いったい何故こんな事に・・・・・・・・・
俺の目の前には捕って来いをして、見事目的の者を持ち帰ってきた忠犬(エセル)がちょっと期待した目で此方を見上げてきている。
まぁ、頭を撫でてやるのだが、その後ろに何故か湯気か昇り、レアに焼かれた年齢層がバラバラの7人の男が倒れていた。言わずもがな紅き翼の面々である。王女、テオ、ラヴが俺の渡した薬を飲ませて介抱しているので直ぐに復活するであろうが中々に痛々しい光景である。
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「で、何であんな姿で連れて来られたんだ」
俺は、ようやく復活したナギたちに一応訊いてみる事にした。大体予想がつくが、どうせエセルが連れて行こうとして断るかなんかで実力行使に出たんだろう。と俺は考えていたんだがナギたちの反応を見ると違うようだ。
何故かアルが全員からジト目で睨まれてる。アルも額から一筋の汗を流しながらいつもの笑みを浮かべつつ誤魔化そうとしているようだ。
「私がマスターからの用件を伝えようとしたのですが、あの駄本が行き成り欲望にぬれた目で襲い掛かって来ましたので、変態を制圧し、一緒にいる者たちも危険と判断、無力化して持って来ました」
王女とテオのアルを見る目が汚物を見るようなものに変わった。流石にその視線には耐えられなかったのかアルが崩れ落ちた。
「・・・私はただ・・・・・口説いてイヌ耳、スク水セーラーを着て欲しかっただけなのです・・・・・・・・貴方なら・・・同士である貴方分かってくれなすよね!アレイ!」
OTL状態のアルが此方を縋る様に見てくるが流石にこれは庇う気も起きない。
「崇高なるマイ、マスターが行き成り欲情するような駄本如きの想いを理解する必要はないのです。ましてや同士などと・・・・存在を消し去ってしまいたい位不愉快ですが、こんな駄本でもまだマスターの役に立ちそうなのでそれだけは勘弁してあげましょう」
エセルの言葉と絶対零度の雰囲気に、皆引き気味になりながらも考える事は一緒だった。
《この娘、アレイの役に立たないと分かったら本気でアルを消す気だ・・・・・》
この後アルは凹み部屋の隅でカビを生やしていた。
もうこの事には触れない方がいいと判断したのか、王女が此方を睨みながら、
「さて、そろそろ、話してくれても良いのではないか。その娘の事を含めて」
と、言ってくるが、紅き翼の面々は復活したばかりで事態が飲み込めていないみたいで
「おい、姫さん、話って何だよ。つーか此処どこだよ」
と、ナギが言って来るが他の連中も似たような感じで口にはしないがこちらを不可解そうに見ていくる。
「此処は俺の部屋でナギたちを連れてきたのはそこの王女を持って帰って貰おうと思ったからだ。話と言うのは・・・・・ゼクト、記憶を見れる魔法を使えるか」
「うむ、使えるが・・・なんじゃ、お前さんの記憶でも見るのか?」
「いや、俺の記憶はかなり有害なんでな止めておけ。王女かテオの記憶を覗かせてもらってくれ」
「待て。何故に私の記憶を提供しなくならんのじゃ」「そうじゃ!そうじゃ!」
と、王女が待ったを掛け、テオが調子よく片手を上げている。
「・・・・・ふむ、SAN値直葬されていいのであれば見せてやるが・・・・・どうする」
日ごろは出さない、異界の狂気をにじみ出しながら訊いてやる。ナギ達には黒い陽炎が俺の周りに纏わりついて見えるだろう。
「産地直送とはなんじゃ・・・お主から出ているものが危険な物なのは解るがそれと関係が有るのかの」
と、ゼクトが訊いてくる。それの説明しようとしたら、横に控えていたエセルが大判のデッサンノートを胸の前に出して一歩前に出た。
「SAN値とは、正気度を表す数値です。これが0になると発狂します。SAN値直葬とは、この数値が一瞬にして0になることを言います。例えるならこうです・・・・・・・」
デッサンノートにSAN値、SAN値直葬と書かれて見していたエセルがページをめくる。そこには元気の良さそうなナギぽい漫画絵が描かれていた。
「これが・・・・・SAN値直葬されるとこうなります・・・・」
また、エセルがページをめくる。そこには手をバタつかせ意味不明な記号を叫んでいるナギぽい漫画絵が描かれていた。
「・・・・なんで、俺・・・」と、ナギが呟くが、皆、苦笑していた。
「要するにお主の記憶を覗けば理由はわからんが正気失うと、そういうことなんじゃな?」
