火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ? 作:shoshohei
今回もちょろっと出てきますよ独自設定。
「…………暇だ」
〝ノーネーム〟の本拠の談話室。そこでナツ・ドラグニルは珍しく、やや生気の抜けた様な表情で言葉を漏らした。常時であれば中々お目に掛れない様な姿である。
そんな彼の傍らでは、ナツの相棒ことハッピーが両手に魚を備えながら、呆れた視線を少年へと向ける。
「仕方ないよ、ナツ。だって今はそんな大怪我してるんだから」
「……だからってよぉ」
木製のテーブルへと脱力を感じさせる動きで突状する。ぐでぐでとした姿を羞恥もなく晒すナツに、ハッピーは匙を投げた様にやれやれと首を振って、このように至った原因を想起する。
―――〝フォレス・ガロ〟の襲撃があった昨夜、黒ウサギに見つかったナツは、全身包帯だらけという姿を目視され、当然の如く爆竹の勢いで問答という名のお説教を受けた。
なぜ治療に専念しなかったのか、なぜ決闘を受けたのか。その他諸々のことをくどくどと正座をさせられながら聴くこと数十分。しかし当然というかお約束と言うか、お説教の内容を、ナツは半分は寝ていたので覚えてはいなかったのだが。
そのような態度にやるかたなしに憤怒した彼女が出した結論が、絶対安静の為に今日は本拠でお留守番ということだった。
勿論ぶーたれるナツの言葉など聞く耳持たずの決定である。そしてもののついでに、ゲームに出ない十六夜に監視役を付けさせた。あの火の玉少年の性格を考えて、何も対抗策を講じずにじっとしているなどあり得ないという考えからである。
勿論のこと十六夜も文句を垂れたが、その時の彼女はまさしく阿修羅のごとく有無を言わさぬ勢いであり、そのような少女に取り合うのは聊か面倒だったのか、はたまた面倒を推してまでガルドとのゲームを見るほどの興味がなかったのか、大人しく引き下がっていたのが記憶に新しい。
そういうわけで、ナツとハッピー、十六夜の二人と一匹は仲良くお留守番中だった。
「暇だひまだひまだひまだひーひっひまひひまひまだっひままだひまひーまーだー♪」
「ナツ、暇だからって変な歌作るのやめようよ」
ゴロゴロゴロゴロ。何とも行儀の悪いことか、談話室の床でまるで幼稚園児のように右へ転がったり左へ転がったりを繰り返しているナツを見て、ハッピーは呆れたようにため息をついて諭した。……口に魚を加えていなければ、恐らくもっと説得力があったはずなのだが。
しかしながら、そのような相棒の言葉も彼の耳に届かず、相も変わらず抜け殻のような表情でナツは転がり続ける。どうやら本当に暇なようで、体のあちこちが机の端やら椅子の角やらにぶつかっても気にならないくらいには暇なようだ。
あちこちから騒々しい音を響き、もしこの近所に民家があったらならば迷惑千万極まるであろう中。何を思ったのか、
「……ヤベェ、暇すぎて死にそうだ。やっぱ飛鳥達のゲームを見に行こうぜハッピー!」
「ナツ、それで黒ウサギにまた怒られてもしらないよ? ていうか怪我治らないよ?」
「こんなもん唾つけときゃ治るって! それじゃ早速―――」
「どこに行くって?」
背後からの声に動きを止める。
そこにはヘッドホンを頭に掛けた逆廻十六夜が呆れた調子で立っていた。
仮にも彼は黒ウサギにナツ達の『監視役』を承っている。気の乗らないとはいえ、彼は自身の仕事はしっかりとこなす少年だ。尤も、『天は俺の上に人を作らず』などという座右の銘を掲げる少年が、素直に他人に従うなど極稀であるが。
