爬虫類を消し去ってやった後、俺は宮殿の中心部と思われる所に侵入した。もう儀式は始まっているようだ。中心部に近づくほど空気中の魔力が希薄になってくる。
中心部は祭壇の様になっていて真ん中にクリスタルの結晶のような物が浮いていた。その中にアスナが囚われている。
アスナの目の前まで近寄っていく。
その途中で儀式が完全に発動し魔力が爆発的な勢いで消失いていく。ここら一帯は最早魔力が完全に存在しなくなっているようだ。
俺個人は体内に莫大な量の魔力があるから関係ないが普通の人間はすぐさま魔法が使えなくなるだろう。
俺はクリスタルに触れ術式に亀裂を入れる。その瞬間クリスタルが弾け浮いていたアスナが徐々に降りてくる。
その間に細工をしたアスナの写し身を作り出し変わりに浮かべてやる。すると弾けたクリスタルが集まってきて始めの様に写し身を捕らえた。
俺は降りてきたアスナを優しく抱きかかえてやる。すると今まで寝ていたようだったアスナが目を覚ました。
「・・・うぅん・・・ア・・レイ・・・・・」と、アスナが呟く
「ほう、覚えていたか。・・・・・アスナが外に出たいと思えば連れ出そうと言ったがその返事を聞きに来た」
感情の映らない瞳を覗き返答を待つ。
「・外・・・出る・・・」
と、理解しているか怪しいが一応返事はしてくれた。なので、アスナを抱えエセルが用意している部屋に転移する。
◆
アスナは覚醒したばかりで疲れているのかまた寝てしまった。仕方ないのでベットに寝かせエセルに付いている様に言いつける。
俺はその間にナギたちの様子を見に行く事にした。
◆
何時も使っている飲み屋兼宿にナギを探しに行くと治療中らしい。
知り合いと言うことで部屋に通してもらうと珍しく沈んだ空気だった。
部屋の中を見回すとゼクトがいない。どうやら逝ったらしい。
「お疲れだな」
「おっ、よう、聞いたぜ。あのデッカイので大暴れして、あのドラゴン消しちまったんだってな」
「ああ、キッチリ逝かせてやった」
不敵な笑みを微笑みながら言ってやる。それを受けてナギたちもなんとか笑っていた。
「そう言えばアレイ。貴方は最後のほう何処に居たのですか?」
と、アルが訊いて来る。まぁ、こいつ等に隠す事でもないので軽く話す事にする。
「ナギが造物主と殺り合っている間に、火事場泥棒をしていただけだ」
俺がニヤニヤしながら言うとアル以外がポカンとした顔をした後、ムッとした顔になった。
まぁ普通そうだろう死に物狂いで戦っている時に泥棒をしていたと言われればそういう反応だろう。
ナギたちが何か言う前にアルが再び口を開いた。
「最後、光球が勢いを弱めたのは貴方の仕業でしたか」
「あぁ、どう言う事だアル」と、かなりドスの利いた声でナギが言ってくる。
「ナギ。彼は姫御子を掠め盗って来たそうですよ」
と、くっくっとアルが笑いながら言うとアル以外が、「はぁーーー!!」と言はんばかりに口をあけ目を丸くする。
「じゃ、じゃあ、姫子ちゃんは封印されてないのか!?」
「ああ、今、俺の部屋でエセルが見ている」
「・・・・・はぁ、そうか、・・・・サンキュなアレイ」
「気にするな。アスナとの約束を果しただけだ。・・・・・・これで王女にいい顔が出来るな」
最後の方だけニヤリとしながら言ってやる。
ナギは顔を真っ赤にしながら「かっ関係ねぇ!!」と取り乱し、それをラカンが茶化すという何時ものパターンに入っていた。
けが人なのに乱闘する馬鹿二人は置いといてアルが続きを聞いてくる。
「それで、アレイはこれからどうする心算なのです?姫御子を匿うのなら帝国には居られないでしょう」
「明日の調印式を見届けてすぐさま、旧世界のブラックロッジの支部に戻る予定だ」
「そうですか。ならば、やはり麻帆良ですか?」
「一応な、あそこは数百年掛けて表も裏も整備した土地だから何があろうとあそこなら対処できる」
クククッと黒いオーラ出しながら笑って言い切る。皆引いたがその中でナギが思い出したように、
「あ、今度遊びに行っていいか?姫さんと約束してんだ。姫子ちゃんと一緒に詠春の故郷に遊びに行くって」
「ああ、歓迎してやる」
それから他愛の無い話で盛り上がりつつ、再会を約束してテオの元へ向った。
