火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ?   作:shoshohei

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大っっっっっっっっ変遅れて申し訳ありませんでしたぁ!!!!


本当に長らくの間、ほったらかしにして申し訳ございません!!!
ホントに、お気に入りに登録して続けてくださった皆様には一体なんといったらよいのやら……。


このたびは設定を練り直し、また他の方の協力も借り、そして文を如何に読みやすくするかと他の方の小説を見て勉強して……それらを何度も繰り返してこうして復活したわけです、ハイ。
そして以前頂いた読者様のアドバイスもなんとか取り入れ、こうして帰って参りました!!

以前の作品の設定は忘れていただければ幸いです。
色々と設定を一新して、また新たに物語を初めていきたいので。

では、どうぞ。



YES! 火竜も呼びました!
妖精の羽は異世界へ


 天に昇る陽から射す光が心地いい、日当たりのいいある場所。

 壁に掛け軸、床には畳、極めつけには畳の上に座布団が敷き、香が焚いてあった。

 明らかにある世界に置いて『和風』と呼ばれる一式の備えだった。

 

 そしてこれまた、その和室にお似合いというべき少女が一人。

 

 見た目は十一、二歳ほどの小柄で、和装に身を包み、肩口で切り揃えてある銀髪は白銀にも似ている。

 両の目から見える金の瞳孔は、まるで宝石のように爛々と輝いている。

 見た目だけならば絵に書いたような美少女と言って差し支えないが、一つだけ異物が混じっている。

 なぜか、この少女が纏う雰囲気だけが、少女を年相応に見させることをだれしもに拒むであろう。

 

 よく言えば大人びていて、悪く言えば老けている、婆くさいとも言える。

 

 そのような異質の少女である。

 彼女は煙管を灰皿の上でニ、三度祓うように叩くと、ふと外に視線を移した。

 

 

「……来たか」

 

 

 存在を感じる。

 数で言えば四つから五つと言ったところ。何時も甲斐甲斐しく世話をしてやっている知り合いが呼び出した者たちに違いないだろう。

 そして、その中に何とも怪奇なことか、()()()()()()を一つ。いや、気配というよりか、『力』を感じると言っていいだろう。

 その一つの『力』の持ち主。

 その存在を、少女は知っている。その存在が、少年であると知っている。

 

 

 また、会える。

 

 

 胸に湧き上がる、燻ぶるというか、なんとなくじっとしていられない感覚。

 これを『懐かしむ』ということを、少女は自覚して尚表情を緩ませた。

 それも致し方のないことと言えよう。誰しも、今まで会えなかった人物と久方ぶりに再会すれば、それがよほど後腐れのない別れ方でなければ素直に『会いたい』と想うのも必然である。

 故に、少女はまるで家出した犬が帰ってきたかのような恍惚とした、どこか温かいとも言える笑顔を浮かべて、呟く。

 

 

 

「やっと会えるな、ナツ」

 

 

 

 

 

 ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

 

 

 視界一杯に広がる青。

 その青に転々と浮かぶ不定形な白。

 頭上に光るギンギラとしたまぶしい球体。

 それらの物体を視認した時から、初めて自分達が空にいることに気付かされた。

 

 はて、自分達はさきほどまで、石畳を敷き詰め、木材で加工したギルドにいたはずであるが。

 何故このようなぷかぷか浮かんでいるのであろうか。

 

 元々あまりイイとは言えないお頭で思考する桜髪の少年。

 場違いにも空中でうーん、と腕を組んで頭を捻ること数秒ほど。

 

 

 周回遅れで、少年とその相棒の体は重力落下の法則に従って急降下していく。

 体が奏でる空気を巻きこむ音と、どこからか聞こえてくる盛大な笑い声と共に、やっとのことでナツは現状を理解した。

 故に、叫ぶ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

「あやぁあああああああああああああああああああああ!?」

 

