ソードアートオンライン~過去からの転生者~   作:ヴトガルド

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※9月5日修正済み
※10月1日修正済み


βテスター

ホルンカの村に着くなり、キリトは片手直剣にとっては必須という森の秘薬クエストを始めると言って行動を開始した。

 

曲刀を使うアオシには必要性の薄いクエストらしいが、ホルンカの村のNPCショップには始まりの街よりも高いランクの武器や防具が売っているようなので、資金稼ぎがてら同行させてもらうことにする。

何でも倒せば倒すほど“花付き”という目的のモンスターが出現しやすくなるらしくキリトにとっても都合が良いようだ。

 

「しかし本当にいいのか?ここのMobは一撃の威力も今までより高いんだけど……。」

 

キリトはクエストを受けて森に行く間に確認をしてきていたが、俺にとっては一撃の威力はさほどの問題ではない。

この世界はとてもリアルである。

故に目線や筋肉の動きから先を読むことも出来、俺は前世でそういった事は習得している。

 

そんな俺の自信は最初の目当てのモンスター、リトルペネントを見て意味のないものとなった。

リトルペネントはウツボのような植物型のモンスターで、勿論目もなく筋肉も無い。つまりは習得していた先読みは使えないということだ。

 

しかし序盤のモンスターだけあり、そこまで動きは早くない。キリトから聞いた情報では葉による斬撃と、頭部が膨らんでから出される消化液の二通りの攻撃法しか無いそうだ。

消化液は前方5メートル、範囲も前方30°程らしく一番最初に攻撃されてからは一撃ももらっていない。

 

また弱点である頭部と繋がる茎の部分も攻撃しやすく、弱点を的確につけば3~4撃程で倒せる。

 

2人で30匹程を狩っていた時、俺達は背後からいきなり声をかけられた。

 

「もうこの狩り場にいるんだね。……僕も一緒に狩らせてもらっても良いかな?」

 

声をかけてきたのはキリトや俺とさほど変わらない歳の少年だった。

キリトと同じく片手直剣装備で盾を持っている。

少年の提案はこちらにとっては特にデメリットが有るわけではない。なにせ少年(コペルというらしい)は花付き二匹は俺達が先に狩ってかまわないと言うのだから。

 

3人がかりになった俺達は二時間のあいだに100近くのリトルペネントを狩り、ようやく花付きのリトルペネントを発見した。

それを手早く狩ると更にもう1匹花付きが現れ、俺とコペルは早速狩ろうとしたがキリトが急に手で制止した。

 

キリトは奥にまずいのがいると言っていたが俺にはよくわからなかった。確かに奥にもう一匹居るのには気付いていたがリトルペネントが一匹増えたところでさしたる危険があるとは思えない。

 

 

「実付き・・・」

 

俺より後ろにいたコペルはそうつぶやき、俺はその言葉で後ろにいるリトルペネントの頭から赤い丸いものが付いていることに気付いた。恐らくあれが実なのだろう。

 

「引き離さないとダメだな。実を割るとやっかいだ。」

 

「僕が実付きを引き離すから2人はその間に花付きを倒してくれ。」

 

キリトに続き、コペルがそう言うと3人はすぐに動き始めた。2人掛かりということもあり花付きは危なげなくすぐに倒され、俺はドロップした胚珠をポーチに入れてキリトと2人、コペルのもとに走り出す。

いくら実が弱点のそばにあり、倒しづらいといっても、既にレベルも4に上がり、さほどの強敵ではなくなったリトルペネント一匹ならばやられたりはしないだろう。

しかし万が一実を割ってしまえばまずい。

キリトの話では実を割るとリトルペネントを一斉に呼び寄せる煙がでるらしい。

数にもよるが多勢に無勢は事故も起きやすく、βテストの際にキリトはレベル4の6人パーティーで全滅した事も有るらしい。

 

コペルのもとにたどり着くとまだ実付きは生きていた。

しかし、俺たちを見たコペルが一言呟く。

 

「……ごめん。」

 

俺が気付いたのは、こちらにコペルが顔を向けたときだった。

使われたソードスキルに追い付けるだけの敏捷力の無かった俺は止められず、キリトもコペルが呟いた言葉の意味を理解する前にそれは起きた。

 

コペルは実付きをソードスキルで実ごと切り裂いたのだ。

 

実は破裂し、強い刺激臭が辺りを包む。

それと同時にコペルは辺りの風景に溶けるように消えていく。

その場にはキリトと俺の2人だけが残された。

 

「隠蔽スキルか!……くそっ!」

 

「どうすれば良い?逃げた方がいいのか?」

 

「いや、リトルペネントはああ見えて移動速度が速いんだ!迎え撃つしかない!すまないが背後から来る奴をアオシが引き付けてくれ!」

 

キリトは俺に即座に指示を出し、俺とキリトは背中合わせになる。

ざっとみたところ押し寄せてくるリトルペネントは50以上は居るだろう。

キリトは俺の後ろから来るリトルペネントに即座に斬りかかり俺はキリトの背後から向かうリトルペネントに斬りかかる。

そうして何体か倒したところで俺は違和感を感じた。俺とキリトしか居ないはずなのに明らかに10体以上のリトルペネントが茂みの辺りに向かっている。

俺はキリトの背中に着くと口早にその事を聞いた。

キリトはおそらくコペルだろうと答える。

隠蔽スキルは視覚以外で辺りを探るMobには効果がないらしい。

 

