火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ?   作:shoshohei

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 実は皆さん、ナツの服がどこに行ったかご存知でした?
 今回はソレをちゃっかり回収してたりします。いえ、決して忘れてたとかそういうわけではありませんよ? ほ、本当ですよ?(ガクブル


 ―――修正した部分があります。というよりは追加した部分だけです。byshoshohei 8/20


会談

 星空が静まり返った街頭を照らす頃。

 ジンと耀を除いた一行は〝サウザンドアイズ〟二一〇五三八〇外門支店を訪れていた。店内へと通ずる門前には例の無愛想な店員が、軽く会釈をして一行を迎えた。

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

 

「黒ウサギ達が来る事は承知の上、ということですか? あれだけの無礼を働いておきながらよくも『お待ちしております』なんて言えたものデス」

 

「そうだそうだ! よくもそんなことが言えたなー!」

 

「……私は事の詳細は聞き及んでおりません。中でルイオス様からお聞きください」

 

 あくまで冷静な女性店員は、黒ウサギの嫌味もハッピーのヤジも眉毛一つ動かさず対応する。その言葉に再び憤慨しそうになる黒ウサギ。

 だが、

 

「……そのルイオスってのが〝ペルセウス〟の親玉なのか?」

 

 冷徹な、或いは冷酷な声音。

 以前あった時とは明確に違うソレを発する桜髪の少年に、店員はあまりの差異に言葉を詰まらせる。僅かに戸惑いながらも、店員はナツの言葉に頷き、自身の背後を目線で指した。それを了承と取るや否や、ナツはズカズカと店内へと大股で入って行く。

 

 店内に入り、中庭を抜けて離れの家屋へと向かう。戸を乱暴に開けた先には不遜な態度でふんぞり返っている亜麻色の髪で、蛇側の上着を着た青年―――ルイオスがいた。ナツは彼の姿を見つけると、阿修羅のごとき怒気を滲みださせて犬歯を剥き出しにして掴みかかる。

 

「テメェが親玉か……!」

 

「だ、ダメですナツさん!」

 

 黒ウサギが慌てて割って入る。そのままにしておけば、間違いなくナツはルイオスに暴力を加えていただろう。黒ウサギが必死にナツを宥めることもお構いなしに、声を上げてルイオスがはしゃいだ。

 

 

「うわおウサギじゃん! いやー実物って初めて見た! 東側に来てるって噂はやっぱ本当だったんだなあ。つーかミニスカにガーターソックスってずいぶんエロいな! ねー君、うちのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」

 

 特に言い回す素振りも見せないで自己の心情をストレートに吐露するルイオス。その言動が癪に障ったのか、青筋を立ててナツと飛鳥が彼女を庇うように前に出る。

 

「テメェ……! 他人のこと無視した挙句に、勝手に他人の依頼人に色目使ってんじゃねえ! 第一お前のものだなんて一言も言ってねえだろうが!」

 

「ナツくんの言うとおりね。貴方みたいな外道に渡さなくってよ? だってこの美脚は私たちのものなのだから」

 

「そうだぞー! このすんごい脚で取ったお魚はオイラ達のだぞー!」

 

「そうでそうですお魚は…………って、違いますよ飛鳥さんハッピーさん! ハッピーさんに至ってはお魚関係ないじゃないですか!」

 

 怒りたいのか漫才をしたいのか、どっちだか分からない二人と一匹におっかなびっくりといったように驚く黒ウサギ。それでも指摘(ツッコミ)を忘れないのは彼女の性分か何かか。

 そんな三人と一匹を見ながら十六夜はため息をついて、

 

「そうだぜお前ら。この美脚は俺のものだ」

 

「そうですそうですこの脚はもう黙らっしゃい!!」

 

「よかろう、ならば黒ウサギの脚を良い値で」

 

「売・り・ま・せ・ん! あーもう、真面目な話をしに来たのだからいい加減にしてください!」

 

「黒ウサギの言うとおりだ、お前らいい加減にしろよ! 黒ウサギの脚が高値で売られようがどこかの高級魚を取りに行こうがどうだっていいだろ!? 思い出せよ、オレ達はここに一体何をしに来たのかをッ!!」

