ソードアートオンライン~過去からの転生者~   作:ヴトガルド

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更新遅くなり、申し訳有りません。
無事?試験も終わりました。
更新再開しますのでお付き合い頂ければ幸いに思います。




第二十五層
クォーター・ポイント 前編


第25層攻略会議が始まり一時間。

壇上には血盟騎団の面々が並び、副団長であるアスナから今回のフロアボス偵察戦、及びフロアボス攻略戦の説明がされていた。

 

 

前層では今までに比べてかなりの苦戦を強いられた。

ボスとして現れたのは俺達プレイヤーと大して変わらない体格のモンスターではあったが、体格が小さく、回避に優れていた為に攻撃を当てる事が難しかった。

その上、攻撃の連携速度がプレイヤーでは有り得ない程に早いという今までのボスに比べるとかなりの攻略難度に跳ね上がっていいた。

攻撃力が低かった事が幸いし、死者こそ出ずに済んだが、最終的には隊列ではなく、本当の意味でトップクラスのプレイヤーのみで相手をせざる負えなかった程だ。

 

その他のプレイヤーは何も出来なかった事実が在る以上攻略組の質そのものを向上させる以外に無いのだが……。

 

「アスナはん、偵察戦の提案、作戦内容も別に文句はあらへん。……せやけどなぁ……何で本戦でワイらアインクラッド解放隊の枠を3パーティに減らすんや!?元々は5パーティやったろが!」

 

「……先程の説明を聞いていただけていないのでしょうか?アインクラッド解放隊には今作戦の規定レベルに達しているプレイヤーは5パーティ分も居ないと記憶していますが?」

 

「そもそも規定レベルゆうもんが気に食わんのや!何やねん!?レベル35!?そないなレベル設定にしとったらビギナーは殆ど参加できひんやろが!」

 

「ふむ……キバオウ君。では君ならばいくつに設定すると?我々は層+10は最低限のマージンだろうと考えているのだがね。」

 

「ワイなら5や!その分人数揃える事で補えばええ!10やとそもそも2レイド上限に届かないやないか!」

 

 

現在のマージン10を基準にするならばアインクラッド解放隊で二十数人、聖龍連合で十~七、八人。

血盟騎士団でも十数人といった所だろう。

 

ソロや俺達小ギルドを合わせても恐らくは80人前後といった所か……。

 

「確かに上限には届かないと思いますがその分質は高まります。死者を出さないためにもボス攻略戦はマージンをしっかり取るべきと考えますが?」

 

「そないな事ゆうとったら攻略組の人数が一気に減るゆうとんのや!そもそも適正レベルを5も越えとったらそうそう一撃でやられたりせぇへんやろ!?過去を振り返ってみい!第一層以降1コンボで死亡なんて出とらんやないか!」

 

「……しかし実例は有るだろう。今後もないとは言い切れん。ましてやあの時、ディアベルは10以上のマージンを取っていたにも関わらずソードスキルの1コンボで全損した事を忘れるな。」

 

「じゃかぁしいわい!あん時かて人数揃えとればディアベルはんが死ぬ事は無かったんや!そもそもその理屈やったらマージン10どころか20は必要になってまうやろが!そないな事出来るかい!」

 

……確かに20ものマージンを取っているプレイヤーは居ないだろうな。

俺でも13、確かキリトでも14だったはずだ。

というか恐らくはこの辺りまで来ると獲得できる経験値など微々たるものでボス戦以外でレベルを上げるのはなかなか難しいだろう。

 

最終的には高レベルプレイヤーを優先し、2レイド上限に足りない人数をマージンに足りていないメンバーから補充するという事で妥協となった。

無論、キバオウは連携が~等とまだ喰らいついて来ていたが、ヒースクリフが正論と今回のボス戦指揮のローテーション権利を主張し抑え込んだ。

最近は最大派閥と言う事実も後押しし、暴走気味では有るがキバオウも話の通じない男ではない。

筋は通そうとするはずだ。

 

 

「では本戦前に明日、偵察戦を行います。今回は私達血盟騎士団より1パーティ、ギルド・御庭番衆から1パーティ、もう1パーティ分はソロ、少人数パーティの方々にお願いします。」

 

