2014年12月17日16時00 分―種子島沖100km地点 トゥアハー・デ・ダナン 発令所。
「ここが…」
「はい、種子島です」
無人哨戒機が映す映像を見て呟いたテスタロッサに千紗が答える。
火星のカタクラフトを撃退したテスタロッサ達は15年前にハイパーゲートの暴走で砕けた月の破片の落下地の一つである種子島へと赴いていた。
元の世界へと戻る手がかりを探すとためである。
だが、仮にその方法が見つかったとしても直ぐに帰るつもりなど毛頭無い。
『地球連邦軍のサーバーにアクセスした所、揚陸城が降下した場所はカルガリー、ニューオリンズ、フェアバンクス、北京、上海、成都、東京、ストックホルム、モスクワ、アルハンゲリスク、ノボシビンスク、ハバロフスク、マガダン、プラハ、アンカラ、リヤド、バイコルヌ、ドゥシャンベ、カイロ、アディスアベベ、アルジェ、ラゴス、マプト、キンシャサ、サンチィアゴの26箇所です。
元いた世界に帰れるにしても、帰れないにしても我々もやれることをやりましょう』
火星型カタクラフトとの戦闘後、ブリーフィングルームでテスタロッサが言った言葉を千紗は脳内で反復した。
揚陸城の降下により、海底の通信ケーブルが切断されていることが予想できた。
にも関わらず、テスタロッサが情報を入手できたのはトゥアハー・デ・ダナンの超高性能AIであるダーナのおかげであった。
『本当に…この艦ってチートだな…』
などと千紗が考えていると、島の様子を映していたモニターが真っ暗になる。
「どうやら気づかれたようですね、相良さん、杉原さん発艦お願いします」
『『了解!!』』
テスタロッサの言葉に既にASへと搭乗していた宗介と裕也が答えた。
2014年7月8日14時15 分―種子島沖 50km地点。
ECSを展開したトゥアハー・デ・ダナンからブースターを装置して飛び立ったアーバレストとクレイモアは種子島へ向かっていた。
『敵カタクラフトの武装らしきものを補足』
フレイヤの声と共に裕也は回避行動を取ろうとする。
「おいおい…」
モニターに映る敵の武装を見て、裕也は苦笑する。
何故ならば、そこに映るっている敵の武装が空飛ぶ腕―要するにロケットパンチだったからである。
2014年7月8日14時20 分―種子島沖 150km地点 強襲揚陸艦わだつみ。
「レーダーに感あり!」
強襲揚陸艦わだつみのブリッジにてレーダー手を勤める詰城祐太朗の声が響く。
祐太朗の声と共に観測手が双眼鏡を取り出し、覗き込む。
「見慣れないカタクラフトが交戦している模様!」
数秒後には双眼鏡から顔を離し、そう声を上げる。
「館長、いかがしますか?」
副長で不見咲カオルが艦長であるダルザナ・マグバレッジに尋ねる。
戦闘を繰り広げているのが見慣れないカタクラフトということもあり、判断が難しいところである。
火星騎士同士の内輪もめという可能性もあるからだ。
「戦闘に介入します、カタクラフト隊の発進準備を」
しかし、マグバレッジは淀みなく答える。
「よろしいので?」
マグバレッジの言葉にカオルが問うてくる。
「不見咲くん、君がモテない理由を教えてあげましょうか?」
そんなカオルにマグバレッジはそう問い返した。
2014年7月8日14時30 分―種子島 火星型カタクラフト、ヘラス・コックピット内。
「アルドノアを持たぬものとは不憫なものよのぅ」
火星騎士‐フェミーアンは縦ロールした髪を弄りながらそう呟いた。
彼の乗るヘラスは遠隔操作可能な眷属と呼ばれる六本のを武器とし、アルドノアを用いて強化されているために通常兵器では破壊することは不可能となっている。
現在、モニターに映るカタクラフトはブースターを取り付けたバックパックを用いて眷属の攻撃を回避しているがそれも何時までも続けていられる訳でもない。
「ふふ、だが地球種にしてはなかなか楽しませてくれるわ」
言って、フェミーアンは顔に笑みを浮かべる。
地球のカタクラフトと戦闘は行ったが、ここまで眷属の攻撃を回避されたのは初めてだからである。
「だが、そろそろ終わりにさせてもらおうか」
そう言うと同時に、眷属を二機のカタクラフトに多方向から襲いかからせる。
四方向からの攻撃、通常ならば避けようもない筈である。
だが、しかし…。
「バカな!」
声を上げて叫ぶフェミーアン。
何故ならば、眷属が突然爆発し、その軌道がが大きく逸れたからである。
眷属の軌道が逸れた原因は2つある。
一つは裕也達が回避をしながら眷属に爆薬を仕掛けていたからである。
そしてもう一つの原因を知り、フェミーアンはまた笑みを浮かべる。
「全く、今日は本当に招かざる客の多いたな…」
ヘラスの頭部カメラが種子島へと向かってくるオレンジや鶯色の機体を乗せた揚陸艦を捉えていた。
2014年7月8日14時30 分―種子島沖80km地点 スレイプニールコックピット内。
『おかしい…』
ヘラスの眷属に向けて発砲した界塚伊奈帆は眉を潜める。
ロケットパンチを回避していた二機のカタクラフトを援護するために放ったHE弾であるが、爆発の威力が通常のそれよりも遥かに大きいことに気づいたのだ。
