ソードアートオンライン~過去からの転生者~   作:ヴトガルド

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間があいてしまい申し訳ありません。
最新話投稿致します。
※10月2日修正済み


第十層
アスナの決意


私に生きる希望を与えてくれた第一層突破から約3カ月の時間がたった。

 

私は第一層突破を経て、彼と共に戦って……そして変わったんだと思う。

第一層では、精一杯闘い抜いて死ぬために戦っていたのに、今は生き抜いて彼の見ている世界をみたいと思ってる。

だからもう道半ばで死にたくない。走れるところまでなんて言わない。

このゲーム、私は生き抜いて帰ってみせる。……現実へ。

 

 

 

 

 

第十層、この層に上がってから色々な事があった。

第九層でのキズメルとの別れ……彼女を友達のように、姉のように思っていた。

でもそれはただの思い過ごしだったことを思い知らされた。

NPCはNPC、私たちとは違う。何度も復活し、用事が済めば消えてしまうただのデータとして彼女は消えてしまった。

 

もうきっとNPCを仲間だと……友達だとは思わないだろう。

そう考えてプレイヤーが死んでしまう事になったらなんの意味も無いもの。

 

 

 

私達はまだコンビを組んでいる。正直私は彼となら生き抜いていけると思っている。

 

……だからこそ、彼の一言が気にくわなかった。

 

 

 

「なぁアスナ?」

 

「?どうしたの?急に真剣な顔をして……。」

 

「俺との2人のパーティーはこの層で解散しよう。」

 

「……別にアナタと私はお互いソロだものね。……でも……理由……聞かせてくれるのよね……?」

 

おかしいよ……2人で上手く戦っていけると思ってたのに……。

 

「この層からはmobが巨大なのが増えるんだ。つまり、コンビで狩るのは効率が良くない。……それに君はやっぱりギルドに入った方がいい。君の力は集団を率いてこそ発揮されると思う。」

 

「それ、別に私とアナタが一緒に行動しない理由にはならないわよね?私、気に入らない人の下に付きたくはないの。アナタがどうしてもって言うなら私は1人で良い。」

  

……ずるい言い方だ。ほら、彼も困った顔をしてる。困らせたい訳じゃない。でも……今、彼と別れたくない。

 

彼の事は多少は理解しているつもりだもの。

きっと彼はソロになる。私よりも長く誰かと一緒に居たりしないだろう。

だってきっと本当の理由は……。

 

「……頼む。1人でなんて言わないでくれ。もちろん俺も一緒に探す。前にも言ったろ?俺は君に死んでほしくない。もうこの層のボスからは俺も知らないんだ。」

 

「なら……いえ、いいわ。でも……ううん。なんでもない。」

 

……彼が認めたパーティーやギルドならきっとおかしい所じゃないだろう。なら……彼もねじ込めばいい。それで一緒に居れるもの。

 

 

私達は習慣になりつつあるクエストと定点狩りを行っている。

恐らくは私達のレベルは攻略組でもトップクラスだと思う。

私が27、彼が28、そして遂に今の定点狩りでレベルも彼に追いついた。

 

「アスナ、もうある程度自分で弱点の予測は出来るよな?奴と戦ってみてくれ。」

 

彼が指さしたのは今まで見たことのない武者の格好をしたリザードマンだった。

私は敵の姿を見て弱点を関節と尻尾、それに顔だろうと結論付けた。

 

私はキズメルと別れたときに手に入れた細剣と今まで使っていた細剣を素材にして作り出した新しい相棒、《ハイネス・レイピア》を抜き、一気に距離を詰める。

リザードマンは私が10メートル程まで詰めた所でこちらに気付き、腰から刀を抜き出した。

 

……あぁ、この層で第一層フロアボス、イルファング・ザ・コボルトロードの刀スキルを知ったのね……。

 

彼が私を守るように戦ってくれた第一層フロアボスの記憶、そのソードスキルの軌道を思い出しながら、確実に対応していく。

中には私の知らないソードスキルもあって多少焦ったけど、刀の軌道を敵の目線から読んでギリギリでかわしきる。

ギリギリでかわすことで見える隙を見極め、覚えたばかりの3連撃技“ペネトレイト”を放つ。

微調整した三本の光は寸分違わずに顔と両肩に叩き込まれ、リザードマンを硬直させる。

 

そして一瞬早く硬直の解けた私は、渾身のリニアーを尻尾の付け根に叩き込み、リザードマンのHPを削りきった。

 

