歴史の立会人に   作:キューマル式

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今回は題名通り、そろそろ性能のきつくなってきたドムに替わるシロッコの専用機と魔改造されたシャア専用イフリート改の登場です。
シロッコの機体、それはもちろん……。


第26話 両エースの新型機

 

 ヴィーーン……

 

 

 ジェネレーターに火が灯り、機体がゆっくりと動き出す。

 コックピットに座り、それを振動で感じながら私はゆっくりとレバーを動かした。すると、それに応えて機体は滑らかに動き出す。

 計器類をチェックするが、どこにも異常は見られなかった。

 

「よし、これよりテストを開始する。

 ギャン、出るぞ!!」

 

 私はペダルを踏むと、それに応えてギャンは力強く飛び上がった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 『ギャン』……これは私が次期主力汎用モビルスーツとして設計していた機体である。私の知る『原作』においてもゲルググと次期主力機の座を争った機体だ。

 しかし……『原作』において、その機体はあまり高く評価はされていない。

 ギャンのコンセプトは『最強の格闘戦機』であった。そのための高出力ビームサーベルや流体パルスアクセラレーターシステムによる高い運動性は確かに素晴らしいものだった。

しかし主戦場はすでに宇宙へと移り、敵である連邦のモビルスーツはビーム兵器が標準装備である。そのため、そもそも接近戦に持ち込みにくく、おまけに宇宙空間での機動性に難ありという状態。しかもビームライフルは装備できず、ミサイル満載で誘爆の危険性が高いシールドが主射撃兵装という有り様。これではビームライフルとビームナギナタを標準装備し、宇宙・地上での戦闘をそつなくこなすことのできるゲルググが次期主力汎用モビルスーツに選ばれたことも頷ける。

 私としても『原作』のままならギャンとゲルググどちらを選ぶと問われたら、迷わずゲルググを選ぶ。そして、そんな『原作』と同じギャンをそのまま提案などするはずもなかった。

 

 まずは武装について、ビームサーベルの装備は当然としてビームライフルも標準装備とした。さらに盾を全面的に変更、あんな『原作』のような爆薬満載の盾は困るが盾に攻撃能力というアイデア自体は悪くない。実際に時代が進めばシールド裏側にミサイルを搭載したタイプは多いし、場合によってはビームキャノンやメガ粒子砲を装備したタイプの盾もある。

 そこで採用するのは、やはりグフシールドを改造したものだった。正確には3連装ガトリングガンを装備したタイプで、3連装ガトリングガンを90mm速射砲に変更した。この90mm速射砲はMMP80マシンガンと弾薬が共通で、同じマガジンを差し込んで使用できる。つまりこの盾はMMP80マシンガンを内蔵したグフシールドということである。

 同時に盾としてなにより重要な防御力の面も変わっている。その装甲には従来の超硬スチール合金ではなくギャン本体にも使用した『チタン・セラミック複合材』と『衝撃吸収発泡材』との多重階層構造になっており、もちろんのことだが本体装甲より強力だ。

 

 武装も随分変わったが、本体も随分変わっている。

 駆動系には『原作』のギャンの最大の特徴である高い運動性を誇る『流体パルスアクセラレーターシステム』を搭載、そして限定的ながら各所に連邦からフィードバックした『フィールドモーターシステム』も搭載され、高い運動性を獲得した。

 また、空間戦で問題のあったバックパックはガンダムのようなランドセルのタイプを採用し、空間戦闘の能力を高めるのと同時に地上では高い推力による連続ジャンプも可能だ。

 そして脚部にはハイゴッグで成功した小型熱核ホバーシステムをさらに小型化したものを搭載、これによってギャンはドムのような『ホバー』と、ザクやグフのような『歩行』を任意で切り替えて使えるようになった。ドムと作戦行動をともにし、さらにドムの苦手としていた立体的な上下の動きにも対応してみせたのである。

 

 装甲系に関してもこの『ギャン』は特殊だ。

 従来の『超硬スチール』の装甲ではなく、もっと強度と重量に優れた『チタン・セラミック複合材』を採用。これによって細身の見た目以上の防御力を誇っている。

 そして防御においてギャンの目玉の一つが、全身と盾に施した『耐ビームコーティング』である。

 『耐ビームコーティング』……それはビームライフルでもビームサーベルでも、1度ならその威力を減じて防ぐことができる特殊コーティングである。さすがに高出力ビームを完全に防ぐことはできないが、それでもあると無しとでは生存率が全く違う。

