歴史の立会人に   作:キューマル式

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週間ランキングで1位になれました。
……自分でも信じられない。

これからもがんばっていきますので、よろしくお願いします。

今回は地盤固めの話。
地上制圧には、やっぱ海を支配しないと。



第09話 キャリフォルニアベースの日々

 

 宇宙世紀0079、3月18日。 第三次降下作戦、発動。

 アジア、オセアニア、アフリカへと降下した部隊はアジア地域の要所であるペキンを制圧、オデッサとの欧州戦線と補給ラインが確立する。

 同時にオーストラリア大陸も3分の2を制圧。

 アフリカ大陸もキリマンジャロ鉱山基地を中心とする各種鉱山基地を制圧、大量の物資採掘拠点を入手することに成功する。

 ここにジオン公国は地上の半分近くを制圧するに至った。

 

 しかし急速に広がった戦線に補給線は伸びきり、物資が末端にまで届かないといった事態も発生。コロニーとは違う地球の環境に、兵たちから戸惑いと不安の声も聞こえる。さらに連邦軍本部であるジャブローの位置も特定できず、ジオン公国の勝利の決定打には届かない。ここに戦線は完全な膠着状態に陥ったのである。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あ、それはこっち!

 そっちのはプログラムを改修するからちょっと待って!」

 

 キャリフォルニアベースの工廠に、メイの指示の声が木霊する。今、キャリフォルニアベースの工廠はモビルスーツ生産用に変更する作業に大わらわだ。

 

「どうかね、メイ嬢?」

 

「あ、お兄さん!」

 

 私の姿を認めたメイ嬢がトテトテとこちらに駆けてくる。可愛いものだ。

 

「順調だよ、この分なら3月中には生産ラインが完成するよ」

 

「その分ではドムの第一次生産は4月頭というところか……」

 

 優秀なスペックデータと、そして私の部隊の目覚ましい活躍によって『ドム』はジオン公国に正式に採用される運びとなった。

 地球でのモビルスーツ生産は今後ドムが中心となる予定であり、今頃、オデッサやキリマンジャロといった地上の拠点でもドムの生産ラインが構築されつつあるだろう。

 同時に、武装もザクバズーカの生産が取りやめになり、代わりにモビルスーツ用のバズーカはジャイアント・バズを中心に生産されることになった。このお陰で、ツィマッド社は笑いが止まらないらしい。

 だが、こうなると面白くないのはジオニック社である。ザクⅡで築き上げたモビルスーツ企業ナンバーワンの座を脅かされたジオニック社は、巻き返しのためにすでに新型モビルスーツの開発に着手しているそうだ。

 私としても『ドム』で満足するつもりはない。そして次なる新型モビルスーツのための案をすでに持ってきていた。

 

「メイ嬢、実は見てもらいたいものがある」

 

 そう言って私は3つの案をメイ嬢に見せる。さっとその中身を見たメイ嬢だが、その顔が見る見る喜色に染まっていった。

 

「ドムの改修案に水陸両用モビルスーツの再設計、それに……モビルスーツ用の手持ちビーム兵器の開発!?

 凄い、凄いよお兄さん!!」

 

 今回、私が持ってきたものは3つである。

 

 

1.ドムの改良型、『ドワッジ』の設計。

 

2.『ハイゴッグ』の設計。

 

3.『ビームライフル』『ビームサーベル』の基礎理論と設計。

 

 

 以上の3つだ。

 

 ドムは優秀なモビルスーツだが、それだけでいつまでも戦線を維持できはしない。だが、地上の重力戦線は現在、ドムの量産体制に入っている。そのため、そのドムの改修型でさらに陸戦に特化した『ドワッジ』の設計を持ってきたのだ。これなら完成したものも改修するだけで戦力アップが見込めるし、生産ラインの大幅な変更は無いためスムーズに移行できる。

 2つ目は、7割が海である地球を攻略していくためには水陸両用モビルスーツはどうしても必要となる。そのためのモビルスーツだが、ツィマッド社が現在設計・試作している『ゴッグ』は些か問題があった。それなら最初から、のちにゴッグを再設計しなおして優秀な機体となった『ハイゴッグ』の方を早期に投入すべきだとして、設計を持ってきた。

