ソードアートオンライン~過去からの転生者~   作:ヴトガルド

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更新遅れてしまい申し訳ありません。仕事が忙しくなってきてしまいましたm(_ _)m
※10月2日修正済み



最後の秘鍵

第九層へと上がって一週間が過ぎようとしていた。

 

俺達御庭番衆は三日前からキリト達と行動を共にしている。

理由は翡翠の秘鍵、最後のクエストをクリアするためだ。

 

クエスト内容は

《捕らわれた薬師とエリート騎士を助け、最後の秘鍵を奪還せよ》

 

 

キリトの話では、β版の最後のミッションで森エルフの王と将軍2人を倒してクリアだったらしい。

最も、今回の場合は予想がつかないとの事だ。

先ずフォールンという存在、更には本来俺達とキリト達は別のパーティーのはずがクリア条件に互いのパーティーのゲスト扱いのNPC、キズメルとティルネルの救出が含まれているのだ。

 

「ねぇ……キリト君。このクエストを達成すると……その……」

 

突如アスナがキリトの袖をつかみながら俯いたまま小さく問いかけていた。

 

「……あぁ。お別れになるな。彼女は元々のNPCへと戻るだろう……。」

 

それがいやならば手段はある。クエストを進めない事だ。だがそれもまた会えなくなるという点では同じだろう。

 

それに……

 

「そう……だよね。でも……このままほっとくなんて私には出来ないもの。クリアしてから考えることにするね。」

 

芯の強いことだ。それに比べて……

 

「ティルネル殿……お頭、やはり助けてからクリアを辞めるわけには行かないでゴザルか……?拙者、ティルネル殿とお別れなど嫌でゴザるよ。ティルネル殿ももう立派な仲間ではゴザらんか……。」

 

6層以降このクエストを進める毎にこの調子のこの男はどうしたものだろう。

8層の時など攫われたティルネルを追うといって危うく独りでボス部屋に突撃しようとした位だ。

 

「コタローさん、いい加減にしてください。そんな事をしてもティルネルさんは喜びません。クリアをしても必ずお別れになるとは限らないでしょう。」

 

「しかしユキナ殿、絶対ではないでゴザろう?拙者、ティルネル殿とのお別れは耐え難いのでゴザるよ。お頭、なにとぞ、なにとぞ考え直してほしいでゴザる。」

 

今回は俺達は俺、ユキナ、コタロー、ヤヒコ、ナーザ、オルランドの6人がクエストに赴いている。

ちなみにコタローの説得、アルゴからの依頼の事もあり、キリトにクエスト進行を遅らせて貰うことまでしたのだ。

 

正直、アルゴの依頼はほんの3日で済んだのだ。しかし……この男はどうあっても納得まではしてはくれず、かというとクエスト進行のパーティーからは抜けなかった。

本当に扱いに困る……。

 

 

やがて俺達は森にそびえ立つ古城へと辿り着いた。

古城を見渡せる高台から確認して見るも、中の様子は全く伺えない。

 

城外には見る限りでは森エルフが大凡50といったところか……。

恐らくは1体に見つかれば芋ずる式に他の個体も集まってくるだろう。

さて……どう忍び込むか。

 

 

「アオシ、あそこの峡谷なんだが……使えると思わないか?」

 

「……悪くはない。問題はどう合流するかだな。」

 

キリトの提案はつまりは陽動である。

峡谷ならば挟み撃ちにあう可能性は限り無く少ない。

更に視界は開けているので敵のターゲットからも外れにくく上手くすれば見張りを全て別の場所に誘導する事も出来なくは無いだろう。

 

峡谷を抜けた先には森が広がっている。

戦うには充分なスペースではあるが全員を倒すには時間もかかる上に回復ポーションの消耗が激しいだろう。

ボス戦を控えている以上は戦闘は出来る限り避けるに越したことはあるまい。

 

「あの、アオシさん、確かロープを持ってましたよね?峡谷から森に変わるところの崖からロープで一気に引き上げるのは無理でしょうか?」

 

「……そうだな。陽動を1人、古城の見張りの様子を見る者を1人にしてメッセージでタイミングを取ればいけるか……。」

 

「見張りは私がやるわ。この中で一番筋力値が低いもの。」

 

「陽動は……僕がやりますね。投剣スキルを使っていけばあまり接近しないでターゲットをとれますから。」

 

下準備としてリングを作っておいたロープを峡谷の森側の崖に下ろし、それを使ってナーザも森まで降りる。

古城が近く、そちらにモンスターが偏っているからか、この辺りにはモンスターは湧出しないようだ。

 