「俺だけじゃなくエセルもだが。呪いみたいな物だ、精神干渉関係を受けると逆侵食して狂気を植えつける。・・・・それでも見たいというなら見せてやるが」
と、にやりとしながら言ってやると俺とエセル以外が一斉に首を横に振っていた。
その後、王女が自分の記憶を見せることで話は落ち着いた。予断だが、その際ナギがちょっかいを出し空中を舞っていた。
◆
「アイツは議員を殺して成り代わっていた奴だ。アレイはあいつのことを知ってるのか」
ナギは真剣な顔をして此方を睨みつけてくる。ナギだけでなくほかの全員もだが俺の回答を真剣な顔して待っているようだ。
「知ってはいるが教える気はないな」
「何でだよ!戦ってたって事は仲間って訳じゃないんだろ」
「仲間じゃないが敵でもないからな・・・・・」
「敵じゃねーて・・・・じゃ、誰の味方なんだよ!」
「基本的には自分の味方だな。今は強いて言うならテオの味方でもある」
ナギたち幼少組は納得しかねる顔をいていたが、ゼクトたち大人組は苦笑していた。
「じゃぁ教えてくれていいじゃねぇーか」
「ふむ、なら訊くが俺が『完全なる世界』の奴らが実はいい奴で他の奴らが間違っているんだ。と言って信じるか?」
「はぁ!信じるか!戦争を陰で操ってるような奴等のどこがいい奴なんだよ!!」
ナギが吠えるのに合わせて、他の奴らも肯定する。
「逆に極悪人だ。そう言われたら理由も聞かずに信じただろう。それに俺には真偽を確かめる魔法は効かない」
ナギ以外が一斉に難しい顔になった。
「要するに、貴方は私達が信じたい方を信じてしまう。そして、本当に真実なのか分からない。そう言いたい訳ですね」
いつの間にかアルが復活して話しに入ってきた。
「そうだ、事実はどうであれ、人は信じたい物を信じるからな。だから、あいつらの事は自分達で調べろ」
「では、一つだけ教えてください。『完全なる世界』のやっている事をアレイ自身はどう考えているんですか」
「あいつらにも言ったが、否定も肯定もしない。ただ今回の事はやり方が気にいらんから潰そうとは考えている。そんな所だ」
アルはいつもの胡散臭い笑みを浮かべ、クツクツ笑っている。他の奴らも似たり寄ったりの反応をしている。
「なんだよ、結局アレンは味方してくれんじゃねぇかよ」「はっはっは、あれだ・・テレてんだよ。ご大層に自分の味方だぁ~なんて言っちまったんだ」
などなど外野が言っているが取り敢えず無視しておく。
「そうですか。それは心強いですね。でも、よろしいのですか?あのプリームムと呼ばれていた方が言うには貴方は協力者なのでしょう?」
「協力できる所は協力するが、気に入らん所は殺し合いをしてでも我を通すと宣言しているから大丈夫だ」
それを聞いたアルが顔を引き攣らせていたが、大方自分達にも当てはまる事に気付いたのだろう。
「・・・・そうですか。それで人外やら、マスターテリオンと呼ばれていたのはなんでなのですか?」
「そのままだ、俺、アレイ・クロウは人外で古くはマスターテリオンと名乗っていた時がある。ちなみにエセルも人外、魔導書の精霊で俺のパートナー(伴侶)だ」
「あ~、前の言ってた本妻と愛人かぁ」「うむ、まさにロリコンじゃの」「・・・・アレイが・・・ブラックロッジのトップ・・・・」「・・・そんな・・・理想の幼女が・・・・」「そなた結婚しておったのか・・・」「・・・・うそなのじゃぁぁ」
など思い思いの反応をしているが、また、アルが崩れ落ちた。そんなアルにエセルが珍しく少し近付いて行って、
「ちなみに、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが愛人と言うことになっています。それと私、貴方程度の駄本に興味ありませんので。あしからず」
と、エセルが涼やかに宣言した。
皆びっくりした顔をしていたが、アルが何故か真っ白になってしまいその後の追及は有耶無耶になった。何故かエセルはアルが嫌いらしくことあるごと口撃を繰り出していた。
この後はラヴの紹介があったり、俺がどんな人外なのかとか訊かれお茶を濁したり、ラカンとナギがエセルにリベンジしようとして、する前に重力に潰されたりと色々あった。
暫らくしてアルが復活したので今後の方針を話し合う事になった。っと言っても、紅き翼が連合、俺達とテオが帝国をそれぞれ担当して『完全なる世界』の拠点を潰しつつ本拠地を探す事となった。
本拠地は知らないのかと訊かれはしたが、この前行った所が本拠地とは限らないのでしらないと答えておいた。