大内家の野望   作:一ノ一

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その六十四

 晴持が宗運を義隆への使者に選んだのは、彼女が阿蘇家の重臣として外交の重きを成してきた実績があるというのが大きい。宗運の政治的な能力も、最後まで大内家との同盟を堅持しようとしていた姿勢も、すべて義隆には好意的に映るだろう。

 本来ならば、晴持自身が山口に向かうべきところであったし、晴持も山口が恋しくなってきた頃合ではあるが、府内を晴持が離れるというのは、それだけ大内家の関心が九国から離れたのだと諸将に印象付けてしまうことになる。

 晴持が九国に留まっている限り大内家は九国を見捨てていないという立場を内外に示し続けることができる。

 精神論は晴持の好むものではないが、危機的状況下にあっては馬鹿にできないのだ。

 かくして、宗運は供と共に一路山口に向かった。

 門司から海を渡る頃に空が灰色の雲に覆われ、白雪が舞い始めた。宿を借りて底冷えのする朝を迎え、薄らと道を染める雪を馬の蹄で汚しながら山口に入った。

 戦の強さは経済力の強さに繋がり、大名のお膝元となる街を活気付かせる。二〇〇年余り昔に京を模して造成されたという山口の街は、豊後府内以上の活気を以て宗運を出迎えた。

 戦場から最も遠いこの街は、大内領では最大の安全圏でもある。中国地方の雄の座を名実共に手に入れた大内家の本拠地として、西日本に於ける歴史と文化の集積地として、そして堺から博多へと至る海上交通の中継地点として、山口は今尚発展を続けているのだった。

 戦いと謀略の日々を送っていた宗運にとっては、この景色だけでも異世界に等しかった。

 戦が目の前に迫っていた九国にはない、緊張感の欠如。道を行き交う民の顔に不安はなく、日々を戦とは無縁で暮らしている。

 戦のない日常が行き着く先が、この景色なのだろうかと宗運は圧倒されつつも羨望の思いを抱いた。

 阿蘇家は終ぞこの景色には届かなかった。

 兵力、経済力、そして文化力。すべてに於いて大内家は阿蘇家の先を行っていた。

 出迎えたのは相良武任であった。九国の相良氏――――つまりは義陽とは同族に当たると伝わる義隆の側近である。

 迎賓館として扱われている築山館の門前で、下馬した宗運は一礼した。

「お初にお目にかかります。甲斐宗運と申します。晴持様より、義隆様へ書状を持って参りました。また、ご検討いただきたき儀がございまして、参上いたしました」

「ご丁寧にありがとうございます。部屋に案内いたしますので、どうぞこちらに」

 見るからに武任は文官という出で立ちだ。言葉数も少なく、必要最低限のことしか口にしない。

 普段からこうなのか、それとも公私混同を避ける性格なのか。表情に乏しい武任の人となりをこの僅かな交流で把握するのは難しそうだ。

 武任に通された部屋は、意外なほどに飾り気のない落ち着いた部屋だった。畳が敷き詰められた、僅か六畳ほどの小さな部屋で、床の間には唐物の壷が飾ってある。金銀の類が施された装飾はほとんどないと言ってもいい。掛け軸は見事な水墨画。どこの景色かは分からないが、力強さと儚さが共存した作風が落ち着いた部屋の雰囲気に溶け込んでいる。

「それ、気に入った?」

「ッ!?」

 水墨画に目を奪われていたからか、義隆に宗運は気付けなかった。

 すぐに宗運は非礼を詫びたが、義隆はからからと笑って上座に座った。互いに距離が近い。宗運が刀を抜けば、一瞬で首を刎ねられる距離である。もちろん、武具の類は一切持ち込んでいないが、不埒者であれば義隆の命はないだろうに。

