歴史の立会人に   作:キューマル式

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色々用事もあり、久々の更新となりました。
今回から本格的にブルーの話……のつもりだったのですが……。
うーん、なかなか話が進まない。



第47話 蒼い死神

 衛星軌道上から投下された補給物資、それを巡ってのジオン軍補給物資回収部隊とそれをさせじと展開した地球連邦オーストラリア方面軍との間ではすでに戦端が開かれていた。

 

 ドゥン! ドゥン! ドゥン!

 

 砂漠地帯に横に並んだ61式戦車の砲撃、それをジグザグに走行しながら2機のドムが駆けて行く。そしてその後ろを少し遅れてグフが疾走していた。そのグフには、眼帯を着けたドクロと稲妻のパーソナルマークが付いている。

 オーストラリア戦線のエース、『荒野の迅雷』ことヴィッシュ=ドナヒュー中尉のグフだ。

 

「これから突撃する! 2番機、スモーク弾!」

 

『了解!』

 

 ヴィッシュの指示を受け、僚機のドムの1機が腰の後ろからジャイアントバズのマガジンを取り出して装填、1発2発とトリガーを引く。

 放たれたジャイアントバズの弾丸は、地を這う61式戦車の遥か15メートル頭上で弾けた。しかし、そこから発生したのは炸薬による爆発と閃光ではなく、真っ白な煙だ。今のジャイアントバズの弾頭は視界を奪うためのスモーク弾なのである。まるでまとわりつくように粘つく白煙にまかれ、その視界を奪われる61式戦車隊 。そこに青い鬼が降りてきた。ヴィッシュのグフである。

 ヴィッシュはスモークに紛れてスラスタージャンプをすると、踏み潰すように61式戦車 の上に降り立ったのだ。場所は6台のうち、中央に位置する61式戦車だ。

 グフの重量をもろに受け 、砲塔が完全にひしゃげて欄座する61式戦車。ヴィッシュのグフはまるで舌なめずりのようにそのモノアイを左右に動かし、敵の位置を確認する。右に3両、左に2両。ヴィッシュの行動は決まった。

 

 グフが右手に持っていたヒートサーベルを投げつけた。加熱状態にはしていないが、それでもヒートサーベルはすさまじい重量をほこる金属の塊だ。それをモピルスーツのパワーで投げつけられたらたまらない。

 右の1両にヒートサーベルは突き刺さり、61式戦車をまるで標本の昆虫のように大地に縫い付けた。

 同時に、左手に一体化した75mmマシンガンが左にいた2両の61式戦車を撃ち抜いた。しかも連射ではなく、1両に3発のワントリガーで正確に対象を撃ち抜いている。弾丸がエンジンを貫通し、61式戦車が爆発した。

 その時になると、残った2両の61式戦車が何とか旋回しその砲をグフに向けようとするが、その時には ヴィッシュは一歩を踏み込んでいた。スラスターを併用したその一歩で距離を詰めると、グフの右手からヒートロッドが伸びる。相手に電気パルスを流し込み精密機器に大ダメージを与えるそれは、加熱状態にして相手を溶断する武器にもなる。その赤熱鞭をまるで薙ぎ払うかのように振るった。

 2両の61式戦車は、どちらも車体半ばから真っ二つに溶断された。

 61式戦車6両を一気に平らげるあたりは、流石はオーストラリア戦線の誇るエースパイロットである。

 さらにヴィッシュの凄いところは、武器の使用や動きにほとんど無駄がないところだ。モビルスーツには、すべての行動に純然たる『制限』がある。

 弾の数は当然のこと、スラスター機動にもジャンプにも推進剤を必要とするし、動けば動くだけ各部関節にはストレスが溜まる。それらの消耗を極力減らすことによって、ヴィッシュは 『通常の3倍』とまで揶揄される高い継戦能力をもって殿を務めることを得意としているのだ。

 ヴィッシュのグフは、投げつけたヒートサーベルを引き抜いて注意深く戦場を見渡す。ところどころで激しい戦闘が繰り広げられている。

 

「補給の受け取りのために、戦力の消耗が必要とは……」

 

 本来は継戦能力維持のため、そして戦力の回復のために行われるのが補給だ。それの受け取りで戦力が消耗しては本末転倒な話だとヴィッシュは苦笑する。

 もっとも、そのことはオーストラリア戦線の将官は理解していた。しかし、現実として地上側での補給路だけでは物資が足りないため、どうしても必要な措置でもある。

 それに、この戦いはある意味では予定通りだ。

 