「これでいいの?」

 

「あぁ。もう俺から言うような事はないよ。見切り、観察眼、体捌きにいたるまで文句のつけようもない。」

 

彼はそういうと私に一言、行こうとだけ言い、道を歩いていく。

その後ろ姿をみる私は、ふと、まだきっと彼と同じ位置にたっていないと思えるた。

 

彼の戦い方には無駄がない。それ故に彼の一撃は速く、鋭く、そして重い。

勿論その一撃を受けた訳じゃない。受けたいとも思わない。でも……何が私と違うのかは知りたい。

きっとこのゲームを……この城を征服したらそれも分かるんだろう。

 

私もまた、彼に続いて道を歩いていった。

 

 

 

 

2日後、フィールドボス戦で私は攻略組で唯一の女の子の友達と再会した。

彼女も私のことを友達だと思ってくれている。だって現実の友達のように私におべっかを使うわけでもなければ見下しているわけでもない。

対等に……は言い過ぎかもしれないけど彼女の顔色からは素直に私との会話を楽しんでいるようにしか見えないもの。

 

 

「ねぇユキナちゃん、ユキナちゃんはギルドに入っているじゃない?ギルドってどうなのかな?」

 

「ギルドですか?まぁ楽しい……ですかね。皆さん良い人ですし……アオシさんもああみえて優しいですから。それに……その、声掛けてくる方も減りましたし……ね。」

 

ああ見えて……か。確かにアオシ君、無愛想と言うか……妙に冷めている所あるもんね。

 

「確かに最初の頃は私もひどかったなぁ……それが嫌でコレ、使ってるけど、今でもキリト君と別々に行動すると声掛けてくる人居るものね。」

 

私はフードケープをかぶって見せ、そういうと彼女は笑いながら頷いてくれた。

 

「そういえばユキナちゃんはこういうの使わないね。どうして?」

 

「私の場合はギルドタグがありますし、それに、その……それで顔を隠すと……」

 

なぜか黙ってしまった。何か嫌なことでも有ったのかな……?

 

「そ、そういえばどうして急にギルドのことを?私達のギルドに入ってくれるんですか?」

 

「えっと……わからない……かな?キリト君と二人で入っても良いかなって所は探してるんだけど……まだ、どうしたいか分からないんだ……。別にアオシ君は嫌いじゃないんだけど……。色々考えてみたいの。」

 

嘘じゃない。実際にこのギルドに入ればそれはそれで楽しいだろうし、キリト君の言うように安全性も保てるとは思う。

ただ……このギルド……ううん、アオシ君は攻略よりも奴等との戦いに固執しているように思える。

 

私は……人と人で争いたくはない。……きっと、キリト君も同じだと思う。もちろん悪いことをしている人を無視するつもりはない。止める事は当然だし、いざとなれば第一層の牢屋に送ることも必要だと思う。

 

けど……私には殺す事はできないと思う。

 

 

「アスナさん、私達、対人に特化しているわけじゃないですよ?」

 

「え?」

 

「私も女子校育ちですから。顔色を読むの、得意なんです。……確かにアオシさんはPoHの捕縛を第一に考えていますけど、メンバーの誰にも戦わせようとはしません。せいぜいが情報収集を頼む位です。」

 

「そう、なんだ。でもユキナちゃんは参加してるんだよね?その……アオシ君の指示じゃないならどうしてかな?」

 

「私は彼の監視役ですから。あの人、独断専行してしまう悪い癖がありますし……ほっとけないんですよ。」

 

……そっか、そういう事か。……彼女は彼の事が……

 

「!?……違いますからね!?ちょっ!ほっこりした笑顔を向けないでください!」

 

「大丈夫だよ。ちゃんとわかってるから。でも、彼、そういう事鈍そうだし大変そうね。頑張って。応援してるよ!」

 

「ちょっ!分かってないじゃないですか!!別にそんなんじゃないですよ!大体アスナさんこそどうなんですか!?アオシさんに聞きましたよ?彼とは長く一緒にいるらしいじゃないですか。もう付き合ったんですか?」

 

!?えっと……かれ、かれ、カレー?あれ?でも私、カレーと付き合うもなにもこの世界でカレー食べたっけ!?

