転生先生テリま   作:物書き初心者

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吸血鬼、薬味を誘い出す

 

 

 美空が生贄に捧げられた翌日。新学期開始。

 

「三年!A組!!アレイ&ネギ先生―♡」

 

と、いう具合に新学期早々、相も変わらずウチのクラスはなんとも軽いノリである。

 

 俺とネギが抱負を述べ、その後、身体測定となったのだが、そこでネギが「今すぐ脱げ」という感じの事を言ってしまい生徒たちに弄られていた。これも何時もの光景である。

 

 弄られてネギはそれに耐え切れず教室を飛び出した。

 

 それで飛び出したネギの後を追うように俺も教室を出て職員室でお茶でも飲むかと思っていたら、何故かネギに呼び止められた。

 

 なんでもエヴァの事を聞きたいそうだ。

 

 どうも先ほどエヴァが挨拶代わりに軽く睨んでいたのが気になったらしい。

 

「それでエヴァの何を聞きたいのかね。教師としての評価かね。それとも一緒に暮らすモノとしての評価かね」

 

と、学校用のアルカイックスマイルを浮かべて訊いてみる。

 

「…じゃあ、一緒に暮らす人としての評価をおねがいします」

 

 人ではなくモノなのだがね、俺は……。

 

「…そうだな、愛らしい娘(こ)と言った所か」

 

「愛ら…!」

 

と、どう考えたのかネギが真っ赤になっている。

 

「昔からがんばっていて面倒見もよく身内にやさしい良い娘だよ。反面、苛烈な所もあるから気を付けたまえ」

 

 そんな事を言っていたら保険委員の和泉亜子(いずみ あこ)が叫びながらこちらにやってきた。

 

「先生ーっ大変やーっ美空がー」

 

 その声に反応したのか下着姿の生徒たちが廊下に出てきて俺とネギに気付き『きゃーきゃー』言っていたがこのクラスではよくある事だ。

 

 休憩時間に生徒とネギが連れ立って美空の様子を見に行く。そこには真っ青な顔をした美空が保健室のベッドに寝かされていた。

 

 何でも桜通りに寝ていたのを発見されてからずっと「ナ・ナマハゲ・・」と、うなされているそうだ。

 

 その際、エヴァがわざわざ残していた魔力を、ネギが感知していたようなので確実に釣れただろう。

 

   ◆

 

 そして放課後、アレイと茶々丸、アスナの目の前で盛大な追い駆けっこをネギとエヴァが行っている。

 

 派手に魔法を打ち合っているがエヴァが認識阻害を行ってなければネギはオコジョ直行だろう。

 

 二人から視線を外せば襲われかけて気絶したのどかを運ぶコノカとユエ、そして、ネギの後を追う委員長とまき絵の姿も見える。

 

 一応はエヴァの計画通りだろう。

 

 そのエヴァはナギをダシにしてネギを挑発しつつ予定の場所へ誘導していく。

 

 計画としては、この後、茶々丸を投入してパートナーの何たるかを説いて第三者の介入を切欠に引く予定だ。

 

 ちなみにこの茶々丸、二年間をフルに使い、アレイとチャオ、ハカセの合作により色々と突き抜けたボディーになっている。

 

 特に某西博士の研究資料を開示した事により、見た目ほぼ人と変わらない身体となった。

 

 研究資料を見たチャオとハカセは余りのマッドっぷりに感心するやら恐ろしいやらで、震えていたが、そのおかげで研究が大幅に進んだそうだ。

 

 そのボディーの所為なのか、この頃の茶々丸は色々と情緒が成長してきているようだ。

 

 二人で出かけた時にいつの間にか俺の服を摘んでいたり、茶々丸個人の秘密が増えた。

 

 ちょっと前までならオーバーホールなどで俺が立ち会っていたりもしたが、この頃は恥ずかしいらしく俺の知らない内に済ませていたりし出した。

 

 そして、茶々丸はその事をチャオやハカセに相談したそうだ。

 

 その所為で二人は狂乱して茶々丸の記憶を覗き見て茶々丸を暴走させたりしていた。

 

 結論として、誰かに茶々丸は恋をしているらしい。と、ニヤニヤしながらチャオが言って来た。

 

 ちなみにこの頃は茶々丸にせがまれのゼンマイを巻くことが多くなっている。

 

