※10月2日修正済み
第五層に到着し、主従区に着いた時だ。俺達を待つ仲間が居た。イスケだ。
何でも今日の昼過ぎに第三層に高経験値モンスターがリポップするらしい。
相当効率のよいモンスターで名前はメタリックアメーバ。
過去二度の討伐では攻略組に入れない程度のレベルの者が倒しただけで3以上レベルを上げたという噂もあるらしい。
何でも参加人数による増減はないらしいので隣にいるキリト、アスナにも声をかける。
「これより我ら御庭番衆はメタリックアメーバ討伐に行く。おまえ達はどうする?」
「俺達も一緒に行っていいのか?」
「かまわん。人数によるデメリットは無いらしいのでな。」
「それならご一緒させてもらうわ。」
話が決まった所で俺達は第三層へと転移した。
第三層の奥地にある広場、そこがメタリックアメーバのリポップ地点だ。
時間まで皆は雑談している。特にナーザやユキナはキリト、アスナと話したかったようで嬉々として話しているようだ。
「キリトさん、アスナさん、あの時は本当にお世話になりました。……なかなかゆっくりお話しもできなくて……実は今、アオシさんに遠近感の誤差を身体で覚えられるように特訓してもらってるんです!僕の場合の遠近感の問題は普通の人が片目を閉じてるのとあまり変わらないらしくて……。」
「結構成果出てますよね。まだ実践だと多少の誤差が出そうでしたけど当てると避けるはだいぶ普通になってきましたし。」
「へぇ……大したもんだな。つかめない間合いをよく……。」
「前に一度片目を隠した状態で戦っていたのあれネズハさんよね?やっぱりあの時も訓練していたの?」
「あの時は僕もどうすればいいかわからなかったんですけど諦めたくなかったですから……。まぁ今してる訓練の内容とは全然違いますから結局見当はずれだったんですけどね。」
4人が話しているのは遠近感の無いナーザの最近の訓練の話や槍術の話のようだ。遠近感の克服の方は確かに俺が教えている。昔、般若という拳法家を育て上げた時と同じ方法をナーザにやらせることで徐々に距離の感覚を身体に覚え込ませていのだ。般若という男は変装のために瞼を切り落とし、その際に片目を誤って傷つけ失明した。ナーザは両目が有るにも関わらず、般若と同じ状態になった事でチャクラム以外は使えなくなったが訓練を積み、ようやく数センチの誤差で済むようになった。その後は誤差修正の修練の他に、本人の希望の槍をユキナに習っているのだ。
意外にも彼女の槍術はゲーム内の技ではなく現実に存在する古流槍術らしい。
流石にそれ以上はマナー違反になるだろうと聞かなかったがリアルでも相当の使い手なのだろう。
やがて広場の中央にリポップしたメタリックアメーバを全員で取り囲み攻撃をし続ける。情報通り攻撃力は低く、HPが赤になった瞬間から逃げようとしかしなくなり、楽に討伐出来た。
メタリックアメーバを討伐した俺達は莫大な経験値にレアドロップ品を手に入れる事に成功する。
レアドロップ品“メタリック鉱石”
効果の程は使ってみなければ分からないがかなりの武具になるのだろう。
キリト、アスナと第五層主従区で別れるとイスケもまた第三層に向かった。
どうやら今は情報屋アルゴを観察し、情報収集のコツを学ぼうとしているらしい。
三人と別れ、7人になった俺達だったがナーザ達、元レジェンドブレイブス組もまたここ五層でやりたいことがあるらしい。
何でもこの層にある大型ダンジョンで行うクエスト報酬にどうしても欲しい盾が有るそうだ。
こうして一気に人数が減った俺達3人は予定していた翡翠の秘鍵クエストへと移る。
先ずはティルネルと合流しなければ……。
クエストログを開きティルネルの現在地へと向かう。