「……いつも、このようなお部屋で会談を?」

 宗運はついついそんなことを尋ねてしまった。

 目の前にいるのは晴持の義姉。大内家の当主である。第一印象は、公家の姫。鎧姿が想像できない華奢な身体が、艶やかな着物の上からでも見て取れる。

「まさか」

 と、義隆は答える。

「あなたが晴持の祐筆だからよ。ここなら、目も耳も入り込む余地はないわ」

 絢爛豪華な広間もあるが、私的な会話ならばこうした小さな空間のほうが重苦しくないということもある。

 宗運が阿蘇家からの使者であれば、公的な空間で出迎えたであろうが、今は晴持の使者である。伝え聞く人となりからも、豪奢な場を用意するよりは、こうした質素な場のほうが気楽であろうとの配慮もあった。

 だが、最大の理由は晴持が宗運を寄越したという一点にあった。

 宗運のことは義隆もよく知っている。彼女が晴持に仕えるに至った経緯も余すことなく義隆の耳に入っている。

 わざわざ晴持が宗運を寄越したということは、書状や伝言だけではない何かがあるに違いないと察したからこそ、この場を用意したのだ。

「左様ですか」

「うん。それに、ここならわたしの首は取れない(・・・・・・・・・)。心配は無用」

 義隆の瞳に見据えられて、宗運はじわりと背筋に汗をかいた。

 何か備えがあるのか。まさか、義隆自身が宗運を組み伏せるだけの体術を習得しているはずもないだろうに。いずれにしても、宗運の心配は口に出さないうちに義隆に見抜かれていたようだ。

 緊張の糸を断ち切ったのは義隆が打ち合わせた手の平だった。

「じゃあ、単刀直入に、要件は何?」

「はい。それでは、まずはこちらを……」

 それまでとうって変わって気さくな表情を浮かべた義隆に困惑しつつ、宗運は晴持から預かった書状を義隆に手渡した。

 晴持らしい定型句と要件のみが記された遊び心のない直筆の書状である。

「なるほど、龍造寺がね」

「はい」

「ま、いいんじゃない」

「は……?」

 あっさりと義隆は龍造寺家の帰参を認めた。

 これには、宗運も開いた口が塞がらなかった。義隆にとって、龍造寺家は顔に泥を塗ってきた張本人であったはずだ。

「あの、よろしいのですか?」

「何が?」

「龍造寺といえば、義隆様にとっても因縁のある相手。だからこそ、晴持様はこのように事情を説明すべくわたしを派遣されたのですが」

「それは分かってる。平時ならば突っぱねるどころか、隆信を討ち取ったついでに肥前まで攻めさせたでしょうね」

 肥前国は九国でも肥沃な土地でもある。攻め取って損が出ることはない。しかしながら、今の状況下で新たな敵を作るのは愚の骨頂である。

「この戦にわたしたちが勝てば、龍造寺が以前の勢力を取り戻すことはできなくなる。敵にならないのなら、早いうちに取り込んでおいたほうがいいし、それに先ず隗より始めよ、とも言うでしょ」

「……遺恨のある龍造寺家にすら手を差し伸べるのだから、元からのお味方を見捨てるはずがないと?」

「加えて、うちの庇護を欲しがる連中が行動に移しやすくなるかなって。あっちがわたしたちを利用する気なら、こっちも利用してやるのよ」

 隆信を討ち取ったことで、義隆の気は晴れた。龍造寺家そのものに思うところは何もないし、わざわざ敵にする意味もない。使えるものは今のうちに使っておくべきであろう。宗運と義陽のような血と家を超越した信頼関係を築くほうがどうかしている。裏切ったのであれば、処断し、擦り寄ってきたのであれば利があるうちは手を差し伸べる。少なくとも、現状の龍造寺家は敵にはなり得ないし、戦わずして肥前国内に影響力を行使できるのであればそれに越したことはない。

「ただし、人質と平戸。これは、うちに差し出してもらう」

「承知しました。では、そのように」

 直茂ならば人質くらいは覚悟していただろうし、貿易重視の大内家が平戸に目を付けることも読めていただろう。これくらいならば、直茂も首を縦に振るはずだ。もっとも、平戸は長信派の手にはないのだが。あるいは、いざというときには平戸を回収するという名目で肥前国に兵を入れるのであろうか。