 余談だが、この暴走の所為で麻帆良大学工学部が甚大な被害を被(こうむ)り、その被害額に学園長が涙したそうだ。

 

 そんな事を考えている内に茶々丸の出番が来た。

 

「茶々丸、確(しっか)りやって来い」

 

 そう俺が声を掛けたら茶々丸は心地嬉しそうに顔をほころばせ。

 

「はい」

 

と、返事して出て行った。

 

 茶々丸がいなくなったとたんアスナが腕に抱きつきジト眼で見上げてくる。

 

「なに、ユエの次は茶々丸なの……」

 

と、すねた感じに頬を膨らませ、更に身体を摺り寄せてくる。

 

 俺は軽く微笑んで頭を撫でてやる。

 

「……そんなんじゃ、誤魔化されないもん」

 

 とか言って剥(むく)れたままだったが頬を赤らめ、何かをねだる様に潤んだ瞳でアレイを見上げるアスナ。

 

 アレイは頭を撫でていた手を止め、アスナを優しく抱き寄せ前髪を払った後、頬にてそえた。

 

「……嫉妬か、相変わらず可愛らしいなアスナは」

 

 そう呟きながらアスナの唇を優しく触れるようにキスをする。

 

「…ぅん……私もエセル達の後から割り込んだんだから、人の事の言えないってのは分かってる積もりなんだけどね」

 

 そうアスナはすねる様な、照れる様な、恥じるような声を出してアレイの胸に顔を埋(うず)めギュッと抱きつく。

 

「……気にするなそういう姿も愛(いと)おしく、そそられる」

 

 胸に埋めていたアスナの顎を上げさせ、アレイがその唇を貪(むさぼ)る。そんな行為を受け入れるようにアスナは唇を半開きにして舌を迎え入れる。

 

「…んぅふ、ぴちゃ……ちゅくっ…うぁ…」

 

 口の中を蹂躙されるアスナは顔を蕩けさせ、先ほどまでギュッと抱き付いていた身体を弛緩(しかん)させ随喜(ずいき)の涙で瞳を潤ます。

 

最後には、首まで真っ赤にしたアスナが「う~~」と悔しそうに唸りながらも、結局、有耶無耶になった。

 

 そして、この後のエヴァ達は計画通りに進み、最終的に現れた委員長たちがエヴァと茶々丸に詰問するが、それに答えず撤退。その後、委員長たちにネギが泣き付くという感じに幕切れした。

 

 これは蛇足だが、エヴァのネギに対する評価をみんなの前で聞いた所、一言目にファザコンと口にしてみんなの顔を引きつらせた。

 

 魔法使いの評価は見習いにしては良い方。

 

 ただし、変な成長をしているらしく使っている魔法の難度に比べ術や魔力の効率化や制御が下手すぎるとの事。

 

 たしかに戦闘方法も生まれ持った魔力と頭でっかちな知識に頼るごり押しらしく戦術のせの字もなかった。

 

 それら所為で特定の新体操部員やネットアイドルがキャストオフ芸をする羽目になっているとか……。

 

   ◆

 

 翌日、委員長がエヴァ達に話しを訊きに来たそうだ。

 

 何故、ネギ先生を襲ったのですか?という問いにエヴァがお前には関係ないと切り捨て、係わるならそれ相応の覚悟をしろと脅して置いたそうだ。

 

 ちなみにネギは委員長とまき絵に連れられて教室に入ってきてエヴァ達を見て震えたり、俺を複雑そうな顔で見たりと忙しそうだった。

 

 その後もネギが授業中に「年下のパートナーは嫌ですよね」発言をしたり、放課後、オコジョのペットを飼ったりと色々あった。

 

 次の日、噂のオコジョを肩に乗せネギが出勤してきたが何故かそのオコジョ、俺に対して敵意を込めた視線を送ってきた。

 

 その瞬間、俺の頭の上に乗っていたプチ・エセル(デフォルメ・エセル)が漆黒の覇気(オーラ)を出しながら、『今夜の晩餐はカモ鍋にしましょうか』と、ぼそりと呟くと野生の感だろうか。

 

 オコジョには、エセルの姿は見えたり、声が聞こえたりしていないはずなのだがオコジョはネギの懐に入りガタガタ震えだした。

 

 その後、その小動物が暗躍して何故かまき絵とネギが仮契約をしてしまったらしい。

 

