転生先生テリま   作:物書き初心者

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魔女狩り

 取り敢えず俺は彼女と交渉<契約>をする事に決めた。

 

 簡単に言えば交渉<契約>によって自分の意思で俺に縛り付けようと言う事である。

 

 まあ、失敗しても力ずくなんて方法もある。正直遊びな部分もある。

 

と、言う事で、再び情報収集を開始しよう。と、動こうとした時、さっきまで大絶叫していた観客が、潮が引くみたいに静かになった。

 

 何だと思い再び彼女に目を向けると、体型的に恐らく男だろう、それが四人ほど彼女に近づいて来ていた。

 

 四人とも全身白いローブ姿で身の丈ほどの木の杖を持っている。

 

 そして、彼女を囲い、まるで手負いの猛獣を相手取ってるかの用に睨み付けながら杖を握り締め、ゆっくりと周りに着いた。

 

 俺は大の大人が幼女に対して怯えてるってどう言う事だよ。と、思ったのだが、未だに緊張を解かない四人を見て、俺は何か見落としている事が在るのでは、と考え始めた。

 

 その時、彼女の斜め後ろにある教会の扉が盛大に開く。

 

 注目を集める為なのか勢い良く扉は壁にぶち当たり、かなり嫌な音が出ていたが……、いいのか聖職者、教会は神の家なんのだろうに……。

 

 そこから出てきたのは、痛々しくて直視出来ないような豪華絢爛な法衣を着た背の低い肥満のオッサンだった。

 

 そして、その小太りな親父が彼女の斜め前まで来て懐から巻き物のような物を出し読み上げ始めた。

 

「今より裁判を始める!被告は、己の一族郎党、使用人すら食い殺した悪魔のような吸血鬼、エヴァンジェリン・マクダウェル 裁判官は司教○×○ ○×○  1411年」

 

 ふむ、今は1411年のようだ。いい事聞いた。

 

 それと己の一族郎党、使用人すら食い殺す、の行(くだり)で彼女、エヴァでいいか長いし、が思い切り顔をゆがめた。一瞬だったが憎悪の表情だったろう。

 

 それにしてもエヴァは面白い。そして興味深い。

 

 もし、本当に不死に近い吸血鬼なら死を軽んじて結構簡単に死ぬはずだ。

 

 俺たち(テリオンとアンチクロス)みたいな人外から見れば、まだまだ、穴のある不死である。

 

 思いつくだけでも、傷口を塞げなくしたり、深海に沈めたりなどの弱点がありそうだ。

 

 だが、エヴァはもしかしたら吸血鬼では無いんじゃないかって位に死を恐れている。同時に、恐怖以上に生に執着している。

 

 これはこのまま成長したら、油断も慢心も無い吸血鬼っていう人間にとっちゃあ厄介な化け物が生まれそうだね。

 

 まあ、まだエヴァが吸血鬼かどうかなんてまだ確定してないし、拷問か、処刑前に動き出せばいいでしょ、うん。

 

と、考えをまとめていると司教が口を開いた。

 

「通常、質疑応答や検査などをして魔女と認定しますが、魔法使いの隠れ里に住まう皆様なら吸血鬼と言う存在がどれだけ邪悪で、醜悪で、凶悪な存在かご存知のはず。なので、このエヴァンジェリンが吸血鬼であると、動かぬ証拠をお見せしてその後すぐに不死殺しの宝剣で処刑します。よろしいですね」

 

 その話の最中エヴァは徐々に顔色が悪くなり瞳の光も弱くなってきたが、司教が話し終えた後も、弱くはなってもその光を宿した瞳で司祭を睨んでいた。

 

 普通はもう詰んでるよね、この状況。

 

 周り全員魔法使いらしいし不死殺しの宝剣で処刑、なのにあの目はまだ諦めてない。

 

 昔から、あきらめの悪い奴の所には神様が手を差し伸べてくれるんだよ。

 

 イイ神か、ワルイ神かは、わからないけが……。 

 

