虚の穴は何故閉じない?   作:エア_

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タイトル通り。

今回はバレンタインデーネタ










みんな、待たせたな(cvスネーク


特別話~嫁の飯が不味い

始まりは、問題児代表のこの言葉からであった。

 

「さて今日は何の日だ? グリムジョー、ノイトラ」

 

唐突に問いを投げかけた守にグリムジョーとノイトラは頭をひねる。生憎と虚園にカレンダーはない。そもそも一年変わらない気温の虚夜宮(ラス・ノーチェス)にカレンダーは必要ないんじゃないだろうかと思われるくらいだ。まぁ、守の登場によって正月やらクリスマスやらは盛大に盛り上がった。要望があればその話も語られるだろう。

 

「相変わらずやることが唐突だよなー。守はよー」

 

「せやろ?」

 

「あー、褌の日だっけか? 今日は」

 

「おぅ、もてない男の苦し紛れみたいな言い方するのはやめろ」

 

グリムジョーの返答を容赦なく否定する守。そう言えばとノイトラは第三の宮が朝から騒がしいことを思い出した。なんせその隣の第四の宮へ遊びに行く途中第三の宮から悲鳴に近い黄色い声が響いたのだから嫌でも覚えている。

 

「もしかしてよ。第三の宮でなんかあったのか?」

 

「あぁ・・・・・・実は現世じゃ今日はバレンタインなんだよ。それテレビ観て知った女性破面陣がチョコ作りに朝からがんばってるのさ」

 

「「何故当日なんだよ」」

 

「知らね」

 

ちなみに守は当日まで本気で忘れていたらしく、当日の朝は思いっきり眠っていた。そこをハリベル率いる女性破面陣が押し寄せついには追い出されたのだ。

 

その事を知った二人は優しく彼の肩を叩いてやった。それと同時に守の頬を暖かい涙が伝う。男とは世知辛い人生を歩む者なのだろう。彼は数分、泣きに泣き続けた。

 

「それで? どうすんだよ」

 

「どうせお前のことだ。なんかするんだろ? 協力してやるぜ?」

 

「お前ら・・・・・・流石は漫才トリオだな」

 

「「「ボケばっかだがな! HAHAHAHAHA」」」

 

三人揃って一頻り大笑いした後、三人揃って変な一括りだなと改めて痛感し、テンションを下げたのである。

 

「で? なにするんだ?」

 

「多分チョコを貰えない俺達は今日この日を惨めに過ごすだろう。だからこそ」

 

「三人でつるもうってか? いつも通りじゃんか。てか、他の奴は誘わねぇのか?」

 

「じいちゃんは東仙?さんとチェスしてる・・・・・・てか、チェス出来る人たちと闘うためにチェス大会開いてる。あの人をガッカリさせるのだけは駄目。俺が傷つく。スタークはリリネットがチョコつくりに一人で行ったからって不貞寝。当分起きねぇ。ザエルアポロは研究に没頭。聞き耳なし。アーロニーロの旦那は今日コミケ用のストLIKE同人誌とDYEの最新話描いてる。邪魔する勇気はない。ヤミーはペットと散歩中。邪魔したら錐揉みクラッシュされちまう。ゾマリさんは危機察知能力が長けだしたのか既に有給貰ってどっかいってる。置手紙は『私を出し抜こうなど、たるんどるっ』意味が分からない。ウルキオラは・・・・・・」

 

「「ウルキオラは?」」

 

「・・・・・・あいつイケメンだし絶対チョコ貰えるはずだから声かけ難い」

 

「「あー納得」」

 

ウルキオラ=シファー。実は彼、第一回イケ虚メンコンテスト優勝者なのである。つまり、二位のイールフォルトさんと同様チョコ貰えるのだ。ちなみにこのコンテスト半年に一度行われるので一年間に二人のイケメンを決めているのだ。完全に本日の守達の敵である。

 

「しかし、このグリムジョー、隠れてモテているもよう」

 

「ちょ、ノイトラてめっ」

 

「そういやぁ、ラブレター貰ってたもんな」

 

「やめろっ!? お前のアルゼンチンバックブリーカーはヤミーもやばいんだから!」

 

グリムジョーの懇願も馬耳東風、無言で守は彼の腰に手をそえたあと、肩で軽々と持ち上げた。既にその首と腰には守の手が回っており、身動きが出来ない状態だった。

 

「・・・・・・残しておきたい言葉を言え」

 

「すまねぇレパード、俺の子生んでくれ」

 

「裁定(ジャッジ)

 

「悪ぃな・・・・・・とは思わねぇよ。有罪(ギルティ)

