<獣、副担任に就任す>
今、俺とタカミチは1-Aの教室に向って廊下を歩いている。
「それにしても、アレイさんが本当に教師をするとは思いませんでしたよ」
「そうか?…エヴァも中々にクラスの人間が面白いと言っていたからな、正直今から楽しみだ……」
俺を先導するタカミチにそう言って俺は渡されたクラス名簿を開く。
そこには30人の少女の顔写真と名前、それと部活が書かれている。
7人程知っている者が居るが残り23人どんな人物なのか……
「ああ、それでそんな気合の入った格好なんですね」
俺が今着ているのは、スーツというよりはモーニングコートと呼ばれる正礼装に近い格好をしている。用意したのは勿論エセルだ。
ちなみに、そのエセル、デフォルメ不可視モードで俺の肩の上にいる。
「いや、これはエセルが用意した物だ」
「・・・・相変わらずですね。エセルさん」
そんな話しをしていたら一際騒がしい教室の前に辿り着いた。
「では、僕が先に入った後に呼びますから入ってきてください」
タカミチがそう言い開けて入ろうとした瞬間、俺は「…タカミチ」と声を掛ける。
「…えっ・・はい?」
タカミチが反射的に此方に振り向くと同時に頭に迫る黒板消し。
完全に死角から迫るそれに気付いたのか咄嗟に後ろに飛び退いた。
だがそこには足元にロープが……
勿論それに引っ掛かり後ろ向きに倒れていくが流石は長年修行を積んでいるタカミチ。
そのままバク転の要領で水の入ったバケツと玩具の矢をかわし教壇まで辿り着く。
「お、おぉぉぉ~~~」と感嘆の声と拍手をタカミチが受けるが、タカミチはこちらを見て。
「酷いですよ!アレイさん、気付いていたなら教えてくれてもいいじゃないですか!?」
と、俺を非難してくる。
「前にも言ったが、ラカンじゃあるまいし罠は掛かってから破るんじゃなく掛かる前に見つけろ」
俺はそう言いながらタカミチの隣に歩いていく。
タカミチはばつが悪そうに頭をかきながらクラスに俺を紹介し始める。
「あー、出張が多い僕に代わって君達の面倒を見てくれる事になった新しい先生だ。…アレイさんよろしくお願いします」
「初めまして、今、紹介に与ったアレイ・クロウと言うものだ。今日から歴史の授業を担当し、卒業まで君達の副担任として面倒を見る事になっているのでよろしく頼む」
そう俺が自己紹介したら一拍間が空いて、
『きゃあぁぁっぁ! 美形~! モデル~!?』と教室が破裂するのではないかと言う位の黄色い悲鳴が上がった。
ログハウス組の三人はニコニコと歓迎の表情をしているが、チャオとハカセは顔色が曇っている。ユエに至っては固まっている。
その後、何歳?どッから来たの?何人?と矢継ぎ早に聞いてくるがタカミチがすぐさま鎮火する。
「はい、はい。質問はひとつずつにね。じゃないとアレイさんも答えられないだろう」
と、タカミチが押さえると「はーい!」と、パイナップルヘヤーの女の子が元気良く手を上げる。
「ふむ、なにかね。出席番号3番 朝倉和美(あさくら かずみ)君」
「うわぁ!もう顔覚えられてる!…えーと、麻帆良のパパラッチこと報道部員の私がある程度まとめて質問したいと思いますがいいですか?」
「朝倉君だけじゃなく、このクラスの人間は皆覚えているよ。それで質問とはなにかね」
タカミチが俺の口調に驚いて固まっているが気にしない。
「んじゃ、まずは歳から」
「…ふむ、永遠の二十歳としておいてくれ」
俺がクスリと軽く笑いながら言うと、周りがどよめく。
「おおっと!以外に茶目っ気のある先生だ!…実際はどの位なんですか?」
「タカミチが俺をさん付けで呼んでいる辺りで察してくれるかな」
「こ、これは以外に年上か…。いや…地位の問題も…」
と、メモ片手に唸っていた。
「年齢に関してはこんなもので良いのではないかね」
「あ、そうよね。じゃあ次は、何処から来たんですか?」
「ここ…麻帆良からだ。ちなみに出身はアメリカになるか」
もっともこの世界にアーカムと言う都市はないのだが。
「ふむふむ、じゃあこの近くに家があるんですか?」
「ああ、そこから通勤する事になっている」
何か良からぬ事を考えているような顔だが構うまい。
「では、最後にこのクラスに気になる人はいますか?」
朝倉の質問にクラス全員が前のめりに興味深そうにこちらを見てくる。
ログハウス組は私を選んでくれるよねと期待の眼で見てくる。ちなみにユエは漸く硬直が解けたのか顔を真っ赤にした後ブンブン首を振っていた。
「ふむ、いろんな意味で全員気になっているよ」
そう言いながら優しく微笑んでみる。
『きゃあぁぁっぁ!』と黄色い声が上がるが朝倉は少々不満そうだ。もっともログハウス組はかなり不満そうだが。
「さて、一時限目は俺の授業だったか。・・・・・・ではこのまま、質疑応答の時間にするとしよう。朝倉君以外で質問がある者は挙手しろ」
『はーい!はーい!』とかなりの数が上がる。
◆
『出席番号6番 大河内アキラ』
「スポーツは好きですか?」
「嫌いではないよ・・・」
『出席番号14番 早乙女ハルナ』
「至る所から甘酸っぱいラブ臭がするのは何でですかぁ~?」
「ふむ、俺にはそんな匂いはしないから分からないな」
