ソードアートオンライン~過去からの転生者~   作:ヴトガルド

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かなり更新遅くなり申し訳ありません。

次投稿出来るのは11月頃になりそうです。

それ以降はペースの方も元に戻せるよう頑張らせていただきますので今後もよろしくお願い致します。


第二十層
壬生狼の末裔


キリトとアスナのコンビ解消、血盟騎士団発足にユキナとキリトの決闘と色々な事があった第10層攻略から3ヶ月、俺達攻略組は今は20層へと到達していた。

 

PoH達の動向はほとんど掴めておらず、いまだに取り逃がし続けている。

攻略組に居た容疑者の一人、ジョーことジョニー・ブラックも第14層攻略時にアインクラッド解放隊を脱退し、行方を眩ましたらしい。

 

「イスケの行方は判ったのか?」

 

「依然行方知れずのままでゴザる。元々拙者としかフレンド登録して無かったでゴザる故……。」

 

その上、19層ボス戦後、突如イスケの名前がフレンドリストより消え、更にはアルゴにすら行方が掴めなくなった。

イスケはギルドに所属させていない。彼の隠蔽スキルや聞き耳スキル、忍び足スキル等、諜報活動を行うのに適していた能力構成を生かすにはギルドタグは邪魔になるからだ。

そう考え、ギルドとしての繋がりではなく、フレンド登録での繋がりを活用してギルドの一員として活動してきた。

能力ボーナスが得られない代わりに実用性、レア度の高い品物を他のメンバーに比べれば数多く回るように手配もしてきたが……。

 

「各層でのインスタントメッセージでも連絡は無し。目撃情報も無しじゃ探しようもねーよ。シリカも探してくれてるけど未だ連絡もねーし。」

 

そう、ヤヒコの言う通り、各層に1人ずつ滞在してもらいインスタントメッセージを待ったりもしたが全て空振りだった。かと言い全層をくまなく探せるような時間も人員もいない。

 

「黒鉄宮にはしっかりと名前が残されています。少なくとも殺されてはいませんが……やはり……?」

 

「……恐らくそうだろう。奴らの探索任務の最中だったのだからな。恐らくは奴らに捕らえられた。そう考えるのが自然だろうな。」

 

可能性はかなり低い。主にプレイヤーへの聞き込みを行っていたはずで圏外には出ていない筈のイスケを捕らえるなど容易ではないはずだ。

 

「すまないが俺はこれからイスケの最後に連絡のあった14層を中心に捜索する。その間は皆は無理をせずに攻略をすすめてくれ。」

 

「私もご一緒します。私はアオシさんの監視役ですから。」

 

……コタローがユキナに俺の監視役、護衛を依頼して以降、ほぼ単独で行動が出来なくなった。

レベリングから攻略、PoH捜索にいたるまでそのすべてにおいて同行をしている。

ユキナの戦闘技術については確かに安心してパートナーとして行動出来るレベルに達してはいるが、だからと言って対人戦が想定されるPoH関連には出来れば関わらせたくはないのだが……。

 

「置いていこうとするなら1人で捜索しますからね。変な気は起こさないで下さいよ?」

 

そう、一度置いて行った際には本当に単独で俺を探し回った挙げ句、よりにもよってPoHと邂逅させてしまった。

コタローからユキナが単独で来ている事を知った俺がギリギリで発見、保護したが、あと数分遅ければユキナは死んでいただろう。

 

奴らの被害が増えてきている理由として11層で発見されたカルマ回復クエストが上げられる。

面倒なクエストではあるものの、オレンジ色となったカーソルをグリーンに戻せるようになったことで奴らは中層で活動していたソロプレイヤーをかなりの人数殺した。一度攻略組としても捕縛に動く事態になったが、Poh以外のメンバーの名前すらわからない現状では発見には至らず、さしあたり中層プレイヤーにソロ探索をさせない事で対策する以外にはなくなった。

 

その作戦の影響もあり、俺達御庭番衆……とりわけ俺とユキナは何度も奴らとぶつかっている事も相まって、奴らには狙われていると言える。

無論、御庭番衆の他のメンバー、ひいては攻略組全員……いや、全プレイヤーが奴らには狙われていると言えるがその中でも俺達2人は特にだろう。

 

