火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ? 作:shoshohei
以前は色々と悲惨だったこの場面も(今も悲惨だけど)、なんとか白夜叉とのバトルは面白く書いていきたい。
フラグを突きつめながらやっていきます。
「な……なんで〝フォレス・ガロ〟とギフトゲームをする羽目になっちゃってるんですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリーで戦うなんて!」「準備の時間もお金もありません!」「聞いてるのですか三人とも!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」
「黙らっしゃいッ!」
〝世界の果て〟での一悶着を終え、陽が沈み始めた夕方。
ナツ達をやっとこさ回収し、飛鳥達と合流した黒ウサギの飛鳥、耀、そして件のコミュニティのリーダーである緑髪の少年――ジン=ラッセルに向けた、悲鳴に似た怒声がペリペッド通りに響き渡る。
彼女が矢継ぎ早に飛鳥や耀にハリセンを手に持ちながら青筋を立てていると、いまいち状況が呑みこめないナツが首を傾げた。
「……? つまり、アイツらはその『がすど』って奴に喧嘩を売ったっつうことか?」
「そうみたいだね。あと名前は『ガルド』だよナツ、ガルド=ガスパー。黒ウサギはそれがすっごく嫌みたい」
「なんで? 別に喧嘩するだけならいいじゃねえか」
「よくありません!」
黒ウサギの怒りがナツ達に飛び火した。
〝箱庭の貴族〟と謳われる〝月の兎〟の彼女だが、その威厳が原型をとどめていない若干泣きそうな表情で、〝主催者権限〟を持たない者たちが〝主催者〟となってゲームを行うためのギフトである〝
そこにはゲームに必要な賞品やルールなどが明記されていて、お互いのコミュニティの書印で成立する。
飛鳥達が記した〝契約書類〟にはこのように書かれている。
『
横で話を聞いていた十六夜がマジマジと〝契約書類〟を見て呟く。
「ま、確かに自己満足だな。時間を掛ければ立証できる物を、わざわざリスクを負ってまで縮小しょうってんだから」
しかしこれは逆も然りで、〝ノーネーム〟が負ければ彼らの罪を一切黙認することとなる。
ハイリスクハイリターン……というわけでもない。
「そうです。しかも時間を掛ければ、〝フォレス・ガロ〟の罪は必ず暴かれます。だって……その」
「そうよ。人質たちはもうこの世にいないわ」
言い淀む黒ウサギに代わって飛鳥が告げた。
彼女の話によれば、〝フォレス・ガロ〟のリーダーであるガルドは、ここら一帯を支配するために近辺のコミュニティの女子供を人質に取り、強制的にギフトゲームに参加せていたという。
勿論、自分達が有利になるゲームを仕組んで。
しかしそのゲームに勝つための『大事な人質』も、攫ってきたその日に殺していたらしい。
ただ泣き声がうるさいから、それだけの理由で。
勿論このような行為はいくら修羅神仏が集う箱庭でも許されるはずもなく、彼らの行為は間違いなく判事あのレッテルを貼られる。
「でもね黒ウサギ。私は道徳云々よりも、目の前で野放しにされていることが許せないの。しかもここで逃がせば、次の被害は〝ノーネーム〟から出ることになるのよ?」
「僕も彼のような悪人は見逃したくない。ちゃんと法の下で裁かれなきゃいけないと想っている」
飛鳥に同調するようにジンが前に出る。
そのジンを見たナツが、彼に声を掛けた。
「お前がジンか?」
「はい。僕が現〝ノーネーム〟のリーダーを務めさせていただいているジン=ラッセルです。どうぞよろしくお願いします」
「オレはナツだ、ナツ・ドラグニル」
「ハッピーだよ」
礼儀正しく頭を下げて挨拶をするジン。
この頃の自分には無かった物を持っている少年に、素直にナツは感心した。
「お話は黒ウサギから伺っています。御二人は〝ノーネーム〟の依頼を受けた客分扱い……そういうことでよろしいのでしょうか?」
「おう、それでいいぜ」
「あい。オイラ達が協力する代わりに、ジン達が報酬を出す。こういうことだね」
「分かりました。ですが報酬ですが、話は聞いての通り現在僕たちのコミュニティには芳しい金目の物がありません。その件については本拠で話し合うということで」
「報酬の件なら心配しなくていいぜ。別に金目のモンなんか要らねえからよ」
え? とジンが返す。
ナツはジンの目をしっかり見据えて告げる。
「報酬はオレ達への世界へ帰る手伝いをすること。オレ達はお前たちの旗と仲間を取り戻す手伝いをする。これでいいだろ?」
「……本当にそれでいいんですか?」
不思議そうに見つめるジン。
そのような贅沢は言っていられないのだが、確かに現状では理にかなっている条件だ。
