俺達の予想道理に二度目のオスティア侵攻作戦は失敗に終わった。やはり紅き翼が大分奮戦したらしい。これにより戦況は小康状態、各地で小競り合いが多発している。
現在紅き翼は辺境を転戦しているらしい。俺の予想では奴らを主軸にヘラスに逆侵攻を掛けてると思っていた。今ヘラスにあいつ等を止めれる駒は(俺を除けば)無い。オスティア侵攻作戦を見れば分かりそうな物だが、それなのに奴らを下げるという事は向こうも何かあるらしい。
俺達は帝国の貴族と軍人を洗ってみたがやはり裏で繋がっていた。何かしらの巨大組織のようだ。全容はまだ分からないが其の内解明できるだろう。目的に関しては推測になるが戦争の長期化。これが目的なのか、目的達成の過程なのかは分からない。
俺はテオの護衛として一応認められた。根回しが効いたのか、それほど酷い扱いは受けていない。聞いた話によると、ブラックロッジの悪名はMMが故意に流した物と皇帝が言い触らした様だ。
俺は皇帝に相談事があると言われ、現在執務室に居る。
「呼び出して、すまない。意見を訊いたいのと、依頼をしたい」
多分だが次の大規模侵攻に関する事だろう。この作戦を聞いた時、耳を疑ったが、例の組織も関わってるらしので仕方が無い。
「かまわない。話を聞こう」
「次のグレート=ブリッジ陥落作戦、アレイ殿はどう見る」
皇帝は真剣な顔で此方を見ながら資料を渡してきた。エセルから作戦内容は聞いているが一応確認して率直に言う。
「誰が考えたか知らんが、無駄以外の何物でもないな。作戦概要は大規模転移による奇襲、それも内部に転移しての強襲制圧作戦、更に速やかに制圧した後要塞設備を使って外部勢力の撃退、まあ奇跡に近いが出来なくは無いだろう。よしんば出来たとして維持が出来ない。あそこは勢力圏外だ。落し返されるのが落ちだ」
「やはり、アレイ殿もそう思うか」
皇帝は難しい顔にになるが、俺はなぜこんな作戦が通ったのか聞いて見ることしにした。
「なぜ、そう思うなら作戦を通した。止められなかったのか」
「うむ、上級貴族、軍人が根回しをしていたようだ。この頃余の意見は通り辛くなっておる」
ふむ、今まで調べた情報を小出しにしてみるか、皇帝はかなり優秀な為政者だ。情報を渡したら上手く立ち回ってくれるだろう。
「この戦争おかしいと思わないか。後ろで誰かが糸を引いてる感じがする」
「例えそうだとしても今の余には出来る事は少なし!」
皇帝は驚愕した後、苦虫を噛んだ顔で言葉を吐き捨てた。今現在は情報収集しかできんだろう。
「其れで皇帝、数少ない手段の内の一つである俺に何を依頼するんだ」
俺は大体予想が付いていたが皇帝に話を進めるよう促した。皇帝はすまなさそうにこういった。
「グレート=ブリッジ陥落作戦時、外部勢力に奇襲して欲しい」
「皇帝、俺の記憶が確かなら戦艦が大小合わせて300隻以上配備されてなかったか」
正直、制圧も簡単に出来るがやり過ぎるのも拙い。黒幕がどう動いて来るか分からないので手の内はさらしたくない。世の中何があるか分からないのだ。
「やはり、無理か、ドラゴンを瞬時に屠るそなたなら可能と思ったが」
皇帝自身無謀だと分かっていて訊いてきたのだろう。期待はしていなかっただろうが、少し気落ちしていた。
「受けないとは言っていないぞ、皇帝。要は派手に暴れて陽動をすれば良いのだろう」
「おお、受けくれるか、アレイ殿」
そして、俺はグレート=ブリッジ陥落作戦において陽動をする依頼を受けた。
その後、依頼の件をテオに伝えるために部屋に向った。多分テオに色々言われるだろう。覚悟しておこう。
「テオ、入って良いか」
「うむ、アレイか。入って良いのじゃ」
と、元気な声が聞こえてくる。
「父上の話はなんじゃったんじゃ?」
俺が入って早々に依頼の事を訊かれた。俺は包み隠さず依頼内容だけ答えた。
「のう、ちゃんと戻ってくるんじゃろ?」
テオは目を潤ませながら此方に近寄ってきた。そして、じっと俺の目を見る。俺は不敵な笑みを浮かべ、テオの頭に手を乗せた。
「ふむ、問題なく戻ってくるだろうな。むしろ、この作戦で俺とブラックロッジの名前が魔法世界に響き渡るだろう」
テオは何を言われたのか分からないと言わんばかりにポカンとした後笑い出した。
「アハハハ!そうか問題がないか」
「ああ、有名人になりすぎて表を歩けなくなりそうで不安だ」
「ハハハハ、そうか、そうか」
テオは暫らく笑っていたが収まると真面目な顔になり訊いてきた。
「護衛になってから、アレイは一度も戦闘をしていないようじゃが実際の所どれ位強いのじゃ?」
俺は悩んだ比べる対象がいないのだ。現在はどれ位と言われても困る。しばし悩んでこう答える事にした。
「テオが望むなら月をも砕いて見せよう」
