じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない   作:ちゅーに菌

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魔霊

 

 

 

 皆さんは夏を如何お過ごしだろうか?

 

 俺はというと日頃からエアコンも無しでけっこう快適である。

 

 それというのもヴェノミナーガさんがひんやりしているから、抱き枕にすると冷たくて丁度いい。

 

 夏場は涼しく、冬場は軽く死ねる寒さのヴェノミナーガさんなのである。

 

『はあはあ……マスターペロペロ……』

 

 …………これさえ無ければ良いんだがな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらずデッキを組み立て中の俺。

 

 流石にクッキング流じゃ、ムリがあるからな。

 

 ヴェノミナーガさんデッキ以外のひとつデッキもあるが、それはごり押し中心のデッキなので、今度は防御に定評のあるデッキを作っている最中である。

 

『マスター、マスター』

 

 後ろを振り向くと何か紙を持っているヴェノミナーガさん。

 

 と、その後ろにヴェノミナーガさん以上の体躯を持った精霊がいる。

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 その精霊は俺と目が合うと妙な笑い声でケタケタと笑いながら、鉤爪状の片手を振ってこちらに会釈してきた。

 

 ……相変わらずどう見てもバケモノなのにコミュニケーション能力の高い奴だ……。

 

 ちなみにお分かりの通り、コイツは俺の精霊その2である。

 

 実は最近になって父さんが俺に2つデッキをくれたのだ。

 

 ちなみにその時言っていた事が――。

 

 

"デュエルディスクと共にデッキも奪った事を忘れていたよ。弱くは無い相手だったから今のリックならさらに使いこなせるだろう"

 

 

 との事である。

 

 父さんはどうやらドーマとの1対2のデュエルで勝っていたらしい……。

 

 まあ、そのお陰でバトルシティ出身のカードのクセに前世の世界でも、未だに現役で使えるコイツが専用デッキごと3枚も手に入ったのは非常にありがたいがな。

 

 流石に80枚のカードをひと纏めにして、カードを追加すればそれなりのデッキになった。

 

 というかこの精霊、3枚のカード全てに同じ1体の精霊が宿っているらしい。ヴェノミナーガさんから見ても珍しいタイプの精霊だとか。

 

 それはそれとして、ついでにオマケで手に入った、ダーツが元の持ち主に渡したのであろう、パラディウス社製の1枚のカードが入手出来たのがかなり嬉しい。

 

 ちなみにパラディウス社なのだが、極端な中央集権制を取っていたため、ダーツが消えた後は緩やかに崩壊していったところを海馬コーポレーションに吸収されたらしい。

 

 だから、パラディウス社製のカードは既に絶版となっており、非常に価値があるのだ。まあ、売らんが。

 

 デッキの方はちょっと改造したら、同年代では無敵と言ってもいい性能になっている。

 

 コイツのデッキとヴェノミナーガさんのデッキで様々な大会を荒稼ぎさせて貰ってるぜ……。

 

『コレ見てくださいよ』

 

 ん? なになに……。

 

「デュエルモンスターズ ジュニアカップ?」

 

 確かI2社主催の全米規模の巨大なデュエルの公式大会だ。

 

 数年に1度開催され、予選を含めると数百万人~千万人ほどのジュニアが凌ぎを削り合うそうだ。

 

 参加年齢は……15歳までか。

 

「ふーん……どこまで行けるかやってみるか」

 

 ちなみに俺は現在、11歳だ。資格は当然ある。

 

『それもそうですが後ろです。後ろ』

 

「後ろ?」

 

 俺は紙を裏返すと、そこには参加方法や、提携カードショップチェーン店の名前などが書いてあった。

 

 ん? 優勝商品が載っているのか。これだけの大会なんだからそれなりのカードな……ん…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

優勝商品 コレクターズレア"ブラック・マジシャン・ガール"

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノミナーガさん」

 

『登録はもう、済ませときましたよ』

 

「予選の曜日は?」

 

『来週の土曜日です』

 

「ヴェノミナーガさん、デッキの調整手伝って?」

 

『あいあいさー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、大会予選当日。

 

 300人ほどの参加者がトライホーンなどを当てたカードショップの屋上に来ていた。

 

 予選はI2社と提携している大型カードショップなどによって行われることから今回の大会の規模の大きさがわかる。

 

