やっと投稿当初からずっとやりたいところまでこれたので初投稿です。
ノーフェイス編の始まりです。
力入れ過ぎて後書き含めて2万字超えましたので、どうぞごゆるりとお楽しみください。
後、ツイッターに質問箱作ったので、QAコーナーのネタにもなりますから、どんなことでもどしどしとどうぞ。
「明日香さまー!」
いつものように授業が終わり、明日香がオベリスクブルー女子寮の自室に戻り、ソファーに腰掛けると、真っ先に正面から実体化した自身のデュエルモンスターズの精霊――サイバー・チュチュに抱き着かれた。
「えへへー!」
「はいはい……」
明日香は少しだけ困ったような顔をしつつも、サイバー・チュチュを抱き止めて、あやすように背中をさすっていた。
サイバー・チュチュは尻尾が生えていれば勢いよく振っていそうなほど嬉しそうな様子を見せている。
数日前、ナイトメアとの闇のボスデュエル中に明日香のサイバー・チュチュが精霊として目覚めて以来、サイバー・チュチュはよほどに嬉しいのか、頻繁に抱き着いてくるのだ。
「でも、不思議ね。チュチュとは数日前に初めて話したばかりなのに……全然、初めてのような気がしないわ」
「はい! だってチュチュはカードとして、ずっとずっと明日香さまの側にいましたから! そのことは覚えているのでチュチュは明日香さまが大好きです!」
そう言葉を返して抱き着く力を強めるチュチュ。そんな彼女を明日香は子を見守る母のような顔付きで眺め、受け止めていた。
「そうね、ごめんなさい。ずっと家族だったわね。兄さんが目覚めたらチュチュのことも話さなきゃ」
「吹雪さんかぁ……んーと、私は一番年下だから――」
サイバー・チュチュは明日香に埋めていた頭を上げて視線を合わせると、花が咲くような笑顔で少し頬を朱に染めながら嬉しそうに呟いた。
「えへへ、なら明日香お姉ちゃんだね」
「――――――――――」
その瞬間、明日香の全身を駆け巡るような衝撃と、何か多幸感にも似た極上の幸福を味わった。
「………………」
「明日香さま……?」
「――――ど」
「え……?」
「もう一度、お姉ちゃんって呼んで!」
「えっと……明日香お姉ちゃん……?」
再び、明日香の中で何かが弾ける。そして、扉が開く音がしたような気がした。
「うふふ……兄さんはズルいわ……ずっとこんな気持ちを味わっていたのね……」
そう呟くと明日香はサイバー・チュチュをぎゅっと抱き締め返し、そのまま口を開いた。
「私がお姉ちゃんよチュチュ!」
「はい、明日香お姉ちゃん!」
「ああ、チュチュったら可愛いわ……アイドルにだってなれるわ!!」
「えへへー!」
二人の間に止めるものが誰もいなかったため、このやり取りは、明日香がふと我に返ってシラフになるまで続いたという。
◇◇◇
「知っていますかジュンコさん? "ノーフェイス"さんが学校にいらっしゃるという噂?」
「ああ、知ってる知ってる。夜になると現れるっていうアレでしょ?」
「見てみたいですけどちょっと怖くもありますわねぇ」
「あの人、テレビで見てても一番よく分からないプロデュエリストだものねー」
「あら……?」
ある日の朝。明日香はいつものように前田ジュンコと浜口ももえとの待ち合わせ場所に来ると、2人がそんな話をしている姿を耳にしたため、ノーフェイスがセブンスターズだという情報を持っている明日香は顔色を変えて2人に迫る。
「2人ともその話は本当?」
「あっ、おはようございます明日香さん!」
「おはよう明日香さん!」
「ええ、おはよう。それでノーフェイスのは本当かしら?」
明日香はいつもより2割り増しの剣幕のため、ジュンコとももえは顔を合わせ、デュエル好きの明日香らしいと思いつつ口を開き、明日香は早速2人から仕入れた話の通り、深夜にデュエルアカデミア女子寮の湖の畔へ向かうことにした。
◇◇◇
「くひひ……」
「サインありがとうございますノーフェイスさん!」
「やりましたわぁ~!」
「くひー……」
(ほ、本当にいたわ……)
隠れることも何もせず、ノーフェイスはデュエルアカデミア女子寮から少し遠い位置の湖の畔にある苔むした岩の上に座っていた。
見れば他の寮の生徒もちらほらと見られ、言われれば写真の撮影に応じたり、握手をしたり、サインを書いたりなどしており、あまりに堂々とした普通の様子だった。
一般の生徒には知らされていないが、彼女はセブンスターズであり、それを知る明日香にとっては異彩を放ち、かえって不気味でしかなかった。
(え……というか、今サインして貰ってたのジュンコとももえじゃない!?)
