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※10月2日修正済み
「アー坊、奴は見つかったのカ?」
転移門に入ろうとする俺の前を遮り現れたのは、この層にモルテが居ることを教えた張本人、情報屋“鼠”のアルゴだ。
恐らく、このメノウ村で俺が戻るのを待っていたのだろう。
「あぁ。……やはりモルテ……いや、PoHは攻略組に仲間を潜入させているようだ。モルテは自分が逃走する為に、ドラゴン・ナイツ所属のジンエを待機させていたからな。」
「成る程ネ……ならオレっちの方で極秘にリンドに伝えようカ?それともアー坊の事だからもう黒鉄宮に送ったのかナ?」
アルゴからの問いかけに俺はほんの少し答えを迷った。……例え外法の者とはいえ俺の行った行為は結果としては奴らと同じ、“殺人”なのだ。……もっとも隠したところですぐに発覚するのだ。仕方ない……。
「……いや、殺した。」
流石のアルゴも予想外だったのだろう。言葉に詰まり、表情にも多少の緊張が見られる。
「一応……理由は聞かせてくれるのかナ?」
……表情を見たり、声色を注意して聞けばある程度の相手の心理状態はわかる。
アルゴから感じるのは確認が欲しいといった感情だろう。
「……麻痺毒を受けたフリをしてPoHの元へ案内させるつもりだったのだがな。奴は殺しにしか興味は無いらしい。撤退する素振りすら見せなかった。……危うくユキナを殺されてしまう所だったよ。」
未だに俺の腕で寝息をたてている少女を見ながらアルゴにそう言い、更に続ける。
「アルゴ、出来ればキリト、アスナ、エギルにも奴等との対峙に伴う危険について直接話したい。悪いが第六層の転移門に呼んでおいてくれないか?」
「アー坊は両手が塞がっているものナ。抱き心地はどうなんダ?」
アルゴの表情は言葉道理、ニヤニヤと笑いを浮かべながらながらそう言い、更に絡んでこようとしている。……ん?……これは……
!?……誰かこちらに向かってきているな……。あの男か……?
「すまんが先に行かせてもらうぞ。奴を殺した時に男のプレイヤーに見られているのでな。」
俺はそういうと転移門に入り、第六層主従区、ハルジオンに飛んだ。
青い転移の際に起きる光に包まれ、俺達は第六層へと到達する。
……というかいい加減に起きているのではないか……?先ほどといい……そう思いながらユキナを凝視してみる。
「……ん……ん~……うにゅ……?」
ゆっくりと瞼をあけたユキナと目が合うと、彼女はいきなり胸に抱いていた槍を戦闘形態に変えて俺の腕から飛び退いた。
「……何をしているんですか?アオシさん?」
「麻痺しているお前をここまで運んだ者に対する礼儀か?それは。それにアルゴと話している途中から起きていたのではないか?」
「………………………黙秘します。」
彼女はそういうとそっぽを向く。しかし全く動こうとしない辺りアルゴとの会話を聞いていた証拠だろう。
先程、アルゴが俺をからかっていた時に少し表情が紅くなっていたのだ。
その後は転移門の辺りで2人共無言で立っていた。大凡五分程度だろうか……。
やがて転移門が明滅すると中からアルゴが出てくる。
彼女は出て来るなり俺達2人を見てニヤニヤと笑いながら近付いてきた。
「キー坊達はもうここの街にいるそうダ。……しかしこの街は相変わらず面白い造りだナ。真っ直ぐな道がなくて迷子がたくさん出そうダ。」
辺りを見渡すと確かに殆ど……いや、全てか……。転移門が有るのはこの街の最上部になるので、ぐるりと街を一望のだが、真っ直ぐな道はなく、蛇のような道ばかりだ。その上、街の外周部すらも円形なのだから恐れ入る。
……もっとも、少なくとも俺は道に迷う事など無いがな。
アルゴが指定してきたのは街の端の方にある路地だった。
どうやらそこはあまり周りに何もなく、プレイヤーもまずこない場所らしい。