俺が3人、ユキナも1人、奴らのメンバーを殺したのだから。

ユキナの場合は自衛の際に乱戦になっての事ではあるが俺の場合はまた少し違う。

ジンエの首を斬り落とした時よりも明確に奴等に降伏、投降を無視されたが故にそのHPを斬り飛ばしたのだ。

それにより投降した者も6人居たが、もし投降しないようならば同じように斬り飛ばしただろう。

 

そういった事もあり、俺の風評はキリト以上に悪い。

ついた二つ名は“闇の断罪者”“闇の忍”と攻略組と言うよりもまるでオレンジプレイヤーのような二つ名で通ってしまっている。

アスナの働き掛けが無ければ攻略組に居ることも出来無かったかもしれない。

 

「お頭、イスケを頼むでゴザる。拙者も情報は仕入れてみる故。」

 

「アオシさん、行きましょう。」

 

……考えても意味はないか。

そう考え、俺達2人は第14層主住区、イセリアへと飛んだ。

 

 

 

 

 

「待っていたヨ、アー坊、ユーちゃん。イスケの最後の目撃情報があった場所に案内するから着いて来なヨ。」

 

……アルゴがなぜここに?

その疑問は隣に居た少女がすぐに答えを示してくれた。

 

「も~……アルゴさん、その呼び方嫌だって言ってるじゃ無いですか。……まぁそれより流石ですね。さっき依頼したばかりなのにもう見つけたなんて。驚きました。」

 

「ユーちゃんが依頼するまでもなく調べていたのサ。イスケの依頼を受けた時点でそれくらいは調べて当然だヨ。」

 

「それで?そいつはどこにいるんだ?」

 

「せっかちだナァ。そんなんじゃユーちゃんに逃げられるゾ……こ、こっちだヨ。」

 

俺が睨みつけるとアルゴは目を逸らし歩き始めた。

……いや、後ろのせいか。殺気が……。

 

やがて着いたのは装飾屋だった。武器や鎧、服などに模様を入れるプレイヤーメイドの店。

主にギルド等が分かりやすく格好を揃える為に使う店だが、個人でも利用する客も少なくはない。

例えば俺のギルドにはそう言った物は揃えたりしていないが、コタローとイスケは必ず額当てに忍の一文字を入れているようだし、オルランド達4人も武具にそれぞれ模様を毎回入れている。

そう言った客を受けるのが装飾屋だ。

イスケとのつながりは有ってもおかしい者ではない。

 

「や、調子はどうだイ?また話を聞きに来たヨ。」

 

「……よくねーよ。ったく、こっちゃ二足のわらじのつもりだったつーのに……体術スキル使ってもダメージなんざ武器持ちに比べりゃ微々たるもんだしよぉ。現実世界じゃ負け無しの喧嘩王だったつーのにこっちじゃ装飾屋が本業なりつつあるなんざぁ、一体何の冗談だっつーんだよ!」

 

……ふむ。確かに良い筋肉の付き方だ。太くはないが戦う為に必要な筋肉がよく引き締まっている。

 

「だから言ったロ。武器使えば良いじゃないカ。」

 

「俺は斬馬刀以外の獲物は扱わねーよ。……と、ワリィな、イスケの話が聞きてぇんだったな。

俺が奴を見かけたのは三日前でよ、いつものお得意さんだから普通に防具を預かろうとしたんだ。したらよ、今回は額当ての“忍”に二本線を引いてくれって言い出してよ、確かありゃあ忍が里を抜けたりする時にやるもんだろ?