軽薄な笑みを浮かべたままの十六夜からの質問。ナツはこれといって悪びれもなく答えた。
「どこって……飛鳥達のゲームを見に行くに決まってんだろ」
「黒ウサギに安静にしてるようにって言われてたんじゃねえのか?」
「これくらい平気だっての。このままだったら暇すぎて干からびちまいそうだ」
「ナツが干物になっても美味しくなさそうだね」
さらりと毒を吐くハッピー。僅かに不満を込めた視線を相棒へと向けるナツ。
そのような漫才染みたやり取りを視界に収める十六夜は、下顎に指を添えて思案する素振りを見せた。
「……確かにお前の言うとおり、ここに長居してもあんま面白くはねえな。それほど興味は湧かねえが、お嬢様達のゲームを見に行く方が建設的かもしれねえ」
「だろ? お前も行くか? だったら―――」
「ただし」
ナツの言葉を十六夜は言葉で遮った。彼は人差し指を立てて、ある条件を提示する。
「俺は仮にも役割がある。少なくともそういう仕事はなさなきゃいけねえ。引き受けたからにはな」
「……? どういう意味?」
ハッピーが小首を傾げて問う。ナツも怪訝な表情で眉を顰めた。それに十六夜は軽薄な笑みを更に深く刻み、その意味を率直に、明確に、簡潔に答えた。
「つまり、行きたきゃお前の好きな喧嘩で俺を倒して、言うことを聞かせてみろ。喧嘩をしようぜって言ってんだよ」
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本拠から遠く離れた、魔王に滅ぼされた植物も動物も寄りつかない、正しく何もないと言って差し支えない更地。寂れたその地へと、ナツ達は脚を付けていた。
「……ナツー、やっぱりやめようよー」
「平気だってハッピー。少しやるだけだからさ。危ねえから下がってろ」
何がそこまで平気なのか。根拠のない自信を持って、ナツはハッピーを下がらせた。
彼の対面へと立つ金髪少年は、相変わらずの酷薄な笑いと共に気楽な調子で言葉を投げる。
「ルールは簡単。どっちかがぶっ倒れるか、降参するかまで勝敗は着かない。どうだ? 簡単で面白いだろ?」
「ああ。スゲェ分かりやくていいじゃねえか」
ナツは嬉々とした笑顔で拳を掌へと打ち付ける。十六夜も口の端を釣り上げながら、その双眸にナツの姿を映し出す。
白夜叉との決闘を見ていた中で、十六夜はナツの実力をそれなりに認めつつあった。故に、自身の中で昂ぶる闘争心という野獣を、この機に開放したのだ。目前の魔導士が、自分が期待している以上の力を保有していることを願うが故に。自身の快楽を、もっともっと潤してくれることを願うが故に。
この機会を逃せば、恐らく当分は武を交えるチャンスは訪れない。そう考えたからこその行動だった。
僅かな沈黙が両者の間に訪れる。
それが示す内容はつまるところ、余計な理屈などは不要。取って飾ったお題目はここまでにして、今すぐにでも牙を剥きかねんとする二人の闘争心を指し示していた。
「それじゃあ―――行くぜ」
告げたことが、開幕の鐘になった。
地面に脚を叩きつけ、轟音と共に足場を砕く剛脚。音速の壁を易々と飛び越え、十六夜は生身で第三宇宙速度を叩きだす。残像を容易に置き去りにして迫りながら、快楽主義者は硬く握ったその拳を、大気を引き裂いて桜髪の少年へと突き出した。
それは山河を砕き、蛇神でさえも一撃で沈める膂力から生み出された脅威。常人が喰らえば、間違いなく五臓六腑どころか全身の骨を砕くであろう凶器を、火竜は右腕を盾として真正面から受け止める。莫大な重量と衝撃に足元が瓦礫と化して崩れるも、ナツは明確に十六夜の拳を防いでいた。