「晴持からは、それだけ?」

「いえ。どちらかというと、これが本題でして」

 もう一通の書状を宗運は義隆に渡した。

「これは?」

「晴持様からの献策になります。わたしや冷泉殿のご意見も含まれておりますが……」

 義隆はさっと書状を広げて視線を走らせた。すぐさま、義隆は書状を読み終えて呆れ顔を作った。

「献策というよりも、諫言に近いんじゃない?」

「決してそのようなものではありません。九国にて知ることのできる範囲での情報を掻き集めた上でのご意見でございます」

「なるほど。まあ、策というほどのものじゃないわね」

 宗運には返す言葉がない。義隆の言うことはすべて事実だったからだ。晴持が伝えてきたことを一言で言えば「考え方を変えろ」ということだった。

「銭に囚われすぎか」

「恐れながら、義隆様も尼子家も目先の利に釣られ過ぎているのではないかと」

「晴持が言っていたのね」

「はい」

 義隆は腕を組んだ。

 幾度も書状を読み返す。

「二兎を追う者は一兎をも得ず……これ、どこの言葉よ」

「南蛮の言葉だと仰っておりました」

「ふぅん、よく言ったものね。それに、言わんとすることも分かるわ。二兎は銀山と備後。両方を取ろうとしているわたしたちは行く行くはその両方を失うことになるってわけね。その上で――――」

 晴持の提言。それは、大森銀山の救援に向かった兵の半数を備後国に移動させるというものだった。

「兵が足りないのならば、今ある兵を運用するしかない。それは分かるけれど」

「銀山を失うのはあまりにも痛手」

「分かっているでしょ」

「承知しております。ですが李欲しさに、桃を倒しては元も子もありません。今の兵力で戦況を変えられぬ以上、兵を一点に集中して現状を打破するべきと存じます。そこで、大森銀山から兵の半数を備後に移し、以て備後の戦を終息させることで突破口とするのが晴持様のご意見です。銀山は失えない、備後も捨てられない、九国も守らねばならない。捨てる覚悟ができぬままに戦線が広がった結果が今の苦境」

 大森銀山は世界でも有数の銀の産地。これを開発し、莫大な銀の産出に成功したのは大内家が投資したからだ。

 言わずもがな大内家の本来の所領は石高としては低く、山地の多い土地柄農作には向かない。商業が命綱と言ってもいい土地で、銀山の有無は経済力に大きな影響を与える。

 備後国に出兵したのも、瀬戸内交通を守るという商業面の都合があってのことだ。九国の博多も同じだ。対南蛮、対明、対朝鮮の貿易に関わる博多を失うわけにはいかない。何にしても九国の安定は大内家にとって不可欠なのだ。

 義隆の中の優先順位は大森銀山が第一位。次いで備後国だ。だが、その順番はほぼ横並びと言ってよく、どちらも失いたくないというのが本音だった。

「銀山は捨てられない」

「義隆様。銀山を捨てる必要などありません。彼の地はもとより銀山防衛のために多くの砦が築かれた山間の地。山吹城単体でもまだまだ持ち堪えられるはずですし、大軍の運用が難しい土地でもありましょう。少勢でも守りに徹すれば、十分に銀山を守れます」

「それは確かに……」

「先ほど申しましたとおり、銀山という巨利に皆の目が曇っております。兵を退けば、尼子軍は嵩にかかって攻めてくるかもしれませんが、これを退け、銀山を守るくらいならば二〇〇〇〇も兵は不要です」

「敢て銀山の尼子を撃退まではしない。というよりも、尼子を銀山に釘付けにするという感じになるわね」

「左様です。尼子家が真に欲しているのは銀山です。その守りが手薄となれば、その隙を見逃すことはできないでしょう。そして、こちらは退いた兵を備後に討ち入らせ、瀬戸内を目指す尼子軍の背後を陥れます」