んでイスケの奴に聞いたら“やらなければならない事が出来た”とか言っちまってよ、依頼通り額当てに線を引いてやったら代金置いて行っちまったよ。」

 

「……どこに向かったかは判らないのか?」

 

「さてね。前髪が触角みてーな痩身の男と転移門の方に歩いて行っちまった。」

 

「……そうか。礼を言う。また何かあったら教えてくれ。」

 

「お?ならそっちも斬馬刀を見付けたら情報をくれ。そいつでおあいこっつー事にしようぜ。」

 

「承知した。」

 

 

 

 

装飾屋を後にした俺達は今の情報をメンバー全員に連絡を入れた。特に細目の男、この男が恐らくはイスケの行方を知っているはずだ。

 

「アルゴ、お前は心当たりは無いのか?」

 

「ん~……無いことも無いんだけどネ。ただ確証が無いんだよナ~。」

 

アルゴが調べらていないと言うのは珍しい事ではあるが……。

 

「現状その特徴の男はこのSAOに9人居たヨ。でもネ、どの男の傍にもイスケの姿は見つからないのサ。」

 

まぁ実際その特徴だけでは特定は出来ないだろうが……。

 

それにしても……さっきの男……あの男によく似ていたな。ヤヒコもどことなくあの少年に似ていたが……。

その内、抜刀斎すら出てきそうだ……。

リアルを探るのはマナー違反だとは解ってはいるが……そのうち彼らには聞いてみたいものだ。案外奴らの子孫かも知れんしな。

 

とりあえずアルゴに頼み、先程の9人とやらに会わせて貰うべく行動を開始した。

アルゴの話では9人中7人は始まりの町に残るビギナーで、一度も圏外には出た事が無いらしい。

可能性は0とは言わないが限り無く低いだろう。

残る2人の内、1人はDKB所属の男で名はスザク。最近DKBに入った男で

、確か鳥型のモンスターをテイムした片手槍使いだったはずだ。

 

そしてもう1人はフジタと言う名のプレイヤーらしい。

こちらも最近攻略組に入ってきた男だが、刀使いでそれも戦闘スタイルは左片手一本突きのみという珍しい男らしい。

 

とりあえずは連絡の付きやすいDKBのスザクと連絡を取ることにした。

 

ユキナに頼み、リンドへスザクへの仲介を依頼する。

……俺もフレンド登録は済ませているのだが実は12層を境にリンドからは完全に敵視されるようになってしまった。

恐らく原因は俺ではなく、隣の少女だとは思うのだが……。

 

「アオシさん、リンドさんも同席させて欲しいみたいですけど……どうします?」

 

「別に構わん。」

 

リンドからのメッセージで場所と時間の指定があり、俺達3人はその場へと向かった。

大凡五分ほど前に待ち合わせ場所に着くとそこには既にリンドの姿があり、俺達の姿を確認するなりリンドはこちらに向かって走ってくる。

 

「ユキナさん、俺を頼ってくれてありがとう。遂に移籍する気になってくれたんだね。いや!返事なんていらないよ!ちゃんと解ってる。さぁ!行こうじゃないか!」

 

「さ、触らないで下さい!!」

 

「リンド、そんなおふざけはいらん。それよりスザクはどこだ?」

 

「……ふざけてなんかいない。君こそ何なんだ?なぜ君まで着いて来ている?」

 

「イスケの捜索だヨ。イスケが行方不明なのは通達したロ?」

 

「……情報屋のイスケか。確かに通達は聞いているが……。」

 

「そ、それでリンドさん、スザクさんはどうしたんですか?イスケさんの行方を知ってるかも知れないんですけど……。」

 

……ユキナ、隠れるならばアルゴの陰にしてくれ。

リンドが痛いほど睨んでくるのだが……。

 

「スザクなら今は他層のクエスト攻略に行くと言ってホームにいないんだ。一応メッセージは飛ばしたけどどの程度で戻るかは解らないな。」

 

「何層のどの町かは解るか?こちらから出向こう。」

 

「14層のイセリアだ。確か三日前に向かったからそろそろ終わると思うが……。」

 

「イセリア……ですか。アオシさん、すぐに行きましょう。」

 

「そんな……ユキナさん、ユキナさんは行かないで俺達のギルドホームで待ってましょうよ。行き違いもあり得るでしょう?」

 

「そうですね。ではリンドさん、もし行き違いなると大変ですのでリンドさんはギルドホームの方でお待ち下さい。さ、アオシさん、アルゴさん行きましょう。」 

 