ましてやこれは一種のビジネス。利益の面で考えれば涎ものである。
「いいって。変に金なんか貰ったらエルザとかじっちゃんが怒るからなー」
「あい。お仕置きは受けたくないのです」
「そ、それでいいのならば……分かりました。必ずその報酬を成し遂げます」
「おう! 頼んだ――」
「なんでそんなことを仰られるんですか!?」
そばで話していた声を遮るように、黒ウサギの悲鳴がまたもや響く。いきなりの声に怪訝な表情をしながら、二人と一匹は彼女たちの話に割り込む。
「なんなんだよ、一体」
「聞いてくださいよナツさん! 十六夜さんったら飛鳥さん達のゲームに参加しないっていうんですよ!?」
興奮気味の黒ウサギが十六夜を指差した。
「当たり前じゃねえか。これはコイツらが
「あら、分かってるじゃない。誰にも手出しなんてさせないわ」
つまりは自分たちの手で決着を着けたいらしい。
そして十六夜は人の喧嘩に手を出す主義ではない、故にこのゲームは三人に任せると言うのだ。
「そ、それじゃあナツさんの手も……」
「当たり前よ。手出し無用ね」
言語道断と体現している飛鳥。もはや一部の隙もない。最後の望みとばかりに黒ウサギはナツに恐る恐る問いかける。
「ち、ちなみにナツさんは、明日のゲームに参加してくれますよね?」
瞳に精一杯の『お願いだから明日出て!』オーラを込めた視線を向ける。
その期待の眼差しに気付いたナツは、一回腕を組んでうーんとたっぷりと間を置く。嫌な汗が黒ウサギの背筋を伝う。
「なあ。ソイツって強ェのか?」
「も、もちろん」
「もちろん弱いわ。私達に手も足も出なかったもの」
黒ウサギの言わんとしていることを先回りして封じる飛鳥。しかし事実なのだから仕方がない。彼女は嘘は言ってはいないのだ。
「じゃあやっぱいいや。別にソイツとやっても面白くねェだろうしな。それにお前ら、勝てるんだろ?」
「あまり見縊らないで貰いたいわね。あんな外道は一捻りよ」
「なら大丈夫だ。心配すんなって黒ウサギ。その内ハゲんぞ?」
「……誰のせいだと思ってるんですかぁ……もう好きにしてくださいぃ……」
もはや彼女に言い返す気力は残されていなかった。
☆ ★ ☆ ★
ジンを先に本拠に返し、ナツ達はある場所に向かっていた。
場所の名は〝サウザンドアイズ〟と言って、特殊な〝瞳〟のギフトを持つ者たちの群体コミュニティで、箱庭の東西南北や上層下層全てに精通している大商業コミュニティでもあるらしい。
そこに明日のギフトゲームの為に、ギフト鑑定をしに行くのだという。
ハッキリ言ってナツもハッピーも自身の力については……ナツはこの世界に来てから少しばかり違和感を覚えるが、何十年も一緒に付き合ってきた魔法なので、別に鑑定は面倒くさいだけだったりする。
しかし『NO! 単独行動、ダメ絶対!』のスローガンをなぜか急に掲げだす黒ウサギにフリーダムはお預けとなった。
道中、街頭の脇に埋められた桜の木からひらひらと桃色の葉が舞う。
飛鳥は不思議そうに眺めて呟いた。
「桜の木……ではないわよね? 真夏になって咲き続けているはずがないわ」
「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくはないだろ」
「……? 今は秋だったと思うけど」
「あん? 虹の桜はまだ咲く季節じゃねえし、それに今は冬だろ?」
「あい」
あん? と首を傾げる問題児達。
黒ウサギが笑って説明する。
「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」
「おお、パラソルワールドだね」
「違うだろハッピー。パラセルワールドだ」
「パラレルワールドですよっ! 正しくは立体交差並行世界論です! ナチュラルにボケるのはやめてください! 捌き切れませんから!」
切れのいい声が冴え渡る
もしかしたら彼女は某金髪の星霊魔導士とものすごく気が合うのかもしれない。
丁度そのころ、青い生地に二人の女神が向かい合う旗を立てた商店が見えてきた。
あれが〝サウザンドアイズ〟の支店である。
しかしどうやら時間も時間なので、店仕舞いの支度をしているようだ。
「まっ」
「待ったなしですお客様。うちは時間外営業はやっていませんので」
眉の一つも動かさず、冷徹に、冷静に対処する女性店員。
まさしく言語道断、取り付くシマもなかった。
「なんて商売っ気のない店なのかしら」
「ま、全くです! 閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」
「いいから黙って中に入れろコラ」
「クレーマーの方ですか? それともヤクザの方でしょうか? どちらにしろうやるならば他所でどうぞ。貴方達は今後一切の出入りを禁じます。出禁です出禁。もう一度言いましょうか? 出禁です出禁」