とはいえこちらはコペル以上のモンスターに囲まれていて助けには行けないだろう。

俺とキリトは目の前の敵に集中して戦闘を続け数を減らしていく。

 

 

 

 

「アオシ!後の敵は俺が引き受ける!コペルのフォローに向かってくれ!」

 

数分後、キリトは自分が相手していたリトルペネントの群れを残り7体程まで倒していた。

俺は攻撃力の低さから、キリトよりも相手取っていた数がだいぶ少なかったにも関わらず、まだ10体以上残っているというのにキリトはそう叫んだ。

 

その理由はコペルにあった。コペルの周囲にいたリトルペネントは最も数が少ない。しかし明らかに数体しか減っていないのだ。

パーティーを組んでいないコペルの残りHPは分からないがそう多くは無いだろう。

放置すれば遠からず死ぬ。その依頼を受けた時、アオシは内心で多少考える。危険を犯してまで助けずとも構わないのではないかと……。

 

明治に生きていた当時、外法の者をさらなる外法の法を持って裁く。

それが四乃森 蒼紫の最後の勤めだった。

 

……とはいえ今回、俺は動く事にした。去り際の謝罪の一言。コペルはまだ死ななければいけないほどでもあるまい。恐らくはまだ更正する事も出来るだろう。

俺は自分を囲っていたリトルペネントの攻撃を最小限の動きでかわしながら斬りつけ、コペルのいる方へと走り、コペルを囲うリトルペネントの集団に斬りかかる。

どうやらコペルはほぼ全体にダメージを与えていたようで、俺の低い攻撃力でも1~2撃でポリゴン片へと変えていく事が出来た。

 

約5分程でコペルのまわりにいたリトルペネントは全てポリゴン片へと変わり、俺は再度隠蔽スキルを発動したコペルを、周囲との違和感を見極めて捕まえた。

 

「次、逃げれば俺が貴様を殺す。大人しくここにいろ。」

 

極めて冷淡に告げるとコペルはその場にうずくまりゆっくりと首を縦に振った。

 

やがてキリトも最後の一体を斬り飛ばし、こちらに合流してきたようだ。

 

キリトは先程の乱戦の中、手に入れた胚珠をコペルに投げ渡すとコペルに一言、二度とMPKなどするなと言い放ち、その場にコペルを置いたままホルンカの村に戻っていった。

 

狩りを済ませた俺とキリトは、それぞれレベルが5と7に上がり、ホルンカの村で今後どう動けばいいのかを教えてもらった後、キリトと別れた。

 

キリトは次の村へ、俺はキリトから聞いた曲刀のクエストをクリアするためにホルンカの村に残る。

次の日、たまたま会ったコペルの話では、コペルはホルンカの村から始まりの町に戻り、ビギナーへの戦闘技術のレクチャーを行うとのことだった。

 

俺は前世の記憶から得た経験に従い、情報収集、鍛練、最後に外法者の捕縛を優先して動くことにした。

 

最も、流石に今のこの日本に暮らす人々は昔よりも外法を平然と行う者も極めて少なく、現状で捕まえた外法者は、隠しログアウトがあるとデマを流し、何人かのビギナーに対してMPKを仕掛けた者だけだったが・・・。

ちなみにこの件にはキリトも依頼人である“鼠のアルゴ”を手伝っており、一週間ぶりに再会した。その時点で俺はレベル8なのに対し、キリトはすでに11に達していた。

キリトいわく、11からはあまり経験値が入らず、ほとんどレベルは上がらなくなるそうだ。

 

とりあえず俺は非常に優秀な情報屋、鼠のアルゴと、初めて一緒に狩りをした片手剣士、キリトとのフレンド登録を済ませる。いずれ必ず役立つだろう。

 

その後、キリトはビギナー助けの後のデマを流した相手の捕縛は断り去っていった。……方向からしておそらくは他のビギナーが来ないようにしに行ったんだろう。

俺はアルゴに捕縛の協力も進み出ているため、キリトが助けたビギナーとアルゴから少し離れた場所で2人を見ていた。

 

どうやらアルゴはビギナーにアフターケアをしているようだ。

アルゴがビギナーに鼠印の攻略本を渡すとビギナーは腰に差した細剣を抜き、初期技であるリニアーを発動させた。

その軌跡、速さは幕末の記憶を持つ俺にも一筋の光のように見えた。

その剣速はまるであの抜刀斎と変わらないほどの速度だった。

更に驚いたのはフードケープの中身だ。

あの剣技を見た俺は、どんな男かと思ったが予想に反して中身は女、いや少女だった。

栗色の長い髪が日光を反射しているその少女は、アルゴに名前を聞かれ教えているようだ。興味を持った俺は聞き耳をたてたがシステム上の問題でここまでは聞こえない。

……後でアルゴに聞いておくか。

俺がそう考えているとアルゴと少女は始まりの町に歩いていった。

 

デマを流した犯人はその後一時間もしないうちに捕まり、黒鉄宮と呼ばれる牢獄に入った。

 

ちなみに少女の名前はアスナというらしい。買うときにアルゴが先方に連絡をとったが、特に口止め料はかからず5000コル程で聞くことができた。

 

…………後日知ったが他のプレイヤーの名前は人によるが相場は500コル程だったらしい……。




コペル生存。今後絡むかは未定です。
次は攻略会議に飛びます。なお原作、マンガ、アニメ、プログレッシブを参考にやらせていただいています。

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