「え!?ちょ、ちょっと待って下さい!俺も行きますよ!」

 

「いや、だが確かに行き違いに合うのはあまり効率的ではないだろう?」

 

「シヴァタに連絡入れたから平気だ。行き違いにはならないさ。」

 

チッ……

 

?気のせいか……?今、ユキナから舌打ちが聞こえた気がしたが……。

 

「話はまとまったカ?それなら早く行きたいかナ。オレっちも多忙だからネ。」

 

 

リンドを加え、4人になった俺達は再度第14層主住区、イセリアへと向かった。

リンドのフレンド検索のお陰で聞き込みをする必要もなく大体の場所を調べ、現在の居場所を特定する。

圏内に居るプレイヤーを特定するのと違い大体の位置では有るがどうやら迷宮城の森にいるようだ。

確かあのあたりは屍人間が彷徨いている森だったか……。

 

「あ、オレっち用事思い出したヨ。帰っていいよネ!?」 

 

「だ、ダメです!アオシさん普通に行っちゃうんですからアルゴさんは私と居て下さい!」

 

「ユ、ユキナさん。それなら俺が傍にいますよ。」

 

「い、嫌です!」

 

……ユキナは確かここの層攻略の際は鬼神のような戦いぶりだったと思うが……。

……あぁ、そういえばこの森に入るのだけは嫌がっていたか……。屍人間を倒した際に一定確率で起きる変異を見て泣いていたな。……まぁ、確かに不快な姿ではあったが。

 

 

 

 

 

森に入って一時間、強い違和感を感じていた。屍人間が一体たりとも現れない。

この森は確かかなりの数の敵が居る事で有名だった筈だが……。

 

「妙だな……敵がいない。」

 

「そ、そんな筈は無いはずだヨ。ま、まだここは上層プレイヤーにとってもレベリングに最適なスポットのはずだからナ。」

 

珍しい……アルゴが怯える事があるとはな。そういえばアスナもこのフィールドには立ち入らなかったらしいな。この城の両隣は断崖絶壁の崖になっている上、この城を通らなければ迷宮区に行けなかったのだがこの森から城の攻略にはかなり時間が掛かった。

何せ攻略組の半数以上がこの場所に来れず、攻略に乗り出したメンバーも長時間の攻略が出来た者は極少数だったしな。

 

 

 

 

「しかし……ユキナやアルゴはともかくとしてもリンド、まさかお前も奴らが苦手なのか?」

 

「そ、そんなことはないぞ!た、ただ俺は索敵が低いんだ!あんな奴らに奇襲を掛けられる訳にはいかないからだな!」

 

 

いくら奇襲を警戒しているからと言って常に剣を構えながら俺の後ろにいる必要は無いだろう……。

 

結局リンドの警戒もむなしく城までは屍人間は一体も現れなかった。

アルゴは興味深そうにしているが俺としては敵がいないのは好都合だ。

 

 

 

 

順調に進んだ俺達だったが、城の扉を開けて目の前に広がった光景には息を飲んだ。

硝子の壁の奥に夥しい程蠢いている屍人間の姿が見え、その上扉を開けた瞬間からこちらを見て呻き声を上げて向かってこようとしている。

森に居たはずの全ての敵があそこにいるんじゃないか……?

 

 

固まっている3人をよそに少し奥に入るとその数はどんどんと増えていき、それを見たユキナが泣きそうな声で告げた。

 

 

「ア、アオシさん!か、帰りましょう!!素直にスザクさんが戻るのを待ちましょう!?」

 

「そ、そうだ。そうしよう!あんなのに襲われたら4人じゃ捌ききれないぞ!?」

 

「そうは言うが……スザクがここにいる以上は帰れないだろう?ひょっとしたらこの屍人間の群れのせいで帰れんのかも知れんしな。」

 

「ん~……アー坊の言いたい事は解るんだけどサ、大抵こういう場合、硝子がパリーンって……『パリーン』割れる……もん、だ、ロ?」

 

 

パリーン……パリーンパリーン……パリーン

 

「えっと……オレっちのせいじゃないよネ?」

 

