歴史の立会人に   作:キューマル式

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お久しぶりです。
仕事と……活動報告にも書いたようなゴタゴタがありまして久しぶりの投稿となりました。
今回はGPシリーズと並ぶガンダム世界のオーパーツの登場ですが……。

ドム万歳!!



第39話 アプサラス

「どうかな、中佐。 ここの設備は?」

 

「素晴らしいの一言ですな。

 これならばよほどのことがない限り、連邦には勘づかれないでしょう」

 

 私の言葉に彼――ギニアス=サハリン少将は満足げに頷いた。

 ここはギニアス少将の居城とも言うべき、ラサ秘密基地だ。山を丸々1つくり抜いて作られたその基地は秘匿性が高く、要塞としての防御力も高い。

 前線基地とは違い、この東アジア方面軍の司令部の入っている場所としてはその秘匿性の高さは大いに評価できる。

 私たちはそんなラサ秘密基地内に招待され、ギニアスに案内されるまま施設を見て回っている最中だ。

 

「そう言ってもらえると、私も嬉しい限りだ。

 連邦などに知られれば、うるさくて集中して開発も出来んからな」

 

「しかも工房の設備も一流の物を揃えてらっしゃる……。

 さすがですな、ギニアス閣下」

 

「我々のような開発者にとって、最高の道具を揃えるというのは何より重要なのでね。色々無理をしてでも取り寄せた。

 ここは物資という面では、中々に不便でな。ここにいるノリス大佐には色々と苦労をかけたよ。

 ノリスが優秀で助かっている」

 

「もったいないお言葉です、ギニアス様」

 

 あははと上機嫌に笑ってノリスの労をねぎらうギニアス少将に、ノリス大佐は会釈程度の礼をする。この基地は秘匿性の高さゆえに大がかりな物資搬入には向かず、欲しい部品が中々手に入らないもどかしさを抱えているようだ。その辺りの調達のために、ギニアスやノリスはいつも苦心しているらしい。

 なるほど、分からない話ではない。

 そう考えるとガルマのお膝元であるキャリフォルニアベースで、資材を使いたい放題で開発を行う私は恵まれすぎている。

 そんなことをしているうちに、やがて我々はギニアス少将の案内で厳重にロックされたドアの前にやってきた。

 

「ここから先は機密となりますので、無用の方の入室はご遠慮願いたい」

 

 どうやらここから先が、この施設の最重要区画のようだ。

 

「わかった。 シャアとメイ嬢は私についてきてくれ。

 クスコ大尉、皆を頼む」

 

「了解しました、中佐」

 

 クスコは他の皆を連れ、兵に連れられて移動する。

 今夜はギニアス少将の好意で晩餐会が予定されている。一足先に会場へと向かったのだろう。戦いの中での、せめてもの気晴らしになってくれればいいが……そんな風に思う。

 

「さて……」

 

 では、こちらもここにきた目的(メインディッシュ)を平らげるとしよう。

 私とシャア、そしてメイ嬢はギニアス少将とノリス大佐に続き、その厳重なゲートを潜り抜ける。

 そしてそこに待っていたものは……。

 

「うわぁ……!!」

 

「ほぅ……これは……」

 

 メイ嬢は目をキラキラと輝かせ、シャアは感嘆の声をもらす。

 そこにあったのは、このラサ秘密基地の心臓部とも言うべき研究区画だ。何人もの研究員がせわしなく動き回り、最新の機器が稼働する。そしてその中央部に鎮座するのは、まさしく鋼鉄の塊だ。

 ミノフスキークラフトでの飛行のために航空力学のくびきから解き放たれ、およそ航空兵器とは思えないダルマのような形状。その中央部には艦砲用を超えるサイズの超大口径収束・拡散偏向メガ粒子砲の砲門が天井からのライトに照らされ、怪しい輝きを放っている。

 これこそ連邦軍本部ジャブローへの攻撃を行う『アプサラス計画』の要、ギニアス少将が心血を注いで開発を続けているモビルアーマー『アプサラス』である。

 その姿は私の知る『原作』に非常に酷似しているのだが……。

 

「……」

 

