転生先生テリま   作:物書き初心者

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閑話 8

 <武闘派中華娘>

 

 

 とある休日、茶々丸が日課の猫の餌やりに行くと言うので散歩がてら付いて行く事にした。

 

 それで判明した事なのだが俺が小動物に近寄ると問答無用ですぐさま服従のポ-ズをとる。

 

 たとえ餌を食べていようとも。

 

 ・・・・その所為で茶々丸から「餌を与えられません。どうしましょうか?」と訊かれてしまった。

 

 嫌味でなく本当にどうすればいいか分からないから聞いてきたのだろうが他の人間には嫌味に聞こえるから気をつけるように教えておく。

 

 その帰り道、反対の方向からクーフェイが歩いてきた。

 

「センセに茶々丸アルか。こんな所でどうしたアル?」

 

「アレイさんが私の猫の餌やりに付き合ってくださったのです。古菲さんこそここは余り人の来る所ではありませんが?」

 

「ワタシはこの先で何時も修行してるアル。……センセはこの後、暇アルか?」

 

「…ふむ?・・時間はあるが」

 

 俺は何も考えずにクーフェイに言ったがそれが拙かったようだ。

 

 キラキラと遊んでもらえるのを期待する子虎がクーフェイの後ろに幻視できる。

 

「センセに敵うとは思ってないアルが。今のワタシの全力を受けてもらいたいネ」

 

 ビシッと八卦掌の構えを構えるクーフェイ。

 

 今いるのは道というよりはちょっとした広場のような所で軽い運動をするには丁度よさそうな場所だ。

 

 俺は護衛しようとしている茶々丸を下がらせ、

 

「…一本だけだ」

 

と、答え軽く脱力し、身体を自然体にする。

 

「……センセは構えないアルか?」

 

「構えてはいる。クーフェイにはそれが判らないだけでな・・」

 

 構えを看破しようとしたのか一瞬ムムッと難しそうな顔をしたが諦めたのだろう。

 

 すぐさま八極拳の外門頂肘(がいもんちょうちゅう)+活歩(かっぽ)、肘をつきだして地面を滑るようにして、こっちにそこそこの速度で突っ込んでくる。

 

 俺はそれを軽く斜めに一歩踏み出し避ける。

 

 クーフェイは振り向き様に肘を内側から突き上げてくる裡門頂肘(りもんちょうちゅう)を決めに来るがそれを左手で防ぎ、押し返しつつ軽く後ろに飛ぶ。

 

「八極拳による奇襲か、…いい手ではあるがいかんせん地力が足りていない。……これで終わりという事はあるまい。お前の全てを見せてみろ」

 

「・・・フゥー・・・行くアル!!」

 

 クーフェイはアレイに向って拳、掌、手刀、蹴り、体当たり、頭突きと考えうる攻撃を仕掛けてくるがアレイは全て逸らすか防ぐかして無力化していく。

 

 そして、その内クーフェイが肩で息をしだしていた。

 

「…終わりが見えてきたな」

 

「・・ハァ、ハァ。…これに全てを籠めるネ」

 

 そうクーフェイが宣言すると先程まで一切気が込められてなかった身体に気を微量に纏わせていた。

 

 そして、クーフェイの突き、形意拳の砲拳が防御しなかったアレイの水月に突き刺さる。

 

「・・中々にいい拳だ。返礼してやろう。…耐えろよ、クーフェイ」

 

 クーフェイの突きを意に介さずアレイはそう言いつつ、クーフェイの身体に手を押し当て突き飛ばす。

 

 ただそれだけでクーフェイはまるで砲弾のように吹き飛んでいく。

 

 そして、砂埃を上げながら転がって10mほどして漸く止まった。

 

 アレイは横たわっているクーフェイの横に歩いて近寄る。それに気付いたクーフェイは寝たまま口を開く。

 

「う~勝てないとは思ってたアルが、勝負にすらならなかったアルよ」

 

「武芸の技術としては一級品だが地力がなさ過ぎる。せめて気を使えるようにならないと遊びにすらならん」

 

「う~ん、気アルか。師匠から鍛錬方法は聞いてるアルが。…そんなに変わるアルか?」

 

「それはクーフェイしだいだ」

 

 吹き飛ばされたダメージから回復したのか跳ね起きて「次からは気を重点的に鍛えるアル」と言い今回の模擬戦?は終了した。

 

 

 

 

 

 <獣、白鳥に会う>

 

 

 今日、桜咲刹那(さくらざき せつな)と言う人外の気配が軽くする少女が転校生としてやって来た。

 

 何故か初対面から睨みつけられ、クラスに連れて行く間中、背中に強い視線を感じていた。

 

 敵意や害意と言う感じではないので無視したが。

 

 昼休み、ログハウス組と新しくチャオが作ったという超包子(チャオパオズ)と言う移動式中華料理店に来ていた。

 