 後日、その事を知った委員長が悔しがったそうだ。

 

 更に次の日の放課後、ネギとまき絵の二人がこそこそと茶々丸を追いかけているのをアレイは発見した。

 

 プチ・エセルに様子を探らせてみたら、オコジョがエヴァ達を各個撃破するようにそそのかしたらしい。

 

 どうも、あの小動物は彼我の戦力差が分かっていないようだ。

 

 エヴァは勿論の事、今の武装していない茶々丸でもタカミチレベルを持ってこないと勝てはしない。

 

 俺は茶々丸に連絡(念話)を取りネギたちの相手をするように言っておく。

 

   ◆

 

 とある広場でネギ達は茶々丸に接触した。

 

 どうやら説得を試みたようだが無駄である。

 

 茶々丸はアレイやエヴァからネギやクラスメイトの事を思うならトラウマになる位に痛め付けた方があいつ等の為だと囁かれている。

 

 実際そこまでする積もりはないが、アスナ達の修行を見て優しさと甘さは違うのだと思っている茶々丸。

 

 故に、茶々丸は二人を余り傷付けずに完膚なきまでに叩くつもりでいた。

 

「佐々木まき絵さん…いいパートナーを見つけましたね。……ですが、あなた方では私に勝つ事は出来ないでしょう」

 

「そんな事やって見ないと分かりません」

 

と、ネギが言い放ち。

 

「契約執行!90秒間!ネギの従者『佐々木まき絵』!!」

 

 ネギがまき絵に魔力を充填してまき絵が茶々丸に爆発的な速度で駆け寄っていく。魔力充填していたとしても素人では考えられない速度だ。

 

 その間にネギは攻撃魔法の準備を始める。

 

「えーいっ!」とまき絵がデコピンをしようとしているが、……舐めているのだろうか…。

 

 もしかしたらまき絵は魔法使い同士の戦い=殺し合いと理解していないのかもしれない。

 

 もっとも治癒魔法も発達している所為で驚くほど致死率は低いのだが……。

 

 茶々丸はデコピンをしようと伸ばしてくる腕を絡め取りネギの後方に向かって投げ飛ばす。

 

 背中から落ちるように調整したのか派手に投げ飛ばされたにしては大したダメージはなさそうだ。

 

 激しく咳き込んではいたが……。

 

 まき絵が投げ飛ばされた瞬間、ネギの手からそれを迂回するように11本の魔法の矢が放たれた。

 

 これでいいのかとネギは逡巡するが、その時には茶々丸をその場から消え失せ。次の瞬間にはネギは杖を奪われ地面に叩きつけられていた。

 

 茶々丸は瞬動術を使った訳でも転移した訳でもない。ただただ、自身の身体性能を駆使し駆け寄っただけだ。

 

 茶々丸は奪った杖を咳き込むネギのノド元に突き付ける。

 

「ネギ先生、もっと自覚してください。魔法使い同士の戦いは殺し合いと変わらないのです。もっと熟考し慎重に動く事をお薦めします。でなければ、総てを失う事になってしまいますよ。……では、私はこの後用事がありますので」

 

 ネギの横に杖を置きペコリと頭を下げ茶々丸は去って行った。

 

 その後、ネギは真っ暗に沈み込むが、まき絵の持ち前の明るさで慰めつつ保護者の委員長にやった事を話して相談する。

 

「この!おバカオコジョ!なんて事をネギ先生にやらせるのです!!」

 

 あやかはカモを掴み上げてぶんぶん振り回す。

 

「あぶぶぶぶっ。で、でも今回は仕方なかったんです。お嬢」

 

「何が仕方なかったですか!もしエヴァンジェリンさんが最強クラスならその従者の茶々丸さんも最低でも足手まといにならない程度に強いと、ちょっと考えれば分かるでしょうが!!」

 

『…あっ』と二人と一匹は今気付いたと呆然としていた。

 

「まったくもう。……それにしてもお二人とも何故あのような事をおっしゃったのでしょうか……」

 

 まるで何かを指導しているようですわ……。

 

 それにネギ先生はお命を狙われているとおっしゃっていましたが、あのお二人が本気だったならもう命は無かったでしょう。

 

 更に言うならここ麻帆良はネギ先生の様な魔法使いの修行の場。

 

