<親バカ詠春>
「お久しぶりです。クロウ、エセル、エヴァ・・・・木乃香(このか)の出産以来になりますか」
詠春が懐かしそうに言って来るが顔を会わせるのは本当に久しぶりだ。
これまで色々な事件(ナギ結婚式崩壊事件、第一次アスナ養育権争奪戦争、関西呪術協会神覚醒事件、第二次アスナ養育権争奪戦争、木乃美(このみ)出産時呪術合戦)にあの馬鹿供(紅き翼)は俺を尽く巻き込んできた。
今回の件も似たようなものなのだろう。と、詠春の奥さん(木乃美)が入れたお茶を飲みつつ考えていた。
「それで近衛詠春、話とはなんだ。まさか、旧交を温めるだけで私たちを呼び出した訳ではあるまい」
と、エヴァがお茶を啜り苛立たしげに訊いている。折角京都に来ているのに観光に行けずにいるからかなり不機嫌そうだ。
「ええ、クロウに相談と言うか・・・頼みがありまして・・・・」
詠春はそこまで言って決意を込めた目で此方を見てくる。
「・・・木乃香の事です。お気づきと思いますが何の因果かあの馬鹿(ナギ)以上の魔力を宿してしまって・・・・」
「・・・・・ああ、来るときに会ったからな。ついでにアスナを置いて来た。・・・・だが、まるで悪い事のように言っているがお前の娘だ。魔力は多いに越した事はないだろう」
あの大戦に参加しているのだ。詠春も色々と恨み、つらみを抱えているそんな奴の娘だ自衛の戦力は多い方がいい。
「・・いえ、できれば裏には係わらせたくないのです」
それを聞いて俺たちは呆然とした。
近衛詠春、魔法使いとの確執が深い関西呪術協会の長に戦後処理を円滑に進めるため、大戦の英雄、更にブラックロッジのトップと顔見知りという事でこの前就任した男だ。
剣士に政(まつりごと)のトップを任せるのはどうかとも思うが奥さんがかなりのやり手だったらしく今の所大きな問題は起きていない。
まぁその所為で出産時に呪いや呪術が飛び交ったが、・・・・・・今は関係ない。
そんな夫婦の娘だ・・・。大戦の復讐の標的、政治の道具、魔力タンクにと狙われる理由に事欠かなさそうな子に裏に係わらせたくないとは・・・・・・。
「無理だな」「ハッ、不可能だ」「アホですね」
と、俺、エヴァ、エセルが容赦なく否定されガックリうな垂れる詠春。
木乃香が産まれてから、「うちの子がハイハイした!!」とか「私をパパと言ってくれた!!」などと事ある事に連絡してきた奴だ。・・・・・・親バカなのは知っていたが此処までとは・・・・
と、考えていたら、うな垂れていた詠春が行き成り顔を上げ「このかーー!」と取り乱して叫びだした。
どうせ、いらん想像をしたのだろう。
エヴァが「ええい!落ち着かんか!!」と、かなり容赦の無い掌底を決め、「もんぶらっ!!」と、叫びつつ詠春が障子と庭を突き破り遠くでバキバキと生木が折れる音がするが・・・・・・問題ないだろう・・・・・多分・・・。
◆
「すみません。少々取り乱しました」
と、血をダクダク流しながらも平気そうな詠春が頭を下げてくる。
「それで頼みというのがその事ならさっき言った通り無理だ」と、苦笑しながら言う俺。
「いえ、嫁とも話して無理なのは分かっていた事なのですが、クロウならいい案が無いかと相談しただけです。まさかこんなボロボロになるとは思いもしませんでしたが・・・」
と、やはり苦笑しながら言う詠春。
それに対して「取り乱すお前が悪い」とニヤニヤしながらエヴァが言い切る。
「それで頼み(依頼)とはなんだ。内容にもよるが友人価格で請け負ってやろう」
「いえ、依頼の形にされると拙いのですが・・・木乃香をブラックロッジに捧げようかと・・・」
詠春も苦渋の決断なのか苦い表情だ。だが、それを聞いたエヴァたちは感心したようだ。
まぁ、ブラックロッジに帰属したらそれはそれで大変だが確実に外敵は減るだろう。
特に旧世界の人間なら手を出してこない。
しかも俺の身内という事になる。関西呪術協会の人間も俺たちに取り入ろうと、木乃香の支援に回るだろう。
実際よほど俺たちが怖いのか、麻帆良に攻めてくる関西呪術協会の人間から必ず事前に『ブラックロッジに敵対する心算はありません』という感じの書状が届く。
一度も学園長の近衛近右衛門に教えた事はないが・・・・・・
この策を考えたのは、木乃美だろうが娘の安全の為とはいえ、その意思を無視するというのは・・・・・・
「・・・ふむ・・・断る」
エヴァも賛成なのかうんうんと頷きつつ「これ以上簡単に(ハーレム)要員を増やすわけにはいかんからな」と呟いていた。
俺の答えを聞いて愕然としていた詠春の目元が翳ったと思ったら「・・・フフフ・・・うちの娘を愚弄する奴は・・・・・・斬る!!」と目の色を反転させ何処からか出した黒い妖刀で斬りかかって来た。
俺はその妖刀を指で白刃取りし、詠春には頭が弾け跳ばない程度の力加減のデコピンをかます。
詠春は「~~~~っ!!!」と声にならない悲鳴を上げながら俺の前でのた打ち回っていた。
◆
暫らくして回復したのか額を押さえながら「うちの木乃香の何処が不満なんだ」と詰め寄ってくる。
