今回はシロッコたちの作戦と同時刻のユーピテルサイド。
どういうわけか嫌な予感ほどよく当たるものです。
そして、ついに彼女がMSへ。
「……確認できました。 ジオンのファットアンクル輸送機2機にザンジバル級巡洋艦1隻です」
「ザンジバル級か……ずいぶん大物だな」
「どうします、隊長?」
「こちらはモビルスーツ2個小隊……やりようによっては打撃を与えられるだろう。
戦闘準備だ。
地球は俺たちの大地だ、土足で入り込んできたジオンの連中にはおかえり願うとしよう」
「「了解!!」」
~~~~~~~~~~~~~~~
「作戦、始まった頃ですね。 中佐たち大丈夫でしょうか……?」
ザンジバル級巡洋艦『ユーピテル』のブリッジ、不安そうなオペレーターの声に、艦長席に座したフローレンス=キリシマ大尉は朗らかに笑いながら答える。
「我らがジオン公国の誇るエース、『
それより、周辺警戒を怠らないように」
「大丈夫ですよ、艦長。
ここは後方なんですし、みんなマニュアル通りにしっかりやってくれてます」
「そう、それなら安心ですわ」
若い女性オペレーターの答えにフローレンスはかわらず朗らかに笑いながらも、心の中ではまったく逆のことを考えていた。
(マニュアル通りにやってますなんて、まるっきりアホの言うことじゃないかい!
本当に大丈夫なのかねぇ……)
そのどこか緩んだ思考にフローレンスは心の中で悪態をつくのと同時にふと思う。
(思えば……アタイらの部隊は少し『勝ち過ぎ』なんだよ)
結成以降、リザド隊は数々の困難な作戦を成功させジオンに勝利をもたらしてきた。それは天才シロッコと彼の育て上げた精強なモビルスーツ隊の働きのおかげだが、もちろんのことながらこれはパイロットだけではなく部隊全体で掴んだ勝利でありそれを隊員一同、誇りに思っている。それは良いことなのだが……どこか危ういのだ。
別に『勝利』が悪いというのではない。特に戦場での『敗北』などイコール『死』である。問題なのは勝つことで生まれる心の隙だ。
『勝利』はある意味、強い酒に似ている。程よい『勝利』は士気の高揚と精神的な余裕を生むが、『勝利』に酔い慢心と油断に溺れては、精強な兵もとたんに新兵以下になり下がる。
(勝ちすぎることによる弊害……このあたり流石の天才さまでも今一つ理解していない節があるね)
その辺りは基本的に人生負け知らずで生きてきただろうシロッコには難しいのかもしれないと、フローレンスは心の中で呟く。
ならば、そこは自分の役目だ。今までの人生、勝利の美酒も敗北の泥もさんざんに舐めてきたのだ。その辺りの経験は役に立つだろう。
フローレンスはこの作戦が終わったら少し本気でこの件を片付けようと、綱紀粛正の案を頭の中で練っていく。
その時だ。
ピピピッ!!
「!? これは……熱源反応です!!」
「敵かい!?」
その報告にフローレンスは思考を一気に戦闘用に切り替える。
「高速熱源接近! ミサイルです!!」
「機銃で迎撃!!」
『ユーピテル』の機銃砲座が火を吹き空から迫り来るミサイルを撃ち落としていくが、数発がさばき切れずに着弾、船体への直撃はなかったが爆発の衝撃が『ユーピテル』を揺らす。
「きゃぁぁぁ!!?」
「今のはどこからだい! 索敵急げ!!」
「はい!
……! 見つけました、正面モニターに出します!!」
そして『ユーピテル』のモニターには、望遠したカメラがとらえた敵の姿が映っていた。森の中に脚部にミサイルポッドを装備したザクが2機、そして両肩にスプレーミサイルランチャーを装備したミサイルザクの姿を認める。
「スクランブル!
アポリー中尉とロベルト中尉のドワッジ、迎撃に向かいます!」
「……」
その光景をモニター越しに見ながら、フローレンスはいやな予感がした。
別にアポリーとロベルトの腕を疑ったのではない。2人の腕ならば、今こちらに攻撃を仕掛けているあの3機を抑えてくれるだろうという確固たる信用はある。問題は、この攻撃自体が何か作為めいたものを感じることだ。
『ユーピテル』と2機のファットアンクル輸送機の着陸しているここは森の開けた場所だ。迎撃に向かうには当然のことながら機動力が落ちる森に入るしかないが、ドム系は得意のホバー機動ができないため機動力の低下が特に激しい。
本来なら森になど入りたくないが、相手の射程がこちら以上の上、すでにこちらに向かって撃ってきている以上、迎撃を出さないという選択肢は無しだ。
加えて相手は3機という複数、当然1機で行かせるわけにもいかずアポリーとロベルトの2人で迎撃に向かった。
これがもし、こちらの護衛戦力を釣り出すためのものだとしたら……。
「エンジン始動、離陸急げ!