俺達3人はキリト達のいる場所を目指し歩を進める。
「なぁアー坊、依頼があるんだが受けてもらえないかナ?」
「……話してみろ。」
「今、アー坊のスキルの修得条件の検証をしてるんだけどナ?段々と攻略組になる気になっているみたいなんダ。……ただ2人……いや、1人は確実に向いてないんだヨ。……でも言っただけだと多分納得しないと思うんダ。だから一回だけでも良いから危機を救ってやってくれないカ?」
「そうゆう事ならば構わんがそう都合よく行くのか?常に着いて回れるほど暇はないぞ?」
「ちゃんと機会は作るヨ。もちろんその一回で起きるとは限らないがナ。」
……なるほど。確かにかなり面倒な依頼だ。……とはいえ原因に俺のスキルの検証が関わっていては無碍には出来まい。
「……良いだろう。そいつらの名はなんだ?」
「短剣使いのシリカと鍛冶師リズベットだヨ。」
アルゴから詳細な情報を聞き、記憶に入れておく。容姿、性格、そして戦闘スタイルにアルゴが抱いている危惧感などだ。
情報上としては問題は最後まで油断しない事が徹底出来ていない事だろう。
最前線の強敵やフロアボスなどはいつ即死級の攻撃をするかわからない上、急に今までにない攻撃をしたりもする。
それは本当に命がけの戦いをする覚悟が無ければ備わらない能力だろう。
やがて路地に着くとそこには最近変装するのをやめたらしく、黒のロングコートを羽織った黒髪の少年キリトに相も変わらずフードケープを被り、素顔を隠している少女アスナ、そして褐色の肌にスキンヘッドの筋骨隆々な巨漢エギルが立っていた。
「よう、お三方。呼び出した割にゃあ遅い到着だな。」
「すまないナ。ちょっと用事があったんダ。」
「別にかまわないわ。……それで、あの男絡みの話しがあると聞いているのだけど……説明してもらえるかしら?」
「そうだな。では今夜起こった事を順を追って説明しよう。」
俺は3人に今夜の出来事を説明していく。
コイフを被ったプレイヤー、モルテが第三層の安全地帯で行っていた半減決着モードでのデュエルを用いたPKの現場、ドラゴンナイツ所属ジンエとの繋がり、デュエルにおいての奴らの熟練度、そして追い詰められても撤退ではなく殺人へと走る異常性。……そして殺人を仕掛けてきたジンエの首をはねて殺した事も……。
「そう……か。……アルゴ、黒鉄宮のジンエの死因にはなんて書かれるんだ?」
「……名前はでないはずだヨ。後で裏はとるけど恐らくは斬撃属性ダメージでの全損とかになるはずだナ。」
「アオシ、俺達以外にはその話しを広めない方がいい。大多数のプレイヤーにはただのPKにしかとられないからな。」
「了承した。……もっとも広める気は無いがな。」
「その場を目撃したっていう男のプレイヤーにはオレっちの方で虚実交えて煙に巻いておいてやるヨ。料金は5000コルでどうダ?」
商魂の逞しい奴だ。そう思いながら俺はアルゴに5000コルを渡し、一瞬しか見なかった男の特徴を伝えておく。
俺達はそれぞれの持つ情報を交換し、奴ら以外の情報も共有していく。……流石にアルゴはほとんどの情報を秘匿しているようだが、仕事柄無償で提供などするはずもあるまい。
やがて俺達の居る路地の裏のNPCハウスに2人のプレイヤーが入っていく気配を全員が感じ取り、情報交換は終了した。
「すまない。裏にいる2人が動き始めるようならば俺はこの場から去らせて貰う。よもや奴らの仲間だとは思わんが今後俺達の繋がりを広く知られるのは得策ではあるまい。」
「わかった。俺達の方でうまく言っておくよ。」
「すまない。」
やがて正体不明の2人のプレイヤーが動き出すのを察知した俺とユキナはその場から離れていく。
……どうやらユキナはユキナで今の内にと4人とフレンド登録をしたようだ。
「ユキナ、俺は今からリンドの元へ行く。お前は宿屋に向かって他のメンバーと合流しておけ。」