俺は詠春が回復する間に俺を乗っ取ろうとしていた生意気な妖刀を砕けるか砕けないかのギリギリの力加減で刃を握り締めながら、
「木乃香自体に不満は無い。魔力も多い上、利用価値も多々ある。木乃香自身が俺に身を捧げると言えば俺も一考しただろう。だが今回は木乃香の意思が介在していない。いくら親だからと言っても俺はそういうのは気に食わんのでな・・・・」
「・・・そうですか。クロウがそう言うのなら仕方が無いですね。・・・・・・ですが、小学生に上がる時に木乃香を麻帆良にやろうと思っているので、出来ればクロウの所に居候させてくれませんか?」
詠春がそう言って来る。要するに俺が受けようが断ろうが俺たちに近くに寄越して安全を図る心算だったらしい。
しかもアスナと友人になっているだろうから何かあったらアスナも手を出すだろう。
確かに此処で育つよりは安全で関西呪術協会の人間も手出しできないが・・・・・・
もしここまで考えていたのなら中々の策士だ。
「構わないが居候したら一週間待たずに魔法がばれるぞ」
「もう魔法の事は諦めていますよ。それに魔法をばらしたのならクロウの事だ。木乃香が望めば魔法を教えてくれるでしょう」
などと笑いながら言ってくる。確かに望めば教えるだろう・・・。
「それと下手をすると関東魔法協会に取り込まれるだろう」
「流石のお義父さんも本人の確認も無しに孫にそんな事はしないかと・・・・それに、麻帆良は世界樹の認識阻害結界と学園結界の二重結界でかなりの防衛力と魔法隠蔽力があるとか・・・・・・」
似たような事をしようとしていた奴がよく言う・・・・・・
麻帆良の地は俺が手を加えているのだ。全ての能力を開放したら防衛力と魔法隠蔽力だけで無く、全てに置いて他を圧倒しているだろう。
この後アスナと木乃香が乱入してきて話が有耶無耶になったがアスナに居候の件を知られ俺達の所に来る事が決まった。
予断だがエヴァの提案で一ヶ月ほど此処に滞在して京都観光をしていたが、その間に木乃香に懐かれ「うち、将来アレイと結婚するぅ」発言で詠春がキレて、死闘を行う破目になった。
流石は親バカ、現役時代より確実に強かった・・・・・・。
<正義のラスボス、真のラスボスに出会う>
2001年 1月 麻帆良学園 某所
私、超鈴音(チャオ・リンシェン)は約100年先の消滅した魔法世界からこの過去の世界に未来を変える為にやって来た未来人ヨ。
四年後にあるはずの世界樹の魔力発散現象を利用して、世界に魔法を認識させる強制認識魔法を使う計画を立てているネ。
この計画を遂行する為には人脈形成や根回し、そして、何よりも最凶にして最強の悪の魔法使いエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが手を出してこないように交渉しておかないといけないネ。
学園最強と言われている近衛近右衛門や紅き翼のタカミチ・T・高畑ならまだ与し易いヨ。
記録では普段、登校地獄と学園結界でほぼ無力化されて唯の10歳児と変らないらしいからそこが狙い目ネ。
そこで私は協力者の葉加瀬聡美(はかせ さとみ)と共同で生活から戦闘までサポートしてくれる万能ロボ『絡繰茶々丸(からくり ちゃちゃまる)』のボディーを作り上げる事に成功したネ。
これで予定通りエヴァンジェリンとの接点が出来るヨ。
今日、私たちは記録にあったエヴァンジェリンのログハウスに来ているのだが・・・・・・記録より明らかに大きくないカ、このログハウス。
私が過去に来た為のバタフライ効果(エフェクト)カ、はたまた、他の要因カ・・・・・・。
ウーー、悩んでなんていれないネ。私には前に進むしか残されてないヨ!私は決意を新たにしてドアの横に付いているアンティークなベル鳴らすネ。
「カラーン、カラーン」と耳に心地良く響き、暫らくするとパタパタと小走りな足音が近付いて来て「はーい、どちら様」と元気な声と共にドアが開かれた。
出て来たのは、聖ペテロ十字をあしらった鈴の髪飾りで赤毛をツインテールにした活発そうな女の子ヨ。
髪飾りが少々違うが記録映像で見た『神楽坂明日菜(かぐらざか あすな)』ネ。何故この時期に此処にいるカ・・・・・・・・・。
「―――ボソボソ(ベルを鳴らせたって事は普通のお客さんよね)―――。あのー、誰に用事なの?」
私が呆然としていた所為で不信げに明日菜サンに見られてしまったネ。この先何があっても驚かないように気を取り直し、
「あーその相談に来た超鈴音と言うネ。『人形使い』のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはご在宅カ?」
と、言ったら明日菜さんの目が一瞬冷たくになったような気がしたが確認する前に家の中に振り返ってしまったヨ。
「エヴァー!あんたにお客よー!・・・えっとチャオさんだっけ、じゃあ付いて来て」
◆
私たちは何処かの城のラウンジのような所に通されたネ。このログハウスの中はまさに異界の様だったヨ。
外見と中身の広さが全然違うネ。しかも窓から見えてる景色が広大な草原・・・・・・此処は麻帆良じゃないのカ!?