「―――ハッ、そうこなくっちゃな……!」
己の一撃を、正面から倒れることなく受け止める者が居た。眼前の事実に歓喜を覚えた十六夜は、犬歯を剥き出し右から回し蹴りを躊躇なく振るう。再びナツは反応して左腕で防ぐが、拳とは勢いが違う。留まる事は叶わず、四肢は投げ出さずとも僅かに後退させられることとなった。
「白夜叉との決闘を見て分かってたが、やっぱそれなりの力はあるみたいだな。楽しめそうで安心したぜ」
距離を離したままの竜殺しに、金髪の少年は先程よりも熱の帯びた薄笑で笑いかける。対して、ナツも同様に口角を釣り上げて返答した。
「こんなモンは受け止めて当然だろーが。舐めすぎなんだョ、お前」
「おっと、ソイツは失敬したな。別に舐めてるわけじゃねえが、一応怪我人には気遣いってモンがいるかと思ってよ」
「アホぬかせ。ブッ飛ばす気満々だった野郎が吐いてんじゃねーよ」
吐き捨てられたナツのがさつな言葉。耳にした十六夜の双眸が、静かに小さく細められた。
「へぇ……気付いてたんだな。意外と目端が効くじゃねえか」
「バレバレだっつの。ンなモンで隠せるとでも思ってたのかよ」
悪態を突きつつも、やはり喜悦の色をその顔に浮かばせるナツ。
しかし同時に、彼はこの闘争が始まって以来から知覚していた、常時とは異なるその差異に、内心で僅かながらの疑問を抱く。
(……まただ。また力が変わってる感じがしやがる)
この異世界へと踏み込んでいた時よりも、更に己の力の変化と言う異常を感じる。白夜叉との決闘の最中にも力の向上という感覚は抱いたが、これはその時よりも少々であるが、格段な上昇である。
では何故、と要因を突きつめれば、心当たりがある事象は限られてくる。
(やっぱ、白夜叉の炎を喰ったからか?)
根拠として有力な所はそこであろう。
彼女は言った。封印は出力を安定させ、特性を封じるだけのものだと。
彼女は言った。
であれば、白夜叉の魂の一端という炎を糧として、ナツと言う器が、その地力を上げたのではないかとナツは推測する。
滅竜魔法は同属性の物質を喰らって力を増す魔法だ。ならばそれが他者の魂の一端であれ、〝炎〟という形を取っているのであれば、術者の糧として、血肉として与えるのは当然の帰結と言えるだろう。
ましてや、それが強大且つ異質な炎であるならば、それだけ与えられる力もまた強力な物でなければ対価に見合わないというものだ。
……それが分かったところで、やはりこの男にとって詮無きことではあるのだが。
(ま、どーでもいいか)
己で抱いた疑問でありながら、ナツはそれを頭の片隅へと追いやり、気を取り直して拳を握る。ごちゃごちゃとした小難しい問題を後回しにして、未だ愉快気に笑っている十六夜へと向けて、彼も血に飢えた獣の如き笑顔を形作る。
「だけどまあ、一応気遣いされたってわけだし」
言いながら、ナツは僅かに腰を低姿勢へと移行した。
直後、彼の身体を膨大なまでの魔力が駆け巡り、周囲の温度が前触れもなく急上昇する。
「お礼くらいはしねえと―――なァッ!!」
ナツの脚裏から、火山の噴火の如き勢いで炎熱が溢れだした。爆発的な推進力を瞬時に獲得した火竜は、脚を付けていた地表を焼き、十六夜に匹敵するか否かという速度で彼へと肉薄する。
「火竜の鉄拳ッ!!!」
竜の一撃と同質の炎拳が、酸素を焼き切って少年へと繰り出される。
十六夜は回避を選ばず、ナツと同じように真正面から受け止めた。直後に感じる拳の重みと熱さ。亀裂が迸る足場。己の全身の毛が、心地よい感情と共に沸き立つ感覚を覚える。自然、少年の口元が悦びに歪んだ。
「さっきのお返しだッ!!」