「……拒否します。アオシさん、あの男の事を話しに行くつもりなのでしょう?この件については私も当事者です。……独りで責任を負おうなんて思わないでください!」
凛とした表情に強い覚悟を宿した瞳で俺を見つめてくるユキナに俺は何も言わず、同行を認めた。
……覚悟が有るのならばそれを無理に止めるのは失礼でしかないだろう。
フレンドリストからの検索でリンドはどうやら近場に居ることがわかった。
俺はとりあえずリンドにメッセージを送り接触を図る。
……メッセージはすぐに返ってきた。
内容は
『こちらも聞きたいことが有る。近場の路地には人通りが無いからその辺りのNPCハウスで話しをしよう。』
というものだ。
俺達はリンドの言葉通り待ち合わせの場所へ向かう。
どうやら元々居た場所から近く、案外すぐに辿り着く事ができた。
「忙しい所すまぬな。」
「いや、構わないよ。先ずはこちらから聞きたい事を聞いても構わないかな?」
部屋にはリンドと確か……ロキ……だったか。2人が腰掛けており、俺達にも腰掛けるように促してきた。
「さて、……君たち2人は五層ボス攻略戦には参加しなかった。どこで何をしていたのか聞かせてもらえないかな?」
……?何が言いたいんだ?ボス戦に参加しなかった事を咎めたいと言うのが話しなのか?
「……君達には今、プレイヤーの殺害の容疑が掛けられているんだ。うちのメンバー、ジンエのね。……答えてくれないのか?」
そういうことか……。なるほどな。
「いや、すまないな。それは“容疑”ではない。奴は俺が殺した。」
「!?……それは……もちろん事故……何だろう?」
焦りを表情に浮かべるという事は恐らくはジョー辺りがモルテから聞いた情報が流されたのだろう。……厄介だな。
「いや……事故、とは言え無いだろうな。俺自身の意志で返り討ちにしたのだから。」
「そう……か。この情報は既にある程度の攻略組には広まっているんだ。情報源は特定されては居ないんだけど……事実としてジンエとフレンド登録していたプレイヤーのリストが灰色になっていることから拡散は止められそうもない。……細かい経緯は教えてもらえるのかな?」
俺は先程キリト達にした説明と同じ事をリンドにも話す。
リンドは話しを聞き終わると深々と頭を下げ、謝罪してきた。
「ギルドのリーダー……いや、攻略組を率いている者の独りとして彼の凶行を止められず申し訳ない。しかし……事が事だ。申し訳無いがアオシさんには今後ボス戦や会議には出ないでいただきたい。」
……まぁそうだろうな。寧ろ寛大な処置といえよう。しかし……
「一つ聞きたい。それは俺個人か?それとも……」
「もちろんアオシさん、あなた個人だ。それにずっとではないよ。キバオウさんと協力してなんとか下地を作るつもりだ。」
「ならば俺に異論はない。マッピングやボス情報などはわかり次第ギルドの者か情報屋を通じて連絡しよう。」
「……ねぇリンドさん?そんな事で皆納得するのかなぁ?僕はやっぱり制裁は必要だと思うよ?」
不意に……まるで今まで影のように目立たなかった男が口を挟んできた。
ロキ……確か第一層でディアベルのパーティーメンバーだった男だ。影は薄いがどこか胡散臭さの漂う男だったが……。
「だってさ、彼は確実にジンの事を殺したんだよ?だって自白したんだもん。確かに彼の話じゃジンが先に殺そうとしたみたいだけどさ、証拠なんて無いじゃない。ならもう少し仲間であるジンを信用して上げた方が良くないかなぁ?」
「ロキくん……しかし、ならばなぜこんなに早くジンエの死やその死因が攻略組に広まっているんだい?彼らが本当にただ殺しただけならば隠すはずだろう?」
「そう見せかけただけかもしれないじゃない。それにPKなんて誰かが見ればあっという間に広がるよ。誰か一人でも上層プレイヤーが見れば攻略組にだってあっという間に広がるはずさ。そうだろ?」