 拠点にこもった敵と、それと同数の敵との野戦ならば当然のことながら野戦の方が簡単に決まっている。しかも補給物資の降下地点はある程度決まっているので、戦場の選択の権利がジオン側にはある。

 実のところ、これは拠点にこもった連邦軍を補給物資を餌に拠点から釣り出して野戦に持ち込むというオーストラリア戦線の立派な作戦なのである。

 ヴィッシュは次の目標を定めるように、周囲を見渡した。

 その時だ。

 

「ッ!?」

 

 一気にヴィッシュはグフを飛び退かせる。一拍おいてグフのいた場所に雨あられの如く小型ミサイルが降り注ぎ、連続した爆発が周囲を覆った。

 

「来たか!」

 

 グフのモノアイは、接近中のモビルスーツを捉えていた。3機で1小隊のMS小隊が3個小隊……計9機のモビルスーツだ。

 各小隊の内訳は中距離支援用のスプレーミサイルランチャーを装備したミサイルザクが1機に、ザクとザニーが1機ずつという編成である。

 恐らくザニーが各小隊の隊長機なのだろう。

 そして……その先頭をひた走る小隊のモビルスーツには、犬のようなエンブレムが描かれていた。

 

『ファング1より各機へ、これより戦闘に入る!

 ファング3はその場で制圧射および援護射撃を。 ファング2はアシストを頼む!

 他小隊との連携をとり、慎重に戦え』

 

 素早い指示のもと、先頭のザニーが手にした100mmマシンガンを乱射しながら接近する。その様子を、ヴィッシュはグフの中で苦笑しながら見ていた。

 

『荒野の迅雷!』

 

「ほとほと縁があるな、連邦のパイロット!」

 

 グフとザニーとの間で75mmと100mmの弾丸が飛び交う。

 ヴィッシュと彼……地球連邦オーストラリア方面軍所属『ホワイトディンゴ隊』の隊長、マスター=P=レイヤー中尉は今まで何度となく戦場で相対してきた。

 その部隊での連携を重視する巧みな用兵に、ヴィッシュは今までに何度も危機に陥った。一方のレイヤーも同じ数だけヴィッシュのエースとしての力と、ジオンのエースにしては珍しい部隊との連携を重視する戦術に苦境に立たされた。

 そんなまさに『好敵手』のような関係である。

 不思議なことに、こういったことは戦場で稀にある話なのだ。

 

 挨拶がわりの頭部力メラを狙った75mmと100mmの弾雨を潜り抜け、互いにジグザグ に動きながら射撃を続ける両者。その狙いは脚部だ。

 モビルスーツは二足歩行の人型兵器、宇宙空間戦ならまだしも地上戦においては脚部はもっとも重要な部位だ。そのくせ関節などの可動部が多く、コックピット周辺ほどの重装甲にはなっていないのである。

 そもそも、お互いの得物である75mmと100mmでは胴体部ではそこまでの有効打にはならない。その辺りを理解している故に2人は脚部を狙う。

 だが2人は互いに時にジグザグと動き、時にスラスターを併用したステップを踏ませてその弾丸を避けていく。

 その時、レイヤーのザニーが大きく後ろに飛んだ。そこにミサイルザクから放たれた小型ミサイルが降り注ぐ。

 

「くっ!」

 

 着弾直前に咄嗟のジャンプでそれをかわすヴィッシュだが……。

 

『このチャンス、無駄にはしない!』

 

 その着地予測地点にはホワイトディンゴ隊のザクを操るファング2……レオン=リーフェイ少尉は、ロケットランチャーを構えていた。

 バズーカやロケットランチャーの類は威力が高いが連射が利かず弾速も遅く、直撃させるのが難しい。それを直撃させるために部隊での連携で動きを縛ったのだ。

 

「やるな。 だが!」

 しかし、部隊での連携をとっているのは連邦だけではない。

 

『中尉!』

 

 ヴィッシュの僚機であるドムが、ジャイアン卜バズを構える。それはヴィッシュのグフにロケットランチャーを構えたザクの足元に狙って放たれた。

 直撃すればモビルスーツを一撃で撃破するだけの大口径炸薬の爆発だ、その爆風だけでも十分な衝撃がある。

 その爆風にあおられたたらを踏み、ザクはロケットランチャーを大きく外してしまった。

 その隙を付いて着地したヴィッシュのグフは、スラスターを併用した踏み込みでザクめがけて一気に加速した。

 右手のヒートサーベルが加熱され、黄色く輝きだす。ザクの装甲を容易く溶断するヒートサーベルが上段から振り下ろされた。

 しかし。

 

