歴史の立会人に   作:キューマル式

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お久ぶりです、キューマル式です。

活動報告にも書きましたが、ちょっと体調がすぐれないため久しぶりの投稿になりました。
頭が痛くてしょうがない……。

今回はニキ&ラナロウとBD3号機の戦いです。




第54話 蒼を継ぐもの(その3)

 

 ビームライフルの閃光が通り過ぎていく。掠ったドワッジの左肩アーマーがその高熱で泡立つように融解した。

 

「くっ!?」

 

 ドワッジを操るニキはドワッジを急ターンさせると手にしたMMP80マシンガンをフルオート射撃する。そして弾を撃ち尽くしたらすぐに反転し、再び逃走に戻る。

 

『無事か、ニキ少尉?』

 

「ええ、今のところは……」

 

 ホバー機動で走行するドワッジに、ブーストを使用したダッシュで併走するゲルググのラナロウ少尉にニキは答える。しかし、その表情は冴えない。弾の切れたMMP80マシンガンに新たなマガジンを装填しながら、ニキは思案する。

 2人の遭遇した敵新型モビルスーツは恐るべき性能を持っていた。

 主兵装はビームライフル、その一撃必殺の火力の凄まじさはもはや語る必要などないだろう。頭部に増設されたバルカンポッドもシンプルながら強力で、容易な接近を許さない代物だ。さらに背中の筒状のものはやはりビームサーベルで、一度ラナロウのゲルググがビームサーベルで斬りかかったのだが防がれてしまっていた。

 機動性や運動性についても凄まじく、その動きは最新鋭機であるゲルググに勝るとも劣らないものであると判断できる。今までの連邦のモビルスーツとは明らかに違う、一線を画する超高性能機である。

 しかし、ニキが真に恐怖したのはその部分では無かった。

 

『ちぃ!? やっぱ当たらねぇ!!』

 

 振り向きざまにドワッジと同じようにMMP80マシンガン、そして右腕部に搭載された90mm速射砲を斉射するのだがそれがまったく当たらない。

 通常、広範囲にばら撒けるマシンガンなどの武器は完全に回避するのが困難のはず。無論、ニキ達も退避の時間稼ぎを目的としたけん制のつもりなので撃破など最初から期待はしていないがそれでも全弾回避しながらこちらに猛追してくるなど、普通ではない。

 それに……。

 

『うぉ!?』

 

「!? ラナロウ少尉!?」

 

『大丈夫だ、シールドで弾いた』

 

 ゲルググの強固なシールド、そしてそこに施された耐ビームコーティングによって飛来したビームライフルの閃光が散っていく。

角度的にはシールドで防がなくても掠る程度のものだっただろうが、ラナロウが避け切れなかったのは事実だ。

……さきほどから、ずっとこんな感じなのである。

ニキとラナロウは、かたやリザド隊の一員として戦い続け、かたや危険な任務を最優先で押しつけられる海兵隊で戦い続けてきたベテランである。当然、その技量はとてつもなく高い。

 その2人が揃って当たりやすいはずのマシンガンを当てられず、敵の攻撃を完全には避け切れていない。今の今まで無事なのは『運が良かった』という部分が大きいことは自覚していた。

 

(相手のパイロット……『腕がいい』とか『勘がいい』とかのレベルじゃない。

 まるで未来予知でもしてるみたいに、こちらの手のうちを読んでくるわ)

 

 そして、そんな人間の実例をニキはすぐに思い当たる。

 

(この相手……間違いなくシロッコ中佐と同じタイプの人間ね)

 

 あのシロッコと同タイプの相手を敵とすることの恐怖……それにニキはブルリと身を震わせる。

 間違いなく、このままでは逃げ切ることはできない。しかしニキもラナロウもベテランパイロットだ、勝利のための手立てはしっかりと考えている。

 

「……見えた!」

 

『やっと到着か!』

 

 見えてきたもの、それは左右を切り立った崖に囲まれた渓谷である。そして、ここがニキとラナロウの反撃の場所だ。

 渓谷に入り込み、しばらく進んだところでドワッジとゲルググは急ターンをして迫る敵機に真正面から向かい合った。丁度、敵機とゲルググ、ドワッジが一直線になるような位置取りだ。

 即座に敵機からビームライフルが放たれ、閃光が襲い掛かってくる。しかし、ゲルググがシールドを構えてそれを防いだ。

 

『いまだ!!』

 

「言われなくても!!」

 

 ドワッジの左手が振り上げられ、空中に向かって何かが放り投げられる。それは対MS手榴弾であるハンドグレネードのような形状のものだ。通常のクラッカーやハンドグレネードと違い、柄の部分が付いている。

 数は3つ、ドワッジが左のスカートアーマーにマウントしていた全弾である。それは空中に飛び上がると柄からブースターを点火して空中を突き進む。

 これはシロッコが提案し、今回テストのために持ってきていた新兵器だ。ロケットブースターを内蔵することでより遠距離の目標に対して攻撃を行える、ロケットグレネードである。手榴弾型であるため通常のグレネードなどと違い銃などの発射装置を必要とせず、人間型のマニュピュレーターを持つのならどんなモビルスーツにも装備可能なスグレものである。

 しかし、その新兵器の狙いは敵機ではない。その目標はもっと上だ。

 

 

 ドゥン! ドゥン! ドゥン!!