 

「※●@※*→※」

 

「いや、日本語でお願いします。まぁ大体分かりましたけど……。アスナさんも大変ですね。」

 

「ち、違う!違うから!?彼とは……えっと……効率がいいから一緒に居るだけで別にコンビじゃないし、ましてや……付き合う……なんて……えっと……。」

 

うう……顔が熱い。このゲーム、感情エフェクトが過剰だよ。

 

「アスナ、そろそろフィールドボス戦が……ってどうした?顔色真っ赤だぞ?」

 

「※●*※!?!?キ、キリト君!?いつからそこにいたの!?」

 

「え?いや、今来たところだけど……?大丈夫か?体調悪いなら今回は参加しないことにするか?」

 

 

「だ、大丈夫!大丈夫だからちょっとほっといて!」

 

私はそう言ってその場から離れた。……うぅ……あのタイミングで来ないでよ……。

 

 

 

 

 

 

 

なんとかボス戦までに気持ちを落ち着けた私はキリト君の元に戻るとフィールドボス戦を開始した。

 

ほとんどがいつものメンバーだったけど数人知らない人……ううん、そのうちの1人は知っている。

あの時……翡翠の秘鍵の最後の戦闘で私を助けてくれたプレイヤーだと思う。

 

彼等はフィールドボス相手に臆することなく堂々と戦ってる。大抵は攻略戦、ましてやボス戦であれば緊張や気負いで動きは固くなるものだけど……

 

「たいした手練れだな。特にあの銀髪の男、何で今まで攻略に参加しなかったのか不思議だよ。」

 

「そうね。リンドさんやキバオウさんもここまでの経験で戦闘指揮も少しは手馴れて来ているけれど彼の指揮に舌を巻いてるみたいだし……。」

 

私達はフィールドボス戦の取り巻きが担当だから、彼とは直接話が出来ている訳ではない。しかし、まるで未来を見ているかのような盾捌き、正確な斬撃、そして人をまとめるカリスマ性。

直感的に彼は今後、攻略組をまとめていける人だと思った。

 

キリト君とは違った魅力。

例えるなら、すごく尊敬できる先生のような感じだろうか……。

?……どうして知り合ってもいないプレイヤーにそんな印象を受けたのか、自分でも不思議に思うけど……きっとキリト君と彼が同じパーティーならこの城を攻略出来ると思えた。

 

 

フィールドボス戦の後、私達はいつものように皆よりも先に行き、その夜には迷宮区の入り口を発見し、その日の探索を終わりにした。

 

 

《キー坊、アーちゃん、あるプレイヤーが2人の情報、もしくは話し合いの場を用意してほしいらしいゾ。どうすル?》

 

街に戻った私達に届いたのはアルゴさんからの全く一緒の文言のメッセージだった。

 

「どうする?」

 

「どうするって言ってもなぁ……。誰かも分からないのに応じたりする奴……居るかなぁ?」

 

「それもそうよね……ならさ、こっちから条件として先方の情報を開示してもらって場所も圏内の店とかに指定してみる?」

 

キリト君はそれならまぁいいかとアルゴさんにメッセージを送り、2人で返事を待ちながら食事でもしようかと話をしているとキリト君にメッセージが届く。相手はアルゴさん、思いのほか早く返事が届いた事に多少驚きつつも内容を確認する。

 

 

《キー坊はどうせアーちゃんと一緒だロ?メッセージは纏めさせて貰うヨ。先方が快諾してナ、名前は“ヒースクリフ”、今日行われたフィールドボス戦で攻略組に合流したパーティの赤い鎧を装備していたプレイヤーだナ。2人に頼みが有るそうダ。合流するなら待ち合わせの場所を決めてくレ。》

 

アルゴさん……最近はあんまりからかいに来ないと思ってたら……これはあとでまた誤解を解いておくべきね。

 

《了解した。俺達は今から食事だから第十層の宿屋前にあるNPCレストランで良いか?》

 

《確かに伝えたゾ。オレっちは忙しくていけないけどヒースクリフは五分程で着くそうダ。後で会談の内容は教えてくれナ。》

 

 

アルゴさんは本当に商売の鬼だなぁ。……まさか私達がずっと2人で行動している事も誰かに売ってるんじゃないよね……。

 

「ねぇキリト君。話ってなんだと思う?」

 

「まぁ……十中八九パーティへの参加って所じゃないか?今、攻略組でギルド不参加な奴は少ないからな。」

 

「ま、そうよね。キリト君はどう考えているの?」

 

「……わからないな。彼の人となりも知らないんだ。判断のしようがないさ。」

 

私達は雑談をしながらレストランに向かう。

……多分キリト君は私に先入観を与えたくないんだろうな。

彼がボス戦でヒースクリフさんの戦闘を見てなにも感じない訳無いもの。

 

やがてレストランに着き、のれんを潜ると、そこには既に赤い鎧を装備した男性、ヒースクリフさんが座っていた。

あれ?まだ5分たってないよね??

