気がついてみれば其処は…
周りを見渡し。
「…………ふむ」
うん、何もない。俺は今、草原のど真ん中にいる。
取り敢えず簡易な探査魔術を走らせてみる事に、この世界で初の魔術、リハビリ代わりに丁度いい。
どうやら半径20kmに大型の生物はいないみたいだ。
そうこうしているうちに、慣れ親しんだ気配が側に現れた。
「遅くなりました、マスター」
と、エセルが言って近寄って来たので頭を撫でながら思案する。
取り敢えず人を探すか。時間と場所が分からなければ身動きが出来んし、微妙に残っている原作知識も意味がない。
「エセル、調子を診るついでに人を探す」
と、エセルに力を流し探査魔術を走らせさせる。
大体50kmの所に小さな集落があった。
「エセルあの集落の近くの森に跳ぶぞ」
「イエス、マスター」
そうエセルの返事を聞くやいなや、その場から誰もいなくなった。
◆
取り敢えず森から出てきた俺たちは集落、いや多分村なのだろう。
木の柵で囲われ、周りに川、畑、小さな草原。そして、俺たちがいた森。
見た所、中世はヨーロッパという感じである。俺達はその村の入り口と思しき門に歩いて近寄って見る。
「中世と言った所か……。エセル、特定は出来るか」
と、村の門を潜った辺りで聞いてみる。
「イエス、1500年±100年だと推測します」
どう推測したかは解からんが、何かしら在るのだろう。
「完全に中世、それも魔女狩りの全盛期。作為的だな、邪神にでもかどわかされたか……」
いや、むしろ幸運なのか。
俺が今持っている原作知識は、大まかな時系列と好みだと思われるヒロイン?のイベントの日時と場所と大まかな内容。
そして、原作舞台の場所(埼玉県麻帆良市)狂ったようにどデカイ木(光り輝いている??)まあ、最後の情報は使えるのかどうか解からんが……。
要するに、さっぱり解かっていないのである。
ヒロイン?のイベントの日時と場所と大まかな内容と言ったものの。
顔も名前も解からず、内容にデートやら、キス(仮契約?)が複数在った事から、勝手にヒロイン?にしているだけである。
前世の記憶が真新しい状態で選んだ世界だ。きっと、きっっと、男少数の女多数な世界観な物を選んだはず。
逆は、うん、多分ない…、きっとない…、昔から信頼のエロスだったはず。
今も昔も安心と信頼の俺だったはず……ってか信じてるぞ!昔の俺!
まあ、この年代に時系列とイベントが少々引っ掛かっている。
原作は2000年代と言うことはだ。
この人物は原作開始時点で最低でも400歳、多くても600歳、なので不老もしくは不死者に間違いない。
現在の俺自身不死に近いはずならば丁度いい。
女なら、愛でるもよし、調ky……教育するもよし。男なら…まあ、そん時決めるか、間違いなく暇つぶしにはなる。
ティベリウスみたいなのなら、即抹殺だな。オカマで腐乱な変態なんて俺の世界にはいらん。
しかし、この村は少々妙だ。まだ、昼過ぎだと言うのに畑などに人がいない。
代わりに村の奥にあるみすぼらしい教会(十字架があるから恐らく教会だろう)周りに人の気配と結界??らしき物が張ってある。
十中八九、魔女狩りだろう。
もしも、これでお宝(ヒロイン?)があったら、間違いなくナイア<邪神>の罠だね。
もしくは、旧神<父上>の加護か……、まあ行けば解かる。
「エセル、丁度いい。本場の魔女狩りを見物しつつ情報収集をするとしよう」
「イエス、マスター。この世の全ては、マスターの思うままに」
そう言いながら、薄いベールにも劣る結界??を破らないように、俺たちは静かに入っていった。
◆
其処はスゴイ熱気だった。いや正しくは、狂気で狂喜、今から始まる事が待ちきれないと言わんばかりの大熱狂に大声援、いわゆる呪詛だ。
正直、「殺せ!!」だの「死んでしまえ!!」だの煩くて敵わない。
狂気としては、(個人的には)生温い感じではあるが、こう叫ばれては話しかけられん。へたに刺激したら暴動になりそうだ。
昔それで失敗したんだよな(大導師時代)最終的に力ずくで鎮圧したが……。
ふむ、情報収集はひとまず置いておいて、魔女狩りの方を見学するか。……はてさて、どん魔女が裁かれるのか。
そう考えながら磔(はりつけ)にされている人物を注視する。
◆
第一印象は、ボロとか汚いよりも小さいだった。
どう見ても年齢は10代入ったか入ってないか。身長は130ぐらいだろうか。
そんな幼女が木製の十字架に磔にされているのである。
キリストを思い出してくれるといい、ただ釘が石の杭のような物に代わっているが、おおむねキリストのあれだ。
磔にした人物はナイア<邪神>の親戚か何かなのだろう。どう考えても此方(こちら)のほうが痛々しいし上に邪神らしい。
次に目が行ったのが、瞳である
髪は金髪でボサボサ、顔や体、服は汚れでぼろぼろ、そんな中、瞳だけはランランと輝いていた。
まるでその瞳は、「負けない!貴方達には負けない!私は生きるだ!絶対活き抜いてやるんだ!!」と、叫んでいるかのようだった。
その瞳にこぼれぬよう涙を溜め、声が漏れぬよう硬く口を閉ざし、ただじっと耐え忍んでいる。
逃げ延びる。いや、生き抜くための機会をただじっと待っている。
そう感じた俺は、その時思った。
ああ、やはり人は美しいと。死を見つめ、迫り来る絶望いう逆境に逆らい跳ね除けその先に希望があると生があると希望を信じ戦う姿は美しい。
ちょっと前までならそんな人を叩き潰さねばならなかったが、今はそん仕事<呪い>はない。
全て自分の、俺の思い通りにやっていい。ならばと俺は考える。
彼女は美しい。俺に惚れさせたいし愛(め)でもしたい。
だが同時にあの瞳を屈辱にぬらし余の前に跪かせ。あの気骨をへし折ってやりたいとも思う……。
さて同時に手に入れるには、如何すれば良いか……。
そんな強欲極まりない事を考えながら、頬を吊り上げ、魔眼を煌かせながら、計画を練っていく。
◆
計画を決め、まあ、計画と呼ぶには陳腐だが……。
横に立っているエセルにその計画を伝えようと、顔を向けると……。
何故かエセルさんが悶えてた……。
あれ、俺なんかしたっけ!?
欲求不満で無意識の内にナニかしたとか……コワッ…、ドンだけ欲求不満よ、俺…。
あぁ~考えてもわからん直接聞くか。
「あ~、エセル、ナニがあった…」
「…ぃ、いえす…ますた~。その…ますたーの『イイ笑顔』がその…」
あ~~ 俺はよっぽどドSな笑顔してたいたんだろ~な~、エセル俺に対してドMだもんな~。
恐らく被虐心をくすぐられたんだろう。
エセルの悶える姿は、可愛らしいから個人的には見ていたいんだけど。
そろそろ、彼女を手に入れるために動くからエセルさん戻ってきて~~。
「いけるか、エセル」
「イエス、マスター、すいませんお時間をとらせてしまい」
「かまわん、ただし余(俺)の望む者を、全力を持って手に入れよ」
「イエス、マスター。総てはマスターの御心のままに」
と、言いながら、エセルさんの背中には、真っ黒な嫉妬の炎がたぎってた。
もう総(すべ)て妬(や)き尽せって感じである。
基本的にこの炎は俺には無害だから、これから先にぎやかになりそうだと無責任に楽しみにしている俺であった。