ナーザを下ろした後はアスナにロープを渡し古城を見張るのに適した場所について貰う。

 

アスナからのメッセージが届き、作戦は開始した。

先ずナーザは峡谷の古城側の出口に向かう。

目算で120メートルといったところか……。

ナーザに伝えたのは出口から50メートル先にいる見張りの森エルフに投剣ソードスキル、《シングルシュート》を放ち、敵が30メートル地点に到達した時点で峡谷を駆け抜けて貰う。

バランス的な能力構成のナーザならば追いつかれたりはしないだろうが振り切る事もあるまい。

 

後は敵が予測通り全員引き付けられるかどうかだな。

ナーザが峡谷の中間辺りに来た所で俺達も動き出す。

峡谷よりナーザを引き上げる為に全員でロープを一気に引き上げるのだ。

 

下の様子をユキナが確認し、ナーザが崖にあるロープを身体に巻きつけたのを確認すると俺達は一斉にロープを引き、ナーザを崖上まで引き上げる。

 

この世界は限り無くリアルであるが故にモンスターの行動もある程度の法則がしっかりしているのだ。

つまりは急にターゲットが消えてもゆっくり持ち場に戻るわけではなく、ある程度の時間は周囲の捜索を行うという事だ。

 

《見張りは反対側の森エルフ以外居なくなったわ。今なら忍び込めるはずよ。》

 

アスナからパーティーレイド全員にメールが届き、俺達は急いで古城側の崖からロープで下に降りる。

 

流石に高いロープなだけはある。この人数が間を開けずに降りようとも余裕の耐久性だ。

古城まで20メートル、敵影なし。

俺達は出来る限り音を殺しつつも最短、最速で古城へと侵入する。

 

古城の内部は第五層の砦と違い入り組んだ造りをしていた。

恐らくは居住区でもあるのだろう。

俺達はティルネル達の反応を頼りに出来る限り戦闘を避けつつ進み、どうしても避けられそうにない敵には各々が最速、最強のソードスキルを使って仲間を呼ばれる前に倒していく。

 

 

やがて古城の四階まで上がった俺達は無事ティルネル、キズメルと合流する事ができた。

……案の定コタローはティルネルを連れて脱出しようとしたがやはりというべきか……ティルネル、キズメルの両名はこのまま上の階にある秘鍵を奪回する事を言い張り、二人だけでも向かうとまで言い出した。

 

「ティルネル殿、何故でゴザる。ここは一度態勢を立て直すのも必要でゴザろう……?」

 

「ごめんなさい。コタローさん、私と姉上はここから逃げ帰るわけには行かないのです。」

 

「我らが集めた秘鍵も奪われたのだ。このまま引けば奴らは秘鍵の力で対抗できないほどの化け物となってしまう。我らも秘鍵を隠していたのだがキリト達が来るほんの数刻ほど前に……すまん……。」

 

……恐らくは早く来ようが遅く来ようがこの展開になってしまうのだろう。

 

 

「いや、キズメルが謝ることじゃないさ。俺達の方こそ遅くなってすまない。」

 

「もちろん私達も手伝うわ。早く森エルフの親玉を倒してキズメルたちの女王様に会いに行きましょう?」

 

「キリト……アスナ……すまない。恩に着る。」

 

「あの……コタローさん、装備が整っていないならここで引き返してください。私達なら大丈夫ですから……。」

 

「何を言っているでゴザる。拙者、たとえここで身命尽きようとティルネル殿を……仲間を見捨てるなど断じて出来ぬでゴザる!お頭、さぁ!」

 

……何故俺に振る。

 

「……ゆくぞ。さっさと終わらせて街に戻る。」

 

「アオシさん、そこはこう……ガンバローとか、死ぬなとかそうゆうのを皆期待しているんだと思いますよ?」

 

「……性に合わん。」

 

「皆、お頭の命でゴザる!この戦、拙者達の力を見せつけるでゴザるよ!」 

 

コタローの一声に皆が唱和し、俺達はキズメルの案内の元、敵にも遭遇する事無く、最上階の王の間へとたどり着く。

 

ティルネルがドアを開け、中の様子が視界に広がるのとティルネルの身体を大剣を襲うのは同時だった。

 

それは一瞬の出来事だった。

俺やキリト、アスナやユキナですら反応のできなかった攻撃がティルネルを襲う刹那、ティルネルと大剣の間に一つの影が入り込む。

 