 まあ、今回のその役所は俺が貰うけがね。

 

「では、証拠をお見せしましょう」

 

 司教はそう言い袖口から出した短剣で、エヴァの手首を切った。

 

 普通ならこれで致命傷である。

 

「っっ~~」

 

 だがエヴァはかなり痛いはずなのに、痛みをかみ殺し涙を流しながら司教を睨みつける。

 

 次の瞬間、吹き出していた血が止まり始めから無いかのように傷が消えた。

 

 周りがざわめき、また呪詛の大絶叫が響き渡る。

 

「これが証拠です。では、判決!エヴァンジェリン・マクダウェルは吸血鬼であり、魔女であるため死刑に処す!執行人構え」

 

 その言葉と共に微動だにしなかった白ローブ達が一斉に剣を抜き、それぞれが別の急所を狙う。

 

 それでもエヴァは、周り見て抵抗しようともがいている。

 

 もう無理だろうと俺は次の準備に取り掛かる。と言っても力を流すだけで大半はエセルがもう済ませてくれている。 

 

 そして、司教が大声で「刺せえぇ!!!」と叫ぶ。

 

 執行人は、その声と同時に動き出し、エヴァは目を閉じた……。

 

 

 

side エヴァンジェリン

 

 

 ああ、これが走馬灯と言う物なのね。と、あたしは浮かび上がる映像に想いをはせた。

 

 

   ◆

 

 

 あたしは10の誕生日に大切な物を総て奪われてしまった。

 

 その日、起きたらもう夜だった。夜なのに昼間みたいに明るかった。

 

 それが不安で、急いで父様と母様の部屋に走った。

 

 そしたら自分じゃないみたいに早く走れた。

 

 それも不安で、急いで父様と母様の部屋に入った。そこには父様と母様が倒れていた。

 

 泣きながら父様と母様を揺すった。

 

 するとゆっくりと目を明けこう言った。

 

『ああ、エヴァ生きていたのね』とそして『私達の分も生きなさい、どんなに辛くとも生きて幸せになりなさい』と言い残してこの世を去った。

 

 しばらく泣いていたら、笑い声と共に黒いローブの男が現れて、笑いながら告げてきた。

 

 あたしは、真祖の吸血鬼になったと、あたし以外の人間はいい贄になったと。

 

 それを聞いた瞬間、あたしは目の前が真っ赤になって気付いたら手で男の胸を刺して血を吸い尽くしていた。

 

 その日、あの男に総てを奪われ、真祖の吸血鬼という化物にさせられてしまった。

 

 翌朝、あの男の仲間だろうか、数人の魔法使いに追い掛け回された。

 

 どうにか逃げれたがもう家にも帰れない。

 

 それからの10年は、辛い逃亡生活だった。

 

   ◆

 

 最初は親切な人達がいて世話をしてくれていたのだけど、ある日突然、化物は出て行けと、刃物や農具を持って追い掛け回された。

 

 あたしは賞金首になっていたらしい。時たま賞金稼ぎが襲ってくるようになる。

 

 それからは、山や森を転々として獣や行商人の食料を襲って飢えをしのいでいた。

 

   ◆

 

 その日も賞金稼ぎに襲われた。あれから10年位経って賞金が上がったのか、複数人で来るようになった。

 

 今日も白いローブ姿の男達に襲われたが何とか一人倒せた。それが精一杯で今回はそのまま何とか逃げ伸びられた。

 

 そいつらの所為で食料が確保できず備蓄も底をついた。

 

 明日、調達しないと、と思いながら今使っているねぐらであたしは丸くなる。

 

 とたんに負の感情が、寂しい、寒い、ひもじい、辛いと次々に湧き上がってくる。

 

 自然と涙が止め処なく流れてくるが、せめて夢の中くらいは幸せだったらいいなと思いながら目を閉じた。

 

 

 目が覚め、辺りを探索するも食料になりそうな物はなかった。

 