そんなことに気付き、ホクホクした顔でオベリスクブルー女子寮に帰っていくジュンコとももえを眺めながら明日香は顔を引きつらせていた。
そして、流石にふてぶてし過ぎる態度が頭に来た明日香はデュエルディスクを展開し、ノーフェイスへと乗り込んだ。
「デュエルよノーフェイス! 勿論、受けて立たないわけないわよね!?」
「……………………」
それを見たノーフェイスは対応していた生徒への手を止めると――釣り針に掛かった魚を見るように仮面の中の口の端と目を釣り上げる。
そして、どこからともなくバトルシティ時代に使われていたあのデュエルディスクを取り出すと、それを展開した。
これ以上、デュエリスト同士に言葉はいらないであろう。
「デュエル!」
「くひっ……!」
明日香
LP4000
ノーフェイス
LP4000
「私のターンドロー!」
手札
5→6
「私は手札から魔法カード"融合"を発動! 手札の"エトワール・サイバー"、"ブレード・スケーター"を融合! そして、サイバー・ブレイダーを融合デッキから融合召喚するわ!」
デュエルアカデミア女子の女王、天上院明日香のエースカードである女性モンスター――サイバー・ブレイダーが現れた。
サイバー・ブレイダー
ATK2100
「カードを2枚セットしてターンエンドよ!」
明日香
LP4000
手札1
モンスター1
魔法・罠2
(考える限り、最高の手札だったわ! これでまずはノーフェイスの動きを見て――)
「くひひっ……!」
手札
5→6
カードをドローしたノーフェイスは、即座に手札から魔法カード、"手札抹殺"を使用。お互いに手札のカードを全て墓地に捨て、同じだけドローするのだが、何故か彼女は捨てるカードを全て明日香に向けて見せた。
効果モンスター 星8/闇属性/獣族/攻3000/守 0
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。 自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のビッグフット」以外だった場合、さらに手札から「未界域のビッグフット」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。
(2):このカードが手札から捨てられた場合、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。 そのカードを破壊する。
星8/闇属性/鳥獣族/攻2800/守2400
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のサンダーバード」以外だった場合、さらに手札から「未界域のサンダーバード」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。
(2):このカードが手札から捨てられた場合、相手フィールドにセットされたカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。
星7/闇属性/水族/攻1600/守2800
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。 それが「未界域のネッシー」以外だった場合、さらに手札から「未界域のネッシー」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。
(2):このカードが手札から捨てられた場合に発動できる。デッキから「未界域のネッシー」以外の「未界域」カード1枚を手札に加える。
星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1300
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、このカードを墓地から特殊召喚する。
星8/闇属性/悪魔族/攻2700/守1800
このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の 自分フィールド上に表側表示で存在する 「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、墓地から特殊召喚する事ができる。このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。確認したカードがモンスターだった場合、そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
「えっ……【未界域】に【暗黒界】……?」
暗黒界は
そして、手札抹殺により、ノーフェイスが手札を全て捨てて、カードを5枚ドローした直後――。
「え……?」
明日香のフィールドの全てのカードが跡形もなく吹き飛び、
手札
5→6
ATK1600
起こったことはある意味、非常に単純である。墓地に捨てられたときの効果が、5枚全て発動しただけなのだ。その中でも未界域が手札から捨てられたときに発動する効果は1ターンに1度しか使用できないという制約がある。
これにより、サイバー・ブレイダーは
そして、
最後に
しかし、ノーフェイスは笑い声しか上げないため、何が起きたかのかまるでわからない明日香はただ呆然とする他なかった。それを見ていた生徒たちも同じである。
「いひひ……!」
そして、
手札
6→7
それはドス黒い竜の骨のような印象を受けながらも、筋肉質で人型に近い悪魔のようで巨大なドラゴンであった。
ATK2700