……意外にもこの編成には文句は出なかった。

実際の所攻略組全体としてみれば血盟騎士団に反発している者は少ない。

とはいえ、キバオウを台頭にリンドやそれぞれの幹部連中は血盟騎士団を煙たがっている節が有るのだ。

理由は人数こそ三大攻略ギルドの中では劣るものの所属メンバーの大半がトップクラスのプレイヤーだと言うことが上げられるだろう。

ヒースクリフ、アスナ等はレベル、プレイヤースキル共に攻略組最強を競える程の腕を持っている上、他のメンバーも恐らくはキバオウやリンドと渡り合える程の猛者が揃っている事もあり、人数差程度は問題にはならないからだろう。

 

 

「キリト、お前は偵察戦に参加するだろう?パーティはどうするのだ?」

 

「……そうだな。まぁソロで参加させて貰うさ。偵察戦位なら問題ないだろ。」

 

「……なら私達のパーティに混ざるのはどうですか?アスナさんの指示に背くのは良策とは思いませんよ?」

 

「いや……そりゃユキナさんが構わないならその方が助かるけど……良いのか?」

 

「今更何ヶ月も前の事を蒸し返すつもりは有りません。それに私、負けたままで居るつもりは有りませんから。」

 

槍をキリトに向け、そう言い放つユキナに対してキリトは苦笑いを浮かべていた。

第十層でユキナはキリトにデュエルを挑んだもののギリギリでキリトに負けている。

それ以降はデュエルを仕掛けこそしていないがキリトに対してライバル意識を持っているらしい。

 

正直に言えば、俺はあの時点ではキリトが圧勝すると考えていた。

しかし結果は惜敗。一部始終見ていたがキリトに手を抜いているような様子は見られなかった。

その後、ユキナに話を聞くと何でもキリトの動きの先が見えていたらしい。

次の日になってユキナがスキルチェックをした時にその理由は判明した。

 

 

エクストラスキル“剣巫”

 

 

後々解った事だが、雪霞狼を使用し続ける事で手に入るエクストラスキルだそうだ。その効果は一瞬先の敵の攻撃を映像として見ることが出来るらしい。

 

雪霞狼シリーズはかなりレア度は高いが他のプレイヤーが誰一人手に入れられない程の武器ではない。

アルゴの調査の結果、ユキナの他に2人の同じスキルを持つプレイヤーが発見され、現在はエクストラスキルとして登録されている。

……とはいえ実際の戦闘にその効果を活用できているのはユキナだけではあるが……。

何故ならば映像は本当にほんの少し……時間にしてみれば0.1秒も無い程度の先でしかない。

故に単発に対してであれば誰でも扱えるが、連続技やフェイント等に弱く、それ故に他の剣巫のスキル持ちプレイヤーは扱いきれないらしい。

更に雪霞狼シリーズそのもののレア度と雪霞狼シリーズを装備していなければなら無いという制約が枷となり、プレイヤースキルの高い攻略組も習得は出来ていないのだ。

今まで育てたスキルを使用せずに新たに槍スキルを上げる事は実際躊躇われるだろう。

その上、例え槍使いでもアルゴの調べでは確認されている最初期のセッカロウすら店売りは一本もないという事実もある。

 

 

 

 

 

「では明日までにパーティ連携を高めておいてくれ。」

 

「ん?アオシは別行動か?」

 

「アオシさん。私が居るのに単独行動なんて出来ると思っているんですか?」

 

「……ヤヒコの様子を見に行くだけだ。」

 

「ご一緒します。」

 

「……前衛が1人も居なくてどう連携を覚えさせるんだ……?」

 

大した用事ではないんだがな……。

仕方ない。ヤヒコの様子を見に行くのは後回しにするか……。

 

現在ヤヒコにはここより七層下で活動しているパーティの指南をさせている。

前衛が1人しか居ない為にバランスが悪く、そのパーティが敵に囲まれていたのをたまたま見かけたシリカからの依頼でヤヒコを派遣したのだ。

 

確かギルド名は月夜の黒猫団だったか……。

 

何でも槍使いを盾持ち片手剣に転向したいらしい。

先程ヤヒコから槍使いの覚えが悪くてなかなか上手くいかない旨のメッセージが届いたので様子を見に行くつもりだったがこうなっては仕方ない。

 