「ニ回言うなァッ!」
「ですです! これだけで出禁とかお客様舐め過ぎでございますよ!」
ガァァァ! と気炎万丈の気迫を持って二人が迫るも、店員は侮蔑と冷徹が籠もった視線を向けて対応する。
「なるほど、〝箱庭の貴族〟であるウサギのお客様を無下にするのは確かに失礼ですね。入店許可を貰いますので、コミュニティの名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「……う」
一転して言葉に詰まる黒ウサギ。そこで十六夜が何のためらいもなく告げた。
「俺達は〝ノーネーム〟ってコミュニティなんだが」
「ほう、ではどこの〝ノーネーム〟様でしょう。よろしければ旗印を確認させて頂いても?」
更に詰まる黒ウサギ。
名も旗もないコミュニティは、基本的に他のコミュニティに信用されない。
大商業コミュニティである〝サウザンドアイズ〟ならば尚のことだ。先ほども申し上げた通り、ビジネスとは相手との信頼で成立する。初めから信頼を得られていない〝ノーネーム〟では、もはやビジネスをすることは困難を極める。
しかしここで引き下がるわけにはいかない。
意を決して、自身達のコミュニティの名を口にしようと開口して。
女性店員の背後から声が響く。
「その辺にしてやれ。業務も結構だが、あまりに厳しいと接客もうまくいかんぞ?」
仕舞いかけの暖簾から響く、のんびりとした声。
そこからゆっくりと声の主である、真っ白い髪の和装の少女が姿を現した。
その少女に、黒ウサギは驚いたとばかりに声を上げる。
「白夜叉様っ!? どうしてここに!?」
(しろやしゃ……?)
その単語に、ナツは僅かながらに言い知れぬ何かを感じていた。
白夜叉。
どこかで聞いたかのような名前。
しかしどうにも記憶の根底と言うか、靄がかかって何一つ思い出せない。
聞いたことはあるのだ、聞いたことは。
だけど、それだけ。
どこで、とか。いつ、とか。
そのような詳細な情報は何一つ出てこなかった。
珍しく思考するナツ。
不意に、黒ウサギと話し合う白夜叉と言う少女と目があった。
彼女はナツを見据えると、ただただ温かい眼差しと、優しい笑顔を向けてくるだけだった。
なぜか向けられて悪い気はしないが、それが更にナツの疑問を加速させる。
考え過ぎてショートしてしまうかも知れないと考えるほどに、ナツは頭を捻っていた。
「しろやしゃ……白夜叉……? うーん、ダメだ。思い出せん」
「どうしたの、さっきからうんうん唸って」
隣の飛鳥が怪訝そうに聞いてきた。しかしナツは視界の端に収めるだけであまり意識に入れていない。
「……やっぱだめだ。お前思い出してくんねえか?」
「無理に決まってるでしょ、バカなの?」
「……マジ使えねー」
「なんで当たり前のことを言って飽きられてるのかしら!?」
青筋を立てて怒る飛鳥。まあそれが当然の反応である。
どうやらこのお嬢様もツッコミの素質をお持ちらしい。黒ウサギやルーシィには劣るが。
真面目にボケるナツに真面目に返すあたり、良い筋だと言わざるを得ない。
「――――さて」
唐突に、今まで黒ウサギと会話していた白夜叉が、手に持っていた双女神の紋が入った扇子を閉じる。
黒ウサギは首を傾げた。
「白夜叉様、どうしたのですか?」
「うむ。実は私が下層へ来たのは、重大な目的があって来たのだ」
「……その目的とは?」
厳かに問う黒ウサギ。
白夜叉は尊大に頷くと、瞳に宿る輝きを更に光らせる。
「その目的とはな──────これだッ! とうッ!!」
「「「「「「……は?」」」」」」
皆の声が重なった瞬間だった。
何を思ったのか、白髪の少女は気合の入った声を出して大きく跳躍。
まるでアルマジロのように体を丸めて空中で三回転ほどする。アクションスター顔負けの演出である。
そして次に体を大きくバッ!! と広げ。
素晴らしく輝いた笑顔で叫ぶ。
「揉みたかったぞ黒ウサギィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」
時が、止まった。
そのような錯覚に陥るほどの衝撃だった。
皆一様にポカンと視線を注目する中で、黒ウサギは白夜叉の言葉を呑みこみ、噛み砕き、解釈してハッと我に返った。
「……え? え!? ええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!? ちょっ、ちょっと待ってください白夜叉様プギャルッッ!!?」
悲しいかな、言葉は最後まで続けられず、黒ウサギは少女のフライングボディーアタックを受けてそのまま街路の脇にあった水路へとボチャン。
残された者たちには、ただただ空しい空気が残されていたのだった。