「グラファ……さっき捨てられたカードの1枚!? こ、攻撃力2700のモンスターがどうして……!?」
そして、ノーフェイスは再び、骨で出来たアーマーを纏ったような体をして、骨のような槍を構えた
ATK1600
通ればライフポイントを削り切れる値であり、残りたったの1枚の手札で明日香がそれを止められる訳もなかった。
「いひひ……きひひひ……!」
そして、ノーフェイスは手を掲げてバトルフェイズに入ると、
「ああ……そんな……こんなことが……こ、こんなのデュエルじゃないわ……」
それは敗者の負け惜しみでしかなかった。しかし、そうとでも言わなければ今の状況を認識出来ないのであろう。
デュエリストであり、相応にプライドのある彼女は1枚の手札を地面に落としながら、その場で尻餅をついてただ震えた。
しかし、何が起こる訳でもなく、2体のモンスターは明日香の目の前に到着し、グラファを腕を振り上げ、ベージは槍を向ける。
ちなみに、暗黒界のモンスターはヴァリアブルブックによれば、見た目とは違い、優しい性格の者たちらしく、現に若干精霊の色が伺える2体の表情は、大変申し訳なさそうな様子に見えたが、最早そんなところに認識を向けれない明日香にはただの悪魔に見えた。
そして、一思いに2体の一撃が振り下ろされると共に、明日香は――自分で自分の心がへし折れる音を聞いた。
明日香
LP4000→0
◇◆◇◆◇◆
「なにあれ……強過ぎるわよ……これまでのセブンスターズとレベルが違い過ぎるわ……というか比べたらこれまでがお遊戯よお遊戯……もうおしまいよ……誰も勝てないわ……三幻魔なんてあげちゃいなさいよ……」
現在、オベリスクブルー寮の俺の自室の炬燵。ことの顛末を話し終えた明日香は、俺の腕を枕代わりにしながら顔を突っ伏したまま号泣していた。
酷過ぎる様子だが、平均的なデュエリストならば精神崩壊していそうなほど見事なやられっぷりのため、これで踏み留まっている明日香は十分強い心の持ち主であろう。
『あ……【未界域暗黒界】デッキですとォォォ!? 前は【暗黒魔轟】デッキを使ってましたよね!? ってか【未界域】をどっから持ってきたんですか!?』
「アイツ。俺がこの前にあげた【未界域】を入れたんだな。ほら、少し前にフランツさんと沢山カード作ったときに出来た奴だよ」
『
「あのときの俺はどうかしていたんだ……本当に……」
ヴェノミナーガさんは、未だに若干後悔している俺を一喝した後、明日香をビシリと指差し、そのまま口を開く。
『割れてるんだよなぁ……。アスリンが割れてんだよなぁ
「うふふ……何がオベリスクブルーの女王よ……もう"
『これぇ!
「長い、うるさい、汚い」
『はい』
「オムライスが食べたいわ……卵は甘くして……」
「はぁ……わかったからそんなに気を落とすな。今日は間が悪かっただけだ」
「リック優しいわ……家事も万能だし……デュエル強いし……デュエル強いし……お願い……"ゾーン・イーター"ぐらい使い途のないデュエリストの私をお嫁に貰って……」
ゾーン・イーター
星1/水属性/水族/攻 250/守 200
「ゾーン・イーター」の攻撃を受けたモンスターは、5ターン後に破壊される。
なんで、今日の明日香はそんなに水属性押しなんだ……しかも、ゾーン・イーターってお前……。
『"ゾーン・イーター"さんって、イラストなら"リヴァイアサン"と同じぐらいの能力はありそうなんですけどね……』
「はいはい、変なこと言ってないでシャキッとしなさい、シャキッと。さっき買ったドローパンで、金の卵が出たからやるよ」
「うん……ありがとう……本当に優しいわ……金の卵パン大好きなの……」
どうせ、明日香はシラフに戻ると、やったことを思い出して、もう一度凹むなり、騒ぐなりするのだから滅多なことを言うんじゃないよ全く。それ以上に、女の子がすぐにそんなことを好きでもない男に言うんじゃありません。
まあ、ヴェノミナーガさんの侵食率はまた若干上がっているようだが、まだ精神的には大丈夫そうなのでひとまず安堵した。
とりあえず、既に俺の片腕は明日香の涙と鼻水でぐしょぐしょになっているのでかなりアレな状態である。
「ちょっと待ってろ。オムライスぐらいでいいなら――ん……?」
とりあえず、それぐらい作ってやるかと思いつつ立ち上がり、ふと空気の入れ換えのために開けている窓の外を見ると――。
「………………クヒッ!」
開いた窓から一番近い位置にある木の裏に発見して欲しいとばかりに、体の半分だけコソコソ隠れているノーフェイスを目にした。更にこちらが見つけると、小さく笑い、手招きをしていた。
俺は小さく溜め息を吐いてから、オムライスよりも先にノーフェイスの方へ向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇
週の始めの朝礼。デュエルアカデミア本校では、講堂に全校生徒を集め、鮫島校長がモニターで話すといういつもの行事である。
既に習慣化しているため、これといって疑問を持たれることもなく、全校生徒は講堂に集まり、仲のいい友人などと談笑を交えながら待機していた。
そんな中、そろそろ校長室の映像が映る時間のため、クロノス教諭が起立を促すと、全校生徒はぞろぞろと立ち上がり、私語を止めた上でその時を待った。
そして、モニターが映像を映すと――。
『くひひ……!』
デュエルディスクを腕に装着したまま、気絶して床に倒れ伏している鮫島校長と、校長室の机に座ってカメラに向けて笑いながら小さく手を振り、脚を組んだ美女の姿があり、全校生徒は困惑の渦に包まれた。
ウワー、ナンダ!? アスカガタオレタゾ!?
ギャグミタイニ、マウシロニタオレタッスヨ!?
ドウシマシタノ、アスカサン!?
キャー、アスカサァン!?