 仕方なく森を出て行商人か村の備蓄を襲おうと考え、何かないかと歩き回った。

 

 夜も深くなった頃ようやく小さな村を見つけられた。

 

 その村は、多分200人位は住めそうな大きさだった。あたしは食料庫だと思われる所に忍び寄り入り口に鍵があったが手でねじ切る。

 

 そして、入り口をくぐろうとした時、後ろから殴られたような衝撃を感じあたしは倒れた。

 

 すぐさま立ち上がろうとしたが身体が痺れた様に動けない。

 

 その後、すぐにあたしの横まで人が来てぶつぶつ何か言ったと思ったら、あたしは急に意識を失った。

 

   ◆

 

 両手足の激痛で意識を取り戻したあたしは、痛みに耐えながら周りを見渡した。

 

 そこは襲おうとした村の広場のようだった。

 

 あたしはそこの真ん中で木の十字架に石の杭で磔にされたようだ。

 

 磔にしたのは、あたしの目の前にいる白いローブの男だろう。多分この前の魔法使いだ。

 

 男はあたしを一顧だにせず、そのまま民家の方に歩いていった。

 

 あたしは周りに誰もいない事を確認して、痛むのも構わず思いっきり腕に力を入れる。

 

 見た目はこんなだが吸血鬼だ。

 

 たとえ石の杭に魔法が掛かっていてもこれ位の木の十字架なら折って逃げられると思ったのだ。

 

 だけど、その目論みは脆くも崩れさる。どれだけ力を入れようともビクともしなかったのだ。

 

 その時後ろから意地の悪そうな声が響く。

 

「それは、吸血鬼用の特別製だ。殺されるまで大人しくしていろ」

 

 あたしは首ひねり声のほうを向いた。

 

 そこには、華美な法衣を着たニヤニヤと笑っている太った男がいた。

 

「貴様のおかげで私は上の位へ上がれる。貴様のような穢れた存在でも人様の役に立てるのだ、うれしかろう。」

 

と、言い放ち男は教会に入って行った。

 

 悔しかった。なりたくて成ったんじゃないのに。

 

 怖かった。このままじゃ殺されてしまう。父様と母様の約束が守れない。

 

 決意した。逃げてやる、絶対生き延びてやると。

 

 もう一度力を入れてみるけど、やはりビクともしない。

 

 なら他の方法を探さないと、と周りを見ながら考えていたら徐々に村人が集まりだし一斉に『殺せ、死ね』など狂ったように叫びだした。

 

 心臓が鷲掴みにされたような恐怖、負ける物かと気合を入れ、顔を上げると目が吸い寄せられるかのように一人の人物に目が行った。

 

 金髪と金色の瞳の美青年。神々しくて、妖しくて、神が作り上げた芸術品なんじゃないかと馬鹿な考えが浮かぶほど綺麗だった。

 

 その青年は、村人達をウザったそうに見回した後、あたしに方をじっと見てきた。

 

 その人はまるで値踏みをするような、魂の奥底まで覗きこまれたような、そんな感じがした。

 

 次の瞬間あたしは凍りついた。まるで蛇に睨まれた蛙である。

 

 青年がランランと目を輝かせ、いい玩具を見つけたと少年のような笑みを浮かべていた。同時にどうエモノをいたぶろうかと悩む肉食獣の笑みにも見えた。

 

 先ほどまであった恐怖は、青年から来る暖かいような冷たいような威圧感に吹き飛ばされ、叫んでいる声は時が止まったように静かになり、あたしの目は彼しか映ってなかった。

 

 そして青年があたしから目線を外した。その時、漸くあたしの所に音が戻ってきて動けるようにもなった。

 

 その青年が横を向いて少し驚いた顔をしていたので、何かあるのかと思いそちらを見たが何もない。

 

 視線を戻そうとした時、周りに四人の白いローブの男達がよって来て杖をこちらに向けて威嚇するようにあたしを獲り囲った。

 

 あたしはそいつらを睨みつけながら必死に生き残る方法を考える。

 