「ならば先に連携の確認を済まそう。ヤヒコにはスキル上げのみに集中させるようにメッセージを送っておく。」

 

 

 

あまり多数のプレイヤーに手の内を見せるのは得策ではないと判断した俺達は街の傍にある安全エリアで連携の確認を行った。

元々は一撃の威力の重いユキナが単発ソードスキルを放ち、それによって出来た隙に俺の連携用小太刀二刀流剣技“流水剣舞”をいれている。

この技は8連撃と俺の持つ技の中でも手数の多さは最上級だが技の始まりから終わりまでに3秒と時間が長いのが最大の特徴だ。

……と言うよりもそれを意識して作った技と言うべきか。

 

俺の攻撃時間が長いことでユキナの硬直を補いつつ、上手くいけばそこから更に技を繋げていける。

調子がよければ3セット続けた事も有るほどだ。

恐らく、理論上は延々と繋げられるのだろうがタイミングがほんの少しズレるだけで敵の仰け反りがなくなってしまい反撃を放たれる。

故に俺とユキナの連携は基本的には2セット迄しか狙わない。

3セットいけるのは他のプレイヤーの援護が有ればの話だ。

 

「キリト、今から俺とユキナの連携を見せる。俺の攻撃の後にソードスキルを決めてくれ。」

 

キリトが頷くのを確認し、今いる安全エリアに置いてある破壊不能オブジェクトの大岩にユキナが普段道理ソードスキルを放つ。

そのタイミングに合わせて俺も小太刀二刀流の普段と同じ技を放つと初見のキリトも文句無しのタイミングでソードスキル“バーチカル・スクエア”を放つ。

正四角形の剣撃の軌跡を残す技が消えるか否かの刹那、更に追撃にユキナの雪霞狼固有ソードスキル“メテオ・ストライク”が撃ち込まれる。

空中からの超重量の一撃は大地を抉り、敵を転倒させる大技だ。

 

その後、何回か組み合わせを考えたが危険性を排除しつつ最大限ダメージを与えるならばユキナのメテオ・ストライクを締めに二回ずつのソードスキルが一番安定すると結論付いた。

 

 

 

 

 

翌日、迷宮区の入り口には偵察部隊が揃っていた。

 

血盟騎士団所属

アスナ

ゴドフリー

ダイゼン

クラディール

シュウ

レイ

 

御庭番衆所属

アオシ

ユキナ

キリト

オルランド

ベオウルフ

クフーリン

 

コンビ・小パーティ組

アルス

キラ

バルムンク

ベア

オルカ

ピロシ

 

以上18人が偵察部隊としてして集結した。

 

迷宮区内をひたすらボス部屋に向かい歩く。血盟騎士団と御庭番衆は比較的交流が有るが故にパーティ同士の連携がしやすい。

その上、今回偵察部隊に参加しているコンビ・小パーティの者達は何度か共闘している事もあって癖は掴めている。

 

特に問題もなく、ボス部屋迄辿り着いた俺達は作戦の確認を簡単に取るとその扉を開けた。

 

暗く、広い空間が広がるボス部屋に徐々に蒼い炎が立ち上る。

今までの部屋に比べ、倍近いボス部屋の中央にそれは居た。

龍の顔を2つ持ちながらもその巨大な身体は両手にそれぞれ三叉槍と大剣を持つ顔と尻尾、全身を覆う鱗を除けば巨大な人型のボスだ。

 

“ザ・アル・メイサ・メルクーリ”

 

巨龍人は咆哮を上げて身の丈に合わない速度で三叉槍を繰り出しながら突っ込んできた。

 

 

「各パーティは散開!手はず道理私達血

盟騎士団が壁になります!」

 

ゴドフリー、ダイゼン、シュウ、レイの4人が盾を掲げて巨龍人の一撃を防ぐ。

HPの削れ方としてはとてつもない脅威とまではならなそうだ。

4人共一割程の減りで済んでいる。

 

そして巨龍人の一撃が壁となっているメンバーに当たった瞬間、残る二人の血盟騎士団がソードスキルを発動して斬りつける。

クラディールの“アバランシュ”が、アスナの“スタースプラッシュ”が巨龍人の脚へと撃ち込まれ、その半テンポ遅れで俺、ユキナ、キリト、バルムンク、キラの5人が全方位からソードスキルを放つ。