途中、何度か敵とエンカウントするもメタリックアメーバを討伐した事でレベルを3上げ、それぞれ俺が25、コタローが23、ユキナが22と安全マージンをかなりオーバーしている為、問題なく対応しているがその代わり、この層でもほとんど経験値が入らなくなる状態になり、レベル上げは出来なさそうだ。
やがて第五層の北部の崖の一角にたどり着いた。
ティルネルが居るのはどうやらこの場所のようだが……明らかに周りにいるのが黒エルフではなく森エルフのようだ。
もう少し近付くとクエストログが更新する。
《捕らわれた黒エルフを救出せよ!》
厄介な護衛系のクエストだ。
敵の総数はざっと見て20体、対してこちらは3人で、更には恐らくすぐ死んでしまうHP設定の黒エルフが3人だ。
……恐らくは前回の層のクリア人数がそのまま引き継がれた難易度なのだろう。
この任務を完遂する方法は現状3つ
・正面突破
・様子見
・陽動
だろう。正面突破は出来るだろうが確実に黒エルフが1人はやられると思う。
ミッション条件によっては失敗。最悪、ここで翡翠の秘鍵クエストが終了してしまう。
様子見は場合によっては一日掛かりになる。安全にクリアは出来るだろうが余りに非効率だ。
となると陽動が一番現実的だろう。
俺が陽動し、その間にユキナ、コタローに救出してもらおう。
「……俺が陽動をかけよう。その隙にお前達は黒エルフを救出するのだ。良いな?」
「任務、確かに承ったでゴザる。拙者の身命を賭して完遂してみせるでゴザるよ!」
「待ってください。それなら救出には2人も要らないはずです。陽動で集めるなら救出はコタローさん1人でも充分じゃないですか?逆に陽動が1人の方が危険です。」
「……俺の事は気にするな。どうとでもなる。」
「承服出来ません。私も陽動として連れて行ってください。アオシさんは確かに強いですけど攻撃力は足りてないはずでしょう?」
俺は少しだけ悩む。
最悪奥の手をさらせば問題はないが……。まぁもし使わなくてはいけなくなってもこの少女は周りに言い触らす事はするまい。
「……良いだろう。だが足手纏いにはなるな。陽動である以上、ある程度敵を牢から引き離すまでは圧されているフリをするのだぞ。」
ユキナが頷くのを確認するとコタローを牢の側にある西へ、俺達は逆の東へと向かい作戦を決行した。
先ずはユキナのソードスキルで最も派手で威力の高い“エクスプロージョン・ストライク”を壁に放つ。このゲーム内では珍しいスキルで、セッカロウの固有スキル、ストライク系の中でも特殊な技だ。
セッカロウ内に仕込める爆薬を槍の一撃で着火し、小規模の爆発を前方に放つ技だ。この技はストライク系にしては珍しい硬直時間の短い、高威力、広範囲の単発型だが二回しか火薬が保たず、その上火薬の補充はNPC、もしくはプレイヤー鍛冶師にメンテナンスをしてもらわなければならない面倒な制限がある。
爆音を聞きつけ集まってきた森エルフは10名。ここで一度苦戦させなければ増援はしてはくれまい。
ユキナに目で合図すると理解したらしく、彼女は最も近くにいた森エルフへソードスキル、ストライク・インパクトを放つ。
高威力ソードスキルは森エルフを一撃で倒し、ポリゴン片へと変わる。
それを皮切りに森エルフ達は総攻撃を仕掛けてきた。
流石に喰らえばHPは減るので防御、回避に重点を置き、敵を少しずつ減らしていく。
やがて指揮官のような森エルフは更に増援を呼び追加で8名程が現れる。
恐らくはほぼ全ての敵が集まったはずだ。俺は再度ユキナに目線を送るとまたもや分かったようでいきなり苦しそうな顔をしながらジリジリと下がり始める。
「後は任せたぞ。コタロー……。」