女性の見た目はサファイアのような長い髪と、古風な舞踏ドレスを纏った長身の女性である。そして、顔に付けているのっぺらぼうのように赤い口だけあり、奇妙な光沢を帯びた藍色の仮面が特徴的であろう。
プロランク11位ノーフェイス。プロデュエリスト最高位の女性であり、事実上最強の女性デュエリストが何故かそこにいたのである。無論、彼女の手にはデュエルディスクが装着されている。
そして、彼女が手を振るのを止めると――何故か、ナイトメア、メデューサ、コブラの3名が画面にフィードインしてきた。無表情のナイトメア、楽しげなメデューサ、困り顔で溜め息を吐くコブラと、それぞれ表情が異なる様子が酷く印象的である。
その中で2人の教員のうち女性のメデューサが前に出ると口を開いた。
『ここにいる3名はただの通訳なので、気にしないでください』
3人は通訳とのことらしい。机に座ったままのノーフェイスがメデューサを手招きすると、彼女がやって隣に並び立った。
『いひひ……』
『皆様、おはようございます。校長先生に代わり、
プロデュエルの場で一度足りとも口を開いた事がなく、ただ笑っていることが特徴のプロデュエリストだったため、その光景に再び全校生徒が衝撃を受ける。
『くひひ……』
『さて、皆様。堅苦しい挨拶はこれぐらいにして、私がセブンスターズとして皆様に与える条件は単純。ここに私の3つのデッキがあります』
そう言うとノーフェイスは懐からデッキを3つ取り出し、掲げて見せた。
『いひっ……』
『鍵を持ったものだけとは言わず、この島にいる"全員"で私を攻略してみてください。あなた方の勝利条件はこの3つのデッキをたった1度ずつ倒すこと。私の勝利条件はこの瞬間から1週間後の日付が変わるまでひとつでも負けていないデッキが残っていることです』
つまり単純に今より、1週間以内に誰でもいいので3回ノーフェイスを倒せばいい。実にデュエルアカデミア側に有利な条件をセブンスターズのノーフェイスは突き付けてきた。
『くひっ……』
するとノーフェイスの胸元から1本の七星門の鍵が現れ、手に取ってこちらに見せた直後、跡形もなく消える。
『1本は既に入手しましたので、義理としてたった今送りました。さて、皆様が私との勝負に負ければ、今のように残り3本の七星門の鍵も全て頂きます。勿論、期間中は誰が何度でも挑戦可能です。そして、闇のデュエルではなく、ただのデュエルを行います』
そして、ノーフェイスは、また小さく手を振ると口を開いた。
『げっげっげ……!』
『さあ、皆様。見ての通り、既に校長は黙らせましたので、今日から1週間授業はありません。どうぞ、学園と世界のために奮ってご参加くださいませ。ヒーローになるのはあなたかも知れませんよ?』
そして、言いたいことは言い終えたのか、映像は徐々にフェードアウトしていく。
『ああ、ちなみに我々、通訳は通訳のお仕事でノーフェイスさんとはデュエル出来ないということが、鮫島校長がたった今、デュエルで負けたため、決定したのでご了承下さい』
『み、皆さん……面目ない……私に力がないばっかりに……! 全然、全く……! これっぽっちも歯が立ちませんでした……!』
最後にメデューサ教諭の補足と、涙ながらにそう語る鮫島校長を最後に朝礼の映像は途切れた。
暫くの静寂の末、次第に冷静さを取り戻した生徒らは考える。
鮫島校長はサイバー流の師範代であり、当然だが世間一般で弱いわけがないのである。実力はプロデュエリストクラスの筈だ。それが全く歯が立たなかったということは、ノーフェイスの実力が、最早異次元レベルだということは想像に難しくない。
ならばと、デュエルアカデミアの最終兵器であり、最凶のプロデュエリストと名高いナイトメアことリック・べネット――通訳なるモノのため、参加不能。
教員陣で、副最高責任者であり、クロノスに次ぐ実力と役職上はなっているが、実際のところ、この学園の生徒ならば、誰が考えてもクロノスよりも更に上の実力だと答えるであろうコブラ教諭――通訳なるモノのため、参加不能。
そして、新米教員だが、地位などは関係なく、学園トップクラスの実力があり、満員の実技授業をいつも執り行い、実際ハロウィンには全校生徒を抜かんばかりの勢いで実力を示して見せたメデューサ教諭――通訳なるモノのため、参加不能。
結果、実質上、デュエルアカデミア三大戦力が全員通訳になるという異常事態の中、今回のセブンスターズの相手は、女性最強のプロデュエリストである。
その事実を誰からともかく、生徒は自然に認識していき――軽いパニックに陥る。
今回のセブンスターズは、これまでと全く異なり、やり口は遊び半分にも関わらず、明らかに本気かつ全く抜け目なく、七星門の鍵を奪いに来たのであった。
そして、そんな中で更に混乱することが起こる。
「本館の試験場にノーフェイスがいるぞ!?」
「オベリスクブルーの女子寮にノーフェイスがいるわ!?」
「ラーイエローの寮にノーフェイスがいるよ!?」
この知らせが次々と、外に出て慌てた様子で戻ってきた各寮の生徒から聞かされたのである。
講堂に残っていた生徒はハテナしか浮かばないであろう。しかし、様子から情報は確かのように思えるため、十代らは動くことにした。
明日香は未だに戦える様子ではないため、オベリスクブルー女子寮には丸藤亮が。本館の試験場には万丈目準が。ラーイエローの寮には遊城十代が。
それぞれ向かい、ノーフェイスがいればデュエルを仕掛けることにした。
◇◇◇
「くひひっ……」
「本館の試験場にいたぞ! 俺が当たりだな! よし、この万丈目サンダーとデュエルだ! ノーフェイス!」
「では、通訳兼審判は私、コブラが勤めさせて貰う。位置について……デュエル開始!」
万丈目
LP4000
ノーフェイス
LP4000
「いひひっ……」
「オベリスクブルー女子寮にいたぞ……! 俺が引いたようだな……2人には悪いが倒させて貰う……! デュエルだ! ノーフェイス!」