そのすべてがクリティカルヒットするも巨龍人のHPの一本目のバーを一割も削れない程度しかダメージは通らなかった。

 

「……堅いな。」

 

「次からは部位狙いでいきます!御庭番衆は後方を、混合組は両側面へ!」

 

アスナの指示を受け、それぞれが巨龍人を囲むように動く。

先程の全体攻撃でも範囲攻撃は使ってこなかった以上、囲んでしまえば攻撃の手は分散するはずだ。

 

巨龍人が大剣を横薙ぎに振るう。狙いは血盟騎士団だが、前回と同じように4人が盾で受ける。

特に特殊な点は無い。HPもまだ全体の二割強が削られただけだ。

巨龍人の一撃が終わる刹那に再度フルアタックが放たれる。

正面ではクラディールが股関を、アスナは目を狙い攻撃し、側面からは肩や肘などの間接が狙われた。

 

俺達は後方、ユキナは尻尾を狙い、キリトは首を斬った。

俺は背の中央、逆さについた鱗を斬る。

いわゆる逆鱗と言うものだ。

触れただけで怒り狂うと云われる鱗を斬り落としたらどうなるのか……。

それは直ぐに判明した。

背中一面の鱗が剥がれるように弾け飛び、ポリゴン片へと変わる。

そして、一気にHPが削れ、黄色に変わると一際大きな咆哮を上げた巨龍人は狂ったように両手の武器を振るい始めた。

 

「!?オルランド、クフーリン、ベオウルフ!血盟騎士団の壁部隊とスイッチしろ!」

 

猛攻は何発も何発も血盟騎士団のみに集中している。……奴は正面の敵しか狙わないのか!?

既に血盟騎士団の壁部隊の面々のHPバーは黄色から赤へと変わろうとしている。

 

そのバーが赤に変わるか変わらないかのギリギリのタイミングでオルランド達が4人の前に立ち、攻撃を防いだ。

 

「血盟騎士団の面々は後退!御庭番衆の壁部隊が黄色に変わったら次は小パーティ組の壁部隊がスイッチしてください!」

 

この猛攻の中、何度か背中や側面に攻撃が加えられたが側面は変わらず微々たるダメージ、逆に背中はソードスキル一発でも目に見えてバーが削れるようになった。

 

ほんの二分、それでオルランド達のHPは黄色に割り込み、小パーティ組のアルス、ベア、オルカ、ピロシの4人がオルランド達と入れ替わり攻撃を受け止める。

 

しかし、巨龍人の猛攻は勢いを更に増していき、やがて1部隊当たりの戦線維持時間は2分をきり始めた。

それは戦線維持そのものが不可能になるラインだ。

大凡4分。それが黄色に落ち込んだHPをポーションによって回復するためにかかる時間だ。

無論、回復結晶や転移結晶、解毒結晶などの結晶アイテムを使えばまだまだ戦線維持は可能ではあるが敵の総HPの一割程度しか削れていない現状でそこまで粘るべきではない。

 

 

「全部隊、撤退します!小パーティ組から順に撤退を!」

 

アスナの号令を受け、今現在壁部隊を引き受けていた小パーティ組が一気にバックステップで距離を取る。

続いて血盟騎士団、殿に俺達御庭番衆が続いて徐々に戦線を下げていく。

 

巨龍人のHPは4本有る内の一本目が黄色に染まった所で猛攻が始まった。

そして狂ったような攻撃が始まった後、撤退を考えるまでに与えたダメージでそのHPを赤に染めている。

 

「なぁ副団長殿、部屋出口そばまで行ったら奴のHPの最初の一段を減らしてもいいか?」

 

「……認められません。いくらあなたでもパターンの変わる一段目が消えたら対処出来る保証は無いでしょう?」

 

「ならば俺達御庭番衆がそれに付き合おう。一段消した程度でパーティを壊滅させるほどの変化は無いだろう。」

 

「アオシ君!?何を……いえ……分かりました。ただし!私も同行します。私が無理と判断したら絶対に従ってください。」

 