 3つ目はそろそろ今後を見据え、本格的に『ビームライフル』と『ビームサーベル』の開発をすべきであると考えたためである。今のところ強力な実弾兵器であるジャイアント・バズで事足りているが、その期間もそう長くは無い。ビーム兵器優勢の時代はすぐそこまで来ているのだ。だからこそ、早い段階でその投入に踏み切るため、開発を始めようと思う。

 

「それで意見を聞きたいのだが、メイ嬢はどう思う?」

 

「うーん……ドムの改良型の『ドワッジ』は比較的すぐできると思う。防塵対策や廃熱ダクトとか、結局はマイナーチェンジの域を出ないし。

 2つ目の『ハイゴッグ』はやってみないと……本国の『ゴッグ』のデータはあるけど水中と言う特殊状況下で使用するモビルスーツだし、シミュレートだけで出来るかどうか言うのは危険だよ。実機を造って実際に地球の海に潜らせてみないと分からない」

 

「その通りだな」

 

「最後の3つ目は……確かにこれが完成すれば、モビルスーツは圧倒的な火力を手に入れられるけど、これこそ本当に未知の領域だよ。

 メガ粒子を縮退寸前で保存する技術は開発を進めているところらしいけど、まだそこまで達していないし……」

 

「そこは任せてほしい。

 なに、私も勝算もなくこんな話はせんよ」

 

 何と言っても私の中にはその完成系、そしてさらにそれ以降に続く技術と理論があるのだ。こんなことで躓くとは考えてもいない。

 

「お兄さんがそういうなら間違いないんだろうけど……。

 あれ? このビーム兵器搭載の試験機、ザクⅡS型をベースに改修するの?

 ドム使わないの? ドムの方がジェネレーター出力高いのに?」

 

「確かにそれは考えたのだがな……。

 改修を行うにしてもドムでは、ハッキリ言ってそんな拡張性はない」

 

 そう、ドムは優秀なモビルスーツだがすでに『完成』されたモビルスーツだ。

 熱核ホバー機能など、各種機能をコンパクトに詰め込んだため、正直大幅に改修できるような拡張性は無くなってしまっている。これは私がドムの単純な改修型である『ドワッジ』を提案したことでもわかるだろう。

 その点、ザクⅡはかなりの拡張性を持つ。ザクⅡはそのしっかりとした基礎設計から、様々なバリエーションを生む母体として使われたことも、その優秀さを物語っていた。

 それにザクⅡはドムと違って汎用機、今後宇宙での検証実験をすることを考えると、宇宙にも出れる機体で実験をした方がいいだろう。

 

「確かに私は、ザクにとって代わるためにドムを完成させたが、ザクはザクで優秀なモビルスーツだということは認めている。

 今回のビーム兵器試験用の改修で、ザクⅡS型をベースにするのもそのためだ」

 

「なるほど……確かにそうだね」

 

 私の言葉に納得し、メイ嬢は何度も頷く。

 確かにザクⅡは名機と呼ぶにふさわしい優秀なモビルスーツだ。

 だがこの時、その優秀さゆえに悲劇を呼ぶことになろうとは、まだ私にも想像はできなかったのである……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 メイ嬢と別れモビルスーツ工廠を離れた私は、今度はモビルスーツの演習場へとやってきていた。

 見ればマリオン、エリス、ニキ、レイチェルの4人が演習を行っている。

 

「これは少佐、どうしました?」

 

 監視所に入るとクスコが敬礼をして出迎えてくる。私はそれに敬礼で答えてからその横に並んだ。

 

「どんな感じかね?」

 

「そうですね……」

 

 私に問われ、その形のいい顎に指を添えてからしばし思案するクスコ。

 

「まずマリオンですが……流石は少佐の秘蔵っ子ですね。

 機体操縦と反射神経は抜群、格闘は苦手のようですが射撃センスはそれを補って有り余ります。

 まるで『そこに来ることがあらかじめ分かっていた』かのような、見事な予測射撃です」

 

「ほぅ……」

 

 その言葉に、私は思わず感嘆の声を洩らす。どうやら順調にニュータイプとしての素質を開花させ始めているようだ。

 

「ニキ准尉とレイチェル准尉もいい仕上がりです。

 ニキは基本に忠実な動きで、中々のレベルの射撃・格闘のセンスを持っていますね。それに彼女は、戦場全体を見渡すいい観察眼を持っています。磨けば部隊を安心して任せられるだけの指揮官になるでしょう。