 そうすれば、神辺城を攻める尼子軍は本国との連絡を絶たれる。失敗しても、圧力をかけることができるようになる。

「備後に尼子の援軍が来る可能性も否定できませんが、そのときこそ決戦のときと」

「確実性はないけれど……要するに適材適所ね。もはや銀山には拘らず。むしろ、銀山を囮にしてしまうのか」

 長年大内家と尼子家の争奪の対象となってきた大森銀山。だからこそ、大内家は銀山を守るために大人数を動員したし、尼子家も銀山攻めに多数の兵を送り込んできた。

 銀山を失えば、大内家は面目を失う。銀山を奪えば尼子家は名声を得ることができる。銀という明確な利益以上の戦果が大森銀山にはある。

 それを、敢て投げ出す。

 大内家の象徴とも言うべき経済拠点に敵を招き入れるようなものである。

「死中に生を求むべし。故事に於いては私財を投じて兵を買いましたが、此度は銀山を以て勝機を買うのです」

 この策は時間との戦いだ。

 撤退した兵が備後国になだれ込むことを、どれだけ隠し通せるか。可能な限り尼子家の増援を遅らせて、備後国内での数的有利を作り出すことにかかっている。

「任せられるのは……重矩か」

 挙げた名は杉重矩(しげのり)

 豊前守護代として大友家や少弐家と対峙し、数々の戦場を生き抜いてきた猛者であると同時に大内家の家臣らしく教養人でもある。

「多少不安もあるけれど、確かにどこかの戦場で勝利するしかないものね」

 戦いは動かなければ始まらないし終わらない。大森銀山を守るだけならば、大軍を腐らせておく意味もないので、言われて見れば備後攻めに兵を割くのは道理でもあった。

 大森銀山に踊らされていたと、思わないでもない。

 今動員できる戦力と地形などを考慮して再配置する。大森銀山に残す部隊には勝てなくとも負けない戦を厳命し、真に勝利すべき備後国での戦に力を注ぐ。

 奏功するかはまったく分からない。不確定要素も大きい。しかし、確かに限られた人的資源を運用するには、こうでもしなければ状況は好転しない。

「杉重矩殿。晴持様も、此度の策を考えている時に名前を出しておられました。杉殿の教えが身に染みると」

「ああ。まあ、ね」

「その教えとはどのようなものか、お聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」

「んー、別に大したことじゃないけどね」 

 と、義隆は恥ずかしげに視線をそらした。

「重矩はわたしの守役でね。昔、同世代の子どもで集まって銭を玩具にしてたことがあったのよ」

「銭を玩具に?」

「そう。で、わたしも遊びたいって言ったら重矩が怒って、銭なんて穢れた物を主君が見てはいかんって言って、(こうがい)で銭を突き刺して捨てちゃったって話」

「は、はあ……それは、また何とも」

「まあ、それだけの話よ。あなたが持ってきた話の通りにするのなら、銭に囚われていたと言われても仕方がないんだけどね」

 重矩の発言は、極端な例ではある。

 商人を蔑視するのは、海を渡った明よりの思想であるが現実的ではない。重矩もそれを分かってはいたが、幼君を教育するためにそのような行動に出たのかもしれない。

「分かった。この話に賭ける価値はあると思うわ。今日はわざわざありがとう」

「わたしは晴持様からの書状を届けたまでですので」

 宗運は恐れ多いと慇懃に頭を下げる。

「宗運、あれ、あなたにあげるわ」

 そう言って義隆は掛け軸を指差した。

「あの掛け軸を、ですか?」

「ええ。さっき、見蕩れてたでしょ。それとも不満?」

「め、滅相もありません。良き掛け軸だと思いますが、わたしは義隆様からそのような褒美を賜るわけにはいきません」

「あら、そう?」

「はい。大内家に仕えて日が浅く、なんら功を立てておりません。何より、わたしは晴持様に仕える身ですので、お気持ちだけ頂戴いたしたく思います」

 宗運は義隆からすれば陪臣だ。主人のいないところで、そのさらに上の立場の者から褒美を貰うのは道理に反する。

 これは、何も筋道の問題だけではなく、家中の秩序と統治にも関わる問題なのだ。

 例えば、将軍が義隆を越えて大内家の家臣と繋がってしまったらどうだろうか。家中の和が大いに乱れることは容易に想像がつく。よって、ほぼすべての大名は将軍と家臣が直接繋がることを嫌い、禁令を発している。