◆
「調子はどうだ。テオ」
「おお、アレイか。うむ、戦争も終わり絶好調じゃ!」
明日の式典の準備をしながら答えを返して来る。
「そうか。・・・・明日の式典後、俺はすぐさま旧世界に戻らなければならなくなった」
それを聞いたテオはショックで固まってしまったようだ。
暫らくすると、目に涙を溜めつつ近付いて来て上目づかいで聞いてくる。
「・・・どうしても帰らないとならんのか」
「・・・・・ああ」
「・・・・・アレイ・・・どこにもいかんでくれ!」
と、テオが泣きながら足にしがみついてきた。俺はそんなテオの頭を撫でてやりながら、
「すまない、テオ。・・・・・だが、今生の別れと言うわけではない。また、暫らくしたらまた会える」
「・・・ぐじゅ・・・ほんとじゃな?」
「ああ、何時になるかは分からんが。また、会いに来る」
「ぐじゅ・・・絶対じゃぞ」
その後、テオの機嫌を取り、ラヴをここに置いていく事を伝え、エセルの待つ部屋に転移して帰るときに、
「―――――引き留められるくらいイイ女になるのじゃ」とボソボソ聞こえたが・・・・・気のせいだろう。
◆
翌日、滞りなく式典は完了した。これをもって俺の名(マスターテリオン)は英雄となったそうだ。
有象無象が俺をどう呼ぼうがどうでもいい事だが、MMの奴らには関係が無いのか未だに賞金を取り下げる心算は無いようだ。
現在、俺は態々前もって予約していたゲートの近くに来ていた。
そこには予想通り、完全武装したMM元老議員の私兵らしき軍隊と鬼神兵が15体ほどいた。ご丁寧に人払いまでしてあるらしく周辺に人の気配はない。
さてどう潰そうかと考えながら不敵な笑みを浮かべてそいつ等に近づいていく。
「アレイ・クロウ改めマスターテリオン!!貴様には完全なる世界に関与し、今回の戦争を裏から操っていた容疑が掛けられている同行しろ!!」
議員っぽいのがかなり偉そうに薄ら笑いを浮かべて言ってくる。
「ふむ、断るとしよう」
折角だMMに俺を相手にするという事はどういう事か躾けてから帰るとしよう。
「な!!貴様の様な悪人に拒否する権利など無い!!」
外野からも嘲笑の声が飛ぶ。
「フッ、余に貴様程度の小悪党に従う義務は無い」
俺がわざと鼻で笑ってやると頭に血が上ったのか顔を赤黒く染めながら此方を指差し、
「身柄を確保して来いといわれたがもう関係ない!殺せ!!殺してしまえ!!」
「これだから小者は嫌なのだ。会話すら成り立たん」
あえて、ヤレヤレだと言わんばかりに溜め息を吐きつつ小馬鹿にしてやる。
「~~!何をいている!!殺せと言っているだろう!!さっさとしないと貴様等も唯ではすまさんぞ!!」
と、わめき散らすが兵士達は一向に動く気配が無い。
おかしい事に漸く気付いたのか後ろを見るが別段変った所は無いように見える。
実際はある一定レベルを超えた人間になら極悪なまでに練り上げられた魔力で作られた、不可視の糸が見えたであろう。
「貴っ様ぁ!!なにをしたぁ!!」
「なに、お前程度のゴミには見えぬ方法で逃げられぬよう縛っただけだ」
「へ、兵士を縛ったくらいでいい気になるなよ!こ、此方にはまだ鬼神兵がいるんだぞ!!」
「ああ、流石の余も鬼神兵は縛れぬな」
と、俺はクツクツと笑いながら言ってやる。実際は大嘘だ、鬼神兵如き縛るのはたいした労力ではない。
それを聞いた議員は翳っていた顔色がよくなっていき気を取り直したようだ。
「ククッ、余裕の顔を居ていられるのも此れまでだ!此処に張った結界はアーティファクトを呼び出すのを阻害する!あの巨人はもう呼び出せん!貴様の死は確実だ!!」
と、言って高笑いしだした。
あの無意味に見えた術式はそういう効果があったのかと思いつつも、こいつら程度にリベル・レギスを使うわけも無く、そもそもアーティファクトではない。要は無駄な努力である。
「ほう、そうなのか」
これ以上の馬鹿は見たことが無いと言わんばかりの目をして聞いてやる。
すると先ほどま笑っていたのが止み、信号機みたいに顔色が赤から青に変わった。
「こ、こ、こるれぇ~~~!!!!」と、とうとう人語すら喋れなくなったようだ。
