転生先生テリま   作:物書き初心者

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獣、招喚す

 あの話し合いの後、帝国勢力の真っ只中に放り出すわけにもいかず、紅き翼の隠れ家まで連れて行く事となった。

 

 転移を多用したのでそれほど苦労はないが、その途中で紅き翼と俺が賞金首になっていることに気が付いた。

 

 俺はテリオンとして手配されていて今まで顔がなかった手配書に俺の顔がでかでかと載っていた。ちなみに賞金額は相変わらずの3000万ドル。紅き翼は王女誘拐やなにやら色々捏造されたみたいでナギと詠春がキレていた。

 

 隠れ家に着いたら何故かナギが王女の騎士に任命されたり、それにテオが対抗しようとして俺に『騎士になるのじゃ』と言ってきたが謹んで辞退した。

 

 その後は予定通り、拠点潰しや国の浄化などで時間がどんどん過ぎていったのだが。

 

 とあるバカン曰く、映画なら3部作、単行本なら14巻くらいの死闘らしいが、正直此方はぬるゲー。

 

 情報収集はエセルと使い魔が、国の浄化は皇帝とテオが、俺は3秒と持たない拠点潰しとラヴのお蔭で居ても居なくても変わらない護衛しか仕事がなく、賞金稼ぎも額にビビッたのか全く現れない。ほぼ毎日バカンス状態である。

 

 そんな日々を送りながらとうとう敵の本拠地が判明した。それとアスナの居場所も。

 

 そして、俺とエセルが帝国側の先遣隊として派遣される運びになった。

 

 

  ◆

 

 

 現在、オスティア王宮最奥部『墓守り人の宮殿』が見渡せる所に紅き翼と立っている。

 

 この後、混成部隊で周りを牽制しつつ、俺達と紅き翼が宮殿に乗り込む事になっている。そして、準備が整ったのをアリアドネーの隊員が伝えに来たが・・・・・・・・・

 

 こいつら全く緊張してやがらない。つか、アリラドネーの隊員・・・・・今の状況でサインねだるのはいいのか?しかもナギのサイン貰った後に何故此方を期待の眼差しで見てくる。

 

 仕方がないので書いたが、何故かエセルが隊員に睨みを利かせていた。その隊員はサインがよほど欲しかったのかビクつきながらもキッチリサインを受け取って帰っていった。

 

 そうこうしている内に、ガトウから連絡が入り、連合、帝国の援軍がこちらに来るのが遅れると知らせが来た。要するにこの戦力で『完全なる世界』と戦う事になるらしい。

 

 戦力的には、俺とエセルがいる時点で最終的に負けはない。だが、あいつがこの世界を作った張本人だというのなら数をそろえても意味はないだろう。

 

 魔術とは世界と言うプログラムにハッキングして自分の思い通りの現象を起こす術だ。

 

と、いう表現がどこかで使われていたが、その言葉を借りるならアイツはこのプログラムの生みの親、下手をするとこの世界の中でならかなりの無茶が効くはず。

 

 そう考えれば実際の有効戦力はナギと詠春、それと俺たち位か・・・・・

 

 そんな感じのことを考えていたら宮殿の方から視線を感じたのでそちらを見てみた。

 

 すると何故か造物主がアンティークな望遠鏡でこちらを見ている。

 

 なんであんな物でこっちを見ているんだ。と、少々呆けた顔になりながらも注視していたら造物主も気付いていたのか軽く片手を挙げ、そして、下を指差す。

 

 反射的に下の方を向くと、宮殿を背景に200m級の魔方陣が行き成り出現し、その中心に巨大な黒いドラゴンが生み出される。

 

 周りは騒然となったが無理も無い、見た事も聞いた事もないドラゴンが行き成り召喚?されたのだ。

 

 見た目は龍樹のような感じだが、色がカーボンの様なツヤがない黒で何よりデカイ。

 

 今は丸まって空中に浮いているが翼を広げれば下手をすると200mは有るかもしれない。

 