『そうはいかんさ! !』

 

 割り込むように入り込んだレイヤーのザニーが、ビームサーベルでヒートサーベルを受け止める。

 つばぜり合いによって互いの高磁場による反発でスパークが巻き起こる。その措抗は一瞬だ 。

 ヴィッシュは左手の75mmを、レイヤーは頭部の20mmバルカンを撃ちながらお互いに飛び退いて距離をとる。

 互いの銃弾が数発命中するが、装甲で弾かれお互いに大した損傷にはなっていない。

 

『ファング1から各機へ、一度距離をとって体勢を立て直す!』

 

 通信してからレイヤーが周りを見ると、いつの聞にか戦況は措抗していた。

 

 ジオンのモビルスーツはドムが1機増え、ヴィッシュのグフにドム3機と、モビルスーツの数の上なら4:9で連邦の方が倍は多い。

 しかしジオンのドムはその高速性で巧みに動き回り、連携しての攻撃を妨害してくる。

 さらに厄介なことに、後方からジオンの戦車……『マゼラ・ストライカー』3両が到着していた。

 マゼラ・ストライカーは1両で立体的な攻撃を可能とする、画期的な戦車だ。砲塔部となるマゼラトップの155mm無反動滑空砲、車体部のマゼラベースの有線誘導式対MSミサイルはモビルスーツに対しても有効な火力を持つ。

 連邦のMS3個小隊のうち1つがドムとマゼラ・ストライ力ー3両によって大打撃を受けていた。

 

 ドムが巧みに動き回りながら自身に注意を向ける 。

 その間にマゼラ・ストライカーは全機分離、空と地上との計6つの対MS火力の出来上が りである。

 立体的なその攻撃に小隊に混乱が走る。そしてその混乱をそのドムは見逃さなかった。

 ドムがもっとも足が遅く、もっとも火力のあるミサイルザクに一気に接近する。その護衛でもあるザニーとザクは、マゼラ・ストライカーによって引きつけられ護衛としての役目が果たせていない。

 そして外しようもない距離からドムの放ったジャイアント・バズがミサイルザクに直撃した。

 上半身が凄まじい爆発とともに完全に吹き飛び、ひしゃげ砕けたスクラップ同然の脚部が大地に転がる。

 仲間がやられたことに動揺するザク、そのザクが後ろから吹き飛ばされたように倒れ込んだ。その胸には 、背中からの貫通孔が見える。背中からマゼ ラトップの155mm無反動滑空砲の徹甲弾の直撃を受けたのだ。

 胸のパーツを激しくスパークさせたザクはもはやどう見ても戦闘不能だろう。

 そのまま残ったザニーに襲いかかろうとするが、そこに連邦のもう1小隊が駆け付ける。

 乱射した100mmマシンガンが稜線に隠れようとしていたマゼラベースを撃ち抜き、擱座した。

 そのことで戻るべき場所を失ったマゼラトップは155mm無反動滑空砲を一度撹乱するように連射すると、そのまま飛行可能な間に後方の味方の方へと退避していく。

 数の少なくなったマゼラ・ストライカーを蹂躙しようと生き残ったザニーと1小隊が火力を集中させようとするが、その前にドム2機が援護に入って断念せざるをえない状況になる。

 まさしく一進一退といったところだ。

 いや、モビルスーツの被害状況を考えるのなら連邦の方が旗色が悪いというところだろう。

 両軍、戦力の拮抗による緊張感を保ったままの静止……。

 しかし、それは突如として砕かれる。

 

 

 ドゥン!!

 

 

「何ぃ!?」

 

 移動中だったマゼラベース2両の真ん中に突如としてミサイルが飛来すると炸裂、爆風と衝撃にその装甲が揺れる。そして追いうちをかけるようにして連続した弾丸に貫かれ爆発した。

 そして……蒼いモビルスーツが舞い降りる。

 

 それは連邦系のモビルスーツだった。

 ジオン系の全体的に丸いフォルムとは違い、角ばった印象を受ける。

 武器は右手にアサルトライフル然とした実弾ライフル……90mmライフルを装備し、左手には腕部分に小型シールドを装備している。

 胸にはバルカンと同時にミサイルが装備されており、その強力な火力を思わせた。肩には『01』の数字が白く書かれている。

 そして角のようなブレードアンテナに、ザクのようなモノアイとは違う、人の両目を思わせるデュアルセンサーを装備。

 そしてどんな意味があるのか、そのデュアルセンサーを真っ赤な色で輝かせながらあたりを見回している。

 

