今回と次話で少し時間軸がズレます。ご容赦ください。
※10月2日修正済み
クラインの苦悩
第五層到達から一週間の時間が経過した。
第四層が攻略されたことを聞いたプレイヤー達はまず喜んだ。だが続く第一層以来のボス戦での死者はその喜びを曇らせるには十分だった。
下層プレイヤーへの影響はまだ少ないが攻略組への影響は大きいようだ。
実際この一週間で迷宮区への到着とボス部屋の発見は済んでいる。にもかかわらず攻略戦は未だに行われていないらしい。
どうやら先ずは新規のメンバーや古参ながらレベルが安全マージンに届いていないプレイヤーのレベル上げをはかっているらしい。
同時刻、第三層にいる俺達はアルゴ主導の元、レベリングに勤しんでいた。
なんでもこの場で最も幼いプレイヤー、シリカのソードスキル縛りでのレベル上げが目的らしい。
最初のうちはさほど美味しくは無い依頼だったが他ならぬアルゴの依頼、かつ後半は充分俺達のレベル上げにもなる事もあり受けた依頼だ。
「なぁアルゴよぉ……せっかく三層にいるんだから森の秘鍵クエストやっちまった方が早くねぇか?」
「あのクエストは一応中ボス戦があるからナ、せめてシーちゃんのレベルが10に届いてからのが安全なんだヨ。」
「す、すいません……後2レベルなんで……クラインさん、本当にごめんなさい。」
「いや!そんな責めてるわけじゃねぇしシリカちゃんのレベル上げが目的なんだ。謝る必要はねぇって!」
「そうよねぇ。むしろアンタはこーんな可愛い美少女三人とパーティー組んでるんだから文句なんて有るわけ無いもんね~?」
「はぁ……お前さんもそうゆう性格じゃなけりゃ文句なしに美少女なんだがなぁ……」
「なに?文句でもあるわけ!?」
詰め寄るリズベットにタジタジしながら引き下がるクラインを見て全員が笑う。殺伐としたデスゲームの中で笑いがよくあるこのパーティにシリカは徐々にこのデスゲームに対する恐怖が薄れていっていた。
勿論攻略組どころか一番レベルの近いリズベットですら4も上で自分が一番死ぬ危険は高いのは事実だがアルゴの采配で一度もHPが危険域には落ちずにレベリングを行えていることも安心感の理由の1つだろう。
「そろそろ見えてくるゾ。バカ騒ぎはそろそろ止めロ。」
今回アルゴが勧めたmob討伐はメタリックアメーバの討伐だ。第三層最低の攻撃力に超大な防御力、そしてHPが危険域になると行う逃走のせいで通常mobの20倍は有る経験値ながらまだ討伐報告が三件しかないというレアmobだ。しかも本来レベル差の開きで手に入る経験値が決まるのだがこのmobは手に入る経験値が同レベルmobの20倍で固定と言う破格っぷりである。
パーティーメンバーでの自動均等割りではなく一度でも攻撃を加えれば手に入る経験値は一緒というのだから皆が狙うのもよくわかる。
「でもよぉ……こんな便利なレベリング法があるのに何でもっと大々的に狩らねぇんだ?」
「リポップに時間がかかりすぎるんだヨ。前回討伐した奴からちょうど一週間、オレっちは前回討伐した奴らとは顔見知りだからナ。情報通りなら今日のこの時間にリポップするはずなんだヨ。」
アルゴの宣言通り広場の中心でリポップの光が出るとアメーバ状の銀色の塊が現れた。
「一個だけ懸念が有って討伐される度に特殊攻撃が増えてるんダ。その分経験値も増えていっているようだけど特殊攻撃には気を付けてくレ!」
アルゴの一声を皮きりにギルド風林火山とシリカ、リズベット、アルゴの9人はメタリックアメーバを取り囲む。
現在メタリックアメーバは敵対を示していない。
アルゴが前回討伐者から得た情報ではこの状態では逃げないから今の内に逃げ道を塞ぐようにする必要があるらしいのだが……。
近付いてみるとデカい。アルゴから得た情報の三倍はある気がする。
「情報と違ウ!ボックスは穴ができるから穴を一カ所にしてそこを通さないように注意しろヨ!シーちゃん以外フルアタック!」
シリカを除く8人は自身の持つ最大威力のソードスキルを一斉に放った。
カラフルなライトエフェクトに包まれてメタリックアメーバは爆散……しなかった。
それどころかHPの削れ具合は一割に満たない。
「かってぇ~!!なんだこりゃあ!?」
