虚の穴は何故閉じない?   作:エア_

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待たせたな



第六話~四刃

 

ここは第四刃の宮。そこにはウルキオラ=シファーが住んでいる。他の十刃と違い、そんなに宮に物を置いていない。というか、一人でポツンとそこに立っているのが日課のようなものだ。従属官も居らず、一人でただそこにいたのだ。簡単に言うと

 

「ボッチなんだよなぁ。ウルキオラってさ」

 

「殺されたいようだな東吾守」

 

そう、ボッチなのだ。ただのボッチではない。普通に他の十刃に誘われることも頻繁にある。最近では守の買ってきた酒でパーティーだってした(二話の最後)。しかし、彼の欠点により、今もここでボッチになってしまっているのだ。

 

「従属官を選べずに相当苦労しているって感じだったよな」

 

「あぁ、選んだ破面が皆個性的で我が強い。だから迷っている」

 

この迷い癖なのだ。この迷い癖が未だに従属官を決めかねている。しかもその上で口下手。悪く言えばコミュ障なのだ。これじゃあ選んだとしても上手く伝えられるわけが無い。

 

「で、今日呼んだのはそれでか?」

 

「あぁ・・・・・・【第七十九回 第四刃従属官選択作戦会議】を行うのだ」

 

「あぁ、それで俺達も呼ばれたのね」

 

守の後ろにはいつものメンバーがいた。誰でも知ってる二人がそこにいた。

 

二枚目担当、グリムジョー・ジャガージャック。

 

そして最近例の女性破面といちゃついてやがる三枚目だったはずの兄貴、ノイトラ・ジルガ。

 

この二人まで他の十刃に秘密裏に呼ばれていたのだ。

 

「それで、今日ピックアップされたのはどいつなんだ?」

 

グリムジョーが眠たそうにそう言いながら少ない家具の一つである宮の中央においてある椅子に座る。円状のテーブルを囲うようにグリムジョー、ノイトラ、守、ウルキオラの順に座っていた。シュール。

 

ウルキオラはテーブルに置いてあった資料を三人に配る。勿論現世でコピーしてきたものだ。誰がしたのかって? 守以外誰がすると?

 

「今回ピックアップしたのはこの四人の破面だ。全員が全員130番台で帰刃すればとても強い」

 

資料に載っていたのは破面の顔と全体写真。そしてその破面個人情報までもが全て載ってある。現世でならばれたら即逮捕だ。

 

「何々? こいつの帰刃は毒針を体に纏うって、こいつのこれは守が教えてくれた奴にそっくりだな。確かハリセンボン」

 

「あぁ、太い方だな」

 

「誰も芸人のことを言った訳じゃねぇよウルキオラ。てかそんな理由で選んだのか?」

 

「・・・・・・芸人は心を教えてくれる」

 

もはや定番となったグリムジョーのツッコミを前にウルキオラは目をそらした。確かに芸人は笑いをくれる集団ではあるが、そんな理由で選ばれた等とはこの破面は少し可哀想に思える。

 

「こっちの奴は・・・・・・植物に擬態するだと?」

 

「あぁ、隠密行動が得意だ」

 

「でもさ、虚園に木なんて生えてねぇんだよなぁこれが」

 

ノイトラの持っていた資料の破面。なんというか少し残念な破面だったのだ。だって現世の森の中でなら最高に使えるが、この虚園に木なんて一切生えてない。しかも現世に行く組は十刃と愛染に許された従属官のみ。彼は許されていないし、ウルキオラは愛染命なため申請することは無い。つまり。

 

「結局こいつも使えねぇんだよなぁ」

 

「悲しき男よ、生まれた場所が違えばどんなに使えたことか・・・・・・うぅ」

 

ノイトラの一言に守がその破面の代わりに涙を流した。せめてもの情けだ。安らかに眠るが良い。

 

「で、こっちの破面は・・・・・・風を操るか・・・・・・ん? 相棒に声が似ている?」

 