「やらせるわけはないでゴザる!!」

 

コタローは短剣ソードスキルを使い、高速移動をしただけでなく、迫り来る一撃に的確に攻撃を当てて大剣を弾き返したのだ。

 

現れた敵の姿は重装甲兵を思わせる装備の騎士だったが明らかに装備のランクが高い。

 

固有名

《ジェネラル・フォレストエルブン・アーマード》

 

更にその横には大鎌にマント姿の森エルフ

 

固有名

《ジェネラル・フォレストエルブン・デス》

 

更に二体の奥で玉座に座っているのは皆が皆、若く、美しいと言える森エルフであるにもかかわらず壮齢で全身を強靭な筋肉の鎧で固めたエルフが居るのが見える。

思っていた以上に広い部屋では固有名までは見えないようだ。

 

俺達は攻略組として数々の修羅場をくぐり抜けてきた。この程度で臆することはない。

 

「キリト君、オルランドさんはアーマードの足止めを!残るメンバーはデスを討ちます!壁はいない以上敵のタゲはアオシ君がとって!ナーザさんはデスがソードスキルを使おうとしたら投剣スキルで妨害を!」

 

もっとも早かったのはアスナの状況判断と戦闘指揮だ。

俺達は即座にアスナの指示道理動きだす。

しかし、唯一アスナの指示に即座に対応出来ない者が居た。

 

ヤヒコだ。

 

俺達のギルド、御庭番衆に加わった当初でレベルは13という安全マージン以下だった事もあり、いわゆるネームドボスとの戦闘は今日が初である。

現在レベルも19に上がり、ギリギリながらも安全マージンをとれた事と先日のシリカとのやりとりもあって今回同行を許可したが、恐らくは竦んでしまったのだろう。

 

現状ではヤヒコに構っているほどの余裕はない。大鎌使いの森エルフ、デスは攻撃力が異常に高く、防いでも一割~二割近いHPが削られてしまうのだ。

 

幸い防御力や回避力が低いので徐々にそのHPは削れていき、残すはほんの数%程になった。

 

「ヤヒコ!お前が前線で戦い続けるというのならば奴にとどめを刺すのだ!覚悟を示して見せよ!」

 

奴が最後の悪あがきともいえる技を放ち、俺達全員へ巨大化した大鎌が襲っていた。

俺達は全員でその一撃を防いでいる為に動きはとれない。

 

「ヤヒコ君、シリカちゃんに宣言しましたよね?私達が攻撃を防いでいる間に……さぁ!」

 

ユキナの声掛けに重なるようにアスナが、ナーザが、コタローがヤヒコの名を呼ぶ。

 

「う、ウオオオオオオオ!!」

 

雄叫びを上げ、その剣を担ぎながら全速力で駆け出すヤヒコ、その剣にライトエフェクトを宿らせ全速力を更に越えてその姿は一瞬消えた。

 

片手直剣突進技

「ソニック・リーブ」

 

最大限システムアシストをブーストしたその一撃は、その名の通り音速へと達し、デスの首を跳ねる。

 

頭を失った森エルフの将軍は首から大量の赤いエフェクトを吹き散らし、全身をポリゴン片へと変えて消滅した。

 

「は、はは……やった……。」

 

力無くその場に座り込んだヤヒコに一本の衝撃波が襲う。

ヤヒコは咄嗟に片手直剣を構えていたが、衝撃波はヤヒコの防御を突き抜け、ヤヒコの身体を吹き飛ばす。

 

俺は咄嗟に衝撃波が発生したであろう方向を見るともう1人の将軍、アーマードがその鎧の一部を外し、筋骨隆々な肉体を外気に晒していた。

 

ブレスとは違う。鋭い斬撃による鎌鼬のようなものか?

 

事実、ヤヒコとアーマードの間にはこのレイド唯一の壁戦士、オルランドが居たにも関わらずヤヒコは吹き飛ばされ、その上麻痺の状態異常まで付加されたのだ。

 

「ナーザさんはヤヒコ君の回復と回復するまでの護衛を!コタローさんはキズメルとティルネルさんの護衛に回ってください!一気に行きますよ!」

 

ヤヒコが吹き飛ばされた直後に出されたアスナの指示に全員が即座に対応する。

幸いオルランドのHPはまだ六割ほどある。このまま押し切れる。

 

「キリト君、アオシ君、オルランドさんとスイッチ!オルランドさんは回復を!」

 

「了解!こいつの鎧部分にはダメージがほとんど通らない!狙うなら関節や首、後は鎧がはげた部分を狙えよ!」

 