攻撃している武器の方が折れそうなその堅さは武器を振る手の方が痺れるほどだ。
アメーバは攻撃を食らったことで敵として認識したらしくその身体をウネウネて動かしながら攻撃して来る。事前情報の通り攻撃力は大したことはないがポットローテできない以上出来るだけ手早く倒さねばマズい。
全員そう考えたようで硬直の解ける度にソードスキルを連発する。
その結果約10分後メタリックアメーバはそのHPを危険域の赤へと減らした。
「うし!後は逃げられねぇように……」
そう、本来ならば赤になったメタリックアメーバはとことん逃げようとする。つまり攻撃はしなくなるはずだ。
しかし再度情報外のことは起きた。アメーバはその形を人型に変えたのだ。
見た目はエルフ族のような姿に。体長が縮んだ代わりに盾と剣を持つ銀一色のmobはその剣にライトエフェクトを帯びさせ、クラインへとその剣を振り下ろした。
クラインを含め全メンバーが危険域手前の注意域だ。最悪直撃など食らえば全損もあり得る。
タイミング、速度的にかわせないクラインを凶刃が襲う刹那、短剣を持った小さな影が間に入り込みその凶刃をガードした。
威力に負け吹き飛ばされたそのプレイヤーに2人が駆け寄る。
「シーちゃん!大丈夫カ!?」
「これを飲みなさい!」
倒れたシリカを助け起こしたアルゴと即座にハイポーションを飲ませたリズベットである。
回復速度の速いハイポーションの効果で残り数ドットだったシリカのHPはじわじわと回復していく。
3人が戦線から離れるもどうやらメタリックアメーバは逃走する気は無いようで、残る6人のギルド風林火山に再度武器を向ける。今度は武器が刀へと変わっているようだ。
「ちくしょう!よくもやりやがったな!」
アメーバの刀が振られるより早く6人は刺突技系のソードスキルを同時に発動しアメーバを貫いた。
見るとクラインの曲刀はアメーバが変身した際に胸に現れた赤い玉を貫いている。
赤い玉がひび割れると同じくアメーバの身体もひび割れ、引き抜いた曲刀が赤い玉を粉々に粉砕した。
ひび割れたアメーバはその場でうずくまり爆散……いや、文字通り爆発した。
自爆したのだ。
至近距離にいたクラインたち風林火山の面々は吹き飛ばされて一気にHPが減っていく。
幸い誰も全損はしなかったがもしもクラインたち6人が防御姿勢をとらなかったら……。
やがて爆発の名残がきえると全員に報酬画面が現れる。経験値はなんとなんと破格の30倍へと増加し更にレアドロップ品まで全員に入っていた。
レア装備加工品“メタリックコーティング”
装備の重量を変えずに耐久値と鋭さ、防御力を各段に上げられる消耗品のようだ。使用回数も10とかなりのレアドロップ品だ。
「ん……このスキルは……?」
スキル一覧を見ていたらしいクラインと何名かの風林火山メンバーが同じように首を傾げている。
「刀スキルを手に入れたのカ?」
「な!?何でそれを!?」
「それも依頼の一つなんだよネ。この前に討伐したプレイヤーも刀スキルを手に入れててこのmobを曲刀で倒すと手にはいるんじゃないかっていう話が合ったんだヨ。」
そもそもこのレベル上げも刀スキルも同じ依頼主なんだけどネ。とアルゴは心の中で呟いた。
どうやら全員がレベルを2~3程上げたようでそのまま翡翠の秘鍵クエストへと取りかかる。
流石にいかに情報を網羅しているアルゴが居るとはいえ安全を最優先にしながら行った結果5日もの時間を要した。
またキリト、アスナから聞いていたエルフ生存ルートに入れなかったのも大きいだろう。
最初のイベント戦闘になるなりしっかりと倒すつもりで望んだのだが敵エルフの攻撃に対応しきれず、HPが赤になってしまったプレイヤーが1人居ただけでβ版と同じ流れになったのだ。
これに関しては仕方ないと言える。例え攻略組だったとしてもあの攻撃に対応出来るのはほんの一握りだろう。
「ところでよぅアルゴ、お前さんこの依頼が終わったら嬢ちゃん達をどうすんだ?いくらレベルが上がったっつっても攻略組に入れるようなレベルでもねぇしよ。」
「とりあえずリッちゃんは元々鍛冶屋が本業だからナ。鍛冶屋として前線に行くだろうサ。シーちゃんは……本人次第だナ。後2レベルで15とはいえ状況によっては20まで付き合うんだ。それまでには何かやりたいことも見つかるだロ?」
