体術修業を始めて五日目、ようやく全員が体術を習得出来た。
俺は初日に、アスナとキリトは3日目に修業を終えヒゲを消して貰ったのだが、初日にアルゴが去った後2人の来客があったのだ。
イスケとコタローである。
アオシの言ったことの意味をしっかり理解していたらしく気付かれないように尾行しこの場所までたどり着いたのだ。
初め2人は俺達3人がフードケープを被っているのを見て違う場所に来たのかと思ったようだが顔にヒゲを書かれた事でその意味を理解したらしい。
ちなみにキリトとアスナは3日目に終了したと同時に下山したが、俺はこの場所に残り2人の資質を見ている。
この岩砕きをクリアするには二通りの方法がある。俺のように岩の致命点を探してピンポイントに攻撃するか、根気良く同じ場所を攻撃するかだ。
ちなみにキリト、アスナは致命点でこそ無いが比較的ダメージの多い場所を攻撃し続けて3日かかったのだ。
この2人にはやはりというかキリト、アスナ程の資質は無いようだが、そこそこダメージの入る場所を見つけ、同じ場所を攻撃し続けるだけの根気は有るようだ。
「アオシ殿!遂に拙者たちもやったでゴザるよ!」
「お頭、これで我らを仲間に入れてもらえるのでゴザルな?」
そう。何故かキリトやアスナではなく俺に懐いてしまったのだ。
何でも忍者の本質に気づかせて貰ったとか何とか……。
正直俺はこの2人は条件をクリアすることは無いだろうと一週間での岩割りクリアを条件に仲間の申し出を受けた。
いくら根気良くやれば割れると言っても拳の位置が5センチもズレれば蓄積されないのだ。
キリトやアスナでも1~2センチはズレていたし、アルゴはクリアできなかったらしいからそれ以上にズレていたのだろう。
「そうだな。仕方あるまい。」
そういうとコタローはその場で大きく飛び上がり、イスケは安心したように軽く息を吐き出す。
この2人はキャラ作りは同じ方向なのに性格は逆に近いようだな。
キリトやアスナからは二日遅れたが俺達3人は前線に合流すべく小屋を後にした。
コタロー、イスケは前回の攻略戦には参加していなかったがレベルに関しては攻略組とさほど変わらず11程にはなっているそうだ。
戦闘技術に関しても特に問題はない。むしろ2人の連携は攻略組の中でも上位に入れそうな程度は持っていた。
強いて言うならば見た目を気にしたコーディネートのせいか装備ー特に防具ーのランクが低い位だ。
主従区ウルバスを越え、その先の村マロメに到着するなり先ずは防具屋に行き戦闘時のスタイルを崩さない種類の物で最高ランクの物を仕入れていく。
幸いコタローとイスケは装備はコーディネート重視だったのでそこそこコルは貯まっていたし、俺もアスナが払ったコルー契約不履行なので返そうとしたが払っていた分は頑として受け取らなかったーが有ることもあり序盤にしてはかなりの額が手元に有る。
結果3人はこの第二層に置いては最高の物を揃えられた。その足で今度は鍛冶屋へ行き強化を行う。
素材とコルの許す限り強化を行っていたが一番最後、コタローの武器である短剣の強化を行っているときにそれは起きた。鍛冶屋の手にある短剣が一瞬明滅し更に強化中に砕けて消えたのだ。
「な、な、な!?何でゴザるか!?これは!?強化ペナルティーに消滅なんて聞いたこともないでゴザるよ!?」
コタローは全身を使って苦悩を表現する。……正直何も知らない人間が見たら吹き出すだろう。……いや、既に吹き出している奴は居るな。
「……す、すいません!すいません!」
鍛冶屋の主人はプレイヤーである。気弱そうな顔立ちだが、仕事ぶりは真剣そのものな彼は今は今にも泣きそうな顔で地面に額をつけている。
……ふと俺は気になったことがある。彼は今と同じ表情を鍛治を最初にまとめて頼んだ際にしていたのだ。
俺は最初今の表情が全て成功するかわからない不安からだろうと思っていた。
しかし、それでは何故今も同じ表情を出しているのかに矛盾が生じる。
これではまるで“今回破壊が起きると考えていた”様ではないか。
しかし今見ている彼の表情からは悪意は見えない。申し訳ないとしか思ってないようにも見える。
「いや、騒いでしまい申し訳無いでゴザる……お主は真剣に鎚を振るってくれたでゴザる。後は拙者の問題。また購入してお願いするでゴザるよ……。」
コタローはそう言うと奇妙な動きをやめ、とぼとぼと歩き出した。