 もはや何が何だか。

 若干本気で焦りながら二人は困惑する。

 なんでとか、どうやってとか、色々と疑問に思うこともあるだろうが、今現在は取り合えず自身達の命の危機だと理解していたらしい。珍しい限りだ。

 しかしこのままただ黙って堕ちていけば、高確率で滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)と猫──エクシードのミンチが完成する。二人にとってそれはごめんである。いや、頑丈を絵に描いて飾るくらいのナツであるならば五体満足かもしれないが。 

 故にナツは、相棒の幸せを呼ぶ青い鳥ならぬ青い猫に叫ぶ。

 

「ハッピィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイー!?」

 

「あいさぁー!!」

 

 力強く返すハッピー。

 瞬間、彼の背にいくつかの文字が書かれている円──魔法陣が現出する。

 魔法陣が淡く発光し、彼の背に彼を魔導士たらしめる魔法──〝(エーラ)〟が現出する。

 背に生えた幾度となく使ってきた自慢の羽をはばたかせ、ハッピーはナツを背中から担ぐと高度を保つ。

 取り合えず危機を脱せたことに、額に浮かぶ汗をナツは拭う。

 

「ふぅ……危なかった。マジでナイスだ、ハッピー」

 

「あい。どうってことないよ。でも……あれ、なんだろ」

 

 あん? と首を傾げながら、猫の小さな手が指し示す方角を見やる。

 

 その先に広がるのは、果てしない地平線に、更にその先に広がる世界の果てを連想させる断崖絶壁。

 手前に見える尺を見間違う程の天幕に覆われた見知らぬ巨大な都市は、フィオーレ王国を探し回っても見れないのではないかと錯覚してしまう。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ぽかーん、と。

 だらしなく口を開けて数秒ほど〝妖精の尻尾(フェアリーテイル)〟の魔導士達はその光景に見入っていた。

 そこで。

 

 まさしく腹の底から響いてきそうな重低音が響く。

 思わずナツは眉を顰めた。

 そしてなぜか、ハッピーがバツが悪そうに身をよじる。

 

「……ナツ」

 

「おう。なんだよハッピー」

 

「オイラ、ナツに謝らなきゃいけないことがあるんだけどさ」

 

「何だよ」

 

「怒んない?」

 

「怒んねーよ」

 

「本当に?」

 

「当たり前だろ?」

 

 今までどんな辛い時も、どんな絶体絶命の状況でも、共に乗り越えてきた斬っても切れぬ間柄。

 どれほどのことが起きようと、笑って許してやろうとナツは広く構えた。

 その姿勢に、ハッピーはお星様よりも笑顔を存分に輝かせる。

 そして。

 

 

「オイラ、お腹すいて魔法解けちゃった」

 

 

 瞬間、一人と一匹は絶叫を上げ、再びものすごい風圧を味わいながら、数十秒後には冷たい水の感触とご対面することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

  ☆  ★  ☆  ★

 

 

 

 

 凄まじい速度を持ってして、二人の魔導士は下方に存在する湖に盛大な轟音と共に巨大な水柱を落下の衝撃で作り上げた。

 ぶくぶくと泡が生まれる水中に沈んだ二人は、新鮮な空気を求めて水面へと浮上する。

 

 

「────ごはっ!!」

 

 

 貪るように咳き込む。

 不思議なことにあの高さから堕ちても五体満足なようで、しかも見た目よりずっと浅い。

 ナツは脚を水底に付け、今や本気で溺れそうになっているハッピーを持ち上げて救出する。

 そのまま突っ立ている理由もないので、二人は取り合えず岸辺へと脚を進めた。

 

 

「……散々な目に遭ったね」

 

「ああ、マジで死ぬかと思った」

 

 

 辟易しながら岸辺へ到着。

 ハッピーは体をぶるりと振るわせ水を払い、ナツは服装を屈強な腕付きで絞る。

 

 そこで初めて、彼らは他にも人がいることを認識する。

 実は彼らは何の飛ぶ手段を持たないがために堕ちていった哀れな被害者なのだが、軽く錯乱状態にあった二人はそのことを全く認識していなかったらしい。もはや頭のネジが一本飛んでるとか、そういうレベルではない気がする。

