転生先生テリま   作:物書き初心者

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完全なる世界

 完全に押しつぶされた蛙のような感じになっている白い髪の青年、もう一寸力を加えたらプッチと逝きそうだ。取り敢えず話せる程度にまで重力を弱めてやる。

 

「それで、何のようだ」

 

「君達は何者なんだい?このぼぐっ・・・」

 

 メキメキと、音をさせながらまた無様に押し潰されている。俺では無いのでエセルだろう。

 

「マスターの質問に馬鹿みたいに答えていればいいんです、駄人形」

 

 絶対零度のような声で警告するエセル。何故か不機嫌そうである。俺はもう一度尋問する為に力を弱めるよう伝えながらエセルの頭にポフンと手を置いて撫でてやると、エセルは目を細め力を弱めた。

 

「・・・さて、もう一度だけ訊くが・・・・・・何のようだ」

 

 流石に先程の事が応えたのか今度は無駄口を叩かなかった。

 

「ぐうぅ・・・我が主が貴方がたとお話になりたいと対談を希望されている。僕は其の案内役として遣わされたんだ」

 

 この生体自動人形の主か、この世界ではかなりの使い手のはずだ。

 

「其の主とは誰だ」

 

「僕らを創られた『造物主<ライフメイカー>』と呼ばれてる方で貴方がたが調べている『完全なる世界』の代表であられる方だよ」

 

 戦争を長引かせている原因の組織の長からの招待状を持ってきたらしい。さて、罠の可能性もあるが・・・・問題は無いだろう。罠に掛けられたら破ればいいだけだしな。

 

 其れよりも何故そんな事をしているかに興味が湧いてきた。それに俺たちを態々呼ぶことも。

                                 

「ほう、ならば其の誘い受けてやろう。エセル、妙な事をしたら殺って構わないから結界を解いてやれ」

 

「イエス、マスター」

 

 開放された青年は身体をガクガクさせながら何とか立て上がった。まるでKO寸前のボクサーの様だ。

 

「我が主の下まで転移するので、何処でも構わないから僕の身体を握っていて欲しい」

 

 俺達は素直に彼の腕を掴んだ。エセルは少し眉をひそめていたが。そして、俺達はいつの間にか出来た水溜りを使い、何処かに向って転移した。

 

 

 

 

 転移先は何処かの宮殿のラウンジのような場所だった。そして、部屋の真ん中にはテーブルがあり其の横には黒いマントの様な物を纏った麗人が立っている。

 

「ようこそ、ブラックロッジの方々。私が『完全なる世界』を束ねている『造物主』と呼ばれている者だ。良く来てくれた。さぁ、ゆっくりと語り合おうではないか」

 

 何故か始めからフレンドリーな感じの造物主に椅子を勧められ俺は用意された席に着いた。

 

 エセルは俺の斜め後ろに付き従い、もしもの時の戦闘準備と情報収集を開始していた。

 

「プリームム、彼にお茶を」と先程の俺たちを連れて来た青年がすぐさまお茶を用意してくる。もう身体は回復したようだ。そして、エセルと同じように造物主の斜め後ろに付いた。

 

 カップを持ってもエセルが止めなかったので、俺はそのままお茶で軽く口を湿らせ言葉を発する。

 

「さて、造物主だったか。なぜ俺達を此処に招いたのだ」

 

「単刀直入に訊くがそなた達、人ではないであろう。それが理由だ」

 

 どういう訳か俺達が人外だと言う事がばれたらしい。まぁ、ばれるのは構わないがそれが理由で招かれたというのが分からない。

 

 この造物主も人と言うよりは精霊に近い気配があるが、まさかとは思うが、その所為だけではないだろう。

 

「確かに俺達は人外だが貴様もそうだろう。それとも仲間探しとか、そういう理由か?」

 

 挑発する様に俺が不敵に嘲笑しながら言ったら、プリームムと呼ばれた従者がムッとした顔で重心を下げた。

 

 其の瞬間、エセルから絶対零度の槍の様な殺気が其の従者に突き刺さる。従者は身体をビクつかせた後、凍り付いた様に動けなくなっていた。

 

 造物主は此方に軽く苦笑いしてきたので、俺は返すように片手を上げる。そうすると先程までの殺気が嘘の様になくなって従者は崩れ落ちそうになりながら何とか耐えたようだ。

 

「いい従者だ。主の為に力量差を忘れられて向って来ようとするとはな」

 

「其方こそ。先の答えだが、確かに其の側面もあったが、・・・其れよりも先達の意見を訊いてみたかったのだよ」

 

「なぜ先達だと思う。違うかも知れないぞ」

 

「私にはあのような複雑怪奇な術式の使い魔は創れない。そんな相手が先達じゃないはずがない。たとえ違ったとしても私より上なのは確かだ」

 

と、何故か嬉しそうに造物主が言ってくる。

 

「・・・それで、何に対しての意見が聞きたいんだ」

 

 

 造物主は現状を語りだした。

 