「あぁ、その破面の特技はジャイロボールとナックルだ」

 

「森○保さんじゃねぇかッ!!」

 

思い切り資料をテーブルに叩き付けた守。息を思い切り吐きながら懇親のツッコミをするあたり、彼にもまたツッコミの才能があるのだろう。

 

「ちなみに、黒村は良い性格してたと思う」

 

「いや知らねぇから! って趣味はミニ四区ってこいつ絶対狙ってやってるだろうが!」

 

「やめろ! 陽介を侮辱するな!」

 

「誰もペルソナの話して無いだろ! いい加減にしろ!」

 

天然なのかわざとなのか、ウルキオラと守の言い合いはヒートアップしていく。その間ノイトラはハリセンボンもどきの破面に落書きをし、グリムジョーはその秀逸な落書きに笑いを堪えていた。

 

「いっそこいつを部下にすればいいじゃないか!」

 

「でも、相棒だし・・・・・・部下じゃない」

 

「あー、お前の拘りは理解した」

 

「それとな、そいつの帰刃をみてみろ」

 

守はいわれた通りにその帰刃の姿を見た。その瞬間、彼は椅子からガタリッと落ちてしまった。それまで落書きしていた二人までどうしたと守の下へと集まる。彼の顔を見るとそこには驚愕の一文字が伺えた。

 

「どうした守!」

 

「その・・・・・・資料を、見てみろ」

 

「何? この資・・・・・・料・・・・・・か?」

 

「・・・・・・おいおいマジかよ」

 

二人までもその写真を見て驚愕とした顔をした。それもそうだろう。なんせその顔が。

 

「まさか・・・・・・AIBOだと言いたいのか」

 

「完全にネタを突いてきたかと思えばまさかシンプルなミス」

 

「相棒だからAIBOもしてるよねって奴なのか? それじゃあにわかですらねぇじゃん!」

 

「だからどうしようか迷っている」

 

能力は風を操るというのに、何故か帰刃するとヒトデのような感じになるのだ。ちなみにほんとうにAIBOというわけじゃない。形が似ているというだけだ。それに彼は風を操るのではなく性格には【風邪にする】である。何それ微妙すぎ。

 

「それで、最後は一体誰なんだ? またネタぶっこん出来たのか?」

 

「そろそろ声優ネタの破面とか見たくないわい。頼むから真面目であってくれ」

 

「で? そこんとこどうなんだ?」

 

「あぁ、これだ」

 

三人の前に出された一つの資料。それを見ると三人同時に固まる。三者三様という言葉を無視したような同じ驚愕を表すその顔。何か恐怖を感じているようなそんなナニカを見るような視線。そこに書いてあったのは。

 

「身体強化と時間停止。特技は吸霊、チャーム」

 

「帰刃すると筋骨隆々の頭に蝙蝠の羽が生えた巨漢」

 

「なんだよ、ネタじゃなくて今頃本命ぶっこんできやがったぞこのコミュ障ッ!」

 

「いや、まて。これはどこかで見たことがある」

 

驚愕しっぱなしの二人に守は一人推理するように考え込んでいた。おかしいぞ? 何故わざわざシリアス感を漂わせているのだろうか。これコメディなのに。

 

「何処で見た。これは一体誰だ」

 

「でもこいつ漫画で出てきそうな悪魔みたいな奴だな」

 

守が推理する中、グリムジョーも真剣なまなざしでその資料を見ていた。ウルキオラは考え込む二人を見据えながら、どうしたものかと手元で両手でなにかしていた。所謂自分の手で遊んでいた。というものだろうか。

 

「「う~ん」」

 

二人が捻っているとノイトラは飽きたように第四の宮の何処に置いてあったのか問いただしたい物・・・・・・テレビの前に椅子を置き、電源をつけた。

 

ちょうど、何か流れているようだ。

 

[馴染む、実に馴染むぞッ!]