 

 

「し、信じられないわ!! まさか問答無用で引きずりこんだ挙句、空に放りだすなんて!!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜ、これ。石の中に呼び出されたほうがまだ親切だ」

 

「……いえ、石の中に呼び出されては、動けないでしょう?」

 

「俺なら問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

 

 学ランにヘッドホンをしている金髪の少年と、Yシャツにスカートをしたどこかのお嬢様のような格好をした長髪の少女が鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 そこでナツと同じように猫を連れた茶髪でショートカットの少女が、誰に言うでもなく呟いた。

 

 

「ここ……どこだろう」

 

「さあな。どこぞの大亀の背中じゃねえか? 取り合えずまともな場所じゃねえだろ。……そんなことより、まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前らにも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まず『オマエ』なんて呼び方を訂正して。私は久遠 飛鳥(くどう あすか)よ。以後気をつけて。それで、そこの猫を抱えている貴方は?」

 

春日部 耀(かすかべ よう)。以下同文」

「そう、よろしく春日部さん。それで、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻 十六夜(さかまき いざよい)です。粗野で、凶悪で、快楽主義者と三拍子揃ったダメ人間なので、用法と容量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハッ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

 

 出会って会話をするなり、なにやら一触即発の雰囲気を醸し出している三人(主に二人)の会話を聞いていたナツは、自分の相棒であるハッピーと三人から少し離れて、ヒソヒソと話し出す。

 

「なぁハッピー。なんでアイツら仲悪そうなんだ?」

 

「あい。それがオイラにも分からないのです」

 

「腹でも(ワリ)ィのか? もしかして女の方はルーシィとかがたまになる『アレ』か? だから機嫌悪いのか?」

 

「多分それはないんじゃないかな」

 

 どうやら炎の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の思考回路は、常人よりもある意味で素晴らしくできていらっしゃるらしい。もしくは回路が焼き切れているのかもしれない。このような状況で女の子特有の『アレ』が出てくるはずもないのに、どうしてそのようなことを考えたのか。

 

 ひそひそと段々話が逸れていってる会話を続けていたところで、後ろから声がかかった。

 

 

「────で、そこの青い猫とコソコソ話してやがる桜髪で釣り目の頭悪そうなお前は? あと色々聞こえてんだよ」

 

 

 随分と挑発的な声音で話しかける金髪の少年────逆廻 十六夜。

 ここでまずなぜ猫と会話できるのかと突っ込まないのか、とは言ってはいけない。

 

 

「……あ? オレか? オレはナツだ、ナツ・ドラグニル。こっちは相棒のハッピーだ」

 

「あい、ハッピーだよ!」

 

「……さっきから思っていたけど、本当に普通に会話しているわね。空耳かと思ったわ」

 

「あい、そりゃ喋りますよ。猫ですから」

 

「猫は普通、人の言葉を喋れない」

 

 

 どうやらこの少年少女達は、常識が通用しない子供たちらしい。

 お決まりであるが、ここでは驚天動地の反応をするのが普通である。だというのにこの者たちは素晴らしく図太い神経をお持ちのようで、ハッキリ言ってツッコミどころ満載である。

 ナツのある意味能天気と言える自己紹介に、3人は各々の感想を抱く。

 

 

(……なんつーか、随分と頭が軽そうな顔をしてんなぁ)

 

(ナツ・ドラグニル……明らかに日本人ではないわね。それに彼も野蛮そうだわ)

 

(ハッピーっていうんだ……仲良くしたいな)

 

 

 軽薄な笑みを浮かべる逆廻 十六夜。

 傲慢そうに鼻を鳴らす久遠 飛鳥。

 若干興味深そうに見つめる春日部 耀。

 周囲をせわしなく見回すナツ・ドラグニル。

 その彼と一緒になって同じく見回すハッピー。

 各々がまさしく好き放題な行動を取る中、十六夜が唐突に切りだした。

 