 この世界は火星に作られた人造異界で、何もしなければあと30年位で火星の魔力が尽きて人間が火星の荒野に放り出される事になるそうだ。

 

 更にこの世界の固有の生物は魔力で編んだ幻想だと言う事だ。人間も95%が人形と呼べる幻想らしい。

 

 それで、この異界《魔法世界》がもう持たないから『完全なる世界』と呼ぶ新たな異界を作ったらしい。この世界は魔法世界の様な物質世界でなくより魔力を使わない精神世界で各自がもっとも幸福に思える夢を魅せてくれる。

 

 今回の戦争で死んだと思われている人間も『完全なる世界』に死ぬ直前に精神を送り身体を魔力に還元しているそうだ。そうやって今度行う『完全なる世界』に完全移行する為の大規模な儀式用の魔力を稼いでるとか。

 

 要するに造物主はこの世界の自分が生み出した生き物を如何にか救いたくて、こんな戦争を企てたそうだ。ちなみに外から入ってきた人間は如何でもいいらしい。

 

 かなり独善的かつ矛盾しているような気がするが本人は真面目にこの世界を救いたいと考えた結果だとか。

 

「『完全なる世界』への退避が私の出した解だ。そなたは如何思う」

 

 俺には魂の牢獄に見える。かつて居た無限螺旋のような。正直この世界の連中が如何ならうと俺の知った事ではないのだが、テオは如何にかしてやりたい。紅き翼の連中なら自分達の好きにするだろう。

 

「俺は否定はしないが肯定もしない。それと賛同しない者も多く出るだろう。最悪魔法世界の住民全てを敵に廻す事になるぞ」

 

「それでも構わない。助からないのならせめて魂だけでも救えるのなら敵になろうとも親としては本望だ。そなたは何か良い案は浮かばないか?」

 

「・・・・何個か思いついたが、どれも不確定要素が大きすぎて俺にはどうなるか分からんが聞くか」

 

 俺がそういうと造物主は少し期待した目で此方を見ながら話を促した。

 

 

 

《plan1 パンがなければお菓子を食べればいいじゃない》

 

 魔力が足りないのなら、何処かから魔力を融通すればいい。例えば、月や他の惑星にゲートを繋ぎ魔力だけを此方に流せば良い。

 

 この方法は根本的な解決になっていない為、時間稼ぎの意味合いが強い。更に技術的かつ時間的に実行出来るか怪しい。

 

 

《plan2 超長期的火星育成計画》

 

 読んで字の如く、数百年掛けて表の火星を魔法的、科学的に人が住める環境に改造育成する計画

 

 この方法は確実であり実行は可能であるが何時実現するか分からないのがネックである。

 

 

 

 此処から先は造物主には言わなかったが思いついた計画である。

 

 

《plan3 我輩の科学力は宇宙一なのであ~~る》 

 

 デモンベインの主要動力機関となった、銀鍵守護神機関(ぎんけんしゅごしんきかん)の再現。この機関、平行世界から無限に力を引き出せる半永久機関である。これと世界樹の様な物と組合せて世界に魔力をばら撒けば良い。

 

 似たような考察をウェストが書いていたから再現は不可能ではないが材料や錬金術関連の技術が発達していない為、何時完成できるか分からない。完成すれば問題はほぼ解決するとみていい。

 

 

《plan4 俺(マスターテリオン)による火星改造計画》

 

 plan2の亜種で昔、俺が火星に封印された時に火星人を作り上げた事がある。その時のことを応用して火星を人が住める星に改造する。この計画やって見ない事にはどうなるか分からないため、かなりリスクが高い。

 

 

 

「両方ともかなり魅力的な計画だが時間的に厳しいかもしれん。plan1の方は可能だが調査などを考えるとかなりギリギリになる。2に至っては絶望的だな」

 

「ふむ、調査と言うのはなんだ」

 

「他の惑星にも異界が存在するのだよ。例えば金星は悪魔達がすむ世界らしい。そんなところに無断でゲートを作り魔力を吸い出せば其れこそ戦争になりかねない」

 

 そんなのが他の星にも在るかもしれないから調査してからゲートの固定などすると20年は掛かるらしい。

 

「と言うことは貴様の計画道理に『完全なる世界』に退避させるのか」

 

「いや、先ほど聞いた計画を混ぜてみようと思う」

 

 要するに、『完全なる世界』に退避させるのと平行してゲートを繋げ、火星を改造してし終わったらまた『完全なる世界』から人を戻すという計画に変えるらしい。どちらにしろ『完全なる世界』に人を移すのは変わらないから、たいした手間にはならないらしい。

 

「好きにするといい、ただこのままだと敵対関係になりそうだな。その時はお互い後腐れなく殺し合うとしよう」

 

 俺達はお茶を飲みながら今後どうするか色々話し合った。最終的にお互い好きにする事となった。協力できる所は協力して、気に入らない所は戦って勝った方が我を通すことにした。

 

 其の後、世間話をしてこのお茶会は幕を閉じた。


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