 

「もう黙っててくださいこの天然お馬鹿様ッ!!!」

 

 まさしくその通り。

 傍から聞けばそう言いたくなるほどに真っ当な言い分を叫んで、黒ウサギはお馬鹿の頭にハリセンをお見舞いした。 

 

 

 

  ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 色々な意味でゴチャゴチャな白夜叉の私室から場所を変えて、〝サウザンドアイズ〟の客室。そこで両者は向かい合っていた。二つの陣営の中間に位置するように、白夜叉が上座で両陣営を見守っていた。

 

 

「―――以上が、我々が〝ペルセウス〟の所有物であるヴァンパイア及び、同コミュニティから受けた狼藉の全容です。ヴァンパイアが我々の領地内で行った破壊活動、加えて〝ペルセウス〟の騎士たちによる侮辱の言動。これは紛れもない事実です」

 

「うむ。〝ペルセウス〟の所有物であるヴァンパイアが身勝手に〝ノーネーム〟の領地に踏み入って荒らしたこと。それらを捕獲する際における数々の暴言と暴挙、確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

 

「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、謝罪程度では腹の虫が収まりません。この屈辱は両コミュニティの決闘を持って収拾を図るべきかと」

 

 勿論、レティシアが暴れ回ったことなど真っ赤なウソ。虚言である。

 しかしながら、〝ペルセウス〟の騎士たちの暴言などでは決闘をこじつける要因には些か弱い。だからこそ、物的証拠などはあまりないものの、『所有物の不祥事』を持って決闘を持ちかけ、その決闘でレティシアを奪還するつもりでいた。

 

「〝サウザンドアイズ〟にはその仲介をお願いしたく参りました。もし〝ペルセウス〟が拒むのであれば〝主催者権限(ホストマスター)〟の名の下に」

 

「い・や・だ」

 

 唐突にルイオスが割り込んだ。

 

「……はい?」

 

「いやだ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れまわったって証拠があるの?」

 

「それなら彼女の石化を解いてもらえば」

 

「馬鹿言うな。アイツは一度逃げ出したんだ。、取引まで石化は解かない。第一口裏を合わせないとも限らないだろ? えぇ? 元・お仲間さん」

 

 言外に、お前達の過去は既に洗ってあるのだと告げていた。故に彼の言うことが違うとは、黒ウサギ達は自信を持って言い返せない。

 

「そもそも、アイツが逃げ出したのはアンタ達に会いに行ったんだろ? 実は盗んじゃうつもりだったとか?」

 

「そ、そんな証拠が……!」

 

「事実、吸血鬼はアンタらのところにいたじゃないか。まあ? どうしても決闘に持ち込みたいっていうなら? 詳しく調査しないでもないですけどぉ? でもそれをされて一番困るのは誰なのかなー」

 

「……っ!!」

 

 ルイオスの視線が白夜叉へと移る。当の彼女は苦もなくそれを受けていたが、そこで黒ウサギは悟った。

 隷属させられていたレティシアが、誰の援助もなく抜け出すのは至難の業。代償を払ったとしても限度がある。ではなぜレティシアが脱走できたのかと言えば、白夜叉の援助に他ならない。彼女は何度も〝ノーネーム〟に手を貸している。今回の一件も彼女の親切心からだろう。

 そのことが察することができてしまうが故、恩人である彼女の名前を出されればそれ以上は踏み込めなかった。

 

「さて、と。さっさと帰ってあの吸血鬼を売り飛ばすとでもするか。―――それにしても、あの吸血鬼も報われないよねぇ。自分のギフトを、残念な仲間の所為で手放すことになるなんてさ」

 

「…………え?」

 

 屈辱に塗れ歪められた黒ウサギの表情が、一瞬にして呆けた物へと変化した。

 ルイオスは嗜虐心が垣間見える笑みを浮かべると、その先の言葉を紡ぐ。

 

「〝恩恵(ギフト)〟はこの世界で生きていくために必要不可欠なもの、云わば生命線だ。それを馬鹿で無能な仲間の無茶を止めるために捨てて、ようやく手に入れた自由も仮初めのもの。他人の所有物っていう極めつけの屈辱にまで耐えて駆けつけたっていうのに、聞けば仲間は何もしてくれず石にされるという有様。ホント、せっかく苦労したっていうのに散々だよなぁ」