「俺達ゃこの依頼が終われば攻略に合流すっしなぁ……せめて信用置けてボス戦にシリカちゃんを出さないでも良いようなギルドがありゃ良いけどなぁ……。」
「そこについては心配要らないヨ。あては有るからナ。」
アルゴはそういうとすたすたと歩いていってしまった。
この層に来てからメタリックアメーバと翡翠の秘鍵クエスト以外の時間は本業が忙しいとあまり話す時間もなかったのだがそれもそのはずだ。
彼女は各層の攻略本に加え新聞を作っていたのだ。
記念すべき第一号である今回の新聞にはメタリックアメーバの能力と報酬が増加している件とエキストラスキルである刀持ちが4人現れたこと、そして何より大きい記事は攻略組第五層犠牲者0で突破とかかれていた。
今、クラインのギルドの平均は17だが攻略組……ボス攻略戦での平均は20だそうだ。
無論まだ10台のプレイヤーも居るだろうが経験が違う以上はまだ安全とは言えないだろう。
そして恐らくはシリカちゃんのレベル上げも15までは後一週間で終わるはずだ。つまり最短で一週間後にはギルド風林火山は最前線でボス攻略戦にこそ出れなくともマッピングなどをしながらレベル上げをしていけるだろう。そう……オレの友人、キリトの助けになってやれるはず……。
やがて夜も更けた頃、外から物音がした。
最初キリトと狩りをした際に探索は便利だと言われていたオレは探索をそこそこ上げている。
反応は3人。どうやら戦闘をしているようだ。
オレは物音をたてないよう気を配りながら反応の有る場所に移動し覗き見た。
そこにいたのは小振りな刀を持った長身の少年プレイヤーとかなり大きな刃がついた槍を持つ少女プレイヤー、そして片手直剣に盾を持ち鎖の着いた頭巾をかぶった恐らくは男のプレイヤーだ。
どうやらデュエルをしているようだ。会話は聞こえないが少女は槍を持って臨戦態勢のまま傍観している。
2人の戦いはオレからみると最早次元が違うとしか思えなかった。コイフをかぶったプレイヤーはまだ目で追える。恐らくは勝てないだろうがそう一方的にはならないと思う。
だが小振りの刀……恐らくは小太刀だろう……そちらの男には一撃も与えられるイメージが湧かない。彼は涼しい顔でコイフプレイヤーの攻撃を捌いている。
その上、裁きながらも体術スキルを使用して徐々にコイフプレイヤーのHPを削っているのだ。
2人は何かを話しているように見えるがなにも聞こえず何故デュエルしているのかも分からない。
やがてコイフプレイヤーのHPは約半分当たりまで減ったのが分かった。
2人の間にデュエルの決着ウィンドウが表示されている。
小太刀の男がコイフプレイヤーに何かを言い少女プレイヤーとその場から離れようとした所でそれは起きた。
コイフプレイヤーは投剣スキルを使い2人に小さなピックを刺したのだ。
当然コイフプレイヤーは犯罪者を示すオレンジ色にそのカーソルを染めた。
正直オレには理解ができない。百歩譲って隙が出来たから腹いせにPKをしようとしたならまだ理解も出来無くもないががそれはあくまでも普通のMMORPGならばだ。このデスゲームで行うはずはないしそもそもそんなピックでは大したダメも期待できないはず……。
そう考えていると突然少女が倒れた。HPバーの横には緑のアイコン、麻痺だ。
コイフプレイヤーは即座に動き2人に対して斬りかかる。コレは不味いと思った俺は即座に飛び出しコイフ野郎と2人の間に飛び込もうと全速力で駆け出した。
しかし途中でその足は止まる。コイフ野郎が少女を斬ろうとした瞬間、男の持つ小太刀に黒いライトエフェクトが発生し四本の交わる黒い光が男を斬り裂いたのだ。
吹っ飛んだコイフ野郎のHPバーはあっという間に減少しやがて0になった。
そしてコイフ野郎の身体はブレて小さな破砕音と共に砕け散る。
男は意にもせずに少女を抱え、こちらをちらりとみただけで闇へと消えていった。
「……何なんだよ……。」
そして俺はその場にただただ立ち尽くしていた。
アルゴ達MORE DEBAN組主体のお話は後二話程書いて一旦完結します。
勿論その後も出番や主体のお話は書くと思いますのでお付き合いいただければ幸いです。