 レイチェルのほうは射撃・格闘ともにニキより上かもしれませんが、無謀な部分も見受けられます。思い切りがいい、と言えば聞こえはいいですが……正直、彼女だけでは早死にするタイプですね。しかしニキと組ませることで、その手綱をニキが握り、彼女の持ち味が十分に生かせるようになります。

 あの2人はいいコンビですよ」

 

「そうか、それはいいことだ。

 それで、残ったエリスはどうだ?」

 

 その言葉に、クスコは何と言っていいものかと、少しの間思案した。

 やがてゆっくりと口を開く。

 

「射撃・格闘、そして単純な操縦技術……私が普通の教官なら、すぐさまモビルスーツから引きずり出してマゼラアタックにでも乗せますね。

 本人の努力は認めますが、戦場に立つには未熟と考えますよ。

 この間の戦果も、ドムの性能のおかげでしょうね」

 

「では、引きずり下ろすかね?」

 

 私が先を促すようにそう言うと、クスコは肩をすくめた。

 

「言ったではありませんか、私が『普通の教官なら』、と。

 ……こう言うのは不合理かもしれませんが……私は彼女には『何か』を感じます。

 『女の勘』、でしょうかね?

 実際、彼女は非常に『運がいい』場面に出くわしています。

 この間のスコット航空基地の時……彼女の受けた砲弾ですが、あれは死角から放たれた間違いなく直撃のコースの一撃でした。

 しかし彼女はそれをドムを旋回させ捻ったことで、肩アーマーへの小破にしています。

 あれは、彼女の実力で狙って出来る機動ではありません。それこそ『そこに来ることがあらかじめ分かっていた』ようなことでもない限りはね。

 『運良く』とも取れますが……私は彼女には『何か』を感じました。だからこそ、彼女の成長を見たいとも思います。

 少佐も同じ考えなのでは?」

 

「さて……ね」

 

 そう言って私は肩を竦める。

 ……どうやらエリス准尉もその才能を開花させつつあるらしい。またクスコ中尉も、漠然とした状態だがニュータイプ能力に目覚めかかっていると見ていいだろう。ニキ准尉とレイチェル准尉にしても、着々と仕上がりつつあるようだ。

 

「しかし、どうやら私の隊は安泰といったところなのは喜ばしい限りだ。

 4月の頭にはニキ准尉とレイチェル准尉にも『ドム』を回してもらう。

 今のうちからローテーションさせて慣れさせておいてくれ」

 

「はっ!」

 

 そう敬礼をするクスコを尻目に、私は演習場を後にした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「シロッコか、待っていたよ」

 

 私はキャリフォルニアベースの指令室でガルマと会っていた。

 

「どうだい、ドムの生産については?」

 

「生産ラインについては、3月中には稼働できる状態になる」

 

 ガルマは私にソファを勧めると、そのまま現状を尋ねてくる。

 

「それはよかった。

 ドムは間違いなく、この重力戦線を支える重要な機体になる。

 本国の方でも、ドムの宇宙タイプのリック・ドムの生産を検討中だそうだ。

 ドムシリーズが量産された暁には、連邦など怖くはないよ」

 

「ガルマ、それは早計というものだ。

 ドムは確かに優秀だが、それだけで連邦には勝てんさ。

 さらに『その次』を考えて行かねばな」

 

「『その次』か……また期待させてもらうよ。

 キャリフォルニアベースの資材は好きに使ってくれていい」

 

「フッ、期待は裏切らないことを約束しよう。

 ところで……私を呼んだのはドムの進捗状況の説明のためかね?」

 

「それもあるのだが、用事はそれだけではない」

 

 そう言ってガルマは手元から資料を取りだしてきた。

 それは物資の目録と、何やらシンボルマークのようなもので、トカゲの絵が描かれていた。

 

「その資料に書かれている通り、明日、こちらにザンジバル級機動巡洋艦が3隻届く」

 

「ほぅ……新型のザンジバル級を3隻とは、豪気なものだ」

 

「なに、それだけこの重力戦線が重要視されているということだよ。

 そしてそのうちの一隻は……シロッコ、君に任せたい。

 今、この瞬間から君の部隊は『第五独立戦隊 リザド隊』と呼称、ザンジバル級を母艦とし活動してもらう。

 それは部隊のパーソナルマークだ。 どうかな、気に入ってもらえたかな?」

 

 そろそろ作戦行動のために母艦となるものが欲しかったところだが、機動性の高いザンジバル級が手に入るというのは嬉しい誤算だ。

 

