あれからテオとアリカ王女は手紙でのやり取りを密にしながら『完全なる世界』の情報を集めているそうだ。
アリカ王女は紅き翼に頼り情報を集めているようだが、俺は造物主に義理立てする訳ではないがテオに直接的な情報は教えていない。
今度、テオがアリカ王女に直接会いに行くらしい。何故かお互い一人で会いに行くそうだ。
テオ曰く、アリカ王女が一人で来るのに妾だけ護衛が付いて来るなんて嫌じゃ!との事だ。
それに対して、皇帝がキレ、親子喧嘩に発展したのは言うまでもない。
その後俺と皇帝で説得してはみたが、テオは聞く耳持たず説得は失敗。仕方ないので某初めてのお使いよろしく、こっそり後ろから護衛(俺)が付いて行く事となった。
テオが乗っている船の後方斜め上2000m位を飛びながらストーキングして目的地まで付いて行っていたのだが、途中から多分『完全なる世界』の下っ端の連中なんだろうと思うが、テオの船の後方1000m位を付いていく船があった。
この時点で、潰してしまっても良かったのだが、情報が漏れているのならアリカ王女の方にも尾行者がいる可能性もある、それよりも目的地で待ち伏せされている可能性の方が高そうだが。
まぁ、どうせ助けるのなら二人一緒の方が面倒が少なくて済む。そう考え、取り敢えず静観している事にした。
◆
現在、テオとアリカ王女は敵に強襲されてあえなく捕えられて、主にテオがギャアギャア騒いでる。
それにしてもアリカ王女の呆れるくらい強い事、あれは護衛を連れて来ないんじゃなくて、連れてくる必要がないだけなんじゃ・・・・
殆どの敵を一人で倒していたようだけど、最後の方でテオが人質にされ仕方なく投降した様だ。余りの暴れっぷりに暫し呆然としたがそろそろ助けないと拙い。
さて、どう助けるか・・・・
目の前でミンチにしたり、細切れにしたりのような放送コード(モザイク)に引っかかりそう助け方は反応が面白そうではあるが刺激が強すぎるので却下・・・・・・仕方ないが此処は無難にアトラック=ナチャを使うことにするとしよう。
◆
「案の定、襲われたなテオ」
俺はそう言いながら光学迷彩のように掛けていた幻術を解いて二人の前に現われた。
二人は行き成り周りが動かなくなって呆然としていた所に、声を掛けられてビクッとなっていたがテオはすぐに俺だと気付いたのか此方によって来た。
「アレイ信じてたのじゃ!」
と、余りに反省の色も無くニコニコしていたので、死なん程度に加減したデコピンをしてやった。
「もぴゅっ!!!」と悲鳴?を上げながら、目を廻して銃で撃たれたかのように後ろに倒れていった。それを見ていたアリカ王女は相変わらずの無表情だが、心地顔が引き攣ってる様な気もする。
「・・・助かったぞ。それでこれから如何するのじゃ」
かなり事務的な感じに抑揚なく訊いてくる。其処まで親しい関係ではないからこんな物だろうが軽く警戒されているようだ。
「まず、この場を離れる。話はそれからだ」
俺はそういいながらテオを担いだ。
さて、何処に転移するべきか、テオだけなら其のまま帝国にとって返せばいいが今は荷物がある。
順当に考えるとウェスペルタティア王国辺りまで送らないといけないが、『完全なる世界』にどういう理由か分からないが一度狙われたのだ目的を達成するまで狙われるだろう。如何考えてもまた攫われそうだ。
仕方ない取り敢えず一番安全な自分の部屋まで跳ぶかと、転移の準備をし終わりアリカ王女に近寄って行った。
そうすると行き成り巨大な影が出来たと思ったら頭上から特大の石柱(10m×10m×100m位)が降ってきた。
「・・・なんじゃ・・・これは」と呆然としながら王女が言ってるが構っている時間もないので、無言で王女にテオを投げ渡すが受け止めきれずに尻餅をついていた。頭の位置が下がって丁度良いかと考えながら一応守護結界を張っておく。
そして、その石柱をアッパーの要領で殴り飛ばす、それと同時くらいにプリームムが俺の斜め前に挑発するように転移してきてテオたちに向けて手を伸ばしながら瞬動で俺の横を抜けるように突っ込んで来た。
殴られた石柱は発泡スチロールで出来ていたかのように重さを感じさせずに砕けながら凄まじい速さで上空に吹き飛んでいった。その時には俺の横くらいに来ていたプリームムの襟首を掴み俺の前に引き倒すように投げつけ足で押さえつけてやった。
「ガフッ・・・っグゥ・・」と苦痛の声を上げながら押せつけていた足を必死に掴んでくる。
「さて、プリームム、なぜテオ達を狙う」
「・・・っぐぅ、紅き翼が目障りになって来てね・・・・・くっ、アリカ王女を人質にして時間を稼ぐ心算だったんだよ。それにしても流石、我が主がお認めになった人外だね。冗談の様な理不尽さだ。ただ殴るだけで僕の冥府の石柱に対応できるなんて」
