虚の穴は何故閉じない?   作:エア_

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タイトルどおり。バラガン様との日常です。




第四話~二刃

第二の宮、そこには元主であるバラガンが住むところである。彼は今日も、その玉座にすわり、退屈な日々を送って――――

 

「王手、金取りぃ!」

 

「ま、待ってくれ守。もうちと待ってくれ」

 

――――そんな事もなかった。

 

バラガンは今、守を相手に将棋をしていた。本来はチェスを好む彼だが、守の要望で最近は将棋やらリバーシを多くしている。

 

今の状勢は守が王手をかけている。バラガンは彼をよく知っている人なら驚愕するほど狼狽していた。

 

「いいよ~じいちゃん。二手前までな~」

 

守は嬉しそうに将棋の駒を数手戻し、バラガンの行動を見つめていた。

 

「ん~と、こっちゃーこーで。ここでどうじゃ?」

 

「んじゃまぁ歩をこっちに動かして王手で」

 

「ま、まってくれ守」

 

二手戻り、再び駒を動かすが守が歩を動かし王手をかけた。バラガンは汗をぼの○ののように飛ばす。対する守はあくどい顔をしながら盤面を見ていた。

 

「どうだじいちゃん。我が最強の布陣を!」

 

「むぅ・・・・・・まいったわい」

 

「っしゃあ! 勝ったどォー」

 

どこぞの無人島生活を送るお笑い芸人よろしく立ち上がりながら勝利を叫ぶ守に、バラガンは少し悔しそうな顔をしていた。

 

「むむむっ、次はチェスじゃ、今度こそ勝って見せるわい」

 

「ぐぐっ、将棋は得意だがチェスなんてミミズに毛が生えた程度しか強くないぞ」

 

「むはははっ、勝てばよいのじゃ」

 

「くぅ~! じいちゃんの非情めぇ~」

 

何故か形勢が逆転している守とバラガンは先ほどまでの表情を反転させていた。

 

「・・・・・・バラガン様」

 

「ん? なんじゃ」

 

「はい、昼食の準備が」

 

「そうか、用意せい。守もどうじゃ? 食べるか?」

 

本来、食事などしない彼ら(と言うより人間のような食事という意味)は愛染により習慣づいたのだ。基本的に形だけ食事を取るのだが、守は人間。愛染等同様普通の食事をしなくてはならない。

 

「今日の昼食はなんじゃろな?」

 

「ステーキだ」

 

守はバラガンの従属官であるフィンドールと呼ばれる虚に昼食内容を聞いた。少し眉を引きつかせながら言う彼は守の事が苦手なのだろうか。

 

しかし、問題の守はそんなことお構いなし。バラガンと共に宮の中を歩いた。

 

「・・・・・・人間の分際で」

 

その声は彼に届くことはなく、虚空の中に消える。それを確認したのか、フィンドールは二人のすぐ後をゆっくり追った。

 

「なぁじいちゃん。囲碁は出来るん?」

 

「何を言うか、わしは何でも出来るわい」

 

「んじゃあ今度碁盤持ってくるから一緒にしよう」

 

「ぬふふっ、わしの強さに腰を抜かすなよ?」

 

従属官の前ではまるで孫と祖父のような二人が見受けられた。守は祖父に甘え、バラガンは孫を溺愛する。何ともまぁ良い家族なのだろうか。

 

しかし、それを従属官はよく思わないらしい。

 

「くそ、何で人間が」

 

「ヴェガ。今は耐えろ。バラガン様も時期に飽きられるだろう。その時にでも始末すればいい」

 

「・・・・・・殿下。楽しそうなんだな」

 

憎悪を掻き集めたかのような嫉妬の塊。面白くないのだろう。自分達は常にバラガンの傍に居たというのに、人間である若造の方が大事に見えたのだ。

 

しかし、前方の二人はお構いなかった。

 

「今度現世で上手い食べ物持ってくるよ。あ、煎餅とかも買ってくるから」

 

「ならのう。オカキなる食べ物が食いたいのぅ。現世の爺婆はよく食べるんじゃろ?」

 