テオは冗談と思った様だった。実際は星くらい砕けてしまう。其の後、俺達は其のまま他愛の無い話をして過ごした。
今からグレート=ブリッジ陥落作戦が夜明けと共に開始される。俺は全長300kmあるグレート=ブリッジ要塞のほぼ真ん中を飛んでいる護衛艦隊の旗艦である超弩級戦艦の真上5km地点にいる。
この位置からは旗艦やそれを取り巻く大小30隻余りの護衛艦、疎らに配置され護衛艦の編隊その数300隻以上がよく見える。最初は全部落す気であったがこうして見るとウンザリして来た。
もう直ぐ日の出だ。俺は滞空する為に使っていた術式を解いて旗艦に向って頭から落ちて行った。そして、接触まで数十秒の所で魔力を開放し全方位に目立つよう念話を飛ばした。
「ブラックロッジが一人、アレイ・クロウ。悪いが連合よ。依頼により俺と戯れてもらう!」
そう言い、俺は術式を駆使し総てのエネルギーを足に集約して、真上から旗艦の真ん中に蹴りを撃ち込んだ。
「(擬似)アトランティス・ストライク!」
旗艦に当たった足を基点に戦艦の真ん中は粉砕され吹き飛んだ。そして旗艦はへの字に折れ曲がり海に沈んでいく。まだ、要塞も周りの護衛艦も動き出していない。俺はすぐさま次の術式を紡ぎ出す。
「ン・カイの闇よ」
俺を取り巻くように漆黒の重力球を11個作り出す。そして、周りの護衛艦に向ってバラバラに別の軌道で襲い掛かった。重力球は護衛艦に到達するまでに4mに成長していた。それが通った後は、くりぬかれた様に何もかも消えていた。
其の重力球は意思があるかのごとく縦横無尽に無事な戦艦に襲い掛かった。5分もせずに護衛艦隊30隻は虫食い状態となり、火を吹きながら沈んでいった。
その間、漸く事態を把握したのか、俺に向って要塞から集中砲火を浴びせてきた。そして、残りの護衛艦約200隻も最低限の防衛戦力を残し此方に向ってきている。
要塞の砲火は防禦陣に任し、次の行動に移った。
「天狼星<シリウス>の弓よ」
それは黒き龍の躰を持った金色の弓、ナコト写本の呪法兵装。この弓は自身の魔力を矢として使う。放たれる矢は分裂、自動追尾、自由操作、更に威力も自在でまさに万能の弓である。
俺は弓を構えグレート=ブリッジ要塞の一点に矢を放った。
<グレート=ブリッジ要塞司令室>
私はこの要塞を取り仕切る司令官をしている。もうそろそろ夜明け、あと2時間ほどで当直も終わり部屋に戻り寝る事が出来る。
その時司令室に警報が鳴り響き緊張が走った。今は戦時下、何時敵が攻めてきてもおかしくは無い。たとえ此処、難攻不落と言われたグレート=ブリッジ要塞であろうとも。
「司令、旗艦直上に高魔力反応です!後、数十秒で接触します!!」
下士官が悲鳴を上げるかのように報告して来る。其の報告を聞いた者は皆固まった。更に私達の頭に中に念話が響き渡る。
「ブラックロッジが一人、アレイ・クロウ。悪いが連合よ。依頼により俺と戯れてもらう!」
其れは古の英雄が戦場で名乗りを上げるようなそんな印象を抱かせた。
なぜ悪の秘密結社のブラックロッジがここにいるのか、そんな考えが私の頭に浮かんだが、次の瞬間、旗艦が真ん中でへし折れた。私はその時人影を見た気がした。
「旗艦が折れた位置をアップでモニターに出せ!!」
私は気が付いたらそう叫んでいた。そして、モニターに映ったのは金髪金色の瞳の青年だった。其の青年はスッと周りを見渡し、いつの間にかその青年を取り巻くように黒い玉が舞っていた。
「・・・・黒の王」
誰かがそう呟いた。確かに黒い玉を従えてるように見える。其の黒い玉が大きくなって護衛艦を襲いだす。大きな黒い玉に護衛艦が喰われている様に見えた。其処で私は漸く正気に戻った。
「要塞の全砲をあの男に集中させろ!護衛艦をかき集めろ!!」
「り、了解!!」
私は漸く指示を出せた。
その時には男の周りに護衛艦は全滅していた。そして、男は何処からか黄金の弓を出しそれを構え、矢を放った。
其の後、私達は光に飲まれた。
俺は構えた弓を下ろした。手応え的には司令部を潰せた筈だ。そろそろ内部でヘラス兵が制圧を開始した頃だろう。少しは足しになっただろうか。
未だ止まない集中砲火の雨を防除陣に任せ、押っ取り刀で集まって来て此方に砲撃を開始した護衛艦を見やる。数としては100はくだらないだろう。
俺は弓を構え魔力を込めて引き絞る。弓は俺の意思に応える様に5本纏めて弓に掛けられた。俺は其れ上空に向って放った。
放たれた矢は5本が50本、50本が500本と分裂し数を爆発的に増していった。そして、其の矢達は護衛艦にまさに雨のように降り注いだ。
俺が此方に向って来た護衛艦を全艦撃滅した頃には要塞からの砲撃が止み残った護衛艦に攻撃を開始
していた。上手く内部を制圧したようだ。俺は護衛艦が撤退したのを見届けヘラスに帰るのだった。