アルゴの問いかけに答えようとしたがそれよりも早く腕を掴まれ、一気に引っ張られた。

一目散に逃げ出したのはリンド、それに追随し、ユキナ、アルゴ、そしてユキナとアルゴに腕を引っ張られ、ほとんど足が地に着いていない俺の順に城の奥へと進んでいく。

幸い屍人間は足が遅いので恐らくは逃げきれるだろう。

 

「リ、リンドさん!置いていくなんて酷いじゃないですか!!」

 

「そ、そうだゾ!!普通、男が殿を務めるものだロ!?」

 

「い、いや、先の安全の確認をだな。ま、まぁアオシさんが殿を勤めていたんだからちょうど良かったじゃないか。ははは……。」

 

「……両手を掴まれて何もできなかったがな……。

というか何故奥に向かったんだ?入り口付近の奴らだけ倒せば脱出出来たろうに。」

 

「「「……………………。」」」

 

「「「なんで早く言わないん(だ)(ですか)(だヨ)!!」」」

 

……気付いていなかったのか……。

とはいえいくら六層下とはいえ数えるのも馬鹿らしい数のモンスターに囲まれれば確実に4人とも死ぬだろうな。

仕方ない……先に進むか。

 

3人は正直今は使い物になるまい。とりあえず俺はそう判断して辺りを探りつつ先に進んでいく。

幸いかどうかは判断しかねるが一階部分に夥しい数の屍人間が居ただけに二階より上にはさほど多くは居ないようだ。

正直1~2体居た所で相手にもならないが万が一変異し、更に仲間を呼ばれると面倒になる。

殺るならば一瞬で首を斬り落とすか、身体をバラバラに破壊するかだ。

無論俺の技でバラバラにするには奥の手である小太刀二刀流の奥義を使用するしかない。

 

ユキナだけならばともかく、出来る事ならばリンドやアルゴにはそれは知られたくはないが故に必然的に呉鈎十字を多用し、屍人間の首を速やかに落としていく。

 

一応リンドもボス戦で俺の持つOSSは多少知ってはいるからな。別にこの程度ならば手の内を明かしても問題はない筈だ。

やがて落ち着いたのかユキナやリンドも戦闘に加わり始め、順調に城の奥へと向かっていく。

どうやら頂上まで着いたようだ。

 

そこで見たのは2人の男だった。

1人は二本の触覚のような前髪にツンツン頭、そして髪を赤と橙に染めた色男とオールバックに同じく触覚のような前髪の目つきの鋭い長身の男。

……あの顔は……新撰組3番隊組長 斎藤一……か?

いや……よく見れば少しだけ違う。俺の知る斎藤よりも若く、それでいて髪の色も茶色がかっている。

しかし……よく似ている。

 

彼の使っている技はソードスキルでは有るのだろう。しかし、構えや技の性質はどう見ても牙突だ。

単純な剣技も素晴らしいが何よりもその突進力。

あれはどう見ても斎藤一が得意としていた左片手平突きを昇華した技、牙突にしか見えない。

 

……まさか彼も昔の記憶が有るのか……?

 

「君達!何をしているんだい!?そこの君、彼はオレのギルド、DKBのメンバーだ!これ以上やるというならばDKBそのものを敵に回すことになるぞ!」

 

 

リンドが大声を出したことで2人はその動きを止めてこちらを見た。

彼等の眼には強い感情が込められているように見えるが……。

 

「なるほど……貴様等が俺の可愛い使い魔である屍人間を潰していたのか。道理で援軍が来ないはずだ……。ムルグ!下層への道を開け!」

 

赤髪の男がそう叫ぶと一匹の雉のような鳥が窓から侵入し、城の台座の裏へと嘴で突撃する。

その結果、男の居た位置に穴が開いた。

 

「貴様等はこちらには脱出出来まい。……この下まで来れるというならば別だがな。」

 

男はそう言うと穴へと飛び降り、もう1人の刀を持った男は深いため息をついて刀を鞘へと収めた。

 

「阿呆どもが……。」

 

「ま、まて!事情を説明しろ!なぜスザクは逃げたんだ!?」

 