 そんな場所にそんな危険人物を放置しておくでしょうか……。

 

「……明日、エヴァンジェリンさんの保護者の方にお話を伺(うかが)いに言ってきます」

 

 カモが止めるがあやかは無視し、ちょっと躊躇してからアスナに電話を掛けた。

 

 余談だが、あの後の茶々丸は勝ったご褒美としてねだった、アレイと二人きりでのショッピングを楽しんでいた。

 

 

   ◆

 

 

 翌日、アレイは休日だと言うのにアスナに連れられて学校の進路指導室に来ている。

 

 そこには委員長こと雪広あやかが待っていた。

 

「クロウ先生。休日にお呼び出しして申し訳ありませんわ」

 

「アスナが何も言わずについて来てと言うから来て見れば、……やはりお前か雪広あやか」

 

と、アスナの方を見た後、あやかをちらりと見る。

 

「うっ…いいんちょにあんなに頼まれると断り辛くて……」

 

「……ふぅ…あとでコノカに言っておけ、好きなおやつを取り上げられた様な顔をしていたぞ」

 

「うわっ!今日コノカの番だっけ!ちょっと電話してくるー!!」

 

と、アスナは慌てたように部屋を駆け出していった。

 

 あやかはアレイ達のやり取りを、眼を白黒させながら見ていた

 

 アスナの態度や台詞にも驚いたが、一番驚いたのはアレイの口調と雰囲気がガラリと違うことだろう。

 

 例えるなら学校でのアレイは好青年風と言うべきか黒さが少ないが、今のアレイは悪役で黒いなにかが滲み出ている。

 

 ちなみにあれは一種の遊びとしてやっているだけで深い意味は無い。

 

 強いて上げるなら今の委員長の様に驚く顔を見るためだろうか……。

 

 更に言うと生徒たちに受けはいいがエヴァ達の受けは悪かったらしい。

 

「それで、何を驚いているかは予想がつくが…、何を聞きたいんだ。エヴァの事ならネギのペットの下等妖精に調べさせれば分かるはずだが」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ、エヴァは昔から色々悪名高いからな、中々に面白いから調べるといい」

 

 アレイがニヤリと黒い笑みを浮かべて委員長を促す。

 

「分かりました。帰宅したら調べてみますわ。それでお聞きしたい事はエヴァンジェリンさんの目的ですわ」

 

「ふむ……、それを聞くと言う事は、目星は着いているのだろう。言ってみろ、正解なら色々質問に答えてやる。不正解なら・・・…、そうだな、教師生徒の仲だ。忠告ぐらいはしてやろう」

 

 ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべるアレイ。

 

「……私が考えついた答えは、エヴァンジェリンさん達は魔法使いの指導員か試験官なのではないかというものですわ」

 

「…当たらずといえども遠からず、と言った所か。大方、魔法使いの修行場所に凶悪な吸血鬼が野放しになっているはずが無いとでも考えてその答えに行き着いたのだろ」

 

 あやかはコクリとうなずいた。

 

「……その考え方は逆なのだが今は関係ないから置いておく。一応、不正解と言う事で忠告だが、……あれだけ語ったんだ。命の保障はされているのは勘付いたはずだが?」

 

「…はい」

 

「それを踏まえた上で忠告だ。保障されているのは命だけだ。……故に足掻け。全力で…、なりふり構わずに…」

 

 あやかはその言葉を正しく理解したのか真っ青になっていた。

 

「……あのクロウ先生、魔法使いの世界では子供にそんな試練を与えるのが普通なのでしょうか」

 

「……その問いの答えを俺は持っていない」

 

 その後、あやかはお礼を言ってフラフラと帰っていった。

 

 帰宅中のあやかは色々考えネギの手助けをしようと決意したようだ。

 

 帰宅後、顔色が悪かった所為か心配されたが取り敢えず言われていた事をカモに調べさせる事にした。

 

 そこで分かった事は現在1600万ドルの賞金首で悪の秘密結社の幹部の疑いが濃厚という物だった。

 

 それを見たカモが錯乱して不用意な事を言ってしまった為、ネギが失踪してしまう。

 

 ちなみにアレイが面白いと言ったのは、ネギが失踪してしまった所為で気付かれなかったが、ここの所の二、三年の大きな事件がエヴァの所為にされている事だった。

 


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