「はーい、なら通訳兼審判は私、メデューサちゃん先生がやらせて頂きますねぇ! じゃあ、デュエル開始ィ!」
丸藤亮
LP4000
ノーフェイス
LP4000
「にひひっ……」
「おっ、ラッキー! へへっ! ラーイエローの寮にいたぜ! よろしく頼むぜノーフェイス!」
「じゃあ、通訳兼審判は俺、リック・べネットが担当する。では、デュエル開始ィ!」
十代
LP4000
ノーフェイス
LP4000
全員、自身がノーフェイスとデュエル出来たものと思い、3体のノーフェイスとのデュエルがそれぞれ始まり――。
◇◇◇
『な、奈落はやめてくださいぃぃぃ! にゃぁぁぁぁ!?』
「サイレント・マジシャン!? ま、また手札から落とし穴系のカードだと……? だ、ダメだ……まるで上級モンスターを出せん……ターンエンドだ。モ、モンスターが手札にいた時点で"アトラの蠱惑魔"と一緒に攻撃されて終わる……」
「きひひっ……!」
「"
「そして、"
ATK3300
「ま、待って下さいコブラ教諭!? "
「クッ……勉強不足だぞ万丈目! 効果が無効になっているのはフィールド上のみ! すなわち、墓地に送られた時点では効果は再び元に戻るのだ! 他でも応用できる故、覚えておけ!」
「そ、そうなんですか……。たった2枚の手札消費で"
「きひっ……!」
「く……クソォォォォ!? というか、お前誰だと思ったらナイトメアのデ――」
「たひね!」
「のわぁぁぁぁぁ!!!?」
万丈目
LP2200→0
アトラの
星4/地属性/昆虫族/攻1800/守1000
(1):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、「ホール」通常罠カード及び「落とし穴」通常罠カードの効果を受けない。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は「ホール」通常罠カード及び「落とし穴」通常罠カードを手札から発動できる。
(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分の通常罠カードの発動及びその発動した効果は無効化されない。
星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守 600
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札・デッキから悪魔族・レベル3モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは効果が無効化され、S素材にできない。
星3/闇属性/悪魔族/攻 800/守 800 「魔犬オクトロス」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。 デッキから悪魔族・レベル8モンスター1体を手札に加える。
トラストターン
トランスターン
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を墓地へ送って発動できる。墓地のそのモンスターと種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスター1体をデッキから特殊召喚する。
◇◇◇
サイバー・エンド・ドラゴン
ATK8000
「くっ……攻撃は防がれたか……。なら俺は"サイバー・ジラフ"を召喚し――」
「いひひ……!」
「あっ、ノーフェイスさんは召喚にチェーンして"
「な、なにっ……!?」
「えーと……"パワー・ボンド"の効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップしましたが、発動したターンのエンドフェイズに自分は この効果でアップした数値分のダメージを受けますけど……何かありますか?」
「いひっ……!」
「………………俺には……ない!」
丸藤亮
LP4000→0
サイバー・ジラフ
星3/光属性/機械族/攻 300/守 800
このカードを生け贄に捧げる。このターンのエンドフェイズまで、このカードのコントローラーへの効果によるダメージは0になる。
◇◇◇
デストーイ・シザー・ウルフ
ATK2000
「にひひっ……!」
「"デストーイ・シザー・ウルフ"に、装備魔法"
デストーイ・シザー・ウルフ
ATK2000→3000
「おおっ、攻撃力3000か! どんな効果なんだ!?」
「"デストーイ・シザー・ウルフ"は、このカードの融合素材としたモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。"
「へー、5回攻撃か! 解説ありがとなリック――って5回……? マジかよ!? "ヒーローバリア"と、"ネクロ・ガードナー"だけじゃ全然足りねぇじゃん!?」
「にひっ……!」
「う……うわぁぁぁぁ!?」
十代
LP1900→0
デストーイ・シザー・ウルフ
星6/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500
「エッジインプ・シザー」+「ファーニマル」モンスター1体以上
このカードは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。(1):このカードは、このカードの融合素材としたモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。
通常魔法
「魔玩具融合」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分のフィールド・墓地から、「デストーイ」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