 

ノイトラが親指を立て、指先を下に回すよう手首を捻る。次の瞬間、守が上空へと飛び上がり、落下地点を確認し加速しながら落下した。聞こえてはいけないジェット機のような音が幻聴する。グリムジョーはそのまま痛烈な痛みを背中に受けながら大地に伏した。良い奴だったよ。

 

「哀れグリムジョー、ここに眠る」

 

「流石はうちの二枚目だな。その死に様も二枚目だ」

 

「・・・・・・踏み抜いてやろうか」

 

「待てっ! 勘弁しろ守!」

 

すんなりと起き上がったグリムジョーに二人は舌打ちをかます。そんな二人の理不尽さに泣きたくなったが、暫くすると普通にまたつるみだした。流石はトリオなだけはある。

 

「とりま他の奴らのところに行こう。まぁイールフォルトさんは血祭りにしようそうしよう」

 

「特に理由のない攻撃が俺の部下を襲う。勘弁してやってくれ」

 

「気絶後のアフターケアは任しとけよ」

 

「ぜってぇ落書きするだろノイトラ。止めてやってくれ。やっとザエルアポロのとこから戻って来たんだからよ」

 

氷漬けにされていたイールフォルトを襲うのはまさか助けてくれた守だとは思っても見ないだろう。いや思いたくないもんだ。まさか顔面偏差値が高いだけでプロレス業を食らう羽目になるとは思ってみないだろう。誰だってそうだ。

 

「くっそーこれより第一回虚夜宮モテない男達による呪詛斉唱による全世界のイケメンを呪殺しようの会を執り行う!」

 

「スゲーネーミングセンスだな・・・・・・じゃあまぁテスラ辺りを殴っとくか」

 

「おいおい一応お前の部下だろうが。泣くぞあいつ」

 

「知らなかったのかよ。あいつドMだぜ?」

 

「知りたかねぇわそんなもん」

 

若干誰かの性癖がばれたものの三人の心はひとつ(?)になった。一体どこに置いてあったのだろうか分からない程大量の文字の羅列の入った呪詛表が二人に配られる。二人はその呪詛表をみて三者三様の顔をした。

 

「何だよこれ。スッゲー漢字ばかりじゃねぇか。しかも文法もなっちゃいない上にただの羅列と来た。お前仏教なめてるだろ」

 

「なんでそんな事知ってんだよ。教師にでもなるつもりか?」

 

「教師か・・・・・・まぁ部下思いなテメェならなれるんじゃねぇの? まぁ今はイケメン撲滅運動(という名のイベント)するからシリアスは無しだけどな」

 

「分かってんよバーカ」

 

まとまりを見せる三人はとりあえず守の作った呪詛を詠み始めた。だんだんとその内容のしょうも無さに守でさえも情けなくなってしまい、結局はそのままお開きになったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

あの後、ノイトラは藍染に呼ばれ、グリムジョーは部下達に呼ばれた為、そのまま解散となった守は一人空しそうに虚夜宮の一廓を歩いていた。白い歩道をトボトボ歩くその姿には哀愁が漂っている。独り身な彼にとってバレンタインデーは処刑に近かったのだ。そもそもバレンタインデーとは、バレンタイン伯爵の処刑の日とか何とか。まぁ、つまり守は強ち間違っていない過ごし方をしているのだろうが、情けないことに変わりは無かった。

 

そんな彼の目の前に、誰かが降り立った。天より舞い降りたのは白き衣(ゴスロリ)を纏いし天使(鳥)。高圧的な視線がノーマルを自称する守の心臓を速く鼓動させた。

 

「守じゃない。どう? 元気にしてた?」

 

「チルッチの姐さんっ! チルッチの姐さんじゃないか!? どうしてここごふぉあっ!?」

 

飛びつこうとした守を条件反射のように蹴りで返り討ちにしたチルッチ・サンダーウィッチは呆れた顔をしながらも、いつもと変わらないその行動に飽きれた表情を見せた。

 

「あたしの事は女王と呼びな」

 

「ははぁっ、女王様万歳!」

 

プライドなどかなぐり捨て地面に額を叩きつけながら土下座し、チルッチを称えあげている。この姿をバラガン(おじいちゃん)が見たら確実に寝込むので誰も見てなくて一安心だ。

 

「よろしい・・・・・・・・・・・・ところで守、貴方今日が何の日か知ってる?」

 

「干物の日ですか?」

 

「そんなモテない男の苦し紛れな言い訳みたいなのはやめなさい・・・・・・それで? 何の日か知ってる?」

 