「虎の子のザンジバル級を一隻貰えるとは……身に余る光栄。

 戦果をご期待下さい、ガルマ大佐」

 

「期待しているよ、シロッコ少佐殿」

 

 そう言って敬礼すると、ガルマも苦笑しながら敬礼を返した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 宇宙世紀0079、3月。

 地球降下作戦を成功させたジオン軍は、各種重要拠点を改造しモビルスーツやそのパーツ・武装の生産拠点を築き、その勢力地盤を固めて行く。

 そして宇宙世紀0079の4月頭、キャリフォルニアベースでは第一次生産分とも言えるドム20機が完成した。

 

「私に客だと?」

 

 私が完成したドムの第一次生産分のチェックを行っていると、クスコによって来客が伝えられる。

 

「はい。 それもお二人です」

 

「この時期にか。

 内容は分かっているが無碍にはできんか……分かった、会おう」

 

 私はドムのチェック作業を他の整備に任せると、尋ねてきた2人の方へと向かっていく。

 2人はドムを見上げながら、何か談笑を繰り返していた。私は2人に敬礼をしながら近付く。

 

「お待たせして申し訳ない。 ダグラス大佐にゲラート少佐」

 

 その2人というのは以前メイ嬢と一緒にいたところを会ったダグラス・ローデン大佐と、『闇夜のフェンリル隊』隊長のゲラート・シュマイザー少佐であった。

 

「いや、突然の訪問に対応してもらったのだ。

 こちらの方こそお礼を言いたい、『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』、パプティマス・シロッコ少佐」

 

 ゲラート少佐の方はそう返すと握手を求めてくる。

 

「久しぶりですな、少佐。

 もっとも、あの時はこのような大人物になるとは思いもしなかったよ。

 『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』殿」

 

「ははは、あまり若者をいじめないでいただきたい。 ダグラス大佐」

 

 以前にも会ったことがあるためか、どちらかと言えば気安いダグラス大佐とも握手を交わす。

 

「それで、お二人とも私に御用とは?

 もっとも、内容はある程度察していますが……」

 

「そうだな……私もダグラス大佐もそちらの予想している通りの内容なのだが、ドムを我々の部隊にも廻してもらえないだろうか?」

 

「ふぅむ……」

 

 予想通りの言葉である。ガルマの片腕でありこのキャリフォルニアベースでのモビルスーツの生産に対する大きな発言力を持っている(少なくとも周りからは私はそう認識されている)私のもとには、こうした相手が数多く来ていた。どこもかしこも、新型は喉から手が出るほどに欲しいのだろう。そこで私は、この2人の事を考える。

 

 ダグラス・ローデン大佐……外人部隊の司令官であり、『ダイクン派』としても知られる人物。外人部隊はつねに激戦区へと送られる故にその練度は非常に高い。それに、彼はメイ・カーウィン嬢にとっては父親のような存在であるらしく、私の元にいるメイ嬢に今現在も様々な便宜を図ってくれている。

 

 次にゲラート・シュマイザー少佐……キシリア・ザビ直属の特殊部隊『闇夜のフェンリル隊』の隊長。その実力のほどは、第二次降下作戦でも遺憾なく発揮された。また、彼も『ダイクン派』の人間で、あの青い巨星ランバ・ラルとは戦友であり親友である。

 

 ……双方ともにここで恩を売るメリットは大きいだろう。特にゲラート少佐の場合、『闇夜のフェンリル隊』はキシリア・ザビの直属だ。ここでドムを渡さない場合、のちのちに何が起こるか分からない。

 

「……いいでしょう。 そちらの部隊にドムを送ることを約束しましょう」

 

「おお、ありがたい!!」

 

「感謝します、シロッコ少佐」

 

「いえ、『理想を同じくする同志』、協力は致しましょう」

 

 そう言って私は2人と握手を交わす。

 

 翌日、私からの口利きでチェックの終わったばかりの新品のドムを一個小隊、つまりは3機ずつを『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』へと渡した。

 向こうも貰えて1機であると思っていたのだろう、新型を一個小隊も廻してもらえるとは予想外だったらしく、ダグラス大佐もゲラート少佐も目を丸くしていた。

 恩を売るのなら最大限でなければあまり効果は無い。それに強力な部隊を指揮する、『ダイクン派』の2人にパイプが出来たと思えばドムの6機など安いものだ。

 

 いつかのための地盤は、着々と固まっていった……。

 

 

 


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