 

「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この場合、招待状に書かれた箱庭の事を説明する人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね、何の説明もないままでは動きようがないもの」

 

 

 そう。ここにいる者たちは皆同様にいきなり手に入れた白い手紙を読んでいたら、いきなり空中に放り出されたのだ。

 ならば、手紙を送りつけた人物がいて、その〝箱庭〟なるものについて説明する人物がいるものだ。

 では、なぜその説明をする人物がいないのだろうか。……前提条件として、まずナツとハッピーはここがまだイシュガル大陸だと認識しているが。

 どうやってここから帰還するか、帰るときは列車を使わなくてはいけないのかなどと考察する。

 

 そこでふと、この場には無かった匂いが彼の鼻にかかった。

 いつの間にかそこにいた隠者の気配に、ナツは眉を顰めて居場所を探る。

 

(……場所は、あの草むらからだ)

 

 

 ナツは滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だ。その身を竜と同じ体質に変換できる恩恵なのか、彼はそんじゃそこらの軍用犬を凌ぐ嗅覚を持つ。そんな彼のスーパーな嗅覚センサーに、嗅いだことがないような匂いがする。

 

 

「────仕方が無ぇな。こうなったら、そこの隠れている奴にでも話を聞くか?」

 

 

 突如十六夜が何気無く呟くのと同時に、草むらがガサゴソと揺れる。

 どうやら匂いの持ち主のようだ。

 

 

「なんだ、貴方も気付いていたの?」

 

「当然、かくれんぼじゃ負けなしだぜ? そっちの猫を抱えている奴とツリ目の野郎も気づいてんだろ?」

 

「風上に立たれたら、嫌でも分かる」

 

「さっきからそこの草影から変な匂いがすっからな、こんな匂いじゃ分かるだろ。あとツリ目って言うな金髪野郎」

 

 

 どうやら、異様な気配に気付く当たりは彼らもそれなりの場数を踏んできたようである。

 彼らがそんなことを口にした数十秒後、草影からその正体がその姿を現した。

 

 

 その者は頭上にウサ耳を生やしていた。

 その者は扇情的なミニスカートに、ガーターソックスを穿いていた。

 その者の髪の色は黒だった。

 

 ついに現れた張本人とも言うべき少女は、若干殺気の籠もった十六夜達の視線に及び腰でへらへらと愛想笑いを浮かべる。

 

 

「や、やだなぁ皆さん。そんな怖い顔で見られると────」

 

 

 残念なことに、弁解の余地は無かった。

 彼女の姿を確認したナツとハッピーは目をクワァッッ!!! と、見開き、

 

 

「「バニーちゃんだァァアああああああああああああああああああああ!!!」」

 

 

 目を輝かせて詰め寄った。

 彼らの猪突猛進ぶりに完全に主導権を握られた少女――黒ウサギは悲鳴を上げて飛びのいた。

 が、それを逃がすまいとして素早い速度で二人は彼女のウサ耳を掴みにかかる。

 というかこれが本命だった。

 

 

「な、なんですか!?」

 

「おおっ!? スゲェぞハッピー、これ引っ張っても全然取れねえぞ!? 本物みてぇだ!!」

 

「あい! 感触とか、ルーシィが着てたものより凄くフカフカしてるよ!」

 

「こっ、これは飾りではありません! 黒ウサギの正真正銘自慢のウサ耳です!!」

 

「……ずるい」

 

 

 突如背後から忍び寄る声。

 嫌な予感を感じて振り返る前に、何時の間にやら移動した耀に少し強めな力で掴まれた。

 

 

「私も触りたい。二人ばっかりずるい」

 

「ンだよ、これはオレ達のもんだっての。なあハッピー?」

 

「あい、これはオイラ達が先に取ったものです」

 

「黒ウサギの物ですっ!!」

 

 必死の講義も空しく、他人のウサ耳で勝手に争奪戦を開始する問題児。

 更に乱入者も。

 

「何だ? これって本物なのか?」

 