 チャオ曰く、計画の為の資金調達の一環として始めたそうだが、予想以上に金が集まって笑いが止まらないそうだ。

 

 それは取り敢えず置いておくとして、木乃香達と合流してから熱い視線が俺に突き刺さってきている。

 

 鬱陶しい事この上ない。

 

 事前に詠春から、木乃香の友人を護衛と言う名目で送ったと連絡があったがまさか何の断りも無く護衛?らしき事をし始めるとは……。

 

 その所為でエヴァとアスナが不機嫌だ。なんでも木乃香と話していると一々視線を感じてウザッたいらしい。

 

 一般人なら気付けない様なものだが俺たち相手にはつたない隠形法(おんぎょうほう)だと言わざるおえない。

 

 まだ、アスナや木乃香の方がうまく隠れる。

 

 木乃香曰く、二代目幼馴染らしい。ちなみに初代はアスナとの事だ。

 

 更に言うと思い込んだら一途と言うか頑固な性格らしく今回も何か勘違いをしているのだろう。っと言っていた。決して悪い子ではないそうだ。

 

 ただ、こちらに来てからは時々手紙を出してはいたようだが返事は返って来なかったそうだ。

 

 木乃香は修行が忙しいのだろうと寂しそうに言っていた。

 

 

  ◆

 

 

 放課後、木乃香とアスナが茶々丸に教えながら料理を作っていた。そんなおりに結界に誰かが捕まったのを感知した。

 

 最近では珍しいことだ。俺とエヴァが家を空けることになってからは結界の感度や強度を上げている。

 

 麻帆良の魔法使い達はその事を学園長から通達してある所為かここに来ることはまずなくなった。

 

 ちなみにちょっと前、学園長に俺やエヴァが学校に行っていて魔法使いからの不満は出ていないのかと聞いたことがあるが。

 

 なんでも俺はアレイ・クロウと認識されてはいるがマスターテリオン=俺とは認識できていないらしく同姓同名の別人と認識されているらしい。

 

 エヴァも似たような物で、人ではないのは理解できているが吸血鬼としては認識されていないそうだ。

 

 血を吸うなどの行為をしていないのだ。ばれる訳が無い。

 

 ただ、これらは極々弱い認識阻害なのでほんのちょっとした事でばれるらしい。

 

 正直な話どうでもいい事ではあるので今は放置している。ばれたとしても一寸前の生活に戻るだけで実害は余り無い。

 

 ただ、学園長はばらさんでくれと懇願してきたが……。

 

 今現在の麻帆良の勢力図は、学園長とタカミチを有する少数の融和派、旧世界出身の俺達に係わりたくない穏健派、魔法世界に関係のある大多数の過激派で構成されている。

 

 力関係としては学園長が何とか過激派を抑えていると言った所だろう。

 

 間違いなくばれればひと悶着あって再起不能者が量産される事になるだろうが、それを回避したいのが学園長の本音だろう。

 

 なにせちょっと前に木乃香がこちらに来てからは関西呪術協会の過激派の動きが活発になったとかで警備に割く人員が増えて困るとぼやいていたぐらいだ。

 

 その辺の話は一先ず置いておいて侵入者の事に戻ろう。

 

「アスナ、どうやら侵入者らしい相手をしてやってくれ」

 

「はーい!という事で後頼んだわよ。木乃香」

 

「うん。任されたえ。がんばってな、アスナ」

 

と、緊張感の無い会話が交わされた後、

 

「いってきまーす」と、ローブと仮面、そして縄を持ってアスナが駆けて行った。

 

 よほどの事が無い限りは今のアスナが敗れることはないだろう。

 

「…あの木乃香さん。ああいう危険が伴う作業は私の方が向いていると思われますが何故私に任されないのでしょうか?」

 

「う~ん、ウチらは修行の一環やしな。でも、心配せんでもゴン君倒せるようになったら嫌でも任されるえ」

 

「そうなのですか?」

 

「ウチもそうやったからな。でも、茶々丸さんは武装が揃うまでは本格的な戦闘はさせないってエヴァちゃんがゆーとったえ」

 

「そうですか、マスターが…。木乃香さんは戦闘が嫌なのでしょうか」

 

「そやね。ウチは人を傷付けるんは苦手やね。『でしたら』でもな、茶々丸さん。ウチは戦うって決めたんよ。自分と大切な人を守るために・・・。あっ、ちゃんと茶々丸さんも入っとるからな」

 

「・・ありがとうございます、木乃香さん。でしたら、私も皆さんをお守ります」

 

と、そんな会話が台所から聞こえてくる。

 

 エヴァも聞いていたのか顔を紅く染め紅茶を飲んでいた。

 

 俺もエヴァに紅茶を分けて貰いながら飲んでいたら、困惑した顔で侵入者と思われる縄で縛られた女生徒を俵抱えにしたアスナが帰って来た。

 