 

 

 連続した爆発音が渓谷に響き渡る。その場所とは……渓谷の壁であった。

 ニキとラナロウの狙い、それは崖崩れを起こすことによってその落石で敵機を圧し潰そうというのだ。

 

『潰れちまえッ!!』

 

 降り注ぐ落石、それはとてもではないがかわせるものではない。よしんばかわせたとしても足止めとしては十分すぎる。

 前者ならば敵機撃破、後者ならば撤退成功……ニキとラナロウにとってはこの渓谷に誘い込んで崖崩れを起こした時点で目的達成は間違いなかったのだ。

 しかし……この敵機の選択は前者でも後者でもなかった。

 

『何ッ!?』

 

「そんなッ!?」

 

 なんとこの敵機は速度を落とすことなく接近の道を選んだのだ。頭上から降り注ぐ落石をアイカメラを向けることも無くかわしながら、ニキとラナロウに接近してくる。

 

『野郎、頭の上に目ん玉でも付いてんのか!?』

 

「言ってる場合じゃないでしょう!!」

 

 あまりにも常識を逸脱した事態に思わずニキとラナロウは悲鳴のような声を上げるが、2人はさすがにベテランパイロットだ。即座に混乱を回復すると、冷静に対処に移る。

 

『わかってる! 来やがれ、蜂の巣だ!!』

 

 ニキのドワッジとラナロウのゲルググの構えたMMP80マシンガンが吼えた。

 実を言えば、2人は最初から落石作戦が失敗したときのこのことも計算に入れていたのだ。

 この渓谷の横幅はそれほど広くは無い。当然のことながら左右の動きは制限されてしまい、今までのように広範囲にばら撒くマシンガン系の武器を避けきることなどできないはずだ。

 もちろんこちらも左右の動きは制限されてしまうが、こちらには強固なシールドを持ったゲルググがいる。耐ビームコーティングも施されたこのシールドは、ビームライフルすら数発は防げるのだ。ビームライフルは強力な武器だが、未だに連射速度に関しては問題も残している。

 ラナロウのゲルググが盾になってビームライフルの一撃を防ぎ、次弾発射までの間にニキのドワッジとともにMMP80マシンガンの連射で損傷を与えて相手の戦闘力を落とす、もしくは撃墜する。最低でも距離を稼いで撤退を成功させるというのが2人の目論みであった。

 そしてその目論みは成功するはずであった。相手が『普通』であったのならば、の話ではあるが……。

 

『なん……だとぉッ!?』

 

「バカな!?」

 

 今度こそ、2人は完全に絶句する。

 左右を切り立った岩壁に囲まれた渓谷、敵機はその岩壁を『蹴り進む』。

左右の岩壁を交互に蹴り続ける、いわゆる『三角跳び』で頭上からの落石とマシンガンの嵐を回避しながら移動したのだ。

当然のことながら、『三角跳び』などというもののモーションパターンなどモビルスーツの動作プログラムに入っているはずなない。だというのにそれを行っているというのは、パイロットが完全なマニュアル動作で行っていること以外に考え付かない。通常ならばあり得ない、神業めいた機動だ。それによって、本来詰まるはずの無い敵機とニキたちの距離が詰まる。

 

 

 ガキィ!!

 

 

『ぐぁ!?』

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

 敵機はまるで跳び乗るようにゲルググのシールドへと飛び掛かる。そしてほぼゼロ距離でビームライフルを放った。

さしものゲルググのシールドでも、ほぼゼロ距離からのビームライフルは防ぎきれるはずがない。ビームライフルの閃光はゲルググのシールドを貫通し、それを支えるゲルググの左肩を貫く。そしてそのままビームライフルの閃光は串刺しにするように、ニキのドワッジの左肩も貫いた。爆発が巻き起こり、ゲルググとドワッジの左腕が肩から脱落する。

 

『て、んめぇぇぇ!!』

 

 ラナロウのゲルググは、残った右手で腰のマウントからビームサーベルを引き抜くとそれを振り上げようとする。しかしそれより早く、敵機が左手に抜き放っていたビームサーベルを振り下ろした。

 

 

 ザンッ!!