 

「なっ、え……?」

 

 茫然としたものから、戸惑いの色へと変色する少女の顔。

 それはレティシアが、如何様にしてこの東側へ訪れたのか。それが分かったが故のもの。つまるところ吸血鬼の少女は、自らの魂を砕いてまでかつての仲間の元を訪れたのだ。

 明かされた事実は、黒ウサギを動揺させるには十分に足るもので。そんな彼女の様を見たルイオスは、醜悪に笑って放言した。

 

「ねえ、黒ウサギさん。僕と一つ取引をしないかい?」

 

「……取引?」

 

「そう、取引さ。吸血鬼を〝ノーネーム〟に戻してやる。その代わり、君は生涯僕に隷属するんだ」

 

 条件をこれ見よがしに提示して、静かに手を差し伸べるルイオス。

 英雄(ペルセウス)と言うよりは、正しく悪魔と言って差し支えないその手を、黒ウサギは凝視しながらも撥ね退けようとはしない。

 

「一種の一目惚れって奴かな? それに〝箱庭の貴族〟としての拍も欲しいし」

 

「信じられないわ! 外道とは思っていたけど、ここまでだなんて!! もう行きましょう黒ウサギ!」

 

「ま、待ってくださいっ」

 

 堪えかねた飛鳥が啖呵を切って黒ウサギの手を強引に取る。されども当の彼女は立とうとせず、未だ表情には迷いの色が伺い知れた。

 もはや明白。誰の目から見ても、ルイオスの誘いに戸惑っているのは日を見るよりも明らかだった。

 

「ほらほら。君は〝月の兎〟だろ? 仲間の為、煉獄の炎に焼かれるのが本望だよなあ? だったら―――」

 

()()()()()()ッ!!」

 

 響く気丈な大喝。それにより、散々愉快気に動いていた男の口が大音を響かせて閉口する。

 

「…………ッ!!? …………ッ!!」

 

「貴方の声は聞くだけで虫唾が走るわ。そのまま()()()()()()()()()!」

 

 少女に命ぜられるがままに、ルイオスは腰を屈め、手足を地に付き顔を下へと向ける。通常ならば、このまま飛鳥は不機嫌そうに鼻を鳴らして黒ウサギの手を引き、〝サウザンドアイズ〟の支店を後にしたことだろう。

 

 しかし、眼前の男は仮にも英雄の末裔が集うコミュニティの長である。事は彼女の予想通りには進まない。

 

「おい、おんな。そんなのがつうじるのはなあ―――――三下だけだってんだよ、馬鹿がァッッ!!!」

 

 力づくで〝威光〟の効能を打ち破り、激怒のままにギフトカードから即座に大鎌を取り出す。現れた刃は持ち主の感情に逆らわず、横薙ぎに振るわれた。

 自身のアイデンティティーにも等しいギフトを破られた飛鳥は、その僅かな驚愕により回避の概念が頭から抜け落ちてしまい、ただ茫然と立ち尽くすのみ。風を切り裂いて迫る刃は、一片の慈悲もなく少女の首を宙へと舞わせるに違いない。決定的にそうなるだろう。

 

 その軌道線上に、燃え滾る激情を宿す竜が居なければ。

 

「―――なッ」

 

 驚愕の声は、ルイオスから漏れた物だった。彼の眼前には、何時から其処に居たのか、不自然にも飛鳥とルイオスの間に割って入り、今まさに彼女の首を切り落さんと迫っていた刃を、純粋な腕力だけで受け止めていたナツ・ドラグニルの姿が。

 迷うことなく一直線にルイオスを睥睨するナツに、英雄の末裔は僅かに上擦った様な声で問いかけた。

 

「なっ、何だお前……!」

 

「俺は〝妖精の尻尾(フェアリーテイル)〟の魔導士で、〝ノーネーム〟に雇われてるナツ・ドラグニルだ。てめえがアイツらの親玉って事で良いんだよな?」

 

