アルドノア・パニック!?   作:灰音穂乃香

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FAZE09 『目覚め』

2016年3月28日 18時32分 ヴァース帝国・月面基地

 

 

『私、アセイラム・ ヴァース・アリューシアはスレイン・ザーツバルム・トロイヤード伯爵を夫に迎え。

この地球圏に新たな王国を築く事をここに宣言します。

 

今、勇猛果敢なる皆さんの憤然にもかかわらず、この戦いは長引く様相を見せています。

ことここに至って私たちは何をなすべきなのでしょう?

 

軌道騎手同士で相争うときでしょうか?

 

我先に公を競うときでしょうか?

 

一つの旗印に集い、 ヴァースの未来のため、共に戦うときが来たのです。

 

私は、私の持つ権限の一切を新たに力を与えた城の城主であり、やがて私の伴侶となるトロイヤード伯爵に委ねました。

 

アルドノアを呼び覚ます力を誰に与えるか、その采配も含めたすべて。

 

この戦いに勝利が訪れるその日までトロイヤード伯爵の言葉を私のと思い、彼の元に集うことを心より願います。

 

すべてはヴァースの為に―』

 

2016年3月28日 18時40分 ヴァース帝国・月面基地

 

「相変わらず、地球への攻撃は苦戦続きのようだな…」

 

アセイラムに扮した、レムリナの演説が終わり、スレインは傍らに立つハークライトに問う。

 

「はい。

ただ、この状況に不安を感じる騎手達にとって姫殿下の宣言は天恵の如く聞こえたのでは無いでしょうか?」

 

「天恵?」

 

「あの宣言はスレイン様の存在があるが故に発せられたものと誰もが承知しています。

 

現状に不安を抱く騎士たちにとっては正に天の声。

 

自分達を導く存在が現れたと感じているに違いありません」

 

問い返すスレインに答えるハークライト。

 

「大仰だな…。

 

しかし、一方で反旗を翻す勢力も必ず現れる。

 

やってもらいたいことがある」

 

「ネズミ狩りか?なら俺にも手伝わせてくれや」

 

そう二人の会話に入り込んできたのはガウルンである。

 

いつからいたのか、通路側の壁にもたれかかりその顔に笑みを浮かべている。

 

「ガウルン、この間は苦労をかけた―」

 

「別に、ただ飯位は性分に合わないからな…。

まっ、頂くものはしっかりと頂くけどな…」

先日行われた、マリルシャンとの決闘の折り資材搬入路の座標を彼にを調べさせておいたのである。

 

あの決闘に勝利したのは彼の協力によるものも少なからずある。

「全く…」

 

「スレイン様…ネズミ狩りとは?」

 

強かなガウルンにスレインは苦笑を浮かべる。

 

そんなスレインに問うハークライト。

 

「危険分子を洗い出すんだ。

 

その後はガウルン…お前に任せる…。

 

適当な罪状で騎士という身分を剥奪する事も容易なはずだ」

 

「抵抗する場合は殺しても?」

 

「勿論だ…。

 

軽蔑するか?ハークライト…。

 

……私が姑息すぎると…」

 

ガウルンの問いに躊躇なく答えるとスレインはハークライトに意見を求める。

 

「いえ、その逆でございます。

 

目的の為に手段を選ばぬことは当然、あの戦闘以降…失礼ながら腹を括られたように感じました…」

 

 

2016年3月28日 17時00分 ヴァース帝国・月面基地

 

 

『姫様に近づきたいと願っていましたー。

姫様に相応しくありたいと願っていました…。

そして…姫様の為に力を持ちたいと…。

 

だけど…その姫様はもう…』

 

ザーツバルムからアセイラムは目覚めることないだろうと聞かされていた。

スレインの行動をアセイラムが見れば悲しむだろう…。

だが…それでも…。

 

『もう、戻る事はできない―』

 

そう、心の中で呟くと同時に室内に入室の許可を求めるブザー音が響く。

 

「ハークライトか…入れ」

 

「ス、スレイン様…」

部屋に入って来たのは小柄な少女だ。

 

アセイラムの侍女であるエデルリッゾである。

 

「エデルリッゾさん…どうしましたか?」

 

「スレイン様…姫様が…姫様が…」

 

慌てたような表情のエデルリッゾ。

 

アセイラムが目を覚ましたとの事であった。

 

2016年3月30日 18時15分 太平洋上 トゥアハー・デ・ダナン

 

作戦司令部からの辞令を受けて、トゥアハー・デ・ダナンはデューカリオンて共にアフリカ-ヴィクトリア湖周辺を治めるラフィアのスカンディアの討伐へと向かっていた。

 

「しかし…気になるな」

 

『別に不可視型ECSを展開しているのと変わりないだろう』

 

クレイモアのコックピットへと乗り込んだ和哉の呟きに宗介が答える。

スカンディアには光学迷彩が搭載されており、炸薬が埋め込まれた矢を用いた攻撃を行い事が報告により判明していた。

 

「それは煙幕を使うなりすればなんてかなる…。

俺が言ってるのはアセイラム姫の演説の方だ」

 

『なるほどな…』

 

納得したよう頷く宗介。

 

不可視型ECSなどの光学迷彩を運用する際に最も気をつけねばならぬのが天候である。

 

どんなに姿を隠そうとしても雨が降れば機体に雨粒が跳ね返るし、霧が出ればそこに気流の乱れが生じる。

スカンディア単体であるならば戦力としては大した事は無い。

 