『出席番号7番 柿崎美砂(かきざき みさ)』
「女性遍歴をおしえてください」
「…ふむ、始め付き合ったのは…・(約五分)・…といった感じか」
『きゃー!きゃー!』と全員がトマトのように真っ赤だ。
「す、すいません…ほ、ほんとに話すとは・・・・」
「フッ・・冗談だ…」『ぇえぇぇぇ!!』
『出席番号12番 古菲(クー・フェイ)』
「かなりの強者と見たネ。勝負して欲しいアル」
「役者不足だ。鍛え直して来い」
「分かったアル!鍛えなおして挑戦するアル!!」
◆
その後チャイムがなるまで色々なやり取りが行われた。
<獣、歓迎会に招かれる>
「あ、おった、おった。アスナおったぇ~」
職員室で帰り支度をしていたら、木乃香とアスナがやって来た。
「よかった~。帰ってたら家まで迎えに行かないといけなく成ってたよ~」
どうやら俺を探していたみたいだ……。
「どうした?二人して何か問題か」
「え~と…黙って私達について来て、アレ・・クロウ先生…うぅ、なんか違和感」
「しゃ~ないよ、何時もはアレイさんって呼んどんやから」
二人はそう言いながら俺の腕を抱いて引っ張っていく・・・・・・。
横の席の瀬流彦が「両手に花ですね」などと言っているのが後ろに聞こえてくる。
それを聞いてかどうか知らないが二人は機嫌がいいようで身体を密着させながらクラスの話をしながら俺と歩いていく。
俺は適度に相槌をつきながら話を聞いていたら教室の前に着いた。どうやらここが目的地のようだ。
二人は俺の腕を放しドアの両脇に立った。
「よし!準備はいいわね、木乃香!」
「ええよ!アスナ!」
『せーの!』と、掛け声と共にドアを開け放つ。
『ようこそ♡クロウ先生ーッ』
と、生徒達がクラッカーを鳴らし俺を出迎えてくれる。
どうやら歓迎会を開いてくれたらしい。
『ほらほら、主役は真ん中にー』と、数人の生徒に促されコップを渡された。
そして、委員長(雪広あやか)が軽く自己紹介をした後にジュースを注いで、俺の顔をまじまじと見てくる。
「どうかしたのか、委員長」
「あら、いやですわ。先生が余りに昔、アスナさんが言っていた想いっうぐ・・」「うぎゃーーその先を言うなーーいいんちょーーー」
委員長がアスナに拉致られ、少し離れた所でキャットファイトを始めた。
しかも賭けまで始まる始末…どこぞのバカ二人を思い出す・・・
「お疲れ様です、アレイさん。どうでしたか初日は・・・」
タカミチと学園長の秘書を兼任している源しずなが俺の近くの椅子に座ってきた。
「中々に楽しませてもらったよ。歓迎もしてくれているらしいしな・・・」
「あはは。昔からモテてましたもんね」
「へ~、やっぱり昔からモテたんやなぁ~」
いつの間にか俺の隣に木乃香が座って自然に酌をしていた。
「そうだよ。ここだけの話…ファンクラブも存在するくらいだからね」
「うわぁ、そんなんあったんやねぇ。あ、でもエヴァちゃんも雑誌もっとったかも」
何故かタカミチと木乃香、それと何処からかエヴァと茶々丸まで集まってきて俺の(主にタカミチとエヴァが語る)昔話が始まる。
何々がすごいとか、あれには驚いたとか途中から身に覚えのない武勇伝が混じりだしたがこれはこれで面白いので放置する。
武芸組というか褐色スナイパーや糸目忍者、マッドコンビが聞き耳を立てていたが、エヴァが細工していたから話の輪に入らない限り話は聞けないだろう。
ただ、クーフェイだけは素直に輪に入っていたのでモロに聞こえているはずだ。
現に「そんなに強いアルカ!!」とか眼を輝かせて叫んでいる。
「―あの、クロウ先生・・・」
振り向いて見るとユエが早乙女と宮崎を連れ立って俺の近くに立っていた。
ちなみに宮崎は早乙女の陰に隠れていた。
「うん?・・・・綾瀬君に早乙女君それに宮崎君か、どうかしたかね」
「あの、この前はありがとうごさいましたです。これお礼なのです」
と、紙袋を渡された。
後ろでアホ毛をにょんにょんと動かして早乙女が「ラブ臭が!強いラブ臭がする!!」とキョロキョロしている。
あのアホ毛はレーダーか何かなのだろうか……。
ユエが俺に話しているのを見て生徒達が『あのクールなユエが先生にアタックしてる!?』と騒ぎ出すと喧嘩していたアスナと話しに興じていた木乃香が詰め寄ってきて、
『夕映ちゃんとはどういう関係なの?/ユエとはどういう関係なん?』と、聞いてくる。
どこぞのアホ毛が「修羅場!?これが現実の修羅場なの!!」と、大興奮しているが無視だ。
それにこんな生温いのは修羅場とは言わん。昔、俺が昼寝していたらエセルとエヴァで添い寝権を争って別荘崩壊の危機にまで行ったことがある。
俺は隠す必要がない馴れ初めを語ろうとするがユエが慌てだす。恐らく失禁や迷子の事を気にしているのだろう。
暫らくはこのネタで遊ぶ心算なのだ、ばらす訳がない。
「そうなの。図書館島で困っていたのを助けだけなんだ。私はてっきり・・・」「アレイさんは何やかんやゆ-ても優しいなぁ~」
そんなことを言いつつ二人揃ってタカミチの昔話を聞きに戻っていった。
それをホッとした様な困惑した様な複雑な表情でユエが見ていた。
そうこうする内に歓迎会が終わり片付けをしたりして解散となった。