ギャンとイフリート改の初陣です。
「よし、この先は河だ!
逃げたジオンの連中だって足が止まるはず!
そこを叩くぞ!!」
彼は部下たちにそう通信してから、自身のザクを走らせる。
渡河には大きな危険を伴う。どうしても行軍速度が遅くなり、背中を見せることになるからだ。特にこの先の河には橋は無い。いかにモビルスーツだろうと速度が遅くなるのは必至であり、追う側としては大きなチャンスだ。
やがて彼は部下の5機のザクとともに森を抜ける。
「居たぞ!」
「やった、カモだ!」
そこには渡河の真っ最中のジオンのモビルスーツ2機の姿があった。『ザク』と『グフ』である。どちらも損傷は激しく、グフなど左の肘から先が無くなりそのスパークが闇夜の中に浮かび上がっている。それが背中を向けながらのろのろと河を渡っているのだ、これほど簡単な相手は居ない。
連邦兵たちは意気揚々と100mmマシンガンを構えて撃とうとした。
その時だ。黄色い閃光が闇夜を貫き、連邦のザクの1機を撃ち抜いた。
「な、なんだ今のは!」
「ザクが一撃で!?」
突然のことに混乱するその一瞬の隙を付き、横合いからの爆発でザクの1機の左腕が吹き飛び、その方向を向こうとした瞬間に再びの爆発で今度は胴体がバラバラに吹き飛ぶ。
「何っ!?」
慌ててモニターを向ければ、そこには河の上を滑りながらジャイアント・バズを射撃するドワッジの姿があった。
ホバー推進システムは水上を走ることもできる。本来はジャングルの中ではドワッジは有効に動けないが、河を地面に見立てることで平野と同じような機動をドワッジはしていたのである。
「くそっ!? スカート付きか!!」
「さっきの光はどこからだ!?」
「バカ、やめろ!!」
突然の襲撃に混乱し、ドワッジと、先ほどの閃光の出所辺りに100mmマシンガンを乱射する部下に隊長は制止の声を上げるが、次の瞬間あの黄色の閃光にまた1機のザクが貫かれた。
「ここじゃいい的だ!
森に戻れ、早く!!」
瞬時にして半数の部下を失うことになりながら、隊長は指示を飛ばした。
事実ドワッジのようなホバー機動のモビルスーツは森ではその行動を大きく制限されることから深追いはしてこないはず。それに先程の敵の狙撃と思われる攻撃も、森の中に隠れてしまえば当たるものではない。
しかし……。
ピピピッ!!
「なにぃ!?」
機体のセンサーの反応に慌ててその方向を向こうとした瞬間、2機のモビルスーツが跳び出してくる。サンドカラーの見たことも無い細身のモビルスーツだ。
その機動性はこの戦線においてもっとも厄介な相手といわれる『グフ』を遥かに超えている。そして、そのうちの1機の持つ銃から黄色い閃光がほとばしり、ザクを貫いた。
「これはビーム!?
ジオンはビーム兵器の開発に成功したのか!?」
隊長も、噂ではビーム兵器の開発の話は聞いたことがあったが実物を見たのは初めてだ。噂では宇宙戦艦の主砲並の威力があるというが、いとも容易くザクを撃墜した辺り誇張というわけではないだろう。その事実にサァっと血の気が引く。
もう1機はビーム兵器ではなく、通常のマシンガンをザクへと浴びせかけてきた。
「う、うわぁぁぁぁ!!?」
「バカ、森から出るな!!」
先程のビーム兵器のせいで半ば恐慌状態にあった最後の部下である新兵は、その新型機のマシンガンから逃げるために、追い立てられるように森から飛び出してしまった。
しかしそれこそが狙いだ。森から出た瞬間、2機のドワッジのジャイアント・バズの射撃が飛ぶ。
「う、うわぁぁぁぁ!!?」
咄嗟に直撃だけはさけるが、ジャイアント・バズの炸薬の爆発にあおられ、動きが止まる。その瞬間、どこからともなくあの黄色いビームの狙撃によって新兵のザクは貫かれていた。
「こ、こんなバカな……」
瞬時にして自分以外の部下が全滅したことに、隊長は焦りと恐怖でカラカラになった喉から声を絞り出す。
そんな連邦隊長機のザクを、ビーム兵器を装備した敵の新型がゆっくり見つめ、そしてモノアイが赤く輝いた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そのモノアイの輝きに、彼の精神は耐えられなかった。雄たけびを上げながら、破れかぶれでヒートホークを抜き放ち、その新型に斬りかかろうとする。だが次の瞬間、ビーム兵器の閃光が走り、彼のザクの右腕をヒートホークごと吹き飛ばした。
そしてマシンガンを装備していた方の1機が急接近、手にした筒からの閃光が剣に変わる。
その光の剣……ビームサーベルによってコックピットを貫かれ、彼の肉体は瞬時に蒸発したのだった……。
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夜のジャングルは暗く、不気味だ。
その闇夜のジャングルを3機の青い、連邦のザクが歩いていた。
その3機は100mmマシンガンを構えながら矢の形……アローフォーメーションをとって互いに周囲を警戒しながら歩いていく。
「「「……」」」
彼らは無言だ。
今は勝ち戦の追撃戦とはいえ、この地形ではどこで奇襲を受けるか分かったものではない。そのためセンサーの感度はすでに最大、周辺警戒を厳として慎重にジャングルを進んでいる。
短期間ながら訓練で叩きこまれた基本をよく守った、正しい姿である。
しかし、マニュアルというものは何時の時代も穴があるものだ。万全だと思うマニュアルの通りに動いても、想定外の出来事によって対処できなかった事例などそれこそ掃いて捨てるほどある。
そしてマニュアルというものには、『一般的に起こりえること』しか載っていない。悲しいことにどんな優秀なマニュアルにも、『怪物と出会った時の対処法』など載っていないのである。
ゴゥ!!