問題は先日アセイラムが演説で言ったように火星騎手同士が協力して挑んで来ることだ。

 

余程の事が無い限りはラムダドライバ搭載機であるアーバレストとクレイモアが倒される事は無いとは思う。

火星カタクラフトとの戦闘に慣れているデューカリオンの面々も問題は無いだろう。

 

『問題があるとすれば…』

 

裕也たちが随伴する地球軍の部隊だ。

 

どこか火星の事を甘く見ているような所があるのだ。

 

『軍曹、発艦をお願いします』

 

《フレイヤ》に促され、発艦ブースターを装着したクレイモアはトゥアハー・デ・ダナンから飛び立った。

 

2016年3月30日 18時30分 アフリカ-ヴィクトリア湖 周囲。

 

「こちらメサイア1、配置についた」

 

『了解、それでは作戦を開始します』

 

各センサーをチェックしながら言った和哉に伊奈帆が答える。

 

それと同時に煙幕が広がる。

この煙幕とアーバレスト、クレイモアに搭載された各センサー。

それに伊奈帆の右の義眼のアナルティカルエンジンを使用してスカンディアの隠れた場所を特定、撃破するというものである。

 

『ターゲット捕捉』

インカム越しに聞こえてくる伊奈帆の声。

『三時の方向より敵カタクラフトを確認!』

 

それと同時に裕也達が随伴してきた部隊からそう報告を受ける。

「やっぱり、連携して来るか!」

 

『上空より、巨大質量体!揚陸城です!』

和哉が叫ぶと同時にフレイヤの声がコクピット内に響く。

 

それと同時に和哉はラムダドライバを作動させる。

 

直後、凄まじい衝撃が機体を激しく揺らす。

 

「敵は三機…かなり不利な状況だな…」

 

不利な状況であるにも関わらず裕也の顔には笑みが浮かんでいた。

 

『その割には楽しそうな表情をしているようだが、何か策でもあるのか?』

 

「策と言うほどのものではないさ…だが少し分の悪い賭けになるかもしれないが良いか?」

 

『分の悪い勝負ならばいつものことだろ?』

和哉の言葉に宗介が苦笑して答える。

 

『軍司令部から撤退命令が出ているようですが…敵を倒せるならばそれに越した事はありません。

その分の悪い賭に僕も混ぜてくれませんか?』

 

伊奈帆の言葉に和哉は頷くと自分の考えた作戦を話した。

 

 

 

「全く、大した作戦だな…」

 

アーバレストのコクピット内で宗介はそう呟く。

 

和哉の考えた作戦は敵が合流するまでに各個撃破するというものである。

 

ヴィクトリア湖沿岸、宗介が相対しているのは電撃を纏うカタクラフト-エレクトリスと相対していた。

 

任務で、緊急発艦ブースターを用いて雷雲の中を突っ切る事は何度もあるために避雷器がついてはいる。

更にラムダドライバを展開してはいるが何発も雷撃を喰らえば拙い事は確かだ。

 

『ならば…早い内に片を付ける!』

 

アーバレストは単分子カッターを構えるとエレクトリスに向けて走り出したー。

 

 

「くっ、合流前に攻撃を受けるとは…」

 

スカンディアのコックピットでラフィアは渋面を作る。

 

現在、スカンディアは建物の影に身を潜めるた状態にあった。

 

当初の予定ではゼブリンが駆るエレクトリス、オルガが駆るオルティギュアと連携を計りながら戦闘を行う予定であったのだが合流より早く敵と交戦することになってしまったなである。

しかも、敵は煙幕を用いる事でこちらの位置を把握出来るのだ。

 

『このままでは―』

 

やられる―そう思った直後にオルティギュアのコックピットを銃弾が貫いた。

 

 

「くっ…よくも我が同士を…」

 

オルティギュアのコックピット内でオルガは呻きながら目の前の機体を見据える。

 

白と赤のラムダドライバ搭載機である。

 

「トロイヤード卿からその機体については聞いている…。

だが、このオルティギュアの相手では無い」

現在、オルティギュアとラムダドライバ搭載機がいるのは街から離れた平原である。

 

地球のカタクラフトと戦闘を行う最中、この場所へと向かうラムダドライバ搭載機を発見したのだ。

 

「なんにせよ…これだけの数を相手に単騎で勝てようものか…」

オルティギュアの能力により平原を埋め尽くさんばかりの分身が存在していた。

 

「ここで終われ!地球人!!」

 

オルガが叫ぶとともにのラムダドライバ搭載機へとオルティギュアが襲いかかる。

 

―瞬間、凄まじい熱と爆風がその場にいたオルティギュアを粉砕したー。

 

 

 

 

「死ぬかと思った…」

 

ラムダドライバを用いて爆風を防いだ和哉は一人ごちる。

 

地球軍のカタクラフト‐アレイオンと戦闘を繰り広げていたオルティギュアを誘導しながらトゥアハー・デ・ダナンに爆撃機に燃料気化爆弾を搭載させて発進するように要請したのだ。

 

アレイオンの攻撃により破壊される度に分身を行うオルティギュアを見て、思いついた作戦だ。

 

即ち、分身全てを体燃料気化爆弾を用いて吹き飛ばす作戦をであ。

 

「本当に死ぬかと思った…」

 

破壊されたオルティギュアの残骸を見て和哉は再び呟いた―。

 




アルドノア・パニック10話目を投稿させて頂きました。
あと二話で完結予定ですので楽しみにお待ちください。

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