 

 

 ゲルググの右前腕が切り落とされて宙を舞う。バランスを急激に崩したゲルググが仰向けに体勢を崩した。

 

「これでも……喰らえッ!!」

 

ニキはこれが最後のチャンスとドワッジの残った右手のMMP80マシンガンを敵機に向ける。さすがに外しようがないほどの至近距離だ。しかし、敵機はそんなニキの攻撃より上手だった。

 軽快な音とともに敵機の頭部に増設されたバルカンポッドから弾丸が吐き出され、ドワッジのMMP80マシンガンを撃ち抜く。

 弾薬への引火の危機に、即座にMMP80マシンガンを投げ捨てヒートサーベルを抜こうと背中に右手を廻した。

 

 

 ドゴォ!!

 

 

『う、おぉぉぉぉぉ!!』

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

 

 ニキのドワッジがヒートサーベルを引き抜くより早く、敵機がラナロウのゲルググを蹴り飛ばす。ニキのドワッジはぶつけられたラナロウのゲルググともつれるように倒れ込んだ。もつれ合い重なり合った今は一撃で2機とも墜とせる絶好のポジション、敵がこの機を逃すはずはない。

 振動で揺れるモニターに、ニキはこちらに向けてゆっくりとビームライフルを構える敵機の姿を見て己の死を覚悟する。

 しかし、その瞬間だった。

 敵機は何かに気付いたようにバックステップをしながら後退する。そこに降り注いだのは敵機のものとは違うビームの閃光だ。それとほぼ同時に上空から赤い影が急降下してくる。

 その影とはもちろん……。

 

『待たせたな』

 

「シャア少佐!」

 

 それはシャアの操るイフリート改だ。

敵機は上空から向かってくるイフリート改に向かってビームライフルを構えようとするが、それより早くイフリート改が懐に潜り込むとビームサーベルを抜き放つ。

イフリート改のビームサーベルと敵機のビームサーベルとがつばぜり合い、スパークが巻き起こる。

 

『それ以上の戦闘続行は不可能だ。

ここは私に任せて、すぐに後退を!!』

 

「了解しました! ご武運を、シャア少佐!

ラナロウ少尉!」

 

『あ、ああ……』

 

 ニキのドワッジは残った右腕で、両手を失ったラナロウのゲルググを立ち上がらせると後退に入る。ホバー推進のドワッジでゲルググを引っ張るような感じで小規模にブースターを吹かして滑空するようにするゲルググを、ドワッジが支えながら誘導する。

 渓谷を駆け抜け、基地方面へと撤退に成功するニキとラナロウ。後方からの追撃が無いところをみると、シャアのイフリート改があの敵機を防いでくれているのだろう。

 

「……今回は、首の皮一枚で繋がりました」

 

 死すら覚悟した状況から脱したことにニキは一息をつく。しかし、ニキはすぐに表情を厳しいものに戻した。

あの敵は普通ではない。シャア少佐の援護も必要だろうし、それ以上にすぐにでも今の交戦データを分析に廻し、今後の対策を立てなければならないだろう。やらなければならないことはいくらでもある。

 

「ラナロウ少尉、基地との通信可能圏内までどのくらいですか?」

 

 レーダーや通信機器などの電子装備はドワッジよりもゲルググのほうが優れており、通信可能距離が長いゲルググに基地との連絡をお願いしていたニキなのだが、そこで何か様子がおかしいことに気付いた。

 

「? ラナロウ少尉?

 どうしました、ラナロウ少尉?」

 

 何だか反応が薄い。嫌な予感がして、ニキは少しだけ声を荒げる。

 

「どうしました、ラナロウ少尉!

 少尉!」

 

『……聞こえてるよ』

 

 やっとあった返答にニキは胸を撫で下ろすが、すぐにその声がおかしいことに気付いた。

 

「どうしました!?」

 

『……野郎に蹴られた時、少し、な……』

 

「ッ!? 負傷したのですか!?

 そういうことは早く言って下さい!!」

 

 ニキはペダルを踏み込むと、それに応えてドワッジはその速度を上げる。快速を売りとするドワッジの速度が、今日に限っては何だか遅いように感じたニキであった……。

 

 




さっそくゲルググがぼろぼろになってしまった……。
結構好きなMSなんですが……。
今回出したロケットグレネードは、ユニコーンのトリントン襲撃でドワッジとかの使っていたあの謎武器です。
あのディザートザクとドワッジとドム・トローペンのジェットストリームアタックはいつ見てもカッコイイ。

次回はシロッコVSヤザンの、ある意味この作品の頂上決戦の第一弾です。

次回もよろしくお願いします。

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