 そしてそこには巨大なトーナメント表が張り出されており、そこには既に2本の線しか残ってはいなかった。

 

 そして中央の一番大きいデュエルリングを囲むように子供とその保護者を含めた数百人が集まっている。

 

 そこで、行われているのは予選の決勝戦だった。

 

 駐車場と屋上を使い行われたトーナメント対戦の結果は俺と、俺と同じぐらいの少年が残ったようだ。

 

『決勝でも私、使ってくれないんですかー!?』

 

 ヴェノミナーガさんは強すぎるから使えません。それ以前に、大会で神のカードの御披露目なんて出来るかっつうの。

 

 というかいつも、使ってないでしょうに。

 

『ゲッゲッゲ……』

 

『ぐぬぬ……』

 

 俺の後ろではぐぬぬするヴェノミナーガさんと、ケタケタ笑いながらヴェノミナーガさんに鉤爪で器用にピースしていたもう片方の精霊がいた。

 

 対戦相手の準備は終わったようでデュエルリングに歩いてきていた。

 

 そろそろ、俺も行くか。

 

 立ち位置でデッキをデュエルディスクにセットし、構えるとドーマのデュエルディスクはカシャカシャ音を立て、伸びるように開いた。

 

 向こうも同じように構えている。

 

 

「「デュエル!」」

 

リック

LP4000

男の子

LP4000

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 先攻は取れたな。

 

「"おろかな埋葬"を発動。デッキから"黄泉ガエル"を墓地へ送る」

 

 自分から俺が墓地へ送った事で男の子の頭に?が出ていた。

 

 まあ、仕方ないな。

 

「俺は"メルキド四面獣"を攻撃表示で召喚」

 

メルキド四面獣

星4/闇属性/悪魔族/攻1500/守1200

4つの仮面を切り替えながら、4種類の攻撃をしてくる化け物。

 

 何かに4つの仮面が張り付いたようなモンスターがフィールドに現れた。

 

メルキド四面獣

ATK1500

 

「カードをセットしてターンエンド」

 

リック

LP4000

モンスター1

魔法・罠1

手札3

 

 

「僕のターン! ドロー!」

 

 ドローを終えた男の子はニヤリと笑った。

 

「"ブラッド・ヴォルス"を召喚!」

 

ブラッド・ヴォルス

星4/闇属性/獣戦士族/攻1900/守1200

悪行の限りを尽くし、それを喜びとしている魔獣人。手にした斧は常に血塗られている。

 

 やられ役、社長のやられ役じゃないか!

 

 しかし今回の大会でATK1900は初めてみたな。

 

ブラッド・ヴォルス

ATK1900

 

「さらに"デーモンの斧"を"ブラッド・ヴォルス"に装備!」

 

 ブラッド・ヴォルスの斧がデーモンの斧にランクアップした。

 

 ブラッド・ヴォルスはデーモンの斧の刃を自分に向けると、舌なめずりを始め、俺を威嚇しているようだ。

 

 止めろ……なんでそうやって世紀末の住人のように自分から死亡フラグを立てて行くんだ……。

 

 ブラッド・ヴォルスを見てこちらのメルキド四面獣は仮面を変え、ムンクみたいな仮面を正面に向けている。

 

 こら、お前も乗るな。

 

 しかし、ブラッド・ヴォルスにデーモンの斧ねぇ……使いやすいペアが当たる子もいるもんだ。正直、羨ましい。

 

ブラッド・ヴォルス

ATK1900→2900

 

「行け! ブラッド・ヴォルス!」

 

 ブラッド・ヴォルスが飛び上がりながらメルキド四面獣を一刀両断しようとすると……。

 

 メルキド四面獣が回り、仮面がニタッとした笑みを浮かべた仮面に変わり、口が開いた。

 

 口の中にあるのは……導火線に火のついた爆弾だ。

 

「罠カード、"ヘイト・バスター"発動。自分フィールド上の悪魔族モンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。相手の攻撃モンスター1体と、攻撃対象となった自分モンスター1体を選択して

破壊する」

 

「え!?」

 

 メルキド四面獣はしめやかに爆発四散!