急いでこの場を退避するよ、ファットアンクルにもそう送れ!!」
矢継ぎ早にそれだけ指示すると、フローレンスは蹴飛ばすような勢いで艦長席から立ち上がり出口へと走る。
「艦長、どちらへ!?」
「格納庫! アタイも出る!!」
それだけ言うと、1秒でも惜しいとばかりに『ユーピテル』艦内を全力疾走し始めるフローレンス。そんなフローレンスの耳につけたインカムから、再びオペレーターの悲鳴のような声が上がった。
『新たな敵、人型3機!!?』
ほぼ同時に、再び衝撃が『ユーピテル』を襲う。
「やっぱりかい! ほんと、嫌な予感ってのはあたるもんだよ!!」
ここに来て、危惧していた部隊規模に対する護衛戦力の少なさが出た。
フローレンスが走りながらもチラリと窓の外を見れば、ファットアンクルの1機が被弾したらしくローターから炎を噴き出している。そんなファットアンクルにトドメを刺そうというのか、突っ込んできたザクがそのファットアンクルに向かって100mmマシンガンを構えた。
しかし……。
ガゴォォォン!!
ファットアンクルの格納庫が内側から吹き飛んだ。そしてそこから飛び出したモビルスーツがザクを殴りつけて100mmマシンガンを止める。
それは……。
「調整中のビームグフじゃないか!?」
それはノリス=パッカード大佐への引き渡しのために最終調整を行っていたはずのビームグフだ。
「あのグフ……よく見たら丸腰じゃないかい!?」
急いでいたのだろう。手持ち武器がないのは分かるが、調整中のため内蔵武装のワイヤーヒートロッドすら取り外されており完全な丸腰の状態だ。
「一体誰が乗ってんだい!?」
そう言いながら、フローレンスは格納庫へと急ぐ。
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時間を少し、遡る……。
その時、彼女……ハマーン=カーンは親友であるレイラ=レイモンドとともにファットアンクル輸送機でメイ=カーウィンの整備の様子を眺めていた。
「整備なんて眺めてても面白くも何ともないでしょ。
部屋にいればいいのに……」
トレーラーの荷台に横になった『ビームグフ』の関節部を端末でチェックしながらメイが後ろを振り向く。
「そうは言ってもね……マリーが戦いに行ってるのに部屋でジッとしてるっていうのも……」
「ああ、それはわかるかも……」
レイラのその言葉に、メイはポリポリと頬を掻く。戦場に出た友人が心配になって落ちつかないというのはメイ自身、整備としていつもその感覚を味わっているのだからよく分かる話だ。
そう、友人である。
年齢も近く、自然と一緒に居る時間の多かったハマーン=カーンとレイラ=レイモンド、メイ=カーウィンにマリオン=ウェルチの4人は今では仲の良い親友同士である。
よく4人でお茶を飲みながら喋っている光景はリザド隊では有名で、誰もがその微笑ましい光景に心をなごませていた。
本国に彼女たちくらいの娘を残している者も多く、彼女たちに自分の娘を重ねる者も多い。さらに単純に見目麗しい美少女4人組である。そのため彼女たちはリザド隊では年齢関係無く人気の高いアイドル兼マスコットのような存在だった。
閑話休題。
「ごめんなさい、メイ。 でも、なんだか落ち着かなくって……邪魔はしないから私たちもここに居させてもらっていいかしら?」
「もちろんだよ」
ハマーンがすまなそうな顔で頼むと、メイも笑って快諾した。そしてハマーンとレイラの眺める中、メイは再び『ビームグフ』の最終調整に入る。
「これが……シロッコ中佐の造ったモビルスーツ……」
「うん、ビーム兵器使用を前提としたビームザクの陸戦強化型……『ビームグフ』だよ」
そう言ってテキパキと各部のチェックを行っていくメイ。
「整備、熱が入ってるわね」
「それはそうだよ、ハマーン。
だってシロッコお兄さんが私に『頼む、君にしか頼めない』ってお願いしてきたんだもん。
もう、もーっと私を頼りにしてもいいんだよお兄さん。
さぁ、私に甘えに来たまえ! なーんちゃって」
「メイ、あんた今の顔ちょっと不気味。 あと妄想も大概にね」
そう言ってエヘヘと笑いながら身体を不気味にくねくねゆするメイに、レイラは若干引き気味だ。恐らくメイの脳内では今頃美化されたシロッコが、事実からはずいぶん誇張された形でメイに囁いているのだろう。
「あ、あはは……メイは本当にシロッコ中佐が大好きなのね」
「もちろん!