意趣返しと言わんばかりに横合いから強襲する炎蹴。享楽に浸っていたせいか、反応が遅れた十六夜は左腕を楯として受け止めるも、僅かにふん地場ることはできずに、土煙りを立てながら後ずさった。
「火竜の……」
息付く間もなく、離れた十六夜へと向けて、火竜は追撃の魔法を肺へと備える。
酸素と共に吸い込まれた
「―――咆哮ォ!!!」
放たれた紅蓮は、かつて湖一帯を一撃で蒸発させ、余波だけで氷山を崩落しかけるに足る代物。純血の龍種が持つべき〝力〟の塊の一端。
大気を燃やし、地面を砕き灰燼へと変貌させ尚止まらない渦巻く炎嵐は、大人一人など容易く飲み込むであろう巨躯を持って十六夜を襲う。
「しゃらくせぇッ!!!」
だが、この身にギフトは通じない。十六夜はその事を十全に理解していたからこそ、竜炎を一片の戸惑いなく殴りつけた。
―――彼の身体には、本来共生できるはずのない二つの奇跡が宿っている。
一つは、第三宇宙速度を生身で叩きだし、尚且つ山河を砕くほどの一撃をその体に宿す恩恵。
一つは、死の呪いや〝ラプラスの紙片〟などの恩恵を無効化する恩恵。このギフトが原因で、彼のギフトカードには〝
ギフトを無効化するギフトを宿しながら、絶大的な破壊力をその身に宿す矛盾。その矛盾を孕んだ存在こそが逆廻十六夜だ。だからこそ彼は、ナツの滅竜魔法もこの恩恵で打ち消そうと考えた。今まで死の呪いですら打ち消せたのだから、竜炎であっても可能であろう。
その予測は、大きく裏切られることとなる。
「――――――ッ!!」
何時まで経っても霧散しない炎に違和感を感じたその後、手の甲に熱い痛みを感じた。驚愕に瞳孔を開く十六夜の目の前には、今も彼を呑みこもうと轟炎が息を巻いて荒ぶっている。このような事例は、今までにはなかったことだ。
(ただの炎じゃねえってわけか……!)
しかし、それが少年の対抗心に薪をくべ、火を灯す。
獰猛とした笑みを浮かべた十六夜は、目の前の熱量の塊から来る熱気に汗を掻きながら、叩きつけた拳とは逆の手を構え、裏拳として力強く振るう。
その振るった拳圧は当然の如く轟音を引き起こし、強風を巻き上げ炎を揺らめかせ、
標的を見失った
「……ッ!!」
「うっそだぁ!?」
ナツが双眸を僅かに開き、ハッピーが裏返った驚嘆の声を上げた。それも致し方のないことと言えよう。
今の今まで、ナツの魔法を無効化する相手とは闘ったことはあっても、炎を殴り飛ばす相手は見たことも聞いたこともなかった。だというのに、あの少年はなんだというのか。
「面白ェ、燃えてきたぞッ!!」
されども、その程度で火竜が萎えることなどあり得ない。先ほどよりも滾らせた悦びを顔面へと表し、総身から地表が溶解するほどの莫大な熱量を放出しながら、先の進撃を凌駕する速度で十六夜へと突撃する。
「ヤハハッ!!」
応じるように、十六夜も高らかに哄笑を上げ、強靭な脚力で以ってナツへと向けて一直線に跳躍。
第三宇宙速度を遥かに凌駕する域で、互いの間合いを詰める両者。秒を跨がずして、このまま進めば激突することは確定と言って過言ではない。
その最中、急遽火竜は、己の右足を地面に突き立て急ブレーキを掛け、握った拳を後方へと引き速度を殺し始めた。
「……あん?」
突拍子もないその行動に、思わず十六夜は笑顔を曇らせ、眉を顰めた。
何のつもりだ、などと自身の中で推測を立てながらも、速度を微塵も緩めることなく剛拳を固く握る。この状況では、勢いによって威力が相乗した十六夜の攻撃の方が勝る。如何なる策を弄そうとも、山河を砕き星を揺るがす拳を止める術はない。その様な自負にも似た思考により、止まることなく脅威の引き金を後ろへと引いた。