 刃を力強く握りしめながらナツは問い返した。

 額に僅かな冷や汗が伝うも、ルイオスは花を鳴らして返答する。

 

「そうだけど、だからなんだよ? 何、お前も決闘をしろってうるさく言うつもり? 言っとくけど、仮に決闘したとしても僕はお前達に負けないぜ。そっちはたかが名無しのコミュニティ。そんな奴らが〝サウザンドアイズ〟の一角であるコミュニティに勝てるわけが―――」

 

 言葉が強引に中断される。彼の口を止めたのは、鉄が焼けるよう生々しい音と、鉄が折れ曲がるような耳障りな甲高い音だった。見れば、鎌を握りしめたナツの手から轟々と燃え盛る猛炎が刃を溶かし、刀身が明後日の方角へと向いてしまっている。

 その現象を起こした本人は微塵も気にも留めず、腹の底から出したような低い声を発し、ルイオスの双眸を覗きこむように距離を詰めた。

 

「いいか、よく憶えとけクソ野郎。〝ペルセウス〟だろうが〝サウザンドアイズ〟だろうが関係ねえ」

 

 彼の内情を如実に表した轟炎を瞳に宿し、額と額がぶつかりかねないその距離で、火竜(サラマンダー)は微塵の迷いなく告げる。

 

 

「仲間に手を出す奴はみんな敵だ。総て一つ滅ぼしてやるッ!!!」

 

 ぞわり、と。

 得体の知れない悪寒が背筋を伝う。突然襲ってきた言い知れぬ感覚が、ルイオスの総身から冷や汗を流す。無意識に後ずさりながら、彼の思考は疑問で埋め尽くされた。

 

 コイツは一体何なんだ?

 コイツは本当に人間か?

 こんな魂をした奴が、人間であって良いのか?

 

 思考の無限ループに陥り掛けるルイオス。それを脱させたのは、この喧騒を止めんとする白夜叉の一喝だった。

 

「ええい、止めんか戯け共ッ!! 話し合いで解決できんなら放り出すぞッ!!」

 

「…………ッ。先に喧嘩を吹っかけて来たのはそちらなんですがね」

 

 まぁいいや、と呟いて鎌を仕舞うルイオス。額の汗を拭って、再び意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「折角話し合いに応じたのに、こんな喧嘩っ早い対応されたんじゃ話にならない。黒ウサギさんが僕のトコに来るってんなら話は別だけどさ、未だ返答もないし。悪いけど、やっぱ決闘の話は無しって事で―――」

 

「まあ待てよ、色男」

 

 怪訝に顰められるルイオスの眉。彼が声の発生源へと目を向ければ、その先には今まで何もせずに、ただ黙って見ていただけの逆廻十六夜がいた。

 

「……何? まだなんかあんの?」

 

「ああ、まだあるぜ。お前が決闘を受けざるを得ない重要な案件が」

 

 ルイオスの目が細められる。同時に意気消沈していた黒ウサギの、殺気立っていたナツの、飛鳥の、ハッピーの視線が十六夜へと集められた。

 

「……へえ? それって何さ。聞いてやるから言ってみろよ」

 

「まず第一に、〝ペルセウス〟の吸血鬼が暴れたという証拠だが、これには確かな証言がある」

 

「は? それって何? まさか自分の領地のメンバーだとでも、」

 

「そっちじゃねえよ。俺が言いたいのは()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ルイオスの眉がピクリと動く。十六夜の表情が楽しそうに歪む。少年は続けた。

 

「まず俺たちの領地に諸事情でいた商業コミュニティ〝六本傷〟。それに近年まで〝フォレス・ガロ〟の傘下にいた〝スカルドレイク〟に〝ワームテイル〟。まだまだいるぞ? 〝ブルーリザード〟に〝ハウンドドッグ〟、その他コミュニティetc……。まあざっと総勢二十に相当するほどのコミュニティが吸血鬼の破壊行動、及びお前達の騎士の暴言や内のメンバーへの暴行。この炎野郎の包帯ぐるぐる巻きがその証拠だ。あれは見ていて痛々しかったぜ……」

 