 横から「あんな種は存在しません」とか「オイオイ、マジかよぉ」「ハ、ハッ、どど、どんな奴が出てきても、ぶったおしてやるぜ」など、紅き翼はかなりテンパっているようだ。

 

『お気に召してくれたかね。テリオン殿、あれは貴方の足止め専用に創ったドラゴンだ』

 

と、行き成り念話が聞こえてきた。周りの反応が無いので俺以外聞こえてないのだろう。

 

『その名は名乗った覚えは無いのだが。まぁいい、それで行き成り念話して来てどうした。命乞いでもする気か』

 

と、不敵な笑みが自然と浮かぶ。

 

『いえ、何故貴方がそちら側に付いたのかが気になったのでね』

 

『あの異界が気に入らない・・・・ただ、それだけだ』

 

『そうか、では、この儀式以外は邪魔しないのだな』

 

 聞こえてくる声に安堵の雰囲気が混じっているが、俺個人の今回の主な目的はアスナの確保にある。

 

 そして、今回の儀式の核になっている位の重要度だ。今後敵対しない保障はない。

 

『さて・・どうだろうな・・・・』 

 

『私としてはそうなる事を願っているよ。では、また会えたら会おう。・・・・ああ、それとあのドラゴンは君を執拗に狙うように設定してある。では、また』

 

と、かなりの高速思考で行われた念話での会話が終わると、見計らったかのように丸まったいたドラゴンが起き翼を広げ大地が揺れるような咆哮をして俺に喧嘩を売るように殺気を飛ばしてきた。

 

 その咆哮を聞いた周りの混成部隊の奴等は悲鳴を上げたり、パニックになっていてとても戦闘が出来る状態ではなくなっていたが正直丁度いい。

 

 乱戦になってしまうとアレが使い辛くなってしまう。

 

「・・・・ふむ、ナギ。あれの相手は俺たちがしてやる。お前達は先に行って儀式を止めて来い」

 

「はぁ!アレイ何言ってんだよ!!あんなでっけぇのどうやって二人で相手する気だ!!」

 

「全員であれの相手をいているような時間は無い。それに切り札を使うのに他の奴等は邪魔でしかない」

 

 俺は仮契約カードを出して不敵に笑ってみせる。

 

 それでも周りからは「ナギの言うとおりです」など魔法世界組は過剰なまでに心配してくる。

 

 詠春は目でお前を信じてると語ってくるがやはり心配そうにはしていた。

 

「・・・・邪魔って・・・じゃぁその切り札ってのを使ったら勝てんのか?」

 

と、ナギは苦笑しながらも任せて大丈夫なのかと目で問いかけてくる。

 

「ああ、正直周りに甚大な被害を出すから余り出したくは無いのだがな・・・・・」

 

と、そこで言葉を切り、エセルに目配せし鬼械神(デウス・マキナ)招喚の術式を走らせる。

 

「・・・・来い!!リベル・レギス!!!」

 

 俺はそう叫び、幻覚で仮契約カードを使ったように見せかける。後々の追及をすべてアーティファクトで押し通す為だ。

 

 俺の背後で60m位のこの世界では存在しない言語の複雑怪奇で微細な魔方陣が出来上がり、その中心の空間が割れた。

 

 そして、そこから巨大な真紅の鋼が出てくる。

 

 その鋼を見てすべての人間が息を呑んだ。

 

 

 神々しくも美しい血よりもなお紅い真紅

 恐怖や絶望、狂気を感じさせる翼を折り畳んだ姿

 怒りと憎悪、色々な印象をうける圧倒的な存在感

 

 色々な物がごちゃ混ぜになり、その刃金は人の魂を揺さぶる。

 

 それは機械の巨人、機械仕掛けの神、鬼械神デウス・マキナ。

 

 

 無限螺旋を抜けて始めてリベル・レギスを招喚したが、昔に比べ随分丸い印象を受けることに驚いた。

 

 黒き魔術の皇の絶望と恐怖の具現、極限の魔神とまで言われていたが今は負の力だけでなく正の力まで内包しているような印象を受ける。

 

 これは、俺が旧神の因子を身に宿している所為ではないかと思うが、実際の所は分からない。

 

