました」
レムリナはそこで一度、瞑目して続けた。
「心の奥では何を考えていたのかはわかりませんが…。
しかし、それで良いのです。
権謀術数を巡らす器量の無いものはかえって信用できません。
これからは、妬み嫉みを嫌でも買わざる得ませんね、スレイン。
ザーツバルム卿の全ての特権、アセイラム姫の後見という立場まで受け継いだのですから」
「覚悟しております、されど妬まれる価値なある重責」
「忘れないで下さいね、今あなたが守らねばならない姫は目の前にいることを…」
「十分に心得ています」
レムリナの言葉にスレインは跪き、そう答えた。
アルドノア・パニック 七話目を投下致します。
アニメ本編では伊奈帆とデューカリオンの艦砲射撃により撃破できたソリスとの戦闘とレムリナ姫を登場させてみました。
次回はタルシスVSハーシェルをお送りする予定なのでお楽しみに～。