ギロリと擬音聞こえてきだしそうな鋭い視線に勢いよく立ち上がると、背筋をピンとし陸軍仕込のような敬礼を見せる。訓練された無駄の無い無駄な動きに彼女はご満足のようだ。ヘヘッ、ゾクゾクするね。

 

「バレンタインの日です女王様!」

 

「よろしい。という訳で、あたし自らがチョコを作ってあげたわ。心して食べな」

 

「なん・・・・・・だと・・・・・・!?」

 

「そんな咬ませ犬が連呼しそうな台詞はやめなさいよ・・・・・・さぁ、食べて頂戴」

 

「マジっすか!? じゃあ遠慮無しにいただきます!」

 

守はさっそく貰ったチョコの入った袋に目をやった。桃色の紙袋の中には赤色のハート型の箱があり、その中身は紫色、黄色、桃色の三色のチョコボールが入っていた。大きさはゴルフボールほどで、見た目もおいしそうだ。桃色から口をつけた。一齧りすると口の中に広がったのは食べ慣れたチョコ本来の苦味と桃の甘味。桃のほんのりとした甘さがチョコの苦味をとり、ちょうど良い控えめな甘さになっていた。ビターチョコよりも少し甘く、オレンジチョコよりもフルーティで、甘い物が余り得意でない人にも好評になること間違いなしなそのチョコボール(桃)に守は感動を覚えた。

 

「うめぇ・・・・・・俺イケメンじゃないけど嬉しくて涙でた」

 

「よしよし、ちゃんと出来てるわね。まぁ味見はしたんだし当然といえば当然だろうけど。残りは大切に食べなさい。あたしは戻るわ」

 

「女王様万歳。大切に食べます。えぇ一年かけて食べますよ!」

 

「普通に今日明日中に食べなさいよ全く。じゃあね」

 

最後までぶれない守に満足したようで、チルッチはその場を後にした。その頬が少し緩んでいるのを見せないためにも、彼女は自らの部屋へと向かい、姿を消した。

 

 

 

 

「ふっふっふ、まさかチョコを貰えるとは、以前の記憶がないせいか貰っているのかすら分からん俺だが、我が世の春が来たとはこの事を指すんだろうな! くぅーっ!! 喜びで、心が弾むぜ」

 

チョコの入った紙袋を嬉しそうに抱きかかえる守はスキップを決めながら、自分の部屋へと向かっていた。勿論、残りのチョコボールを味わうためである。色に合わせて味が違うのではないかと思いつき、どんな味なのだろうかと楽しみでいっぱいだった。

 

「とりあえず、グレープ味と、パイナップル味と予想した。ワクワクが止まらねぇぜ」

 

「残念だが、ここで止まって貰うぜ。守」

 

「何っ、このツンデレが板に付いたような声質はまさか・・・・・・エミルー・アパッチぶげばぁっ!?」

 

「誰がツンデレだコラァ! おちょくるのもいい加減にしろよ!」

 

またしても顔面に衝撃が走った。どこから取り出したのか分からないボーリングの玉ほどの大きさの鉄球が顔を抉らんとぶつかって来た。しかし、なぜか無傷の守。こいつはもう人間じゃないんじゃないだろうか(名推理)

 

「あれ、ミラローズの姉貴もシーちゃんもいるじゃん。どうかしたんすか?」

 

「おい、何でこいつらは敬語であたしはタメ口なんだよ、あ?」

 

「だって・・・・・・ねぇシーちゃん」

 

「そうですわよ。ねー」

 

アパッチを弄って楽しみ、終いにはハイタッチを交わす二人に怒りを覚えるがここで怒れば思う壺だと思った彼女は眉間にしわを寄せ、額の血管が浮き出ても何とか耐えた。

 

「「・・・・・・つまらん(ないですわ)」」

 

「ぶっ殺すゾコラァッ!」

 

その一言についに切れたのが襲ってくる彼女。しかしその首根っこを持ち上げて静止させる存在がいた。フランチェスカ・ミラ・ローズである。猫のように暴れる彼女をやれやれとぼやきながら、守の方へと目を向ける。

 

「離せ、こいつらは一度ぶん殴らなきゃわかんねぇんだよ!」

 

「目的を忘れるな、アパッチ。ハリベル様も待っていらっしゃるんだ」

 

「・・・・・・ちっ、運が良かったなテメェら」

 

「「ふー、危なかった(棒)」」

 

「・・・・・・後生だ。こいつ等を殴らせてくれ」

 