 ただ一点、どうしても違和感の覚えるところがある。それはアプサラスの頭部だ。

 私の知る『原作』では、アプサラスはザクの頭を取りつけていた。そのために『ザク頭』などと呼称されることもあるくらいである。

 しかし、今私の目の前のソレは『ザク頭』ではなかった。その頭部は私のよく知る、特徴的な十字レール式のモノアイによって構成されている。

 そう……『ドム』である。アプサラスは『ザク頭』ならぬ『ドム頭』となっていたのだ。

 

 だが冷静に考えてみれば、これは当然のことかもしれない。アプサラスはジオン本国ではなく地球のこのラサ秘密基地で、ギニアス少将の元で開発されたモビルアーマーだ。言ってみれば、それは正規品というより現地改修機に近い。そして、前線にある基地では慢性的な補給不足に悩んでおり、開発を行おうにも本国のように新しいパーツがすぐに手に入るわけではないのだ。例外は地上の一大生産拠点であるキャリフォルニアベースで開発をしている私くらいのものだろう。

 そのため現地開発は既存の機体のパーツを流用したりしながら進められる。このアプサラスもそんな『既存の機体のパーツを流用した』機体なわけだが……私の知る『原作』とでは流用する機体が違う。

 『原作』では大量に量産されていたザクのパーツが流用されていたが、ここでは私がドムを早期に開発した。さらに例の『ザク情報漏えい事件』のせいで、ザクそのものの生産も打ち切りの状態である。そのため、今現在地上でもっとも生産され流通しているのは『ドム』シリーズの機体なのだ。

 この東アジア戦線では森林地帯などの地形的な意味でザクやグフのような歩行型のモビルスーツが好まれているがそれはあくまで例外、ジオン地上軍の主力はすでに『ドム』シリーズなのである。

 手に入りやすさ、そして性能の双方で『ドム』のほうが『ザク』より上なのだから、パーツの流用がドムからになるのは当たり前の話だ。そのため、アプサラスは『ドム頭』になってしまったのである。

 

「どうかな、私のアプサラスを見た感想は?」

 

 そう言って得意げなギニアス少将。その姿はどこか、おもちゃを自慢する子供のような印象すら受ける。客観的に見ると、私もこんな風に他人から見えているのだろう……そう思うと苦笑がこぼれた。

 

「素晴らしいですな、このサイズまでにミノフスキークラフトとメガ粒子砲を小型化できるとは……」

 

 私は素直にその技術力を褒め称える。その言葉に、ギニアス少将は満足するように頷いた。

 

「ははは、アプサラスに必須だったドムの開発者である君に言われるとうれしい限りだよ」

 

 聞けば、当初はアプサラスはザクのジェネレーターを数基直結させるつもりだったようだが、それよりさらに高性能なドムのジェネレーターを使うことでその数を減らし、その空いた分の重量やスペースを冷却機能の強化など別の機能に廻すことができて、アプサラスの完成度が上がっているようだ。

 私のドムの早期開発が廻りに廻ってアプサラスの開発を後押ししていたとは、なんとも感慨深いものだ。

 

「私のドムをそこまで評価していただけているとは光栄です、ギニアス閣下」

 

「謙遜はしないでくれ。

 君の技術力……それはこのアプサラスの更なる発展に必要だと思っている。

 このアプサラス、まだ完成というわけではないのでな」

 

「……」

 

 そう言って鋭い視線をアプサラスに向けるギニアス少将。その瞳の奥には狂気の炎がチロリと見え隠れするが、私はあえてそれを無視した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 優雅な音楽にきらびやかな装飾、それは一時、今が戦時であることを忘れさせる。

 今、私はギニアス少将主催の晩餐会に出席していた。

 晩餐会とはいえ、参加者はこの地域の将兵たちを中心とした身内向けのものだ。そのため、ひっきりなしにやってくるものたちに挨拶をしてまわったりと、晩餐会という名の職務と言っても過言ではない。

 私は区切りがついたところで壁に寄り掛かって、一息をつく。

 

「シロッコ、調子はどうだ?」

 

「見ての通りだ。

 君と同じく、壁へと戦略的撤退中だよ」

 

 肩をすくめると、シャアもお互い様かと顔を見合わせて苦笑し合う。そして自然に、シャアと並んでぐるりと会場を見渡していた。

 

「……さすがは地上での激戦区、古強者が多いと見えるな」

 

 シャアの言葉に私も頷く。身体の運びや周囲への意識の配り方、そして何より纏う覇気が並大抵ではない。

 

「なるほど、さすがはノリス大佐殿の配下だな。

 よく訓練されている」

 

「その言葉、彼らに直接言ってやったらどうだ?