……壁というのは経験がないが要は第一層の時のキリトの様に攻撃を全て防げばいいんだろう。

アーマードの大剣は連撃や速度こそデス程ではないが一撃の重さはデス以上だ。

まともな方法では防げない。

 

「アオシ!」

 

アーマードの一撃が放たれるのとキリトがソードスキルをぶつけるのはほぼ同時だった。

そして俺もまたキリトの呼びかけと同じくして同じ行動をとる。

キリトの剣がアーマードに弾かれるのと同時に俺の剣が入れ替わり、ぶつかり合い火花を散らす。

御庭番式小太刀二刀流

《呉鉤十字》

鋏の如く交差させた二本の小太刀、その最も威力の高い交差部でアーマードの剣を受け止める。

強大な一撃は振り切られこそしないまでも、徐々に押し込まれ始める。

キリトの一撃で減少して尚この威力……二人がかりでも完全には止められない!?

 

しかし、アーマードの攻撃はそれ以降進むことはなかった。

アスナの《リニアー》が喉に、ユキナの《インパクトストライク》が露出した腹に撃ち込まれ、アーマードは数メートル程吹き飛ばされる。 

転倒状態にこそできなかったが十分だ。

 

アスナの《リニアー》が喉に決まることで仰け反らせ、より広く、狙いやすくなった腹をユキナの《インパクトストライク》が穿つ。

更にアーマードの攻撃はキリトのその軌道に合わせたソードスキルが減退させて俺の《呉鉤十字》で受け止めることでアーマードは俺達4人のHPを削る事無くその身体をポリゴン片へと変えた。

 

残るは森エルフの王のみ。

回復を終えたオルランド、ヤヒコも戦列に戻り、王の出方を見る。

 

やがて王はその重い腰を持ち上げるとゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 

…………腐っている。遠目には筋骨隆々に見えた王の身体からは蛆が湧き、目は白く濁っている。

 

「バカな……森エルフの王がフォールンになるなど……あり得ん!!」

 

キズメルの驚愕の声が聞こえ、俺達の目には奴の名が記された。

 

《フォールン・ザ・フォレストエルブン・ロード》

 

奴はゆっくりとその顔を上げて歪んだ笑みを浮かべると急激に加速し、ティルネルの顔を鷲掴みにしてきた。

 

「おのれ!!ティルネル殿になにをするつもりでゴザる!」

 

ティルネルの側にいたコタローは即座に王の腕に短剣を突き刺し、斬り落とそうとする。

更にキズメルの騎士剣が王の腕を断ち切った。

 

「ティルネル、無事か!?」

 

「は、はい。姉上、申し訳ありません……。」

 

俺達もまた王へと斬りかかる。王は何人かのソードスキルを防ぐも殆どの攻撃をその身に受けた。

 

「……妙だな。」

 

「ああ……。」

 

そう、弱すぎるのだ。俺達の一撃一撃が与えたダメージもかなりのものだ。

誰もがそれを感じながらも戦闘中、ましてや先程ものすごい速度でティルネルに攻撃を仕掛けた事を考えると距離をとるのも危険だ。

 

ほんの2~3分、その程度の時間で森エルフの王はそのHPを全損し、爆散した。

 

 

 

 

「終わった……のか?なんていうか……あっけなさすぎるような……。」

 

「いや!キリト殿、きっと我らが強すぎたのであろう!そもそも本来このクエストの推奨レベルはせいぜい11位なもの。10も上乗せして挑んでいるのだ!コレくらいのあっけなさが妥当と言うものだろう?」

 

「それは……確かにそうだけど……でも今までがきつかったのに急にこんなに簡単なんて気になるわよ……。」 

 

確かにそうだ。このゲーム、恐らくは適性ではほぼ間違いなく死者が出るレベルの難易度に設定されているのだろう。

 

……とはいえ確かになにも起こらず、経験値もコルも入っている。

考え過ぎなのだろうか……。

 

「行こう。あの奥に秘鍵があるようだ。……キリト、アスナ、それに人族の戦士たち、そなたらのおかげで秘鍵を守ることが出来た。秘鍵を回収したらぜひ我らの街へ来てくれ。最大限もてなそう。」

 

俺達はキズメルが感じる秘鍵の反応を頼りに奥へと進み、やがて城の地下深くに一つの球体と6つの光る玉を見つけた。

 

俺達が部屋にはいると球体から急に光が消え、変わりに一つの鍵へと変わった。

その鍵はゆっくりとこちらに動き始め、ティルネルの手に収まった。

 