「……すまんがその説はないな。あの場に俺の索敵を潜り抜けるほどの隠蔽スキル持ちが居たとしても、何故隠蔽スキルを使いながらその場で隠れているのだ?あの場に俺とジンエ、2人共を知っていたのはモルテだけだ。」
「ふむふむ。つまりはモルテさんに証言して貰えれば全てはっきりする訳でしょう?ならその証言次第では制裁されても構わないんだよねぇ?」
……墓穴を掘ったな。奴の狙いはこの展開か……。
俺もリンドも返事に窮していると男が続く言葉を口にしようとする。
しかし、その言葉が発せられるのと同時に黒のロングコートを纏った少年、キリトとフードケープを被った少女アスナがドアを開け、部屋に入ってきた。
「やぁリンドさん。それに……?」
「僕はロキだよ。こんにちは、ビーターさんにお姫様。……僕たち、取り込み中なんだけど何か用かな?」
「ある程度の話は聞かせて貰ったわ。リンドさん、要は彼の行った事に裏が取れていないのが問題なのよね?」
「おいおい……お姫様、急に出てきてなんだい?今、彼から聞いた話じゃモルテってプレイヤーから話を聞けば解決って事で話はまとまっ」
「第三層メノウ村の宿屋に泊まっていた男から話を聞いた。アオシの言っていたジンエ殺害の経緯についての裏はとれたよ。ついでにモルテに仲間を殺されたと言うプレイヤーも確認出来た。」
キリトの話を聞いたリンドは一つ頷くと椅子から立ち上がった。
「ロキくん、聞いての通りだ。先の決定に異存はないね?」
リンドの真っ直ぐと見据える目に押されロキは黙り、そのまま面白く無さそうに椅子に腰掛けた。
「……じゃあすまないがアオシさん、しばらくの間はボス戦、攻略会議から抜けてくれ。また参加して貰えるようになればこちらから連絡しよう。」
「……了承した。では失礼させて貰う。」
俺はそう言い、部屋から出ていくとユキナに更にキリト、アスナも続いて部屋から出て来た。
「2人共すまないな。助かったよ。礼を言う。」
「いや、俺達はユキナさんに頼まれただけだよ。ちょうどクラインからも事の経緯は聞いていたからな。」
……そういえばユキナは隣で黙り込みながら何かをしていたな……。
「そうか。ユキナ、礼を言う。」
「い、いえ!私はただメッセージを送っただけですから!……それに……あの時、私が麻痺毒を喰らわなければこんな事には……。」
「いや、あの時、奴が安心して逃走出来るようわざと伝えていなかったのだ。お前が気に病む必要などない。」
「そうだよ!ユキナちゃん。今回の事はアオシ君の不注意なんだから気にする必要なんてないよ。」
やがて2人は翡翠の秘鍵を進めると言い別れ、俺達も宿屋にてナーザ達と合流し、翡翠の秘鍵へと取りかかろうとした。
『アー坊、悪いんだが先程頼んだ依頼の件ダ。リッちゃんの事を影から護衛してやってくレ。今はエギルの旦那と居るはずだヨ。』
出鼻をくじくのが趣味なんだろうか……。アルゴからのメッセージを受けた俺はナーザ達に別行動を取ることを伝えた。
どちらにせよ、ボス戦では俺は参加できないのだ。ならばと……。
「ユキナ、コタロー、今後はボス戦を含め指揮は2人がとってくれ。」
「わ、私ですか!?私よりもオルランドさんとかの方が……。」
「オルランド達は主に壁になる。後方を確認するのは命取りになりかねんし、ナーザは最後方だからオルランド達に指示を出すのは難しいだろう。となれば中衛に当たるお前たち2人が指示を出す方が確実だろう。」
俺がそう言うと2人は頷いた。これで恐らくは問題あるまい。
「では拙者から……ユキナ殿、ユキナ殿にはお頭の監視役をお願いしたいでゴザル。お頭の事だからきっと一人で無茶すると思うでゴザルよ。頼めるでゴザルか?」
……早々に問題発生か……。
「おい、コタロー「監視役の任務、承りました。今、この時より私、ユキナはアオシさんの監視、護衛の任務に着きます。」な!?」
周りのメンバーも拍手までしだした。
「ちょっとまて、俺には護衛など……」