 

「ヒースクリフさんか?待たせてすまない。もう着いているとは思わなかったんだ。」

 

「いや、こちらが呼び出したのだからね。呼び出した方が待たせるわけには行かないと思って年甲斐もなく走ってしまったよ。……まぁ掛けてくれたまえ。ここの食事は私が持とう。」

 

メニューに目を通し……ても意味ないわね……。なにがなにやら……。

とりあえず私もキリト君が指さした物と同じ物を頼んでみる事にした。

 

比較的低層ではおかしな物は少なかったのに八層辺りからなんだか変な味の物が増えてきたな……。第二層のトレンブル・ショートケーキが懐かしい……。

まぁ……たまに食べに行ってるけど……。

 

出て来たのは見た目は普通のハンバーグだから……多分……おかしな味じゃない……よね……?

 

恐る恐る口に入れると広がった味は……サンマの塩焼きだった。

見た目は肉なのに味は魚って……。まぁ、食べれないことはないけど……醤油が欲しい……。

 

目の前に座っているヒースクリフさんもなにやらしかめっ面をしている。頼んでいたのは蕎麦みたいだけどつゆの味が変なんだろうな。今まで醤油の色で醤油の味なんてしたことないし……。

 

「さて、では本題に入ってもかまわないかな?」

 

私達が食べ終わったのを見て、彼は自分が食べていた蕎麦を半分程残しているにも関わらず話を始めた。

 

「いや、そちらが食べ終わるのくらい待つよ。」

 

「……お気遣い痛み入るがそれには及ばない。少々私の口には合わないようなのだよ。」

 

「それ、確かわさびと胡椒と唐辛子を合わせたような味だっけ?てっきり辛いものが好きなのかと思っていたよ。」

 

「ふふ。私はどちらかと言えばしょっぱい物と甘い物が好きでね。辛いものはあまり得意では無いのだ。食べ物を残すなど礼儀には反するが目をつぶってくれたまえ。」

 

やがてNPCのウェイターがお皿を片付けてテーブルが空になった。

 

 

「さて、では改めて本題に移ろう。君達はコンビで攻略をしていると聞いているが、君達から観て今の攻略組をどう思う。」

 

「えっと……どう……とはどうゆうことですか?」

 

「そのままの意味さ。私はこの層から君達攻略組に合流し、フィールドとはいえボス戦にも参加させてもらった……しかし彼等の指揮での戦いには何度もヒヤリとさせられたよ。何故彼らは互いにいがみ合って協力しないのだ?」

 

「彼らとはドラゴン・ナイツ・ブリゲードとアインクラッド解放隊の事だろ?あそこは互いに競い合っているからな。とはいえ、フロアボス戦ではきちんと協力しているよ。なにせ先にボス部屋に着いたプレイヤーがこの層の指揮権を得るのが通例として普及しているしな。」

 

「なるほど……では改めて聞くが今の現状をどう考える?」

 

「……良くはないな。実際、仲良しこよしなんてあり得ないとは思うけど……」

 

「そうね。あの二人がそんな風になったら私、大笑いしちゃうかも……。」

 

肩を組んでスキップしている2人を想像……しようとしてやめた。吹き出しちゃいそうだもの。

 

「長らくここで彼等を見てきた君達が言うのだからそうなのだろうな。しかし……私はそんな現状を変えたいのだ。要はあの二つしか主力ギルドが無いことが対立の原因だと思っている。」

 

……確かに競い合っているのは二つ……もとい2人だ。それが三つになったら下手に喧嘩はしないかもしれない。

二人がいがみ合っている間に残りの一人が美味しいところをもっていってしまうのは面白くないだろうしね。

でも……。

 

「ヒースクリフさん、あなたにそれができるのか?現時点で攻略組の三分の二近くはどちらかに入っているんだ。そして二つに入ってないプレイヤーも他のギルドや固定パーティに入ってるぜ?」

 

そう。現実問題として絶対数の少ない攻略組の中の半分以上が二大ギルドに属しているからこそ、この状況がある。事実三番目に大きいギルドは8人の御庭番衆、その次は風林火山と続き、後は5人のパーティが1つに3人パーティと私達2人。ソロすら居ないのが現状だ。