「でもじいちゃんに合うかね~。じいちゃんどっちかっていうとワインとかの洋風のが好きそうなんだよな」

 

「まぁ、わしはナウいからな。塩っ辛いもんが欲しくなった訳じゃよ」

 

少し時代錯誤が起こっているお茶目な爺さんもといバラガンと相当懐いた孫もとい守の会話は、席についても暫く続いた。

 

 

 

 

「たは~。食った食った」

 

「これ、若いもんが腹など出さん」

 

「・・・・・・それハリベルにも言ってやってよじいちゃん」

 

食事が終わり、一息つく二人。守のマナーの無さに完全にお爺ちゃん化したバラガンと腹いっぱいに食べた守の姿がそこにあった。

 

「何? あの娘がどうしたんじゃ?」

 

「あの人、日常的に腹出してるし」

 

「あ奴はそうなんじゃろう。しかし守。お前は最近現世が“へそだしるっく”なるものが流行ったとしても、お前はだめじゃぞ? ありゃ風引く」

 

「女の人がするもんだからねおじいちゃん? 俺男だから常識レベルでしないよおじいちゃん?」

 

すこしずれた知識を語るバラガンに対し、守は訂正をしつつその話をちゃんと聞いた。っすがはお爺ちゃんの言葉。孫はちゃんと聞くらしい。

 

「さて、わしは眠いからもう寝る。守も眠たくなったらちゃんと寝るんじゃぞ」

 

「あーい。お休みじいちゃん」

 

よいしょ、と小さく呟くと、重い足取りでバラガンお爺ちゃんは自分の寝室へと向かった。こりゃ完全にお爺ちゃんだ。

 

守はする事済んだしと、第二の宮を後にしようとした。

 

「おい、人間」

 

「んあ? 何だ? ・・・・・・えっと」

 

「ジオ=ヴェガだよ! ジオ=ヴェガ!!」

 

「あぁっと、ごめん初めまして過ぎて分からぬ」

 

従属官の一人、ジオ=ヴェガが守に食って掛かるように詰め寄る。守は何故こんなに食って掛かるのか分からないでいた。

 

ただ自分の頭に?マークが取り巻いていた。

 

「何でバラガン様の周りをうろつくんだてめぇは」

 

「ん? そんなん」

 

お前らにだけは言われたくなかったわ。彼はそう言った。身も蓋もない。

 

「・・・・・・え?」

 

「従属官って意味調べてみ? 傍におる奴のことやぞ? うろついてるのまんまお前らじゃまいか?」

 

「な、何を」

 

うろたえるヴェガに対し、守はおもちゃ発見といわんばかりに口の端を吊り上げた。それはもう恐ろしいほど爽やかであくどい笑顔のまま、じりじりと彼に迫った。

 

「人様へ文句言う前にさぁ。自分のしていること考えてから言えよぉ? え? 従属官君?」

 

「ぐっ、しかし我らはバラガン殿下からお許しをいただいて」

 

「俺がいつじいちゃんから貰ってないと思ったん? そんならここにいないと思うなぁ? 違うかい? 違うかい?」

 

と、そこへバラガンの元から、フィンドールが戻ってきた。その顔は怒りの形相そのものだった。

 

「おい人間! 何をしている!」

 

「ふぃ、フィンドール~~~」

 

ヴェガは彼を見つけると後ろに隠れた。彼、虎なんだけど今はただのウサギよりも弱そう。

 

「貴様、ヴェガに何をした」

 

「弄った」

 

「そうか」

 

「納得するな!」

 

何故か守とコントをしだすフィンドールだったが、ヴェガの目の前でするべきではなかった。もう、彼今にも泣きそうなのである。それを悟ったのか、二人は一つため息をついた。

 

「貴様人間。バラガン様も嘆いておられる。いい加減にしてもらおうか」

 

「何を! 俺の勝ってじゃい」

 

「なっ! フィンドール! こいつはもう始末すべきじゃ!」

 

「そうだな、この際だからはっきりしよう」

 

フィンドールは指を突き出し、守に向けた。その顔は強張っており、ザ・ぼくちん怒ってますよオーラを身に纏っていた。守もそんな彼の事を理解したのか、何故か技との用に銃身を体から外し、立ち難そうな姿勢で対岸した。