と、大概に弄りぬいた二人は改めて握手を交わし、互いに向き合うと唐突に包みを手渡された。スンスンが持つそれからはチョコレート、それもミルクチョコレート特有のミルクの香りが漂ってくる。

 

「シーちゃん。もしかして」

 

「えぇ、今日はバレンタイン。友人であり同志である貴方にチョコを作りましたの」

 

「マジっすか!?」

 

チルッチに続き、まさかスンスンに貰えるなどと思っていなかったらしく驚きを隠せなかった。嬉しそうにそのチョコの入った包みを貰う。その笑顔を見てスンスンは微笑んだ。

 

「まぁ私は、ハリベル様を明るくしてくれたお礼感覚で作った。普通に食べてくれ」

 

「姐さん。結婚しよう」

 

「馬鹿野郎。軽々しく人生左右することを言うな」

 

ミラ・ローズからも不器用に渡されたチョコを抱え、とても満足そうに笑顔を送った。困った奴だと言いたそうに、苦笑する彼女の顔を守は忘れはしないだろう。脳内保存は完璧だ。

 

「渡したくねぇけど仕方ねぇからな。チョコ貰えなくて今頃呪詛でも唱えてそうなお前にこのアパッチ様からお恵みを渡してやろうと思ってな」

 

「あ、間に合ってます」

 

「ふざけんなコラァーッ!」

 

「冗談だって。サンキュ、大切に食うぜ」

 

「たりめーだアホ」

 

放り投げられたチョコを器用にキャッチし、一息ついた守は悪戯が成功した時の子供のような笑みを送った。アパッチもミラ・ローズと同じように苦笑すると、彼の背中をバシンと叩いた。

 

「ほれ、ハリベル様も作って待っていらっしゃる。行って来い」

 

「マジか。俺って案外モテてんだなぁあっはっはっは」

 

「高笑いしてる暇あったらさっさと歩け」

 

けつを思い切りけられ、宮内へ吹っ飛ばされる守を尻目に三人は響転を使用し、その場からいなくなった。一体どこへ行ったのかは分からないが、その表情から察するに、少しはなれたところで見物でもするのだろうか。

 

「ったく、物持ってる人間のけつ蹴る奴があっか」

 

そんな事露知らず、守は宮内で待っているハリベルの元へと歩みを進めた。

 

 

 

 

「待っていたぞ。守」

 

階段を上っていくと、その先では仁王立ちで腕を組んだハリベルの姿があった。BGMにデンドンデンドンと流れそうなその風格はまさに十刃だろう。若干冷や汗をかいてしまったが、守はその威圧感に耐えながらも、階段を上りきった。

 

ふと足元に見える二人の女性破面に目が行く。ロリとメノリである。白目をむいて気絶している二人が一体何をされたのか検討が付かないが、第六感が警報を鳴らす。逃げろと、今の彼女は危ないと。ハリベルが近づくにつれその警報は心音とともに守へと伝わっていった。

 

「さぁ、チョコだ。食べてくれ」

 

「・・・・・・ひ、一つ聞きたい事がある。ロリちゃん達は一体どうしたんだ?」

 

「? あぁ、私が作ったチョコを味見してくれたのだ。まさかお腹一杯になって寝てしまうとは思っても見なかったが」

 

「ソ、ソウナノカ(アカン)」

 

多分寝たんじゃなくて気絶したんじゃね? 守はそう考えた。まさにその通りである。この娘、他の人に味見させておいて自分で味見をしていないのだ。典型的に駄目なパターンである。

 

「愛情をたっぷり注いだチョコだ。一杯食べてくれ」

 

七色に輝くチョコがこの世にあるとは思っても見なかった東悟守15歳。今、人生のターニングポイントを迎えていた。

 

「(あ、これがオチなのね)」

 

 

【挿絵表示】

 

 

目を輝かせたハリベル(何故か破面を取ってる)の純粋そうな視線に気おされ、結局全てを食べきった。暗転する世界の隅で両掌を合わせ頭を深く下げるミラ・ローズ達三人の姿に、全てを把握した守は一言残していった。

 

「喉元通っても、酸は酸だわな」

 

 

 

 

 




ちなみにグリムジョーもノイトラも無事にチョコをもらえました。ウルキオラは既に第四の宮がチョコであふれてしまってます。というか、破面大杉じゃね? と思う方いるでしょう。所詮は原作でも描かれてないので大丈夫ですよ(自棄)


ちなみにエアはチョコ貰ったことはありますけど、お返しを相当競られたので若干トラウマです。



ちなみに絵は自作です。マウスなしでノートパソコンで絵を描けたら十分じゃないですか? そんな事無い? そりゃ残念

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