装備魔法
装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、守備力は1000ポイントダウンする。このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。または、1000ライフポイント払わずにこのカードを破壊する。
◆◇◆◇◆◇
「まるで勝てん……!」
「全く勝てない……!」
「やっぱり、ノーフェイスの奴……めッッッちゃくちゃ強いな!! 明日も挑戦するぜ! これから最高の一週間だな!」
朝から夜の19時程まで3人は挑み続けたが、結果はこの有り様であった。
オベリスクブルーの食堂で、食事を取る3名をオベリスクブルーの男子生徒は非常に生暖かい目で眺めている。
通訳兼審判は途中で居なくなるが、食事時間以外は寝ずに24時間デュエルを受け付けているそうなので、今は他のデュエルアカデミアの生徒が挑んでいると思われるが、依然として難攻不落なことには変わりない。
「勝ちたい……アイツに勝ちたい……! "サイバー・ドラゴン"だけでは今の俺にはやはり足りんか……! クククッ……面白くなってきたな……! リック……今ならお前の世界が見えるぞ!」
「クソっ! 作戦の練り直しだサイレント・マジシャン! アイツの鼻を明かすには今のデッキ構成から変える必要がある! 如何に落とし穴系とホール系に引っ掛からず、手札に腐らせるかが勝利の鍵だ! お前らもだぞ雑魚ども! 低攻撃力なら少なくとも"奈落の落とし穴"には掛からん!」
『はい! 精一杯、協力しますマスター!』
『『『頑張るよアニキー!』』』
そして、前向きなのは十代だけかと思えば、残りの2人もそれなりに前向きであった。万丈目にとっては負けることなど既に慣れているため、彼なりにプライドを通しつつのメタを考え、カイザーに関しては何か新たな扉を開き始めていた。
尤も3体のノーフェイスに挑めるのはこの3人だけではない。他にもノーフェイスを打倒せんと躍起になる者たちはいる。
明日は2日目。セブンスターズの刺客6人目――ノーフェイスの攻略は始まったばかりである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
これは遡ることノーフェイスの襲来から少し前。如何にして【未界域】が生まれたのかの経緯のお話である。
《可愛さと強さを兼ね備え、使いやすいドラゴン族を作れ》
ある日、海馬コーポレーションのカード開発部門に、社長である海馬瀬人からあまりに唐突で奇っ怪な直々の注文が下る。
常軌を逸したレベルの
ラビードラゴン
星8/光属性/ドラゴン族/攻2950/守2900
雪原に生息するドラゴンの突然変異種。巨大な耳は数キロ離れた物音を聴き分け、驚異的な跳躍力と相俟って狙った獲物は逃さない。
海馬コーポレーションのカード開発部門の職員としては会心の出来であった。
可愛らしくも力強いデザイン。 バニラカードなのであらゆる意味で使いやすい。海馬社長にとって最強であり、この会社でも最強の象徴である
カード開発部門の職員が満場一致でゴーサインを出したため、海馬社長へと届けられ――。
《俺ではなく、キサラが使うんだ。そして、カード1枚ではなく、デッキを作れ》
――先に言えよとカード開発部門の社員一同は誰しもが思った。また、海馬社長は遠回しにラビードラゴンが、
依頼は白紙に戻った上、とんでもない条件を満たしたデッキを作れというとんでもない制約により、カード開発部門の社員一同は頭を抱えてしまった。いくら彼らが優秀とは言え、限度があるのである。
そして、"完璧を目指すためにはI2社に依頼をした方がいいのでは?"とダメ元で海馬社長に提案したところ、何故かそれはすんなりと通ってしまい、I2社に無茶振りに等しいこの依頼は回された。
依頼を受けたI2社の社員もほとんどが度肝を抜かれる依頼内容だが、非常に珍しい、海馬社長からの依頼に最も気をよくしたのは、デュエルモンスターズの生みの親であるペガサス・J・クロフォードであった。
純粋に事実上の彼から自身への依頼というものが、嬉しかったのであろう。ペガサス会長は、自身がトゥーンモンスターを作ったとき並みの創作意欲を見せ、それはそれは全力で依頼通りのカードたちを仕上げ――。
星7/地属性/ドラゴン族/攻1600/守3000
自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族または地属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。また、このカードと地属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、自分の墓地のモンスター1体を選択して特殊召喚する。このカードが除外された場合。デッキからドラゴン族・地属性モンスター1体を手札に加える事ができる。「巌征竜-レドックス」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
星4/地属性/ドラゴン族/攻1800/守1200
ドラゴン族または地属性のモンスター1体とこのカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「巌征竜-レドックス」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。「地征竜-リアクタン」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
星7/水属性/ドラゴン族/攻2600/守2000
