転生×HUNTER   作:オガルフィン

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今回短いです。


第2話―ピエロのきまぐれ―

一階での試合が終わった後、悠里は50階クラスの控え室で待機しながら体を休めていた。

先程無傷で勝ち上がった事で、今日中にもう一試合組んでもらえることになったのだ。

未だにこの世界で152ジェニーしか稼いでいない身としては何としても次の試合に勝ってホテル代を捻出しなければならない。

一日目から野宿は御免だ。

 

『ユーリ様・ヒソカ様!55階Cのリングへお越しください。繰り返します...』

 

もう結構時間が経っていたのか呼び出しがかかっている。

悠里の聞き間違いでなければ自分の名前に続いて「ヒソカ」と聞こえた気がする。

やや間を置いた後に「今のは密かにリングにお越しくださいみたいな呼び出しであって...」と心の中で一縷の望みにすがるが、

 

『繰り返します!ユーリ様・ヒソカ様!55階Cのリングへお越しください!』

 

(.................。)

 

無常にも繰り返されるアナウンス。

神はいない、そう確信した瞬間である。

1階の試合でヒソカに殺された選手に対して念仏を唱えたではないか、その自分に対してこの仕打は如何に、と理不尽な怒りをいるかも分からない神に向けてしまう。

 

「神はいない。」

 

キメ顔で独り言をつぶやく。

悠里の周りの選手が奇妙なものを見る目で見つめてくるが、現実逃避をせずにはいられなかった。

 

確かに上がった者同士で当たらせるのはキルアとズシでもあったが、よりによってヒソカとは運が無さ過ぎるだろう。

 

(とりあえず、すぐに降参するしか道は無さそうだ。)

 

リングに向かいながら両手をビシッと上に伸ばし降参の練習をする悠里。

転生後に初めてしたのが念ではなく降参の練習とはなんとも情けない話だ。

それでも死ぬよりマシだろう、せっかく命拾いして転生までしたのにこんな所で死ぬなど出落ちにも程がある。

 

遠い目をしながら悠里はゆっくりとリングへ歩いていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――-

 

暗い雰囲気を纏いながら牛歩で歩いていた悠里だが、気づけばリングに着いていた。

どんなに小さな歩みでも、たゆまず歩を進めていけば何れはたどり着くものだ、どこかで聞いたような名言を心の中で反芻する。

ちなみに全くありがたくは感じていない。

 

『さぁ皆様!始まりました注目の一戦!二人とも先程の1階での戦いから一気に50階まで駆け上がってきた強者です!お二人の戦いのVTRはコチラ!・・・ユーリ選手は正確なカウンターを決め、怯んだ相手に強力なバックスピンキック!登録情報によると格闘技暦は8年!映像を見る限りでもかなりの使い手である事が分かります!』

 

『続いてヒソカ選手!ヒソカ選手についてはもう凄惨としかいいようがありません!かつてのザバン市の凶悪犯罪者、バラし屋ジョネスを彷彿とさせる戦いぶり!そして!ここに生粋の武道家VS悪魔の殺し屋の試合が始まろうとしています!それではみなさんギャンブルスイッチの準備はよろしいでしょうか!?スイッチ・オン!』

 

悠里がリングに着くなり実況席から盛大な煽り文句が飛んでくる。

悠里はその熱気に反するように背中を丸めるが、ヒソカは呼応するように体のある一部分を膨らませていた。

 

そして暫しの時間を経てギャンブルスイッチでの集計が終わる。

結果は悠里が優勢。

しかし悠里はすぐに降参するつもりだった、内心で自分に賭けた人に謝りながら降参のポーズを取るために両手を下に構えた。

 

『投票の結果ではユーリ選手優勢!やはり華麗なカウンターや足技を決めていたところを評価されたのでしょうか!?それでは3分3ラウンドポイント&KO制・・・始め!』

 

悠里は試合開始と同時に降参をしようとしたが、ヒソカから発せられた突然の威圧感により体が動かなくなってしまった。

 

「くっくっく♦まさか”まいった”なんて言うつもりじゃ無いだろうね?もしそんな事したら勢いあまって殺しちゃうかも♥しっかりと僕に実力を見せてくれよ。」

 

予想していた最悪の展開、ヒソカが完全にヤル気になっていた。

こうなってしまっては仕方がない、覚悟を決めて悠里は拳を構えた。

 

「ある程度やったら降参させてくれる?」

 

「それは君の実力次第かな♣もしも、とるに足らないような男なら...」

 

絶望しながらも藁にもすがる思いでヒソカに尋ねたが、期待していた答えは帰ってこなかった。

そう言いながら更にオーラを噴出させるヒソカ。

ウイングさんがオーラに当てられた状態を「極寒の地で全裸で凍える」と表現していたが正にその通りだ。

審判でさえも息を呑んでいるようで、見れば顔に冷や汗が伝っている。

 

本気でやらなければ、こちらが死ぬ。

死を自覚した瞬間、自由への渇望がユーリを本気にさせた。

 

(行くしかないっ!)