「それで私に何のようだ。・・・・アスナは裏(魔法)の関係者だろうといっていたが」
此処からが私の正念場ネ。
「改めまして、私は超鈴音(チャオ・リンシェン)こっちは協力者の葉加瀬聡美(はかせ さとみ)ネ。私達は持てる科学の全てで自動人形(ロボット)を作ったネ。その人形の動力の事で『人形遣い(ドール・マスター)』としてのエヴァンジェリンさんの知恵を借りたくて此処に来させてもらったネ」
「ほーう・・・私に頼み事をするという事がどういう事か分かっているのか?」
エヴァンジェリンさんがニヤニヤしながら聞いてくるが計算の内ヨ。
「分かっているヨ。私たちの全てと言っていい、生活から戦闘までサポートしてくれる万能ロボ『絡繰茶々丸(からくり ちゃちゃまる)』を捧げるネ」
どうネ!登校地獄と学園結界で苦しんでいるエヴァンジェリンは喉から手が出るほど何でも言う事を聞く従者が欲しいはずネ!
「・・・私たちの全てか・・・正直、人手は腐るほどあるが話位は聞いてやる」
あれ・・・なんか予想していた反応と違うネ。でも、話を聞いてくれるならまだ脈があるヨ。
そう思いながらチャオは茶々丸の仕様書をエヴァンジェリンに渡しプレゼンしだす。
◆
「・・・なるほど、魔力を動力とした機械の身体・・・魔法科学か。―――ボソボソ(アレイ以外にこんな事を考える奴がいるとはな)―――」
エヴァンジェリンは感心した様に仕様書を流し見していたネ。いい感じヨ。
「そうネ。私たちは魔法に関しては門外漢ネ。それでエヴァンジェリンさんが持っている魔法の知識を貸してほしいネ」
「中々に面白そうな試みじゃないか。いい暇潰しになりそうでもある・・・だが助言を受けるなら私よりもアレイの方が良いだろうな・・・一応聞いてみるか・・・」
アレイとは誰ネ!?・・・エヴァンジェリンがなんか仮契約カードで連絡してるがその相手カ?記録ではエヴァンジェリンは人間相手には誰とも契約してなかったはずネ。ほんと、どうなってるカ!
「・・・・・・アレイも興味が出たようだ。よかったな。上手くすればありえん様な物が見れるかも知れんぞ・・・」
エヴァンジェリンが私を見てニマニマしてるガ・・・どういう意味ネ・・・嫌な予感しかしないヨ。
◆
私の前でアレイ・クロウとエセルドレーダと神楽坂明日菜と紹介された人物たちが茶々丸の仕様書読み終わり、アレイと呼ばれた人物が私たちを見てくるネ。
でも、なんネ、この人の瞳は。金色なのに一切の光が宿ってないネ。まるで底なしの穴を覗き込んでいるみたいヨ。
「・・・さて・・・チャオ・リンシェンだったな。・・・貴様、何者だ・・・?」
私はアレイにそう訊かれた瞬間、魂まで凍りついたかと思ったネ。背中の冷や汗が止まらないヨ。
「・・・・・な、何者とはどういう事ヨ。私は唯の科学と発明が好きな美少女ネ」
私が冗談混じりに答えたら部屋の重力が一気に倍になったように空気が重くなったヨ。
「・・ほう・・現行の科学力を軽く凌駕しておいて、唯の科学と発明が好きな美少女・・・か・・・」
アレイはニヤリと、さも面白いと言わんばかりにプレッシャーを掛ける。
チャオは顔を青くしてガクガク震えながらも、
「・・・そ、そうネ。唯の美少女ヨ。それ以外の何に見えるネ」
チャオは気丈にそう答える。ちなみにハカセは早々に気絶していた・・・・・・
「・・・・この威圧で気絶しない時点でまともな部類ではあるまい・・・もう、一度だけ訊いてやる・・・貴様は何者だ?」
「・・・・・・ちなみに正直に答えないと私どうなるネ?・・・・」
「ふむ・・・そうだな、無理やり脳髄から記憶を引きずり出す。確実に気が狂うが構うまい・・・・・・」
アレイとエヴァはニヤニヤと、アスナは哀れな小動物を見るような目でチャオを見ている。
「は、話すヨ!全部話すからそれは勘弁して欲しいネ!!」