 

 

 

「確かに現状彼らを人数で上回ることは無理だろう。こちらは今日お見せした2人に先程仲間に入ってくれた3人だけしか居ない。

風林火山の面々には合併は出来ないと断られてしまったしな。

だが……君達が入る事となれば話は違う。私は今後も有望なプレイヤーはどんどん引き抜きをしようと考えている。実力のあるプレイヤーが数多く揃えば人数などは問題ではあるまい。」

 

……それは……そうかもしれない。実際人数こそ最大を誇るアインクラッド解放隊の25人のうち、実際に攻略を行うのに十分なレベルのプレイヤーは20人ほどしか居ないし、ドラゴン・ナイツも同じ様なものだ。

 

その上トップクラスのプレイヤーなんて二つのギルドを合わせても5人に満たないと思う。

こちらがそれこそ10人もトップクラスのプレイヤーを擁すればそれは第三の勢力になるだろうけど……。

 

「ヒースクリフさん、あんたを含めて6人全員が例えばトップクラスのプレイヤーだったとしても、俺達2人が加わって8人。既にある御庭番衆が第三勢力にならないのにあんたのパーティがそうなれるとは思えないんだけど?」

 

……何だろう?妙にさっきからキリト君が突っかかっているような気がするな……。

 

「そうかね?聞くところによると彼のギルドは対人に特化したギルドと聞いているが……。」

 

「別に彼等は対人に特化しているわけじゃないよ。ただ攻略、更にはこの世界に生きる人達に仇なす奴らを取り締まろうとしているだけさ。」

 

「それよりも……ヒースクリフさん。私はあなたの意志を確認したいんです。キリト君が言っている様に簡単に事の進む話とは思えません。それでもあなたは今の状況を変えてみせると言えるんですか?」

 

私はこの人の表情、態度を見逃さないように真剣に、真っ直ぐに彼を見た。

キリト君が色々と絡んでいるのは要はそういう事だろう。

彼に覚悟がないなら話し合いの余地は無いし、余計な混乱を招くだけだから……。

 

数秒間、彼は目を閉じて静かに黙り込んだ。そして……

 

「ここに誓おう。この世界に生きる者として私は現状を変え、攻略をより確実な物へとしてみせる。……力を貸してくれ。」

 

真剣そのものな表情でそういうと彼は私達に深々と頭を下げた。

どう見ても私達の倍は生きているであろう男が深々と頭を下げるのはなかなか出来るような事じゃない。

 

年下の男の子に色々とダメ出しされて頭に来ただろう。

年下の女の子に覚悟を問いただされて頭に来ただろう。

 

それをこの過剰なフェイスエフェクトのあるSAOの中でおくびにも出さずに頭を下げているのだ。

 

私は彼の下なら良いと思えた。きっと彼も同じだと思う。

より早く現実に帰るのならば集団に規律は必要なのだから。

 

「顔を上げて下さい。ヒースクリフさん。あなたの覚悟は伝わりました。私など大した力は在りませんが微力ながらお手伝い致します。」

 

私の一言を聞き、顔を上げた彼は安心したように微笑んだ。

 

「よろしく頼む。アスナ君。我々の力を合わせ、プレイヤー全員が一丸となって挑もうではないか。解放の日の為に。」

 

彼の差し出された手に応え、隣に居るキリト君の方を向く。

 

「キリト君もよろしく頼む。」

 

彼は同じ様にキリト君にも手を差し出したが、それに答える手は出て来なかった。

 

「キリト君、どうしたの?ヒースクリフさん、手を差し出してるよ?」

 

「……悪いが俺はアンタの下に付く気はない。いや、違うな。俺はそもそも誰の下にも付く気はないんだ。

さっきまで色々と指摘していたのは新参者がいきなり理想論を語るから悟らせてやろうとしただけさ。

別にアスナのようにアンタの覚悟を見ようと思ったわけじゃない。」

 

「き、キリト君……?な、なにを?」

 

彼の考えがわからない。だって自分で言っていたじゃない。自分の知識はここまでだって……。第一層の時とは違う。

ここでソロになったらいつかは死んでしまう。いくら何でも彼には自殺願望なんて無いはず……。

 

「俺が第二層からアスナとコンビを組んでいたのは自分自身が慣れるまでの安全策だ。俺の知識は本当は第八層までしかなかったからな。ありがたかったよ。おかげで見知らぬ層でも最も効率のいいソロで生き残る自信ができた。今回アスナのギルドを探してやったのはその礼。ただそれだけの事さ。」