「心得た。……オルランド、クフーリン、ベオウルフ!おまえ達3人は出入り口ギリギリへ行け。念の為回復結晶を用意しろ。」

 

そうこうしている内に次は俺達御庭番衆が壁部隊を引き受ける順番となった。

出口まで残り10メートル、この位置ならば脱出には数秒で済む。

 

「各自回避を最優先に!背部が弱点になっていますが脱出に不利になります!正面をメインに!」

 

アスナの号令を皮切りに俺達4人は散開する。

アスナとユキナが両側面に、俺とキリトが正面に立つとそれぞれが攻撃と回避を始める。

巨龍人の猛攻は確かに凄まじいがそれはあくまでも回数の話だ。

攻撃速度そのものは並み……いや、獲物が大きい分体感的には遅いくらいだろう。

 

残った4人は攻略組でも特に能力の高い4人だ。回避に集中していれば先ず喰らう事など有り得ないだろう。

弱点の背部を攻撃していない為に殆どボスのHPは削れていないが……。

 

ユキナ、キリト、アスナはソードスキルを初期技以外は出していない。技後硬直の長い連続技は壁のいないこの状況では使えないのだろう。……ならば硬直時間0で大技を放てる俺が奴を仰け反らせれば……。

 

数分そういった攻防を繰り返した所でパターンが少しずつ見えてきた。

今のところ巨龍人は槍による突きの後には大剣は反対側を横薙にする。

俺は自分に突き出された槍を回避しつつその槍を駆け上った。

巨龍人に肉迫したところで二刀を逆手に持ち帰る。

 

御庭番式小太刀二刀流

“回転剣舞・六連”

 

黒い光を放つ二刀が一気に敵の身体を斬り裂く。

かなりの硬度の龍鱗を斬り裂く一瞬六斬を受けて巨龍人は仰け反った。

 

そこに更にキリトの“バーチカル・スクエア”が、アスナの“アクセル・スタブ”が、そしてユキナの“メテオ・ストライク”が決まり巨龍人を転倒させた。

その攻撃でゲージはちょうど一本目が消える。

 

「各自後退!出口ギリギリまで下がります!」

 

アスナの号礼と全く同時に各自後退を始め、更に全く同時に巨龍人もまたその身体を跳ね上げるように起き上がり跳んだ。

 

ギリギリのタイミングだった。出口に巨龍人が立ちふさがるのと俺達が脱出するのは同じタイミングだったのだ。

もしほんの少しでもボス部屋に残ろうとしていたら逃げられなかっただろう。

 

ゲージが一本消えた《ザ・アル・メイサ・メルクーリ》は先程までの徒歩ではなく一気に距離を詰めたり離れたりするほどの跳躍力を披露した。

恐らくはそれがゲージ一本目でのパターン変化なのだろう。

 

「副団長殿、帰ろうぜ。とりあえず二回のパターン変化がゲージ一本目で有るってだけでもわかったんだ。充分な成果だろ?」

 

「……そうね。パターン変化が多い上にそれが早い段階で起こるという事がわかっただけでも貴重な情報だわ。」

 

「……あれも弱点だと思うのだが……」

 

俺は部屋から出ようと咆哮を上げる巨龍人の両方の額に有る輝く宝石の形をした逆鱗を指差した。

 

「それ、さっき私も攻撃したんだけど硬くてダメージ通らなかったのよね。」

 

「次は高威力のダメージディーラーに攻撃させてみれば良いんじゃないか?エギルとかユキナさんとかさ。」

 

ボスの情報を整理していた俺達4人のそばに居た男が急に声を上げた。

 

「アスナ様!このような有象無象の者共の話など聞く必要は有りません!行きましょう!」

 

その声の主は会話を遮り、いきなりアスナの手を取って引っ張った。

 

「今回のボス攻略指揮は我等血盟騎士団に有るのだ。貴様等は我等の指示に従えばいい!アスナ様、このような者共の言う事などアテにはなりません!行きましょう!」

 

「……クラディール、副団長として命じます。彼等に非礼を詫び、ゴドフリーの指揮下に入りなさい。……今すぐに!」

 

 

アスナの冷たい目に晒された男は信じられないとでも言うかのような表情を浮かべるとこちらに頭を下げてゴドフリーの元へと歩いていった。

 