 この石の杭さえなければ逃げられる。

 

 そこで思い付いたのは、死んだ振りをするという物だった。

 

 いつまでも磔にしっ放して事もないだろうし、最後は杭を抜くだろうとそこまで考えていたら、後ろから大きな音がして先ほどの太った男があたしに前に来た。

 

「今より裁判を始める!被告は、己の一族郎党、使用人すら食い殺した悪魔のような吸血鬼、エヴァンジェリン・マクダウェル 裁判官は司教○×○ ○×○  1411年」

 

 あたしはそんな事していない!父様と母様を殺したのはあの魔法使いだ!と、一瞬にして頭に血が上った。

 

 それと同時に、悪魔のような吸血鬼といわれて先ほどの青年から軽蔑や蔑みの視線を向けられるのではないかと怖かった。

 

 軽蔑や蔑みの目以外の目で見られるのは久しぶりだった。それこそ10年ぶりかもしれない。だから余計に怖かった。

 

 手のひらを返すように目の色が変わるんじゃないかと、怖くて青年の方を見れなかった。

 

「通常、質疑応答や検査などをして魔女と認定しますが、魔法使いの隠れ里に住まう皆様なら吸血鬼と言う存在がどれだけ邪悪で、醜悪で、凶悪な存在かご存知のはず。なので、このエヴァンジェリンが吸血鬼であると、動かぬ証拠をお見せしてその後すぐに不死殺しの宝剣で処刑します。よろしいですね」

 

 司教がと言いこちらに近づいてくる

 

 それを聞いてあたしは愕然とした。ここにいる総ての人が魔法使いらしい。そして不死殺しで処刑される。

 

 このままじっとしていたら死んでしまうと、絶望しそうな心を必死に奮い立たせ。どうするか考えようとした時、

 

「では、証拠をお見せしましょう。」

 

と、司教は言い出した短剣であたしの手首を切った。

 

 歯を食いしばり痛みに耐えながら、怒りと憎しみを込めてあたしは司教を睨みつける。

 

 その時にはもう傷は消えていた。

 

 それを見た司教は男達に指示を飛ばす。

 

「これが証拠です。では、判決、エヴァンジェリン・マクダウェルは吸血鬼であり、魔女であるため死刑に処す、執行人構え。」

 

 その言葉を聞き、あたしの周りのローブの男達は一斉に剣を抜いた。

 

 あたしはその剣を見て何故かあの剣ならあたしを殺せると解かってしまった。

 

 必死にもがくもやはり杭も十字架もビクともしない。

 

 そして司祭が大声で「刺せえぇ!!!」と叫ぶ

 

 剣が一斉にあたし目掛けて突き進んでくる。

 

 ああ、父様、母様、あたしは約束を守れそうにありません。そう思い、あたしは目を閉じた。

 

   ◆

 

 そこまで想い帰しておかしい事に気付く。いくら走馬灯だといっても、もう痛みが来てもおかしくない。

 

 それとも痛みも無く即死してしまったのだろうか。

 

 あたしは恐る恐る目を明けると、そこには不思議な光景が広がっていた。

 

 剣はあたしのすぐ側で止まっていて、ローブの男達も司教も村人も口を閉じ、目を閉じる前と同じポーズで固まっているのだ。

 

 良く見ると目蓋と瞳だけが動いている。どの目も恐怖に染まり不安そうにキョロキョロ動いていた。

 

 何が起きているの確かめようと、首を動かしたらすんなり動いた。それに驚きつつも周りを見渡たそうとした時。

 

「ふむ、さすがアル・アジフの術式、使い勝手の良い術だ。エセル捕縛し終わったら魔法知識を収集して来い、余(俺)は、彼女と会話を楽しんで来よう。」

 

「イエス、マスター。」

 

と、涼やかな声と鈴を鳴らしたような声が村人の後ろのほうから聞こえてきた。

 

 そちらを見ると、先程の金髪金色の瞳の青年が立っていた。

 


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