―――その予測を、思考を。ナツ・ドラグニルは覆す。
「オラァッッ!!!」
裂帛の一喝と共に、ナツは存分な力で竜の拳を振り下ろした。
超高熱の炎撃は土気色の表面を溶かし、地盤を砕いて周辺の足場を瓦解させ不安定なものへと変貌させる。それだけに留まらず、突き刺さった拳から竜炎が噴出し、強大な炎圧で地面を宙高くせり上げた。
先程まで、一気呵成に拳を撃とうとしていた十六夜とナツが居た地面を、だ。
「野郎……ッ!?」
予想だにしていなかった事態に、この闘争で初めて困惑の色を浮かべる十六夜。今の彼はバランスを崩した事により拳撃を不発にされ、軸も安定せず膝も曲がり、非常に不安定な状態だった。
速度が乗った状態から、準備不足な方向へと急激な力を加えられれば誰であっても体勢を崩す。その事を分かっていたからこそ、ナツはあの行動を取ったのだと十六夜は理解した。
(見た目に似合わず結構頭が回るじゃねえかよ……ッ)
正しく柔よく剛を制す。今までのナツの闘い方からは考えられない戦法に、僅かに混乱し、驚愕する快楽主義者。その隙を逃さんとばかりに、この状況を起こした張本人は、凶悪な笑みをたたえ両腕に火焔を纏って十六夜へと迫る。
「火竜の翼撃!!!」
燃え盛る双翼が大気を震わす。鎌首を擡げた蛇の如き動きで鞭の様にしなるそれを、体勢を崩された十六夜は舌打ちをして腕を交錯させて受け止めた。
当然ながら、此処は空中。地上と違い踏ん張りが効く訳でもない。故に、火竜の炎翼を止めるには至らず、十六夜は勢いよく地へと向け、身体で風を切って叩き落とされる。
しかしながら十六夜も、そのまま素直に堕ちるほど潔い人間でもない。
「ッッめんなァ!!!」
高速で落下する中、力づくで風の流れを振り乱し、身体を回転させる。人体の構造ではまず甚大な負荷が掛るであろう挙動を、頑強そのものである肉体が容易く可能とさせる。駒の様に回り総身の向きを整え、着地の衝撃で地を割りながらも、十六夜は倒れ伏すことなく脚を付ける事に成功させた。
「スゲェじゃねえか!!!」
空から降り注ぐ声。十六夜がそちらを向けば、無邪気とも狂っているとも取れる笑みを浮かべ、両の掌中に自身の身の丈以上の炎塊を発現させた
更なる追い打ちを駆けるべくして向かってくる敵に、十六夜も歓喜の笑顔で迎え入れ拳を握る。
あぁ、何とも面白い。
自分と対等に、自分と同じ位置に立つ奴が。
この逆廻 十六夜の
この異世界とは、何とも快楽に満ちているのか。何とも病みつきになりそうなものが溢れ返っているのか。
以前の世界ではあり得なかった、その胸に湧きおこる感情。童心を燻ぶる喜悦。
それが全身の肌を鳥肌へと変えていく感覚を噛み締めながら、己が腕に万力を込め、自身の喧嘩相手へと全力の限り突き出す。
「カッハハハハハハハハハハハハッ!! 丸焼きにしてやんぞヘッドホン野郎ォッ!!!」
「ヤッハハハハハハハハハハハハッ!! ミンチにしてやんぜマフラー野郎ォッ!!!」
豪快な笑い声を上げて、魔力の塊たる竜炎を携えて急降下するナツ。
狂喜が滲んだ高笑いを上げながら、山河を砕き星を揺るがす拳で迎撃する十六夜。
そして、激突。
刹那、閃光が辺りを支配する。同時に発生した衝撃波の余波は、〝ノーネーム〟の居住区を揺るがし、彼らが居た地を破砕させた。
余談ではあるが。
後日、魔王に退廃させられた土地の一つが、丸々一つ抉り取られることとなったと、〝ノーネーム〟の子供たちの間では密かな話題となるのだった。
後少し……後少しで第二章に入れるので少々お待ちを……!