なるほど……奴がスザクか……。

あの眼。人間を獲物としてしか見ていない眼だったな。

イスケの事に関わっているとは思いたくはないが……。

 

「フジタ、とりあえず事情を聞かせてくれないカ?何か知っているだロ?」

 

「……アルゴか。アルゴとも在ろう者が迂闊だな。……奴はPoHの仲間だ。」

 

「どういう事だ?説明を求めたい。今はもう攻略組には奴の手の者は居ないと考えて居たが……。」

 

「ふん。よく見れば錚々たる面子だな。『闇の忍』に『剣巫』、そしてDKBの頭に『鼠』……揃いも揃ってここまで阿呆だとはな。

……奴はこの層のこの森を専用の狩り場にしていた。実際にこの森のみで20名程が既に奴の手に掛かっている。少し情報を洗えば出てくるような話だ。」

 

ちょっと……ではないだろうな。本当にその程度ならばアルゴが知らないはずはない。

イスケの最後の報告にもこの層の状況の洗い出しを行うと言っていたが奴はどこからこの情報を手に入れたのだ……?

 

「ば、ばかな……まさかスザクか……そんな筈は……」

 

「めでたい奴だ。貴様が甘いからDKBにはPoHの手の者が入り込む。

……黒の忍、貴様もだ。何故ギルドを率いながらその組織力を使わん。」

 

「あまり人を巻き込むのは本意ではない。……お前はこの場所をどうやって特定した?」

 

装飾屋の証言。

それを辿り、見つけたのは攻略組に新たに紛れ込んでいた鼠だった。

つまり消去法でイスケの行方を知っているのはこの男と言う事になる。

 

「答える義務はない。」

 

奴はそう言い、去ろうとしたが数歩進んだところで俺とユキナに阻まれる。

 

「……なんだ?」

 

「イスケさんの行方、知ってますよね?」

 

「……だからそれがどうした?」

 

「奴はどこにいる?」

 

「そこにいるだろう。」

 

急に……本当にいきなり部屋の中にプレイヤーの反応が現れた。

無論、俺達は圏外で索敵を疎かにする程間抜けではない。

即座に振り返るとそこには俺達が探していたプレイヤーが壁に寄りかかりこちらを見ている。

この世界において最も隠蔽スキルに長けたプレイヤー、イスケ。

額当てにつけた忍の一文字に二本の線を引き、顔を布で隠した彼はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 

「お頭。遅れながら別れを伝えに来たでゴザル。拙者はこれより御庭番衆を抜け、我が主君に仕えさせて頂くでゴザル。」

 

「イスケさん、何を言っているんですか!?それに……主君って誰ですか!?」

 

……黙して語らずか……。まぁ恐らくは……。

 

「俺だ。イスケは俺と共に奴らを追うことを了承し、お前達のギルドを抜ける決意をしたのだ。今更お前達が何か言う資格は有るまい?」

 

「な!?何を言っているんですか!?彼は私達の仲間ですよ!?」

 

「ユキナ、イスケのHPバーをよく見てみろ。」

 

それをみてユキナが息を呑んだのが解る。

……ギルドタグ。そう。イスケはギルドタグを付けているのだ。

 

「ユキナ殿、拙者への気遣い、かたじけなく思うでゴザル。しかし……これは拙者の決めた進むべき道、どうか了承してほしいでゴザル。」

 

「……構わん。もとより無事を確認できればそれで良い。……しかし、何故俺達との繋がりを断つ?」

 

「今は言えぬでゴザル。いずれ時期が来れば……。」

  

イスケはそう言うと同時に景色に溶けていき、そのカーソルも消える。傍目には全く違和感の無い隠蔽スキル。

装備の効果も有るだろう。

恐らくは見破るには少なくとも索敵スキルをマスターする必要は有るだろう。

 

「阿呆が……。無用な情報を。」

 

「さて……フジタ……と言ったか。お前の実力を知りたい。手合わせ願おう。」

 

イスケを引き連れ、奴らと表立って戦おうとする男。その力を見ておきたいのも理由の一つだが……やはり奴のあの技が気になったのが最も大きいだろう。

奴はひょっとしたら俺と同じように……。

 