 

……そんなはずはない。彼は……優しいから……でも……どうして……。

 

「その上、アスナがアンタの所に入ることで攻略がスムーズに進むんならお互い万々歳だろ?アスナのギルド探しなんて面倒な仕事も終わるんだ。いや、本当にアンタには感謝しているよ。俺も仮にもここまで組んでいた奴に死なれちゃ目覚めが悪いからな。」

 

「ねぇ……キミはどうしてそれを自分には当てはめないの?私だって同じ様にキミに死なれたら目覚めが悪くなるのよ?」

 

「……そういうセリフはもっと強くなってから言えよ。今のアスナじゃ何回やろうと俺には勝てないだろう?なにせ俺はビーター、本当のMMOプレイヤーのベータテスターだからな。」

 

それとこれは違うでしょう。

確かに……悔しいけど彼の言うことは事実だ。今の私では何度やろうと彼には勝てない。でも心配しちゃいけないことにはならないよ、キリト君。

 

「ま、そういう事さ。じゃあな、ヒースクリフ。精々頑張ってくれ。」

 

彼はそういうと店から出て行こうとする。

 

「待ちなさい!そんな事で私が納得するとでも思っているの!?」

 

彼に強い言葉を投げ掛けたのは初めてだった。彼はいつも私を気遣ってくれていた。

確かに甘えていたのかも知れない。でも、だからといって彼の今の行動や言動には納得がいかない。

大方自分がビーターだからとかそんな理由だろうとは思う。

でも、そんなの関係ない。ヒースクリフさんはキリト君を受け入れようとしてたじゃない。

 

実際、今の攻略組でキリト君を毛嫌いしている人なんてほんの一握り……全体の十分の一にも満たないのに。君はそんな事もまだ理解してくれないの?

 

「……別に納得してくれとは言わないさ。俺は俺の道を行く。君にも目指す場所があるんだろ?なら別々に行けばいいさ。それに……俺の行動が納得が出来ないというなら俺を見返してみせろ。」

 

彼は出る間際に一言そう言って店を出て行ってしまった。

 

 

……そう、あなたは私を頼ってはくれないのね。……だったら変えてみせるわよ。より効率的に、より早く、第百層まで制圧してみせる。……あなたの重荷、意地でも減らしてビーターなんて気にしないで良いようにしてみせる。

 

 

《君は強くなる。だから君が信頼を置ける人間に会えたからにはギルドに入るんだ。ソロには絶対的な限界がある。》

 

彼から私に贈られた言葉。確かに今の実力で私はソロでは生き残れないと思う。きっと彼とコンビを組んでいてもいつかは死んでしまうのだろう。

だから彼は私をギルドに入れる事に拘ったのだと思う。

 

一緒にいれないから……その資格が今はないから……。

だから、今度は私が言葉を贈る。全てを変えたら……あなたともう一度コンビを組む。今度はあなたに頼るだけじゃない。対等になるために私も変わってみせるよ。

だから……

 

《あなたの言葉、あなたの望み。それを聞き入れる。だから……あなたも決して死なないで。》

 

私は彼にインスタントメッセージを送った。死なないでほしい。生きてほしい。その思いを込めて……。

次は……あなたと対等になっていて見せるからね。

 

 

 

私はその日からヒースクリフさんが立ち上げたギルド、血盟騎士団に入った。

攻略組を変えるため……私の決意を、願いを叶える為に。

第十層フロアボス戦。そこでの指揮権を手にした私は誰一人の死者も出さずにボスを撃破、そして血盟騎士団の旗揚げを行う。先ずは攻略組での発言力、影響力を上げて風潮を無くさなくては。

 

第11層でギルドの人数が10人へと達し、私は団長から直々に副団長の地位に着かされた。本音を言えば役職なんて欲しくなかった。でも彼への風潮を無くす。彼を守りたい。その思いから私は副団長という責任ある立場を受け入れる。

 

 

そう……彼を死なせない。その一つの決意を胸に抱いて……。




原作を参考に書いてはみましたがアスナとキリトを別れさせるお話は難しいですね……。

次話ではキリト君サイドのお話を描きたいと思います。
出番がなかった主人公アオシですが次話ではちゃんと出ます。

色々と読んでより文章力をつけたいと思いますので今後もよろしくお願い致します。

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