 

気合一閃、悠里はヒソカの真横へ飛びながら翻弄するように周りを動き始めた。

不気味にニヤけた表情のヒソカから内心を読み取ることはできないが、足を止めるわけにはいかない。

押し寄せてくる死神に背中を押されるように悠里はリング上を動き回った。

 

『おっとユーリ選手!ヒソカ選手を囲むようにステップを踏んだ後に一気に距離を詰めた!?そして...首筋への手刀だー!しかしヒソカ選手も流石です!左腕でしっかりとガードしています!ファーストコンタクトはユーリ選手だ!』

 

急所への奇襲を仕掛けたが案の定ガードされる。

当たり前だがヒソカは強かった、先程戦っていたような相手ならまず反応すらできていまい。

道場でもこの動きからの奇襲は悠里の得意技で実戦形式の組み手でかなり有効だった。

それを軽々と受けるとはヒソカは念だけでなく格闘センスも超一流のようだ。

 

でも諦めるわけにはいかない、ヒソカに悠里の価値を認めさせなければ待っているのは死だ。

幸い200階未満の試合では武器の使用は認められておらず、ヒソカはトランプを使えない。

しかし単なる打撃だけでも簡単に悠里を殺せるだろうことは今の打ち合いで理解していた。

さらに死神が悠里の背中を強く押した気がした。

 

ガードされつつも幸いその勢いのまま動く事ができたので、ヒソカの腕をつかんで後に引き込み足払いを掛け、そのまま膝蹴りへ繋げることができた。

更にその反動で回り込み、回転肘をヒソカの顎に決めた。

 

「クリーンヒットォー!」

 

悠里の一連のコンビネーションに会場が沸いた。

 

『先にポイントを奪ったのはユーリ選手!クリーンヒットとダウンで2P先取です!』

 

前を見やれば、ヒソカが俺の肘を食らった顎を擦りながらニヤついている。

 

「僕から一本取ることができたか♥」

 

「全然効いてないだろ。」

 

「まあね♣でも...」

 

そこからヒソカのセリフの続きを待っていると、ふいに頭が引っ張られた。

 

(...え?)

 

「~♪♣」

 

腹部に衝撃を感じ、まるで自分じゃないかのような声が口から漏れた。

 

「っ!?」

 

「クリティカルヒットォー!」

 

『次はヒソカ選手!一瞬でユーリ選手に近づき一回戦で見せた怪力で頭を引き寄せての膝!かなりの力が入った一撃です!ダウンと合わせて3P!』

 

咄嗟になんとか立ち上がる悠里ではあったが、どう見てもこれ以上戦える状態ではない。

足が小刻みに震え、視点はどこか合っていない。

だがそれでも悠里は倒れなかった。

 

(闘志だけは折れちゃダメだ、アイツが失望すれば俺は殺される!)

 

「驚いた♣まさか今のを食らって起き上がってくるとはね。」

 

「それに...あぁ、いいよその目...」

 

フラフラしながら睨みつけて来る悠里を見つめながら、股間をふくらませジョジョ立ちをするヒソカ。

 

悠里の攻撃は簡単に止められ、当たったとしてもダメージは無し。

逆にヒソカの攻撃に悠里は反応すら出来ずに深刻なダメージを負っていた。

状況は誰が見ても絶望的だった。

 

そして少し送れるように審判が悠里を見て手を上げる。

 

「クリーンヒットォー!」

 

その声を尻目に悠里はジリジリと足を引きずりながらヒソカに前進していく。

最後の足掻きだ。

それを見たヒソカは一旦は構えるも悠里と目があってから数瞬、何やら考えるような素振りをしたかと思えば構えを解き唐突に口を開いた。

 

「僕には分かる、君はこれから強くなる...だから君のその将来性に敬意を表し僕が洗礼をあたえよう。」

 

「強くなるんだよ♦」

 

ヒソカが軽くこちらに手を向けると、朧気ながらヒソカの右腕に尋常じゃない“ナニカ“が集まっているのを感じた。

悠里は息が詰まり体から冷や汗が止まらなくなった。

 

だが震えながらもなおも進もうとする悠里は攻撃に備えて最後の抵抗とばかりにガードを固め”バチンッ!”...ようとした瞬間には倒れていた。

 

「クリティカルヒットォー!」

 

審判が何事が言った後、悠里に駆け寄りその後に手で大きく×の印を実況席に向けて作っている。

 

『ユーリ選手!ここでTKO負けです!ヒソカ選手もここにきてまさかの平手打ち!しかもユーリ選手はそれでダウン!決め技が平手打ちとは最後が締まらない展開になってしまいましたが...勝者!ヒソカ選手!』

 

(平手打ちを食らったのか、全く反応できなかった。)

 

朧気な意識の中で、聞こえてきた実況の声から自分が何をされたのか初めて理解する。

 

それにしても、

 

(体が熱い...それに湯気みたいなのが全身から?まさかこれがオーラ?ヒソカのやつさっきの平手打ちで強引に精孔をひらいたのか...?)

 

「ヒ..ソカ、お前..これ...」

 

「くっくっく♦それは君の生命エネルギーだ。うまくそれを全身へめぐらせて体に纏わせてご覧よ...あとは君次第だ♥」

 

驚きから呻きながらもヒソカに言葉を投げかけるが、軽くいなされる。

ヒソカは悠里へともう一度振り返りニヤリとした表情を浮かべると結局そのまま会場を去って行ってしまった。

 

(ヤバイ意識が...でもはやく纏をしないと...。)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そこからは悠里にはっきりとした記憶は無かった。

必死で纏をしようとしていたら、気づけば天空闘技場の医務室に寝かされており目が覚めた時には実に一週間も経っていたのだった。


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