「……手短に済ませよ。」

 

奴からのデュエル申請は初撃決着。ある意味、現実的なデュエル。一撃を貰えば終わり。

デュエルのカウントが0になる。

 

 

 

動いたのは同時だった。

フジタの放った技は紛れもなく“牙突”だ。

速さこそ本家には若干劣るようだが、技のキレも性質すらも俺の知る“牙突”と変わらない。

故に死角もまた同じ。当たるか当たらないかのギリギリで右側面の死角に潜り込み、この世界に来てから編み出した技を放つ。

 

御庭番式小太刀二刀流

“双牙旋突”

 

二本の小太刀による突きと刺さった所からの回転による連撃。

現実であれば一気に深く斬り裂くこの技だが、この世界では骨や筋肉によって刃を止められないが故に部位欠損を容易く起こせる。

 

刺さるかどうかの刹那の瞬間に放たれたのはフジタの右手による拳打だ。

発動させようとした技を中断し、身体を捻ってその一撃をかわす。

 

「……貴様……何故、我がフジタ家に代々伝わる技を知っている?」

 

「藤田家に代々伝わる技……か。そういう事か……。」

 

「他流派にも知られていない技だ。先程の反応……技自体を知らずに出来るものでは無いだろう。」

 

「さてな。知りたければ勝つことだ。」

 

藤田家と言えば斎藤一の改名後の苗字だ。今の会話への反応をみる限り、前世の記憶を持って生まれ変わった本人ではないだろう。

牙突の完成度こそ素晴らしいが、それが一子相伝による精度の高い継承でしか無いのだとすれば……。

 

奴が再度牙突の構えを取るのを見て俺は流水の動きを発動し、距離を少しずつ詰めていく。

……やはり対応出来ないようだな……。

 

距離が短くなり、やがて互いの刀の間合いに入る。

鋭い斬撃を繰り出してきている奴ではあるが所詮はこの動きを捉えられる物ではない。

奴の背後に回った時、俺は回転剣舞を放った。必中のタイミングだった。

事実奴の胸を三本の剣閃が斬り裂いた。

 

しかし……奴もまた一瞬の内にこちらを振り向き、その反動を使って突きを放っていた。

それは俺の肩を貫き、回転剣舞の威力を減退させる。

 

牙突・零式

 

完成度こそ恐らくは本家には及んでいないのだろう。

とはいえ俺の流水の動きの動の動作に反応し、その上、回転剣舞を前に撃ち出したその技量、胆力にはその才能を示している。

 

流石は壬生狼の血脈……と言った所か……。

 

デュエルの表示は俺に勝利を告げていた。刹那の差で俺の一撃が早く入ったからだろう。

 

奴は舌打ちをするとそのまま立ち上がりこちらを見ている。

 

「知りたい情報はなんだ。闇の忍、勝負に負けた以上一つ答えてやる。」

 

「……何の為にその刀を振るう?」

 

「知れた事を……悪・即・斬。それが俺の……いや、俺達、新撰組の信念だ。覚えておけ、闇の忍。俺達は例え攻略組だろうが関係ない。見つければ即座に斬る。」

 

新撰組……か。恐らくはそれが奴やイスケのギルド名なのだろう。

 

俺はフジタへとフレンド申請をするもフジタはフンと鼻息を鳴らし、申請を拒否し、その場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、アルゴの調べによるとイスケとの別れから二週間後、黒鉄宮にあるスザクの名前に横線が引かれたそうだ。

死因は刺突属性ダメージによる全損……。

恐らくはフジタだろう。

悪・即・斬。よもや時代を超えてまで貫き通すとは……。

過去に思いを馳せながら自らの道を真っ直ぐ見据えて歩を進める。

自らに課した隠密御庭番衆最後のお頭としての責務を果たすために……

 

 

 




次話予告
“クォーター・ポイント”
になります。

ボスに関してはオリジナルになるかと思いますがご容赦下さい。

では今回はこの辺にて……。
読んでいただきありがとう御座います。

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