自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族または水属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。また、このカードと水属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、デッキからモンスター1体を墓地へ送る。このカードが除外された場合、デッキからドラゴン族・水属性モンスター1体を手札に加える事ができる。「瀑征竜-タイダル」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
星4/水属性/ドラゴン族/攻1600/守2000
ドラゴン族または水属性のモンスター1体とこのカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「瀑征竜-タイダル」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。「水征竜-ストリーム」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
星7/炎属性/ドラゴン族/攻2800/守1800
自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族または炎属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。また、このカードと炎属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。このカードが除外された場合。デッキからドラゴン族・炎属性モンスター1体を手札に加える事ができる。「焔征竜-ブラスター」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
星3/炎属性/ドラゴン族/攻1000/守 200
ドラゴン族または炎属性のモンスター1体とこのカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「焔征竜-ブラスター」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。「炎征竜-バーナー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
星7/風属性/ドラゴン族/攻2400/守2200
このカード名の(1)~(4)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):手札からこのカードと風属性モンスター1体を墓地へ捨てて発動できる。デッキからドラゴン族モンスター1体を手札に加える。
(2):ドラゴン族か風属性のモンスターを自分の手札・墓地から2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。
(3):このカードが特殊召喚されている場合、相手エンドフェイズに発動する。このカードを手札に戻す。
(4):このカードが除外された場合に発動できる。デッキからドラゴン族・風属性モンスター1体を手札に加える。
星3/風属性/ドラゴン族/攻 500/守1800
ドラゴン族または風属性のモンスター1体とこのカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「嵐征竜-テンペスト」1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。「風征竜-ライトニング」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
――その結果がこれである。
どこかからインチキ効果もいい加減にしろとの怨嗟の声が聞こえて来る気がするが、トゥーン以外には戦闘で負けずダメージも受けず、直接攻撃可能という、トゥーンモンスターに比べれば、まだ優しいといえば優しいというのも酷い話であろう。
しかし、征竜の強さは凄まじく、可愛さも子征竜がカードの設定ごと満たし、全てのカードのカードパワーの高さから非常に使いやすいドラゴン族であり、海馬社長の条件を全て満たしている辺りは、流石はペガサス会長と言える。
そして、ペガサス会長は自身を持って征竜たちを海馬社長へと送り出し――。
《強さと可愛さは及第点だが、キサラ――デュエルモンスターズの初心者にも回せるデッキを作れ》
――と言われて数日後に返って来た。
確かに翌々考えれば、この征竜というカテゴリーは状況に応じた判断力で、実力の全てが左右されると言っても過言ではないため、非常に玄人向けのデッキと言えるだろう。十全に扱うということを着眼点にすれば、並みのプロデュエリストでも満足に使えるような代物ではなく、当たり前だが、初心者が使いこなすのはほぼ不可能と言っても差し支えないデッキである。
珍しく海馬社長が強さ等は認めているため、自分で一旦回してから及第点を出し、デュエル初心者のキサラに渡して回したところ――キサラがデュエルディスクを構えながら、征竜のテキスト多さと、デッキ・手札・墓地のシナジーの意味のわからなさにアワアワしてしまったことは想像に難しくない。
そんなわけで、再び開発は白紙に戻り、この世に3枚ずつだけ生まれてしまった征竜は――。
『オーウ、仕方ありまセーン。ならこれは我が社のモニターデュエリストのリックに回しマース』
――というペガサス会長の鶴の一声により、リックへ流されることに決定した。こういった理由で、時々リックにはI2社の試作カードが流れてくることもあるのである。
ちなみにペガサス会長から直々に征竜を渡されたリックは丸一日放心状態だったという。カードを一目見ただけで、征竜の強さを認識してそうなったと考えたペガサスは、改めて自身が知る限り、5本の指に入る強さのデュエリストであることを確認できた。