 『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』から褒められたとなれば、彼らのやる気も上がると思うぞ」

 

「『赤い彗星』からの言葉でも同じ効果が見込めそうだな。

 ならばそれは君に任せるよ。

 私は……そうだな、見目麗しい女性たちを愛でる方を任せてもらおうか」

 

 そう冗談めかして言う私の視線の先には、リザド隊の面々が揃っていた。皆、ギニアス少将の用意したドレスを纏っている。

 ただでさえ見目麗しいクスコやニキ、レイチェルにエリスが着飾っているのだ。その華やかさに関してはそれこそ、そこだけ次元が違う。

 同じようにハマーン、レイラ、メイ、マリオンの4少女たちもドレスで着飾り、その存在感はクスコたちと同じく、大輪の花のようだ。

 

「あの見目麗しい容姿で普段は優秀な兵であったり技術者であったりするのだから、天とは二物も三物も与える不公平なものだよ」

 

「それを君が言うか?

 天から大量の物を与えられた『天才』の君が」

 

 シャアは呆れたといった感じで肩を竦め、私もそれに苦笑で返した。

 

「楽しんでくれているかな、シロッコ中佐、シャア少佐?」

 

「はっ。

 お気遣いありがとうございます、閣下」

 

 やってきたギニアス少将に私とシャアは即座に敬礼する。その時、私はその後ろにいたその存在に気付いた。

 ドレスで着飾った、美しい女性だ。その美貌はクスコたちに勝るとも劣らない。年齢は私やシャアと同じくらいか、たれ目がちな目じりは柔和そうな印象を醸し出す。

 そんな2人の後ろにはノリス大佐が私やシャアと同じく、ジオン軍1等礼服で直立不動の姿勢をとっていた。

 そんな中、ギニアス少将はその女性を紹介する。

 

「紹介しよう。 私の妹のアイナ=サハリンだ」

 

「アイナ=サハリンです。

 はじめまして、パプティマス=シロッコ中佐、シャア=アズナブル少佐」

 

 ……どうやらこの東アジア戦線のヒロインの登場のようだ。

 

「はじめまして。

 あなたのようなお美しい女性にお会いできるとは光栄の極みですよ、アイナ嬢」

 

「お上手ですね。 お世辞でもうれしいですわ」

 

「いえいえ、私の心からの本心ですよ」

 

 朗らかに笑い合い、私はアイナ嬢と二言三言と言葉を交わす。そしてその話に区切りがついたところでギニアス少将は私に言った。

 

「ところでシロッコ中佐、少し話をしたいのだが……別室でどうかな?」

 

 そう言ってドアを指すギニアス少将。無論、断ることなどあるはずもない。

 

「了解です、閣下」

 

 私の言葉にギニアス少将は満足そうに頷くと、隣のアイナ嬢に言う。

 

「アイナ、お前はお客人たちの相手をしなさい」

 

「わかりました、お兄様」

 

 そんな中、私もシャアに声をかけた。

 

「シャア、しばらく任せた。

 アイナ嬢が美しいからと、あまり羽目を外すなよ」

 

「私は女性には一途でな、この件に関しては君より信用があると自負しているが?」

 

「シャア、それでは私が女性に一途でないように聞こえるではないか」

 

「客観的に己を見ることは大切なことだと友人として忠告するよ、シロッコ」

 

 冗談めかしたかけ合い。シャアに笑い『頼む』とポンと胸を叩くと、私はギニアス少将に連れられて会場を後にする。

 ギニアス少将の後ろに控えていたノリス大佐が、残ったシャアたちに洗練された綺麗な礼をしてから付いてくるのが見えた。

 

 




ドム頭の魔改造アプサラス登場。
技術状態と情勢を考えるとザクを使う必要が……ねぇ?

次回はギニアスとの話し合いの予定。
また気長にお待ちください。

次回もよろしくお願いします。

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