 色々考察をしたい所だが一先ず置いて、呆けているナギに向き直り、

 

「道は開けてやる。お前たちは宮殿へ向え」

 

と、言い放ちナギたちに背を向けリベル・レギスに乗り込んだ。

 

   ◆

 

 リベル・レギスのコックピットと言うべき立体魔方陣の球体の中で久振りの感覚に身体を浸していた。

 

 圧倒的な力の本流、その力を今からあの哀れな爬虫類に叩き込む事を考えると、人知れず身体から黒い物がにじみ出てしまう。

 

 クツクツと笑いながら、

 

「さて、エセル。この世界に我ら三位一体の力見せ付けてくれようではないか!」

 

と、俺と同じような球体に入って前に浮いているエセルに向って宣下し蹂躙する為にあいつの元に向う。

 

「イエス、マスター」

 

と、エセルの声が返ってくる頃にはもう奴の正面に転移して顔面に踵を振り落としていた。

 

 蹴りを食らったドラゴンは頭が砕け、首も引き千切れそうに成りながら、空気の壁を打ち破り、さながら黒い流星の様に堕ちて行く。

 

 取り敢えず、宣言通り道を開いた事に満足しつつ、まさか、一撃で終わる等と興醒めさせてくれる事はしまいな。と考えつつ空を滑る様にリベル・レギスを流星が落ちるであろう場所に向わせる。

 

 それは隕石の衝突のようだった。強烈な衝撃波を撒き散らし巨大なクレーターを作り出す。

 

 その中心には完全に手足や羽が千切れ飛び、黒、赤、ピンクの色彩に彩られた原形を止めていないナマモノが散乱していた。

 

 まさか、ほんとに一撃で終わってしまうとは・・・・・興醒めだなと考えつつも、爬虫類相手に鬼械神を使ったのだ痕跡が残っているだけ良くやった方かとも思う。

 

 まぁいい、アスナを探して連れ帰るかと気を取り直してエセルに探索を頼もうと声を掛けようとしたその時。

 

「マスター。屍骸が魔力に還元されています。おそらくもう一度ドラゴンとして顕現させる気のようです」

 

 エセルがそう報告している間に肉塊が花びらのような物にほどけ、先ほどと同じ召喚陣からドラゴンが出現してきた。

 

「ふむ、無限召喚と言った所か・・・・・・・おそらく核となる術式を壊さない限り召喚し続けそうだな」

 

「イエス、マスター。それにもう時間が残されていないと思われます。何時この世界の崩壊が始まってもおかしくない魔力の推移です」

 

 なるほど、ならば何処に在るのか分からない核ごと、あの爬虫類を瞬時に滅するまでだ。

 

「エセル、奥義をもって瘴滅(しょうめつ)させる」

 

「イエス、マスター」

 

 

 第一近接瘴滅呪法『ハイパーボリア・ゼロドライブ』

 

 それは、負の無限熱量、白く焔える極々低温を刃とし瘴滅必死の手刀とするリベル・レギスに搭載された一撃必滅の奥義

 

 

 俺はリベル・レギスに右手刀を前に出し左上段に構えさせる。爬虫類も漸く此方にノロノロと羽ばたいて来ている。

 

「我が怨念! 余さず纏めて極めてやろう! 享けよ! 極低温の刃!」

 

 俺は右手刀に呪法走らせ言霊を叫ぶ。するとリベル・レギスの右手に世界を静かに停止させ凍えさせる白く炎える焔が宿る。

 

 そして、リベル・レギスは弾かれたかのよう勢いでドラゴンに迫った。

 

「「ハイパーボリア・ゼロドライブ!」」

 

 手刀を振り落とし、ドラゴンをすり抜ける。

 

「瘴滅!」

 

 そうエセルが叫んだ瞬間ドラゴンは真っ白に燃え尽き静かに消滅した。

 

 俺は血振りをするかのように手刀を振りながら宮殿を仰ぎ見る。

 

 宮殿は内側から魔法を受けボロボロになっていた。この戦闘の終焉はもう間近のようだ。

 

 

 


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