「「「!!!?」」」
突然の爆音にも似たスラスター機動音に、3機のザクは同時に空を見上げた。
そこには、月を背に跳び上がる見たことも無い赤いモビルスーツの姿があったのだ。
ジオン特有の赤く輝くモノアイがレールに沿って左右に揺れる。それはまるで獲物を前に舌なめずりするかのようにも見えた。
「ジオンだ! 撃ちまくれぇぇぇぇぇ!!」
隊長のその言葉を皮切りに3機のザクからの100mmマシンガンの連射がその正体不明の赤い機体に向かって放たれるが……。
「!? バカな、なんだあの機動性は!?」
その赤い機体は空中で『横にロール』をしながら、100mmマシンガンのロックを振り切って着地をする。
そして大地を蹴って3機のザクに向かって走り出した。
「は、速すぎる!?」
「何だこれ!?
グフの倍以上は速い!!?」
赤い機体の尋常ならざる速度に、連邦兵から悲鳴が上がる。この戦線では陸戦に特化した『グフ』を見かけることも多いがその速度も相当なもので、『グフ』を相手にする場合ザクではとにかく距離をとって射撃戦に持ち込むようにと教え込まれている。
だが、この赤い機体はその『グフ』など比べ物にならない速度だ。それもそのはず、この赤い機体は踏み込みと同時にブーストを吹かしているのだ。
これは言うほど簡単な技術ではない。踏み込みとブーストのタイミングを完全に合わせることが出来なければ、即座にバランスが崩れて転倒してもおかしくない。だが、この赤い機体はその超難度の機動を、流れるかのように淀みなく行っているのだ。だが目の前に迫る脅威への対処で精一杯の連邦兵には、それを考える余裕はなかった。
その別次元の速度と赤い色が、連邦兵たちにどうしてもいやなものを連想させてしまうからだ。
「この速さに赤い色……まさか、まさかまさか!!??」
そして、ついに赤い機体が3機のザクの作る
「しまった!?」
『数の違い』というのは確かに有利不利に関わる大きな事柄だが、その数の違いというのは懐に入り込まれると無効化されてしまう。何故なら、懐に飛び込まれた場合同時に攻撃できる数と手段は限られてしまうからだ。それを考えない場合、起こるのはみじめな同士討ちである。
だが、その状況に持ち込むためには敵の砲火に自ら飛び込んで掻い潜る必要があり、それは普通中々上手くいかない。
だが、この赤い機体のパイロットはそれを難なくやってのけたのだ。そのために必要な、自分の技量への自信と愛機への信頼、そして敵の砲火に身をさらすことも厭わない勇気のすべてがこのパイロットには備わっている。
そして、その瞬間に連邦兵たちは、敵のパイロットが誰なのか確信した。
「『赤い彗星』シャア=アズナブル!?