……拳骨を受けているな……。

 

「血盟騎士団の者が申し訳有りません。副団長として謝罪します。」

 

「気にしないでください。私達、そんな事気にしませんから。」

 

「それよりも大丈夫なのか?あの表情、かなり面白くないといった表情だったが……。」

 

「その点は平気だと思うわ。少なくともクラディールのように血盟騎士団を神聖化している団員はほとんど居ないから。」 

 

「……悪い、俺少し用事が有るんだ。一足先に帰らせてもらうよ。」

 

キリトは突然そう言うと転移結晶まで使用してこの場から消えてしまった。

 

「……彼はまだ気にしているのね。今じゃ古参のプレイヤー以外はビーターが誰の事なのかも知らないのに……。」

 

「そうですよね。アスナさん、頑張ってキバオウさんとリンドさんを説得して個人の特定を防ぎましたもんね。」

 

「最近……ここ10層辺りで特に頻繁にアルゴの新聞に出てくる二つ名もアスナが先導者だろう?“黒の剣士”名前こそ広まっては居ないがキリトの出で立ちを見て出てくる二つ名はもう“ビーター”ではなく“黒の剣士”だろうな。」

 

「それはそもそもにしてキリト君自身が本当に活躍しているからです。……それに完全にキリト君に対する風当たりを消せてはいません。特にリンドさんは彼を頑なに嫌っている所が有りますから。」

 

リンドはかつて第一層でディアベルを失った。

その際に出来た溝は大きく、深いものではある。

攻略する為にキリトの力の有用性は認めてはいるものの、やはり心情が邪魔してビーターという風潮の完全撤廃に全面的に協力するまでは至らないようだ。

 

とはいえアスナの功績は大きいと言えよう。実際に大半の攻略組の中でキリト=ビーターという風評を黒の剣士=キリトという風評へと変えたのだから。

 

 

 

 

 

 

俺達偵察隊は、その後は危険もなく主住区に戻り、明日の昼に今回の偵察戦についての報告と対策、更に偵察戦を行うのか否かの判断を下される事になる。

さしあたり俺が行うべき事は精々ボス情報が手には入るクエストや既に入手された情報の確認と装備の点検といったところだろう。とりあえずは情報屋“鼠”のアルゴに連絡を取るとするか……。

 

 

『アー坊が欲しがっている情報でオレっちが提供出来るのはこれだけだナ。でも情報自体の整合性までは取れていない事を前提に聞いてくれヨ。

 

《太古の昔、この地は二頭を持つ巨大な龍人が統べていた。

龍人は二つの武器を用いて猛攻し、驚異的な跳躍力を見せ付ける。

龍人の怒りに触れし者は天高く跳ぶ龍人の雷と獄炎により滅ぶだろう。

龍人の怒りに触れるべからず。

三度の怒りに触れし者は刹那の内に消滅の顎をその身に受けるだろう。》

 

この層のクエストは殆ど網羅したけどやっぱりボス情報らしきものはこれだけだったヨ。何かの役に立ててくレ。』

 

 

 

送られてきたメッセージを確認し、同じ物をヒースクリフ、アスナ、リンド、キバオウ、エギル、キリトへと送った。

一昨日時点では二頭を持つ者という情報しか無かった事を考えれば充分な成果だろう。

 

更に情報を集めるにもアルゴのネットワークを超える情報網は今の所誰一人持っていない。

完全な運任せでしかない以上更なる情報を待つ事は得策ではないだろう。

 

 

 

次の日の攻略会議はやはり予想通りに荒れた。情報の解釈はともかくとしても逆鱗への攻撃をするかしないかや偵察戦での成果を見てのキバオウの執拗な口撃などだ。

 

最終的にキバオウが折れる形で決着したものの彼の振る舞いは新たな懸念となってしまった。

翌日、攻略への不安を表すかのような曇天の中、総勢96名の攻略部隊が25層フロアボス、《ザ・アル・メイサ・メルクーリ》の部屋の扉を開け攻略戦は開戦された……。




次話 クォーター・ポイント 後編となります。

ご指摘、ご感想、お気に入りや評価お待ちしております。

今後もよろしくお願い頂ければ幸いに思います。

では、また次話にて。

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