その声に反応した一体の鬼神兵が俺に向って跳びかかり全体重を使って下手に構えた剣で突き殺しに来た。
それは直撃し衝撃波と砂埃が舞い上がる。
「あひゃははは、私のいう事を聞かない貴様が悪いのだ!ははh・・・・・・・・・はぁ!」
砂埃が晴れ、そこには何とも涼しい顔で剣の切っ先を掴み鬼神兵ごと持ち上げているテリオンの姿があった。
「先ほどから勘違いしているようだが貴様ら程度の雑魚にはデウス・マキナはいらん。余の生身一つで十分だ」
そう言いつつ、持ち上げていた鬼神兵を他の鬼神兵に投げつけ議員を縛り、
「そこで待っていろ。鬼神の名を騙るまがい物を解体した後に相手をしてやる」
と言い放ち、鬼神兵に目にも止まらぬ速度でせまる。
そこから始まったのは蹂躙と言う言葉すら生易しい物だった。
どんな攻撃も避けようとせず正面から受け傷一つ付かず、むしろ攻撃した剣や拳が砕け散った。
テリオンが拳や蹴りを繰る出せば攻撃を受けた部分が弾け飛び鬼神兵を解体していく。
そんな物を見せ付けられている議員や兵は堪った物ではない。しかも始終テリオンの楽しそうな笑い声が響いていた。
そんな物を見聞きして平静でいられるわけも無く必死に逃げようとするがその程度でテリオンが組んだ術式が破れる訳も無く。
ひとしきり解体が終わったのか笑い声が消え、辺りには無残な鬼神兵の残骸が転がっていた。
そして、先ほど縛り上げた議員の前にテリオンが戻ってきた。
「さて、次は貴様らの処遇だがどうして欲しい」
異界の狂気と暗いオーラを放ちながら、黒い愉悦に頬が緩むのを感じつつ優しく聞いてやるテリオン。
「ヒッ・・・た、助けてください。じ、上司に言われただけなんだ!命だけは!命だけは!!」
元よりこいつとあと一人、メッセンジャーとして生かして置く心算でいたが、・・・・・ただで生かして置く心算は無い。
「ふむ、そうか・・・まぁ・・・いいだろう。・・・・・そう言えば貴様は餓鬼と言うものを知っているか」
真っ青ながら嬉しそうな顔で必死に答えようとするが構わず言葉を続ける。
「餓鬼と言うのは常に飢えと乾きに苦しみ、食物、また飲物を欲している小さな子鬼でな。何でも喰らい尽くす」
そこまで言うと困惑した顔で冷や汗を掻き出していたが無視し更に語りながら今度は近場の一人の兵士に近づいていく。
「もう一人くらい欲しい所だ・・・・貴様でいいだろう。今から起こる事を一部始終見て余を・・・黒の皇を相手にするとはどういう事か伝えろ」
そう言い兵士の甲冑のヘルムを剥ぎ取り、議員の方へ戻る。
「慈悲だ。命だけは助けてやる。ああ、それとサービスだ痛みで気が狂わんようにはしておいてやろう」
そう言いテリオンが指を鳴らすと先ほど語られた餓鬼が一人一匹のの割合で先ほどヘルムを脱がされた兵以外の目の前に現れた。
全員半狂乱になり泣き叫ぶがテリオンは取り合わず更に語る。
「じっくり味わうように命じてある。誰を相手にしたのか噛み締めながら逝くといい。・・・・・クク・・あは・あはははははははは・あはははははははははははははははは」
テリオンは笑いながら歩き出す。
そうするとマテをとかれた犬のように一斉に餓鬼達が喰らい付いた。
「ヒーー」「・・ぎゃぁぁ」「待て・・・喰うな・・喰うなぁ~」と、その場は阿鼻叫喚の地獄絵図となる。
そして、テリオンはどこかに向って転移していった。
その場には、大量の鬼神兵の残骸、この世の物とは思えない苦悶の表情を浮かべた兵士の人数分の生首、苦痛にあえぐ手足の無い議員、そして、死んだ魚のような目をして『・・・黒の・・・皇・・・』と呟く兵士だけが残されていた。
◆
その後、MM議員の別働隊に発見され、手足を失くした議員の上司の独断でこれはテリオンが行った犯行であると発表され賞金額がもう1000万ドル上乗せされた。
これによりマスターテリオンはMMよりの人間からは魔王、それ以外からは英雄と呼ばれるようになる。
予断だが発表後に議員上層部と発表した議員が生き残った兵士の記憶を見ることになり、その場で胃の中の物をぶちまけ深いトラウマを植えつけたという。
なお、発表した議員だが報復を恐れた上層部が社会的に抹殺したそうだ。