「お頭、お頭は今後も奴らを追うのでゴザろう?なれば攻略は我らに任せ、我がギルドの腕利きの2人は奴らの討伐に回るのが最良でゴザろう。なに、我らとて遊んでいるわけではコザらん。ティルネル殿をお守りし、必ずやこのアインクラッドもクリアへと導いてみせるでゴザル!」
……これはもう無理だな。ノリが操と変わらん。
俺は説得は諦め、改めてメンバーと別行動を取り始めた。
ちなみにボス戦以外もユキナは俺と行動を共にするらしい。
本人に先程別に常に行動を共にしなくても構わないと伝えると「私、アオシさんの監視役ですから。」だそうだ。
やがて2人のプレイヤーと一匹の大蛇が見えてきた。
……妙だな。確かアルゴの話ではリズベットなる鍛冶屋も一緒のはずだが……。
よく目を凝らすと大蛇の腹部にプレイヤーカーソルが見える。
まさか……
俺達2人は最大速度でエギルともう1人の男、第三層で俺のことを見たプレイヤーのそばに駆け寄った。
「何があった?手短に話せ?」
「てめぇは「仲間が1人補食された!俺達2人だと奴の自動回復を貫き切れねぇんだ!手を貸してくれ!」
「心得た!」
それを聞くとほぼ同時にユキナが先ずは固有ソードスキルを発動させる。
セッカロウ固有ソードスキル
「バースト・ストライク」
それにより弾かれた大蛇に対し、俺は追撃を放つ。
御庭番式小太刀一刀流
「回転剣舞・剛」
計七連撃を食らった大蛇は今度はエギルの元へと飛ばされ、エギルは両手斧カテゴリーの単発技を発動させる。
両手斧単発技
「グランド・ディストラクト」
その一撃で残りのHPがほんの少しになり、更にクラインが曲刀カテゴリーの3連撃技を放った。
曲刀3連撃技
「オーバル・クレセント」
三本のライトエフェクトが大蛇の腹を切り裂き、中から人……ではなく光る棒が現れ、クラインの顔面を打ちつけたのだった。
そして大蛇は空中でポリゴン片へと変換され、少女が1人空を舞う。少女は暴れながら落下を始めたが地面に衝突することはなく、抱えられる形で地上に降り立った。
「いや、いやぁ~!!死にたくない、死にたくないよ!!」
いまだ錯乱している少女の口に無理矢理ポーションを加えさせる。
そう、少女のHPはほんの数ドットしか残ってなかったのだ。恐らくはそのまま地面にぶつかれば全損していただろう。
彼女は徐々に増えていくHPバーを見て落ち着いたのか、暴れるのを止め、目をゆっくりと開き始めた。
「……落ち着いたか?」
どうやらいまだに混乱してはいるようだが暴れるのは止めたようだ。これならば平気だろう。
「……アオシさん、いつまでお姫様抱っこしているんですか?……犯罪コードが発動しますよ……?」
「……いや、確か異性プレイヤーの場合
は確か自動では発動しないはずだが……。」
「5……4……3……2……1……」
カウントが0になると同時に放たれたのは“ユキナ”の犯罪コードだった。
……つまりはソードスキル、インパクト・ストライクである。
その一撃を俺はギリギリでかわしたが、もしかわさなければ頭に風穴が空いていただろう……。
俺は慌ててリズベットを下ろすとユキナも槍を下ろした。
「ぷっ……く、く、く……あははははははは!なに、アンタその子の尻に敷かれてるんじゃない!おなか痛い~~。」
「そ、そんなんじゃありません!違いますからね!?」
……2人のやりとりを見ているとどうでも良くなるな。……まぁ先程からリズベットに踏まれている男は気の毒だが。
「なぁおい、そろそろ退いてくんねぇか?寝る時間だけどよ、地面にゃ寝たくねぇぞ。おりゃあ。」
「あ、あ、アンタ!なに乙女の足元に寝っ転がってんのよ!!」
退きながらもソードスキルで攻撃を仕掛けるか……あの男がかわさなければオレンジ確定だな。
……いや、それよりも理不尽な……。
「お、お、おめぇそれが助けて貰ってとる態度か!?シャレんなってねぇぞ!?」
「う、う、う、うるさーい!!大体助けるのが遅いわよ!!死ぬかと……死ぬかと思ったじゃない……。」