「どうかしたのか。侵入者なぞ連れて来て・・・」

 

と、エヴァの声に引かれて木乃香と茶々丸も集まって来た。

 

「あー、うん。そうなのよ」と、アスナが俺たちに見えるように椅子にその侵入者を座らせた。

 

 そこに居たのは………、

 

「せっちゃん?!」と、木乃香が顔を曇らせた。

 

 そう今日、転校してきたばかりの桜咲刹那がぐったりして座っていた。

 

  ◆ 

 

「…ぅう~ん。・・ここは」

 

「ようやく起きたか桜咲刹那」

 

 そこには真っ暗な部屋でアレイ、エセル、エヴァ、アスナ、木乃香、茶々丸が縛られた刹那を半円に囲うように座っており、それぞれが上からスポットライトを当てられている様に黒い部屋に個々人が浮かび上がっていた。

 

 ちなみに、この演出は誰かの遊び心である。

 

 刹那は自身の状態に気付いたのか慌てたように周りを見渡し木乃香が真剣な表情をしているのを見て脂汗を流し出した。

 

 それを見たアレイとエヴァはニヤリとし、そんな二人の反応を見たアスナは刹那を売られていく子牛を見るような眼で見ていた。

 

 エセルと茶々丸は無表情である。

 

「さて、桜咲刹那。何故ここに来たのか話してもらおうか」

 

と、エヴァがニヤニヤしながら尋問じみたことをするが、刹那は言葉を発さない。

 

「…ほーう、黙秘するという事はやましい事でもしに来たか?」

 

「ちがう!私は…」と、そこで言葉を切りチラリと木乃香を見る。

 

 木乃香は刹那の顔をじっと見ている。

 

「…私はお嬢様のお父上から頼まれた木乃香お嬢様の護衛です」

 

 刹那は苦虫を噛んだような顔をして言葉を吐き出した。

 

「それがあの不躾な視線の理由か」

 

「なっ、気付いていたのですか!」

 

 それを聞いたエヴァとアスナがジト眼になった。エセルですら少々呆れ顔だ。

 

「アホか貴様!あの程度、アスナと木乃香の方がもっと上手くやるわ!!」

 

 驚愕した顔をして刹那が木乃香の方を見るが木乃香は肯定するように苦笑していた。

 

「…ですが、お嬢様は裏に一切係わりの無い一般人だと……」

 

「・・・何だ貴様、じじぃと近衛詠春から私達の事を聞いていないのか」

 

「…何のことですか。私は木乃美様から『木乃香は未来の旦那様の所でご厄介になっているからちゃんとご挨拶に行くのですよ』としか伺っていません」

 

 それを聞いた木乃香が「いややわー。母様ったらー」と手を頬にあて顔を真っ赤にしてイヤンイヤンと首を振っていた。

 

 どうやら刹那は学園長と木乃美のいたずらにはまっている様だ。

 

 だからと言ってアレイは懇切丁寧に会ったばかりの感心の無い人間に事情を話す心算はない。

 

 学園長達が黙っていたのはそういう側面もあったのだろう。ただ、半分以上が遊び心だと断言できるが。

 

「・・・まぁ、桜咲の隠形がつたないのは置いておくとするが木乃香の件は護身術の一環だ。それと詠春が何を言ったかは知らないがあんな護衛は必要ない」

 

と、アレイは刹那をいらないとばっさり切り捨てた。

 

「なっ……!!」

 

「そうよね。影から守る積もりなら周りに一切存在を知られちゃいけないから私達にばれた時点でアウトだし、何よりあの程度じゃ木乃香が逆に目立って危険よね」

 

と、アスナが追い討ちをかける。

 

「うぐっ…」

 

「更に言うならそれは複数人でやる護衛方法です。基本は護衛対象に付かず離れずですが、今回はマスターやアスナさん、そして私が居ますのでこれ以上の人員が必要だとは思えません」

 

 優先順位はあるが基本人間のいう事を受け入れる茶々丸が珍しく拒絶を示す。

 

 刹那が煤けてきたのを見て木乃香がアレイに助けを求める視線を送っている。

 

 アレイはそれを見てフゥとか来る息をつき、

 

「桜咲刹那、俺は君に興味はない。ゆえに君が何をしようと君の勝手だ。それこそ木乃香の護衛をしようとな」

 

 それを聞いて少し顔色がよくなるが次の言葉でまた曇る。

 

「ただし、友人としてそばに居る程度の護衛で、だ。それ以外は認めない」

 

「・・ですが。私は…」

 

と、刹那は悩んでいたようだがこれ以上いう事もないので問答無用で寮の前に強制転移させる。

 

 余談だかその後、刹那は思い悩んでいるようだが徐々にクラスに溶け込んで木乃香に近づいてきているそうで木乃香も安心していた。

 

 ただ、刹那の俺を見る眼が日に日にきつくなって来ているのは何故なのだろうか…。

 


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