 

 ブラッド・ヴォルスはそれに巻き込まれて消し飛んだ。

 

「そんな……」

 

「さらに破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」

 

「うわっ!?」

 

 爆発でぶっ飛んだデーモンの斧が男の子に命中した。

 

男の子

LP4000→2100

 

「た、ターンエンド」

 

 …………せめてなにか伏せようぜ……。

 

男の子

LP2100

モンスター0

魔法・罠0

手札4

 

 

 これが俺と同年代の実力だ……ぶっちゃけハンバーガーでも充分なんだよな……。

 

 まあ、万が一もありえるからこっちのデッキ使ってるけど。今回は勝ちに来ているからな。

 

「ドロー」

 

手札3→4

 

「スタンバイフェイズ時、魔法・罠カードゾーンにカードが無いことで"黄泉ガエル"を特殊召喚」

 

黄泉ガエル

星1/水属性/水族/攻 100/守 100

自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。この効果は自分フィールド上に「黄泉ガエル」が表側表示で存在する場合は発動できない。

 

黄泉ガエル

ATK100

 

「魔法カード、"思い出のブランコ"を発動。自分の墓地の通常モンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを特殊召喚する。メルキド四面獣を特殊召喚」

 

メルキド四面獣

ATK1500

 

「この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊されるが……関係無いな。俺は"メルキド四面獣"と"黄泉ガエル"を生け贄に――」

 

 2体のモンスターがフィールドから消え、黒い霧が辺りを覆う。

 

 そして霧が晴れると俺を股の間に立たせるような場所に巨大な体躯のモンスターがいた。

 

『ゲッゲッゲ……』

 

 頭上からあの笑い声が聞こえてくる。

 

 

「"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」

 

 

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

星8/闇属性/悪魔族/攻3300/守2500

「仮面呪術師カースド・ギュラ」「メルキド四面獣」どちらかを含む生け贄2体を捧げない限り特殊召喚できない。このカードがフィールドから墓地に行った時、デッキから「遺言の仮面」1枚をフィールド上モンスターに装備させ、デッキをシャッフルする。

 

 4本の鉤爪、歴史書の悪魔のような体躯、全て表情の違う3枚の青い仮面の顔、そして腹部に張り付けにされた女性のような物体が不気味さに拍車を掛けている。

 

 そして、その火力は……。

 

仮面魔獣デス・ガーディウス

ATK3300

 

 正面から社長の嫁を潰せるのである。

 

「3300……」

 

 男の子が唖然としている。

 

「バトル。"仮面魔獣デス・ガーディウス"で直接攻撃」

 

『ゲヒャヒャヒャ!!』

 

 デス・ガーディウスが地面に両腕を突き立て、凄まじい速度の四足歩行で男の子に詰め寄り、片腕を振り上げた。

 

「ひっ!?」

 

 腰を抜かして倒れたがそんなことは関係無い。

 

 デス・ガーディウスの鉤爪をドス黒い光が包み込んだ。

 

「ダーク・デストラクション」

 

 デス・ガーディウスの鉤爪が降り下ろされた。

 

 

 

男の子

LP2100→0

 

 

 

 

 

 

『まず、終わりましたね』

 

「終わったな」

 

 というわけで予選は終了した。

 

 次からは本大会に!

 

 

 

 

 

 

『次の予選もどんどん行きましょうね!』

 

 なんてことは無い。

 

 うん……これ、地区予選なんだ。

 

 そりゃ、数百万人、下手すれば千万人は参加者がいるんだから予選自体がかなりの数あるわけだ。

 

 仮に100万人だとしても今日の通過者が俺1人なので300で割ったとして、後3000人以上が残っている計算になる。

 

 32人まで絞る必要があるため、後数回は最低でも予選があるだろうな。

 

「次はいつだ?」

 

『明日ですね』

 

 そんな会話をしながら俺は家を目指した。

 

 

 

 

 

 







 ヴェノミナーガさん まさに神

 デス・ガーディウス まさかの3300+ノーコス強奪


 リック君は何かしらぶっ飛んだモンスターを自分の精霊にすることに定評があります。

 そう言えば未だにデス・ガーディウス軸のデッキを主人公が使ってる二次作を見たことないんですよね。

 作者の最も長く使ってるデッキなんですが……もう十年とちょっとぐらいですね。いやー、懐かしい。

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