 くっ、と顔を逸らして悲痛な面持ちを見せる十六夜。

 その迫真に足る演技に、普段の彼を知る〝ノーネーム〟メンバーは思わず呆気に取られそうになったが、ここでばれてしまえば彼の努力が全て水の泡である。皆、必死に表情を取り繕った。

 

 ―――十六夜のこの発言だが、勿論全てがねつ造の事実。

 ナツの怪我は白夜叉との決闘の物で、更に先ほどのコミュニティは実在するものの、皆飛鳥や耀がガルドとの決闘で勝利した際に解放され、旗を返還されたコミュニティの数々だ。

 〝六本傷〟だけはガルドの支配下ではなかったが、彼らとは飛鳥達が箱庭に来て初日に出会い、そこの女性店員と親交を深めたコミュニティ。いくらでも口回しは聞く。

 他のコミュニティに対しても、彼らは十六夜達に『傘下に加えられなかった』という貸しがある。であれば、彼らは喜んで、こう言いながら十六夜達に口裏を合わせてくれるだろう。

 

 そんなことはお安い御用だ、と。

 

 確かに〝ペルセウス〟は巨大なコミュニティであるが、それは〝サウザンドアイズ〟の庇護下にあるうちに過ぎない。さらに〝ペルセウス〟は『一度開催したギフトゲームを取り下げる』という、本来ならば降格ものの失態を犯している。〝サウザンドアイズ〟側からも信用を著しく失っている。故に、総数二十以上のコミュニティの圧力には対処し切れないだろう。

 

 しかしルイオスは、額に冷や汗を浮かべながら笑みを作って反論した。

 

「ハッ! そんなの、お前達が他のコミュニティに口裏を合わせてくれって頼めば済む話じゃないか。虚偽の疑いがある以上、ソイツは証言には────」

 

「ああ、それなら心配ご無用だぜ? 確かに俺達は〝フォレス・ガロ〟を解体し、例に挙げたコミュニティに旗を返還した。でもな、旗を返したコミュニティには唾と罵倒がお礼に返ってきやがった。だからまあ口裏を合わせるだけの信頼関係が成り立っていない。俺達は〝名無し〟だからな。恩を恩とも思われないようだ」

 

 やれやれと肩を竦める十六夜。勿論これもハッタリだ。

 しかしルイオスには、それをハッタリだと証明できるような証拠がない。証言もない。故に、この発言を覆すのは困難極まる。

 

 口を忌々しそうに閉じるルイオス。反撃の糸口どころか、場の主導権はこちらに移りつつあるのを感じた十六夜は、軽薄に笑ってルイオスに問う。

 

「さて、お前はまだこれでも『いやだ』の一点張りで通しきれるか? 謂わばお前らは有罪が確定しているのに、自分は無罪だと言い張っている罪人だ。それでもまだ、言い逃れして見せるか?」

 

「……っ!!!」

 

 証拠がないなら作ればいい。証言がないならば言わせればいい。

 まさしく犯罪者の考えを持ってして犯罪者を討つかのような所業。毒を持って毒を制すとはまさしくこのことだった。

 十六夜に対して、物的証拠や状況証拠を盾にして言い逃れをすることなどは至難に等しい。

 プロの弁護士や検事顔負けの十六夜の絶技を傍らで見ていたナツ達は、開いた口が塞がらなかった。特に黒ウサギに至っては、〝世界の果て〟で見せた彼女の嘘を見抜くことよりも遥かに凌駕していたので、なおのこと驚きである。

 

「さてどうする? 答えはもう決まってるようなモンだが、速めに返事をくれると助かるな。なにせ俺達には時間がねえから」

 

 さっさと決闘に応じろと、目で訴えていた。

 それに呼応して、今まで呆気に取られていた皆がハッとなって気を引き締め、ルイオスを見る。気がつけば、もはや勝利は確定しているようなものだった。

 大きく追い詰められたルイオス。打つ手がもはや無い彼は……突如、口を大きく横に裂いた。

 

「……いいぜ、やってやるよ。ただしゲーム内容はこっちで決めさせてもらう。勝敗が決した場合のこっちの報酬はそこのウサギさん、そっちの報酬は好きにしな。どうせあの吸血鬼なんだろ?」

 

「よく分かってんじゃねえか」

 