「……。じゃあ、私も」

 

「ちょ、ちょっと待っ──────」

 

 問答無用とばかりに総勢四人と一匹に争奪戦を開始される。あっちへぐいぐいこっちへぐいぐいされる痛みは想像を絶するようだ。

 その後黒ウサギの悲痛な叫びが、近隣の森に木霊することとなる。

 

 

 

 

  ☆  ★  ☆  ★

 

 

 

「あ、あり得ないのですよ……学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのです………」

 

「いいからとっとと話せ」

 

 

 さきほどの猛獣共に囲まれた少女――――黒ウサギは問題児4人+一匹にいいように玩具にされていた。

 見た目通り鬼畜な少年たちである。

 

 しかしどうにか話を聞いてもらえる状況ではあるようだ。

 黒ウサギは気を取り直してこほんっ、と咳払いを一つして先ほどの十六夜の用件に応じる。

 

「それでは皆様、定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ言います! ようこそ、〝箱庭の世界〟へ! 我々は貴方がたにギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと思いまして、この世界にご招待いたしました!」

 

「ぎふとげーむ? なんだそりゃ?」

 

 いきなり変なところから落とされたかと思えば、これまたいきなり変なぎふとげーむなんてもののことを言われても、おつむがあまりも残念なナツにはいまいち理解できない。

 

「そうです! 既にお気づきかもしれませんが、皆さんは普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競い合うためのゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力をもつギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

 コミカルな動きとともに、どんどんと説明を加えていく黒ウサギ。そこでふと、本当に珍しい事に、あの単純思考回路で有名なナツ・ドラグニルがあることに気づく。

 

(……ん? コイツ、さっき『この世界』って言わなかったか? てことはここは『エドラス』みたいなもんてことかぁ……ん? ん? エドラスってことは別の世界……?)

 

 ナツが足りない脳味噌で四苦八苦している中、説明を続けている黒ウサギに飛鳥が挙手した。

 

「貴女の言う〝我々〟とはあなたを含めた誰かなの?」

 

「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって数多とある〝コミュニティ〟に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

 

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの〝主催者(ホスト)〟が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

 更に続けられるウサギ少女の説明。

 曰く、ギフトゲームの勝者はそのゲームを主催する〝主催者(ホスト)〟と呼ばれる暇を持て余し試練を用意する修羅神仏や、または自身のコミュニティの力を誇示するグループなどから提示した賞品を得られるという構造なのだとか。

 一見すれば簡単なように見えるが、ゲームの難易度はそれぞれで、命を落とす危険がある試練のようなものから戯れのようなことまで存在する。

 無論、難易度によって〝主催者〟から得られる恩恵は変化する。難しければ難しいほどに、その賞品はより有益な物となる。

 また参加する者にはチップ、即ち代償を得られるのが定石であり、時に命、時に名誉、時に土地、時に人材、時に恩恵など千差万別。知恵を絞り、力を尽くし、勇気を持つ。それらを兼ね備えてこそギフトゲームはクリアできる数が増えるのだと彼女は告げる。

 

 ではギフトゲームが法そのものなのかと聞かれれば、その答えは合っているようで少し違うらしい。

 この箱庭の世界であったとしても窃盗や強盗は厳禁であり、恩恵を用いた悪事などもってのほか。故に厳重に処罰されるが、しかしギフトゲームに勝てば対象からその全てを奪い取ることさえ可能である。

 例えば、人材の命を掛けて〝主催者〟が提示した条件をクリアすれば、その者を殺すことも奴隷として一生隷属させることも意のままである。

 

「―――と、ここまで箱庭、及びギフトゲームなどについて説明をさせていただきましたが、何かご質問がお有りでしょうか?」

 

 一つ息をついて、黒ウサギは話を区切った。

 言うべきことは全て言えたので、彼女としても内心ホッとしている。

 その時、皆の中で今まで黙して話を聞いていた桜髪の少年がスッと静かに手を上げた。

 

「はい! 何でしょうか? 何なりと質問をどうぞ!」

 