西側で様子を見ていた拙者はようやく牢周辺の森エルフ達がお頭達の方へ向かうのを確認した。
「今こそ好機、この任務、しくじるわけにはいかんでゴザる。」
拙者は上から見て決めていた最短のルートを、隠蔽スキルを使用しながら駆け抜ける。数値の九割を敏捷に振ったコタローは一陣の風の如く残る門番の独りを軽く斬りつけ、もう1人の首ソードスキルを使ってかっ斬った。
クリティカル補正が掛かり、一気に九割のHPを削ると振り向きざまにもう1人にも短剣ソードスキルを心臓に打ち込む。
第三層でお頭より承ったポイズンダガー+15は鋭さと正確さ、そして特殊強化項目の毒をそれぞれ均等に上げる事で毒耐性持ちmob以外にはほぼ確実にレベル3の毒を与える事が出来る。また運が良ければレベル5の毒も発生する効果を持っているのだ。
そしてその毒は最初の継続ダメージを与え2人の森エルフをポリゴン片へと変えた。
「さぁもう大丈夫でゴザる。拙者が誘導するから着いてくるでゴザるよ!」
森エルフ達は最初は動こうともしなかったが、ティルネルが第四層でコタローを味方と認識してくれていたお陰で誘導に着いてきてくれた。
4人は最初侵入した経路を戻っていったが途中で一体の森エルフに遭遇してしまった。
《ロイヤルコマンドー・フォレストエルブン》
恐らくはこのクエストをクリアする事で湧出する中ボスなのだろう。
コタローは即座に司令官森エルフへ最短でのソードスキルを発動させる。
しかし、そのソードスキルは司令官森エルフの首筋をかするだけでかわされ、反撃の巨大斧がコタローの身体を襲う。
コタローは未だにライトエフェクトが消えていない短剣の照準を巨大斧へと切り替え、残る二発を当てて巨大斧の一撃を相殺する。
できる限り手早く倒さなければせっかくの陽動作戦が水の泡になってしまう。
コタローは再度短剣を握りしめその高い敏捷力を生かして攻撃を始めた。
「ユキナ、そろそろ良いだろう。出来うる限り敵を倒し、コタローと合流するぞ。」
「了解です。……アオシさん、今日はこの後は一度補給に戻りますよね?」
「む?……そのつもりだ。」
「分かりました!」
ユキナはそういうとソードスキル、エクスプロージョン・ストライクを発動させ、一気に五体の森エルフを倒し、更にストライク・バーストで2体の森エルフを倒す。
本来ストライク・バーストは硬直時間が長いため使わないが、恐らくは敵の森エルフの攻撃力、移動速度の遅さを見て発動させても問題ないと判断したのだろう。
事実、残る森エルフの数は当初の半分まで減った。リポップは少なくともすぐにはしないだろうからこのまま殲滅出来るかもしれない。
そう考えていた時、急に隣にいるユキナがその場に崩れ落ちる。
ユキナをみると俺からは死角になっていた肩に弓矢が刺さっていた。
更に麻痺のアイコン。まるでそれを合図にしたかのように残る森エルフはユキナに向かって駆け出し始める。
自分の見込みの甘さに反吐がでる。
「……調子に乗るな……。」
俺の中で何かがカチリと音を立ててはまるのがわかった。
即座に最もそばにいた森エルフへと曲刀を突き刺す。その敵が爆散するのを見届けるよりも早く、次の敵を一瞬のうちに二回剣を振るってHPを消し飛ばし、続く2人は黒いライトエフェクトを纏った四連撃、回転剣舞・剛で爆散させた。
更に腰から小さな投げナイフを5本取り出し、即座にそれを投剣スキルを使用してユキナに矢を射った森エルフへ投げきる。5本のナイフは心臓、喉、頭、両目に正確に刺さりHPを全て吹き飛ばした。
残るは4体、先ずは一番そばでこちらに武器を向けているエルフからその武器を捻り取り、またもや黒いライトエフェクトを纏わせた技、御庭番式小太刀二刀流《陰陽交叉》を放ち4つに分断する。