「……これで終わりだな。長い森エルフとの対立も無くなるだろう。キリト、アスナ。今までありがとう。感謝する。」

 

キズメルがキリト達に手を差し出し、キリトがその手に応じようとした。

……しかし、その手は触れられる事はなかった。

キズメルの胸から飛び出た一本の大剣と血飛沫の様な赤いエフェクトがキリトの顔にかかり、キズメルが倒れる。

刺したのは……ティルネルだった。

 

「我らが悲願、揃えてくれたこと礼を言おう。キズメルよ。ゆっくりと休むが良い。」

 

ティルネルはその大剣を引き抜くと振りかぶり、キズメルの首へと振り下ろす。

その刹那、それを受け止めたのはキズメルの首ではなく、コタローの短剣と身体だった。

 

急速に減っていくコタローのHPを見て即座に俺はその大剣にOSSとなる技を放つ。

この世界に来てから編み出した新しい小太刀二刀流。

 

《四陣一擲》

 

二本の小太刀が一瞬の間に寸分違わぬ場所を斬りつけるこの剣技は重量の重い大剣を弾き返した。

 

「コタロー!無事か!?」

 

みると残りは数ドットながらもHPを残したコタローだが、緑のアイコン、麻痺が発生している。

 

「キリト、アスナ、コタローとキズメルを頼む。その間は俺達御庭番衆がこの場を抑えよう!」

 

俺達はティルネルを見る。

ティルネルはキズメルから奪い取った大剣を右手に、更にコタローが装備していた短剣を左手に持ち、立ち尽くしている。

その目は完全なる黒に覆われ、表情は狂気の笑みを浮かべていた。

胸元には禍々しく脈動する鍵が鎧のように何本もの触手を出しティルネルの全身を覆っている。

 

《ティルネル・ザ・フォールン・ロード》

 

ボスを表す名前と共にティルネルは咆哮を上げて襲いかかってきた。

 

「奴の攻撃に注意しろ!恐ろしい威力だぞ!」

 

俺達は散開しティルネルの放つただの斬撃すらも喰らわないようにかわす事に集中する。

コタローは俺達の中ではヤヒコの次に防御力、HP共に低いがレベルだけを見ればマージンを15も取っているのだ。

そのコタローが武器防御をして尚、一撃で死ぬところだった。

それはつまり、クリティカルしようものならばタンクであるオルランド以外は確実にやられてしまうことを意味していた。

 

幸い奴は両手に武器を持っている。システム上、両手に武器を持っていれば通常のソードスキルは発動出来ないはずだ。

 

「奴の攻撃の瞬間だ。ターゲットは全力回避、それ以外の者は通常攻撃せよ!反撃されぬよう各々気を抜くな!」

 

そう叫んだ途端に奴が俺の方に駆け出して来る。

俺は小太刀を二本構え、攻撃に備えた。

 

奴はまっすぐ大剣を振り下ろし、俺は小太刀を使ってそれを受け流す。

HPバーは……ほぼ減っていないようだ。

地面に大剣が振り下ろされ、突き刺さった所で全員の通常攻撃が入った。

どうやら大剣が深く刺さり、抜くのに手間取っているようだ。

更にもう一撃、そう皆が思い武器を振るった時だ。

 

奴は大剣を捨てた。

 

放たれたのは短剣突進技“ラピッドバイト”そして狙われたのは唯一離れて攻撃していたナーザだった。

 

タイミングは最悪だ。

そこそこ距離があり、彼は投剣ソードスキルを使用していた。これは……やられてしまう。

 

 

「「やらせない!」」

 

死の一撃がナーザの胸に吸い込まれる直前、彼を救ったのはキズメル、コタローの回復をしていたキリトとアスナだった。

 

完全にシンクロした二人の剣は全く同じ部分を左右から同時に穿ち、ティルネルの短剣を弾く。

 

それにより生まれた隙を逃さず、2人の剣は彼女へと叩き込まれた。

 

 

「ネズハ!無事か!?」

 

「は、はい!お手数おかけしました。」

 

ナーザはそう言いながらクイックチェンジを使い、使用武器を槍へと持ち替える。

 

遠近感の掴めない彼ではシステムアシストを使わずに投剣を当てるのは困難なのだろう。

 

コタローはまだ麻痺が取れず、キズメルもまた気を失っているがHPは全快復したようだ。

恐らくは貴重な回復結晶を使ったのだろう……。

 