「なぁ……さっき『この世界』って言ったけどよ、それって――――」

 

「はい! ここは貴方様達がいた世界とは全く異なる〝異世界〟でございますよ!」

 

 10人が見れば10人が見惚れるであろう満面な笑み。

 しかしこの時だけ、ナツにはこの笑顔が悪魔にも見えた。

 この時、ナツとハッピーは一瞬、一切の音を感じることを忘れていた。

 まるで全身に電撃を浴びたような、体を何かで貫かれたような感覚に陥っていた。

 

「…………?」

 

 まるで時間が停止してしまったように、石のようにピクリともしない一人と一匹。

 何時までもそのままなので、黒ウサギは事態を進行させようと声をかけようとして。

 

 ガシィッッ!!!!

 

「ッ!?」

 

「ふっ……」

 

「……ふ、ふっ?」

 

 なぜかウサ耳を掴んだまま離さない桜髪の少年に、言いよれぬ危機感を覚える黒ウサギ。

 恐る恐る聞いてみる。

 そして。

 

「――ふっざけんなァァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!! 帰せェェエえええ!! 今すぐ元の世界に帰しやがれェ!!」

 

 

 文字通り火を吹く勢いで詰め寄り、八つ当たり気味にウサ耳を猛烈な勢いで引っ張りまくる。

 耳を引っ張られた黒ウサギは『きゃあっ!?』などと悲鳴をあげるも、如何せん化け物のように力が強いので逃げるに逃げられない。

 取り合えずこのままでは、毎晩毎晩丁寧に手入れしてきたウサ耳が引っこ抜かれかねないので、彼女は全身全霊を込めて待ったをかけた。

 

 

「ちょ、ちょっと!? ちょっとお待ちを! 少し冷静になってください!!」

 

「ざけんなゴラァ! これが冷静でいられるかぁ! こっちはまだ父ちゃん(イグニール)にも会ってねえし、グレイやエルザやギルダーツやじっちゃんとかもぶっ飛ばしてねえんだぞ!?」

 

「あい!! オイラだってまだシャルルと一緒にいたいし、まだまだ美味しいお魚だっていっぱい食べたいのにっ!!」

 

 

 あちらの世界に残してきた未練がなんとも幼いというか、子供っぽいというか……。とりあえず遣り残したことがあるのに勝手に呼び出されて冷静ではいられなくなっている一人と一匹。

 猛牛のような勢いで暴れまくる二人。もはやかじ取りはできない状況にある。

 

 

「ちょっと本当にお待ちください! 今、そのことについてぇっ、説明いたしますのでっ!!」

 

「「帰せぇェェエえええええええええええええ――――!!!」」

 

 

 黒ウサギの制止の声も虚しく、暴走状態にあるナツとハッピーは黒ウサギの素敵なウサ耳を引っ張り続ける。後に、黒ウサギがこの二人を止めるために、小一時間ほど時間を消費し続けることとなった。

 

 

 

 

 暴走していたナツとハッピーを沈静化することに成功した黒ウサギは、ゼぇ、ハァ、と本日二度目の荒い息をつく。十分に息を整えて、彼女は少々疲れたような笑顔でナツ達へと向き直る。 

 

「ふぅ……そ、それでどんな話でしたっけ?」

 

「元の世界へ返せこのヤロウ!」

 

「あい!」

 

 未だ冷めやらぬ剣幕で要求する。

 ここに自分たちを呼ぶことができたのだから、帰すこともできるのだろう、だから返せという話だ。ナツたちからしてみれば、ギルドに落ちていた手紙をたまたま拾ったら異世界に呼ばれちゃいましたー、なんてありがた迷惑な体験である。故にそこは我慢ならない。

 しかし黒ウサギにも黒ウサギの事情があるのだ。

 

(……ま、マジでございますかっ!? まだ説明しただけなのに帰りたいと仰られちゃうんですか!? とびっきり扱いにく方ですが、〝主催者(ホスト)〟の話では『人類で最高級の才能の持ち主』だとのこと。即ちめちゃくちゃ強い方なはずなのですっ! ……凄く乱暴な方ですが、ここでお帰りになられてしまっては黒ウサギの計画がパーに……。それだけは阻止しなくてはっ……!)