そう言いながらその場にへたり込んだリズベットをユキナがそっと抱き締める。まぁ無理もあるまい。昨日までは命の危険など感じてなかったのだろう。
「あ~~……えっと……なんだ、その……すまなかった。俺がもっと気を配ってりゃ……」
「……慰めなんて……ヒック……要らないわよ……ヒック、グス……。」
「……いや、全ては俺のせいだろう。俺は最初からいたんだ。しっかりレクチャーしてりゃこんなことにはならなかったんだ。……それに悪いな。アオシ。アルゴから聞いたのか?」
「あぁ……。アルゴからの依頼でな、危険と判断したら手を貸してやってほしいと。」
事情を説明し、3人を護衛しながら街へと戻る。
道中出て来た蛇のモンスターは手早く片付けたが1つ問題が出来た。
蛇を見た途端にリズベットは固まり動けなくなってしまうようになってしまったのだ。
無理はない。無理はないが……この症状は不味いな。
やがて街に着き、圏内に入ったことを記すウィンドウが表示されるとまたもやリズベットはその場にへたりこんでしまった。……安心して腰が抜けたのだろう。
リズベットにはユキナが肩を貸し、とりあえずは宿屋へと連れて行かせた。
残った俺達3人はある人物を呼び出す。
「いや~皆無事で良かったよネ。素材も手に入ってバンバンザイ。………………………なんだヨ、しかたないだロ!?リッちゃんがそこまでの状態になるなんて予想外だもン!オレっちの予想じゃせいぜい危険域にHPが行くくらいで済むって思ったんだヨ!万が一のためにアー坊も助っ人に行かせたロ!?」
「……そんな事はいい。俺が聞きたいのは今のリズベットの症状を緩和できるかどうかだ。」
アルゴはうねり声を出しながら考える。とはいえ恐らくは……。
「無理、だろうナ。俺っちの知る限りではカウンセリングができるプレイヤーには心当たりはないヨ。医療系と呼べるのは調合師が1人居るくらいかナ。」
「蛇だけならまだ良いけどよ、mob全てにあの調子になっちまったらよ、もう……。」
そう、そこが最大の分岐点だ。万が一全てのモンスターに対してパニック症状を起こすようなら最早圏内からは出られない。その上……
「圏内がいつまでも圏内であってくれるか……だな。俺ぁ正直茅場の野郎の話を聞いて攻略を目指すまでに考えたのはそこだ。いつかは圏内が圏内じゃなくなるんじゃねぇかってよ。」
そう。それこそが最大の問題だ。奴も恐らくは攻略をしている間は圏内を作るだろう。しかし……。
「……私が居ないところで好き勝手言ってんじゃないわよ!いつ私が戦えないなんて言ったって言うの!?」
そこには凛とした佇まいで仁王立ちしているリズベットの姿があった。
手には鎚を持ち、つかつかとこちらに……いや、正確にはクラインの元へと歩いてくる。
「素材を渡しなさい!……アンタ達には助けられたのは事実、だからこの私が今もてる力の全てを使って最高の武器を作って上げるわ。……見てなさい!!」
彼女はそう言い放つとクラインやエギル、そして俺から先程出た素材を奪い取るように持ち去り借り物の工房へと入る。
俺達もその工房に入るなり、リズベットの仕事振りに見惚れた。
彼女の仕事はシステム上の動きではない。そう、遠い過去、見てきた刀匠達と何ら変わらない気合い……いや、魂が込められているのを感じる。
やがて使用した素材が光り輝き一振りの斧が産まれた。
竜骨の斧。
それを受け取ったエギルは斧に見とれている。……無理もない。刀ではないがその刃は美しく、無骨ながらも龍の紋様がついたフォルムもまたセンスがよい。
続いてリズベットは他の素材を打ち込んでいく。真剣に打ち込まれた鎚の音が60……竜骨の斧と同じ回数響いて形をなす。
現れたのは一振りの刀、それも刀身の長さからして太刀だろう。
それを受け取ったクラインは試しにとでも言うかの如く素振りをする。風を鋭く斬る音が響き渡り、その鋭さを知らしめた。