「これが……『蒼い死神』か!?」

 

 ヴィッシュはそれが噂の『蒼い死神』だと分かり、警戒を強める。今まで幾多の戦場を駆けてきたヴィッシュは、本能的にその強さを、そしてえもいわれぬ不気味さを味わっていた。

 一方、援軍が到着したということで浮足立つ連邦軍の中で、レイヤーだけは奇妙な違和感を感じていた。まず、あの蒼い新型だと思われるモビルスーツのデータが出てこない。さらに言えば敵味方識別のマーカーもなく、あんな味方が来るなど聞いていない。そして……これは感覚的なことだが、何故かこちらに殺気のようなものをぶつけてきている気がするのだ。

 そのため明らかに連邦の機体だというのに、レイヤーは警戒を解かぬまま『蒼い不明機』に対して通信を送る。

 

『こちらはホワイトディンゴ隊。 そちらはどこの所属か?』

 

 その誰何に対して、その蒼い不明機のパイロットは……。

 

『……ギャハ!』

 

 不気味な嗤いで答えた。そして、『蒼い不明機』がスラスターを吹かしてジャンプする。

 その推力で一気に飛び上がった『蒼い不明機』は、ライフルの銃口を下へと向けた。放たれる弾丸に、マゼラトップが貫かれて爆散する。

 だが、それだけでは終わらなかった。

 そのまま射撃を続けられた弾丸は、あろうことか生き残っていたザニーへと直撃したのだ。しかもそこはコックピットブロックである。パイロットは、間違いなく即死だ。

 そんな中、地面に降り立った『蒼い不明機』はスラスターとともに高速で踏み込むと、ドムに向かって走り出した。

 その途中、先程の銃撃でパイロットを失い、不規則に揺れるザニーを行きがけの駄賃とばかりに抜き放ったビームサーベルで斬り飛ばす。ザニーの上半身と下半身が真っ二つに分かれ、一呼吸を置いて爆発した。

 その爆発を背にドムへと真正面から接近する『蒼い不明機』、ドムはジャイアント・バズを放っていた。

 真正面から接近する相手だ、いかに弾速の遅いジャイアント・バズでもあの距離では普通は直撃を免れないものなのだが、『蒼い不明機』は信じられないことにスピードを殺すことなく、上半身だけを反らしてジャイアント・バズを回避したのだ。『蒼い不明機』はそのまま踏み込むとビームサーベルをドムへと突き刺す。

 コックピットを貫いた光の刃はそのまま背中へと貫通した。『蒼い不明機』が引き抜くようにビームサーベルを消すと、ドムがドゥっと仰向けに倒れ込む。胸部に空いた穴からバチバチとスパークの火花が散った。

 あまりの事態に、ジオン・連邦双方の動きが止まった。

 

『何だ貴様は、敵か!!』

 

『所属を言え!!』

 

 ジオン・連邦双方に攻撃をしてきたことで、双方から共通回線での詰問が飛ぶ。それに対する『蒼い不明機』からの答えは……。

 

『……ギャハ。 ギャハハ!』

 

 明らかに常軌を逸した狂気の笑い声だった。

 

『う、撃て!』

 

『敵だ、撃て!!』

 

 その空恐ろしさにか、連邦の1小隊とジオンのドムとマゼラアタックがその『蒼い不明機』に対して攻撃を始めた。

 一方、この不測の事態に対してヴィッシュとレイヤーは即座に反応していた。

 

「一端退け! 殿は俺が受け持つ!!」

 

『ファング1から各機!

 不測の事態だ、いったん後退!

 ファング2はファング3の直衛、無理な交戦は避けろ!

 足止めは俺がする!』

 

 『蒼い不明機』の乱入によって、その場は敵味方の関係のないような混沌へと支配されていた……。

 




ブルー登場というよりヴィッシュとレイヤーの話になってしまいました。
グフって格好いいなぁ……。

このBD1号機については『EXAM』の側面の一つ、『暴走』がテーマなのでいきなり暴走中です。
原作でもあれ、基地にまで暴走ブルーが来てたら混乱半端無かっただろうなぁ……。

次回も引き続きブルーの脅威、次こそはシロッコたちの到着までは行きたい。

次回もよろしくお願いします。

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