 毒は解毒剤とセットにして、始めて意味を為す。

 これから連邦にもビーム兵器搭載のモビルスーツが現れることは確実のため同じようにビーム兵器の防御策は必要だ。特に人的資源の厳しいジオンには、生存率を上げる装備は必須とも言える。

 同じようにビーム兵器防御策としてIフィールドというのも考えたが、これはコストが高く小型化が難しいため見送りだ。

 そのため、安価で『塗る』だけで効果のある『耐ビームコーティング』の開発を急ぎ、それがギャンには施されていた。

 

 武装面・機動面・装甲面と様々な方面で新しいものを盛り込んだこの『ギャン』だが、さらにもう1つ重要なものを搭載していた。

 それは新型のコンピューターだ。機動経験から行動パターンを蓄積し、自己のシステムをより高精度に自ら更新していくコンピューター……そう、『原作』で言うところの『教育型コンピューター』である。

 教育型コンピューターはあの『原作』における『ガンダム神話』の一因となったものだ。このコンピューターを積んだ機体はまさしく戦えば戦うだけレベルアップしていく。このコンピューターからのデータが『原作』では『ジム』に生かされた。教育型コンピューター無しでは『ガンダム神話』は生まれず、『原作』での連邦のモビルスーツ導入がすんなりといかなかっただろう。

 

 

 この『ギャン』の特徴を纏めるとこうなる。

 

1.ビームライフル、ビームサーベルの標準装備。

2. グフシールドを強化した攻盾システムの搭載。

3.『流体パルスアクセラレーターシステム』と『フィールドモーターシステム』による高い運動性の獲得。

4. バックパックの変更による空間戦闘能力と地上跳躍能力の強化。

5.小型熱核ホバー搭載による、ドムと同等の直進速度と地上展開力。

6.『チタン・セラミック複合材』の採用による装甲強化。

7.『耐ビームコーティング』の採用による対ビーム防御力。

8.『教育型コンピューター』の導入。

 

 他にも細かな部分はあるが、『原作のギャン』と比べて大きく変わった部分はこんなところだ。

 ハッキリと言ってこの『ギャン』というモビルスーツはすでに、『ギャン』という名前の『原作』とは違う別の何かである。この内容は『原作』でいうと、ギャンの完成形である『ガルバルディα』を越え『ガルバルディβ』の領域に片足を踏み込んでいる。言ってみればこの『ギャン』は『プロトタイプガルバルディβ』といえる1.5世代型モビルスーツに分類される機体として仕上がっていた。

 

 もっともこの豪華仕様は私の乗るこの試作機の1機だけだ。

 教育型コンピューターは異常にコストが高いため、量産機に乗せられるものではない。それに『チタン・セラミック複合材』も全身に、というのは現在はコスト的にも難しいからだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「動きは良好だな」

 

『小型ホバー装置にも問題ないよ』

 

 私はテストの通りにギャンを動かし、モニターに表示される数値とメイ嬢からの言葉に満足げに頷く。

 流体パルスアクセラレーターにフィールドモーターシステムを併用した各部の運動性は良好だ。脚部の小型化した熱核ホバー推進システムで地面を滑り、急停止と方向転換、そして膝関節とスラスターを使ったドムの苦手としていた立体的な機動をスムーズに行う。しかもこれだけの動きをしても、関節部を含む機体ストレスはほとんどないほどにタフだ。

 ビームライフルとビームサーベルのチェックも問題は無い。そして耐ビームコーティング……地面からせり上がってきた装甲板に、私はビームライフルを撃ち込む。

 黄色の閃光は装甲板に直撃するが、拡散するようにそのビームの光は消えていった。後には少し溶けながらも形をとどめたままの装甲板が残っている。

 

『ビーム減退を確認。 耐ビームコーティングも実証実験終了だね、お兄さん』

 

「もっともビームサーベルには時間稼ぎにしかならんし、高出力ビームは耐えきれないだろうが……それでも無いのとでは雲泥の差だからな。

 ギャンの仕上がりは良好だが……そちらはどうか、クスコ中尉?」

 

『こちらも順調です』

 