当事者であるコタローが気持ちに折り合いをつけた以上俺が騒ぐのはお門違いだろう。
そう考え、コタローの後に続いて歩き出し、少し先の建物の横道に入った。
コタローはこの先の武器屋で再度同じ武器を買い強化するようなので、俺とイスケはコタローにカンパとしてコルを渡した。どうやらイスケもコタローに付き添うそうなのでとりあえず別れ、後で宿屋に合流するように伝える。
「それで?一体何の用なんだ?」
俺は2人の姿が見えなくなった所で背後にずっと居る2人組に声をかけた。
わざわざ後ろからずっと着いてきているのに声をかけないのは俺にだけ話したいことがあるのだろうと予測したのだ。
「いやはや……よくわかるな。索敵しててもプレイヤーなんかたくさん居るのに。」
「というか……わざわざこっそり後付けなくても一言声かければ良かったんじゃないの?」
そう言いながら出て来たのは予想通りキリトとアスナだ。
……あれだけアルゴに情報がいかないように頑張っていたのに普通に2人で行動しているのだから女心はわからない。
「相手に位置情報が漏れるような尾行では上手く交代しながら行うのだな。ましてや相手が止まると2人とも止まるのでは尾行していますと言っているようなものだ。」
「はぁ~……なるほどねぇ……」
俺の説明にキリトは感心、アスナは額に手をやり顔を振るというアクションを示した。
「まぁそれは別に良いわ。それよりもアオシ君、あの鍛冶屋で何かあったのよね?」
「依頼品が壊れたのか?」
!?……キリトが言った言葉は暗に予測の上で“壊れた”と言う状況を出している。普通は強化失敗によりマイナス補正を予測するのにだ。
「どうゆう事だ?なぜ壊れた事を知っている?」
「その前にアオシ、彼をどう思うのか聞かせてくれないか?」
その問いには多少答え辛いものがあった。正直彼は何か秘密がある。それはわかるが彼の表情を見て俺が読み取れるのはそれだけだ。悪意は見えない事から恐らくは善人だとは思うが……。
「判断はつけかねるな。怪しいが彼の表情からは善人のようにも見える。」
2人は俺のその台詞を聞き安堵の表情を浮かべた後お互いに見つめ合って頷いた。
「彼はまず間違いなく詐欺を行っている。これは間違いない。だが方法も解らないし……正直彼の意志には思えないんだ。」
「それで私たち近場の空き部屋から見て方法を看破しようと思っていたんだけど3人だったからよく見えなくて……。」
何でもあの後一度別れた二人だったがフィールドボス討伐戦に参加して再開、その後アスナの武器の強化を彼に頼んだ所で彼女のウィンドフルーレを砕かれてしまったそうだ。
その後キリトが彼を尾行した所、彼の仲間らしきプレイヤー達を見つけ会話を聞き詐欺を確信、隠しコマンドの所有アイテム完全オブジェクト化というものを使用して取り戻したらしい。
ならば今回のコタローもと考えたがやはりやめた方が無難だろう。
もし下手な発覚の仕方をすれば最悪プレイヤーによるプレイヤーの抹殺が公然と行われる可能性があるからだ。
……彼が性根から腐った外法者ならばそれでも構わないが……。
「……壊れる前に武器が一瞬明滅したのだが関係はあるか?ほかの時との違いだとそれぐらいしか思いつかんのだが。」
「明滅……」
キリトはおもむろにウィンドウを開き手持ちの剣で再現してみるも現象としては同じだが明らかに遅く分かりやすいものだった。
「そんなに時間が掛かってたら私の時でも気付くわよ。……でもアオシ君の話に有った明滅したって言うのはこの装備の持ち替えの時なんでしょうね。」
「ふむ、後は音だな。二回も鳴らなかったが一回ならば今の音を聴いている。」
俺とアスナの台詞を聞き、キリトは少し悩んだがやがて急に顔を上げた。
「……そうか、そうゆうことか!!」
キリトは何かに気付いたようだが、とりあえず実証してから連絡すると言いアスナを引き連れて去っていった。
その夜、キリトからメッセージが届いた。
どうやら準備とやらが出来たらしく明日の十時に鍛冶屋の彼の店の向かって左手にあるNPCハウスの二階に来てくれというものだった。
イスケとコタローも連れて行くか悩んだが今回は連れて行くのはやめることにした。
その方がスムーズに事が進むだろう。
次の日、俺はアスナと共にNPCハウスの二階から変装したキリトが彼のトリックを見破るのを見ていた。