固有名
雪代の太刀
刀身に描かれているのは雪の紋様とかんざしだ。美しい直刃にまるで凍っているかのような美しさを見せている。
「アンタ達は?武器の種類を教えて。」
リズベットはこちらを見据えて問いかけている。俺はユキナの方を見るとお互いに頷きあった。
「私はこの“セッカロウ”シリーズを使っています。だからこの槍を一緒に鍛えてください。」
ユキナはそう言い、セッカロウをリズベットに手渡す。……シリーズ物であるが故上位に鍛え直すには今まで使ってきた愛槍を基材に使用しなければならないのだ。
リズベットはユキナからセッカロウを受け取ると素材を使用して鍛えていく。
赤く染まった素材にリズベットの魂が込められていく。
やがてその形を槍の形へと変え、打ち直し前とさほど変わらぬ姿へと変わった。
固有名
“雪霞狼”
以前のセッカロウに比べ、刃こそ一回り小さくなったように見えるが、その刃は鋭さを増し、また切断力も上がっているようだ。
「……小太刀は作れるか?こういった刀だが……。」
俺はクイックチェンジで今まで装備していた曲刀を小太刀へと持ち替えた。
それを彼女に渡すと基材にはしないように頼みこむ。
彼女は怪訝な表情をするも再度鎚を振るい、竜骨の斧と変わらぬランクの小太刀が生み出された。
固有名
“地龍”
鋭さもさることながら、ずしりとした重さはその強度を伺わせる。
「……いい刀だ。ありがたく頂戴しよう。御代はいくらだ?」
「この武器達の御代は要らないわ。……その代わりにあなた達には私のお得意様になって貰う。……それでどう?」
俺達は異存なくその案を呑んだ。
その後、リズベットを含めたアルゴの率いるパーティに、戦闘指南をはじめとする今後必要であろう事を行った。
幸いリズベットのパニックは蛇型のモンスターのみだったこともあり、問題はさほど起きず、問題無く攻略は進んでいった。
俺とユキナは自分達の翡翠の秘鍵を攻略しながら時々アルゴの依頼で彼等の手助けを行いながら着々と上層に向けて進んでいく。
第六層ボス攻略戦では死者は0に、続く第七層攻略戦もまた死者は0だった。
PoHの動きはここにきてピタリと途絶え、不安は募るものの攻略組内にも不穏な動きは全くない。
唯一の懸念はアルゴの調査でデュエルでの死者の数が徐々に増えてきている事だが奴らの目撃情報も死者が集中している層もない以上は動きようもないだろう。
続く第八層ではクライン率いるギルド、風林火山が攻略手伝いで最前線で動くようにはなったが、話を聞くとどうやらアルゴ達とのレベリングは翡翠の秘鍵に関してのみ一緒に行っているらしい。
八層では数多くのクエストを行ったがボス情報は全く得られず、偵察戦を始めて行うことになった。
選ばれたメンバーは大ギルドとなったドラゴン・ナイツ・ブリゲード、アインクラッド解放隊を除く、ソロや俺達小ギルドが行うことになった。
偵察戦で指揮をとったのはキリト……ではなく意外にもアスナだった。
キリトや俺からも助言は出したが彼女の手腕は見事なもので偵察で終えるはずのたった20人程の人数で討伐まで果たしてしまった。
これにはリンド、キバオウも噛みついてきたが、死者0、危険域に落ちたプレイヤーも居ないとあっては強くは言えず、多少の苦言をしただけで話は終わった。
パーティはキリト、アスナ、それにエギルのパーティと風林火山、そして御庭番衆だ。計20人という最低人数での攻略だったがボスは動きの遅いナメクジ型だった事が幸いしたのだ。
そして第9層、そこで俺達は色々な変化を受け入れざる負えないことになったのだった……。
一気に三層進ませていただきました。この後は予定では9層、10層、20層、25層、原作内でのお話~
になっていく予定です。もし何か書いてほしい層があれば感想等でお聞かせください。短編的な1話構成で作れそうなら作ってみます。
今後もよろしくお願いします。