「ゲームの日取りは一週間後。こちらの最難度のゲームを用意して待っててやるから、震えて待ってるといいさ」

 

 笑顔を浮かべながら額に青筋を浮かべるという、器用なんだか気持ち悪いんだか分からない表情で立ちあがったルイオスは、内心言い負かされた怒りから強引に戸を開けて退出していった。

 

 彼が去った客室に訪れる僅かな静寂、十六夜の絶技を目撃した黒ウサギ達は歓声を上げて十六夜に駆け寄った。

 

「す、すごいです十六夜さん! アレだけ頑なだったのに簡単に言い負かすなんて!」

 

「あい! 完全に手玉に取ってたよ!」

 

「よくもまあ、あれだけの嘘八百がぺらぺらと口から出たものね……」

 

「まあな、本当は一点だけ突かれたら痛いトコがあったんだが、どうやらアイツ、動揺しまくって冷静な判断ができなかったみたいだ。全くちょろいぜ。……さて」

 

 立ちあがって、未だ呆気に取られているナツへと歩み寄る十六夜。

 

「これで遠慮なくレティシアを取り返せる。お前の好きな大暴れができるぜ? もっと喜べよ」

 

「お前……まさか」

 

「アイツらが気に入らねえってのは俺も一緒だ。だから完膚なきまでに叩き潰して、二度と近づかねえようにしてやる。そうだろ? ……お前のがさつなトコはあんま好かねえが、まあ目的が一緒なら仕方ねえわな」

 

 いつもの小憎たらしい笑顔を浮かべる。だがこの時だけは、その笑顔がとても楽しく思えた。ナツはその笑顔を暫し見つめた後、返すように挑発的に笑う。

 

 そんな彼らの……否、十六夜の口八丁手八丁の交渉術に呆れ半分、感心半分といった声音で白夜叉がため息をついた。

 

「やれやれ……ここまで証拠をでっちあげるおんしらも中々に頭のネジが緩んでおるのう……」

 

「ソレを見抜けないお間抜けな部下と気難しい友人に囲まれているお前は大変恵まれてるな」

 

「全くだの。羨ましいなら変わってやるが…………おお、そうだ。そう言えばバタバタしていて忘れていたことがあった」

 

 疲れたような顔から一転何かを思い出した様な顔つきに変えると、白夜叉は突如柏手を叩いた。

 すると虚空から、一着の服が取り出される。その服に皆が眉をひそめる中、ナツとハッピーが心当たりがあるように呟いた。

 

「…………あ、オレの服」

 

「あい。なんか全身包帯ぐるぐる巻きだからすっかり忘れてたよ。そう言えば決闘でボロボロになって脱ぎ捨ててたね」

 

「アレから一応修復をしておいてな、いつ渡そうかと考えていたらこんな時になってしまった。まあ解れや縫い目などは目立たぬ場所にあるから安心せい。あぁ、ちなみに元々の材質が耐火性のようだったから、それをちょいとばかり強くしてみた。おまけに加護のギフト付きじゃ。感謝せいよ」

 

「おう、ありがとな白夜叉」

 

「どうもありがとう」

 

 礼を言って、ナツは今まで来ていた服である袖なしのベストに腕を通す。ぐるぐると腕を回して動きやすさの確認を行う。以前と変わらぬ着心地だと安心感を覚えて力強く頷く。

 

「……よし。それじゃあ服も直って気合が入ったことだし、これで遠慮なくレティシアを取り戻せるな」

 

 ナツの言葉に、その場にいた全員が頷く。もはや邪魔する者は何もない。後はただ、闘いの日を待つだけ。

 

 

 〝ペルセウス〟とのギフトゲームまで、あと一週間。




今回は十六夜さんに頑張って貰いました。
いやーこういう時にすっごく助かるね十六夜君がいると。彼ならばルイルイを言い負かすことなんて訳ないと思ってますよハイ。

ちなみに出てきたコミュニティの名前ですが、ありゃ完全にオリジナルのも混じってますのであしからず。











あ、もし十六夜君の策にアナがありましたらご報告を。しかし誤解なさらぬよう。
そのミスは私のミスであって十六夜君のミスではないので。

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