 それと同じく義隆が陪臣に対して直接恩賞を与えるというのも、場合によっては家臣と陪臣の不仲に繋がりかねない。晴持なら万に一つもありえないと義隆は自信を持って言えるが、秩序の視点から言えば愚行であった。

「分かった。そうまで言うのなら、この話はなかったことにするわ。でもね、宗運。あなたに期待しているのは、晴持だけじゃないのよ」

「ありがたきお言葉です」

 宗運は嬉しそうに頬を緩めて再度、頭を下げた。

 

 

 

 宗運が退席した後で、義隆は武任と細かい話をつめていた。

 大森銀山の兵の一部を備後国に回すというのは、可能か不可能かで言えば可能だが、問題もある。

 例えば人選。大将は杉重矩としたが、その下に誰を就けるのかを考えなければならない。さらに、今は冬というのも問題だった。備後国への最短距離を進むのならば、山中を通って安芸国に出るのが手っ取り早い。しかし、真冬の山越えは危険を伴う。変わりやすい山の天候。寒さと雪が進路を阻むのだ。よって、退路は海沿いの平地を進むしかない。遠回りだが、やむを得ない。調整や季節の都合で、備後国に兵を送り込めるのは早くて一月後だろうか。ともかく、即座に行動しなければならないのは確かだ。

 万単位の軍の再編だ。義隆だけでは到底時間も手も足りない。大まかな枠組みを定めてから、武任ら文官に細部を詰めさせなければならない。

「戦局を覆す一手となるか否かは、まったくの不透明ですね。銀山をともすれば手放さなければならないという危険もあります」

 武任は渋い顔で呟く。

「兵が田んぼから生えてくれば、こんな手間はいらないんだけど、そうも言ってられないし。銀山を囮にするっていうの、考えてもみなかったわ」

「大内家にとって何よりも重要な資産です。危険に曝すという発想そのものが異質なのです。しかし、肉を斬らせて骨を断つというくらいの気概がなければ乗り越えられない戦局なのも、口惜しいことですが分からないでもないですね」

 武任は爪を噛んだ。

 財政にも関わる彼女にとっては、大森銀山の喪失によって被る害を思うと身震いしてしまうのだ。

「御屋形様、それで甲斐殿はどうでしたか?」

 と、敢て武任は話を変えた。

 一度、話題を変えることで頭を整理しようと思ったのである。

「話に聞いていた通り、有能そうな娘だったわ。あれを手放すなんて、阿蘇も乱心したもんだわ」

「それほどの御仁ですか」

「ええ。能力があって真面目で忠実、それに器量もいい。晴持の家臣じゃなかったら、さっそく閨に呼んでたのに。惜しい、いやほんと惜しい」

「どうかご自重を……」

「分かってるわよ」

 唇を尖らせる義隆に武任は深いため息をつく。義隆は別に性に奔放というわけではない。それならばどちらかといえば晴持のほうが色を好むようにも見える。が、時たま義隆は姫を閨に誘うことがあるのだ。当主という立場もあって、男と軽々しく関係を持つことができないので、姫武将に手を出しているのだ。

「ま、冗談はさておき。これから忙しくなるわよ」

「承知しております」

「じゃあ、三日で軍の再編案を提出するように」

「三日ですか」

「三日よ」

「……承知しました。すぐに取り掛かりますので、失礼します」

 義隆の難題に取り組むため、武任は大慌てで仕事に取り掛からなければならなかった。

 戦が始まって数ヶ月。義隆の座す館はずっと静かなままだった。戦場とは程遠く、飛び込んでくる情報を精査するばかりの日々。

 それが、ここに来て一転した。

 戦場もかくやとばかりに文官たちが駆け回り、書物や絵地図、名簿等々と睨み合う光景が誕生したのだった。

  

 


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