また、その日、自室に戻ったリックは"こんな下らない理由で、この世界では悪魔が生まれたのか……"等と頭を抱えていたという。
その後、海馬社長の依頼は難航した。流石のペガサス会長と言っても一度征竜で出し切ってしまったため、そうポンポンと新しいものは思い付かなかったのである。
『俺とフランツさんで作りますよ』
そんな中、カードデザイナーのフランツと、彼とプライベートでも仲がよくカードデザイナーもしているリックが名乗りを上げた。
征竜を手にした直後のためか、タガが外れてしまったのか、酷くギラついていながら光のない目でリックはそう言っていたため、社員は多少退きながら心配したが、リックとフランツに依頼を一任した結果――。
『"ドラゴンメイド"です』
『皆! 力作だ! これは凄過ぎる!』
『オーウ、これはキュートデース!』
生まれたカードは怪作であった。
しかし、確かにメイドもドラゴンも絵柄やソリッド・ビジョンが可愛い。デッキとしても纏まっており、各々のカードパワーが高いためにかなり強い。召喚・特殊召喚時効果、手札誘発効果、バトルフェイズ時の変身効果の中で、2つずつそれぞれ少し違った効果を持っており、非常に分かりやすく初心者に優しい。このように屁理屈もいいところだが、与えられた条件は全て満たしている。
他のカードデザイナーが見習いたくなる程度には凄まじいカテゴリーであった。馬鹿と天才は紙一重というが、まさにこれはそれが表裏一体でなければ作りようもないカテゴリーだった。
他のデザイナーとしては不安しか無かったが、表立っての非の打ち所はない上に、ペガサス会長も手放しで褒めている。
そのため、ドラゴンメイドは海馬社長へと送り出され――。
《まあ、いいだろう。よくやった》
――海馬社長を知る者からすれば鳥肌が立つような返答が来たため、"オーウ、ファントム……?"等とペガサス会長すら困惑を見せていた。
きっと、カードの可愛さにキサラが目を輝かせ、楽しげにデッキを使っている姿を目にし、精霊の友達まで出来たため、彼としては言うことがなかったのであろう。元々、常識からは最も遠い人間の1人である。
まあ、そうでなくとも彼は
こうして、海馬社長から始まった騒動は2つの社外に広まることもなく、円満に収まったのだった。
ちなみに蛇足だが――。
『リックくん! 神を縛ろう!』
『いいですね! メリット効果の塊にすれば神も快く縛られてくれるでしょう! 10レベル以上を対象にすれば、普通のカードにも使えるので更に多目に見てくれるかも知れません!』
『それだ! 早速、作ろうリックくん!!』
『イェーイ! たーのしー!』
『マスターが壊れました……絶対に許さねえ! 征竜ウウウウウウ!!』
それから数日程、リックのテンションが可笑しかったため、フランツと共に様々なカードが生まれたりした。
その間に生まれたカードのひとつが、未界域というカテゴリーなのであった。
げっげっげ……!(ソプラノボイス)
ちなみに【未界域暗黒界】を倒すデュエリストは既に決まっておりますのでお楽しみにしてください。
~QAコーナー~
Q:何で明日香さんちょっと姉を名乗る不審者化し始めてるん?
A:彼女は10JOINの妹
Q:なんでこんなにノーフェイス強いねん。
A:そりゃ、神(一応)をぶん殴れるぐらい元々凄まじくポテンシャル高い邪悪――げふんげふん。イッタイゼナンデショウネー。
Q:お前、明日香さん好きだよね。
A:
遊戯王GXを1話から通して見て、明日香のキャラクター像が少しお高い感じの女性像に固まったところに、17話でドローパンを当てて、無茶苦茶喜んでいる明日香さんを見て、ホモもノンケ問わず好きにならない奴なんているわけないんだよなぁ……。
Q:出禁食らってる通訳の3人解放したらどうなるの?
A:
コブラ先生 VS 蠱惑魔
「私のフィールド上の"ボルカニック・ラット"を生け贄に"ナイトメア・デーモンズ"を発動! 相手フィールド上に"ナイトメア・デーモン・トークン"を3体特殊召喚! そして、"ブレイズキャノンートライデント"で、"ナイトメア・デーモン・トークン"を対象に手札の"ボルカニック・バックショット"を射出! 更に"ボルカニック・バックショット"をデッキから2体墓地に送り、相手フィールド上の全モンスターを破壊する! "ブレイズキャノンートライデント"の効果で500ポイントのダメージ! "ボルカニック・バックショット"の効果で1体につき500ポイントのダメージを与え、合計1500ポイントのダメージ! 更に破壊された"ナイトメア・デーモン・トークン"1体につき、相手プレイヤーに800ポイントのダメージ! 3体で合計2400ポイントのダメージだ! よって合計で4400ポイントのダメージを与え私の勝利だ!」
※当然ながら原作3期前半のラスボスの風格
メデューサ先生 VS 未界域暗黒界
「どうですか? "一時休戦"を3枚私が握っていたご感想は? とっくに準備は万端ですよ! "ギブ&テイク"で私の墓地の"トーチ・ゴーレム"をあなたのフィールドに守備表示で特殊召喚します。更にそのレベルの数だけ自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体のレベルをエンドフェイズ時まで上かりました。私は"KA-2 デス・シザース"を選択、"トーチ・ゴーレム"はレベル8なので、これでカニはレベル12です。だが俺はレアだぜ! 賢い【未界域暗黒界】には手札事故防止のために手札誘発がほとんど入ってないことは知ってるんですよォォォ!! 喰らえ
※4000デュエルで蟹はいけない
ナイトメアくん VS ファーニマル
「俺は墓地からドラゴン族モンスターを各2体、合計8体ゲームから除外し――ギャハハハハ! 地獄を見せてやるぜ!! "
※覇王