 その時、私のギャンの前を通り過ぎる影があった。

 それはクスコに任せる色違いのギャン、『量産型ギャン』である。

 私のパーソナルカラーである紫ではなく、サンドブラウンの機体は外見上は私のギャンとそっくりだ。唯一、頭部のアンテナが低いことが外見上の違いか。

 このゲルググとのコンペに提出する『量産型ギャン』は連邦タイプの通常のコンピューターを搭載、『チタン・セラミック複合材』の使用も盾と主要部分のみでその他は通常の超硬スチールだ。

 それでもビーム兵器の使用を前提とした高出力新型ジェネレーターのハイパワーは、ドワッジを越えるレベルの防御力を実現している。

 

『新型のジェネレーターの出力も良好。

 それに新型のコンピューターのせいですかね。 ドワッジの時よりも動かしやすく、反応も素直です』

 

「そうか……」

 

 どうやら連邦型コンピューターの技術を導入した新型コンピューターは十分にその優秀さを発揮してくれているようだ。

 『ギャン』の仕上がりは良好、リザド隊のメンバーには全員この『量産型ギャン』か、またはジオニックの『ゲルググ』に近いうちに乗り換えてもらうことになるだろう。

 それまでの間に、既存のドムやドワッジへ新型コンピューターを導入するのを進める必要もある。

 

「とはいえ、ここまでは順調か……」

 

 そう頷くと、私は今日のメインディッシュをたいらげることにした。

 

「クスコ、今すぐ下がって待機をしていろ。

 どんな不測の事態が起こってもいいようにな」

 

『? わかりました』

 

 通信でクスコにそう命じると、クスコは首を傾げるようにしながらも、言われたままに下がっていく。それを見届けてから、私は次の相手を呼び出した。

 

「シャア。 聞こえているか、シャア」

 

『聞こえているよ、シロッコ』

 

 その言葉とともに赤い影がギャンの前に降り立つ。ドムやギャンとは大きく外見的な印象が違うそれこそ本日のメインディッシュ、シャア専用の『イフリート改』である。

 

 EXAMシステム搭載実験機である『イフリート改』、EXAMシステムの発動によって驚異的な力を発揮する本機だが、EXAMシステムの動きに耐えるにはその機体性能には大きな不満のあるものだった。

 EXAMシステムの要求する機動によって各部関節はすぐに限界となり、EXAMシステムの処理をしようとした制御コンピューターは通常の2倍以上にも肥大化したというのに、それでもその処理が追い付かずオーバーヒート状態という有り様だ。いくらなんでも、そんな機体を何もせずにシャアに渡すわけにはいかない。そこでこのギャンに合わせる形で大規模な改修を行った。

 ギャンに使用している流体パルスアクセラレーターにフィールドモーターシステムを併用した駆動系に変更し、エネルギーバイパスを増設することでビーム兵器の使用が可能になった。左右の腰の本来ならヒートサーベルの設置されたマウントスペースには、このギャンと同じく左右に1本づつのビームサーベル発生器が設置されている。

 次に頭部だが、ブラックボックス化しているEXAMシステムやそれに接続されているコンピューターには下手に手を出すことができないが、それでも冷却装置を増設することで動作安定性を高めている。

 そして反応速度もシャアに合わせてピーキーに調整し、シャアのパーソナルカラーである『赤』で染め上げたものがこの『シャア専用イフリート改』である。

 

「しかし……イフリート改が『蒼』以外の色というのも奇妙なものだ。

 もっとも、だからこそ『蒼』など残す気も無いが」

 

 EXAM搭載機の『蒼』という色には、特別な意味がある。『原作』においてはマリオンが、こちらではララァのようだが、彼女が宇宙の色を『蒼』と表現、そこからクルストはニュータイプの見た宇宙の色の『蒼』をニュータイプの象徴とし、ニュータイプを制した証しとしてEXAM搭載機を必ず『蒼』で染める。

 だからこそ、EXAM搭載機が『蒼』以外の色というのは私としては違和感があり、同時にその意味を知っているからこそ、ニュータイプとして『蒼』という色を残すのは気に入らないという、半分半分の複雑な気持ちで私はシャア専用の赤いイフリート改を見つめる。

 ……正直、頭から下はほとんどこの『ギャン』と同等であり、しかも象徴である『蒼』を無くしたコレを、本当に『イフリート改』と呼称していいのかどうか判断に迷うところだ。