 

 自分の計画がご破算になったとしたら被害を被るのは自分だけではない。

 自分に希望を託してくれた者たち全員の想いが、苦悩が一瞬にして水泡に帰す。

 

 そうあってはならない。だからこそ、その為にも黒ウサギが計画を諦める訳にはいかないのだ。

 なので、この少年たちには悪いが少しばかり嘘をつかせて貰って利用させてもらうこととにする黒ウサギ。自分を頼りにしてくれている為ならば、嘘をつこうが利用しようがどんなことでもする所存だ。否、そうしなければいけない状況にきている。

 

「だ、大丈夫! 大丈夫デスヨ! 元の世界に戻る方法についてもこれから説明させていただきますので、まずは黒ウサギのコミュニティのリーダーのところへ参りましょう! 話はそれからです!」

 

「何!? 本当か!」

 

「あい! やったねナツ!」

 

「おう!!」

 

「ッ!!?」

 

 騙されているということは露知らず、ナツとハッピーは年甲斐も無く無邪気に元の世界に戻れ事をはしゃぐ。

 その満面の笑顔を見て黒ウサギの良心にグサリ、と罪悪感という名の槍が突き刺さる。なんでもするつもりでいたがここまで喜ばれるとこちらとしても悪いことをしている自覚は拭えない。

 

(……や、やっぱりあとでジン坊ちゃんに手伝ってもらって、本当のことを話しましょうかね)

 

 嘘だったと知ったら100%怒り狂って殴りかかってくるかもしれない。

 この少年が、女だからって手加減するという配慮をするような性格だとは思えない。

 黒ウサギはばれたときに来る報復を考えて、ばれない様に深くため息を突いた。

 

 

 

 

 

  

 

  ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 黒ウサギがナツたちを説得(という名の詐欺)をし終わったところで先ほどナツたちにも約束した通りに場所を移そうと思い、問題児三人組みの所に戻る。

 

 しかしふと、どうしても気になることがあった。

 

 足りないのだ。決定的にあと一人だけ、人数が不足していた。

 確かもう一人、ナツと同じくらいの歳の少年がいたはずであったのだが。

 僅かばかりの危機感に駆られた黒ウサギは、素直に冷や汗を流しながら飛鳥達に問う。

 

「あ、あの……もう一人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、体全体から〝俺問題児ー〟ってオーラを放っている殿方が」

 

「ああ、十六夜くんなら……『なんか説明長くなりそうだし、ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』とか言って駆け出していったわよ。 あっちの方に」

 

 そう言って飛鳥が指を示す方向には、上空4000メートルを見えたであろう断崖絶壁が聳え立っていた。

 まさか、あれを飛び越えていったのだろうか? たった一人で?

 黒ウサギは気が遠くなるほど彼方に見える絶壁を見つめ、慌てて彼女たちに問いかけた。

 

「ど、どうして止めてくれなかったんですか!?」

 

「『止めてくれるなよ』と言われたもの」

 

 何の悪びれも無しにそう言い放つ飛鳥。

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくださらなかったのですか!?」

 

「『黒ウサギには言うなよ』と言われたから」

 

 さも当然であるかのように言い切る耀。

 

「嘘です、絶対に嘘です! 実際面倒くさかっただけでしょうお二人方!」

 

「「うん」」

 

 初対面であるはずなのになぜここまでのチームワークを発揮できるのか黒ウサギは疑問に思う。

 人は共通の目的ができたときに奇跡的に素晴らしいチームワークを発揮すると言われているが、これがまさにそうなのだろうか? 