何でこんな戦線に……!!?」
次の瞬間、赤い機体の両手から黄色い光の刃が伸びた。クルリとその場で、まるでプロペラのように回転する。
瞬間、巻き起こったのは死の旋風だった。
黄色い光の刃によって、一瞬で2機が横に真っ二つにされる。一歩引いていたことでかろうじて1機のザクが奇跡的に回避に成功するが、彼の運もそこまでだった。
即座に赤い機体が一歩を踏み込み、光の刃を構えた両手を振り下ろした。
光の刃がザクを、Ⅹ字に焼き切る。同時に赤い機体は跳躍、それを追うように3機のザクが爆発した。
爆発の閃光を背に着地する赤い機体は、黄色い光の刃を消すと再びモノアイを激しく動かし周囲を確認すると、ジャングルの中へと戻っていった……。
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「どう……なっているんだ!?」
連邦のザク乗りである彼は今、混乱の極みにいた。
彼に与えられた任務は追撃任務だ。連邦の攻撃によって撤退していくジオンを後ろから撃つだけの簡単な仕事であるはずだった。
事実、彼は先の戦いにおいて2機のジオンのザクを撃破することで自分の技術にも自信が持てていた。
だからこそスコアを伸ばしてやろうという気概のもと、部下たちを率いて来たのだが……その部下たちが次々に何者かによって撃破されているのだ。
しかも……。
『こ、こいつ……速すぎる!?』
『見たことも無い機体だ。
な、何だあの光!? た、隊長ぉぉぉぉ!!』
そして通信機からは爆音と、その後にはノイズだけが残る。それに苛立たしげに舌打ちすると彼はザクをその場所に向かって走らせた。
「見たことも無い機体だと!? ジオンの新型なのか!?」
先程の部下の断末魔の悲鳴を思い出し身震いしながらも、部下たちのことを確認せずにおくわけにはいかない。
彼は恐怖を押し殺しながら、ザクを進めていく。
「……いやな場所だ」
彼は周りの景色を見ながらポツリと呟いた。
ジャングルという緑の世界は、まるで人を飲み込もうとする巨大な化け物のようだ。その雰囲気はモビルスーツに乗ろうと変わらない。しかも今は夜、不気味さは通常の三倍増しである。
彼は、怪物の口の中に飛び込むような心境でゆっくりと部下たちからの最後に通信のあったポイントへと進んで行く。
森の開けたその場所では横に真っ二つにされたザクと、コックピットに大穴の開いた2体の残骸が転がっていた。左肩のシールドにつけられた番号から、部下たちのものであると分かる。
「どこだ! どこに居やがる!!」
彼のザクは油断なく100mmマシンガンを構えて、辺りを警戒する。
その時、彼は確かに見た。
「紫の……炎?」
闇夜のジャングルの中に、ボゥっと浮かび上がるその炎は不気味にゆらゆらと揺れている。
「敵か!?」
一瞬呆気にとられるがすぐに敵だと気付き、100mmマシンガンをその紫に向けて乱射するが……。
「何で、何で当たらないんだよ!?」
そんな彼をあざ笑うかのように、ユラユラと揺れながらその紫の炎は彼のザクへと接近してくる。
そして、遂に彼はその姿を認めた。
この戦線ではよく見かけるザクやグフ、そしてドムとはまるで違う。 シャープな細身のその機体は、まるで中世の騎士だ。そのシャープな外見の通りの、ザクやグフやドムとは別次元の高機動で動きまわっている。
この戦線では始めて見る、ジオンの新型のモビルスーツである。
だが、彼の心臓を心底震えあがらせたのはそれが新型だからではなかった。
その機体は、紫色で塗られていたのだ。
ユラユラ揺れる、不吉な紫の炎といえば……。
「『
あいつは北米にいるんじゃないのかよ!!?
何で、何でこんな戦線に!?」
彼の驚きはすぐに絶叫に変わり、狂ったように100mmマシンガンを乱射させる。過熱した砲身が闇の中に赤い色を浮かび上がらせるが、それでも紫の機体に傷を穿つことは叶わない。
そして紫の機体が銃口をザクへと向ける。
次の瞬間、ほとばしる黄色の閃光の中に彼の意識は永遠に溶けていった……。
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「……これで周辺の敵は始末できたか……」
私は額の汗を拭うと、通信を開いた。
「こちらの敵は排除できた。
そちらはどうか?」
ややあってクスコからの通信が帰って来た。
『こちらも問題ありません。 味方の撤退を援護し、敵を撃破しました。
ニキ『少尉』たちも、いい働きです。
特にマリオン『少尉』の狙撃精度は相変わらず凄いですね』
「分かった。詳しい報告は後で聞こう。
味方を援護しつつ、撤退ポイントにまで下がってくれ、クスコ『大尉』」
『了解しました、シロッコ『中佐』』
クスコへの指示を終えると、私は次の相手を呼び出す。
「シャア、そちらはどうだ?」
すると跳躍した赤い機体が私のギャンの傍らに降り立つ。シャアのイフリート改である。
『こちらも敵を撃破した。 しばらくは追っては来れまい。
もっとも……この地形では防衛ラインなど有って無いようなものだ。
どれだけ連邦の部隊を防げたか分からんがな』
「この場所では、戦線とはまさしく『点と点』だからな。
さぁ、我々も戻ろう」
『了解しました、シロッコ『中佐』どの』
「……君に言われると、何やらこそばゆいな」
未だ慣れぬ呼称に苦笑して、私は再びしたたる額の汗を拭った。
ここは爽やかな気候のキャリフォルニアベースでは無い。
ここはジメジメとした湿気と生い茂る緑の地獄……『東アジア戦線』だ。
というわけで今回から『東アジア編』の開始です。
どうしてこうなったかという状況説明は次回に。
そして東アジア地区と言えば当然ですが、あの人たちの登場です。
次回もよろしくお願いします。
追伸:ビルドファイターズトライ、ギャン子の知名度が非常に高くてビックリ。
やはりギャン使いとしてかなり強かった模様。
そしてグリグリ動くSDガンダムが見れて幸せです。
……SD編ということでジオダンテでないかなぁ?