 

「これは前に4リピートしたわ。他の見るか」

 

何処かイボンコ的魅力を感じさせる声が聞こえる。守達もウルキオラもそちらへ視線を流した。そこに映っていたのは黄色に包まれた筋骨隆々の男だった。

 

「よいしょっと」

 

そして次の映像に変わった。そこには頭に角のように生えた羽が特徴的な水色の体のこれまた筋骨隆々の男。

 

「お、デビルマンじゃんか。漫画見たときはブルッたけど、アニメ版も怖ぇな」

 

「「「デビルマン・・・・・・あ」」」

 

三人は勢いよくその資料に目を向け、そしてテレビに映るそれと見比べた。そう・・・・・・。

 

「「まんまじゃん!!」」

 

「・・・・・・今回も全員不採用か」

 

「何やってんだ? テメーら。もうテレビでも見ようぜ」

 

騒がしい三人を他所にもう飽きたノイトラからテレビを見ようと案が飛んだ。勿論三人は断る理由も無かったため一緒に見ていた。何故かウルキオラだけが椅子の上で体操座りをしながら見ているのはなぜなのだろうか。

 

 

 

 

「結局、決まらなかったな。お前の従属官」

 

「・・・・・・別にいい」

 

あの後、しっかりとデビルマンを見終わった後、第四の宮には守とウルキオラの二人だけが残り後は自分の宮に戻っていった。彼らにも一応する事と言うのはあるからだ。守はノイトラがおいていった何処から出してきたのか分からない冷蔵庫からジュースを二つ取る。勿論一つはウルキオラのためだ。ウルキオラは受け取ると腰に手を当てあさっての方向に向かって一気に飲み始めた。守直伝の正しいジュース(牛乳)の飲み方らしく、彼自身もそうやって飲むとのこと。守もウルキオラの飲みっぷりに感心しながら自分も同じようにジュースを飲んだ。一通り飲み終わった後、二人はテーブルに顔を置いた。顎で支えるためすこし赤くなる(破面の人は赤くならない)が、ウルキオラは気にすることなく守の方を向いた。

 

【挿絵表示】

 

「今回も感謝する。東吾守」

 

ウルキオラは彼に向かって会釈をした。彼に対して出来る礼なのだろう。表情は未だ無表情のままではあったが、守にとっては嬉しそうにも感じられたのだ。

 

「別にいいよ。俺が勝手にはじめた事でもあんだしな」

 

そう言って守は机にグテーっとつっぷくす。ジュースを飲んだにもかかわらず、何故か異様に疲れてしまったらしい。ツッコミに疲れたのかもしれない。そんな彼の姿をウルキオラはただ見つめていた。

 

「・・・・・・それで? 心は見つかったか?」

 

「・・・・・・いや、まだだな」

 

「そうかい。まっ、気ままに行こうぜ。時間は有限だが、俺達ならそれが無限になるぜ?」

 

「・・・・・・そう、だな」

 

守は満面の笑顔でウルキオラに答える。彼もその笑顔を見たためなのか、自然とその口の端が若干ではあったが上に移動していた。

 

それを見抜いた守だったがあえて言わないと決めた。それを見つけるのは彼自身だ。そう心のうちに留め、守はその後もウルキオラとの会話を勤しんだ。

 

内容はそこらへんで聞くような簡単なものだったが、それでもウルキオラと守にとっては大切な会話であった。

 

一人で探すなら確かに時間は有限となってしまう。でも、それが二人、三人となれば、その時間は増えていき、無限になっていくだろう。

 

 

これはそんな心を失い虚となり、そして虚の仮面を剥いだ破面達と、心を持ちそれを分け与える人間の話。

 

彼等の物語はまだまだ続く。

 

 

 

 




破面とか虚って、穴が開くのは心を失ったって話でしょ? なら彼らを斬るんじゃなくて自分の心を分け与えて、彼らのオアシス的な何かになれれば違う形で救えるんじゃあないでしょうか。僕はそう思いますねぇ

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