更に敵エルフから奪った剣と投げナイフを全く同じ軌道で投げる。敵エルフは剣は弾けたが同じ軌道で時間差に襲い来る投げナイフに対処できずにナイフが突き刺さった。
怯んだそのエルフを再度黒いライトエフェクトを纏うアオシの曲刀が襲う。
二筋の黒き光がエルフの喉と心臓を穿ち、敵エルフ中央に居たエルフを倒しきる。
残る2体は同時に剣を振りかぶり、同時に爆散した。
新御庭番式小太刀一刀流《回転剣舞・円》
本来前方に放つ斬撃を全方位に4斬放つ技だ。
結果アオシは9体残っていた森エルフを15秒程で倒しきった。25にレベルがあがり、生前と同じスペックの肉体を手に入れた事でその高い戦闘能力をきっちり発揮したのだ。
(……とはいえこの世界にいる者は皆これだけの身体能力を扱うわけだ。PoH……奴もまたこの身体が持つ力を使いこなし始めたら……)
俺は曲刀を納刀し、ユキナの元へ向かう。身体を支え、上半身を起こすとベルトポーチに入れた解毒ポーションを飲ませる。
「これであと少しで動けるようになるだろう。すまないがコタローの様子が気になるのでな。回復するまでは我慢してくれ。」
俺はそういうとユキナを担ぎ上げ、西に一気に駆け出した。
「……アオシさん、さっきのソードスキル何なんですか?β時代にも“黒い”ライトエフェクトなんて聞いたことないですけど……。」
「後々説明しよう。今はコタローの様子を確認する方が先決だ。」
俺達はそのまま街を駆け抜け数分で牢まで辿り着いた。
牢の中には人っ子1人いない。コタローは上手くやったんだなと考えたが即座に違和感に気づいた。
コタローが救出を始めたであろう時間から逆算すると、既に10分程の時間はたっているはずだ。
しかし取り決めの狼煙は上がっていない……。
「ユキナ、もう麻痺は抜けただろう?様子が変だ。二手に分かれてコタローを探すぞ。」
ユキナは急に顔色を真っ赤に染め、飛び降りるように俺の背から降りた。
「わ、わかりました。では私はこちらを探してきます。見付かったら狼煙を上げますので!ではまた後で!」
早口でまくし立てたユキナはすぐに駆け出した。
「ふむ……。また何かやってしまったか。」
俺もまた、ユキナとは逆方向へ向かい足を進めていった。
「わ、私、な、な、なにをしていたんだろう……。麻痺なんてとっくに解けてたのに……うぅ……。」
私はアオシさんの姿が見えなくなった所で立ち止まり考える。
元々アオシさんに保護してもらう名目で入れてもらったギルドなのに最近随分と依存してきている気がする……。
さっきの戦闘中だってアオシさんがフォローしてくれるのを前提に戦っていたし……。
気を引き締めよう。今まで一人で生きてきたんだ。仲間に依存してないと生きられないんじゃいつか死んでしまう。
私は……絶対に生き残って現実に帰るんだ!
そう考えていた時だった。
ユキナの聴覚に戦闘音が聞こえてくる。ユキナは急いでその音がする方へと駆け出し、音の鳴り響く場所へと辿り着いた。
その場所で彼女が見たのは、凄まじい破壊を生み出す巨大斧を振り回す森エルフと、それを防いで吹き飛ばされる仲間の姿だった。
「コタローさん!!」
私は吹き飛ばされてきたコタローさんと敵の森エルフの間に位置どって対峙する。
敵との戦闘距離に入った事で、敵エルフの残りHPが表示される。
既に黄色になり、危険域に近づいているようだ。
「コタローさん、後は私が請け負います!今のうちに回復をしてください!」
そう言いながら私はセッカロウを握りしめ、敵エルフへと突進する。
……今は誰のフォローもないんだ!……コレくらいの敵、私1人で倒してみせる!