「どうした、今日はえらく喋るじゃないか、プリームム」
そういいながら俺は足の力を込め地面に埋めていく。
「っガァァッ・・・・い、一応、我が主の協力者なんだ。それなりにお相手するさ」
先ほどからテオたちに聞かせるように俺や造物主との関係を言っているがこれは唯の嫌がらせの様な物だろう。
セオリー道理ならそろそろ来る頃なんだが、折角イイ餌を使ってるんだ何かしら掛かってくれないと寂しいではないか。
と、冷めた眼でプリームムを見ながら考えていたら、魔力を込めたのだろう足を掴む手の力が跳ね上がった。そして、テオたちを囲むように転移してきた三つの人影が襲いかかる。
「・・・あなたを出し抜くのも楽でわない」と、プリームムが呟く。
俺は驚いたようにテオ達の方を向いて、
「しまった!!・・・・・・・なんて言うと思うか」と、無表情にプリームムを見返して訊いた。
三つの人影はテオたちの30cm手前で止まっている。いまだ残っているアトラック=ナチャの不可視の糸に絡め取られているのだ。
「此処は最早、俺(蜘蛛)の巣の中だ。そんな所に頭から突っ込んできたんだ、捕縛されて当然だろう」
「やはり、これくらいでは出し抜けないか・・・・デュナミスも呼んでいて正解だったよ」
そうプリームムが言うと、三人の足元に魔方陣が出現しそれぞれが干渉し合い、影のような物が漏れ出して半円状のドームの様な物なって三人ごとテオ達が取り囲われた。
そして、その影がなくなったときには誰もいなくなっていた。囲われていた空間ごと、テオ達と三人は何所かに転移して連れて行かれてしまったようだ。
「・・・・・・あの二人に危害は加えない、それは約束するよ。マスターテリオン」
そう言われた瞬間、プリームムの胸を踏み抜くもいつの間にか幻影と変わっていて水になってしまった。
いったいどうやって俺がマスターテリオンだと特定したのか、今のセリフは鎌賭けだったのか色々聞きたいことは出来たが取り敢えずプリームムは去っていたようだ。
・・・・ただ面倒な事を色々二人には聞かれたから後できっと問い詰めて来るだろうと考えながら張っていた幻覚を解く。
そうすると少々離れた空中にテオと王女が雁字搦めにされ捕らわれていてもぞもぞ動いていた。プリームムたちが連れて行った方は後一時間は持つはずだが、さっさと此処から離れるに限る。二人を担いで取り敢えず自分の部屋に転移した。
◆
部屋に着き、結界を最大強度にして内外を完全隔離してから二人を開放してやる。
アリカ王女が冷ややかに親の敵を見るような目で見ながら口を開こうとした時、テオが俺に突っ込んできて、
「なんて事してくれたんじゃぁぁ!頭がハジケ飛ぶかと思うたわぁ!!しかもアリカ王女に思い切り投げ付けよって一緒に吹き飛んだではないか!!!」
そう吠えながら俺めがけて水月に頭突きするように飛んでくる。俺は飛んできたテオの頭をわしずかみにして止めてから徐々に力を込めていく。
「人の忠告を無視して一人で行って襲われときながらニコニコしている奴にはあれで丁度イイ。ソウダロ、テオ・・・」
瞳に暗い光をともしがら、優しい笑みを浮かべてテオに訊いてみる。テオはそれを見てガクガク震えていたが、途中から頭の痛みが恐怖を勝ったのかバタバタ暴れだした。
「・・・っみぎゃぁぁぁぁ!われる、われてしまうのじゃぁ!やめ・・・に゛ゃぁぁぁぁ・・・・」
最後の方はなんか猫の断末魔の悲鳴みたいなのが出てきたので、いつの間にかテオを心配そうに見ているラヴに投げ渡す。ラヴは器用に触手で受け止め頭を撫でてやっていた。テオは頭を抑えてさめざめと泣いていた気がするが気にしない事にしておこう。
ちなみにアリカ王女はラヴを凝視していたが、最終的には触れない事にしたらしい。
「さて、見苦しいものを見せたがアリカ王女は何を言おうとしたんだ」
未だに睨み付けてくる王女に話を振ってみる。
「しらじらしいぞ、大導師殿。『完全なる世界』の幹部とおぼしき者の名前を知っていたり、其の主に認められた人外だと言われてみたり、そして、其の協力者なのだろう。更にマスターテリオンと言えばブラックロッジのトップではないか。どう説明してくれるのだ、アレイ・クロウ」
説明ね、今しても良いがナギ達にもどうせ、何時か説明を求められそうだし一々説明し直すのは面倒だ。何よりこの王女からナギ達に変に情報が行って付け回されるとかは嫌過ぎる・・・・・・・
いっその事此処にナギ達連れてこさせるか。・・・・・何気に其の案がいいかもしれない。
俺はそう思い、エセルに至急、紅き翼を連れてここに来るように念話した。
「少し待っていろ、今、王女を引き取りにナギたちが此処に向っているはずだ。説明はそれからしてやる」
と、涙目のテオと睨み付けてくる王女に俺はそう伝えた。