 

「どうかな、シャア。 イフリート改の様子は?」

 

『素晴らしいとしか言えないな。 ビームライフルといい、ビームサーベルといい凄まじい威力だ。

 それにこれほどに動けるモビルスーツは初めてだよ』

 

 どうやらシャアにとってもイフリート改の性能は驚きであったようだ。しかし、まだこれで驚いてもらっては困る。

 

「シャア、驚くのは早いだろう。 その機体の目玉はEXAMシステムだ。

 これよりEXAMシステム発動下での機動実験に移ってくれ」

 

『EXAMシステムを動かすのか?』

 

 この間私を殺しかけたことを思い出しているのだろう。 その口調はどこか堅い。

 

「気持ちは分かるが、その機体の全力をテストしておかねば戦場で困る。

 そして……君にもシステムに慣れてもらわねば、本当に困る」

 

 渋るシャアに、私はやや強い口調で言い放つ。

 EXAMシステムは対ニュータイプ殲滅システムであり、システムが起動し私のようなニュータイプを感知したら最優先目標として襲う『暴走』があらかじめ織り込まれており、一度暴走すれば敵も味方も無くなってしまう。

 私を含めニュータイプ、またはその素養を秘めたものが多いここでそれは非常に困る。

 しかし、制御さえできれば擬似的にニュータイプの感覚を持って戦える優れたシステムであることは間違いない。EXAMに使われている意識はあのララァ=スン、相性は抜群なのだしフラナガン機関の一件でシャアはその制御にも成功している。制御はそう難しいことではあるまい。

 それになにより、私はこのEXAMを巡る一件でシャアには完全にニュータイプとして覚醒して欲しいと思っていた。そう考えればララァのいるEXAMはシャアにとって自転車の補助輪のようなものだ。存分に練習してもらうとしよう。

 

「今回は私もモビルスーツに乗っているのだ。 万一の時には私が全力で君を止めよう。

 だから安心してEXAMシステムを起動したまえ」

 

『……分かった、これからEXAMシステムを起動する』

 

 私に促され、シャアはEXAMシステムを起動させた。

 

 

<EXAMシステム、スタンバイ>

 

 

 どこかで聞き覚えのある……ララァ=スンによく似た声のマシンボイスの後、イフリート改のモノアイが深紅に染まり、途端に私への殺気にも似たものが放たれる。

 一瞬制御に失敗したのかと思ったが、その殺気はすぐに成りを潜めた。

 

「大丈夫か、シャア?」

 

『……ああ。

 この衝動はララァのものであって、ララァのものではない。

 それに流されなどしないさ』

 

「それでいい。

 ニュータイプの感覚だけを、今は素直に受け入れ、思うままに機体を操るといい」

 

『そうしよう。

 テストを続行する』

 

 EXAMシステムを発動したイフリート改は、テストをこなすべく飛び去っていく。その先のテスト機動は、今までとは比べ物にならない。

 どうやらシャアはEXAMシステムを順調に使いこなせているようだ。そのことにホッと息をつくが、同時にそのテスト風景に物足りないものを感じてしまった。シャアの実力では、淡々とした動かないターゲットへの射撃や回避機動の試験など、退屈なだけだろう。

 それに……今のシャアにはどこか『戸惑い』のような雑念を感じる。

 そこまで考えると、私はちょっとしたことを考えてニヤリと笑った。

 

「メイ嬢、聞こえているかな?」

 

『何、お兄さん?』

 

「なに、今すぐに用意してもらいたいものがあるのだが……」

 

 私はちょっとしたイタズラのために、メイ嬢にそれの用意を頼んだのだった……。

 

 




というわけでここからのシロッコの愛機はギャンでした。
弱点の克服された、ギャンはいいものだ!

イメージ的にはゲルググB型のバックパックを付けて、ビームライフルとビームサーベルとグフシールドを付けたギャンです。
プラモで再現すると結構見栄えがいい。グフシールドって格好いいなぁ。

次回もよろしくお願いします。


追伸:ビルドファイターズトライ、次回はギャン子登場!
   ギャン子なのにギャンじゃない!
   まぁ、Rジャジャはギャンの後継機ですが……。

   第一期のギャン推しといい、時代はツィマッドのものだな。

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