 ファインプレーをした二人にガックリと項垂れる黒ウサギ。これでまた面倒事が増えてしまったではないか。

 

(うぅ……仕方ありません。本当ならば〝箱庭の貴族〟と謳われたこの黒ウサギをコケにしたことを骨の髄まで後悔させてやりたいのですが、ここにも問題児がいるので離れられないし……)

 

 何故自分ばかりこんな貧乏くじを引かされなければならないのだろうか。

 そんな自分の不幸を呪い続けていても状況は好転しないので、せめて自分の傍にいるもう一人の問題児が問題を引き起こす前に仲間に引き渡さなくては。自分の隣にいる問題児に視線を移す。

 

 しかし。

 

「あ、あれ……? ここに居られた桜髪のツリ目で、なんだかとっても元気が良すぎるくらいに良い殿方と、青い猫ちゃんはどこにいっちゃったのでしょうか……?」

 

 ひゅおお、と。そんな擬音が聞こえてきそうなほどに忽然ともう一人の問題児は姿を消していた。

 まさかと思いきや、恐る恐る彼らの行方を聞いてみる。

 すると帰ってきた返答は案の定というか、予想通りだった。

 

 

「ナツとハッピーなら『腹が減ったから魚を探しに行ってくるぜ! 後はよろしく頼む!』とか言って彼と同じ方に行っちゃった」

 

 

 やっぱりか。

 やっぱりそうなのか。

 

 

「あ、あの問題児様方と猫ちゃんはァァアアああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

    ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

  

 

 

 てなわけで。

 ナツとハッピーは腹ごしらえたるお魚の為に、獲物の匂いを辿って上空を飛行中だった。

 

 

「……ナツ、お魚の場所はまだなの?」

 

 

 魚類をこよなく愛するハッピーが不安げに聞いてくる。

 湖に落下した理由も空腹からだったので、この猫にしてみれば死活問題なのであろう。

 そのことをよく分かっている相棒は、自信満々に笑ってみせた。

 

「心配すんなハッピー。もうすぐだからよ!」

 

 ドン、と胸を叩く。

 飛んでいる最中にアースランド(ナツたちの世界)でも見たことのないようなないようなグロテスクな外見の生き物が飛んでいたことが、自分たちはエドラスとはまた違う異世界に来たのだということを実感させられる。そんな実感は空腹には勝てたりしないのだが。

 そんなこんなで飛び続けること数分後、目の前に荘厳な姿を見せつける巨大な滝を発見した。ナツは力強く指差す。

 

「見えてきたぞ、丁度あの滝ら辺から匂いがする」

 

「じゃあ急がないとね。もうすぐ空腹で魔力が切れそうだよ……」

 

「よっしゃ、全速力だハッピー!」

 

 異世界で最初の食事を行うべくして、妖精の魔導士は食料調達のために空を駆る。




最後にもう一つ。


拙作のナツは、所謂『もしものルートを通ったナツ』……即ち、未来ルーシィが未来ローグとは違う未来からやってきたようなパラレルワールドのナツ、と解釈して頂ければ幸いです。
時系列的に言えば、大魔闘演武を終えてドラゴン達も退けたナツですが、『もしも箱庭にナツが呼ばれていたら?』というルートですので、巨人のことも滅悪魔法のこともナツは知りません。

よって、そのことによって世界が変わっていき、言うなれば『冥府の門編を経なかったナツ』。
そういうことになっていきますので、ご了承ください。


え? なんでそんなことにしたのかって?


そりゃ原作の進行具合に我慢できなくなったってのもありますが、そうすれば箱庭で冥府の門達を登場させ(((


……ゴホン、ここからはネタばれになりますのでカットさせて頂きます。

というわけで、あくまで並行世界のナツの話ですので、大魔闘演武以降の原作は展開的に関与してきませんので、ご了承ください。
……やっとこそさ話を始められるぜ。
これで何人読者様を失望させてきたことか。


あっ、ちなみに序盤はあまりリメイクする前の一番最初の作品をベースにしてますので、あしからず。
でもルイオス戦とか白夜叉とかの決闘は色々変わる予定だけどね!!



……なんかネタばれしまくってすいません。

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