私はマリーや他の人たちみたいに戦えないし、こういう得意分野で『できる女』をアピールしないとね」
ハマーンとレイラは、メイの様子には笑うしかない。同時に、したたかに自分の存在をアピールしにいっているメイに案外策士なんだと驚く。
恋を知れば、女は誰でもこうなるのかも知れない……ハマーンとレイラはそんな友人を微笑ましく思うとともに、少しだけ羨ましく思った。
その時……。
「「!!?」」
ハマーンとレイラの脳裏を、電光のように何かが突き抜けていくのを感じた。
「? どうしたの、2人とも?」
「ダメ! メイ、伏せてぇぇぇ!!」
メイが様子のおかしい2人にいぶかしむのと、ハマーンの声が響くのはほぼ同時だった。
ドゥゥン!!
爆発音、それに次いで激しい揺れがファットアンクル輸送機を襲う。
「「「きゃぁぁぁぁぁ!!?」」」
その揺れで、3人は揃ってトレーラーの荷台部分から投げ出されていた。
「痛ぅ……」
身体をしたたかに打ち、その痛みに顔をしかめながらもハマーンは身体を起こす。
すると……。
「きゃぁぁぁ!!
メイ! メイ!?」
レイラの悲鳴に目を向ける。そこにはトレーラーの荷台から落ちた時に打ち付けたのか、頭から血を流すメイの姿があった。
「あうぅ……」
「メイ! しっかりして、メイ!?」
どうやらレイラはハマーンと同じく無事らしい。即座にメイの元に駆け寄るレイラ。
ハマーンもまた、跳ねるように飛び起きるとメイのもとに駆け寄った。
「メイ、しっかり!?」
「!? ダメよ、レイラ!」
メイを抱き起こしゆすろうとしていたレイラを、ハマーンは慌てて止める。頭から血を流しているのだ、それを下手に揺らしてしまってはどうなるか分かったものではない。
「ハマーン、メイが!?」
「分かってる、早くメイを安全なところに運びましょう!」
「でも、安全なところってどこよ!?」
レイラの言葉どおり、今ここは混乱の極みにあった。ファットアンクルの格納庫の一部が壊れ、何人かがその下敷きになっていた。
内部も大変な騒ぎだが、外も酷い。整備などのため機材や物資の一部は外に出していたのだが、それに被弾し爆発炎上、何人もの整備兵が火を消そうと動き回る。
この混乱の中、安全なところなどどこにも考え付かない。
その時、再び2人の脳裏を電光のようにイメージが突き抜けていく。
この襲撃は終わってなどいない。むしろこれから、敵がここに来る。
そしてこのままでは、きっと避難は間に合わない……そのことを2人は直感的に確信した。
「……ハマーン」
「……うん!」
レイラの言葉にゆっくりとハマーンは頷くと、目の前のさきほどまでメイが整備していた『ビームグフ』を見上げた。そしてトレーラーへとよじ登りグフのコックピットに滑り込むと、滑らかな動きでハマーンはグフの起動をしていく。
ジェネレーターに火が灯り、グフのモノアイが光り輝く。
『私が時間を稼ぐから、その間にメイをお願い、レイラ!!』
「わかった! 無理はしないでよ、ハマーン!!」
メイを引きずるようにしながら避難していくレイラをモニター越しに横目で見ながら、ハマーンはグフの上半身を起こすが……。
「ダメ、このままじゃ間に合わない!」
ハマーンはペダルを踏み込む。途端にスラスターに火が入り、座った状態だったグフを強引に推し出す。スラスターの推力に押されながらも空中でバランスを取ると、グフはその勢いでファットアンクルの格納庫の扉を体当たりで突き破る。
「やぁぁぁぁぁぁ!!」
そしてそのまま、100mmマシンガンを撃とうとしていたザクへと殴りかかってそれを止めた。
「私の友達……やらせはしない!」
ハマーンがペダルを踏み込むと、それに応えてグフは再びザクへと向かっていくのだった……。
というわけでお友達を助けるために、遂にハマーン様の出陣です。
道を開けよ、ハマーン様のご出陣じゃ!! ハマーン様ばんざーい!!
なんかグフを白く塗ってやりたい……。
次回は連邦部隊との戦いの続きです。
次回もよろしくお願いします。
追伸:先週と今週のビルドファイターズトライ。
メイジン回としかいいようのない暴れっぷり。いいぞもっとやれ。
レッドウォーリアが動くとか……長生きはするものだ。
アドウさんには最終的にガンキラーに乗って欲しい私はガンダムボーイ世代です。
それにしても枯れた花が蘇るとか……お前はキン肉マンか?
次回も楽しみです。