なんでもクイックチェンジという派生スキルを使用したトリックらしい。キリト自身確信はもてていなかったようだがどうやら当たりだったようだ。
鍛冶師の彼は見破られるとこちらの通路に走り出したので窓から飛び出した。
同時にアスナも飛び出したので通路は完全にふさがり鍛冶師の彼、ネズハは逃走を諦めた。
後ろにいるキリトが言うにはどうやら自殺しようとしていたらしい。
とはいえ3人に囲まれた上にアスナからの一言ー自殺は攻略組全員に対する裏切り行為ーの一言を聞いて観念したようだった。
俺達3人はネズハを連れ、先ほどのNPCハウスへと入り話を聞いた。
曰わくネズハを入れた6人のギルド(仮)レジェンドブレイブスが強くなるために詐欺を始めたこと、罪悪感と壊れる剣、そして持ち主のプレイヤーに申し訳なさを強く感じていたこと。
そして最も重要な情報はネズハ達に強化詐欺の技術を教え、更には実行までの抵抗感を無くさせた黒ポンチョの男だ。
特に“分け前を貰わない”というスタンスは利益目的ではない代わりに罰を一切受けずに傍観者になれるということだ。
おそらく……目的はプレイヤーがプレイヤーを罰する……もっと言えば殺すよう仕向け、殺人への抵抗感を薄れさせる事と推測する。
キリトやアスナは気づいてはいるまい。この考え方は利益ありきの犯罪ではない。犯罪をするために行う犯罪の種まきの様なものなのだから。
やがてキリトはネズハの戦闘職になれない理由である遠近感の問題を永続的投剣武器“チャクラム”を渡すことでとりあえずは解決させ、鍛冶を辞め戦闘職をやるように説得している。
なんでもチャクラムは投剣の他に体術も必要らしく体術をとる変わりに鍛冶を消すように説得しているようだ。
「この世界で剣士になれるなら何だってします。……もっともこれじゃ剣士ではないかもですけどね。」
「この世界で戦っている人は全員が剣士よ。……たとえそれが純生産職の人でもね。」
「ああ。そうだな。それにその武器は君の名前に合っているだろう。ナーザ。」
「!?どうして!?」
「中国の伝記に関してはそこそこ程度には把握している。もし読み方を間違えたなら謝罪しよう。」
ネズハは首を振り俺の指摘を肯定した。もっともその名に気付いたのは先ほど話に出たレジェンドブレイブスというギルド名と何名かの有名な英雄の名を聞いたからだが……。
ナーザ、別名をナタクという英雄は宝具を操り空を駆ける英雄で腕輪のような宝具を武器としていたと記憶している。つまりチャクラムはネズハにとっては最も合っている武器だろうと思ったのだ。
やがてキリト、アスナはネズハを体術習得場所へ案内しに行き、俺はそれには同行せずにイスケとコタローの待つ宿屋へと戻った。
「アオシ殿、用事はすんだのでゴザるか?」
俺は出迎えてくれたコタローにイスケと共に俺の部屋に来るように伝え、上手くネズハには矛先が向かぬよう2人に状況を伝えた。
そして2人に重要な依頼を話してみる。
「話に出てきた黒ポンチョの男だが……2人がもしやってくれるならばパイプを作りたい。無論危険も伴うし無理にはやらなくていいのだが……。」
「水くさいでゴザるぞ、アオシ殿。拙者らは貴殿に惚れたのだ。我らのお頭たるアオシ殿の依頼とあらば受けるのが筋と言うもの。なあイスケ!」
「全てはお頭のお心のままにでゴザル。我らはお頭の手足、存分にお使い頂きたいでゴザル。」
快諾してくれた2人にネズハの事を黙っていた罪悪感を多少感じるが今はそんな事に気を使う場ではないだろう。
俺は2人に詳細なやり方を伝え、2人は明日より昼間は黒ポンチョ探し、夜間は俺と共にパワーレベリングを行うことにした。
無論相手につながりを知られたくはない。またパイプとは言ったが出来ることならば此方の名は知られずに相手の名を知れれば最上だろう。
しかし、2人には自分の命を最優先にするように伝えてある。
そして2人とのパワーレベリングを終えた深夜、俺は現役時代に近い装束を纏い
闇夜に紛れ同じように暗躍しているであろう者を探しに行く。恐らく……この行動こそがこの時代、そしてこの世界に前世の記憶を持って産まれた俺の使命だと信じて……。
2日(約3日?)も空けてしまい申し訳ありません。
一週間に五回を目安に頑張らせていただきますのでお付き合い頂けたら嬉しいです。