とはいえ、2人が増えても厳しい戦いに変わりはない。

 

キリト、アスナに斬りつけられたティルネルに更に槍が突き刺さった。

ナーザだ。3人はヒット&アウェイを行おうとその場を離れようとする。

しかし、ティルネルがそれを許さなかった。

ティルネルは突き刺された槍を力任せにナーザから奪い取り、槍の柄を持ったままだったナーザを壁へと吹き飛ばす。

更に持っていた短剣を投げるとそれはキリトの左腕を吹き飛ばし、キリト自身も壁へと吹き飛ばされた。

 

唯一距離の取れていたアスナに狂気の槍が襲いかかる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が、左腕が無くなったキリトすらもアスナを助けようと全力で向かった。

しかし、間に合わない。

アスナも態勢を崩している。

全員が仲間が死ぬことを予感した。

 

しかし、次の瞬間見た物は真紅の鎧を身に纏い、大型の盾と騎士剣を携えた壮年の男性プレイヤーがティルネルの槍を受けとめ、いなした光景だった。

 

「胸の鍵を狙いたまえ!鍵を壊せばこの敵は倒せる!」

 

男の介入に混乱しつつも、彼の一撃が鍵を貫いたことで起きたティルネルの硬直を逃すことなく全員がソードスキルを叩き込む。

 

結果、ティルネルのHPは0になり、爆散した。

 

そしてコタローはその光景を見て意識を失った……。

 

 

 

 

 

男は何でも自分のクエスト進行に来ていたらしい。俺達のクエストが終わらなければ出来ないクエストらしく、ティルネルが爆散したのを確認すると名乗ることもなく去っていった。

 

その後、キズメルが意識を取りもどすとティルネルの胸に着いていた鍵を確認し、一言だけ……死んだのか……と呟き、そのまま歩き始めた。

 

俺達も意識を失ったコタローをオルランドが担ぎ、その後に続く。

 

キズメルは城の出口に着くとなにやら唱え始め光の回廊を生み出した。

 

「ここから我らが国へと行ける。……着いてきてくれ。」

 

キズメルがその光の渦に入り、俺達もそれに続く。

 

そこで見た光景は俺の予測を裏切っていた。

 

「お帰りなさい。姉上。」

 

「ただいま、ティルネル。今回は霊力が満ちるのが早かったな。」

 

 

ティルネルだ。記憶もそのままあるようで俺達にも普通に挨拶してきた。

 

「どうゆう事……なの……?だって、私たち……ティルネルさんを……。」

 

アスナがそうつぶやくとそれに答えたのはキズメルだった。

 

「我らは霊力さえ満ちれば蘇るのだ。特にこの層ではそれは早い。そなた等も知っていよう?」

 

「だって……第三層でお墓が……。」

 

「あの時は霊力の無い戦場だったのだ。

故に私もティルネルは本当に死んだとばかり思っていた。少なくとも記憶は無くす。故に墓を作り弔っていたのだが……そなた等のおかげで我ら姉妹は死ぬ事無くこうして秘鍵を森エルフに使わせずに済んだ。心から感謝する。」

 

……つまりは設定としての死が永続でない限り蘇るということだろう……。

そう。キズメルもティルネルも人に本当に近く見えるが故に勘違いしがちだが彼女たちは紛れもなくNPCなのだ。

 

そして蘇る事自体には何の違和感もないように設定されている……ということか。

 

見ればキリト、アスナ共に苦い表情をしている。彼女たちを“人”として見ていたのは俺達だけではない。

それがこうして死ぬ事の無いNPCとしての一面を見せ付けられては考えてしまうのも理解できる。

俺達は彼女たちを助けようと本物の命を掛け、そしてコタローはキズメルを助けるために死にかけ、ティルネルの死のショックで意識を失ったのだから……。

 

 

意識を取り戻したコタローは泣いた。ティルネルの生存に。……そして別れに。

 

俺達は女王に謁見するとそのまま彼女たちとは会えなくなると告げられ、別れた。

 

俺達はその後、第三層に向かい彼女たちと再会した。記憶を無くし、見た目のみが同じ彼女たちに。

そして俺達は仲間だったキズメル、そしてティルネルには二度と会うことは無くなり第9層のフロアボスを討伐する。

 

……俺達は二度と第9層に行くことはなかった……。

 

 

 

 




キズメルさんたちの設定は独自となります。
原作でアスナがNPCを囮に~という話があったので最後はこういった形にしましたが、矛盾等あればご指摘お待ちしております。
価値観変えるの難しいですよね……。

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