『まさかあのカタクラフト…攻撃を避けていたのではなく爆薬を仕掛けていたのか…?』
それを可能とするにはパイロットの高い練度と高い機体の性能が必要となる。
『いろいろと気になる所ではあるけれど…』
今は戦闘に集中すべきだと伊奈帆は敵カタクラフトへと向き合った。
2014年7月8日14時40分―種子島沖 十数キロ地点 スカイキャリア内。
『…姫…どうかご無事で!』
少年‐スレイン・トロイヤードはスカイキャリア内でつい先日、新芦原で見たアセイラム姫について考えていた。
先日、小型カタクラフトと一戦を繰り広げた後トリルランと共に新芦原を訪れたスレインはそこで確かに見たのだ。
地球のオレンジ色のカタクラフトと行動を共にするアセイラム姫を。
そこでトリルラン達、火星騎士が姫の暗殺に荷担している事実を知り、独自に調査した結果、アセイラムとオレンジ色のカタクラフトが種子島へと向かった事がわかったのである。
誰が裏切り者かわからない状況で現ヴァース皇帝であり、アセイラム姫の祖父・レイガリアへと停戦を進言したが敵の罠にかかり追われる身となったのだ。
『あれは…ヘラスの眷属とオレンジ…それにあの時の小型カタクラフト!』
種子島へと近づくにつれて、視界へと入る三つの機体。
そこに迫る、ヘラスの眷属にスレインはミサイルを放っていた。
2014年7月8日14時42 分―種子島 クレイモア コックピット内。
『せめて…ラムダドライバが使用できれば!』
敵カタクラフトの繰り出すロケットパンチをライフルグレネードを放って軌道を逸らしつつ、裕也は心の中で叫ぶ。
未知の技術であるアルドノアへ対抗する為にラムダドライバを使うのは精神や肉体にかかる負担が大きすぎるため、千紗がアップデート作業を行っていたのであるがそれが未だ完了していないのだ。
それでも、戦闘方法次第ではアルドノアを攻略する事が可能ということであったが…。
『やっぱりムリゲーだろ…これ…』
爆薬やグレネードを使用しても軌道を反らすので精いっぱい、しかも先ほど救援に駆けつけた揚陸艦もロケットパンチを受けて航行不能。
ダナンも確実に破壊できない場合でないと反撃を喰らうため迂闊に攻撃は出来ない。
更に弾薬も残り少ないときているのだ。
『まっ、こんな所で死んでやるつもりなど毛頭無いがな!』
背面のエンジンを狙うのが一番良いのだが、軌道を逸らしたとしても次から次へとロケットパンチが襲いくるためにそれもままならない。
『最初に爆薬を仕掛けたときに破壊できていればなぁ』
などと考えるが既に遅い。
直ぐに頭を切り替えて向かってくるロケットパンチにライフルグレネードを向ける。
…次の瞬間。
何処からか飛来したミサイルがロケットパンチに直撃、軌道が大きく反れる。
『よし…!』
考えるよりも早く、ライフルグレネードを放ちロケットパンチを破壊する。
そして、ミサイルが飛んできた方向にカメラを向けると先日、静岡で交戦したカタクラフトを輸送していた黒い大型機の姿があった。
何故、敵である自分達を助けるような真似をしたのか非常に気になるところである。
だが、今はとりあえず敵対するつもりはないらしい。
『敵の敵は味方か…』
そんな事を考えながら裕也はトゥアハー・デ・ダナンに支援砲撃を要請した。
2014年7月8日14時50 分―種子島 ヘラス コックピット。
『ボティス、マクラス、ロノウェ、ハルファス、ラウム、ヴィネ』
コックピットでフェミーアンは撃墜された眷属の名を呟く。
僅か数分で戦局は一変していた。
戦場へと乱入してきた潜水艦の攻撃により、三機、小型カタクラフトに二機、地球のカタクラフトとスカイキャリアにより一機の眷属が破壊されたのだ。
恐らく、敵は既にこちらへ向かっているところだろう。
「おのれ!おのれ地球人!よくも…よくも我が眷属を…!許さぬ…絶対に許さぬ!!」
怒りに声を上げるフェミーアン。
確かに、主要武装である眷属は破壊されたがヘラスにはもう一つ、武装が残っていたー。
2014年7月8日14時52 分―種子島 クレイモア コックピット。
ロケットパンチを破壊した裕也は宗介、オレンジ色のカタクラフト、鶯色のカタクラフト、スカイキャリアと共に敵のカタクラフトを撃破するために島内を進んでいた。
『熱源反応が猛スピードで接近してきます!』
だが、唐突にフレイアのマシンボイスがコックピット内に響くと同時に木々をなぎ倒しながらカタクラフトが猛スピードでクレイモアめがけて突っ込んでくるのが確認できた。
しかもその形状はどう見ても先ほど撃墜したロケットパンチそのものだたからである。
『早い…これは避けきれない!』
これは確実に死ぬ…裕也がそう思ったその時…。
『アップデート完了、これよりラムダドライバを起動します』
フレイアのマシンボイスがコックピット内に響きラムダドライバが作動する。
それとほぼ同時にクレイモアは拳を繰り出し、ヘラスを打ち砕いた。
アルドノア・パニック第四話をお送りしました、灰音です。
次回はいよいよ地球軍ロシア基地での激闘予定なのです(笑)