敵エルフへと突き刺さるセッカロウは確かな手応えで敵のHPを削る。
「ダメでゴザる!ユキナ殿!横に跳べーーー!!!」
コタローさんの叫び声と森エルフの巨大斧の一撃はほぼ同時だった。
かわせない……
そう思い、強く瞼を閉じた。……しかしいつまで待っても衝撃は来ない。
私は恐る恐る瞼を開くと、私の眼前に広がった光景は私の保護を請け負い、さっきも助けてくれた人が黒いロングコートをたなびかせ、巨大斧の一撃を捌いている所だった。
「無事か?……さっさとこいつを倒すぞ。俺の後に続け。」
彼は振り向かない。目線も向けてはいない。でも……私に続けと言ってくれている。
私は先程胸の中にくすぶった悩みを忘れ、セッカロウを引き抜くと先に斬撃を撃ち込んだアオシさんに続く。
ソードスキル“スター・ストライク”
最も早く、もっとも美しいセッカロウ固有のソードスキルだ。
純白のライトエフェクトを纏った槍は敵エルフの腕を穿ち、その腕ごと巨大斧を叩き壊す。
両手を失った敵エルフのHPはほんのわずかに残ってしまった。
「いまです!コタローさん!」
掛け声が早かったか、コタローのソードスキルが早かったか……トドメを敵エルフの心臓へと深々と突き刺したコタローは爆散したエルフのポリゴン片の中心に短剣を構えたまま立っていた。
俺達3人は黒エルフ達を連れ、ティルネルの案内でここ第五層にある黒エルフの野営地へと足を踏み入れた。
「危ないところをありがとうございました。もう少しで私達はフォールンの生贄にされてしまうところだったから……。」
「いえ!ティルネルさんが無事で良かったです。でも……フォールンの生贄って?」
「彼等は私達の新鮮な骸をフォールンに差し出すことで明日始まる大規模な戦闘時に全フォールンを私達黒エルフにぶつける気だったのです。でもそれも……コタローさん達のおかげで防ぐことが出来ました。本当にありがとうございました。」
ティルネルはコタローへと向き直し、コタローの手を握りながら頭を下げる。
急に手を握られたコタローの様子は……
「べ、別に拙者1人で助けた訳じゃ、な、ないでゴザるよ!?そ、それに拙者まだ修行中の身故、おなごに現を抜かしてる暇はないんでゴザるぅ!?」
……語尾の発音がおかしいぞ……。当のティルネルはティルネルで発音やどもりのせいか首を傾げているようだ。
「ティルネル、すまぬがこの野営地には宿は有るか?出来れば休ませてもらいたいのだが……。」
「すいません。ここは狭いもので宿屋や鍛冶屋とかは居ないんですよ。もしよければ最寄りの町までお贈りいたしますよ。」
「すまぬな。次の依頼を受け次第頼む。」
「依頼ですか?後お願いできることは有りませんよ?まさか森エルフとの全面戦争に巻き込むわけにはいきませんし……。」
彼女は少し寂しげで悲しそうな表情になるとそう呟いた。
「なにいってるんですか!?ここまで一緒に戦ってくれたティルネルを放っておける訳ないじゃないですか!!いつ、戦闘は開始するんですか!?私達も戦いますよ!!」
「で、でも……これは黒エルフの戦争ですから……。」
「ティルネル殿、それは違うでゴザる。拙者達の戦争でゴザろう。」
ティルネルはコタローのセリフを聞いた瞬間にその瞳から透明な雫を零した。それはまるで人間のようでとてもNPCとは思えないほどにリアルな感情表現だった。
「わ、私……もう皆さんに会えないって……だから、だから最後は笑って別れようって……そう思っていたのに……なのに……。」
「お前は死なん。我らと共に戦うのだ。例え万の大軍が攻めようと我らの総力をもって護り抜いて見せよう。」
「さぁ、ティルネル殿、教えて欲しいでゴザる。いつ、戦は始まるのでゴザるか?」
やがて泣き止んだティルネルは静かに明日の昼、第五層にいる黒エルフが総力を持って森エルフの最高指揮官が訪れている砦を責めるという事を教えてくれた。
俺達は明日の昼、作戦開始前に合流する事を約束して五層主従区エルヴンへと送ってもらい別れた。
そしてその夜、メンバー全員が集まる宿屋で明日の大規模集団戦についての割り振りを行う。
基本的に勝利条件は恐らくは敵司令官の撃破で敗北条件(クエスト失敗)はティルネルの死亡だろう。
つまりは攻めと守りにそれぞれを分けねばなるまい。
メンバー達はその割り振りを俺に一任して……いや、1人だけはどうしても守りの部隊にして欲しいと強く希望していた。……コタローだ。
特に拒否する理由はないがコタローが守護部隊になるのであれば必然的にイスケもそちらに回した方がよいだろう。
結果、攻撃部隊には俺とユキナが。そして残るメンバーは全員が守護部隊となった。