 

「貴様のそのはみ出しファッションはいい加減止めてもらいたい! バラガン様が風邪を引かないのかオロオロされておるのだ!」

 

「ソーダソーダ! はみ出しふぁっ・・・・・・しょん・・・・・・?」

 

「いいじゃないか! これは俺の中での盛装なんだよ! 貧乏人が出来る最大限のファッションなの! てか現世じゃ流行ってんじゃい! てかこれははみ出しファッションじゃないとあれだけ言ってんのに何故理解出来ない!?」

 

「ええい! ここは現世じゃない! お前に風邪を引かれるとあのお方が寝込んでしまうだろうが! 今日という今日はそれを正してやる!」

 

フィンドールが守に飛び掛った。守は一目散に逃げ出した。フィンドールは後を追った。ヴェガは一人になった。

 

「・・・・・・え゜?」

 

今目の前で起こった事に未だ理解が追いついてないヴェガ。というか、自分が思っていたこととフィンドールが思っていたことが同じだと思ったがそんなことも無かったぜ。の方が問題だった。

 

「え? 何で?」

 

結局何なのかが理解できない。つまり、自分自身が勘違いをしていた、そういうことなのか?

 

「あ、頭痛い」

 

ヴェガはそれから二日は寝込んだとか。

 

 

 

 

「シャッセー」

 

現世にて、守はコンビニで雑誌を物色していた。勿論最初に読むのはジャンプでジョジョは欠かせないでいた。うむ、とS&Wに興味津々のようだった。

 

そこに見た目麗しい褐色肌ポニテの美女と色白お下げの美女が現れた。

 

「ほへ~、空蔵町も捨てたもんじゃねぇな」

 

「ん? 何じゃ坊主。わしに用か?」

 

あれま口に出していた。と、手を口に当てる守。素直に褒められたのが嬉しいのか褐色肌の美女はニンマリとした笑顔で近づく。

 

「なんじゃなんじゃ? ナンパか?(物凄い霊力じゃ。隊長格よりも遥かに凌いでおる。じゃが使い切れておらんようじゃのう)」

 

「・・・・・・夜一様(この者、居ては危険です。もしかすれば敵かもしれません)」

 

後ろに居た女性は少し怒ったような表情で守を睨む。しかし、守はそんな彼女の目に何かを思ったのか少し興奮していた。死ねばいいんじゃないかな?

 

「いやぁ、俺は物事素直に答える人間なもんでついなははは」

 

守そういいながら頭を掻いた。

 

「(敵意など一切無い。余程長けているのだろうか。しかし体は偽骸ではないのはたしかじゃ。少なくとも、仮面の軍勢でも、破面でもないじゃろ)ふぅむ。気に入った。お主、わし等と“でぇと”せぬか?」

 

「お供します。麗しきお嬢さん」

 

「(即決・・・・・・だと・・・・・・!?)」

 

守のその打って変わったような態度にお下げの女性は驚愕した。敵だと思っていたのがこんなにも慎重に動かずにくるものなのだろうか。否、無い。

 

「よし、そうと決まれば砕蜂(ソイフォン)。行くぞ坊主」

 

「へ? 待ってください夜一様!」

 

「(胸が俺の顔に当たっておまんがな。っしゃああああああ! 我が世の春が来たァ―――!)」

 

夜一に抱えられ、守はコンビニからでた。その豊満な横乳に顔を押し付けられ、守さん大勝利。何処からともなくUCが聞こえたのはご愛嬌。

 

三人はコンビニから出るとすぐに裏通りへとむかった。勿論むかった先にあるのは守の知らない場所。“ウラハラ商店”だった。

 

 

 




バラガン様は絶対孫大好きお爺ちゃんだとワシは思っております。

フィンドールさんの印象はこんなかんじでした。すまんなフィンドール。ヴェガは弄ってやったぞ。


夜一様と砕蜂さんと会合果たしました。二人とも好きなキャラです。

頑張れ守! 俺の代わりに攻略しきってくれ! 俺の全パゥワーを捧げるから!(失敗フラグビン♂ビン♂

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