このギルドは俺達2人とコタロー、イスケの4人がアタッカーの能力構成でナーザが主に支援系の能力構成、オルランド達は壁戦士なので仕方ないといえよう。
ちょうど役割が決まった所でキリトからメッセージが届いた。何でもキリト達も明日の総力戦に参加することになっているそうだ。
その時にキリト達と行動を供にする黒エルフも護衛して欲しいらしい。
キリト、アスナも勝利条件、敗北条件を俺と同じと予想したらしい。
了解した旨をメッセージで飛ばし、俺達はそれぞれの部屋へと戻る。
俺は日課のスキル熟練度上げをしようと皆が寝静まった頃を見計らい、部屋をでようとすると部屋のドアをノックされた。
「あの!……もう寝てしまいましたか?」
「ユキナか?どうかしたのか?」
俺はドアを開け、とりあえず部屋に招き入れた。
「その……昼間の事が気になって……。」
…………そういえばあのスキルを見られたのだったな。ふむ……まぁ隠すことでもあるまい。
「そうだったな。これがあのライトエフェクトの正体だ。」
俺はウィンドウを可視化し、スキル一覧を表示してユキナに見せた。
そこに表示されたスキルの中でユキナの目を引くものがあった。それは創始者の心得ともう一つ、《刀スキル》だ。
「アオシさん、このスキル……育てないんですか?」
「……?確かに熟練度は低いが多少は使っているだろう。」
「いえ……熟練度は0ですよ。確かに刀がまだ売られてない以上仕方ないのかもですけど……」
刀だと……?俺は立ち上がりユキナの隣に行き、自分のスキル一覧を見る。
そこには確かに《刀スキル》が追加されていた。
今朝確認したときは確かに無かったのだが……。
俺はそう考え一つの可能性に気付いた。メタリックアメーバだ。ひょっとしたら奴に曲刀で攻撃することこそが出現条件だったのではないだろうか……。
「それに……この《創始者の心得》というのは見覚えも聞き覚えもないですね。これが黒いライトエフェクトの正体なら何故隠しているんですか?」
「今、アルゴが出現条件を調査中なのだ。それが分かっていれば公開している。」
俺はユキナに更にこのスキルがソードスキルを使用しないで戦い続けることで出現するかも知れない事、更には使用するにはシステムアシストなしにソードスキル並みの速度と無理のない連携技術が必要な事を伝え、その上発動しても威力が底上げされるだけと言うことを伝えた。
「使い勝手は良くはないんですね。でも変わりに硬直時間はないって……なんていうか、実戦的な……ゲームらしくないスキルな気がします。」
「ふむ……確かに例え皆がこのスキルを手に入れたとしてもせいぜい2連続技が精々だろうな。」
「えぇ……正直私は今の身体能力ですら使い切れてはいないですから……。少なくとも連続した動きでは身体能力をフルには使いこなせません。」
「単純に走るだけならば誰もが出来てもそこに精密な動作を加えて細かな動きを行うには慣れが必要だ。現実で武術を拾得している者でもこのレベルになった身体能力を扱える者はさほど居まい。」
そう、事実俺とてここから先は皆と変わらずに慣らす必要が有るだろう。
現状であれば、例えキリトやアスナといえどもスキルを使用した俺には勝てまい。
だがそれもあくまでも現状だ。事実、キリト、アスナ、ユキナ等は全開での身体能力が使えなくても90%を超えるところまでは使えているだろう。
時間を置けば恐らくは何人ものプレイヤーがその領域まで行くことが出来るようになる。そう……恐らく奴もその資質が有る。……PoHの奴も。
逆に今は俺は100%の状態で戦える。恐らくは後5~10レベルまでは100%近くを引き出せるだろうがその先は確実に他のプレイヤー同様100%の力は発揮できなくなる。
俺が自ら実感している身体能力の上昇具合を見る限り、レベルからの補正が30以上になれば確実に現実では有り得ない……恐らくはあの、雪代縁の狂径脈を上回る速度を手にすることになるだろう。
出来うる限り早く奴らを討伐せねば……。
「あの……アオシさん、先程お出かけしようとしていましたけど……どちらに?」
「スキル熟練度を上げに少しな。……着いてくるか?」
「はい!」
俺は考えることを止め、ユキナと共に深夜の熟練度上げに勤しんだ。ふだんよりは早めに切り上げ、明日、翡翠の秘鍵クエストに備え宿に戻る。
刀スキル……刀の方を手に入れ次第奴らを……。
そして夜は更けていく……。
第五層後1話ほどで進めるかと思います。
恋愛系は苦手ですね……。今後も微妙ながら恋愛要素は入れていきたいのでより良い物が書けるよう頑張ります。